ふかえりは天吾の顔を見た。彼の目の中にあるものを探った。それから片手を伸ばし、天吾の手をとった。天吾は驚いたが、驚きを顔に出さないように努めた。
電車が国立駅に到着するまで、ふかえりはそのまま彼の手を軽く握り続けていた。彼女の手は思ったより硬く、さらりとしていた。熱くもなく、冷たくもない。その手は天吾の手のおおよそ半分の大きさしかなかった。
「こわがることはない。いつものニチヨウじゃないから」と少女は誰もが知っている事実を告げるように言った。
彼女が二つ以上のセンテンスを同時に口にしたのはこれが初めてかもしれない、と天吾は思った。