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第11章 青豆.2

作者:日-村上春树 当前章节:1889 字 更新时间:2026-6-16 01:35

 青豆は首を振った。「いずれにせよ、彼らは今のところ私を攻撃することができない。だから私のまわりにある<傍点>脆弱な部分</傍点>を狙った。私に警告を与えるために。私にあなたの命を奪わせないように」

 男は黙っていた。それは肯定の沈黙だった。

「ひどすぎる」と青豆は言った。そして首を振った。「あの子を殺したところで、現実は何ひとつ変わりやしないのに」

「いや、彼らは殺人者ではない。自分で手を下して誰かを破壊するようなことはしない。君の友人を殺したのは、おそらくは彼女自身の内包していたものだ。遅かれ早かれ同じような悲劇は起こっただろう。彼女の人生はリスクをはらんでいた。彼らはただそこに刺激を与えただけだ。タイマーの設定を変更するように」

 タイマーの設定?

「あの子は電気オーヴンなんかじゃない。生身の人間よ。リスクをはらんでいようがいまいが、私にとっては大事な友だちだった。あなた方はそれをいとも簡単に奪っていった。意味もなく、冷酷に」

「その怒りは正当なものだ」と男は言った。「それをわたしに向ければいい」

 青豆は首を振った。「あなたの命をここで奪ったところで、あゆみが戻ってくるわけじゃない」

「しかしそうすることによって、リトル?ピープルに一矢報いることはできる。言うなれば復讐することができる。彼らはまだわたしの死を望んでいない。わたしがここで死ねば空白が生じる。少なくとも後継者ができるまでの一時的な空白がね。彼らにとっては痛手になる。同時にそれは君にとっても益となることだ」

 青豆は言った。「復讐ほどコストが高く、益を生まないものはほかにない、と誰かが言った」

「ウィンストン?チャーチル。ただしわたしの記憶によれば、彼は大英帝国の予算不足を言い訳するためにそのように発言したんだ。そこには道義的な意味合いはない」

「道義なんてどうでもいい。私が手を下すまでもなく、あなたはわけのわからないものに身体を食い尽くされ、苦しみ抜いて死ぬでしょう。それについて私が同情する理由は何もありません。世界が道義を失ってぼろぼろに崩れたとしても、それは私のせいじゃない」

 男はもう一度深い息をついた。「なるほど。君の言い分はよくわかった。それではこうしようじゃないか。一種の取り引きだ。もしここでわたしの命を奪ってくれるなら、かわりに川奈天吾くんの命が助かるようにしてあげよう。わたしにもまだそれくらいの力は残されている」

「天吾」と青豆は言った。身体から力が抜けていった。「あなたは<傍点>そのこと</傍点>も知っている」

「わたしは君についての何もかもを知っている。そう言っただろう。<傍点>ほとんど</傍点>何もかもということだが」

「でもそこまであなたに読みとれるわけはない。天吾くんの名前は私の心から一歩も外に出ていないのだから」

「青豆さん」と男は言った。そしてはかない溜息をついた。「心から一歩も外に出ないものごとなんて、この世界には存在しないんだ。そして川奈天吾くんは現在、<傍点>たまたま</傍点>というべきか、我々にとって少なからぬ意味を持つ存在になっている」

 青豆は言葉を失っていた。

 男は言った。「しかし正確に言えば、それはただの偶然ではない。君たち二人の運命が、ただの成り行きによってここで邂逅したわけではない。君たちは入るべくしてこの世界に足を踏み入れたのだ。そして入ってきたからには、好むと好まざるとにかかわらず、君たちはここでそれぞれの役割を与えられることになる」

「この世界に足を踏み入れた?」

「そう、この1Q84年に」

「1Q84年?」と青豆は言った。顔はもう一度大きく歪められた。<傍点>それは私の作った言葉じゃないか</傍点>。

「そのとおり。君が作った言葉だ」と男は青豆の心を読んだように言った。「わたしはただそれを使わせてもらっているだけだ」

 1Q84年、と青豆は口の中でその言葉を形作った。

「心から一歩も外に出ないものごとなんて、この世界には存在しない」とリーダーは静かな声で繰り返した。

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