饭饭TXT > 海外名作 > 《蛇淫の血(日文版)》作者:[日] 沙野风结子【完结】 > [沙野風結子/奈良千春]蛇淫の血.txt

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作者:日- 沙野风结子 当前章节:14765 字 更新时间:2026-6-16 06:22

「んっ」

凪斗は额をクリーム色の壁に擦りつけた。

想像のなかだけではない。现実の凪斗の茎もまたピンと张り诘めて、先端から透明な蜜を溢れさせていた。

角能が背後で、跪く。

双丘にそれぞれ手が乗せられ、左右に开かれる。角能の言叶だけでヒクつくてしまっている蕾を暴かれてしまう。脚のあいだに吐息を感じて……

「っ、あっ——や…」

そこが濡れる感触。

角能が舌先を尖らせては缓め、小突くようにあやすように、蕾を构う。

唾液が何度も足されて、润まされていく。身体中から力が抜けてしまいそうな羞耻と快楽に、凪斗は腰を捩って口淫から逃れようとする。けれども、脚のあいだから伸ばされた角能の手にギュッと性器を握られて、动けなくなる。

脚が頼りなくなって、まるでさらなる爱抚をねだるように、腰を突き出してしまう。茎の先端の浅い切れ込みを指先で开いたり闭じたりされるたびに、ねばつく蜜が糸を引きな

がら床へと滴った。角能の舌がぬぷりと蕾を抉じ开けて入ってくる。

「それ、や、やだっ、ぁあ、んっ」

膝が萎えてしゃがみ込んでしまいそうになると、より奥まで柔肉に犯された。生理的嫌悪に限りなく近い、ふしだらすぎる快楽。

背と掌の伤が脓(う)むように疼いた。

痛みと甘さが縒(よ)れ合って、凪斗の息をいっそう露骨に乱させる。すすり泣きにも似たよがり声が、快楽のままに高低をつけながら、廊下に响く。

角能の舌が抜かれると、凪斗はがっくりと床に膝をついた。角能に腰を掴まれて导かれるまま、床にうつ伏せになる。腰だけを上げさせられた。下衣で膝を拘束され、スニーカーも履いたままという格好、丸みの薄い尻の狭间に男の性器を寄せられる。

角能は自身の张り诘めた性器を握ると、亀头を凪斗の蕾にくっつけた。そして襞の表面を擦って、期待に小さく口を开けさせておいて、逸らす。

「俺のに喰いつこうと意地汚くパクついてるな」

その情けなく开闭する耻部にグッと亀头を押しつけては外すのを缲り返す。

角能が优しくないのはいまさらだけれども、こんなふうにジクジクと苛んでくるのは初めてだった。愚弄されながら昂められていく。

ようやっと、角能が雄の先端を蕾に少しだけめり込ませてくれる。

それだけで达してしまいそうになって、凪斗は肩をきつく竦めた。息を止めて、贯いてくれるのを待つ。

……けれども、いつまで待っても、局部同士を浅く噛ませたままで进んでくれない。凪斗は肩越しに角能を振り仰いだ。

「も——挿れて」

角能の瞳はぬるりと水気を帯びていた。

「俺が欲しいなら、自分で沈めてみろ」

「……自分で、って」

「いらないのか?」

脚の奥から圧迫感が去るのに、凪斗は泣きそうに口を軽くへの字にした。

角能は酷い。いらないわけがない。こんなに欲しくてたまらなくさせておいて、胜手すぎる。……润まされた身体のなかが煮えるようだ。角能を呑み込みたいと、奥の奥まであさましくうねっている。

凪斗は両手を脚のあいだから差し伸ばした。角能のペニスを探す。もう片方の手で自身の蕾を开いた。角能の太い茎をキュッと握ると、包帯の下で火伤した掌の皮肤がずるっとずれる感触と痛みが起こる。

手の痛みを堪えながら、凪斗は角能の性器を自身の蕾に重ねる。襞がぐうっと拡がって、角能の先端を食べていく。

「あ……大き、い——っく……ぁ、あ、あ?」

なんとか括(くび)れまで咥え込んだところで、凪斗は目を见开いた。眉を大きく歪める。

焦らされすぎたせいだろう。下腹でビクンと性器が跳ねた。始まってしまった射精の快楽に溺れようとする凪斗の腰を、角能が急に掴んだ。

そして、絶顶感に狭く狭く引き绞られている体内を、逞しい肉で一気に刺し贯いた。

「ひっ、うぅ」

ボトボトと白浊で床を汚しながら、凪斗は无意识に前へと这いずって逃げようとする。闇云(やみくも)に床を引っ掻く。手に巻かれた包帯の端がほどけていく。

その凪斗へと圧し挂かり、角能は凪斗の手を、掌を重ねるかたちで乱暴に握った れた皮肤が溃される。凪斗は男を根元まで呑まされた身で必死にのたうった。

「……ッ、たい——痛いっ、角能さんっ」

「かなり热が出てきてるみたいだな……火伤しそうだ」

凪斗の奥深くを掻きまわしながら、角能が耳元で嗫く。嗫いて、火照る耳朶(じだ)をコリコリと甘噛みする。

「手……手、放せよ、っ、っう」

涙声で诉えるのに、角能はむしろ手をきつく握り缔めた。

「痛いと、なかがぎゅうぎゅう缔まるんだな」

「ぁ、あぁ!」

角能がズンッと腰を突き上げると、声が押し出された。缲り返し、突き上げられる。性交の动きは、どんどん獣じみていく。身体の奥底で、强烈な快楽が泡立つ波となって拡がっていく。

意识が弾けて消えそうになっては、次の突き上げで繋ぎ止められる。

「おまえの身体は、欲深だな」

荒げた息の合间に、角能が呻くように呟く。

「どこまでもおまえに呑み込まれていきそうだ」

「かど、のさん……角能さん、っ」

心も身体も焼け落ちてしまいそうだった。

「ぁ、あっ……なかに、して——早く、なかにっ」

うわ言のように口走る。初めてのセックスのとき、角能のxxをなかに贳(もら)ったら、ドラッグが中和されて楽になることができた。その体験の刷り込みもあるのか、いまの発热も角能の体液を注ぎ込んでもらえれば治まるような気がして。

狂おしく、角能の絶顶を待ち侘(わ)びる。

……いつしか凪斗は、自分から、角能の手を固く握り缔めていた。

そして、痛みの大きさの分だけきつく男を缔めつける。

体格も年齢もずっと上の大人の男が、自分の粘膜にリズムを崩され、甘いような苦いような呻き声をときおり漏らす。もうすぐだ。凪斗は无理に身を捻って、颚を角能に向けて上げた。

泣き濡れたような黒い瞳を见る。

こんなにも、感じてくれている。

——やっぱり、好きだ……この人が、好きだ。

理屈なんておかしくても、もうどうでもよかった。

角能のことが好きでたまらなくて、だから自分は肌を差し出し、刺青を入れる。

ひどい苦痛をともなうことでも、それで角能が満たされるなら、自分はみずからそれを求めるだろう……こんなふうに。

谁よりも角能を感じさせて、自分へと缚めたい。

そして、角能に、缚められたい。

「……凪斗」

苦しく息をする凪斗の肿れた唇に、角能が唇を寄せてくる。

凪斗は顔を倾け、受け止めた。角能が余裕なく唇を吸ってくる。そして、最後に向けて、忙しなく凪斗を揺さぶった。

「っ、う」

喉で短く呻いて、角能が唇を外す。

そのまま、しっかりした鼻梁を凪斗の頬に擦りつけてきた。腰の动きとともに、一波…二波…三波と、热液が角能から凪斗へと流し込まれる。

目を开けていると、いまにも涙がかたちになってしまいそうだったから、凪斗は痛むほどきつく目を闭じた。

* * *

「手术が无事にすんでよかったです」

ベッド脇の椅子を引き寄せて座りながら、角能はそう言叶をかけた。

「ええ。悪いところは全部取れたそうです。优秀なお医者さまがいらして、看护师さんたちも明るくて気持ちのいい方ばっかりで。こちらを绍介してくださって、本当にありがとうございます」

上半身を少し起こすかたちの角度にしてある介护用ベッドで、小柄な初老の女はにっこりする。凪斗の祖母の寛子(ひろこ)だ。いまどきの六十代の女性はなかなかエネルギーに溢れているものだが、寛子は枯れた印象が强い。白髪の多い髪は手のかからないようにショートにしてあり、年以上の肌の衰えや皱を、そのまま受け入れている。

角能は周に一度はこの病室を访れて彼女と话をしていたが、苦労心労の多い人生だったようだ。

夫に早くに先立たれ、昼は工场勤め、夜は水商売をして、女手ひとつでひとり娘の蓉子を育て上げた。けれども、娘はまんまと男に骗されて身笼らされてしまった。その男というのが妻子持ちのうえに暴力団の若头ときたから大事で、娘は男と命挂けで縁を切ったものの、以降、寛子はいつ暴力団関系の人间が押しかけてくるかと、夜も枕を高くできずに过ごしてきたという。実际、ときおり岐柳组を名乗るいかにもヤクザ者らしい男の声で电话がかかってくることがあった。

そして娘は三年前、もっとも亲不孝な逆縁をしてしまった。その顷から寛子も体调を崩すことが多くなって、いつ孙をひとり残すことになるか知れないという不安を强くしていった。

そんな时だった。蓉子の死を闻きつけた岐柳久祯が丧服に身を包んで、マンションを访れたのは。

恐ろしく威圧感のある男だったが、悄然としてお悔やみを述べてきたから、寛子は久祯を家に上げて娘への焼香を许した。身も心も弱っていた寛子の目には、久祯は頼もしい男に见えた。もしも暴力団関系のトラブルに凪斗が巻き込まれることになったら、その时、孙を助けられるのはこの男を置いていないと思った。毒を制すには、毒しかない。

本当にどうしようもなくなったら、どうか凪斗だけは护ってやってほしいと、寛子は久祯に头を下げたのだった。

久祯は、いざとなったら自分が亲として凪斗の力になると快诺してくれた。そして紧急のトラブルの际はここに连络をするようにと、八十岛セキュリティサービスを绍介したのだった。

……その结果、凪斗はいま角能の下にいる。

大切に护ってきた可爱い孙息子が、刺青を入れられ、男に嬲り者にされていると知ったら、この初老の妇人はどれだけ打ちのめされるだろう。

凪斗が四代目候补になっていることを、彼女には伝えていなかった。

「あの、角能さん……凪斗には今回の手术のこと——」

角能はかつて警视庁に勤めていたころの実直そうな顔を作ってみせた。

「おっしゃられたとおり、凪斗くんには言っていません」

「ありがとうございます。命を狙われて怖い思いをしてるときに、わたしまでガタガタになってるなんて、とても言えませんもんねぇ。心配事をなくして、早くスランプから脱してくれたらって思うんですよ」

「……スランプって、絵のことですか?」

「ええ。もう一年半になるかしら。思うように描けなくなったみたいで。子供のころからわたしたちに余计な心配をかけないように自分を抑え込むことが多い子で、絵だけが発散の场所だったんじゃないかと思うんです。だからそれすらも不自由になってしまったのが不悯(ふびん)で」

「そうだったんですか。最近はまた、なにか热心に描きだしてるみたいですが」

「まぁ、それならよかったわ」

寛子は泣くような笑うような表情を浮かべた。

そして、ぽつりぽつりと思い出すように语った。

「小学校の低学年のときでしたけど、凪斗がクラスの子と殴り合いの喧哗をしましてね。相手のお母さんがちょっと気性の激しい人で、うちのマンションに押しかけてきたんです。それで、『父亲がいない家の子はこれだから』って怒鸣って——その後、凪斗ったら、ヤクザのお父さんみたいなことしてごめんなさい、名前のとおりにできなくてごめんなさいって、わたしたちに泣いて谢ったんですよ。思えば、あれから黙々と絵を描くようになったんですね」

凪斗はおそらく幼いころから、殊(こと)に母亲が凪斗に流れる父亲の、极道の血を恐れていると、だから「凪斗」という名前でそれを封印しようとしていたことを知っていたのだろう。

母亲の蓉子は、极道の男と别れるために、自分の身笼った腹に包丁を向けたほどの女だ。そういう强い思いが子供に伝わらないわけがない。

『俺は、半分しか、この世に存在しちゃいけなかったんだ』

掠れ気味の小声が、思い出される。

凪斗は自分の半分が激しく否定されているのを感じながら育ってきたに违いなかった。

だからこそ、母亲の呪いにも似た愿いに応えようと、自分の本性を悬命に抑え込んできた……その结果が、あの絵だ。

『树の林檎』の猛々しい树は父亲の血脉から生じる激しさで、それを封じる林檎は母亲の愿いだったのだ。

相克(そうこく)する父と母の血に引き裂かれる寸前の、危机的瞬间。

凪斗はずっと、それにひとりで対峙(たいじ)してきたのだ。

PART 4

「角能さん、どうしてこの図案にしたんだよ?」

雕滝の元に通うのも、これで五回目になる。凪斗は自分に与えられた刺青の絵がなんであるかを、すでに把握していた。

おぞましい絵だ。

角能の目に自分がこんなふうに映っていたのかと思うと、ショックだった。

それで、帰りの车のなかで讯いたのだった。

运転席の角能はなにも答えてくれない。

つらい気持ちに溃されるように、凪斗は後部座席で卧(ふ)せる。

二、三日に一度という、通常の刺青よりかなり早いペースで肌を雕られ、凪斗の身体はすでにその负荷に耐えきれなくなっていた。発热しない日はなく、けれども薬を饮むと血がさらさらになって出血しやすくなり刺青の仕上がりが悪くなるからと、解热剤の服用も禁じられている。

それなのに、そこまでの苦役に耐えて刻まれる刺青は、受け入れがたい、おぞましい生き物なのだ。

车が停まり、後部ドアが开かれる。二の腕を掴まれて、引きずり下ろされる。もうマンションに着いたのかと思ったが、そこはマンションの地下驻车场ではなかった。

「ここ、どこだよ?」

角能に腕を掴まれたまま、エレベーターに乗り込む。

エレベーターを降りると、目の前に受付がある。それでようやっと、ここが『树の林檎』を収めてある、新宿の高层ビルに入っている美术馆だと気がつく。

地上の喧騒から隔离された高みにある空间は、きちんと美术馆特有の静谧さが保たれている。平日の午後だけあって、人は疎(まば)らだ。

作品を収めた去年の冬以来だから、ここに来るのも『树の林檎』を目にするのも久し振りだった。

角能とともに絵の前に立つ。

相変わらず、自分が描いたとは思えない、狂気じみたものを秘めた妖しい絵だ。

「鸟肌が立つな」

角能が苦笑するのに、无性にいたたまれない気持ちになる。

自分の心の耻部を直视されているかようで。

角能に促されて、凪斗は絵の正面に置かれた黒革のソファに移动し、腰挂けた。しばしの沈黙ののち、角能が口を开いた。

「组长はこの絵を见て、おまえを四代目にしたいと思ったそうだ」

「……」

「おまえに受け継がれた岐柳の血を见たってな」

とすれば、この絵を描いてしまったのが、そもそもの过ちだったというわけだ。

「俺もこの絵には心を揺さぶられた。画坛で评価されたのも颔ける」

「……そういうのって、俺にはわからない。この絵は、自分に必要だったから——描かずにはいられなくて描いただけで」

この絵に限らない。

自分にとって絵を描くということは、表に出してはいけない想いを吐き出す术だった。杀してきた自分の一部を泳がせる场所だった。

「おまえ、さっき刺青の図案の理由を知りたいって言ったろう」

角能が絵を眺めたまま言う。

「あれは、この絵と、そしておまえに実际に触って俺が感じた、おまえのかたちだ。他のものは考えられなかった」

——俺の、かたち。

背の肌に息吹きだしているおぞましい形态の爬虫类(はちゅうるい)を、凪斗は思い浮かべる。

「不満か? 俺は、この絵と同じぐらい気に入ってるんだがな」

角能は凪斗へと视线を向けながらそう寻ね、ふと鲜やかな眉をひそめた。

额にひんやりした男の掌が触れてくる。

「热が高いな。帰るか」

凪斗はゆるく首を横に振った。

「角能さん、ちょっとだけ……」

呟きながら、角能の肩にそっと头を寄せた。俯きがちに凭れかかり、热い目を闭じる。

……どんなにおぞましくても、角能が気に入ってくれているのならば受け入れることができる。ざわついていた心が嘘みたいに静かになる。

もう少しのあいだだけ、『树の林檎』に刻んだ自分のかたちを、角能に见ていてもらいたかった。

*  *  *

黒い鳞(うろこ)の连なりにも似た、爬虫类の体表。

それがくねり、肩甲骨や背骨の薄く浮く背を、祸々しく彩る。刺青は早いペースで、凪斗の身体に雕り込まれていっていた。来周には仕上がるだろう。

小ぶりな抱き枕の端を噛んでも、凪斗の喉からは糸のような呻き声が漏れている。刺青师の针が皮肤を刺すたびに、その身体の筋がヒクつく。すっかり红潮した肌。あの小さく缔まった尻の底にひそむ粘膜の口が、昨晩の激しい行为でぷっくりと肿れているのを、角能は知っている。

「……んー、っ」

痛みが强いというぼかし雕りを腰に施(ほどこ)されて、凪斗が身体を引き挛らせた。足の指がくうっと丸まる。

あまりにもセックスのときの様子と酷似していて。

障子から午後の阳射しが溢れる和室、その片隅に正座した角能は、まるで目の前で凪斗が他の男に犯されているかのような错覚に苛まれていた。

嫉妬(しっと)じみた感情と妖しい劣情とに、鸠尾のあたりがグッと痛む。

ずっと固く闭じられていた凪斗の目が、ふと开いた。濡れた瞳をうつろに揺らがせてから、斜め後ろに座している角能へと视线をするりと流してくる。

背筋が痹れた。

……凪斗のボディガードを始めてから一ヶ月あまりになる。そのあいだに、凪斗はずいぶんと変わった。

可爱げのない憎まれ口を叩くのは相変わらずだが、いまどきの若者らしい軽さは薄まってきた。代わりに、长い睫の下の瞳に见る者を吸い込むような深渊(しんえん)をふうっと覗かせるようになった。その深渊は别に新たに生まれたものではなくて、元から内包していたものだ。

卵から孵った蛇が脱皮を缲り返すたびに本来ほ柄を浮かび上がらせていくように、凪斗は肌に针を刺されるごと、少しずつ、けれども确実に、封じられてきた本性を现していく。

このまま育てば、桜沢の眼镜に适うまでになるのではないか。

桜沢が後见についてくれれば、结果は出たも同然だ。若头である辰久を押し退けて、凪斗が四代目を継ぐことが実质的に确定される。

——刺青に、ここまでの力があるとはな。

凪斗は思ったより简単に、刺青を入れることを受け入れた。

手こずらされなかったのはよかったが、凪斗の心持ちはよくわからなかった。谛めたのか、无気力になっているのか、四代目になってもいいという気持ちが出てきたのか。

いまの凪斗の心は、非常に読みづらい。

こうして自分を见诘めてくる目にも、どういう意味があるのか、それとも意味などないのか、それすらもわからなかった。

——确かなのは、俺のことを憎んでるってことぐらいだな。

拉致され、男同士のセックスを教え込まされ、刺青を入れさせられて。

凪斗が幼いころから心を削り、多くのものを犠牲にして护ってきた、平穏な生活。そこから引き剥がして、里の世界へと连れ去った张本人が、自分なのだ。

憎んで恨んで、当然だ。

……胸がチリと痛む。久しぶりの感覚で、自分にもまだ人がましい良心などというものが残っていたのかと少し惊かされた。

施术が终わり、ぐったりした凪斗をマンションへと连れ帰る。ベッドにうつ伏せになった凪斗の额に掌に置く。いつもより発热が酷いようだった。

「冷たい水を持ってくる」

额から手を引いて腰を上げようとすると、ぎゅっと手首を掴まれた。

「……いらない、から」

睑が重いらしくて、だるそうに瞬きしながら、凪斗が诱う。

「しよう」

「汗をかくと色が流れるぞ。おとなしくしてろ」

「初めて刺青したときは、したくせに」

凪斗は不満げに眉を寄せた。そして、角能の手を自分の口元へと运ぶ。小指を咥えられた。热い濡れた粘膜に触れさせられる。

「あふいの、すきらろ」

不明了な発音で煽ってくる。

确かに、発热しているときの凪斗の粘膜は、このうえない快楽をもたらしてくれる。小指を卑猥に舐められれば、下腹に疼きが生まれる。角能は苦笑して、凪斗の口から指を引き抜いた。

「寝てろ、エロガキ」

「眠れない」

いまにも闭じてしまいそうな睑をしているくせに、凪斗が言う。

「カーテン闭めて暗くすれば眠れるだろ」

窓のむこう、夏の夕空はまだ光が强い。

ベッドから腰を上げると、凪斗が慌てて上半身を起こした。手首を强く引かれる。

唇に、下からすごく热くてやわらかな感触が押しつけられる。

凪斗の伏せられた睫がほんのすぐ间近で震えているのを见る。

キスしたまま、凪斗が呟く。

それを半ば唇で読んで、角能は迷うように宙に视线を彷徨(さまよ)わせた。

唇が离れると、セックスをしたときより耻ずかしそうに、凪斗が项垂れる。茜色混じりの阳光に染まる髪がさらさらと、绮丽な造りの顔に流れかかる。角能はその髪を、軽く乱すように抚でた。素直な优しい手触りに、ふっと心が缓んだ。

「わかったから、もうちょっと奥にいけ」

凪斗が泣くみたい顔をして、わずかに口元を绽ばせる。そして、ずるずるとベッドをずって、スペースを空(あ)ける。

角能はネクタイを缓めながら、そこに身体を倒した。

背が痛まないように腹这いの姿势で、凪斗が目を伏せたまま、额を肩に押しつけてきた。热がワイシャツの生地越しにじわりと伝わってくる。

胸にむず痒いような感覚が起こる。角能が肩を引くと、凪斗が目を上げた。素直に伤ついた色が过る。

「头、上げろ」

角能はぶっきらぼうに言うと、小さめの头を腕に抱いた。颚の下に凪斗の头を収める。どうにもだらしのない表情をしている自覚があったから、凪斗には见られたくなかったのだ。

さらりとした髪に、指を这い込ませる。

凪斗が首筋に震える深い溜め息を吹きかけてきた。

——「傍にいて」か……

自分みたいな酷いことばかり强いる相手に、身体を饵にしてまでそんなことを求めなければならないのを、哀れに思う……哀れに思いながらも、自分を求める凪斗にひどく気持ちを揺さぶられていた。

确か初めに凪斗に兴味を持ったのは、絵に表れていた妖しい面だけだったはずだ。

けれど、いま、素直に求めてくるような癖のない面にも、心を乱されている。

凪斗に触れ、彼の祖母と话すうちに、自分の一部を抑えこみ、心のかたちを歪(いびつ)にしながらも悬命にまっとうであろうとしてきた凪斗の姿を知った。

いつも不测の事态を考え、いざというときは身ひとつで暴力団関系の灾いを喰い止められるようにと、孤独を保ち。人恋しくなることも、人并みの友情や恋爱に焦がれることもあっただろう。

普通なら得られるはずのものを、自分にはないものと谛めて生きてきたのだ。物心ついたころからそんなふうに思い込んで、それでいて自然な笑顔を浮かべて前向きに暮らしてきたのだ。

洗濯物の畳み方や扫除の仕方ひとつとっても、凪斗がどんなふうに日々の暮らしの积み重ねを大切してきたかが窥えた。

凪斗とともに暮らすようになってから、この部屋にも正常な生活感が漂うようになった。

そして无彩色だった空间に、彩りが生まれた。凪斗自身の淡い茶の瞳や髪、そして彼が好んで着る青や緑の色の服。上気する肌や、吸えばいくらでも色づいていく唇。

そうやって凪斗の存在と色に驯染んだいま、角能の心にはひとつの欲求が芽生えていた。

——护ってやりたい。

仕事としての义务感とは违う。

食べるように、抱くように、眠るように、抑え难(がた)い欲求として、凪斗を护りたいと思う。

……けれどもそれは、角能にとっては受け入れてはいけない欲求だった。

もう二度と、组织にも人にも、心を譲り渡すまいと四年前に誓ったのだから。

いまでも床に拡がっていく血を、その匂いを、こんなにもありありと思い出すことができる。絶望も恐怖も、思い出すことができる。あの柔和な、尊敬していた男が浮かべた虚无の表情が、いまだに网膜に焼きついている。

『なぁ、人が自分を舍ててまで他人を护りきれるのは、どんな时だかわかるか? 相手に惚れ込んでるときだ。警护する対象に惚れ込め。わかったな、角能』

——佐伯さん……

彼に心酔していた。警察官であることにSPであることに、夸りを持っていた。

そして、心酔した分、夸りを感じた分、深々と心を抉(えぐ)り取られた。

「……っ」

ビリッと脳が痹れるように痛む。

凪斗はいつの间にか、穏やかな寝息を立てていた。起こさないようにそっと腕を抜いて、角能はベッドを下りた。

リビングに行き、サイドボードの奥から日本酒の木箱を取り出す。ソファに腰挂けて、膝に置いた箱の盖を外す。なかには布が诘められている。

その布に埋まるようにして横たわっている黒光りする凶器を握る。

钢(はがね)の重み……一撃で人を絶命させる力を持つわりに軽い重さだ。

铅の块でも呑み込んだかのように、ずしりと胃のあたりが苦しくなる。

グリップを握り、セイフティ・レバーを上げると硬い音を立てて撃鉄が起ち上がる。弾薬も充填(じゅうてん)してあるから、トリガーを引けば発炮できる状态だ。

拳铳を目线の高さまで持ち上げる。

そうして、鉄の铳口をおのれに向けた。

トリガーに指をかける。

四年という歳月を越えて、フラッシュバックが袭いかかってくる。体温が一気に下がって、冷たい汗が项に喷き出す。恐慌に呑まれ、それをゆっくりと呑み込み返していく。

最近は落ち着いていたからしていなかったが、あの事件の直後、警察を辞めてから半年间は、日に何度もこの荒疗治を缲り返したものだ。

悪梦のよんな出来事を细部まで再现し、乗り越える。

——……大丈夫だ。

角能はセイフティ・レバーを戻すと、铳を箱に投げ入れた。

そうだ。あの时、自分は身を挺して学んだのだ。

组织にも人にも固执しない。そうすれば、世の中はどうでもいいことばかりになる。

あんな不条理な想いを、自分は二度と味わうつもりはない。

*  *  *

角能が朝晩と丁宁に薬を涂り込んでくれたから、刺青は化脓することもなく顺调に仕上がっていき、ついに今日、最後まで雕り上がった。

抜き雕りという、素肌を生かして、主题の生き物だけを雕る形式だったため、実际に雕った面积はそう多くなかったが、それでも急ピッチで进めて约一ヶ月ほどかかった。

「これでご覧になってください」

雕滝が姿见にかけられていた布を卷って促す。

一糸缠わぬ姿で、凪斗は立ち上がった。姿见に背を向けて伫み、肩越しに视线を後ろに流す。

そこには、双头の黒蛇がゆるやかなS字型に身をくねらせていた。Sの真ん中あたりでふたつに分岐し、片方は右肩を通って胸のほうへと这っている。もう片方は、左の肩甲骨のあたりで鎌首を擡げ、カッと血色の口を开いて鋭い牙を剥き、见る者を威吓(いかく)する。

蛇の胴は右の臀部に弧を描いて、足の内腿へと滑り込んでいる。见ようによっては蛇に犯されているようにも见えるかもしれない。

身をかえして、姿见に正面を映す。

右肩から首を伸ばす蛇は、胸の突起を舐めるように先の割れた真っ赤な舌を伸ばしている。そして右足の际どい付け根から蛇の胴が这い出ていた。脚を半巻きするかたち、腿の外侧に尾の先がある。

色目は少ないのに、胸を打たれるほど鲜烈で艶かな刺青だ。

凪斗が呼吸すれば胸のうえで黒蛇もまた蠢く……この図案はもともと凪斗自身のなかにあるものだと角能は言っていたけれども、确かにそうなのかもしれないと思った。

つい一ヶ月前まではそこになかった爬虫类が、なぜかとてもしっくりと目に驯染む。

「わたしの仕事のなかでも、屈指の出来ですな」

雕滝が魂が抜けたように呟く。凪斗がこの一ヶ月でやつれたように、刺青师もまた一気に何歳も年を取ったように见えた。

角能は、少し离れたところから凪斗の身体に见入っている。

その瞳に感叹の色を见つけて、嬉しくなる。

耐え难い激痛を受け止めつづけたのは、凪斗なりの、角能への気持ちの证立てだった。とはいっても、仕事として傍(そば)にいるだけの相手にはとても伝えられない想いだから、あくまで自己満足な意味づけに过ぎないのだけれども。

おいそれとは消えることのない、角能と自分を结びつける印。

それに抱かれていると思うと、心强い気持ちになれた。

……けれども、刺青师が部屋を出て行き、凪斗が身支度をしていると、角能が淡々とした调子で言ってきた。

「刺青をいれて、これで少しは箔がついた。近いうちに、组长とおまえの後见についてくれる予定の桜沢さんに、面通しをしないとな」

チノのジッパーを上げていた凪斗は、动きを止めた。

「どうした?」

角能が前に立って、顔を覗き込んでくる。

「……俺は、四代目になるなんて、言ってない」

「刺青を入れるのを了解したのはおまえだろう」

「刺青と四代目は、别の话だろ」

角能は苦笑しながら、凪斗のウエストのボタンを留め、ベルトのバックルを嵌めた。

「别なわけがないだろう。それじゃあ、なんのために刺青をいれたんだ?」

——なんのためって……

理由ははっきりしているけれども、角能には告げられない。グッと答えに诘まる。

と、角能が突き放すように呟いた。

「早く正式な四代目候补に収まって、俺を専属ボディガードなんていう面倒なものから解放してくれ」

「……」

わかっている。角能があくまで仕事だから自分の傍にいるのは、わかっている。

それでも明确に言叶にされると、心臓が溃れるようだった。気道が诘まったみたいになる。

本当は、角能はうんざりしていたのだ。

四代目候补などという素人を押しつけられて、自宅に匿(かくま)う羽目になり。

早く决着をつけたくて、だから刺青を急いで入れさせたのだろう。素人に手軽に箔をつけて、はい四代目候补の出来上がり、ということにして、専属ボディガードを一日も早く降りようという算段だったのだ。

そうわかったとたん、今日针を入れられた场所が、痛くてたまらなくなった。

本当に、しゃがみ込んでしまいたいぐらい、痛い。

自分の気持ちと角能の気持ちのあまりの远さが、惨めで。

いったい自分はこの肌を犠牲にして、なにを手に入れたつもりでいたのだろう? 刺青を入れることで、角能を繋ぎ止められるかもしれないなどと、角能が自分に好意を持ってくれるかもしれないなどと、あり得ない期待をした。

──……でも、それでも。

俯きつつ、凪斗は『树の林檎』の前での角能とのやりとりを思い出し、震えそうになる唇で确认する。

「この刺青の絵は……角能さんが、自分で考えてくれたんだよな? 気に入ってるんだよな?」

「あ? ああ」

突然の质问を讶しみながらも、角能は肯定してくれる。

それだけで、凪斗は救われた気持ちになった。角能の意図はどうあれ、角能が自分のために考えて与えてくれたものなら、その価値だけは本物なのだ。

まだ苍褪めている自覚はあったけれども、凪斗は顔を上げた。

「雕滝さんにもう一度、お礼と挨拶をしなきゃだよな」

强い风に捩れた雨粒が窓にぶつかる音が、闭じたカーテンのむこうから闻こえる。

なんだか、刺青を入れられた部分の肌が全体的に脓むように、ジクジクと热っぽい。今日も微热があるようだった。角能は朝から岐柳组本部のほうに行っていて留守だ。どうせ组长たちと、凪斗を四代目にする下准备でもしているのだろう。

死刑囚は処刑されるその日の朝に执行を教えられるらしいけれども、凪斗もまたそれと同じぐらい自分の运命がいつどんなふうに动いていくのか见えなかった。

もし自分で动かせる运命があるとしたら、ここを飞び出すことぐらいだろう。

しかし自宅マンションに戻れば、すぐに角能か辰久の手の者に见つかってしまう。かといって、亲しい人间を作らないようにしてきたから、身を寄せる当てもない。

どこか知らない远いところへ、ただゴトゴトと电车に揺られていったらどうだろう?

……こんな想像をするとき、いつも无駄な期待をわずかに抱いてしまう。

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