「見えるわ。よく見える」
「待ってて……いま行くから……いま」
少年は、しばらく譫言のようにつぶやいていたが、やがて、その声は聞こえなくなった。
早苗は、しばらく康之のそばにいたが、ハンカチで目元を押さえてから立ち上がった。
病室を出るとき、目が合った看護婦が、はっと息をのんで立ち止まった。
早苗は、黙ってうなずいた。看護婦は、ばたばたと廊下を駆けていく。
あとのことは、彼女たちの処置に任せよう。早苗は歩き出した。自分の中で、ようやく何かがふっきれたような気がする。洗面台で顔を洗ってから、部屋に戻って白衣を脱いだ。
これからすぐに警察に出頭して、何もかも話すつもりだった。言っていることを信じてもらうまでには、相当な時間と忍耐を要するだろうが、何としても、やり遂げなくてはならない。今後、一人たりともブラジル脳線虫の犠牲者を出さないために。
それが、高梨や依田、そして多くの人たちの犠牲を無にしない、唯一の道だった。
病院の玄関を出るときも、早苗の脳裏には、手を振って丘を駈《か》け下る少年のイメージが躍っていた。
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参考文献/謝辞
多数の文献,ホームページ等を参考にさせていただきましたが、本を後ろから読む悪癖を有する読者の存在を考慮し(何を隠そう、私もその一人ですが)、書名はあえて割愛させていただきます。もちろん事実の誤解、歪曲《わいきよく》,捏造《ねつぞう》などがあれば、責は100%著者に帰すことは言うまでもありません。
岡山大学理学部教授香川弘昭先生、京都大学ウイルス研究所秋山芳展先生には、お忙しい中にもかかわらず貴重な御教示をいただき、たいへんありがとうございました。
また、ハードディスクがクラッシュした涙の夜、駆けつけて復旧に尽力していただいた DOS/V-Resistance の argus 氏には、特にこの場を借りて御礼を申し上げます。
本書は平成十年六月、小社より単行本として刊行されたものです。
角川ホラー文庫『天使の囀り』平成12年12月10日初版刊行
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