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作者:日-江户川乱步 当前章节:4489 字 更新时间:2026-6-15 16:11

れを届けたのと同じ署だ。なぜ札入れを届けるのを管轄の違う警察にしなかったか、いや

それとてもまた、彼一流の無技巧主義でわざとしたことなのだ。彼は過不足のない程度に

心配そうな顔をして、斎藤に会わせてくれと頼んだ。しかし、それは予期した通り許され

なかった。そこで、彼は斎藤が嫌疑を受けたわけをいろいろと問い糺して、ある程度まで

事情を明らかにすることができた。

蕗屋は次のように想像した。

きのう、斎藤は女中よりも先に家へ帰った。それは蕗屋が目的を果たして立ち去ると間

もなくだった。そして、当然、老婆の死骸を発見した。しかし、ただちに警察に届ける前

に、彼はあることを思いついたに違いない。というのは、例の植木鉢だ。もしこれが盗賊

の仕業なれば、或いはあの中の金がなくなっていはしまいか。多分それは、ちょっとした

好奇心からだったろう。彼はそこを調べてみた。ところが案外にも金の包みがちゃんとあ

ったのだ。それを見て斎藤が悪心を起こしたのは、実に浅はかな考えではあるが、無理も

ないことだ。その隠し場所は誰も知らないこと、老婆を殺した犯人が盗んだという解釈が

くだされるに違いないこと、こうした事情は、誰にしても避けがたい強い誘惑に違いない。

それから彼はどうしたか。警察の話では、なにくわぬ顔をして人殺しのあったことを警察

へ届け出たということだ。ところが、なんという無分別な男だ。彼は盗んだ金を腹巻のあ

いだに入れたまま平気でいたのだ。まさかその場で身体検査をされようとは想像しなかっ

たとみえる。

「だが、待てよ。斎藤は一体どういうふうに弁解するだろう。次第によっては危険なこと

になりはしないかな」蕗屋はそれをいろいろと考えてみた。「彼は金を見つけられた時、『自

分のだ』と答えたかもしれない。なるほど老婆の財産の多寡や隠し場所は誰も知らないの

だから、一応はその弁明も成り立つであろう。しかし、金額があまり多すぎるではないか。

で、結局、彼は事実を申し立てることになるだろう。でも、裁判所がそれを承認するかな。

ほかに嫌疑者が出ればともかく、それまでは彼を無罪にすることは先ずあるまい。うまく

行けば彼が殺人罪に問われるかも知れたものではない。そうなればしめたものだが……と

ころで、予審判事が彼を問い詰めて行くうちに、いろいろな事実がわかってくるだろうな。

たとえば、彼が老婆の金の隠し場所をおれに話したことだとか、兇行の二日前におれが老

婆の部屋にはいって話し込んだことだとか、さては、おれが貧乏で学資にも困っているこ

とだとか」

しかし、それらは皆、蕗屋がこの計画を立てる前にあらかじめ勘定に入れておいたこと

ばかりだった。そして、どんなに考えても、斎藤の口からそれ以上彼にとって不利な事実

が引き出されようとは考えられなかった。

蕗屋は警察から帰ると、遅れた朝食をとって(その時食事を運んできた女中に事件につ

いて話して聞かせたりした)、いつもの通り学校へ出た。学校では斎藤の噂で持ち切りだっ

た。彼はなかば得意げにその噂話の中心になってしゃべった。

さて読者諸君、探偵小説というものの性質に通暁せられる諸君は、お話は決してこれき

りで終らぬことを百も御承知であろう。いかにもその通りである。実を言えば、ここまで

はこの物語の前提にすぎないので、作者が是非、諸君に読んでもらいたいと思うのは、こ

れから|後《あと》なのである。つまりかくも企らんだ蕗屋の犯罪がいかにして発覚した

かという、そのいきさつについてである。

この事件を担当した予審判事〔註、当時の制度〕は有名な笠森氏であった。彼は普通の

意味で名判官だったばかりでなく、ある多少風変りな趣味を持っているので一そう有名だ

った。それは彼が一種の素人心理学者だったことで、彼は普通のやり方ではどうにも判断

のくだしようがない事件に対しては、最後に、その豊富な心理学上の知識を利用して、し

ばしば奏功した。彼は経歴こそ浅く、年こそ若かったけれど、地方裁判所の一予審判事と

しては、もったいないほどの俊才だった。今度の老婆殺し事件も、笠森判事の手にかかれ

ば、もうわけなく解決することと、誰しも考えていた。当の笠森氏自身も同じように考え

た。いつものように、この事件も、予審廷ですっかり調べ上げて、公判の場合には、いさ

さかの面倒も残らぬように処理してやろうと思っていた。

ところが、取調べを進めるにしたがって、事件の困難なことがだんだんわかってきた。

警察側は単純に斎藤勇の有罪を主張した。笠森判事とても、その主張に一理あることを認

めないではなかった。というのは、生前老婆の家に出入りした形跡のある者は、彼女の債

務者であろうが、借家人であろうが、単なる知合いであろうが、残らず召喚して、綿密に

取調べたにもかかわらず、一人として疑わしい者はないのだ(蕗屋清一郎ももちろんその

うちの一人だった)。ほかに嫌疑者が現われぬ以上、さしずめ最も疑うべき斎藤勇を犯人と

判断するほかはない。のみならず、斎藤にとって最も不利だったのは、彼が生来気の弱い

たちで、一も二もなく調べ室の空気に恐れをなしてしまって、訊問に対してもハキハキ答

弁のできなかったことだ。のぼせ上がった彼は、しばしば以前の陳述を取り消したり、当

然知っているはずの事を忘れてしまったり、言わずともの不利な申立てをしたり、あせれ

ばあせるほど、ますます嫌疑を深くするばかりだった。それというのも、彼には老婆の金

を盗んだという弱味があったからで、それさえなければ、相当頭のいい斎藤のことだから、

いかに気が弱いといって、あのようなへまなまねはしなかったであろう。彼の立場は実際

同情すべきものだった。しかし、それでは斎藤を殺人犯と認めるかというと、笠森氏には

どうもその自信がなかった。そこにはただ疑いがあるばかりなのだ。本人はもちろん自白

せず、ほかにこれという確証もなかった。

こうして、事件から一カ月が経過した。予審はまだ終結しない。判事は少しあせり出し

ていた。ちょうどその時、老婆殺しの管轄の警察署長から、彼のところへ一つの耳よりな

報告がもたらされた。それは、事件の当日五千二百何十円在中の一個の札入れが、老婆の

家から程遠からぬ××町において拾得されたが、その届け主が、嫌疑者の斎藤の親友であ

る蕗屋清一郎という学生だったことを、係りの疎漏から今まで気づかずにいた。が、その

大金の遺失者が一カ月たっても現われぬところをみると、そこに何か意味がありはしない

か。念のために御報告するということだった。

困り抜いていた笠森判事は、この報告を受け取って、一道の光明を認めたように思った。

さっそく蕗屋清一郎召喚の手続が取り運ばれた。ところが、蕗屋を訊問した結果は、判事

の意気込みにもかかわらず、大して得るところもないように見えた。なぜ事件の当時取り

調べた際、その大金拾得の事実を申立てなかったかという訊問に対して、彼は、それが殺

人事件に関係があるとは思わなかったからだと答えた。この答弁には充分理由があった。

老婆の財産は斎藤の腹巻から発見されたのだから、それ以外の金が、殊に往来に遺失され

ていた金が、老婆の財産の一部だと誰が想像しよう。

しかし、これが偶然であろうか。事件の当日、現場からあまり遠くない所で、しかも第

一の嫌疑者の親友である男が(斎藤の申立てによれば彼は植木鉢の隠し場所をも知ってい

るのだ)この大金を拾得したというのが、これが果たして偶然であろうか。判事はそこに

何かの意味を発見しようとして悶えた。判事の最も残念に思ったのは、老婆が紙幣の番号

を控えておかなかったことだ。それさえあれば、この疑わしい金が、事件に関係があるか

ないかも、ただちに判明するのだが。「どんな小さなことでも、何かひとつ確かな手掛りを

掴みさえすればなあ」判事は全才能を傾けて考えた。現場の取り調べも幾度となく繰り返

された。老婆の親族関係も充分調査した。しかし、なんの得るところもない。そうしてま

た半月ばかりが徒らに経過した。

たったひとつの可能性は、と判事は考えた。蕗屋が老婆の貯金を半分盗んで、残りを元

通りに隠しておき、盗んだ金を札入れに入れて、往来で拾ったように見せかけたと推定す

ることだ。だがそんなばかなことがあり得るだろうか。その札入れもむろん調べてみたけ

れど、これという手掛りもない。それに、蕗屋は平気で、当日散歩のみちすがら、老婆の

家の前を通ったと申立てているではないか。犯人にこんな大胆なことが言えるものだろう

か。第一、最も大切な兇器の行方がわからぬ。蕗屋の下宿の家宅捜索の結果は、何物をも

もたらさなかったのだ。しかし、兇器のことをいえば、斎藤とても同じではないか。では

一体だれを疑ったらいいのだ。

そこには確証というものが一つもなかった。署長らの言うように、斎藤を疑えば斎藤ら

しくもある。だが、また、蕗屋とても疑って疑えぬことはない。ただ、わかっているのは、

この一カ月半のあらゆる捜索の結果、彼ら二人を除いては、一人の嫌疑者も存在しないと

いうことだった。万策尽きた笠森判事はいよいよ奥の手を出す時だと思った。二人の嫌疑

者に対して、彼の従来しばしば成功した心理試験を施そうと決心した。

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