音信不通のまま一週間…
さすがに心配になり アヤと一緒にヒロの教室へ行った。
「桜井弘樹君いますか~??」 教室中に響く二人の叫び声。
近くにいたスキンヘッドの男が返事をす る。
「あいつ休み~風邪かなんかで」
いつもなら休む日はメールくれるのに。 最後に会った時元気に笑って手振ってたの に…。
考え込む美嘉の姿を見て大袈裟に提案する アヤ。
「ノゾムに聞けばいいじゃん!」 アヤに手を引かれ教室へと戻り、
ノゾムの席へと一直線に向かう。
「ノゾムぅ!」
「おー」
ノゾムとはあの日以来ちょっと気まずい…。 ペコリと軽く頭を下げるとノゾムもペコリと
頭を下げ返した。
「ねーヒロ君なんで学校来ないの?」
「さぁ」
「仲直りしたんでしょ?!」
「したけど~」
アヤの問いに そっけなく答えるノゾム。
「風邪なの?」
「風邪じゃねぇよ」
「じゃあなんで?美嘉ヒロ君と一週間連絡 とれなくて心配してんだよ?」
アヤがイライラしたように言うと ノゾムは下を向いて答えた
「知らねぇほうがいい」 意味深な言葉に
アヤが反応する。
「教えてよ!」
「どうしても知りてーなら放課後俺の後に ついて来て」
ノゾムの言葉に美嘉とアヤは唾をゴクリと飲 み、
顔を見合わせて頷いた。
授業になんか 集中出来るはずがない。
知らないほうがいいって何?
ヒロはなんで学校に来ないし連絡もくれな いの?風邪じゃないの?
知りたいような知りたくないような…。
放課後になり美嘉とアヤはノゾムの後をついて 行った
到着したのは ヒロの家。
「行くぞ」 ノゾムが
チャイムを押す。
ピンポーン ドアを開けたのは
ヒロのお姉ちゃんのエリさんだ。
「おーノゾム。あれ、美嘉ちゃん久しぶり! 体大丈夫?」
「はい…」 元気なく答える。
今は何よりもヒロのことが気になるから…。
「ヒロ君のお姉さん!?超ヤンキーぢゃ ん!」
耳元で呟くアヤ。
「でもいい人だよ…」
アヤの言葉が あまり耳に入らない。
エリさんはヒロの部屋をちらっと見て 眉をしかめた。
「今あいつに会わないほうがいいよ」
ノゾムもエリさんもなんで同じこと言うの…? アヤは美嘉の腕を強引に組みエリさんに向かっ
て言った。
「大丈夫です。覚悟はできてますから!」 なぜか足が震える。
…不安。
ヒロの部屋の中から聞こえる楽しそうな笑 い声は玄関まで響いている。
ノゾムが部屋のドアを開け美嘉とアヤはそれに 続いて部屋に入った。
ツーンと充満した香り… 部屋の中には
ヒロを含めた三人の男と一人の女の計四 人。
「…ヒロ??」 声をかけても
ヒロは全く振り向こうともしない。
美嘉はアヤに 耳打ちをした。
「みんな酔ってるよね…??」
アヤの顔色が変わる。
「こいつらちょっとおかしいよ…」
「おかしいって??」 アヤの言葉を
理解することが出来ない
「この匂い…しかもみんなの目見たらおか しいのわかる」
確かに酔ってるにしてはおかしい。 お酒を飲んだ気配はない
それぞれうつろな目で変な方向を見てい る。
部屋中に散乱するビニール袋。
「蝶々がいる~蝶々~」 天井を見ながら
いつもより高い声で独り言を言っているヒ ロ。
何?? なんか怖い…。
体中に走る寒気。
美嘉とアヤは立ち尽くしたままその光景を見 ていると部屋のドアが開いた。
手招きするエリさん。
二人は一回部屋から出ることにした。
「あれはなんですか?」 アヤの問いに
エリさんは冷静に答える。
「あれはシンナー」
「…シンナー??」 聞き慣れない単語に
美嘉は首を横に曲げた。
「いつからやってるんですか?」 裏返るアヤの声。
きっと同じ気持ち。
「弘樹は美嘉ちゃんと付き合い始めてから 一回もやってなかった。でも何日か前か ら…」
エリさんの言葉に、 美嘉は根拠のない考えを思い浮かべてい た。
ヒロ、 もしかして美嘉とノゾムがキスをしたことま だ許してないの??
再び部屋に戻ると、 さっきまで普通だったノゾムもおかしくなっ ている
「ノゾムあんたまで何やってんの?!」 アヤはノゾムに駆け寄った。 そして美嘉もヒロのもとへ…。
ヒロのほっぺを指先でピシッと叩く。
「ヒロ?美嘉だよ。わかる??ちゃんとこ っちむいて!!」
上を向いたまま動かないヒロ。
「ヒロ…!!言いたいことあるなら言って よ!!そんなヒロ嫌い…」
その時一人の男が美嘉のほうに近づき、 ビニール袋を差し出して来た。
「気持ちいいよ~君もやりなよぉ~」
「やめてよっ!!」
袋を丸めて 床に投げ捨てた。
部屋に響くアヤの叫び声。 ノゾムがアヤに馬乗りになり強引にシンナーを
吸わせている。
「…アヤ!!」 立ち上がろうとした時、隣にいた金髪の男
が美嘉の頭を強い力でおさえ 口にビニール袋をあててきた。
男の力には勝てない。 鼻と口にビニールをあてられている。
何度か呼吸をしたあたりで視界がぼやけ… 覚えてるのは夢みたいにふわふわしてい
て、 気持ちが良かったこと。
でもなぜかとても悲しくて…。
突然体が重くなり意識が戻った。 さっきまで隣にいた金髪の男が美嘉の体を 床に押し倒している。
「…やッ…」 抵抗したいけど
力が出ない。
叫びたいけど 声が出ない。
男はうつろな目のまま スカートの中に手を入れてくる。
ヒロはスーパーマン。 美嘉がピンチの時には助けに来てくれるん だ。
「ヒロ…助け…て」 下着の中には手が入ってくる。
「ヒロ…ヒロ助けて…」
か細い声で ヒロに助けを求める。
ヒロはおびえる美嘉の顔を一瞬じっと見て いたが
再び上を向いてしまった
もういいや。 だって男に勝てるはずないもん。 ヒロは助けてくれないんだね…。
わからない。 何この状況。
「んっ…」
隣から聞こえるいやらしい女の声。 美嘉は体を触られながらも声が聞こえる方 向と逆を向いた。
その時鏡にうつった信じられない光景。 部屋にいた女とキスをしているヒロ。
「ヒロ…?」 鏡ごしに
ヒロの名前を呼んだ。
ヒロは振り向かずに 女の体を触り続ける。
ねぇ、ヒロ。 今キスしてるのは美嘉じゃないよ? 美嘉もヒロじゃない男に体触られてるよ?
いつもみたいに、
「俺の女に手出すな」 って怒らないの?
「あぁ、ヒロ…」 女のいやらしい声が響く
二人が愛し合ってる姿を鏡越しに見てい た。
その唇で美嘉に優しくキスをし… 細くて長い指で美嘉の体をなぞってくれ
た。
なのに… 今その唇で違う女にキスをして、 その指で違う女の体をなぞっている。
「…もう…やだ!!」 美嘉が発した大声に
体を触っていた男の力が弱まる。
そのスキを見て男を強く蹴り上げ、 ヒロに向かって指輪を投げつけた。
「最低!!」 転がった指輪を見たヒロは、
一瞬悲しそうな顔をしたように見えた。
床に倒れているアヤをおんぶしたまま家を出 て、 近くの空き地にあるベンチに寝かせた。
ヒロは 追い掛けて来てもくれないんだ…。
シンナーとか、 何やってんの??
今頃はあの女と…。
しばらくして アヤが目を覚ました。
「あれ…外?」
「アヤ大丈夫?何してたかわかる…??」 手をアヤのおでこに乗せる
「なんとなく。でも思い出したくない…」
「うん…」
「運んでくれたの?ごめんね。帰ろっか…」
二人は何も話さないまま別れた。 夜になっても
考えはまとまらない。
ヒロひどいよ… 連絡とれなかった一週間毎日あんなことや
ってたの?
心配してたんだよ??
シンナーなんて…
次の日あまりにショックで学校を休み布団 にくるまっていた時…
♪プルルルルルルル♪
着信:ノゾム 昨日の今日なのによく平気に電話してこれ
るね。
アヤに最低なことしたくせに!! 嫌々ながらも電話に出る
『何?』
『美嘉もアヤも休みか?』 アヤも休んだんだ。
『うん』
『何で?』
『そんなのアヤに聞けば!!』 ガチャ
プープープー
一方的に電話を切った。
♪プルルルルル♪
着信:ノゾム またか…。
無言で出る。
『怒ってんの?』
『別に~っ……』
『俺昨日なんかした?』 記憶がないノゾム。
昨日の出来事を詳しく 話すことにした。
『マジかよ…』 全てを話し終えるとノゾムはかなり動揺して
いる様子でため息をついた。
『マジだし。ヒロもノゾムもありえないから』 怒りのボルテージは
最高潮に達する。
『今の話ヒロにしていいか?』
『いーよ』
『今するわ』 怒りがおさまらないまま電話を切ると、
すぐにヒロからの電話が鳴った。
♪プルルルルル♪
着信:ヒロ
『はーぁい』
わざと高い声で出る。
『ノゾムから聞いた。美嘉昨日俺んち来た の?』
意外にも 落ち着いているヒロ。
『行きましたぁー』
『…見たか?』
『全部見た。女の子とキスしたり体触った りしたとこもねっ』
嫌みっぽい言い方。 嫉妬してる…。
『俺のこと嫌いになった?』
『かもねっ』
『俺…』
『もういいよっ…バカ』
『おい…』 ガチャ
プープープー
最後まで聞かずに 電話を切った。
言い訳は聞きたくない… すごくショックだったよ シンナー吸って、
目の前で他の女と…。
許せない。 許せないよ。
すごく辛いよ。 苦しいよ。
でもヒロをそこまで追い込んだのは 美嘉のせいだね…。
嫌いになんかならない。 それでもヒロのことが好きなの。
付き合ってから何回も喧嘩して、 怒って電話を切るのは決まって美嘉のほう だった
だけどヒロは必ず電話をかけ直してくれ て…
『ごめんな。仲直りしよう』 その言葉が
仲直りするきっかけになってたよね。
ねぇ、 いつもみたいに電話かけ直してくれるよ ね??
しかし数分後に届いた 一通のメール。
♪ピロリンピロリン♪
受信:ヒロ
《イママデアリガトウ》
返信することはできなかった。
いつもはケンカしても必ず仲直りしてい た。
でも今回はいつもと違う気がするんだ。
その証拠に あれ以来ヒロから連絡はない。
ヒロと別れてしまったという確信を得るの が怖かった。
アヤとノゾムもあれ以来別れてしまったようで 二人ともあの日についての話題に触れよう とはしなかった。
馬鹿みたいに PHS を握りしめ 来るはずのない電話を待っている。
最後に届いたメールを返信しないまま 一週間が経った。
日曜日… 一人で部屋を片付ける。
何かをしていないと 気が狂いそう。
机の奥から出てきたのはヒロと初めて遊ん だ日に撮った写真。
「この時ヒロ彼女いたんだよね…まさか付 き合ってこんな好きになるなんて思わなか ったなぁ」
ひとり言を呟きながら写真をゴミ箱に捨て ようとしたが、 写真を裏返しにして引き出しにしまった。
まだ 捨てられない…。
テストも近く、 気を紛らわせるために勉強でもしようかと かばんから教科書を取り出す。
開いた時に見えた 教科書の横に書かれた小さな文字。
“美嘉頑張れよ!ヒロ“ あっ、
学校で一緒にテスト勉強した時にヒロが書 いた落書きだ。
落書きを指でなぞる。
「ヒロ…どうして電話かけ直してくれない の?もう戻れないの?こんなことぐらいで 終わっちゃうの?嫌だよ…」
気付いた時には 家を出て走っていた。
ヒロの家へ向かう。 部屋も教科書もこの道も… 全部全部ヒロに繋がっている。 ヒロで埋まっているの。
ヒロの笑顔失いたくない
このまま終わりだなんてそんなの嫌だよ… ヒロの家の前に着いた時外はもう真っ暗で
外灯だけが寂しく光っていた。
大きく深呼吸をして チャイムを押す。
ガチャ
だるそうな顔をしてドアを開けたのはヒロ だ。
一瞬驚いた表情を見せた
「いきなりごめんね…話したくて…」 息を切らす美嘉。
「…入れ」 そっけない返事で
部屋に通された。
何回も来ているはずなのになぜか懐かし い。
気付いたのは 壁に貼られていたはずの二人の写真がはが されていること。
正座をしながら 本当の気持ちを話し始める。
「美嘉ヒロと別れたくない。ヒロのこと嫌 いになったなんて嘘。一緒にいたい…ごめん なさい…」
ヒロは沈黙を続け、 しばらくして冷ややかな目線を美嘉に向け た。
「じゃあ今日一日俺の命令聞いてくれたら 付き合ってやってもいいけど」
え?? 意味わかんない。
ピンポーン
ノゾムとのキスはちゃんと誤解も解けたはず だし
ヒロも許してくれたよね??
それで仲直りしたのに突然音信不通になっ て…
心配になって家まで行ったらシンナー吸っ ておかしくなって 美嘉の目の前で違う女と愛し合って…
なんでそんなに 偉そうなの??
ヒロの言葉に納得がいかないと心では思っ ていながら、 それでも別れたくなかったんだ。
だから…
「…命令って??」 あぐらをかき、
指の骨を鳴らしながらまるで脅しているか のような態度のヒロ。
「俺のことどんくらい好きか証明して」
「どうやって…」
「そうだな~じゃあ仲いいダチに俺のこと 好きって電話かけろ」
命令に従い 仕方なく電話をかける。
♪プルルルルル♪
『もしもし♪』 かけた相手はユカだ。
アヤはノゾムと別れたばかりだから気まずい。
『ユカ…美嘉ヒロの事大好きなんだぁ…』
『え!いきなりどうしたの!?』 案の定
ユカは理解出来ない様子。
『それだけなんだよね、ごめんね…』
『なんだそれ~ノロけ?まぁいいけどね♪』
『ごめんね、またね…』
「…これでいい??」 電話を切るとヒロは少し満足げな顔で微笑
み、 手招きをした。
素直に従い ヒロの方へと向かう。
ヒロは近くにあったタオルで美嘉の両手を 後ろに縛り、 もう一枚のタオルで目隠しをした。
「やっ、やめてよぉ…」 抵抗する美嘉に
ヒロは冷めた一言。
「別れてぇの?」 別れたくない。 激しく首を横に振る美嘉
手は後ろに縛られ 目隠しをされている。
身動きが出来ない。 何も見えない。
ヒロに触れられない。 ヒロの顔が見えない。
寂しいよ…。
唇に やわらかい感触が触れた
キス…。 乱暴な行動とは逆に、
そっと触れる優しいキス
ヒロは美嘉をその場に押し倒し、 少し乱暴に服を脱がせ、体を弄んだ。
いつどこにヒロの指が…唇が触れるかわか らない
触れるたびに 体がビクッと反応する。
「…感じてんの?」 耳元でかすれた声で囁くヒロ。
「怖い…」 美嘉は震えた声で
ぽつりと答えた。
するとヒロは美嘉の体を起こし、 スルッと目隠しをはずした。
ぼやけた視界の前には 大きな鏡…。
弄ばれてる姿が 映し出されている。
鏡から顔を背けたが、 ヒロは美嘉の顔を鏡のほうへと強引寄せ た。
「自分の姿見ろ。」
「やだよぉ…恥ずかしいよ…」
「ちゃんと見ろ。」
「こんなの…ヒロじゃないよ。いやだよ…」
「嘘つくなよ。感じてんだろ?」
鏡に映るヒロの表情は、いつもの顔ではな い。
ヒロは美嘉の頭を 自分のモノへと近付ける
何を望んでいるか なんとなくわかるよ。 でも…
初めてなのに。
手を縛っていたタオルがヒロによってほど かれる
「早くしろ。別れてぇのか?」
おそるおそるチャックに手をかけ、 命令通りに従った。
こんな形で
こんなことするとは思わなかった。
でもね 別れたくないの。
今日一日命令に従えば 付き合ってくれるんだよね??
また前みたいに 戻れるんだよね…??
人は美嘉のことを バカみたいって言うかもしれない。
でもね、 これがもう一度付き合うことの出来る唯一 の方法なんだ。
今はこうするしか ないんだよ…。
美嘉の目から涙が一粒零れ落ちた時 ヒロは美嘉を後ろ向きにさせその状態のま まぐいっと挿入した。
いつもみたいに手を握ってはくれない。 キスもしてくれない。 二人の吐息が重なることはなく
ただ欲望を満たすためにひたすら動かすだ
け。
愛が感じられない。 ヒロと一つになれるのはすごい嬉しいよ? でもね
なんか違うの。
優しくない。 温かくない。
唇を噛み締めながら 終わるのをただひたすら待った。
全てが終わり、 裸のまま布団の中で体をまるめていた。
さっきまでの勢いはどこかに消えてしま い、
虚しい気持ちのまま服を着る。
ヒロは上半身裸のまま近くにあったライタ
ーで煙草に火をつけ、 音をたてて白い煙を吐き出した。
ヒロ、 煙草吸うようになったんだ。
しばらく会わないうちに目まぐるしく変化 した状況に
心がついていかない。
「根性焼き」 吸っていた煙草を差し出すヒロ。 根性焼き…。 火のついた煙草を腕に押し付けて火を消す
行為。
ヒロの腕には根性焼きの跡がたくさんあ る。
「別れたくねぇならしろよ、根性焼き」 ヒロの言葉に
もう驚きさえも感じなくなっている。
今は何よりも別れたくない気持ちで頭がい っぱいで、
そのためには命令に従わなければならな い…。
ただそれだけのこと。
ヒロの手から煙草を奪い 指をグーに握りしめながら手首の辺りに煙
草を押し付ける。
ジュッ 熱い。
痛い…。
その瞬間、 ヒロが美嘉の手から煙草を奪い床に強く投 げ飛ばした。
「お前何マジでやってんだよ!?」
ヒロは乱暴にドアを開け部屋を出て行って しまった。
しばらくしてヒロは 消毒液とガーゼを両手に抱えて戻って来 た。
じゅくじゅくした火傷の部分に 消毒液を静かに垂らす。
「お前バカだよ…何やってんだよ」 ガーゼをテープで貼り付けた後、
頭をかかえながら冷たい口調で言った。
「今日はもう帰れ」 乱れた髪を整え、
帰る準備をする美嘉。
「ヒロまた付き合ってくれる…??」 ヒロは
背を向けたまま頷いた。
「じゃ…」 家を出て帰り道を歩く。
いつもなら送ってくれるのに。 そんなの甘えすぎなのかもしれないね。
でも でもいつもは…。
ヒロともう一度付き合えてすごく嬉しいは ずなのに…
いつものヒロじゃなかった。 会わない間何があったの??
ため息は風に乗ってどこかへと運ばれてい ゆく。不安な気持ちが高まるばかりだ。
「…美嘉?」 後ろから聞こえる名前を呼ぶ声に少しの期
待を抱きながら振り向く。
追い掛けてくるはずないのにね…。
声をかけてきたのは
高校二年生になって同じクラスになったヤマ トだ。
ヤマトには失礼な話だが、 少しがっかりしてしまった。
「何やってんの?」
「別に…」
そっけなく答える。 ヤマトは隣の席になった時仲良くなった男友
達だ。
ノリが良くて、 女友達のように気が合う
「大丈夫か?なんか不安そうな顔してるけ ど」
こんな今だからこそ、 ヤマトの優しさが今すごく心に染みわたる。
「彼氏と別れそうになっただけだよ…」 ヤマトはその言葉を聞き、ケロッと笑いながら
答えた。
「俺もフラれた♪」
「マジで??嘘だぁ」 美嘉はヤマトに
疑いの目を向ける。
「本気!彼女浮気してたうえにフラれ た~!」
「それはきついね…」
フラれたと聞いて親近感がわき、 立ったままお互いの恋愛事情を暴露しあっ た。
ヤマトは美嘉の話をじっくり聞き、 美嘉もヤマトの話をじっくり聞く。
恋愛は人それぞれ。 一人一人違う。
「俺達友達だろ?いつでも相談しろよ!」
「ヤマトもねっ♪」 ヤマトは最高の男友達。 タツヤの時みたいに失いたくない…。
家に帰り何もする気が起きなくて部屋でボ
ーっとしていた。
でも ヤマトに話を聞いてもらったおかげで少しス ッキリした。
ヒロとも戻れたし 明日から頑張ろう!!
そう前向きになっていた時…
♪ピロリンピロリン♪
P メール DX 受信:ヒロ ヒロから届いたロングメール。
嫌な予感がする…。
唾をゴクリと飲み込み、受信 BOX を開いた。
《家着いたか?今日俺の命令を聞いたらま た付き合うって言ったけど、やっぱり無か ったことにしてほしい。別れよう》
なんで?? もう一回付き合ってくれるって言ったじゃ
ん。
だから頑張ったの。
なのに別れる??
…なんで?
今日美嘉がヒロの家に行った時、 ヒロは冷たく言い放ったよね。
「今日一日俺の命令聞いたら付き合ってや る」
って。
嫌なことも…した。 根性焼きも。
いつものヒロと違って怖かった。 だけどね、
美嘉にとってはヒロと離れてしまうことの ほうが怖かったんだ…。
今日言ったことは 全て嘘だったの??
今日したことは 全て無駄だったの??
放心状態のまま PHS を手に取り、 ヒロに電話をかけた。
♪プルルルル♪
『…おぅ』 絶対に出ないと思っていた。
しかし予想外にもヒロは出たのだ。
『……冗談だよね??』 ため息混じりに
答えるヒロ。
『冗談じゃねぇよ』
『だってもう一回付き合ってくれるって言 ったもん……嘘ついたの??』
声が震える。 体も震える。
心の中で 繰り返されている。
━別れたくない… 別れたくないよ━
『あの時はまだ考えがまとまってなくて…』 美嘉は
ヒロの言葉を遮った。
『…もう美嘉のこと嫌い??』 苦しそうな声で
答えるヒロ。
『嫌いじゃねぇよ。でももう無理』
『…なんで??』
『俺わかんねぇ。美嘉の前で女とやってた とか知らねぇし。お前だって俺のこともう 嫌いって言ったし』
『嫌いなんて嘘だよ……もうしないからご めんねって言ってほしかっただけなの…』
『俺本当わかんねー。覚えてねぇよ』
『別れたくないよぉヒロ…なんでもするか ら…本当は‥』
ガチャ プープープー
電話はヒロによって 突然切られた。
その後何度かけても 繋がることはなかった。
ヒロどうして。 どうしていきなり??
会わない一週間の間に何があったの?? 最後に会った時
笑ってバイバイしたじゃん。
何度も何度も振り返ってくれて、
「またね」 って言ったじゃん。
最近まで毎日のようにイチャイチャしてた じゃん
赤ちゃんいつか産もうねって約束したじゃ ん。
二人ともまだ 16 歳だし、この先ずっと一緒 にいるのは無理かもしれない。
だけど… こんな終わり方は
ないよ。
納得いかないよ、 ヒロ……。
ヒロとの別れを受け止めることが出来なか った。
ヒロから電話が来て、
『やっぱ別れたくない』 そう言ってくれるような気がして、 意味もなく PHS を握りしめる。
その時…
♪プルルルル♪
振動が手に響く。 電話だ。
着信:エリさん ヒロの
お姉ちゃんだ。
今ヒロに関わっていること全てに 胸の鼓動が早まる。
乾いた唇を舐め 電話に出た。
『はい…』
『弘樹から聞いたよ』
『はぁ…』
『辛いよね。でも弘樹の気持ちもわかって あげてほしいんだ…』
ヒロの気持ち? 確かにノゾムとキスしたことでヒロを傷つけ
た。
だけどシンナー吸って おかしくなって…
目の前で 他の女と愛し合った。
ヒロは覚えてないって言うかもしれないけ ど…。
それで一方的に理由もなしに別れようって 言われて、 命令聞いたら付き合ってくれるって言って いろいろやらせておきながら、しまいには 別れよう??
そんなヒロの気持ちなんてわかるはずがな い。
ねぇ どうやってわかればいいの??
喉の近くまで出た言葉達を飲み込んだ。
『別れたくないよ。わけわかんない……』 エリさんはしばらく沈黙を続け
静かに話し始めた。
『もし美嘉ちゃんと弘樹が運命の二人な ら、今別れてもまたいつかどこかで出会っ て付き合うこと出来る。今は弘樹のことは 忘れな…何かあったらあたしに電話しても いいから』
何も言い返せず 電話を切った。
この時、 初めてヒロとの別れを実感し…
PHS を握りしめたまま 床に頭をつけて倒れ込んだ。
「ヒロぉ別れたくない…別れたくないよ…」
突然の 別れの理由は…??
何か理由があるなら 言ってほしいよ。
…最後の 賭けに出た。
P メール DX 送信:ヒロ
題名:ヒロへ
本文:これで最後のメールにします。美嘉は やっぱり今でもヒロが大好きです。別れた くないです。ヒロが別れたい理由もわから ない。明日の朝、ヒロとよく遊んだ川原に います。もし、また付き合ってくれる気が 少しでもあるなら来て下さい。もう全くな いのなら、来ないで下さい。その時はきっ ぱり諦めます。
美嘉より
次の日、 朝7時に家を出る。
一睡もしてないためか、目がすごい腫れて いる。
バスには乗らず 歩いて川原へ向かった。
学校へ行く気など、 全くない。
今日は一日中 ヒロを待つつもり…。
川原に到着し 草の上に座る。
川の流れる音と道路を走る車の音が交互に 耳に鳴り響いていた。
二人で見ると綺麗だったタンポポも、 一人で見たらしおれて見える。
あぁ、そっか。 川の音もタンポポも ヒロと見たから綺麗だったんだ。
ヒロがいないと何もかも色褪せて見える よ…。
【ずっと 一緒にいような】
前にこの場所でヒロが言った言葉、 なぜか今甦る。
皮肉にも心とは正反対で空は晴天。 かばんを枕にして
寝転んだ。
もくもくと流れる雲を見つめながら思い出 すのは楽しかった日々だけ。
ヒロはきっと 来ないだろう…。
なんとなく わかっている。
でもほんの少し… 心のどこかで期待しているんだ。
まだ完全に諦めていないみたい。
「ばかみたいだよね…」 フフッと笑い
近くに咲いたタンポポをぶちっとちぎっ た。
遠くから学校のチャイム音が聞こえる。
時間はもう9時。 来てほしい…
だけど、 このまま来ないほうがいいのかな。
来ないほうが忘れられるかもしれないね。 いつか別れる日が来るのなら…。
ヒロはなぜ変わってしまったのだろう。 ノゾムが原因??
シンナーのせい?
それとも、 他に理由があるの??
ヒロはすごく 優しかったよね。
ワガママ言っても、
「しょーがねぇなー」 って言いながら笑って聞いてくれた。
ケンカのたびに謝るのはヒロのほうだった んだ。いつもヒロから仲直りのきっかけを くれたんだ。
嫌いだなんて思ったこと一度もないよ。
喧嘩した後かけ直してくれる電話に、 愛を確かめてたの。 愛を感じてたの…。
今回もずーっと 待ってたんだよ。
こんな美嘉に もう疲れちゃったかな。
愛想つかしちゃったのかな。
こんなに好きなのは美嘉だけだったのか な…。
眩しい光。 手で両目を覆った。
その時… キキーッ!!
遠くから聞こえる 聞き慣れた自転車のブレーキ音。
徐々に近づいてくる足音 風に運ばれて来る香り。 このかぎ慣れた香水の香りは… ヒロだ!!
覆っていた手を パッと離した。
「…よぉ」
上から顔を 覗き込むヒロ。
ヒロの大きな体で眩しい光は隠れてしまっ た。
突然の意外な出来事に、開いた口が塞がら ない。
「おーい?美嘉?」
「あっ、ごめん。おはよっ…」
ヒロ…来てくれた。 また付き合える可能性があるってことだよ ね??嬉しいよ……。
「目すっげー腫れてんぞ。」 ヒロが美嘉の目を指先でそっと撫でる。 最近まではいつもしてくれていたことなの
に、
なぜか今日は涙が込み上げてくる。
いつものヒロだ。 いつものヒロに戻った…
ヒロはいつも美嘉の隣にいて、空気のよう な… うまく言えないけどいて当たり前の存在だ った。
別れを意識した時、 初めて気付いたこと。
空気がないと、 呼吸が出来ない。
ヒロがいないと、 生きていけないんだ…。
もう絶対わがまま言わないよ。 頑張る。
だからもう離れないで。
「今日天気いいな。近くの店行かねぇ?」
「…うん!!」 うきうきしながらヒロの自転車の後ろに乗
る。
ここは美嘉の特等席だって言ってくれたよ ね。
背中にぎゅっと抱き付きヒロのぬくもりを 感じた
ずっと 離したくない…。
近くのショッピングセンターに到着し、 自転車から降りる。
「ほら~掴まれ」 美嘉に向かって手を差し延べるヒロ。
「……いいの!?」 目を見開き笑顔を隠せない顔で聞き返す
と、 ヒロはあどけない笑顔で答えた。
「当たり前だろ!」 手を繋いだまま店に入りゲームコーナーへ
向かう
「あ~超かわいいんだけどっ!!」
UFO キャッチャーの中にあるプーさんの人 形を見て、 美嘉はおもちゃを欲しがる子供のようにう わめづかいをしてヒロを見つめた。
「どれだよ?」
奥にあるいかにも取れにくそうなイチゴを 抱いたプーさん人形を指さす。
「よっしゃ~まかせとけって!」
ヒロは腕まくりをして気合いを入れ、 財布から 100 円玉を出し UFO キャッチャー を始めた
「ちきしょ~とれね~」 必死で頑張ってるヒロの額からは汗が流れ
出る。
まるで昨日のヒロが嘘のよう…。
「ヒロもういいよ!!」 止めようとちょうど声をかけた時だった。
「…とれた!」 ヒロは嬉しそうに下から人形を取り出し
て、 頭をかきながらぶっきらぼうに差し出し た。
「大切にしろよ!」
「………するっ!!」
「プリクラ撮んねぇ?」 いつもは恥ずかしいって嫌がるくせに珍し
いな。
たくさんある種類の中から最新機種のプリ クラ機に入った。
「ポーズどうする??」 プリクラ機の中でヒロのワイシャツを引っ