もう 高校二年生も終わる。
三学期は少し授業を受けテストさえ終われ ば春休みだ。
今回のテストはさすがに頑張らなきゃ!! いつもはテスト前日に徹夜で勉強するとこ
ろを、今回ばかりは一週間前から猛勉強。
そして結果は… 現代文 81 点
数学 37 点 歴史 48 点 化学 62 点 保健 59 点 英語 93 点
赤点ギリギリの 数学は置いといて…
英語はなぜか中学校の時から得意なほう だ。
得意と言うよりは… 好きなだけなんだけど。
人間一つは取り柄があると言うけどこのこ となのだろうか。
去年は補習で悩んだ春休みも 今回は難無く迎えることが出来た。
「明日からの春休み怠けないで勉強しろ よ」
先生の言葉に生徒達は歓声をあげ、 一斉に教室を出る。
「春休み中遊ぼうね!」 イズミからの嬉しい誘いに頷く美嘉。
「またみんなで遊ぼうぜー」
「優さんとケンさんも呼んでな~!」 シンタロウの提案にヤマトがすかさず割り込み、
アヤは声を張り上げた。
「楽しみぃ~♪」
「じゃあまたね~!!」 別れを告げいそいそと靴を履き変え、
小走りで学校を出た。
高校生活も あと一年か…。
いつもはバスで家に帰るが、 今日は機嫌が良いので歩いて帰ることにし た。
「天気いいなぁ~!!ラララぁ♪」 こんな気分の時は自然に歌を口ずさんでし
まう。
その時、 ポケットに入れて置いたはずの携帯電話が ないことに気付いた。
そう言えば机の中に 入れて置いたままだ。
歩いて来た道を戻り、 再び学校へと向かう。
前方から仲のよさげなカップルが歩いて来 た。
ちょうど すれ違った瞬間…
「美嘉ちゃんだよね?」 カップルの女の方に
声を掛けられた。
………この顔 忘れられるはずもない。
咲だ。 ヒロの元カノの咲。
美嘉とヒロが付き合っていた時 咲はまだヒロのことが好きで嫌がらせされ たりしたっけ…。
レイプ。 咲に肩を押されて
流産した…。
「ずっと話したかったんだ。」
「……話すことなんかないですから」 申し訳なさそうに言う咲に冷たく言い放ち
そのまま立ち去ろうとしたその時、 咲は深く頭を下げた。
「お願い…」
咲のあまりに必死な態度に、 仕方なく頷いた。
「近くの喫茶店で話そう?」 咲は一緒にいた男と別れて歩き出した。
若者が集う喫茶店に入り二人はイスに座 る。
美嘉の手は 怒りでプルプルと震えていた。
よくあんなにひどいことをして……… 普通に話しかけられるよね。
今咲になんか腹立たしいことを言われたら 手が出てしまいそう…。
「ごめんね…」 小さく頭を下げる咲。
「あの時は本当にごめんね。どうかしてた わ。ずっと謝りたかった」
うつむきながら謝る咲から目が離せない。
「あ……いや大丈夫」 絶対許さないつもりだったのに。
さっきまで震えていた手も自然に止まり 自分が発した言葉に呆然とした。
咲が謝って来るのは 予想外だった。
今でもまだ恨まれているのかと思っていた よ。
何度も何度も謝る咲に 怒りが沈まってゆく…。
「もう気にしないで。過去の話だから……」
「ごめん。ずっと心残りだったんだ。あの 時の私かなりバカだったね…」
人って 変わるものだ。
「さ…さっき一緒にいた人彼氏??仲よさ そうだったね!!」
重苦しい雰囲気を変えようと 必死に話題を変える。
「うん、彼氏~…」
「幸せそうで羨ましいなぁ~!!あははぁ」
「…ヒロとは順調?」
ヒロ…。 久しぶりに聞く
懐かしい響き。
でも 動揺したりしない。
「別れちゃったぁ~」
「そっか…」
心なしか 咲のお腹がポッコリと大きいように見え た。
「あれ??お腹……」 お腹を
ゆっくりさする咲。
「彼氏との赤ちゃんお腹にいるんだ!」
「…そっかぁ…元気な子産んでね」
「本当ごめんね…」
「……もういいって」 謝る咲にそっけない態度をとり、
喫茶店を出た。
八つ当たりなんて
…最低だ。
学校へと走る。 咲に赤ちゃんがいるって知った時、
神様は不公平だと思った
咲は美嘉が流産したなんて知るはずもない から。
赤ちゃんの話をしながら見せた咲の幸せそ うな顔が頭から離れない。
誰だって大好きな人との赤ちゃんは 大切でかけがえのない宝物。
それを失った美嘉は どうしたらいい??
もうその宝物を手に入れることは できないかもしれない。
小さな手 握ってあげることはできないかもしれな い。
ずっと 封印してきた。
【赤ちゃんはもう出来ないかもしれない】 医者の言葉が
今になって苦しめる。
自分がすごく 虚しい人間のような気がした。
学校に着きガラーンンとした教室に入り、 机の中から忘れた携帯電話を取り出した。
チャイムの音が 痛いくらいに耳に響く。
気付けば足は図書室のへと向かっていて、 誰もいない静かな図書室のイスに腰をかけ た。
明日から春休みだから、部活動をしている 生徒の声さえ聞こえない。
おもむろに携帯電話を開き… かけた番号はヒロの PHS。
登録はしていない。 だけどなぜか指が覚えてしまっているの。
ズルイのは わかってる…
ヒロはもう違う人を愛してるんだ… だけど
指が勝手に動いてる。
自分勝手で未練がましくて弱い。 こんな自分が大嫌い。
『おかけになった電話番号は現在使われて おりません』
電話ごしで淡々と流れるアナウンス。 もしも電話が繋がっていたらヒロはどうし
てた?
携帯電話を 床に投げつけた。
繋らないのなんて わかってたよ。
でもなんでだろう。 涙が止まらない…。
ヒロの幸せを 願ったはずなのに。
美嘉もいつか 幸せになれるのかな??
誰もいない静かな学校をとぼとぼと出た。 明日からは春休みだ。
夏休み中はイズミとカラオケに行ったり、 クリスマスパーティーをしたメンバーでド ライブをしたり、 ヤマトの部屋に集まってゲームをしたりして 毎日を過ごした。
こんな感じで春休みはあっという間に終わ る…。
冷たかった風も次第に暖かくなり 雪溶けの下からふきのとうが顔を出す。
桜咲く進級の季節
春。
もう高校三年生。 学校の中でも
1番先輩だ。
三年生はクラス替えがないから、 アヤとイズミとヤマトとシンタロウとまた一年一緒に過 ごせると思うと嬉しい。
三年生にもなると全ての学校行事が
“最後”になる。
━高校三年 1 学期
「進路希望調査するぞ」 先生が
進路調査の紙を配る。
来年の今頃にはもう高校を卒業してここに はいないんだ。
本格的に進路を決めなければならない。 どうしよう…。 一年生の時に進路希望を書いた時、
○×音楽専門学校を希望した。
ヒロも美嘉も音楽が好きだから一緒に行こ うねっ…て約束したんだ。
別にヒロと同じ学校に行きたいわけじゃな いよ。自分が行きたいだけっ。
バレバレの 言い訳をする。
“〇×音楽専門学校 希望”
そう書いて 提出した。
「進路どーすんの?」
前の席の ヤマトが振り向く。
「予定専門学校!!ヤマトは??」
「俺は迷ってんだけど、働くつもり~」 ヤマトは働くつもりかぁ。偉いなぁ。 頷きながら一人で関心していると、
ヤマトが続けた。
「そう言えばもう少しでゴールデンウィー クじゃん?みんなで遊園地行こうってシンタロ ウと話してたんだけどどう?」
「遊園地?!」 身を乗り出す。
「そう、俺とシンタロウとイズミと美嘉と優さんと ケンさん。美嘉が呼びたいならアヤも呼んでい いし。帰りは近くの温泉に一泊しようって 話♪」
「え~行きたいっ!!」
「よしっ、じゃあ計画立てとくから楽しみ にしとけ♪」
遊園地に温泉…。 大嫌いな勉強も旅行のことを考えると頑張
れる。
友達と旅行に行くなんて初めてだし!!
計画は着々と進み、 ゴールデンウィークに入た。
旅行前日 わくわくしながら
化粧品や服を大きめのかばんに詰める。
あまりに楽しみで寝付けないまま朝が来 た。
「お母さん~今日遊園地行ってくるから ぁ。泊まりで!!」
朝ご飯を食べながら さりげなく言う。
「あら、気をつけて行きなさいよ」 お母さんは外泊くらいは慣れてしまったみ
たい。
高校に入ったばかりの頃は、 泊まるなら連絡をちょうだいだとか門限は
9 時だとかうるさかったのに…
「行ってきま~す!!」 テーブルに置いてあったオレンジジュース
を一口飲み家を出た。
まだ夏前なので 涼しい風が少しだけ肌寒く感じる。
しかし、 眩しく照り付ける太陽がもうすぐ来る夏を 予感させていた。
家の前には二台の車。
前には白い車 後ろにはシルバーの車。
何も考えず シルバーの車に乗り込んだ。
運転手はケンちゃん。 そして助手席にはアヤ。
「ごめん二人の邪魔しちゃって…」 後ろに乗り申し訳なさそうに頭を下げる美
嘉。
「邪魔じゃないって!シンタロウ達がたまたま優 の車に乗っただけだよ~」
「そうだよぉ!気にしないの♪」 優が運転する車はクラクションを鳴らし、
動き始めた。
それに続き ケンちゃんの運転する車が後をつける。
遠い道のりを走り、
2時間くらいで遊園地に到着し車を降り た。
「お~美嘉ちゃんおはよ~!」 美嘉の頭を
くしゃっと撫でる優。
「優さんおはよっ!!」 美嘉はペコッと
頭を下げた。
そんな二人を見て イズミとヤマトとシンタロウがニヤニヤと笑ってい る。
美嘉はその視線に気付き三人に向かって舌 を出した。
ゴールデンウィークなだけあって、 遊園地は人!人! どこも人だらけ!!
「ありえね~この混みかた」
「並びすぎぃ~」 シンタロウとアヤが汗を流しながら
イライラしている様子。
「ゴールデンウィークやししゃーないな ぁ!」
優はそんな二人を なだめるように言った。
「私あれ乗りた~い♪」 イズミが指をさしたのは、“ハリケーン”と言
う名のジェットコースター。
「俺絶叫系苦手なんだけど!」 ヤマトの顔色が変わる。
「美嘉もぉ……」
「大丈夫♪そんなに怖くないって!」
…大丈夫、そんな怖くないって! イズミの言葉を信用したのは大きな間違いだ
った。
「ねぇ、本当大丈夫?!やばそうだよね!?」
絶叫系が嫌いだと言っていたヤマトに 同意を求める。
ヤマトは青ざめた顔をしてもはや美嘉の声な ど聞こえていないようだ。
そんなことをしているうちに順番が来た。 真ん中あたりの席に座り安全バーを降ろ
す。
ピーッとなる笛の音と共にジェットコース ターは動き出した。
ガタンガタンガタン…
ゆっくりと上がる音が 怖さを増す。
高所恐怖症の美嘉はこの状況から現実逃避 をするため目をぎゅっと閉じるしかなかっ た。
頂上が 近付いている予感…。
一瞬止まり、 体がふわっと浮いたようになった瞬間ジェ ットコースターは一気に下降。
「最高~♪」
「イェーイ!」
「楽しい~!」
優とシンタロウとイズミの楽しそうな声が聞こえ る。
「ギャアァァァ!」
「うぉ~!」
アヤとケンちゃんの 叫び声も聞こえる。
美嘉はあまりの恐怖に 声すら出せずにいた。
ヤマトの声も聞こえないと言うことは、 きっと同じ状態だろう。
ジェットコースターが一回転した時には、 意識がなくなったか…と思うほどの衝撃。
終わって元の位置に戻った時には半分失神 状態で
イズミにもたれながら立ち上がったのだけは 覚えている。
「美嘉とヤマト大丈夫?」
「無理させちゃってごめん~…」
シンタロウとイズミが心配そうに顔を覗き込む。
「美嘉は大丈夫!!ヤマトは??」
「俺もどうにか…」 寝不足でジェットコースターに乗ったため
気分が悪い。
少し休みたい… しかし来たばかりで言いにくい雰囲気。
再び列になって ぞろぞろと歩き出す。
次に並んだのは お化け屋敷だ。
ジェットコースターも苦手だけど、 お化け屋敷も苦手。
遊園地はむいていないのかもしれない…。
イズミとシンタロウとヤマトの三人が先に入って行 く。
次は美嘉とアヤと優とケンちゃんの四人だ。 そして順番が来る。 中は真っ暗で遠くにはぼんやりとした光。 それにくわえ
不気味な音楽。
遠くではイズミ達の叫び声が聞こえる。
その時… いきなり天井から骸骨みたいな物が
転がってきた。
「キャー怖いー!」 高い声で叫びながらケンちゃんに抱き付くア
ヤ。
美嘉は足が震えてその場を動けなかった。 アヤのように女の子らしく怖がる余裕はな
い…。
次々に出てくる仕掛け。恐怖のあまり 泣いてしまった。
「大丈夫か?」 優が隣で
声をかけてくれる。
歩くのが遅かったのせいか、 アヤとケンちゃんは先に行ってしまったみた い。
「全然平気だもん……」
心配をかけないようにと平気なふりをした が、 震える体はその言葉が嘘だということを証 明している。
「掴まってええで!」
優のシャツのすそを ぎゅっと握った。
こんな時普通なら 手を握ったりするのかな
でも、 なんとなく繋げない。
これってまだ、 あの人を忘れられてない証拠なのかなぁ。
未練たらしい女………。
優が美嘉の想いに気付いてくれたのかはわ からないが、 何も言わずに前を歩いていてくれた。
ゴールの光が見えた時、掴んでいたそでを パッと離した。
掴んだ部分が少し伸びてしまっている。
「優さんありがとぉ…」
「なんもやって。気にせんときぃ!」
お化け屋敷に入りテンションの上がったアヤ は、 ぴょんぴょんと跳びはねながら言った。
「次ぃ~バイキング乗ろうよ♪」
バイキング。 船が左右に激しく揺れる乗り物。
…無理っ!! ただでさえ気分が悪いのにあんなのに乗っ たら吐くかも…。
でもせっかくの楽しい雰囲気を壊すわけに はいかない。
なるようになれ!!
開き直って歩き始めたその時…
「美嘉ちゃん借りてってえぇか?」 優が美嘉の手を引き、
みんなの輪から離れた。
「どうぞ~♪」 イズミとヤマトとシンタロウがニヤニヤしながら
見つめている。
優は美嘉を近くにあったベンチに座らせ、 いなくなってしまった。
わけがわからない状況に途方に暮れていた 時…
「おまたせ!」 優は冷たい缶ジュースを美嘉のほっぺにあ
て、 隣に腰を降ろした。
美嘉は缶ジュースを受け取り不思議な顔で 問う。
「あの………??」
「無理はあかんって。具合良くないんや ろ?」
「えっ、なんでわかったの?!」 優は驚く美嘉のおでこに手をピタッとあて
た。
さっきまで缶ジュースを持っていた優の手 はひんやりとして気持ち良い。
「熱はないみたいやな!顔色悪いからすぐ わかったで~」
みんな 気付いてなかったのに。
「……ありがと。優さんには助けられてばっ かりだねっ!!」
もらった缶ジュースを開け一口飲む。 気分の悪さが少しずつ消えてゆく気がし た。
優は自分のひざを 両手で叩く。
「横になってええよ!」
膝に寝るくらいなら いいよね。
優の膝にごろんと横になり下から顔を見上 げた。
「ってか普通逆だよね!美嘉が膝枕するほ うだよね!!」
「せやな!」
周りからは子供やカップルの楽しそうな笑 い声が聞こえる。
そんな中、 優の膝枕で寝ている。
なんか変な感じ。 優はひざの上に寝ている美嘉の目を
ジーッと見つめている。
「……ん??」
「茶色くて綺麗な目やな~と思って!」 褒められることに慣れてない美嘉は
慌てて言い返す。
「優さんのほうが茶色で綺麗だしっ!!」
「おだて上手や!美嘉ちゃんなんか時々寂 しそうな目する時あるよなぁ」
「寂しそうな目??」
「遠くを見るような…ほんま一瞬やけどた まにあるで!」
「自分じゃ気付かないけどなぁ……」
優に気持ちを見透かされているような気が して目をそらした。
優が話す言葉は、 一言一言が奥深い。
この人は今までどんな恋愛をして来たんだ ろう。
ちょっと気になる…。
気分も治り 再びみんなと合流。
日が落ちるまで存分に楽しみ 遊び疲れたところで温泉へ…。
部屋割りはもちろん 美嘉・アヤ・イズミの女グループだ。
部屋に荷物を置き 浴衣に着替え夕飯を食べに行く。
お腹いっぱいになったところで 次はメインの温泉。
「お風呂行こ~♪」 タオルを振り回すイズミ。
「あたし昨日からアレで入れないんだぁ…」
「「残念~↓↓」」 アヤを部屋に残し
二人はお風呂に向かった
脱衣所で恥ずかしげもなく服を脱ぐ。
「広い~!!」 お風呂は全部で五つ。
水風呂・泡がボコボコと出ている風呂・寝風 呂・薬湯風呂・露天風呂。
「露天風呂行こうか♪」 子供みたいにはしゃぐイズミを見て美嘉の気
持ちも高まり、 騒ぎながら露天風呂に入るため外に出た。
運よく露天風呂は美嘉とイズミだけ。
二人はお風呂へ 飛び込む。
「貸し切り~っ!!」 足をバシャバシャさせながら
大声を張り上げる美嘉。
「ねぇねぇ、隣男湯の露天風呂かな?なん かシンタロウ達の声聞こえない?」
二人は動きを止め 耳を澄ませた。
「ヤマト隠すなって」 シンタロウの声だ。
美嘉とイズミは顔を見合わせて笑う。
「ちょっ…タオル取んな!あ~優さんまでや めて下さいよ!」
ヤマトの声。
「誰も見てへんって!」 この関西弁は優。
そして大笑いしてるのがきっとケンちゃんの 声だ。
「あいつらバカだね~!でも楽しそうだね
♪」
「仲良しだね!!」
「優さんもケンちゃんも年上ぶらないし話し やすい♪あ~来て良かった!」
美嘉は 大きく頷いた。
“来て良かった”
その通り。 本当に
来て良かった。
イズミは小さくたたんだタオルを頭に乗せ、 ひそひそと話し始めた。
「優さんとはどう?!」 イズミの真剣な眼差し。
どんな答えを期待しているのか…。
「ど…どうってなんもないよ!!」 唐突な質問に
声がうわずる。
「好きになりそうとかないの?!」
「まだわからないなぁ~↓↓」 イズミはキョロキョロと辺りを見渡し誰もい
ないことを確認すると 再び話し始めた。
「今日車の中で優さんに美嘉のことどう思 う?って聞いたらカワイイしほっとけない って言ってたよ♪」
動揺する心。 しかしすぐに冷静さを取り戻す。
「妹みたいだからだよ~5 歳の妹に似てる らしい!!」
「でもでも~少し考えてみたら?これから 何回も遊んでみてさ♪優さんなら私安心出 来るし。美嘉には幸せになってほしいもん! ね?」
強引なイズミには 負けてしまう。
「……わかったぁ!!」
優が優しくしてくれるのは 美嘉が妹に似てるから。
確かに恋はしたい。 でも辛い恋はもう…。
優はヒロに似ている。 例えば背が高いところ。声が低いところ。 頭を撫でるタイミングや子供みたいに無邪
気な笑顔が…。
だから優とヒロを重ねてときめいたりする 事もある。
でもそれって 恋とは違うと思うんだ。
ヒロはヒロ。 優は優。
似ていても別の人間。
似ているからこそ 恋に発展するのが怖いのかもしれない。
これからは、
“優”という一人の人間を見よう。
長話をしていたせいでのぼせてしまい、 露天風呂を出た。
体や髪を丁寧に洗い 浴衣に着替えて出る。
ちょうどお風呂から出て来たヤマト達と 鉢合わせをした。
優と一瞬目が合ったが、露天風呂でイズミと 優の話をした手前照れくさい。
美嘉は目線を 地面へとずらした。
別に告白されたわけでもないのに、 何意識してんだろ…。
変なの。
「お~浴衣セクシー♪」 いやらしい目付きで二人を見るヤマトの足を
強く踏み付けた。
「セクハラヤマト!!」
「さっき露天風呂でみんなの声聞こえたよ
♪」
イズミの言葉に ケンちゃんが思い出し笑いをしている。
「ヤマトってアレが…」 何かを言いかけたシンタロウの口を
ヤマトが両手でおさえる。
「聞きたいぃ♪」 興味深々のイズミ。
「みんなアホや!な?」
優は美嘉に 同意を求めている。
「そっ…そうだね!!」
なるべく意識をしないよう平然を装って答 えた。
指で美嘉の腰あたりをツンツンと突き、 ニヤニヤしているイズミ。
そんなイズミの二の腕を軽くつねり舌を出し た。
「るせ~!シンタロウ!」 熱くなるヤマトにケンちゃんが軽く止めにはい
る。
「まぁまぁ。楽しくしよう~」
「さっき美嘉と言ってたんですよ~旅行来 て良かったねって♪」
イズミの一言でその場の雰囲気が明るくなっ た。
「計画立てたかいがあったわ」 満足げな顔のシンタロウ。
「俺もやわ!」
「俺も♪」
「俺も~」
優に続きヤマトとケンちゃんも頷いた。
部屋に戻り、 今日一日で遊び疲れてしまったのか布団に 入ってすぐに眠りについた。
夢を見ていた。 真っ暗闇の中、
座り込んでいる美嘉に大きな手を差しのべ てくれる人がいる。
その手につかまって立ち上がり、 ゆっくりと歩き始めた。
歩き始めるにつれ、 真っ暗闇だった世界は少しずつ明るくなっ ていき…
先は見えないけれど、 何かに向かって歩いている。
そんな夢。
美嘉を導いてくれたあの大きな手は 誰だったのだろうか…。
「起きなさ~い!」
アヤに体を揺すられて 無理矢理起こされる。
「ん…‥もう朝??」
「バリバリ朝♪イズミちゃん朝風呂に行っち ゃった真っ直ぐ朝食会場に行くって♪」
寝癖を水で直し、
はだけた浴衣から服に着替える。
部屋を出て朝食会場に向かうと、 すでにみんなは集合していた。
「「おはよう~…じゃなくておそよう♪」」 みんなからの嫌みったらしい挨拶に耳をふ
さぎ、朝食のバイキングを胃が痛くなるま で食べた。
「帰りたくな~い…」 部屋に戻り荷物を詰めながら
イズミが名残り惜しそうに言う。
「「だよね~!!」」 美嘉とアヤは声を揃えて
返事をした。
一通り荷物をまとめ、 楽しい思いを残したまま部屋を出てエレベ
ーターを降りる。
外には白とシルバーの二台の車が すでに止まっていた。
行きと同じくケンちゃんが運転するシルバー の車に乗ろうとした時…
「美嘉はこっちの車でしょっ♪」 イズミは美嘉を半強制的に優が運転する白い
車まで連れて行き、 助手席に乗せた。
変に気を使わなくてもいいのに…。
“また来ようね”
そう約束をし 車は帰り道へと動き出した。
「優さんってどんな人がタイプなんです か?!」
車の中、 イズミが身を乗りして問い掛ける。
「気になる~」
「俺も俺も~!」 シンタロウとヤマトも興味深々。
美嘉は冷やかされないよう窓のほうを向い て景色を眺めながら 聞こえないふりをした。
「俺タイプとかないな。好きになった人が タイプやしなぁ~」
運転に集中しつつも優は笑いを交えて答え る。
曖昧な答え。
「年上が好きとか年下が好きとか!何系が 好きとかないんですか!?」
イズミが何か情報を得ようと必死に聞き返 す。
おそらく美嘉と優をくっつけるために…。
「年下が好きやなぁ。付き合った人は年上 やったけど!」
ミラーごしに見えた優の顔が一瞬曇ったよ うに見えた。
悲しそうな悔しそうな
…そんな表情。
しかしその表情はすぐに消えいつも通りの 顔に戻った。
2時間の道のりを走り それぞれの家の前で一人づつ降りていく。
1番家の遠い美嘉が 最後だ。
「優さんありがとう♪美嘉学校でね~!」 二番目に家の遠いイズミを見送り、
車の中は二人っきり。
変に意識するのもおかしいから 普通に接しよう…。
「旅行…楽しかったですねっ!!」
車内に鳴り響く音楽の音に負けないくらい の大声で話す。
優は前の車を気にしながら音楽のボリュー ムを下げた。
「そうやな~ってか語使わなくてええよ!」 信号で車が止まり
優がこっちを向いて微笑む。
「じゃあ使わな~い!!優さんも美嘉って呼 んでよ!!」
「じゃあ~美嘉って呼ぶな。美嘉も優って 呼んでな!」
「年上だから言いにくいなぁ………」
「じゃあいつか呼んでくれたらええよ♪」
そんな会話をしながら 車は着々と家の方向に近付く。
改めて見るハンドルを握る優の姿が妙に大 人っぽく見えて、 言葉では言い表せないような熱い気持ちを 感じていた。
「今日はお疲れ。また遊ぼうな♪」
「あっ…またねぇ」
優が今までどんな恋愛をしてきたか
…聞きたかった。
でも、 さっき一瞬見せた表情を思い出すと聞いて はいけない気がしたんだ。
楽しかったゴールデンウイークが終わり、 また学校が始まる。
三年生にもなると、 卒業が間近なこともあって暇があれば進路 の話ばかりだ。
“○×音楽専門学校” ここ以外に
行く気はない。
ある日、 担任の先生から職員室に呼び出された。
「失礼しまぁ~す」
職員室のドアを開ける。
職員室は嫌い。 煙草やコーヒーが混ざった独特なにおいに 胸がムカムカするから。
「お~いきなり呼び出してごめんな!」 煙草の煙を吐き出す
担任の先生。
「ゴホゴホ…なんですか??」 煙にむせながらも呼び出された理由を急
ぐ。
先生は煙草を灰皿にぎゅっと押し付け火を 消すと
進路調査表を見ながら話し始めた。
「専門学校希望か?」
「……まぁ」
「大学に行く気は?」
「ないですけどぉ~…」
「先生は大学に行くべきだと思うぞ。美嘉 英語得意だろ?卒業しても英語勉強してい けば将来役に立つぞ!」
一見聞くと美嘉の将来を心配して大学をす すめてくれているようだが、 自分のクラスの生徒が専門学校に行くより も大学へ行ったほうが担任の株が上がると いうことを知っている。
大学に行くのが 嫌なわけじゃない。
英語を勉強するのが 嫌なわけでもない。
大人にはわからないこの微妙な気持ち…。
【好きだった人と昔行く約束してたから】 なんて言っても
大人は笑うんだろうなぁ…。
「今のところ、○×音楽専門学校以外は考え てませ~ん」
先生の説得に負けないようキッパリと言い 放ち、残念そうな先生を尻目に職員室を出 た。
授業が終わり、 いつものようにヒロとミヤビが手を繋いで帰 って行く姿を確認してから学校を出る。
わざわざ確認するのは、二人の姿を見たら 今でもまだ悲しいから…??
そうじゃない。 美嘉が二人に偶然会ってしまえば、
確実に気まずい雰囲気になる。
それが原因で二人が喧嘩になって万が一別 れたとかになったら…。
だから二人の帰りを窓から見送る。 それが毎日の日課。
最近 涙を流さなくなった。
泣いても何も解決しないことに気付いたか ら。
泣いたら確かに気持ちがスッキリする。
だけど前に進めるわけではない。 だからあまり涙を流さないことに決めたん
だ。
そんなことを言いながらヒロと約束した専 門学校を希望したりして…。
もう付き合うことはなくてもどっかで繋が っていたいと思っている自分がいる。
………矛盾。
最後の高校生活は早いものでもう夏休み。 夏は海に行ける
大好きな季節♪
楽しい夏休み が始まる。