「映画行きたいとか言われてたらあせった なぁ~…映画館で叫んどったかもしれへん な!」
「でもあのシチュエーションはずるいよ… 夕日沈む頃に海なんてさぁ…」
改めて思い出すと、 感動がよみがえる。
悲しいわけじゃないのに涙が流れる。 嬉し涙?
感動の涙? 安心の涙?
それともヒロを忘れる 決意の涙…?
優は後ろから 涙を指先で拭き取る。
「強がりかと思えば今度は泣き虫か?」 そう言って笑う優の顔。ヒロとは違う男の
顔。
似てると思っていた頃がまるで嘘のよう に、
面影さえ 感じられなくて…。
優の冷えきった指先を 両手で包み込み温めた。
「あったかい??」
「あったけ~これが幸せってゆうんか な?」
首を曲げて左のほっぺを優の手の平にくっ つけると、 優は右のほっぺに軽くキスをした。
「昨日ごめんな。付き合ってないのにあん なことしてもうて…」
「…嬉しかったよ!!」
優は美嘉のほっぺに何度も軽いキスをし、 優の唇が触れた部分だけがほんのりと温ま っていた。
夕方よりも 寒さを増す海。
でもまだ 離れたくない。
優は自分のコートを美嘉に巻き、 後ろからきつく
抱きしめていた。
昨日よりも 胸の鼓動が早く大きい。
優も… 優も同じかな??
優の唇が 目の横や首に触れる。
寒さも忘れるくらいに 体が熱い。
「星綺麗やで! 見てみ?」
耳元で聞こえる優の声。言われるがまま 上を向く。
瞬く星空が見えた瞬間、昨日のように優の 髪が美嘉のほっぺにかかり…
それと同時に 二人の唇が触れ合った。
優しいキス。 震える手をそっと握る。
波の音だけがリアルに耳に響いている。 いろんな気持ちが混ざり合い…
再び涙が溢れた。
ヒロのこと 忘れられるよね?
優のこと信じるんだ…。
唇がゆっくりと離れた時優の顔を見ること が出来ずうつむいた。
「照れとるん?」
「だって…しょうがないじゃんっ!!」
「怒るな~今日何回泣いた?泣き虫!」
「誰のせいで泣き虫になったと思ってん の!!」
立ち上がろうとした時、制服のポケットか ら何かが転がり落ちる。
…ヒロから貰った指輪。 別れてから、
ずっと制服のポケットにいれたままだった のだ。
優はそれに気付き 指輪を拾い手に取った。
「元彼との指輪か?」
「うん……」
何で今さら 出てくるんだろう。
落ちた指輪が 美嘉に何かを告げようとしている気がした んだ。
でもそれが何か 今はわからない…。
「大事なもんなんやろ?しまっておきぃ」
優は指輪を
制服のポケットにそっと入れる。
「優さん…ごめんね」
「なんで謝るん?俺はそれでもええって! 美嘉は俺のこと好きか?」
少なからず 優に惹かれていた。
最初は優とヒロがどことなく似ていて… それで優は少し気になる存在だったんだ。
だけどいつの間にか一人の男として見てい たのかもしれないね…。
「………好き」 優は美嘉の頭の後ろに手を回し、
自分の胸元へと引き寄せて抱きしめる。
「でも二番目やんな?」
“1番好きだよ” そう言ってあげたい。 でも…。
「いつか俺が美嘉の1番の男になってみせ るわ」
優は美嘉の返事を待たずに抱きしめる手を ほんの少しだけ強めた。
「ほな、風邪引いたら困るからそろそろ戻 るか。美嘉の親もきっと心配しとるしな!」
二人の体はそっと離れ、手を繋いだまま 車へ戻った。
優が助手席のドアを開け美嘉が座ったのを 確認してからドアを閉める。
こんなこともこれから 当たり前になるのかな。
美嘉は優の
“彼女”になったんだ。
そして優は美嘉の
“彼氏”なんだね。
家の前に到着。 海から家の前までの道のりは長く感じ…
その間二人は 一言も会話を交わさなかった。
きっと二人とも 今日一日の出来事を 思い返していた。
窓にうつる優の顔を 何度も何度も 見ていたんだ。
ラジオから流れる音楽だけが車内に静かに 響いていた。
「優さんありがとう、またねっ!!」 優から目をそらしたまま車から降りて手を
振る。
車は少し動いたがすぐにブレーキをかけ 止まったと同時に運転席の窓がゆっくり開 いた。
「美嘉は今日から俺の女やんな?」
窓から顔を覗かせる優に見えるよう 美嘉は両手で大きく丸を作って飛び跳ね る。
「ほな俺のこと優って呼ばな罰ゲームやか ら!」
そう言い残し クラクションを二回鳴らし去って行った。
「ただいまぁ!!」 大きな声で叫び、
そのまま部屋のベッドに飛び込む。
優から貰ったかすみ草の束を握りしめ、 昨日と今日の出来事を思い出した。
かすみ草買うの恥ずかしかっただろうな。 今日車の鍵を指でくるくる回してたのは
告白するつもりだったから緊張してたのか な?
布団に顔をうずめ 声を押しころし笑った。
「あ…アヤに電話するって約束したんだっ け!!」
突然思い出し、 カバンから携帯電話を取り充電器をつけな がらアヤに電話をかける。
♪プルルル♪
『は~い遅かったね♪』
電話を待ちわびていた様子のアヤ。
『ごめぇん。今帰って来たんだぁ~…』
『優さんとどうなった!?』 よくぞ聞いてくれた。
顔がにんまりしてしまう
『…付き合うことになったぁ!!』
『マジでぇ!?やったじゃん♪おめでと♪っ てかあたしもケンちゃんに告ったよ!』
アヤからの衝撃的告白。
『え~っ!!どうだった!?』
『Ok もらったぁ♪』 同じ日に違う場所でも
新しい幸せが生まれてたと思うと喜ばし い。
『アヤもおめでとぅ!!』
『えへ~ありがと♪あたし達って同じ日に 付き合うこと多いよね!前もあたしがノゾム に告った日に美嘉とヒロ君付き合ったよね
♪』
今はなんとなく聞きたくなかったヒロの名 前…。
『あ…ごめん…』 それに気付いたアヤは
申し訳なさそうな声を出した。
『…なんも大丈夫だってぇ!!明日学校でゆ っくり話そうっ。』
アヤも前に進み始めた。 そして美嘉も
確実に前進している。
「美嘉お風呂に入りなさ~い。」
居間から聞こえるお母さんの叫び声で、 部屋を飛び出た。
ずっと外にいたせいで冷えてしまった体を ミルク色の湯舟で温める。
優の唇 暖かかったな…。
唇を指でそっと撫でたがすぐに我に返り 恥ずかしくなった。
ファーストキスでもないのに 何思い出してるんだろ。 バカみたい。
湯舟に思い切り顔を沈めプハーッと顔を上 げた。
つい最近までは一人になると思い出すのは 決まってヒロのぬくもりだった。
だけど今思い出しているのは…。 ぬくもりや名前を呼ぶ声思い出しているの
は…。
絶対に忘れられない恋をして、 もう立ち直れないと思っていたのに…
どんなに辛くても苦しくても忘れられずに いたあの人のことを、 時間と新しい出会いが確実に消し去ってく れている…。
前に見た夢を 思い出した。
美嘉を立ち上がらせて暗闇から光へと導い てくれたあの大きな手。
あの手は 優だったのかな…。
美嘉は前へ進むよ。 少し遅くなったけど… 時間がかかったけど…
信じてみる。 ヒロではないあの人を。信じてみるんだ。
人間って不思議だね。