「おはよ~ぉ!!」
いつもより元気に 教室に入る。
「待ってました♪」
「優さんと付き合ったってマジ?」
「詳しく教えろ!」 イズミとヤマトとシンタロウが答えを急かすように
近寄って来た。
その後ろで両手を合わせ謝っているアヤ。 アヤ…
みんなに話したな…。
「ま…まぁね!!」 付き合ったことはいずれ話すつもりだった
けど、こんなに早く 知られるとは…。
「おめでとう♪」
「優さん人気あるんだぜ~。アヤも美嘉も彼 氏ゲットだな」
自分のことのように祝福してくれるイズミと シンタロウ。
「昨日優さんちに泊まりだったもんねぇ♪」 アヤの言葉に
ヤマトが反応した。
「じゃあもしかしてもうヤッた!?」
「俺は~ヤッてないに 1000 円」
「私もしてないに購買のパン!」 シンタロウに続き
イズミが賭ける。
「あたしは途中までにジュース一本♪」
「俺はヤッてないに 500 円だな!」 それをマネして
アヤとヤマトも賭け始める。
まったく こいつらは…。
「「どうなの!?」」 みんなの声が揃った。
「……秘密ぅ~!!」 美嘉は意味深な笑いを残して席についた。
昨日家の前で別れてから優から連絡が来て ない。
いつもなら遊んだ後に必ず《着いたか~?》 とか
《また遊ぼうな♪》 ってメールが来るのに。
なんかあったのかな。 心配だな…。
美嘉と優について
しつこく討論をしているイズミ達。
先生が教室に来て 授業が始まった。
机に顔を伏せながら つまらない授業を受けていた時…
♪ブーブーブー♪
ポケットの中で震える携帯電話の振動が体 中に響き渡り、 先生の目を盗んで携帯電話を開いた。
着信:優
…優だ。
「先生~トイレに行って来まぁす!!」 大声で叫び
席を立ち上がって教室を出る。
電話はすでに鳴り止んでいて、 廊下で優に電話をかけ直した。
♪プルルルル♪
『おー!』
『今授業中だったんだからぁ~!!』
『ごめんな。昨日別れた後ケンから電話来て、 飲もう言われてサークルのメンバーで飲ん でたから連絡出来へんかった!』
まだ少し酔っているのか早口で話す優。
『サークルって優さんの大学の??』
優はしばらく 沈黙を続ける。
『優さんって言うたから教えられへんわ ぁ~』
『ゆ…優の大学の??』 初めて呼び捨てで
名前を呼んだ。 そのせいで顔が熱い。
『そうやで~大学のサークル!』 美嘉の気持ちを知るはずもない優は
落ち着き払っている。
『大学いいなぁ~サークルとか楽しそ う!!』
『来るか?』 優の提案が
心を弾ませた。
『え~っいいの!?』
『ええよ!じゃあ今日迎えに行くな。ケンも 同じサークルやしアヤちゃんも連れて来ても いいしな。』
電話を切り スキップしながら教室へ戻る。
優からの連絡… 今日も会えると思うと嬉しかった。
席につき手紙を書いて アヤに向かって投げた。
【アヤちん。今優さんから電話来て学校終わ ったら大学のサークル来ない?って誘われ たんだけど行かない??ケンちゃんもいるみ たいだよ♪返事下さい!!美嘉】
アヤはその手紙をニヤニヤした顔で読み、 すぐに返事を投げ返して来た。
【美嘉へ♪マジィ!?もちろん行く行く~♪
化粧直してから行こうね!】
昼休み。 アヤが嬉しさを隠せない顔で席に来る。
「楽しみ♪大学とか行ってみたかったんだ ぁ!」
楽しそうにはしゃぐアヤの後ろで、 盗み聞きしていた人。
それは…
「優さんの大学に行くの?俺も行く!」
…ヤマトだ。 どうやら内容を聞かれてしまったらしい。
ヤマトに聞かれたと言うことは…
「私も行きたい~♪」
「俺も~」 やはりイズミとシンタロウにも聞かれていたみた
いだ。
「じゃあみんなで行っちゃう~!?」
半ばヤケ気味。 でもみんなで行ったほうが楽しいし!!
放課後 アヤの化粧直しが終わり
列になって学校を出る。
「あの白い車優さんじゃねぇ?」 シンタロウが叫ぶとみんなはその車に
一斉に駆け寄った。
運転席から降りみんなの姿を見て 微笑ましい顔をする優。
「なんで全員集合しとんねん!」
「優さん美嘉と付き合ったんだよね?おめ でとうございまーす♪私達も大学行きた~ い!」
ぴょんぴょん飛び跳ねるイズミの問いに 優は美嘉の頭に手を乗せながら答えた。
「ありがとな!みんな車乗り~もちろん美 嘉は助手席なぁ」
今にも冷やかしてきそうなみんなの表情。 でももう冷やかされるのは嫌じゃない。
その時 視線の先に見てしまった
優の体の向こう側でこっちをじっと見てい る影。
懐かしい ヒロの姿…。
ヒロが こっちを見ている。
……一瞬目が合う二人。 隣にいたアヤも
ヒロの存在に気付いたみたいだ。
「美嘉と優さんはラブラブなんだからぁ♪」 わざとらしく
大声で叫ぶアヤ。
きっとヒロに 聞こえるように…。
その言葉が聞こえたか聞こえないかはわか らないが、 ヒロは少し寂しそうに微笑んだように見え た。
思わず 目をそらす。
玄関から出て来たミヤビがヒロのもとへと駆 け寄り
二人は手を繋いで歩いてゆく。
美嘉を心配するがゆえのアヤの行動。 それはわかってる。
でも…アヤが叫んだ瞬間、
“今の言葉、聞かれてませんように”
そう 願ってしまったんだ。
彼氏が出来たこと ヒロに知られたくなかった。
中途半端で ズルくい考え。 重い気持ち。
膨らむ優への 罪悪感。
「どないした?」
「…あっ、ぼーっとしてたぁ!!」 優の言葉で我に返る。
今は心の中で謝ることしかできない。
……ごめんなさい。
ヒロが一瞬見せた寂しげな微笑みは、 気のせいだよね。
もう戻らない足音に耳を澄ませるのは やめたんだ。
助手席に乗り込み 車は大学へと向かった。
大学へ向かう間の車内はサークルの話で盛 り上がっていた。
「優さん何のサークル入ってるんす か~?」
シンタロウが黒ぶち眼鏡の奥にある目を輝かせ て
興味津々に聞く。
「いろいろやで~!」
「例えばなんすか!?」 更に深く突っ込むヤマト。
優が 話してくれた内容…
優が入っているサークルは三つ。 一つ目は
“二輪サークル”
バイクでツーリングをしたり 旅行したりするらしい。
優がバイクの免許持っているなんて初耳 だ。
二つ目は
“旅行サークル”
夏にはキャンプを、 冬にはスノボをしたりいろんな場所に旅行 に行くらしい。
三つ目は
“飲みサークル”
名前のまま ただ飲んで騒ぐらしい。
他の大学の人とも 飲んだりするんだとか。
高校はもちろんお酒はダメだし、 部活と言えばサッカーだとか野球だとか吹 奏楽だとか…
聞き慣れたものばかり。
優の話を聞いて、 新しい世界を知ったような気がして胸が踊 った。
今から旅行サークルの集まりに連れて行っ てくれるみたい。
昨日飲んだのも旅行サークルのメンバー で、 三つのサークルの中で一番仲がいいんだっ て!!
「着いたで!」
大きな駐車場に 車をとめる。
車を降りて真っ直ぐな道を少し歩いたとこ ろで
大学が見えてきた。
広くて大きくて 綺麗な校舎。
たくさんの人の 楽しそうな笑い声。
高校とは全くの別世界。 制服の自分が
すごく浮いている。
だって、 歩いてる人は大人っぽい人ばかりで…。
そんなに歳が離れているわけではないの に、 自分が子供のように思えて恥ずかしかっ た。
「さっそく部室連れてったるわ!」 みんなは慣れない校舎にきょろきょろしな
がら優の後をついて行く。
大学から少し離れた場所にある三階建ての 古い建物に入り、 階段を二階までのぼると優は一つのドアの 前で立ち止まった。
“旅行サークル” そう書かれた紙が
ドアに貼り付けてある。
優はドアに手をかけ、 ゆっくりと開いた。
「こんちわ~!」
「あ~優じゃん♪」
「久しぶり~今日はケンちゃんと一緒じゃな いんだな!」
部屋の中からは たくさんの人の声。
「今日は俺の友達紹介しよう思って連れて 来とんねん!」
手招きする優に気付いてはいながらも、 なかなか中に
入れなかった。
「誰か最初に行って…」 不安でか細い
美嘉の声。
「あたし無理!」
「俺もダメ」
部室に入る順番を 譲り合っていたその時…
「じゃあ俺が行く♪」
先頭をきって部室に入っていったのはヤマト だ。 意外に緊張しない性格だということが判 明。
みんなはヤマトに続き、 ぞろぞろと入る。
「お~制服だ!」
「若~い♪♪♪」 部室内が騒がしくなる。
「この子がケンの彼女やから~」
優がアヤの肩に手を乗せると、 アヤは照れくさそうに苦笑いをした。
そして今度は 美嘉の肩に手を回す。
「そしてこのちっこい子が俺の彼女やで!」
部室内は 激しいブーイングの嵐。
「女子高生の彼女って~ちきしょー」
「うらやましい~」
……女子高生の彼女が うらやましい?!
大学には綺麗なお姉さんがたくさんいる。
そんな人達に囲まれながらどうして優が美 嘉を選んでくれたのか 不思議なくらいなのに。
そんなもんなのかな。
優が美嘉のことを彼女だって紹介してくれ たのがすごく嬉しかった。
みんなに歓迎されながら旅行をした時の写 真を見せてもらっていたその時…
「…美嘉ちゃん?」
背後から声をかけられ 振り返った。
そこにいたのは緊張した面持ちの、 黒くて長い髪が特徴の落ち着いた女の人。
「そうですけど……」 警戒しながら答えると、女の人は安心した
のか顔を崩して笑った。
「私ミドリ。20 歳だから美嘉ちゃんより二個 上。優からよく美嘉ちゃんの話聞いてたん だよ。思ってた通りの子だった!」
「……はぁ」 よくわからない状況に、とりあえず返答だ
けはしておく。
「昨日も優達と飲んでたんだよ!」
この言葉で 女の勘が働いた。
この人、 優のことが好きなんだ。
証拠はないけど、 なんとなく…。
「そうですかぁ……」 冷たく答えるのは
ちょっとヤキモキを焼いているから。
それでも女の人…いや、ミドリさんは続けた。
「友達になって?連絡先交換しようよ!」 優の友達だから
断るわけにもいかない。
しぶしぶ携帯電話を取り出し、 連絡先を交換した。
しかし、 ミドリさんの好きな人が優ではないというこ とを知ったのはかなり後になってからで…
そしてそのことが、 後々大きな事件になることなんて今は知る はずもない。
しばらく部室にいたが、外も暗くなったの で優の車で送ってもらい帰ることにした。
アヤの家に止まり… シンタロウの家に止まり… ヤマトの家に止まり… イズミの家に止まり… 家の遠い美嘉は最後。
でもいいの!! 優と一緒にいられる時間が長くなるから。
「どうやった?いいやつばっかりやろ!」
ハンドルを握りながら 口を開く優。
「うん!!みんないい人だったぁ。大学って 楽しいねっ♪」
今日の楽しかった出来事を思い出し、 車内に響く音楽のリズムを足で取る美嘉。
「じゃあ大学来たらええやんけ!」
優の唐突な言葉に 動きが止まる。
「…………え??」
「俺と一緒の大学に受けたらええやん。そ したら毎日一緒にいれるやろ」
でも でも美嘉は○×音楽専門学校に行くつもり で…
その気持ちは変わらないはずで…
なんの答えも出せぬまま家の前に着いた。
「じゃあまたぁ!!」 車を降りようとドアに手をかけた時、
優は美嘉の手をグイッと引っ張り自分のほ うへと引き寄せ…
そして頬を撫でながら唇にそっとキスを し、 すぐに唇を離し肩に手を回しきつく抱きし めた。
「優…苦しい…どうしたの??」
重苦しい雰囲気の中、 優は抱きしめている腕の力をさらに強め る。
「何かあったん?美嘉今日ずっと上の空や ったから。なんか少し不安になった…」
上の空。 上の空だったかな?
そんなつもりは なかったのに。
きっとその理由は ただ一つ。 ヒロに見られたから。
美嘉の中途半端な気持ちと行動が 優を不安な気持ちにさせてしまった。
優の悲しく小さい鼓動が耳に響く。 その鼓動は
早さを増すばかり。
まるで美嘉の返事をせかしているかのよう に…。
「そんなつもりはなかっの。優ごめん ね……」
優は腕の力を弱め、 ゆっくりと離れた。
「俺もごめんな。ちょっと大人げなかった な!」
そう言った優は 安堵の表情を見せた。
一瞬演技っぽく見えたりもしたけど…。
鼓動の早さが ゆっくりと戻ってく。
車から降りるといつも通りクラクションを 二回鳴らし、
車は去って行った。
車が見えなくなるまで ひらすら手を振る。
それが優に対する小さな罪悪感を少しでも 消し去るための、 唯一の方法だったのかもしれない…。
家に帰り かばんの中から進路調査の紙を取り出し た。
【○×音楽専門学校】 ここに
行くつもりだった。 ここ以外 考えたこと無かった。
今日大学に行って新しい世界を知った。 優と同じ大学もいいかもしれない…
そう思ったりもしてる。
ずっと音楽について学びたいと思っていた のに、こんなにすぐ変わるものなのかな。
本当に音楽を学びたかったから 専門学校を選んだの??
ヒロと約束したから…
その約束を守ろうとしてたんじゃない の??
どこかでヒロと偶然巡り逢えることを 期待してたんじゃないの…??
認めたくなかった。 だけど音楽を学びたいだなんてただの言い 訳にすぎなかったんだ。
進路は将来に関わる 大事なこと。
だけど… 大切な人と同じ学校へ行きたい。
【○×音楽専門学校】 進路調査に書かれた
小さな文字。
ヒロと約束した道を 消しゴムで消す。
そしてその上から 大きな文字で書いた。
【Κ大学希望】 優が通う大学。
優との道を歩むんだ。 後悔なんかしない。
ヒロと一緒に集めた学校のパンフレットを びりびりと破り
ゴミ箱に投げ入れた。
次の日 新しく書き直した進路調査の紙を担任に渡 す。
「やっと大学に決めてくれたか。頑張るん だぞ」
優の通っている大学は、実は結構レベルが 高い。
そんなことも知らずに 決めてしまった。
唯一英語だけは得意な美嘉が受ける学部は
“Κ大学外国語学部”
優とは違う学部だけど
……仕方ないか。
「アヤもイズミもヤマトもシンタロウも今日同じΚ大学 で進路調査の紙出して来たぞ」
先生の言葉に開いた口がふさがらない。
…やられた!! 全員が
同じ考えだったんだ。
高校を卒業してもみんなと一緒にいられる かと思うと、 自然に笑いが込み上げてくる。
「何一人で笑ってんだよ!?」 教室に戻ってにやけていると、
前の席のヤマトがその様子を見かねて振り向 いた。
「別にぃ~なんでもないよ~ん!!」
「なんだよ~変な奴!」
「ほっとけぇ!!」
アヤもイズミもヤマトもシンタロウもすごく大好き。 ヤマトが卒業したら働くって言った時、
感心した反面本当は寂しかったんだ。
でもまたみんな同じ大学に行けるかもしれ ない。
それがすごく嬉しいよ。
恥ずかしいから 口には出さないけどね。
優が大学に連れて行ってくれていなかった ら、
みんなそれぞれの道に進んで、 卒業したらバラバラになってしまっていた かもしれないよね…。
優に出会ったおかげで、良い方向へと歩き 始めている。
優に出会えて本当に良かったと思ってる よ。
この時期に大学を志望して推薦がとれるわ けもなく、 一般入試で頑張るしかなかった。
いつもクラスで 10 番以内に必ず入ってい るイズミとシンタロウは余裕。
クラスではほぼ平均のアヤと、 クラスではかなり下であるヤマトと美嘉は猛 勉強をせざるをえなかった。
試験は
あと約三ヶ月後の一月。 今がラストスパート。
優のスパルタ教育をうけながら、 必死に勉強をした。
いつもは面倒で寝ていた授業も、 マメにノートをとり大切なところはメモを する。
多分この時期、 一生のうちで一番勉強しただろう。
雪がちらちらと 降り始めた。
マフラーだけじゃ もう寒い季節。
今年もまたあの切ない季節がやって来た。 しかも、
高校生活最後の…。
━12 月 24 日
今日は終業式であり、クリスマスイブでも ある。
一年前の今日 優に出会った。
二年前の今日は… 思い出さない。
そう決めたんだ。
今日特別な日だから勉強を休むつもり。 ってか余裕で休むしかないでしょ!!
街ではキラキラしたイルミネーションとク リスマスソングの下で、 カップルが仲良くしていることだろう。
恋人がいない人やクリスマスの前に別れて しまった人も、
きっといるよね。
想い合ってる人と今日この日を過ごせるこ とに
感謝しなくちゃ…。
今日はもちろん 優に会う予定。
親へのアリバイも バッチリだし♪
終業式が終わり、 優の車を待つ間 みんなで教室で話をしていた。
「パーティーしてからもう一年か~」 シンタロウが窓の外を眺めな
がらしんみりと言う。
「今年はみんなそれぞれでラブラブクリス マスだね♪」
「俺いねぇし!」 イズミの嫌みな言動に、
舌打ちをしながら答える
ヤマト。
「美嘉~優さんにプレゼント買ったぁ?」
「買ってない~…優がプレゼントより料理 作って欲しいって言うからさっ!!」
アヤの問いに 美嘉はのろけを交えて答えた。
【俺プレゼント交換て苦手やねん。せやか らクリスマスにはプレゼントになんかおい しい料理作ってや!】
数日前に 優が言った言葉。
遠慮してるかな。 でも素直に受け取ろう。
「ラブラブでいいっすね~!」 ヤマトからの嫌みたっぷりの言葉を聞かない
フリしながら、 窓を覗き優の車がいないか探した。
偶然見えたのは 肩を落として玄関から出て来たミヤビの姿
ミヤビは一人。 クリスマスイブなのにヒロと遊ばないのか
な??
……どっかで待ち合わせしてるのかな??
余計な心配。 妄想に入り浸っていたその時…
「…嘉?美嘉~?」 イズミの声で
どうにか現実に戻ることが出来た。
「…ごめん!!何??」 窓の外を指さすイズミ。
「あれ優さんの車じゃない?」
さっきまではなかったはずの優の車が 校門前に止まっている。
優の車に気付かないくらい自分の世界に入 っていたんだ…。
バーバリーのマフラーを巻き、 机の横に掛けていたカバンを手に取った。
「良いクリスマスを~!!バイチャっ♪」 簡単に別れの挨拶を済ませ、
笑顔のまま階段を二段飛ばしで駆け降り た。
玄関を出て 優の車まで走る。
優は車から降り 美嘉に気付いて両手を横に伸ばした。
「ゆ~ぅ~!!」 優に飛び付くと、
優は美嘉を両手で受け止めてるくると回し
体を雪の上にポンと降ろし唇に軽くキスを した。
「苦い…大人の味がするぅ~!!」
「さっきまで煙草吸ってたからな!」
その時、 窓のほうから叫ぶ騒がしい声が聞こえてき た。
よく見れば 美嘉のクラスの窓。
イズミとアヤとヤマトとシンタロウが身を乗り出してい る。
「きゃ~ラブラブ~♪♪お似合い♪」
「学校でイチャイチャするな~」 冷やかすイズミとシンタロウ。
「俺にも幸せ分けろ~!バカやろ~!」 窓から
今にも落ちそうなヤマト。
「バカップルぅ♪」 高音を張り上げるアヤ。
美嘉と優は手を繋ぎ みんなに見せ付けるように教室に向かって 繋いだ手を上げた。
「ええやろ~見物料取るで!」
「あ~、幸せ~!!」
二人のノロけに教室からはギャーギャーと 騒いでいる声が聞こえる
二人はそれをよそに手を振って車に乗りこ んだ。
向かった先は スーパー。
今日のごちそうを作るため材料を 買いに来たのだ
今日作る料理は…
エビチリ・唐揚げ・ちらし寿司・サラダ・クリ スマスケーキだ。
あと、 クリスマスには全く関係ないが肉じゃがを 作る予定。
なぜ肉じゃがかと言えば優が前にポツリと こう呟いたから。
【最近家庭の味に飢えとる~肉じゃがとか な!】
肉じゃがを作るのは優にはまだ秘密!! もちろん
びっくりさせるため♪
海老や肉、 イチゴに生クリーム、
卵にじゃがいもなど必要な材料を買い優の 家へと向かった。
車を降り、 トランクからさっきスーパーで買った材料 たちを出す。
袋を持ち上げようとすると、優はその袋を 強引に奪った。
「女の子は荷物持ったらあかん。荷物持つ のは男の役目やから!」
こんなさりげない優しさ好きだったりもす る。
優に荷物を持ってもらいエレベーターに乗 り部屋へと向かった。
部屋に入り、
さっそく料理の準備を開始。
料理は結構得意なほうだけど、 好きな人に作ったことはないから、 実はかなり不安だし緊張しているんだ…。
肉じゃがなんてあまり作ったことないし、 昨晩徹夜で練習したけどうまく作れるかな ぁ。
まだ夕食の時間にしては早いが、 時間がかかる可能性もあるので作り始める ことにした。
「絶対キッチンに来たらだめだからね っ!!」
エプロンをつけながら強く念を押し 料理にとりかかる。
だって作ってる姿って恥ずかしいじゃん!!
エビチリもサラダもちらし寿司も作り方は そんなに複雑ってわけでもないから成功。
唐揚げは多少こげてしまったけれど 味はなかなかのもんだ。
そして肉じゃが…。
じゃが芋の皮を包丁で剥いていた時だっ た。
「…痛ぁっ……」 切った指から血が滴る。
優に声が聞こえてないことを確認し 血を水で流し再び切り続けた。
指切ったことバレたら 恥ずかしい…。
練習した甲斐あって
大成功!!
残るはメインの クリスマスケーキ。
生地を オーブンに入れる。
生クリームを泡立て、 生地が焼けたところでクリームを塗る。
苺をのせ……完成。 見た目は完璧だ。
時間かかったけど、 頑張って良かったー…
余っていた生クリームをペロッと舐めた時 重大なミスに気付いた。
生クリームが しょっぱい…。
砂糖と塩を間違ってしまったみたい。 作り直す時間も
材料もない。
多少ヤケになりながら、お皿にケーキをの せテーブルへと運ぶ。
あれ?? 優がいない。 どこ行ったんだろ。
全ての料理をテーブルに運び終えた時、 優が外から帰って来た。
「完成したん?おぉ~豪勢やな。うまそう やん!早く食いたい!」
料理が完成したのは案の定夕食の時間をと っくに過ぎた頃だった。
「いただきまーす♪」
全ての料理をおいしいと言って食べ続ける 優。
特に肉じゃが。 口に頬張りおいしそうに食べている。 練習した成果あり!!
「ほんまにうまかった。美嘉いい嫁になれ るわ!ごちそ~さん!」
こんなに喜んでもらえると心から作って良 かったと思える。
お腹もいっぱいになり、テレビを見ながら いろいろな話をした。
去年のクリスマスパーティーのこと、 遊園地に行ったこと、 優が告白してくれた日のこと…。
思えば去年優に出会った日から、 笑うことが多くなった気がする。
優は元彼に未練がある 美嘉のことを支えて来てくれた。
辛いこともたくさんあったと思う。 だけど笑顔で支えてくれたね。
優には本当に本当に 感謝しているよ。
「そろそろケーキ食べてもええか~?」
「ケ…ケーキはまだダメぇ!!」 ケーキへと伸ばす
優の手を止める。
「なんでやねん!こんなにうまそうなの に~」
だって砂糖と塩間違えちゃったんだもん。 そんなのバレたら 料理下手なんだって思われちゃうよ…。
ケーキにのった生クリームを指先で取って おそるおそる舐めてみる。
やっぱり…まずい。 こんなの
ケーキじゃないよ!!
優は美嘉のマネをして、指先で生クリーム を取り舐めようとしている。
「だめだってばぁ!!」 バレそうになり焦った美嘉は、
生クリームがついた優の指を強引に自分の 口へと運んだ。
美嘉の顔を見て フフッと笑う優。
「ん…??なんで笑ってるのっ!?」 ちょっとムッとしながら聞くと、
優は笑顔のまま唇の横を指さした。
「唇の横に生クリームつけて…ほんまに子 供みたいやなぁ」
そして美嘉の唇の横についた生クリームを 舌でペロッと舐めた。
一瞬の出来事に顔が赤くなり熱くなってい るのがわかる。
バレないよう近くにあったクッションを手 に取り
顔をうずめた。 顔をうずめたクッションからは微かに優の
香り。
人間はそれぞれの香りを持っている。 お風呂の入浴剤や、
使っているシャンプー。
タバコを吸うか吸わないかによっても、 香りは変わってくる。
人間一人一人が 異なった香りを持っているのだ。
体が優の香りを 覚えてしまった。
香水の香りではない、 優の香りを…。
クッションからする優の香りに酔いしれ、 胸の鼓動が早さを増す。
優は すぐ近くにいるのに…
香りを感じるだけでこんなにも胸をときめ かせることが出来るんだ。
……初恋をした少女のような考え。
「顔隠さんで顔見せなさい!」 クッションを
奪おうとする優。
必死に抵抗する美嘉。
だって、 きっと今恋する乙女の顔になっているか ら…。
そんな顔見せられるわけないじゃん。
それでもクッションを奪おうとする優に、 足をバタバタさせながら抵抗を続けた。
「顔見せんとケーキ食うで~?」 体の動きは止まり、
……悩む。
真っ赤に染まった顔を見られるか、 失敗したケーキを 食べられてしまうか。
究極の選択。 仕方なく抵抗を諦め
クッションを手放した。
ケーキを食べられるよりは幾分マシかな。 顔をあげると
優はとてもやさしい顔で笑っていた。
……なんだぁ。
“恋する乙女” の顔をしていたのは美嘉だけじゃなかった んだ。
だって優もね、
“恋する男”の顔をしているんだもん。
本当は嬉しくて抱き付きたいのに… 素直になれず顔をプイッとそむけた。
美嘉の左手を じっと見つめる優。
…あっ。 そう言えばさっき包丁で左手の指切ったん だ!!
バレたかな??
左手をさりげなく後ろへと隠そうとしたが 優は強引に左手を掴み、 自分の顔の前へと持っていき再び見つめ た。
「これはぁ…さっきドアに挟まっちゃっ て~…」
下手な言い訳。 こんな言い訳に優が騙されるはずがない。
優は何も言わずに 指を見つめたまま。
沈黙が 余計心を不安にさせる。
その時、 指にとても温かくて柔らかい何かが触れ た。
…優の唇。
優は傷口に キスをしている。
ほっぺやおでこや唇。
付き合ってから 優は何度もキスをしてくれた。
けれど指先は…。 それに、
普段相手がキスをしてる顔なんてなかなか 見れないもの。
でも… 今目の前で優が美嘉の指先にキスをしてい る。
すごくすごく 大切な物を扱うように、
壊れ物を扱うように そっと優しくキスをしてくれている。
そんな光景と、 指先に触れる柔らかい唇の感触があまりに 刺激的すぎて
声さえ出せずにいた。
胸の鼓動が体に響き渡り その振動で時折ビクンと体が跳ね上がる。
優の姿を見つめながら、 胸の中に飛び付いてしまいたかった。
……そんな勇気はない。 本能のままに行動できればそれはそれでい
いのかもしれないけど、 そうしてしまって嫌われたらどうしようと いう不安もある。
それに今優に抱き付いてしまえば、 優も男なんだからそれなりの行為はきっと 起こるだろう。
優とならそうなってもいいと思ってはいた けど、いざとなったら少しためらってしま う。
優の大きな手の平は、 次第に美嘉の頬へと近づいて来る…。
温かい手が顔に触れ、 胸の鼓動はよりいっそう激しさを増した。
目は閉じているはずなのに… 顔が近付いてくるのがわかる。
優が右手の中指につけている指輪が頬にち ょうどよくあたり、
ほんのり冷たい。
二人の唇が重なるまであと約1㎝というと ころで キスをしないままゆっくりと顔が離れた。
なんで。 なんでしてくれなかったの…??
されると思っていたばかりに、 されないとなると無性にしたくなってしま う。
不安げな表情で 優を見上げた。
「じらし作戦やで!」 いたずらっ子のように
ペロッと舌を出す優。
「ぷぅー意地悪っ!!」 ほっぺを膨らませ
わざとらしく怒ったそぶりを見せた。
「だって俺ばっかりキスしとるから~美嘉 からしてくれるまで待つ!」
そう言って 唇をとがらす優。
美嘉は優の頭を軽く叩いてそっぽ向いた。
「じゃあ、一生しなくていいもんねぇ~ だ!!」
自分からキスするなんて そんな勇気ないもん。
勇気があれば… とっくにしてるよ。
しばらくスネたふりをしてそっぽを向いて いると後ろから物音がしないことに気付き 後ろを振り向いた。
優の姿はない。 怒っちゃったのかな??優があんなことく
らいで怒るはずないんだけど…
根拠のない自信を持ちながらも不安にな り、 ゆっくり立ち上がって部屋を一通り見回し た。
ベッドのあたりが不自然にボッコリしてい る。
………もしかして。 布団の中に隠れて、
美嘉を驚かそうとしているんだな。
反対に こっちが驚かせよう。
音をたてないようゆっくりベッドに近づ き、
激しく布団をまくりあげた。
「優~見っけぇ~!!」 布団の中に入っているのは枕や服。
その時、
洗面所のほうから 笑い声が…。
ハッと振り向くと、 優は洗面所に座り込みながら笑っている。
「あ~っ、騙したぁ!!最低!!」 その場に倒れ込み、
床をバンバン叩く美嘉。
「美嘉は素直やな。騙された~!」 優は笑いながら美嘉のもとへ近づき、
体を起こし上げる。
さっきのようにほっぺをプクッと膨らませ 怒ったそぶりを見せると
優は指で美嘉のほっぺを突きほっぺの空気 を抜いた。
「ほんまかわええな~意地悪してごめん な!」
頭をポンポンと叩き、 笑う優。