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第十三章 二本の道.2

作者:日-美嘉 当前章节:15389 字 更新时间:2026-6-15 17:36

どんなに腹が立っても、どんなに意地悪さ れてもこの手で頭をポンポンとされたり撫 でられたりしたら、 怒りなんてすぐに消えてしまうんだ。

優の手を両手でぎゅっと握り、 部屋のライトにかざす。

「優の手って魔法の手だね!!怒った美嘉を 静めたり、涙を乾かしたりしてくれるもん ねぇ♪」

「アホか!ほんまにかわいすぎやし!」

優は美嘉のおでこにデコピンをすると、 すぐにポケットから何かを探し始めた。

「探し物??」

優はポケットから小さい箱を取り出し、 美嘉の頭の上にその小さい箱を置いた。

「これたいしたものやないけど~プレゼン ト」

「え…だってプレゼント交換苦手だって言 ってたじゃん!?美嘉なんも買ってない よ??」

その瞬間 頭から箱が落ちる。

白い箱にピンクのかわいいリボン。

「俺だけなら交換て言わんやろ。美嘉はう まい料理作ってくれて俺からしたら最高の プレゼントやで!」

予想もしなかった出来事に呆然としている と、

優は照れくさそうに頭をかいた。

「はよ開けてみ!」 ピンクのリボンを取り

箱を開ける。

箱の真ん中に入っていたのは、 シルバーのハートの横にちっちゃいダイヤ モンドがついたネックレスだ。

「うわぁ~超カワイイしっ!!」

「つけたるから後ろ向きぃ!」 優は近くにあった輪ゴムで美嘉の髪をまと

箱から取り出したネックレスをつけてくれ た。

「似合うわ!鏡見てみ」 かばんから手鏡を取り出し自分を映す。

首もとでキラリと光るハートがすごくカワ イイ。

「優ありがとねっ!!」 力いっぱいお礼を言ったが優からの返答は

ない。

「あれ?優??ありがとね!!」

…やはり返答なし。

持っていた手鏡で後ろにいた優を映すと、 少し照れくさそうに下を向いている。

美嘉は勢いよく後ろを振り向き、 さっきイジメられた仕返しを始めた。

「……もしかして照れてるの~?!」

「うっさいわ!お礼言われるの苦手やね ん!」

「じゃあいっぱい言っちゃおう~っと♪あ りがとうありがとうありがとう~!!」

その瞬間優が突然美嘉の頭の後ろに手を回 し、

自分の胸へと 引き寄せた。

優の表情は寂しげで… 低く通る声で 静かに話し始めた。

「俺はまだ指輪買ってやれる立場やないか ら…美嘉が元彼から貰った指輪を手放せる 日が来るまで待っとるからな。」

優の辛さを知りながらも今この場で指輪を 手放すことが出来ない自分が悔しくて情け ない。

ただ優の胸に埋まりながら頷くことしか 出来なかった。

温かい体温に包まれたまま時は過ぎてゆ く。

「もう 11 時過ぎか~時間経つの早いな」 雰囲気を戻そうと

明るい声で言う優。

携帯電話を開き 時間を見た。

……11 時 20 分 もうすぐ夜が明けて

クリスマス。

忘れるわけがない。 美嘉には

行かなければならない 場所がある。

「ごめん。ちょっと行かなきゃいけない場 所あるんだ…。すぐ帰って来るからちょっと 行ってもいい??」

「こんな時間にか?どこ行くん?」

「ごめん、ちょっと…」

優はそれ以上何も聞こうとはしなかった。

「俺車出したるわ!」

「大丈夫だよ!!」

「行く場所までは行かへんから。近くに車 とめておくし!」

「でも……」

「ええから!」 優の強引な説得には

勝てそうもない。

外に出ると 雪は降っていなかった。

さっきまで降っていたのか、 地面にはたくさんの雪が積もっている。

まだ誰も歩いていなくて足跡がない雪の上 を歩くのは、 なぜだか嬉しい気持ちになるものだ。

空気が澄んでいて、 景色が絵葉書のようにクッキリしている。

それぞれ家でパーティーをしているのか、 まわりは耳が痛いくらい静かで車の音さえ 聞こえない。

息をするたびに口から出る白い息が、 寒さを物語っている。

街ではたくさんのカップルがホワイトクリ スマスではないことを残念がっているだろ う。

雪が降っていないと空がハッキリと見える から、そのおかげで落ちてきそうなほどの 星の瞬きを見ることが出来る。

雪が降らないクリスマスもなかなかロマン チックかも…。

凍えるような寒さ、 優のポケットに手を入れながら車に乗り込 む。

静かな住宅街に エンジンの音が響いた。

「どこに行くん?」

「…じゃあ高校の前で……あとコンビニ寄 ってもらっていい??」

「おーええよ!」

車は学校へ向かう途中コンビニにとまり、 花とお菓子を買って

再び車に乗り込んだ。

お参りのこと 優には言いにくいな。

優もきっと気になってはいるんだろうけ ど、

聞けないんだと思う。

美嘉とヒロの赤ちゃんのことだから 優が聞いたらいい気はしないと思ったん だ。

いつか優に聞かれた時…そして優が不安に なったその時には

ちゃんと言うね。

そんなことを考えているうちに 車は学校の駐車場へと到着した。

「なんかあったら連絡せぇよ。俺はここで 待っとるからな!」

「うん…ありがと。行ってくるね!!」

携帯電話を取り出し時計を見ると 11 時 50 分。

ぎりぎりクリスマス前。 早い時間に来たのには

理由がある。

去年のクリスマスにお参りに来た時、 花壇にはお花や手袋が置いてあった。

つまりヒロのほうが先にお参りに来た… ということになる。

今年はヒロより先にお参りしたかったん だ。

ヒロが今年もお参りに来るかはわからな い。

もう来てくれないかもしれない。 だけどもし来てくれたとして、

美嘉が先にお花やお菓子を置いておいたら ヒロは気付いてくれるかもしれないから…。

【ヒロとは離れてしまったけど赤ちゃんの こと忘れてないよ】

そんな メッセージを…。

積もる雪をかき分けて、公園へと向かう。

学校から近いはずの公園も積もった雪のせ いで 到着するのに少し時間がかかってしまっ た。

花壇のほうへ行き花壇に積もった雪を除け て、

さっき買った花とお菓子を置いた。

まだヒロは 来ていないみたい。

期待してたわけじゃないけど…。 花壇に向かって

手を合わせた。

【あれから二年が経ちましたね。君は今幸 せですか…??】

天国の赤ちゃんに送ったメッセージ。 そしてヒロに送った

メッセージ。

お参りを終え、 公園を出て優の待つ学校の駐車場へ帰ろう と歩き始めたその時…

こっちに向かって歩いて来る 帽子を深くかぶった人。

なんで わかるんだろう…。

あれはヒロだ。 鉢合わせを避けようと反対側の道路に渡ろ

うとしたが、 車が多くてなかなか途切れる気配はない。

反対側に行くのを諦め、鉢合わせをする覚 悟を決めそのまま歩き出した。

ヒロは帽子を深くかぶっているから、 きっと気付かないよね。

下を向きながら 通り過ぎた時…

「…美嘉・・・?」 すれ違った瞬間に

腕を強く掴まれた。

おそるおそる 顔を上げる。

……やっぱりヒロだ。 なんで??

なんでヒロは 美嘉を引き止めたの。

何が起きたの??

思いがけない状況に 頭が混乱している。

「…久しぶりだな」 ヒロは掴んだ腕を離し

口開いた。

懐かしい ヒロの声。

掴まれた腕が熱い。 悲しいわけではないのに涙が込み上げる。

「…美嘉?」

ヒロが呼ぶ 美嘉の名前…。

あんなに遠かったはずなのに、 今こんなに近くにいる。

ヒロが…近くにいる。

降り始めた雪が、 ネックレスの上にポツッと落ち首もとを冷 たくした。

それによって現実の世界へと引き戻され る。

優から貰った ネックレスのおかげ。

「…ヒロっ、久しぶり!痩せたね!!」 緊張のせいか

妙に大声を張り上げる。

ヒロは静かに微笑み、 あの頃と変わらない笑顔で答えた。

「帽子かぶってるからそう見えるだけじゃ ね?」

その顔を凝視することが出来ず、 ヒロの肩あたりを見つめる美嘉。

下を向くと 涙が出てしまいそう…。

「…帽子かぶってるとこ初めて見たぁ!!」

「今俺の中のブームは帽子だからな!」 もう二度と、

こうやって笑いながら話すことはないと思 っていた。

いつかどこかでもう一度出会える日が来た ら、 嫌みの一つでも言ってやろうと思ってたの に…。

不思議だね、 会ったらそんなのどうでもよくなっちゃっ たよ。

「どこに行こうとしてたの…??」

「…近くのコンビニに買い物」

…嘘つき。 だってポケットから見えてるよ。

去年花壇に置いてあった白くて小さい花 見えてるんだよ…。

【美嘉と別れた 本当の理由は??】

喉の近くまで出た言葉を込み上げる想いと 共に飲み込んだ。

これ以上ここにいると、懐かしさに引き込 まれてしまいそう。

前に進んでいると思っていたのに… 今もまだこんなに胸が痛いのはどうしてか な。

やっぱり…… 神様って意地悪だね。

「じゃ…」

耐えられなくなり 歩き出す。

「おい…」 何かを言いかけるヒロ。

「……何??」

今自分を守るためには、冷たい態度をとる しかないんだ。

…ヒロごめんね。

沈黙が続く。

「いや…じゃあな」 ヒロは一瞬美嘉の頭に手をのせようとした

が、 すぐに手を離し歩き出した。

二人は背を向けたままゆっくりと歩き出し た。

ヒロの足音が 遠くなっていく…。

足を止め、 振り向いた。

ヒロはもういない。 公園に行ったのか、

コンビニへ行ったのかはわからないけど…

でもね わかっているんだ。

ヒロの足跡が途中で こっち側を向いている。

ヒロ… 美嘉がこうして振り向いたように、

ヒロも美嘉のほうを振り向いてくれてたの かな。

本当は気付いていた。 すれ違った時

ヒロからは美嘉のあげたスカルプチャーの 香りがしたことを。

あの日… 別れた日にヒロの背中を追い掛けなかった こと、本当は少し後悔してた。

あの時子供みたいに泣きわめいていれば… 別れたくないって追い掛けていれば何か変 わっていたのかな??

このまま歩き続ければ、優が待っている。 でも

戻って追い掛けたら ヒロに追い付くことも出来るだろう。

二本の道… どっちを選んでも

いつか後悔する日が来るかもしれない。

もう一度傷つく? 安心を求める?

美嘉は どっちに行けばいい??

その時… 頭の中に響いた 名前を呼ぶ優しい声。

美嘉は 走り出した。

「遅かったな!」

外で煙草に火を着けていた優に強く抱き付 いた。

…美嘉は 戻らずに進んだ。

優のもとに走った。 ヒロのこと…

追い掛けなかった。

優は美嘉のことを 大切にしてくれてる。

ヒロはミヤビと付き合っているから…。 そんなズルイ理由があったのも嘘じゃな

い。

だけどね、 頭の中に響いた名前を呼ぶ優しい声。

あれは 優の声だったんだ。

ヒロのことは 今でも好きだよ。

だけど、 今美嘉の心の隙間を埋めてくれているのは ヒロじゃない。

ヒロに出会って たくさん泣いてたくさん傷ついた。

でも今 とても感謝しています。

ヒロには 幸せになって欲しいの。

きっとヒロは、 美嘉といたら幸せになれないと思うんだ。

そして美嘉も…。 幸せって手に入れるのは意外と簡単だけ

ど、 それを守り続けていくのが難しいんだよ ね。

これからは 優がくれた幸せを守り続ける。

ヒロがどうして スカルプチャーをつけていたのか。

美嘉に何を 伝えようとしてたのか。

それ今も わからないけど…

好きだった人 幸せをありがとう。

そして さようなら。

「どないしたん?」

「ふぇぇぇ~ん…」 子供みたいに大声で泣き叫ぶ美嘉を、

優は抱きしめながら頭を撫でていてくれ た。

「優…優ぅ~…」

「ん?」

「美嘉って呼んでぇ…」

「変な子やな~美嘉!」

「もう一回っ…」

「美嘉美嘉美嘉~!」

やっぱり。 さっき頭の中に響いたあの声は優だった。 間違って

いなかったよ…。

優はずっと心配して外で待ってくれていた のか、手が氷のように冷たくなっている。

さっきヒロに掴まれた腕は今もまだ少し熱 いけど

優の冷たくなった手が消し去ってくれた。

今日ヒロに偶然会えて、良かったのかもし れないね。

ヒロもそう思ってくれてるかな??

「風邪引いたら困るから家帰るで!」 優は美嘉を軽々と持ち上げ助手席へ乗せ

シートベルトを締めた。

車の窓ごしに空を見上げると今にも落ちて きそうな満天の星。

時間はもう 12 時過ぎ。

美嘉の答えは 間違ってはいないよね。

みんなはどんなクリスマスを過ごしている のかな??

車は家へと走り、 二人はいつものように手を繋いで部屋へと 向かった。

「ただいまぁぁ…」

力ない声を発しながら部屋に入り、 テーブルに寄り掛かる。

さっき起きた出来事が、すべて嘘のようだ。

「寒かったやろ?これかけとけ!」 優がベッドから取ってくれた毛布にくるま

った。

……あったかい。 優のやさしさを当たり前だと思ってはいけ

ない。

こんなやさしい人 なかなかいないよ。

優ともいつか 離ればなれになる日が来るのかな??

それはどんな時??

もう大切な人を失うのは嫌だよ…。

少し勇気を出し、 毛布を体に巻きつけたまま優の足の上に向 かい合うようにちょこんと座った。

優は美嘉の体を 愛しそうに抱き寄せる。

美嘉は体を少し離し、 優の鼻に自分の鼻を軽くくっつけた。

「優…美嘉がどこに行ってたか聞かない の??」

優は何も言わずにくっついた鼻をゆっくり 離し、ほっぺにキスをした。

優の唇はほっぺから耳、耳から唇の横へと 移動する。

そのたびに体がゾクゾクして…もどかしい。 さっき優が冗談で言ってた“じらし作戦”

が かなり効いている。

「俺は美嘉のこと信じとるから大丈夫。美 嘉が話してくれる日まで待っとるから」

美嘉は自らの唇を 優の唇に重ねる。

……二人の吐息が 重なった瞬間。

……本能で動いた瞬間。 照れくささが隠しきれていない…

そんなキス。

ゆっくり唇を離すと、 優は美嘉の唇を指先で突いた。

「さっき一生キスしないって言ってたや ん!」

美嘉の顔はみるみるうちに赤く染まる。

「……うるさいっ!!」

「自分からするの恥ずかしいって言ってた やん」

「も~、いいのっ!!言わないで!!」 優は美嘉の肩をぐいっと抱き寄せ、

耳もとで囁いた。

「俺とキスしたいって思ったん?」 返事はただ一つ。

静かに頷いた。

そして優は再び体を離し唇にキスをした。 いつもみたいな

軽いキスではない。

部屋に鳴り響く音… 優の激しいキスに頭がくらくらして、

何も考えられない。

優は美嘉の腰に手を回し 美嘉は優の首に手を回し 二人は夢中で

キスをした。

まるで何かを忘れようとするかのように…。

まるで不安を消し去ろうとするかのよう に…。

夢中で キスをした。

美嘉の体がゆっくりと床に倒れ、 優の唇が移動して首もとをなぞってゆく。

「…あっ………」 自然に漏れる声。

優は首へと 舌をなぞらせる。

体がビクンビクンと 反応してしまう…。

くすぐったいけど

…でも気持ちいい。

優の体に手を回し 強くしがみついた。

………愛しい人。 優も首から唇を離し、

返すようにぎゅっと抱きしめた。

この時 心から思ったんだ。

………優と 一つになりたい。

しかし 優の口から出た言葉…

「美嘉、ごめんな」 朦朧としていた頭が、

一気に冷める。

優はなんで 謝っているの??

部屋のライトが 眩しくて目にしみる。

「………え??」

「まだ嫌やったよな。俺我慢出来んくて…ご めんな」

頭の中で何通りもの妄想が駆け巡る。 たどり着いた

一つの結果。

……もしかして。

強くしがみついた時、 美嘉が怖がっていると思ったのかな??

…違うよ。

愛しいと思ったから、 しがみついたんだよ。

「俺、美嘉のこと大事にしたいから。まだ 手出したりせぇへんから安心してな」

美嘉が欲しいのは そんな言葉じゃない。

今心の奥底で眠っている不安を 今すぐ取り除いてほしいの。

「……違うもん…」 耐えきれず

想いが言葉に出た。

「違うって?」

「すごい好きだと思ったから…しがみつい たの。嫌なんかじゃないもん。優のバカ ぁ!!」

心が潰れてしまいそう。 この言葉で優に伝わるのかな??

「優のやさしさはすごく嬉しい。けどね…不 安になることもあるよ。もっと美嘉を求め て欲しいよ…」

自分でも何言ってるか、わからない。 だけど、

もっと愛を感じたかったんだ。

愛されてる証明が… 欲しかったんだ。

優は半ベソの美嘉を持ち上げ、 ベッドまで運ぶ。

そして美嘉の体に 布団をかけた。

「俺、ほんまアホやな。女の子にそこまで 言わせて…美嘉がそんなふうに思ってたな んて知らへんかった…」

ヒロと別れてから 誰ともしていない。

最後にしたのは、 ヒロの家で目隠しをされ手を縛られ、 鏡の前で無理矢理させられた愛のない行 為。

優はそれを知ってるから 怖がる美嘉のためにずっと我慢をしていて

くれたんだ…。

優は美嘉の体をベッドに倒し、 髪を撫でながら唇にキスをした。

優の舌がゆっくりと入り美嘉もそれに答え るかのように舌を絡める。

……熱い。

「…んっ……………」 キスをしているだけなのに声が漏れる。 自分が自分じゃなくなってしまいそう。 優は唇を離し

耳元で囁いた。

「そんな声聞いたら、俺止められへんよ」 ちょっぴりかすれた

低い声。

今まで聞いたことない声に… 心臓が鳴り響く。

唇はだんだん首へ移動し制服のリボンが スルッと取られた。

ワイシャツのボタンを一つずつはずし、 唇は体へと移動する…。

頭から指先まで体中が敏感になっていて… 舌が体を這うたび、

体がビクンと 跳ね上がった。

優の舌は 体全体に移動していく。

温かくて、心地いい。 優のやさしさが伝わる。

優の唇が左手首に移動した時、 ハッと我に返った。

左手首には、 病院で切った傷跡と 根性焼きの跡が

…今もある。

苦しかった日々を 表している傷。

布団の外に出てしまっている手首の傷が、 ライトによって生々しく鮮明に照らされて いた。

優は傷をじっと見つめ、 何度も同じ場所にキスをした。

さっき包丁で切った指の傷に何度もキスを してくれた時のように優しく…

「こんな傷、俺が消したるわ。俺は美嘉に 絶対辛い想いさせへんから」

優の言葉が心に響く。 涙が出そう。

……泣いちゃダメ。 泣いたら

怖いんだと勘違いされてしまいそうだか ら。

優は上に覆いかぶさり 再び唇にキスをする。

自分の唇で、 美嘉の唇を挟むように。

優の手は スカートの中へと伸びてゆく。

美嘉は ふとももを撫でる優の手を止めた。

「ダ、ダメっ……」 美嘉の行動に、

心配そうな顔をする優。

「やっぱ怖いやんな…無理せんでええから」

違うの。 そうじゃない。

これから言おうとしていることを考えると 両手で顔を隠さずにはいられなかった。

「あのね、自分が自分じゃなくなるみたい で……恥ずかしいのっ!!」

優の顔を 見ることが出来ない。

どんな表情してるの?? 優は顔を覆った美嘉の両手をそっとよけ

美嘉の右手を自分の左手とそっと重ね合わ せ強く握った。

「何言っとんねん。俺は美嘉が気持ち良く なってくれたら嬉しいで。全然恥ずかしい とか思わなくてええから…」

優の右手は下着をそっと脱がし… 細くて長い指がゆっくりと入ってきた。

「…ぁあっ…………」 自分の大きな声で我に返り唇を噛み締める

優はすかさず美嘉の気持ちを見透かす。

「我慢しなくてええよ。美嘉の声いっぱい 聞きたいねん…」

優の指はどんどん奥まで入り、 優しくゆっくりと動く。

そのたびに体が反応し 声が漏れ…

いつもの自分がどこかへ行ってしまうよう な気がして怖くなった。

初めての感覚。

今まで 感じたことがない。

やっぱり

……魔法の手だ。

頭がおかしくなりそう。

優は指を抜き、 二人が一つに繋がろうとしている。

ぎゅっと目を閉じた。

…なんでだろ。 こんな時に、

過去の出来事や さっきヒロに会った映像が甦る。

レイプされたこと。 ヒロと図書室で

愛し合ったこと。 最後にした

愛のない行為…。

大好きな人と一つになろうとしてるのに。 繋がろうとしてるのに。

…本当にバカだ。

「…美嘉」

静かな空間に響く優の声で 思考が途切れる。

「美嘉、目開けて」

言われるがままにきつく閉じた目を ゆっくりと開いた。

最初に見えたのは、 悲しそうな優の顔。

「今美嘉を抱いてんのはレイプしたやつで も元彼でもなく俺やから。今だけでもええ からちゃんと俺だけを見て…」

次に見たのは 悔しそうな優の顔。

美嘉は絡みあった優の手を強く握る。 二人は一つに繋がった。

重ね合う肌や握った優の手がすごく熱く て、

優の悲しみや不安や寂しさ…

そして美嘉のことを想ってくれている気持 ちが

痛いくらいに伝わってくる。

「優、優のこと好きだよ……」

「俺も美嘉のことめっちゃ好きやから…」

動くたびに、 優への愛しさが込み上げてくる。

それと共に、 体がフワフワと浮き上がる変な感覚。

「あ…………ダメ。なんか変な感じ。なんか 怖いっ………」

腰がふわっと浮き上がり頭が真っ白になっ た。

まるでジェットコースターを降りたよう な、

そんな感じ。

そのまま意識を無くし、 眠りについた。

カーテンの隙間からもれる眩しい光で目を 覚ました。

ふぁああよく寝たぁ…。 体を起こすと同時に気付いたのは乱れた制

服。

そんな姿を見て思い出すのは昨日の出来 事。

意識無くしたまま 寝ちゃったんだ。

制服のボタンが一つズレていてリボンもよ じれているところを見ると、 美嘉が寝ている間 風邪引かないよう一生懸命に制服を着させ てくれた…

そんな優の姿が 目に浮かぶ。

もう一つ気付いたこと。 テーブルの上にあったはずのクリスマスケ

ーキがほとんどない。

寝ている間に食べてくれたんだね。 おいしくなかったはずなのにね…。

……無性に愛しい。

肝心の優が どこにもいない。

ガチャッ 玄関のドアが開く音。

寝たフリをした。 意味はないけど 反射的に。

優は静かに部屋に入り美嘉に布団をかけ直 すと、ほっぺにキスをして洗面所へといな くなった。

優がいなくなったのを確認し、 枕に抱き付きながら一人照れる。

その時リモコンを踏んでしまったらしく、 テレビの音が部屋中に響いた。

優はテレビの音で美嘉が起きたことに気付 き、

洗面所から部屋へ戻って来た。

「起きたか?おはよ」

「起きたぁぁ!!」 本当はちょっと前から起きてたけど…ね。

「そう言えば美嘉にこれ買って来たで!」 そう言って袋から出したのはプリンだ。

「えっ、もしかしてプリン買うためにさっ き外行ってたの??」

「そうやで。あと煙草も吸いたかったし な!…って何で知っとるん?」

軽い気持ちでついた嘘は意外にも早くバレ てしまった。

「実は起きてたぁ!!ごめんちゃぁーい♪」

「タヌキ寝入りしてたとはいい度胸やな!」

優は美嘉を両手で持ち上げ、 部屋中をくるくると回し始めた。

「あ~目回る~ギブギブ!!」

いつもと変わらない光景いつもと変わらな い二人

だけど心は 確実に近づいた。

それより… 煙草吸いたかったから外に出たって言って なかった??

そう言えば付き合い始めてから、 部屋で煙草吸ってる姿一度も見たことな い。

美嘉が煙草吸わないからずっと外で吸って くれてたのかな。

その真相はいつか聞いてみることにしよ う。

今聞いたらもっともっと愛しくなっちゃう かもしれないから!!

いつか聞くね。

「親心配すると思うからそろそろ行くで!」

テーブルの上から 車の鍵を手に取る優。

「はぁい…」 素直に返事をし

部屋を出た。

車に乗り込み大音量で CD をかけ、 音楽にノリながら家へと向かう。

家がもっと遠かったらいいのにー。 そしたらもっと一緒に居られるのに…。

そんな気持ちをあっさりと打ち砕くかのよ うに車は家の前に到着した。

あ~離れたくないなぁ。でもそんなのワガ ママだよね。

でもでも、 やっぱりもう少しだけ一緒にいたいんだ。

一度開いた車のドアを 再び力をいれて閉めた。

「何かあったか?」

「あの…もう少し一緒にいたいなーな~ん て…だめかなぁ??」

優がさりげなく出した小指を、 不思議そうな目で見つめる美嘉。

「ほな、明日から受験勉強頑張るって約束 できるか?」

考える暇もない。 返事は即答。

「…頑張るっ!!」

「約束な!」

初々しさを残し 絡まる二人の小指。

「指切りげんま~ん♪」

「…実は俺も離れたくなかったんやけど な!」

優は美嘉の頭に手を乗せ答えを待たずにア クセルを踏み 家から少し離れた場所に車をとめた。

車の座席を倒し 寝そべった状態のまま手を繋ぎながら話を した。

ずっと朝から気になってることがある。 でもかなり聞きにくい。

よしっ、 勇気を出して 聞いてみよう。

「ねぇねぇ、一つ聞いていいかな~…??」 体は真っ直ぐ向いたまま目線だけを優に動

かした

「なんやねん?」

優はこっちを見ず真っ直ぐに上を向いたま ま。

「あのさ、昨日美嘉途中で意識なくしちゃ ったでしょ??優はさ、その…最後まで出来 たのかなぁ~と思って…」

優は大袈裟に咳こみ プイッと窓のほうに顔を向けてしまった。

「な…いきなりなんやねん。恥ずかしいや ん!」

これからすることは、 ちょっとした意地悪。

「答えられないってことは最後まで出来な かったってことだよねぇ…」

両手を目の下にあて泣きマネをする美嘉を 見て

案の定優は少し焦っている様子。

「言わなあかんの?」 優の言葉に負けないくらいの大声で泣きマ

ネを続けると優は観念したみたいだ。

「いや、だから…最後まで出来たで。」

「マジでぇ??良かったぁ♪」 泣きマネをやめ笑顔を見せる美嘉を見て、

優は悔しげな表情を見せた。

「泣きマネかい。俺また騙されたわ!」

「聞きたかったんだも~ん♪あ~スッキ リ~!」

憎たらしい顔で 舌を出す美嘉。

「はよ帰って勉強せぇ。ア~ホ!」 ムキになる優は

子供みたいでかわいい。

「言われなくても帰りますよぉ~だ!!」 舌を出したまま車から降りドアを強く閉め

て手を振った。

運転席の窓が開き 優が顔を覗かせる。

「勉強頑張れな!」 クラクションを二回鳴らし去って行く車に

向かって手を振った。

「たっだいまぁ~♪」 誰が見たって嬉しいことがあったとわかる

くらい超ごきげんで部屋に入りベッドの上 にあるうさぎのぬいぐるみをきつく抱きし めた。

優のことを考え、 一人でニヤケながらミシミシと鳴るベッド の上を意味もなく転がる。

一瞬だけ… 本当に一瞬だけどヒロの顔が頭によぎった んだ。

動きを止め 笑顔が消える。

もう後戻りは出来ない。

だから、 考えても仕方ないね…。

それからは何かが吹っ切れたように 受験勉強に励んだ。

大晦日は優に会いたいけど電話だけで我慢 しなきゃ…。

今は受験勉強に励む。

そして年は明け、 新年だ。

初夢を見た。

ピンク色の手袋をした赤ちゃんが泣いてい る。

「どうしたの??」 聞いても返事はない。 抱いてあげようと手を伸ばしても届かな

い。

『どうして追い掛けなかったの…?』 赤ちゃんは悲しい表情で確かにこう言っ

た。

「ちゃんと行きたい道に進んだよ…」 美嘉の返答に

赤ちゃんの丸い瞳から涙が流れ出た。

『あなたは逃げた。楽なほうに逃げた。ま た辛い思いするのが怖かったんでしょ?』

「違う…違うよ…」

首を横に振って 否定する。

『本当は、本当は公園に戻りたかったんじ ゃないの…?』

何かを必死で訴えようとする赤ちゃん。

「違う、美嘉は優を選んだの。後悔なんて してないよ…」

『どうして…どうして?どうして追い掛け なかったの?どうして話聞いてあげなかっ たの?』

「もうやめて…優を選んだの。そう決めたん だよ…」

赤ちゃんはそのまま暗闇へと吸い込まれる ようにして消えていった。

目が覚めた時には、 なぜか涙が溢れていて…

どうしてこんな夢を見たんだろう。 赤ちゃんは何を言いたかったのだろう。 何を伝えたかったのだろうか…。

━高校三年三学期

…と言っても授業は一週間くらいしかなく て 残すは受験と卒業式くらいなんだけどね。

「おはよ~でぇす♪」

「美嘉~おはよん!」

教室のドアを開けたと同時に挨拶を返して くれたイズミとシンタロウカップルを見ると、 学校に来たと実感する。

「クリスマスどうだった!?」 イズミの問いに

前もって用意していた返事で答えた。

「最高だったよん!!」

「お~言うね言うね」

ガラガラ シンタロウの声と同時に教室のドアが開き、

クラス中がざわめいた。

その原因は…ヤマト。 超ギャル男に

大変身している。

「お~っす↑↑」

「ヤ…マト」 イズミは持っていたペンを床に落とした。

「お、なんか美嘉雰囲気変わったな~↑」

「えっ、そう??ヤマトほどじゃないけどね…」

「何があった?」

シンタロウの問いにかばんから手鏡を取り出し、 髪をサッと整えながら答えるヤマト。

「俺彼女できたんだわ↑その子ギャル男好 きみたいでさぁ↑」

この時確実に美嘉とイズミとシンタロウの 心の声が揃っただろう。

ヤマトって

“単純”だったのか…。

呆れた雰囲気の中で 会話は続く。

「彼女ここの学校??」

美嘉の問いにヤマトは親指をたてウィンクし ながら答えた。

「違う学校だぜぇ↑」 語尾を上げ

話し方もギャル男を意識している様子。

「受験する気あんの?」

「バリバリぃ↑」 イズミの厳しい口調もヤマトには効かない。

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