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第十四章 卒業

作者:日-美嘉 当前章节:15386 字 更新时间:2026-6-15 17:36

━試験前日

明日はついに試験日。 この日のために

毎日勉強してきた。

勉強は大嫌い。 だけど優と同じ大学に行きたいから…。

試験科目は 数学・英語・歴史。

大嫌いな数学が 試験科目に入っているではないか。

そして 忘れてはいけない。 面接もあるのだ。

試験と面接を前日に控え気持ちがそわそわ して落ち着かない。

優とはクリスマス以来デートしていない し…。

会ったとしても厳しい スパルタ教育を受けて、それでバイバイな んだもん。

「優ちんドライブ連れて行ってぇ!!」 甘えてお願いしても…

「受験終わったらたくさん連れてったるか ら今は我慢せぇ!」

そう言われ続けてきた。

…電話くらいいいよね? ちょっと声聞くだけだしっ!!

♪プルルルル♪

『ただいま電話に出ることができません』 留守番電話。

何回かけても 同じアナウンス。

はぁ~~~。 面接のコツとか聞きたかったのにぃ。

とか理由つけて声聞きたいだけなんだけど ねっ♪

夜になっても電話は繋がらなかった。

試験前日ともなると、 勉強する気が起きない。

これ以上頭に入るとも思わないし… これから新しいことを覚えようとしても前 に覚えたことを忘れてしまうような気がす るから。

はぁ~あ。 これだからバカは苦労するよ。

中学の時もっと勉強しておけば良かっ た~!!

…なんて今さら思っても手遅れなんだけど ね。

部屋に置いてある手鏡で髪を整えた時、

重大なことをし忘れていることに気付い た。

髪黒く染めなきゃ!! 危ない危ない。

こんな茶髪で受験するなんて、 試験以前に学校にすら入れてもらえないか もしれないじゃん…。

洗面所にあった黒染めを手に取り、 説明書も見ずに髪に塗り始めた。

慣れた手つき。 長い休み明けに必ず行われる頭髪検査に毎

回といっていいほどひっかかっていたの で、 常にいくつかの黒染めが必ず洗面所にある から便利だ。

あっという間に髪は真っ黒になり、 少し傷んでキシキシとしている。

「ワカメみたい…いや、昆布かなぁ…」 久しぶりの黒髪に

少しだけ落ち込む。

暇なので仕方なく勉強をしようと机に向か ったその時…

プップー

窓の外で二回響く クラクションの音。

部屋が車のライトによってピカピカと照ら されている。

…このクラクションは 優だ!!

洗ったばっかりで邪魔な前髪を近くにあっ た赤いゴムでちょんまげに縛り窓を開けて 顔を覗かせた

家の前にとまっていたのは予想通り優の 車。

顔がにやけてしまう。

運転席の窓が開いた。

「勉強頑張っとるか?」 久しぶりの優…。

会いたかったぁ~。

「たくさん電話したのにぃ~!!」 笑顔が隠せないまま少し怒ったように唇を

尖らせたその時、 助手席から誰かが顔を覗かせた。

…アヤだ。

「やっほぉ♪」

「な…んでアヤが??」 表情が

みるみるうちに曇る。

「今日ある場所に付き合ってもろた!」 ある場所…??

「合格祈願♪」 嬉しそうなアヤ。

「ほらこれ買って来たんやで!」

優は何かを握りしめ手を伸ばす。 美嘉は窓から体を乗り出しそれを受け取っ た。

“合格祈願” と書かれたお守り。

「美嘉のために二人で時間かけて選んだ の~ほらおそろい~♪」

アヤはそう言ってポケットの中から全く同じ お守りを取り出した。

「あ…ありがと」 受け取ったお守りを机の上に置く。

「ちゃんと勉強しとったか?」

質問に答えることなく、美嘉は冷たい表情 で言い放った。

「ごめんこれから勉強するから…ありがと ね。明日ねっ」

返事を待たずに窓を閉める。 車が走り去って行く音が聞こえた。

優が会いに来てくれたのは嬉しいよ。 お守りを買ってくれたのも嬉しい。

でも、なんでアヤと? ただのヤキモチ。

美嘉は子供なのかな?

でも…アヤだって明日試験じゃん。

美嘉が何回もドライブしたいって言った ら、ダメって言ってたのに… アヤはいいんだ。

ずっと留守番電話で、寂しかったんだよ。 電話に出れないくらい忙しかったの? 疑問がどんどん膨らんでゆく。

友達に嫉妬するなんて、心狭すぎるよね。 だけど大事な試験前日だから…だからこそ

一人で来て欲しかったんだ…

電話でもいいから。

「美嘉は大丈夫だから。頑張れ!」 って…それだけですごく嬉しかったんだよ。

勉強する気が全く起きず、布団に入って無 理矢理眠りについた。

━試験当日

最低な気分。 昨日うやむやな気持ちで布団に入ってしま

ったせいか、浅い眠りのまま朝を迎えてし まった。

髪も真っ黒だし最悪!!

「ふぁ~ぁ。おはよっ」 寝癖のまま居間へ行くとテーブルの上には カツ丼が…。

「何これ。まさかぁ…」

「受験に勝つ!ためにカツ丼よ~オホホホ」 甲高い声で笑うお母さん。

好意は嬉しいけど朝からカツ丼はさすがに きついって…。

三分の一だけをお腹にいれ準備を始めた。 昨日優から貰ったお守りも一応ポケットの

中へ入れておくか…。

「いってきまぁ~す」

「あんたちょっと待ちなさい。忘れ物だ よ!」

玄関のドアに手をかけた美嘉にお母さんは お弁当を差し出した。

「あ、ありがと!!」

「受験票はちゃんと持ったの?」 心配性なんだから…。

まぁ、嬉しかったりもするんだけどね。

「持ったぁ!!」

「あまり力まないでね、頑張りなさい!」 お母さんの熱い応援に少し助けられ、前向

きな気分で家を出た。

家の前にとまってるのは優の車。 運転席から優が降りて来る。

「おはよーさん」

美嘉はぷいっと顔を背け、車を無視して歩 き出した。

優が悪いわけじゃないのはわかってる。 だけどね、なんで怒っているのか気付いて

欲しいの。

「どないしたん?」 美嘉を後ろから抱きしめて引き止める優。

「別にぃ~…」

美嘉は髪を指でくるくるといじりながら、 いじけるそぶりを見せた。

「今日は大切な日やから、はよ車乗るぞ!」 半ば強制的に車に乗せられてしまい、車は

大学に向かって動き出した。

「お守りちゃんと持って来たか?」

「…うん、持ってきた」 ポケットからお守りを出してちらっと見せ る。

「ほんま頑張れよ。俺祈っとるからな!」 優はハンドルを持つ手を気にしながら美嘉

に向かってピースをした。

「…ありがと」

明らかに不機嫌な美嘉に対して優はわざと らしく明るく話かける。

気を使っているのかな。

本当はもうそんなに気にしてないけど…機 嫌を直すタイミングを逃してしまった。

今さら引くに引けないし…。

優は美嘉のほっぺを指で突いた。

「なんでスネとんねん。ほら笑って笑っ て!」

「試験で緊張してるんだも~ん。」

「昨日お守り選んでた時のアヤちゃん、笑顔 でめっちゃかわいかったなぁ。美嘉の笑顔 も見たいんやけどな~。」

「はぁ!?」 耳を疑う。

「怒ってばっかやと俺アヤちゃんに心変わり するかもしれへんで?」

…聞き間違いであることを願いたい。 しかしこれは現実。

車が信号で止まった時、美嘉はシートベル トを外してドアを開けた。

「優のバカ…鈍感!!」

捨てゼリフを吐きながらドアを閉め、 信号が赤のうちに歩道へと走る。

信号は青になり車を置いて追い掛けて来れ るはずもなく、 優の車はたくさんの車に埋まって見えなく なった

嘘でも心変わりするなんて言ってほしくな かったよ。

優のバカ。

近くの駅から列車で受験会場へと向かう。 鳴り止まない優からの着信にプチッと電源

を切った。

かばんから参考書を取り出す。 今は試験のことだけを考えることにした。

大学の正門前でみんなと待ち合わせ。

「おう、美嘉おはよ↑」 ヤマトは一応髪を黒くしたみたいだが、

顔も黒いので原始人のようだ。

「頑張ろうね!」

「絶対合格だぜ♪」 イズミとシンタロウは余裕の笑みを浮かべる。

「美嘉~お守り持って来たぁ?」 アヤは変わらず元気。

美嘉は仕方なくポケットからお守りを取り 出しアヤに見せた。

試験の教室は別々だ。

「じゃあ面接終わり次第また正門に集合 ね」

解散してそれぞれの教室へ向かう。

美嘉の試験会場は一番大きい校舎の二階の 奥の教室だ。

覗くようにドアに手をかける。

教室の中… たくさんの人が座りみんな勉強しているの かノートや教科書の開く音だけが響いてい る。

受験票を渡し決められた座席に着いた。

一応ノートを開いたけど頭に全然入らな い…。

最初はいきなり大嫌いな数学だ。 テストが配られる寸前まで公式を暗記。

「はい、始め。」

テストが配られたと同時に名前を書くフリ をして、用紙の端っこに暗記していた公式 を書きつづった。

隣から聞こえる鉛筆の音がプレッシャーに なる。

数字が頭の中でぐるぐるぐるぐると回って いる。

途中まで終えた計算式も誰かのくしゃみの 音によってやる気をなくし、最後には鉛筆 すら持つのが嫌になっていた。 そんな始末。

キーンコーンカーンコーン 終わりのチャイムが鳴りテスト用紙は回収

される。

そして短い休憩を終え、次は歴史だ。

歴史は得意でも不得意でもないが、入試会 場の雰囲気に負けそうになり、やはり鉛筆 は進まない…。

歴史の試験を終えた時、もうすべての精魂 を使い果たしてしまったような感じで机に 顔を伏せていた。

受験のばかやろー!! しかし…次の試験は唯一得意な英語。 英語の問題は驚くほどスラスラと解け、も

う完璧♪きっと 100 点だぁ♪♪

…そんなわけないし!! 全てはただの妄想。

現実はヤマがはずれてしまい、もうボロボ

ロ…。

今美嘉が通ってる高校はもともとランクが 低めの学校だから、レベルが全然違うこと を実感してしまうほどだ。

ただスパルタ教育の優がしつこいくらいに 言っていた

【過去形~ed】

【現在形~ing】 だけは完璧だった。

腹立つけど少し感謝。

試験は全教科無事に終わり、少し長い休憩 にはいる。

面接までの空いた時間で家から持って来た お弁当を食べようとかばんから出した時、 お弁当箱の上には一枚の手紙が置いてある ことに気付いた。

【頑張って~ファイト♪母、父、姉より】 家族の優しさに緊張していた心が落ち着

く。 これからの面接にやる気が湧いてきた。

試験はイマイチだったけど面接頑張るも ん。

みんなはどうだったかな?? あと三か月後には、みんなこの校舎で授業

を受けてるのかな…。

「次の方どうぞ。」 教室の中から面接官の低い声がドアごしに

響く。

「しっ…失礼します…」 ガタガタと震える足。

目の横がなぜかピクピクと痙攣している。

学校で習った通り頭を下げてから腰をおろ した。

あ~どうしよう。 上手くいきますように…

ポケットに入っている優から貰ったお守り に助けを求めるしかない。

「そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ。気 楽に行きましょう。」

面接官と聞いて思い浮かぶのは… スーツに眼鏡をかけた厳しそうな人。

しかし実際目の前にいる面接官は想像とは かなり掛け離れ まんまるに太った白髪のおじいちゃんだっ た。

例えるならケンタッキーのおじさんみたい な…。

そのおじいちゃん…いや面接官の優しい笑 顔に緊張していた体は一気にほぐれた。

「サークルに入るつもりはあるのかな?」

「はい、あります。」

「どんなサークルに入るつもりですか?」

「語学を勉強したいので英語に関わるサー クルに入りたいです。」

…嘘っぱち。 語学の学部を受けるにはそう聞かれたらこ

う答えなさいと学校の面接練習で教わった 通りの答えを言っただけだ。

「わかりました。ありがとうございました」 面接は拍子抜けなくらいあっさりと終了。 当たった面接官が良かったのかもしれな

い。

まぁ~とりあえず終わったし… 胸の突っ掛かりが取れてすがすがしい気 分!!

これで変なプレッシャーからも勉強地獄か らも抜け出せる。

なんだか優とアヤのことなんて今考えたらど うでもいいな。

あんなことでイライラするなんて… ストレスたまってたのかな??

後で優に謝ろう。 八つ当たりしちゃったのかも。

軽い足どりで待ち合わせの正門へと向か う。

もうみんなは試験と面接を終えたみたい で、

すでに集合していた。

「お疲れ~ぃぃ♪」 スキップしながら近づく美嘉。

「お疲れ!どうだったぁ~?!」 イズミの問いに美嘉はわざと落ち込んだふり

をして答えた。

「ボロボロだぁ~…」

「俺も俺も…↑↑」 ヤマトの暗い表情。

ダメだったか…。

そう言えば アヤがいない。

「アヤは??」

「ケンさんとデートするらしーよ」

シンタロウの言葉にホッとしている自分がいる。

「これからパーッとカラオケ行くぞ~↑↑」 ヤマトの一声で

受験を終えた安心から 何かがはじけたように駅近くにあるカラオ ケへと向かった。

「日本の未来は♪」

「ウォウウォウウォウウォウ~♪」

イスに立ちながらノリノリで歌う美嘉とイス

゙ミ。

曲に合わせてシンタロウとヤマトは手拍子をしたり 掛け声をかけたりしている。

「受験も終わったし最高~!!」 歌の間奏中、

マイクを使い大きな声で叫んだその時…

♪プルルルルルル♪

「美嘉携帯鳴ってるぞ」 シンタロウが美嘉に震える携帯電話を手渡した。

着信:優

…優だっ!!

電話にでた時ちょうどカラオケの曲が終わ り、

部屋中は静まり返る。

『もしもしぃ』

『試験どうやった?』

『やばかったよぉ~…』

『朝はごめんな。まだ怒っとる?』 優から謝ってくれたことに少しだけ優越

感。

『もう…怒ってないから!!美嘉こそごめん』

『仲直りやな。ほんまに受験お疲れ♪』

『今カラオケだからまたねっ!!』

何やら視線を感じ電話を切って顔を上げる と、

イズミ達にじっと見つめらている。

「…何っ??」

「喧嘩したのか?↑」

「何があったの?!」

「もちろん教えてくれんだよな。」

彼らは本当に心配してくれてるのか… それともただの好奇心なのか…。

とりあえず、 昨日の夜と今日の朝の出来事を話す。

聞き終えるとヤマトが美嘉の携帯電話を奪い、 どこかに電話をかけ始めた。

『もし~俺ヤマトっス↑今から駅前のカラオケ に来れませんかねぇ?202 号室♪美嘉もいま すよ!わっかりました~♪』

「誰にかけたの??」 ヤマトから携帯を奪い返そうとすると、

ヤマトは携帯を高く届かない場所まで上げた。

「すぐわかるって↑↑」 しばらくして、

部屋のドアが開いた。

優だ。 まぁ、なんとなく予想はしていたけどね…。

「待ってましたぁ~↑」 ヤマトが立ち上がる。

「まぁまぁまぁ座って下さい。美嘉の隣 に!」

シンタロウに急かされ優は美嘉の隣に腰をおろ した。

「受験頑張ったな!」 頭を撫でる優。

「はいはいはいはいイチャイチャ禁止~↑」 ちゃかすヤマト。

「優さんに話があるんです。」 イズミが真剣な面持ちで答えた。

「どないしたん?」

「昨日なんでアヤと一緒にいたんですか?」 核心をつくシンタロウの質問。

「何で知っとんねん!」

「優さん正直に答えて下さい。」 イズミの怒った表情を見て優は頭をかきなが

ら困ったように答えた。

「昨日アヤちゃんが大学の正門でケンを待って て、たまたま俺が帰ろうとした時偶然会っ ただけやで」

優の答えを聞いて、 肩の力が抜けた。

「だって昨日ケンさん電話で風邪ひいて寝込 んでるって言ってたし。アヤもそれ知ってる はず。」

シンタロウの言葉で再び肩に力がはいる。

「じゃあアヤは嘘ついて優さんに会いに行っ たってこと!?」

イズミの言葉に不安な気持ちがさらに高ま る。

「わざわざアヤと二人で美嘉にお守り渡しに 行くことないんじゃないんスか?↑」

ヤマトの問いに、 優は少し悩みゆっくり答えた。

「あんな~誤解やって。アヤちゃんには秘密 にして言われたけど…言うわ。なんか二人で 美嘉に会いに行けばヤキモチ焼くからっ て。そしたら好きって気持ちも高まるって」

「はぁ!?何アイツ↑」 マイクを使って叫ぶヤマトの手からマイクを

奪い 美嘉は優を指さしながら叫んだ。

「じゃあ…アヤのことかわいいとか心変わり するかもって言ったのは?!」

「それもアヤに言われたんですか?」

横から口を出すイズミの顔は真剣で、アヤに対 する怒りを隠しきれてない。

「そうやで。今考えたら俺もアホやったわ。 美嘉が怒るの無理ないな。ごめん。」

アヤ… 一体何を考えてるの? 一体何がしたいの?

「俺アヤのこと最初からあんまり信用してな かったからな。」

「あの子は男のためなら友情を切るタイプ だね、絶対!」

シンタロウとイズミがアヤの悪口を言い始めた。

「美嘉ほんまごめんな」 優は甘えたように美嘉の肩の上に頭を乗せ

る。

「もういいってぇ…」 そんな二人を見たヤマトは口笛を鳴らしなが

ら冷やかすように言った。

「仲直りのチューはしないんスか~?!↑」 イズミとシンタロウがヤマトの言葉に反応する。

「見たい~♪♪」

美嘉と優は含み笑いをしながら顔を見合わ せた。

「…どうする??」

「俺はかまへんよ」

大人の余裕。 まだ子供な美嘉に そんな余裕はない。

「キース♪キース♪」

部屋中に響くコールと 期待で輝く三人の目。

これはもう覚悟を決めるしかない。 優が美嘉の頭の後ろに手を回す。

美嘉は強く目を閉じた。

唇が触れ小さく音が鳴る

優は美嘉の体を抱き寄せ耳元で囁いた。

「泣いても笑っても怒っても俺にとってか わいい女の子は美嘉一人やで」

今日の朝 優が美嘉に言ったあの言葉が、嘘に変わり 消えてゆく…。

どーせまた いつもみたいに冷やかされるんだ。

…沈黙。 静まる部屋の中。

変だなぁ。 いつもならすぐにブーイングが起こるの に。

優の胸からゆっくり離れ周りを見渡すと、 三人は関心したような うっとりとしたような なんとも言えない表情をしていた。

「みんな…どした??」 いつもと違う雰囲気に 戸惑い心配になる。

バカみたいに騒ぐいつものノリは一体どこ に…。

突然シンタロウが黒ぶち眼鏡をはずして、 優に向かって頭を下げた

「俺にそのテクニックを教えてください。 お願いします」

それに続いてイズミもシンタロウの腕を組みなが ら言う

「シンタロウに教えてやって下さい!シンタロウ女の 気持ちわかってないんだもん私もあんなキ スされた~い♪」

最後にヤマトが立ち上がって優の隣に座った。

「優さんにホレたっス↑美嘉俺に優さんく れ↑」

美嘉はわざとらしく優にベッタリとくっつ いた。

「ダメ♪優は美嘉のだも~ん!!そのかわり 美嘉がヤマトにチューしてあげるってぇ!!」

優もわざとらしく美嘉の肩に手を回した。

「美嘉とチューできんの俺だけやし!」

まるで漫才をしているかのような会話だ。 まぁ、そんな感じで優とは無事仲直りする

ことが出来た。 あ~良かった。

仲直り出来たのはヤマトがここに優を呼んで くれて イズミとシンタロウが真実を聞き出してくれたお かげだと思う。

この三人はいつもふざけてるように見える けど、実はすごく美嘉のことを考えていて くれているのかもしれないね…。

しかしアヤは一体何をしたかったのだろう…。 まぁ、いいか。

話は変わって… 試験は無事終わったけど1番大切なのは結 果だ。

実際試験はボロボロ。 面接も手応えありとは言えないし…。

自慢じゃないけどかなり自信がない。

不合格だった時のことなんて、なーんにも 考えてない。

終わったことを今になって悔やんでも意味 がないから。

あとは神様に祈るのみ…

【どうか、みんな一緒に合格出来ますよう に】

全ての授業が終わり、 あと学校へ行くのは卒業式の練習と卒業式 当日の二日のみだ。

寂しいことに、 卒業はもうすぐそば。

そしてついにこの日が来た。 人生を決める日。 合格発表だ。

「早く起きなさ~い!」 居間から聞こえるお母さんの叫び声で起こ

される

目覚ましをセットしたはずなのに… いつの間にか止めてしまったみたいだ。

こんな大切な日に寝坊するなんて…。

今日は待ちに待った合格発表の日だ。 別にワクワクとかドキドキとかしない。

だって、70%はダメだと思ってるから。 不合格を見に行くために大学に行くのか… そんなことさえ思う。

残念なことに優は今日大事な授業があっ て、会えないらしい。

せっかく慰めてもらおうと思ったのに~ っ。

…まぁ、仕方ないか。

のそのそと着替えをし 適当にメイクを終え、 やる気なく家を出る。

チュンチュンと高い声で鳴いている鳥の声 に耳を澄ませてみた。

そう言えば、 もう春も近いなぁ。

春と言えば卒業 でも今は考えない。

列車で大学へ向かい、 いつも通り正門で待ち合わせをして集合。

それぞれの受験番号をみんなで確認しあ う。

シンタロウは…1302 番。 ヤマトは…1311 番。 アヤは…3521 番。 イズミは…3526 番。 そして美嘉は…3529 番。

「「いざ出陣!!」」 気合いを入れ、

合格発表掲示板に向かった。

掲示板の前にはたくさんの人。 それぞれ嬉し泣きしてたり落ち込んでた り…

様々だ。

みんなで手を繋いで一列になり、 掲示板に目を向けた。

…1285

…1287

…1292

…1296

…1302

「1302…。俺の番号あった。やった!」 いつもはクールなシンタロウが大声で叫ぶ。

…1303

…1307

…1311

「マジかよ…あった…」 ヤマトがその場に腰を抜かして座り込んだ。

…3512

…3518

…3521

「キャーキャー!」 アヤは甲高い声をあげて

ぴょんぴょんと跳びはねている。

…3523

…3525

…3529 美嘉は自分の受験票と掲示板の番号を見比

べた。

3529…

3529 って書いてあるよね!?

…合格した!!

嬉しさと驚きで声が出ない。 受験票を持った手が震えている。 優、やったよ。

合格したよ!!

その時…

「私の番号ない…落ちちゃった…」 みんなが喜ぶその横で

受験票をぐしゃぐしゃにしながらイズミが口 を開いた。

「イズミちゃんが落ちるわけないじゃん!見 落としたんじゃない?!」

アヤがイズミの受験票を奪い掲示板の番号と見 比べた

すぐにうつむくアヤ。 それは悲しい結果を意味している。

イズミが落ちた? なんで?なんで?? イズミが落ちるわけないじゃん!!

だっていつもクラスの上位の成績なんだ よ?

こんなにバカな美嘉が受かって、 イズミが落ちるなんてありえないよ。

「ま、しょうがないよねあははー!残念残 念!」

わざと明るく振る舞うイズミに、 かける言葉が見つからない。

合格したのは嬉しいけど喜べないよ…。 みんなで合格したかったみんなで合格した

かったんだ。 一人でも欠けたら 意味がないんだ。

「みんな~暗くなんないの!合格おめでと う!」

イズミが無理して話し続けるたびに、 苦しくなる。

同情じゃない。 本当にみんなで合格したかった。

しかし笑ってるイズミは、なぜか少しだけ安 堵の表情を浮かべてるように見えた。

この時、 一つの疑問が生まれた。

イズミ… わざと不合格にしたんじゃないの??

だってイズミが不合格なわけないもん。 もし美嘉の考えが当たっているなら、その

理由は…?

「結果もわかったし帰るか。」 沈黙の中シンタロウが口を開き

みんなはぞろぞろと歩き出した。

「美嘉!」 今、名前を呼ばれたような…。

でもどこから??

「こっちやで~」

上のほうから聞こえる。声が聞こえる方向 に顔を上げた。

三階の教室の窓、 優とケンちゃんが顔を出している。

優は両手で大きな○と×を作っている。 きっと合格したか

不合格だったかを聞いているのだろう。

イズミがいる手前、

○とは言いにくい。

その時イズミが迷っている美嘉の両手を取 り、

大きく丸を作った。

イズミは美嘉に向かって パチッとウィンクをした

優は美嘉に向かってガッツポーズをし、 その後すぐに先生に怒られているみたいだ った。

授業中だったのだろう。

「「じゃあまた来週の卒業式にね!!」」 駅で別れ、

みんながそれぞれの家の方向へと歩き出 す。

美嘉はなんとなくイズミのことが気にかか り、

駅まで戻ってみることにした。

♪ピロリンピロリン♪

受信:イズミ 今まさに考えていたイズミからのメール。

《駅に来れる?》 やっぱりなんかあったんだ。

駅まで走って戻ると、 そこにはイズミが立っていた。

「帰ろうとしてたのにごめんね…」 申し訳なさそうに謝るイズミ。

「なーに言ってんの!!美嘉もイズミと話した かったんだぁ!!」

二人は近くのファーストフードで話すこと にした。

「イズミさぁ、わざと落ちたでしょ??」 頼んだコーンポタージュをすすりながら、

唐突に聞いてみる。

「え!?なんで知ってるの?」

「イズミのことならなんでもわかるしっ!!」 イズミはその言葉を聞いて嬉しそうに笑っ

た。

「美嘉にはバレバレだったのかぁ…」

「なんで落ちたの??」

「私ホームヘルパーの資格とりたくて…確 かに大学行きたかったし、親も大学行けっ てうるさいんだけどさ。やっぱ福祉系で働 きたいんだ!」

初めて聞いたイズミの夢。話してくれたのが 嬉しかった。

「イズミ超~かっこいいじゃん!!イズミならい い介護士になれるよ。頑張ってね!!」

「そう言ってくれると安心する。黙ってて ごめんね…」

イズミの目に涙がたまっている。 ずっと隠してたの、 辛かったんだね

「泣かないのっ!!イズミの夢応援してるから ね!!…なんかいつもと立場が反対だね!」

イズミの頭を撫でると、 イズミは涙を流しながらクスッと笑った。

「「この話は二人の秘密ね!!」」 イズミとの約束。

そしてもう一つ…

「「卒業して学校が別々になっても、ずっと ずっと友達だよ!!」」

イズミとね、 同じ大学に行けると思ってた。

だから、離れるのはすごく寂しい。 だけど…

夢を追い掛けるって すばらしいことだよね。

だから応援するよ。 美嘉なりに精一杯応援するから。 イズミの夢が叶うことを祈っているよ…。

卒業式の三日前… 美嘉は学校へ行った。

マフラーを机の中に入れっぱなしにしてい たことを思い出したからだ。

もう一年生も二年生も春休みに入ったらし く、

校舎はガラーンとしている。

マフラーを取りに、教室へ向かった。 いつもならざわざわうるさくて笑い声が絶

えない教室も、今日は静か。

イズミやシンタロウやヤマトやアヤの笑い声…

先生の怒り声でさえも頭の中で鮮明に思い 浮かぶ

三年間をこの学校で過ごした。 辛いこと

悲しいこと 楽しかったこと 幸せだったこと。

いろんな思い出がつまっているね。 この教室の窓から、

ヒロとミヤビが帰っていく姿を見ていた。

優の車をわくわくしながら待っていたこと もあったね。

毎日当たり前に過ごしてきた日々が、 今となっては貴重な時間に思えてくる。

きっと、 終わりが近付いているから…。

いつも何気なく歩いている廊下。 一人で歩けばギシギシと鈍い音が鳴り響 く。

時は流れて人の気持ちは変わって行ってし まったのに

校舎だけはあの頃のままだね。

足はいつの間にか図書室へと向かってい た。

図書室…。 ここでヒロと始まって

ここでヒロと一つになって ここで二人すれ違って ここで一人でたくさん泣いた。

今、 美嘉は優のことが大好きだよ。

だけど悲しいことに学校は… 校舎は…

ヒロとの思い出でうまってしまってるん だ。

ヒロのことを想うのは これが最後にします。

優、 今日だけ…

今日だけはどうか許して下さい。

教室も廊下も玄関も… 思い出すのはね、

ヒロの姿なんだよ。

今でも廊下の向こうからヒロが変わらない 笑顔で走ってくる。

そんな気がするの。

もうすぐ卒業。 この校舎ともお別れなんだね。

これで本当にヒロとお別れなんだね。

“卒業” 学校を卒業。

大好きな人を卒業。

いろんな意味を 持っているんだ…。

図書室のすみっこにある小さな黒板。 白い短いチョークを手に取り 小さく文字を書いた。

【君は幸せでしたか?】

返事なんて来るはずもないのに。 バカみたい…。

一度消そうとした手を止め、 その文字を残したまま図書室を出た。

最後を意識して 初めてわかる。

校舎の匂い。 廊下の足音。

毎日が貴重な時間だったこと。

卒業って、 好きな人との別れに似てるね。

でも卒業って新しい旅立ちへの準備でもあ るから

好きな人との別れも新しい道を進むための 準備だってことだよね…??

そんなことを一人で想いながら、 校舎を後にした。

三年前… 期待を胸にこの道を歩いた時のことが

すごく最近のことのように思える。

季節は変わり雪は溶け、ふきのとうが顔を 出した。

ぽかぽかと暖かい陽射しが やわらかく照りつける。

桜が咲く この季節が来た。

明日は卒業式だ。 いつもなら不快な目覚ましの音…

もしくはお母さんの叫び声で起こされるの に、

今日は自然と目が覚めてしまった。

冷たい水で顔を洗い、 居間で朝食を食べる。

毎朝かかっている ニュース番組の占いのコーナー。

いつもなら見て見ぬフリ… 今日だけはちょっと信じてみようかな。

「5 位とか微妙だし…」 一人でボソッと呟き、

部屋にあるクローゼットのハンガーにかけ られた制服をそっと取り出た。

何かを思い出すように 一枚一枚を 丁寧に着てゆく。

ワイシャツのボタンを締め、 スカートを短くするため慣れた手つきで四 回ほど折った。

【スカートはもう少し長くしなさい!】 三年間先生に怒られ続けて来たっけ…。 最後くらいは、

先生の言うことを少しは聞こうかなぁ。

いつもは四回折るスカートも今日は二回で 我慢しよう。

制服のリボンには、 もう学校のにおいが染み付いてしまってい る。

そんなちっぽけな事を考えながら 首に巻きつけた。

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