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第十四章 卒業.2

作者:日-美嘉 当前章节:15362 字 更新时间:2026-6-15 17:36

ずっと履き続けたふわふわのルーズソック スをタンスにしまい、 近くにあった紺のハイソックスを履く。

高校に入学してから紺のハイソックスを履 くのは今日で三回目だ。

一回目は入学式。 二回目は受験の日。 三回目は今日、卒業式。

別にこだわりがあるわけじゃない。 最後くらいは…。 卒業式には親も来るわけだし真面目なほう

がいいよね??

先生に感謝の気持ちを伝える意味でもある し!!

「じゃあ~行ってきまぁす!!」 制服の上からマフラーを巻きつけ、

家を出た。

今日優の迎えはない。

「最後くらいは、家から学校まで自分の足 で行ったほうがええよ。この三年間に感謝 しながらな」

優が昨日言った言葉と 同じ考えだったから。

この道を通うのも、 今日が最後。

春には必ず咲いている 小さいピンク色の花。

毎日朝早くから庭を手入れしている 背の低いおばあさん。

三年間見続けてきたもの全てに感謝しなが ら、

学校へ向かった。

「おはよぉー!!」

いつものように 騒がしい教室。

「美嘉おはよー♪」 そしていつものように挨拶を返してくれ

る、 大好きな友達の笑顔。

この笑顔に 何度助けてもらっただろうね。

こんなに卒業するのが寂しいのは 美嘉だけなのかな…。

なんて少し落ち込みながら席についた。

「なんで卒業式の練習来なかったんだよ↑」

ヤマトが頭をげんこつで グリグリする。

「だって~忘れてたんだも~ん!!」

…本当は覚えていた。 でも、

卒業式は本番の一回だけでいいと思ったん だ。

練習とは言え、 きっと泣いてしまうと思ったから。

だからわざと 行かなかったんだよ。

「イズミも来ねぇしさぁ~↑↑」 頬杖をつきながら

窓の外を見るヤマト。

イズミの顔を さりげなく見た。

寂しそうな顔。

「私も忘れてたぁ~…」 イズミも、

美嘉と同じ気持ちでいたのかな。

だから練習に 来なかったのかな。

卒業して友情が終わるわけじゃないけど、

三年間毎日当たり前のように近くで過ごし て来たんだもん。

やっぱり離れるのは、 悲しいよね。 寂しいよね…。

「昨日卒業アルバム配られたんだよ!みん なで見ようよ♪」

しんみりした雰囲気は、アヤの一言によって ブチ壊される。

でも今はこの明るさに 救われたりもする。

「卒アル!?見たい見たい!!」

「机の中に入ってるよ~♪」 ゆっくり机の中を覗き、アルバムを取り出

した。

薄い卒業アルバム。 この中に三年間の思い出がつまってるん だ。

三年間を思い返すように一枚一枚ページを 開いてゆく…。

「俺白目になってるし~マジありえねぇ。」 シンタロウが自分の写真を指さして落ち込む。

「まーまー。カッコイイから安心しなって

♪」

さすが付き合っている期間が長いだけあ る。

イズミのナイスフォロー。

クラス写真のページは終わり、 行事写真のページへと変わった。

「あ~これ入学式じゃん♪みんな若いね ぇ!!顔全然違うしっ!!」

まだ初々しい頃の写真を見て、 懐かしさが込み上げてくる。

その時、 ある一枚の写真が目に留まった。

一年生の時の学校祭。 教室の前で楽しそうに笑っている四人の写

…そう。 美嘉とアヤとヒロとノゾムの写真だ。

あの頃の記憶が よみがえる…。

━今から二年半前━ 学校祭当日

「ね、ね、カメラマン来てるから写真撮っ てもらおうよ♪」

アヤが目を見開きながら 興奮気味に言った。

「恥ずかしい!!」 それを拒否する美嘉。

「だってもしかしたら卒アルに載るかもし れないよ~!?」

「そうだ~撮ってもらおうぜ!」

アヤとノゾムは写真を撮ってもらおうとノリノ リだ。

「どうする??」 美嘉はヒロに問う。 ヒロは優しく笑い、

美嘉の肩をぐいっと引き寄せた。

「俺らが恋人同士だって証拠、残すのもあ りじゃねぇ?それで何年か後にその写真見 て、あの頃は楽しかったけど今はもっと幸 せだねって言えたら最高じゃん!」

意見がまとまり 教室を出る四人。

「カメラマンさ~ん!四人を撮って~♪」 アヤはカメラマンを引き止め積極的に頼む。

「どーせなら~超ラブラブに撮ろうぜ!」

ノゾムの提案に、 美嘉が聞き返す。

「どんなふうに??」

「そう言われると難しいな~」 本気で悩むノゾムを見て

ヒロが口を開いた。

「別にそんなの決めなくてもよくねぇ?そ んなの表情に勝手に出るもんだからな!自 然でいい」

「そうだねっ!!」

美嘉はヒロの横顔を 自慢げに見つめていた。

「じゃあ撮りますよ~」 カメラマンが

四人にカメラを向ける。

「悪いんスけど写真撮る瞬間に、

【1+1 は~?】って聞くみたいに、

【この先何があってもずっと~?】って言 ってもらえませんか~?」

カメラマンに、 妙なことを頼むノゾム。

カメラマンは嫌な顔一つせずに OK の合図。

ノゾムが集合をかけた。

「カメラマンが

【この先何があってもずっと~?】って言 ったらみんなこう答えろよ!」

ノゾムはその答えを 小さい声で耳打ちする。

その答えを聞いて、 みんなは笑って頷いた。

四人は横に並び、 それぞれの相手と手を繋ぐ。

美嘉はヒロと。 アヤはノゾムと。

そして繋いだ手を真っ直ぐ天井に向かって 伸ばした。

カメラマンがカメラを四人に向け、口を開 く。

「撮るよー!この先何があってもずっ と~?」

『『だーい好き!!』』 パシャッ 四人の声が揃った瞬間

フラッシュが光った。

【この先何があってもずっと、大好き…】 写真の中の四人は、

とても幸せそうな顔をしていた。

「みんな幸せそうに笑ってるねぇ…」

アヤの声で 現実の世界へと引き戻された。

アヤがどの写真を見て言っているのかわから ない。

だけど… きっと同じ写真を見ていたと思う。

「終わりなんだな↓」

ヤマトが寂しげな顔で ポツリと呟いた。

いつもみたいに バカみたいに笑おうよ。ねぇ…。

「式が始まるぞー出席番号順に廊下へ並 べ。」

教室で叫ぶ先生。 一旦アルバムを閉じて廊下に出た。

全員いるか確認し、 体育館へと向かう。

体育館にはたくさんの保護者が集まってい て、 一クラスずつ吹奏楽の演奏と共に担任の先 生を先頭に入場する。

イスの前に整列し先生の合図でイスに座っ た。

全クラスが入場し、 式が始まる。

練習は出なかったけど 式の流れはなんとなくわかる。

校長先生の挨拶。

「本日は卒業おめでとうございます。」 ありきたりな挨拶をはじめに、

長々と続く。

前に座っていたアヤが振り返り、 耳打ちをしてきた。

「あたしね、ノゾムに話かけてみようかと思 う。もう最後だしぃ…」

アヤは偉いね。 美嘉は勇気出ないよ。 最後だもんね…。

アヤは今ケンちゃんと仲良しで、 それこそ悩みなんかないように見える。

だけどやっぱり人を好きになる気持ちや、 過去を引きずってしまう気持ちはみんな一 緒なんだね…

「いいと思う。頑張ってね!!」 アヤは安心したように微笑み再び前を向い

た。

PTA 会長の挨拶、祝辞。 式は

どんどん過ぎてゆく。

そして卒業証書授与。 中学とは違って、

一人ずつ台に上がり卒業証書を受け取るわ けではない。

担任が一人一人の名前を呼び その場に立ち上がる

そしてクラス代表の一人が証書を受けとる のだ。

うちのクラスの卒業証書授与が始まった。

名前を呼ばれた人から、立ってゆく。

シンタロウ ヤマト イズミ アヤ

「田原美嘉」 マイクごしに

先生に呼ばれた名前。

「…………はい」 小さく返事をして

立ち上がった。

全員の名前を呼び終え、クラス代表が前に 出る。

ノゾムだ。 ノゾムが代表だなんて…

かなり意外。

アヤはノゾムの姿を 切なげな表情でじっと見つめている。

ノゾムが校長先生から卒業証書を受け取り、 戻ろうとした時…

「先生~三年間ありがとうございまし た~!」

ノゾムは大声でそう叫びながら担任に頭を下 げた。

生徒や保護者が ざわつく。

…そりゃそうだ。

卒業証書を受けとる時、叫んだ人なんて滅 多にいるはずがない。

ノゾムは何事もなかったように席へと戻っ た。

何を思ってそんなことをしたのかは よくわからない。

だけど…

きっと何か伝えたかったんだと思う。

“ありがとう” を伝えたかったんだよね…?

だからノゾムは 代表になったのかな。

クラス全員が席についた時、 再びアヤが振り返った。

「あいつ相変わらずバカだね…」 アヤの目には

涙がたまっている。 今にもこぼれ落ちそうだった。

卒業証書授与は、 ヒロのクラスへ進んだ。

「桜井弘樹」

「はい。」

懐かしいヒロの名前と ヒロの声。

聞けるのはこれが 最後かもしれない。

帽子をかぶったヒロの後ろ姿を見ては何度 も目をそらし、 それを何回も何回も続けていた。

全クラスの卒業証書授与が終わった瞬間、 体育館は突然真っ暗になり…

悲しい音楽と同時に 大きなスクリーンがゆっくりと降りてき た。

スクリーンには数々の写真や映像が流れ る。

入学式 宿泊研修 学校祭 体育祭。

修学旅行 調理実習

普通の授業風景。

スクリーンの中では、 みんなとても楽しそうに笑っている。

辛いことや苦しいことなんて誰だってある よね。

だけど一瞬でも笑えてたこと… 楽しかったこと… 感謝しなくちゃ。

ここに緊張しながら座っていた入学式。

不安と期待が入り混じって複雑な気持ちだ った。

高校生活、 平凡に楽しく過ごせればいいや!! そんなことを思っていたんだ。

この三年間たくさんのことがあったね。 とてもじゃないけど 平凡とは言えなかった高校生活。

だけど だけどね…

大好きな友達に会えた。ヒロに会えた。 初めて本気の恋をして、失う怖さを知った。 大好きな友達に支えられて、

仲間の大切さを知った。

ここでたくさん成長することができまし た。

…ありがとう。 本気にありがとう。

この学校に来て、 本当に良かった。

校歌斉唱の時には化粧は崩れ、 涙で歌うことが出来なかった。

三年前…

式は終わり退場。

入場と同様、 吹奏楽に合わせ担任の先生に続き出席番号 順に退場していく。

出席番号の早い号泣しているヤマトとすれ違 った時頭をコツンと叩かれた。

「バカ美嘉~泣きすぎ↑↑」

「……ヤマトこそ泣いてんじゃんっ!!」 通り過ぎるヤマトに聞こえるよう大声で叫ぶ

と ヤマトは振り向き自分の涙を拭いながら言っ た。

「うるせ↑ばーか↑」

退場する時は保護者席の間を通る。 その時ちょうど通路側に座っていたお父さ んに手紙を渡した。

実は昨日の夜、 家族に向けて手紙を書いたのだ。

卒業出来たのは家族の支えがあったから。 だけど今さら口でお礼を言うのはちょっと

気恥ずかしいものがある。

だから手紙を書いた。 いつ渡そうとか決めてはいなかったし、

渡すタイミングがあればその時に渡すつも りだったけど…

ちょうど退場するとき座ってる席を見つけ ることが出来たから…

今渡すことにした。

「これ、手紙書いたから!!」

お父さんとお母さんから目をそらしながら 手紙を渡し、 返事を待たずに教室へと歩き出した。

【お父さん・お母さん・お姉ちゃんへ。 美嘉はやっと卒業することができました。 お父さん…学校送り迎えしてくれてありが とう!お母さん…毎日お弁当作ってくれてあ りがとう!お姉ちゃん…悩んだ時話聞いてく れてありがとう!みんなに支えられて無事 卒業することができました。 感謝しています!

みんな大好き♪美嘉】

あの手紙を読みながら、どんな顔するか な…?

高校に入って 反抗期の時もあった。

毎日喧嘩したりした時もあったけど… 本当に感謝してるよ。

そんな事を考えながら、教室に戻り席に着 いた。

先生が来て、 ざわめいた教室は一気に静かになる。

「これから一人一人に卒業証書手渡すか ら、呼ばれたら前に出て来い。」

さっきノゾムが代表で受け取った卒業証書 が、

一人ずつに手渡されていく。

先生は生徒一人一人に何か言葉をかけ、 証書を手渡していった。

「次は、美嘉。」

席を立ち 教卓の前へ行く。

「美嘉は頑張りやさんだったな。辛いこと もあったと思うが、よく頑張った。大学に 行っても頑張るんだぞ。卒業おめでとう。」

先生は美嘉の頭をポンッと叩き、 卒業証書を差し出した。

卒業証書を 先生の手から受け取る。

「先生、三年間あ…りがとうごじゃいまし た…」

涙と鼻水で顔も声もぐちゃぐちゃだ。 中学校の卒業式も泣いたけど…

ここまでは泣かなかったなぁ。

卒業証書がクラス全員の手に渡った時、 先生は言った。

「チャイム鳴るまで自由にしてていいぞ。 他のクラスにも行っていいし」

廊下が 一気にうるさくなる。

みんな他のクラスに移動して写真を撮った りしているみたいだ。

「メッセージ書いて♪」 イズミが卒業アルバムの最後にある白いペー

ジを 開いて差し出した。

「あっ、イズミも書いてぇ!!」

机の中からアルバムを取り出し、 イズミと同様白いページを開いてイズミに差し 出す。

ペンを出し、 メッセージを書いた。

【イズミ、卒業しても友達だからね!!美嘉】 ありきたりの言葉だ。

本当はもっとたくさん言いたいことがある よ。

感謝すること、 伝えたいことがたくさんある。

だけどこんな小さなスペースじゃ 書ききれないんだ。

「イズミ出来た~!!」

「ありがと♪シンタロウ達にも書いてもらおう!」 アルバムを抱え、

シンタロウとヤマトのもとへ向かった。

「シンタロウ~ヤマト~メッセージ書いて♪」 教室中に響く大声で叫ぶイズミ。

「いいよ~」

「仕方ねぇな~↑」

美嘉も二人に向かって アルバムを渡した。

「仲間に入れてぇ♪」

割り込むアヤ。

「あっ、アヤも後でメッセージ書いてね!!」 美嘉の頼みに

アヤは嬉しそうに頷いた。

「ほら、書けたぞ。」 シンタロウからアルバムを受け取り、

それをアヤに渡す。

アヤはメッセージを書きながら小さい声で呟 いた。

「あとでノゾムに話かける時、ついて来ても らっていいかなぁ…?」

不安げなアヤの顔。 その不安をどうにか取り除いてあげたいと

思い、舌を出して指で○を作ってみせた。

「はい、完成~♪」 みんなが書いてくれた

メッセージ。

【美嘉は本当に大好きで大切な親友だよ! これからもずっとずっと末長くヨロシク ね!イズミ

卒業おめでとう。大学でも頑張ろうな! シン タロウ

バーカアーホチービ!よく頑張ったな! ヤマ

美嘉ぁぁぁ三年間ありがとう!!大学でもよ ろしくねぇ☆アヤ】

イズミからのメッセージが滲んでいる。

…涙かな??

アルバムをケースにしまい、 大切に大切に抱きしめた

…そういえば。

“メッセージ” って言葉を聞いて思い出したことがある。

立ち上がり、 教室を出た。

「美嘉どこ行くの!?」

「すぐ戻るね!!」

この前マフラーを取りに学校に来た時、 図書室の黒板に書いたあのメッセージ。

なんとなく 気になったんだ。

見に行かなきゃいけないような気がした の。

もう、 あそこに行くことはないから…。

図書室のドアに 手をかける。

遠くの教室や廊下はざわざわしているのに ここだけは静かだ。

なんでだろう 胸がドキドキしている…

ガラララ

ゆっくりと ドアを開けた。

「……眩しい」 窓から差し込む眩しい光に目を閉じる。 黒板にちょうどよく光が当たって、

黒板の文字が見えない。

少しずつ黒板に近寄り、手で眩しい光を覆 った。

【君は幸せでしたか?】 この前書いた

メッセージ。

その下に小さく白いチョークで書かれた文 字。

【とても幸せでした。】 誰が書いたのかはわからない。

ヒロじゃないかもしれない。

だけど書いてある。

“とても幸せでした” そう書いてあるよ…。

キーンコーン

チャイムの音が耳に響き体がビクッとす る。

これを書いてくれたのが例えヒロじゃなく ても、それでもいい…。

誰かが答えてくれた。 幸せだと言ってくれた。

それだけで満足なんだ。 黒板の文字を残したまま

図書室を出て教室へと向かった。

「おかえり~!」 その時、

先生が教室に入って来て叫んだ。

「おまえら外に出ろ~もう学校は閉める ぞ!」

マフラーを巻いて、 机の傷や窓から見た景色を目に焼き付け 教室を出た。

廊下…。 友達と楽しそうに笑いながら歩いてる姿

や、 泣きながら廊下の隅にうずくまってる自分 の姿が幻のごとくよみがえる。

そしてその幻も、 すぐに消えてしまった。

階段を一歩一歩三年間を振り返るように降 りる。

もうこの階段を 上がることはない。

お世話になった校舎に感謝をしながら外に 出た。

校門の前にはまだたくさんの生徒が集ま り、

別れを惜しんでいる。

美嘉はユカを探していた。 ユカとは一年の時だけ同じクラスでいつもアヤ

を含め三人でいた。

クラスが離れてからあまり話しはできなか ったけど、大切な友達だから。

話したい。 人ごみに紛れたユカの姿。

「ユカ~!!」

この声はユカに届くのか。 ユカは美嘉に気付き、

笑顔で走って来た。

「美嘉~卒業おめでとぉ!」

「ユカぁぁぁぁおめでとう!!」

「卒業しても遊ぼうね♪約束だよ!?」

「うん、ユカいろいろありがとう…遊ぼう ね!!」

ささいな会話を交わし、手を振って別れた。 イズミ達のいる場所に戻ろうとしたその時… ドンッッ

走った勢いで 誰かにぶつかる。

「…ごめんなさい!!」 頭を下げ歩き出そうとしたが、

その人はなかなか前をどけてはくれない。

……何?? 邪魔だなぁ。

早くイズミ達のところに行きたいのに。

眉間にしわを寄せて 顔を上げた。

…ミヤビだ。 ミヤビには

いい思い出が全くない。

争いを避けるため通り過ぎようとした時、 ミヤビは小声で言った。

「…ごめん」 何を言っているのか

聞こえない。

「……え??」 思わず聞き返すと

ミヤビは少し怒ったように言った。

「だから~…いろいろごめんって言ってん の!」

最初は理解出来ずにいたが、 冷静に考えてやって気が付いた。

ミヤビは謝ってるんだ。

“ごめん”

ミヤビの言ったこの言葉はとてもじゃないけ ど謝ってるようには聞こえなかった。

でも… きっと勇気を出して言ってくれたんだよ ね。

赤ちゃんのこと。 人殺しと言われたことはきっと忘れない。 きっと許せない。

だけど、 もういいんだ。

謝ってくれたから許すとかじゃなくて、 誰だって好きな人のことになると必死にな るのは当たり前だし…。

うまく表現できないけど卒業式だから無礼 講って感じかな??

「元気でね!!」 笑顔でミヤビにそう言って

再びイズミ達のもとへ歩き出した。 イズミ達の姿が見えた時…

「美嘉!」

誰かに呼ばれた声で振り返る。 今度はノゾムか…。 なかなか目的地に

たどり着けない。

「卒業おめでとさん」

「おめでとっ!!」

「大学行くんだろ?頑張れよ!」

「ノゾムは働くんだっけ?お互い頑張ろう ね!!」

ノゾムと話していて、 アヤのことを思い出した。

「じゃあ俺帰るから…」 帰ろうとするノゾムを

無理矢理引き止める。

「ちょっとここで待ってて!!」 アヤのもとへ走り、

アヤに耳打ちする。

「アヤ!!ノゾムあっちで待ってるからちゃんと 話して来なよ!!」

不安な顔をするアヤ。 わかりやすい。

「…え、どうしよう…大丈夫かなぁ?」

「大丈夫だって!!アヤ、後悔しないように頑 張れ!!」

アヤは気合いを入れ、 ノゾムがいる場所へと歩き出した。

ようやく目的地であるイズミ達のところへ たどり着く。

“後悔しないように頑張れ!!”かぁ。

…美嘉が言える立場じゃないのにね。 人には言えるのに、

どうして自分じゃ出来ないんだろう。

でも、自分が後悔したからこそ友達には後 悔してほしくないんだ。

しばらくして アヤが戻って来た。

「最後に話せて…良かったぁ!ありがと う…」

アヤの表情から不安は消え何かをやりきった 顔をしていた。

校門の前にたくさんいた生徒も 次第に減り始める。

「そろそろ行く??」 今日の卒業パーティーをする予定のカラオ

ケに向かおうと帰り道に目線をやったその 時…

少し遠くに見えた姿。

それはまぎれもなく ヒロの姿。

美嘉はヒロの後ろ姿を見つめながら、 心の中で

“サヨナラ”を告げた。

「行けよ」

背後から聞こえる シンタロウの声。

「………え??」

「最後なんだぞ?行ってこいよ」 シンタロウは親指で

ヒロを指さしている。

「優さんには秘密にしといてやるって↑↑」 ヤマトが美嘉の頭を

ポンポンと二回叩く。

「私がカバン持っててあげるからさ!早く 行っておいで!」

イズミが美嘉の持っていたカバンを強引に奪 った。

「でも……」 勇気が出ない。

一歩が踏み出せない。 意気地なし。

「後悔しないように頑張れ♪さっき美嘉が あたしに言ってくれた言葉だよ~!」

アヤが美嘉の肩を後ろからポンッと押し…

その反動で、 美嘉は走り出した。

まだ雪溶けで少しびちょびちょの地面。 はねた泥水で制服が汚れることも気になら

ない。

必死で走った。 好きだった…

大好きだったあの人のもとへ。

ヒロの背中は、 だんだんと近づく。

ヒロは追い掛けてくる足音に気付いたの か、

足を止めゆっくりと振り返った。

立ち止まり 息切れをする美嘉。

ゆっくり振り向くヒロの顔を見ることが出 来ずにただただ地面を見つめていた。

おそるおそる顔を上げ、ヒロの顔を見る。

太陽の光が眩しくて あまり見えない。

でも、わかる。 微笑んでいるのは わかるんだ…。

「よぉ」

ヒロが先に 沈黙を破った。

「そ…卒業おめでとっ!!」 裏返る声。

全ては緊張のせい。

「…元気か?」 ヒロは微笑んだまま

静かに話す。

「うん!!ヒロは…?」

「俺はまぁまぁだな。」

………沈黙…。

重い時間に耐えられず、美嘉は必死に話題 を探していた。

「今日も帽子かぶってるんだねっ…」 ヒロは帽子をぎゅっと掴み、舌を出して答

えた。

「帽子が俺のマイブームだって言っただ ろ!」

何て声をかけたらいいのかわからず、 言葉に迷っていた時…

ずるい…。

光に照らされた ヒロの笑顔。 あの頃のまま。

美嘉の大好きだった顔。

「美嘉は大学行くんだよな?頑張れよ」 なんで

知ってるんだろう。 ノゾムが言ったのかな??

「うん頑張る!!」

ヒロの卒業後については何も聞かなかっ た。

もし、 もし○×音楽専門学校に行くって聞いたら 後悔してしまうような気がしたから…。

再び沈黙が続く。 空の上で鳥がチチチッと鳴いた時

「あのっ…」

「俺…」

二人は同時に話し始め、声が重なった。

「あ…ヒロから言っていいよ!!」

「美嘉から言え。俺は大したことじゃねぇ から」

ポケットから、

指輪を取り出す。

……ヒロから貰った ペアリング。

いつか返そうと思って 制服のポケットに入れたままだった。

持ってたらヒロのことを思い出してしまい そうだったし、

今美嘉には優がいる。 だから…

指輪を一回ぎゅっと強く握りしめ、 下を向いたままヒロに差し出した。

「これ返すね…」 ヒロの動きは止まり、

何も言わず手の平から指輪を受け取った。

顔を上げてヒロの表情を探るように見る。 ヒロはとても寂しそうに笑っていた。

ヒロにこんな顔させたくなかったけど、

美嘉はクリスマスの日、優を選んだんだ…。 最初に手を離したのは、ヒロだよ?? そんな寂しそうに

笑わないで…

昔みたいにバーカ!って言いながら頭叩い てよ。

お前と別れて正解だったな!って… イヤミ言ってよ。

美嘉が知ってるヒロは そんなふうに強い男だから…。

「……ヒロの話は??」

さっき同時に話し始めた時何か言おうとし たよね??

俺… って言ったよね??

「…なんでもねぇよ。だから気にすんな!」 それ以上聞かなかった。いや…聞けなかっ

た。

聞くのが怖かったし… 聞いても答えてくれない気がしたから。

この時聞いていれば… 無理矢理にでも聞いていれば良かったの に…。

「そっかぁ…」 ポツリと答えると

ヒロは真面目な顔で言った。

「…美嘉は 幸せだったか?」

【君は幸せでしたか?】 図書室で書いたメッセージと同じ質問。

あの答えを書いたのは、 ヒロだったのかもしれないね。

「うん。すごい幸せだったよ…」

【とても幸せでした。】 美嘉が言った言葉も、

図書室の返事と全く同じ

ヒロはその答えを聞くと再び微笑み、 美嘉の頭に手をのせた。

「お前は相変わらずチビだな。早く背伸ば せよ」

…いつもの意地悪で強いヒロ。 やっぱり美嘉はいつもの強いヒロが好きだ

よ。

………好きだったよ。

寂しく笑うヒロよりも、強いヒロが…。

「バカヒロっ!!」

心は泣いてるのに なんで笑ってるんだろ

ヒロの足を軽く踏む。

「俺の足を踏むとはいい度胸だな。チビ!」

「ヒロが巨人なの!!」

二人で笑い合っていたその時、 ヒロが右手を差し出した

笑顔は 一瞬にして消える。

もう別れの時間なんだ。

右手を差し出し、 ヒロの手を握った。

「美嘉、絶対幸せになれよ」

「…ヒロもね!!」

最後… 精一杯の笑顔で 繋いだ手を解く。

ヒロは後ろを向き 歩き始めた。

右手をあげ、 振り向かず去ってゆく。

川原で別れた あの日のように…。

ただ一つ あの日と違うこと。 もう一生会えないんだ。

学校はヒロと会えた 唯一の場所。

卒業…

これからヒロが髪形を変えたとしても 誰かと結婚してもどこかへ引越してもわか らない。

“一生会えない” それは大袈裟かもしれないけど…。

もう会えない。 そんな気がするの。

友達も将来も想いも、 一緒にいた頃とはお互い全然変わってしま った。

流れゆく月日が 二人を変えた。

これからは本当にお互い知ることのできな い別々の道を歩んでいくんだ。

ヒロが幸せになれればそれでいいって思っ た。

だけど…ただ傷つくのが怖かっただけなの かもしれないね。

ずっと諦めずに追い掛けるつもりだったの に、 気付けば立ち上がることさえ怖くなってし まって

ヒロにすぐ彼女が出来たから? もう戻れないとわかったから??

そんなの今となれば言い訳にしか聞こえな いね。

後ろを振り返ることは、前に進めなくなる ことだと思っていた。

この三年間を思い出す日がいつか来るだろ う。

でもこれからは後ろを振り返り、 弱かった自分を見つめながらゆっくり前へ 進むよ

走ったりはしない。 ゆっくりと…。

恋してたくさん泣いて、たくさん嫉妬して… あの時流した涙は今思えばすごく痛々しく

て醜かったかもしれない。

でもそんな涙や苦しくて悩む姿さえも、 きっとすごく輝いていたね…。

この三年間で、 確実に強く変わることが出来たよ。

【君は幸せでしたか?】 美嘉はすごくすごくすごく幸せでした。 あなたに会えて、

良かったです。

握手をした手が離れた時 本当は涙がこぼれてしまいそうだった。

だけど泣かなかったよ。 涙でヒロの顔が見えなくなるのが嫌だった

の。

それにもしいつかヒロが美嘉のことをほん の少しだけでも思い出してくれる日が来た ら

泣き顔より笑顔を思い出して欲しかったか ら…。

繋いだ手のぬくもりが、今もまだこんなに 熱い。

ヒロの姿を最後まで見送ることが出来ずに

イズミ達のもとへ走った。

「美嘉よく頑張った。」

「偉いぞ↑↑」

「勇気出して良かったね!」 シンタロウとヤマトとアヤが

優しく微笑んでくれる。

「美゙嘉゙ぁ~よ゙ぐや゙っ゙だぁ~…」 泣きながら頭を撫でてくれたイズミ。

美嘉も泣きながらイズミに抱き付いた。

「み゙ん゙な゙あ゙り゙がどぉ゙ぉ゙」

みんながいてくれて 良かった。

本当に良かった。

落ちついた頃、 溶け残った雪をハンカチに包み目を冷やし ながら歩き始めた。

三年間お世話になった校舎は改めてみると 意外に大きくて古くて…

三年間もいたのに、 そんなことにも気付かなかったんだ。

みんなで校舎に向かって深く頭を下げ校門 を出た

無事に“卒業”

出来たよ。

卒業証書を手に持ったまま、 駅前のカラオケへと向かって歩き出す。

前々から計画していた、“卒業パーティー” の会場だ。

全員カップルで 集まる予定。

…と言っても知らないのはヤマトの彼女だけ。

カラオケに向かう途中、ヒロと二人で行っ た川原の前を通った。

泣きながら自転車こいで 泣きながら思い出の曲を聞いた。

泣きながらこの川原に来て、

泣きながら幸せだった頃の二人を思い出し た日もあった。

そんな日々も、 いつか笑って話せるようになろう…。

人は涙流したぶんだけ強くなるって言うけ ど、

人は悩んだぶんだけ大人になるって言うけ ど、

涙を流したり悩んだりすることができると いう事実が、

大切な過程なんだよね。

アヤがケンちゃんに電話をかけた。

『さっき学校出て今カラオケ向かってる! うん、あと 10 分くらいで着く~♪』

電話を切ったアヤは 満足げな顔で言った。

「ケンちゃんと優さんもうカラオケの前にい るってぇ!」

…優… なんとなく後ろめたい気持ちがある。

罪悪感?? 会って普通に接すること出来るかな。 ヒロと話したことは、

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