言わないほうがいいよね
カラオケの駐車場に ケンちゃんと 優が立っている。
平静を装い、 おずおず優に近づいた。
「卒業おめでと!」 優の笑顔に心が痛む反面
なぜか妙に 心が安らぐ。
「…ありがと!!」 軽くお礼を言い、
みんなはカラオケの中へと入って行った。
自動ドアが開き中に入ろうとした時、 優は美嘉の手を強く引き再び駐車場へと連 れ出した。
「どうしたの??」
困る美嘉をきつく抱きしめる優。 あまりに突然の出来事。
「良かった…美嘉もう来ぇへんかと思った わ…」
「え?ちゃんと来るよ?なんで??」 抱きしめる力が
さらに強まる。
「なんとなくそんな気がしとった。でも来 てくれて良かったわ…」
…あぁ、そっか。 優も不安だったんだ。
美嘉がヒロの所へ行っちゃうかもしれない って
不安だったんだ…。
心配かけてごめんね。 美嘉ね、
ちゃんと戻って来たよ。
優はゆっくり体を離し、ポケットから何か を取り出し顔にあてた。
「…冷たっ!!」 顔にあてたのは
小さい袋に入った氷。
「泣き虫な美嘉のことやから絶対泣いてる と思って用意しといたで。」
「…もう氷溶けてるよぉ!!」
笑いながら氷を顔から離すと、 優はその氷を強引に美嘉の目につけた。
「ちょっと早く買いすぎたんかな。俺せっ かちやから!とりあえず冷やしておきぃ」
カラオケからが出て来たヤマトが二人の姿を 見つけて少し遠くから叫ぶ。
「イチャイチャしてるお二人さん↑突然い なくなったからみんなビックリしてたぜ↑ 受付済ませたから部屋行きますよ♪部屋で イチャイチャして下さいな~↑」
優の左側に移動し 優の手を握る。
あえてヒロと握手をしたほうの手で 優の手を握る。
何も知らない優。 罪悪感で胸が痛む美嘉。
二人は別々の気持ちを抱えたまま、 カラオケの部屋へと
向かった。
「俺今から彼女迎えに行ってきま~す↑」 嬉しそうに部屋を出て行くヤマト。
残ったみんなはとりあえず食べ物や飲み物 を
大量に注文する。
例え学校を卒業したとしても制服を着てる ので
お酒まずい。
…仕方ない。 今日はソフトドリンクを頼もう。
まぁ、 お酒が嫌いな美嘉にとってはラッキーだけ ど♪♪
そして話題は ヤマトの彼女の話になる。
「ヤマトの彼女ってどんな子なん?」
みんなに問い掛ける優。
「あ~俺も気になってたぁ♪♪」 ケンちゃんも興味津々のようだ。
まぁ美嘉も 気になるけど…。
「私達も見たことないんですよ~でもヤマト をあそこまでギャル男に変えるんだから、 きっとギャルだと思う!ね、美嘉!」
イズミが美嘉に 同意を求めた。
「うん、絶対ギャルだよっ!!」 その時タイミングよくドアが開き、
みんなは一斉にツバを飲み込んだ。
とても嬉しそうなヤマトと手を繋ぎながら入 って来たセーラー服の彼女。
「じゃじゃーん!俺の彼女のマイミちゃん↑↑」
「マイミと言います。よろしくお願いします。」
マイミちゃんは想像してたギャルとは正反対 で、
色白でほっそりとしたお嬢様系。
清楚で整った顔立ちに、セーラー服がとて も良く似合っている。
前にヤマトが言っていた
「彼女処女だからさ♪」 この言葉、
今となっては信頼性がある。
「え~!!めちゃめちゃかわいいし!!」
「ヤマトにこんなかわいい彼女が出来るなん て俺は認めねぇぞ!」
ブーイングの嵐だ。 ヤマトはそんなブーイングを無視し、
自慢げに笑っていた。
「マイミちゃんてギャル男が好きなの?ヤマトに そう言ったんでしょ?」
イズミが不思議そうに 問い掛ける。
マイミちゃんは頬を赤らめ ヤマトを気にしながら答えた。
「私ギャル男が好きとかじゃなくて…強く てたくましい男が好きって言ったんです…」
みんなの視線は ヤマトに向けられる。
どう見ても
“強くてたくましい男”には見えないけ ど…。
ヤマトはその視線に気付き興奮気味に立ち上 がった
「だって強くてたくましい男と言えば、ギ ャル男だろ?!↑」
全員は首を横に振り ため息をつく。
「俺間違ってる?!↑」 うん。
相当間違ってる。
でもそんなこと… 言えるわけがない。
アヤが全体を まとめた。
「ヤマトとマイミちゃん座って~卒業パーティー 始めよぉ♪まずは乾杯!グラス持ってぇ~!」
一人一つの グラスを持つ。
「卒業祝いということで…」 優がお祝いの
言葉をかけ…
「「乾杯♪」」 声を揃えて
グラスを合わせた。
好きな歌を入れ、 自由に歌う。 順番なんて関係ない。
歌いたい人が歌う。 下手でも気にしない。
これがみんなで決めた カラオケに来た時の約束だ。
「マイミ何か聞きたい曲ある?↑」 マイミちゃんに寄り掛かる
ヤマト。
こんなヤマトの姿は滅多に見れないから貴重 だ。
一応目に焼き付けておくとするか…。
「じゃあ卒業だから卒業 song 歌って~♪」 イズミがラブラブな二人の会話に割り込ん
だ。
「イズミには聞いてねぇよ↑マイミちゃんに聞い てんの~♪↑」
「ヤマトのケ~チ!」 下唇を出していじけるイズミの横で、
シンタロウがリモコンを手に取り
ピピピっと曲を入れる。
19 の
“卒業の歌、友達の歌”だ。
イズミが卒業 song を歌ってとヤマトに言ってた のを聞いて入れたのだろう。
表情を見ると、 少し怒っている様子。
もしかしたらイズミが自分に頼まないでヤマト に頼んだから、 ヤキモキ焼いてるのかも…。
でもしっかり卒業 song を入れてるあたり は、
シンタロウの優しさだ。
曲が始まる。 ポテトをくわえながら
じっくりと歌詞を見つめていた。
“卒業の歌、友達の歌” 終わることを僕らが意識し始めた時急に
時間は形を変えた
「退屈だ」と叫んでいたなんでもない毎日 が
今では宝物です。
裏切りや嘘も… だけど…だけど信じていたよ?
校舎の陰で泣いている時間はもう戻って来 ないけれど
いつも思い出はそこにいて今でも待ってい る…
そしてまたここにそんな時を止められずに 泣いてるこれからの君がいる
そんな君に今だからこそ伝えたいいくつか の言葉が見つかりました
その時は「終わる」じゃなく「始まり」と いうことを…
今日があの頃と呼ばれても そこには距離と言う邪魔者がいても
行こう!ぬるま湯に風邪引いて臆病になる 前に…
君に届け!この想いまっすぐ! 忘れないで?君は一人じゃない 辛くてもそれでも進むなら 飛べるだろう、君は必ず飛べるだろう
汚くて泥だらけの川でもそこに落ちたとし ても
這いあがる「時間」が翼になる
大きく!強く!
校舎の陰で待っている時間はもう戻って来 ないけれど
行こう!思い出はそこにいて今でも待って いる
あのままで… 笑ってる…泣いている…笑ってる… 歌を聞いて、
部屋を飛び出た。
別に 悲しいわけじゃない。
なのに涙が 止まらない…。
外に飛び出て、 自動販売機の横でうずくまって泣いた。
枯れるほど泣いて、 もう涙は出ないと思っていたのに…
不思議だね。
「どないしたん?」 上から聞こえる声に
ゆっくり顔を上げる。
…優だ。 祈ってた。
声をかけた相手が
優じゃないことを…。
なんとなく 優にはこの涙を見られたくなかったんだ。
「ちょっと卒業するのが寂しくなっただ け…」
本当のようで 嘘のような言い訳。
でも、 自分でもなんで泣いているのかわからない から
しょうがないんだ。
「立てるか?」 優は美嘉を起こそうとしたが、
美嘉は地面に座り込んだまま動けなかっ た。
優もそのまま地面に座り込み 服のそでで涙を拭く。
「卒業はな、一生の別れやない。さっきの 歌詞にもあったみたいにこれからがスター トやで!」
優の言葉でさらに声を上げて泣き、 そして言葉が自然に
出てきた。
「優…ごめんなさい…美嘉今日ね、ヒロと話 したの…」
「…元彼か?」
ゆっくりと 頷いた。
「話してどうやった?」
低く落ち着いた声で問う優。 その冷静さは作っているようにも感じられ る。
「…指輪返して…幸せになれって言われて 握手してそれであ…のね…」
泣きすぎたのか 止まらないしゃっくりが言葉を邪魔する。
「指輪返したん?」 優の表情をうかがいながら小さく頷く美
嘉。
優は美嘉の両手を取り、縦にブンブンと振 った。
「偉かったな。辛かったやろ?よく頑張っ た。正直に話してくれてありがとな」
ヒロと話したことを優に秘密にして… 心の奥でもやもやしていたのかもしれな い。
その証拠に 今心のもやもやが 消えてゆく。
全てを優に伝えたら 怒られるかと思ってた。
でも優は、 どんなことでも受け止めてくれる人だって ことを忘れていたよ…。
「このまま抜け出して海行かへん?」
突然の提案。
「え…大丈夫かな??」 優はあっけらかんと
答える。
「電話すれば大丈夫やろ。みんなもそれぞ れカップルやしな!行くで!」
優が先に立ち上がり、 そして美嘉の片手を引いて起こし その手を繋いだまま車へと向かった。
行く先は…海。 二人が始まった場所。
海に向かう途中、 優はケンちゃんに電話をかけた。
『俺ら今からちょっと海行くから伝えとい てくれへん?…あ、変わる?ちょっと待って な。』
優は美嘉に携帯電話を 手渡す。
「美嘉と変わりたいらしいで!」
『もしも~し、美嘉に変わりましたぁ』
『美嘉!いきなりいなくなって!本当にも う!』
この声はイズミだ。
『ごめん~…』
『でも声元気だから安心したよ♪あ、ちょっ と変わるね!』
さぁ、 次は誰かなぁ。
『もしも~し♪美嘉抜け出すなんてやる ぅ~♪』
…アヤだ。
『アヤもケンちゃんと抜け出して~ラブラブし ちゃえってぇ!!』
『そうするぅ♪あ、シンタロウが優さんと仲良く ねだってぇ!』
『避妊しろよ~↑』 電話の後ろで叫ぶ声。
こんなことを言うのはヤマトしかいない。
…あえて無視しよ。
『はぁ~い。じゃあまた遊ぼうねっ!!』 電話を切って
優に返す。
「ええ友達やな!」
「…うん!!」
優の言葉が とても嬉しかった。
別に美嘉が褒められたわけじゃないのに… 自分が褒められたような気分になってい
る。
そして車は 海に到着した。
まだ肌寒い風 潮のかおり カモメの声。
波は絶えることなく大きな音を鳴らしてい る。
残念ながら今日はあいにくの天気で、 夕日が雲に隠れてしまっている。
たまに雲間から見える夕日が眩しくて、 それもまた好きだったりもするんだ。
「水入って遊ぶか?」 優が美嘉のほっぺをつねりながら
顔を覗き込んだ。
「ん~ん、今日はねぇ やめとくの!!」
今日は騒ぐよりも 黄昏れたい気分。
砂の上に腰をおろそうとしたが、 優に止められた。
「砂まだ少し濡れとるし制服汚れるやん。 俺の足の上座りぃ」
優は砂の上にドスッと音をたてあぐらをか き、
美嘉の体を足の上へと乗せる。
背が高い優の長い足。 あぐらをかいたちょうど真ん中にチビの美
嘉はピッタリとおさまるのだ。
ザザーン ザザーン
波の音を聞いて 浮かんだ光景。
それは優が美嘉に告白した時の光景。 自然と笑いが
込み上げてくる。
かすみ草をプレゼントして大声で叫んだっ け。
……冗談だったのに。
「何笑いこらえとんねん。もしかして今俺 が気持ち伝えた時のこと思い出してたや ろ?」
「べっつにぃ~♪」
優にはなんでも お見通しだ。
あ~怖い怖い。
「……………ような!」 一段と大きい波の音に、はかき消される優
の声。
「え?何??聞こえなかった!!」
「…なんかお互い伝えることとかあったら 海に来ような!」
優は波に負けない大声で確かにそう言っ た。
「うん、約束ね!!」 優のほうを向いて小指を出すと優も自分の
小指を出し 二人の小指が絡まった。
「指きりげんまん嘘ついたら針千本飲~ま す、指切った♪」
小指を離そうとするが、優はなかなか離し てくれようとはしない。
「指切らないの~??」 唇を尖らしスネたように言うと、
優はその唇にチュッと音を鳴らしてキスを した。
その瞬間 絡めた小指が離れる。
「約束な♪」
…優は美嘉をドキドキさせるのがうまい。 それが狙いなのか天然なのかはわからない
けど…
だって今も 胸がドキドキしている。
さっきまで不安や寂しさや悲しみであんな に泣いていたのに…
今はこんなにも ドキドキしているんだ。
「…優の夢って何?!」
まだ静まらない 心臓の音。
その音を掻き消そうとするかのように、 大声を張り上げた。
必死… 精一杯の話題。
「ん?俺の夢か。聞いたら笑われるかもし れへんしなぁ~」
優が照れくさそうな表情で言う。
「え、何何何~??」 優の夢。
聞いたことないなぁ。 聞きたい!!!
波の音に耳を澄ませながら、 返事を待っていた。
「…俺な、保育士になりたいねん。」
「保育士??」
「そう。人の笑顔を見るの好きやねん。そ れに、子供も好きやしな!」
「…そうなんだ!!」
優の夢は保育士。
やさしい優にはピッタリだと思うよ。 みんな夢があるんだね。
「美嘉の夢は?」 夢…。
━高校一年の秋━
「美嘉ってさー夢とかあんの?」
「うんとね~、お嫁さんになることかな ぁ!!ヒロは??」
「俺の夢は美嘉をお嫁さんにすること♪」
「あはは!バーカ!!」
「うるせ!美嘉は誰の嫁さんでもいいの か?」
「…良くない!ヒロのお嫁さんになるの!!」
「しょうがねぇな~俺の嫁にしてやるか! 俺ら同じ夢だな!」
…まだ若かったあの頃。 それでも、
その夢をずっと 信じていたよ。
海を見つめたまま ゆっくり話し始めた。
「美嘉の夢はね、英語に関わる仕事かなぁ。 英語好きだから、通訳とかになれたらいい かなぁ」
本当は… まだ夢なんてない。 わかんないの。
優…嘘ついてごめんね。 置いてかれるのが 怖かったんだ。
砂を手に取り、 パラパラと自分の靴にかける優。
「カッコイイ夢やな。美嘉ならなれるよ! 通訳になったら、海外旅行行った時には頼 むわ♪」
「うん、ありがとう。優も絶対いい保育士 さんになれるよ!!」
「ははっ、ありがとな!そろそろ車に戻る で」
将来は何になりたいとか みんなはもう考えたりしてるのかな。
叶わぬ夢を追っていた あの頃…
あの頃とはもう 何もかもが違う。
“将来” が近くにある。
これから大学に行き、
あっという間に卒業して社会に出ていろい ろな波に揉まれて…
きっといつか学生時代を… 今この時を羨ましく思う日が来るのか な??
大人になって行くのが、怖いよ。 まだ何も知らない
子供でいたいのに…。
「ほなまたなぁ。卒業おめでとさん!」
「優ありがと!!また近いうち遊ぼうね っ!!」
いつもと変わらず、 優はクラクションを二回鳴らして去った。
家に帰り、 今日貰ったばかりの卒業アルバムをペラペ ラと
開いてみる。
あのページは… 今はまだ見ない。 見たくない。
四人の写真が載っている写真のページ… いつか笑って開ける日が来ますように。
最後のほうのページに書いてもらったみん なからのメッセージを読み返し
微笑ましい気持ちになりながら すやすやと深い眠りについた。
高校生活を
…卒業した。
明日からはしばらく 休みが続く。
…そして四月からは 念願の大学生。
これから新しい生活が 始まろうとしていた。
卒業… 人生のほんのひとかけら
この三年間は 絶対に忘れない。
忘れない。 忘れられないから。
こうして美嘉はまた新たなる一歩を 進み始めた。
長いようで短かった