明日は 大学の入学式。
今日は優とケンちゃんとアヤに、
一人暮らしをする部屋への引越しを手伝っ てもらっていた。
「美嘉~テレビここでええの?」
「あっ、窓側に置いておいてぇ~♪♪」
家電などの重いものは優とケンちゃんが運 び、
雑貨などの軽いものは美嘉とアヤが車から運 び出す
とりあえずだいたいの荷物を部屋に運び終 えた。
後はダンボールから荷物を出し整理するだ け…。
それは焦らず、 ゆっくりやろうっと!!
一先ず落ち着き、
ダンボールに囲まれた部屋でくつろいでい ると
ケンちゃんが近くにあった卒業アルバムを手 に取った。
「これって卒アル?見せて見せて~」
「俺も見たい!」 隣にいた優も覗き込む。
「あたしの写真見ないでよね!」
「美嘉のもダメ~!!」
アヤと美嘉も一緒になって卒業アルバムを覗 き込んだ。
ページをぺらぺらとめくるケンちゃん。
そして開いたのは 例のページ。
美嘉とヒロとノゾムとアヤが四人でうつってい る写真が載っている
あのページ。
美嘉とアヤは目を合わせ、
そしておそらく心の中で同じことを祈って いた。
“何も突っ込まれませんように…“ そんな願いもむなしく…
ケンちゃんはその写真を指さした。
「え~もしかしてアヤの元彼?」 気まずそうに答えるアヤ。
「…そうだけど」
美嘉も優に聞かれたらどうしよう。 何て答えたらいいんだろう。
しかし優はその写真をじっと見つめたま ま、
何も聞いてこようとはしない。
不謹慎ながらも胸を撫でおろす。 早く違うページを開かなきゃ!!
そんな安心もつかの間…
「じゃあもう一人は美嘉ちゃんの元彼?」
悪びれもなく聞くケンちゃん。 一瞬時が止まる。
ケンちゃんは美嘉が元彼に未練があったこと など知るはずもないし、
しょうがないけど…
悪くないのはわかっているけど、
笑顔でデリカシーのない質問をするケンちゃ んに少し憎しみを感じる。
ケンちゃんのばかぁ!!
「…あ、次のページにあたし載ってるよ!」 アヤは話を変え、
次のページを開いた。
美嘉に向かって軽くウィンクをするアヤ。 助かった…。
優はその後も何も言わずただアルバムを見 ていた
「明日入学式でね~♪」
「遅刻するなよ!」
「ありがと!明日ねっ!!」
部屋から出て 車に乗った三人を見送った。
美嘉は一人部屋に戻り、荷物の整理を始め た。
今日中に終わらせるのは無理かも…。 とりあえず寝床だけは確保しなきゃね!!
この部屋のお気に入りは調節ができるダウ ンライトに白い床。
そして赤い扉。
始めての一人暮らし。 自分だけの部屋があるってなんか不思議。
ダンボールから家族で撮った写真を取り出 し、
壁に貼り付けた。
明日は大学の入学式… 楽しい大学生活を勝手に想像し、
そのまま眠りについた。
♪ジリリリリリ♪
うるさい目覚ましの音。 この目覚まし時計、
優からもらった引越し祝い。
これからはお母さんが起こしてくれるわけ ではない。
頼るは目覚まし時計のみ…。 優は寝起きの悪い美嘉のために、
大きい音がでる目覚まし時計を買ってくれ たんだ
入学式で緊張してるということもあり、 目覚ましがなった瞬間に飛び起きた。
いつもと違う部屋の風景にとまどいながら も
顔を洗い目玉焼きを焼いて食べる。
「今日はいい天気だぁ~!!」 南向きの窓からは眩しい朝日。
『今日は一日中快晴でしょう』
テレビの中のニュースキャスターのお姉さ んが言った。
初めて着るパリパリとしたスーツに袖を通 す。
スーツは大学の制服みたいなものだ。 スーツを着ると、
なぜか大人になれたような気分になってし まう。
大人っぽく変身した自分を想像しながら、 寝室に置いた等身大の鏡の前に立った。
…絶句。
童顔にスーツが全くと言っていいほど似合 っていない。
それどころか最近染めたばかりの金髪に近 い茶髪のせいで、
ホステスのようだ…。
そんな自分の姿にため息をつき、 メイクを始める。
歯を磨いて、 髪をセットすれば準備は Ok!!
気合いを入れてコロンなんかつけちゃった りして…。
そんなことをしているうちに入学式の時間 は迫り
美嘉は急いで家を飛び出した。
入学式の会場であるホテルみたいな会館の 前に到着すると、
アヤに電話をかけた。
『今どこ??』
『玄関の前にいるよ♪』 玄関まで走ると、
みんなはすでに集合している。
長身で黒ぶち眼鏡のシンタロウはなぜか妙にス
ーツが似合っていて、
最近高校を卒業したとは思えないくらい大 人びて見えた。
ギャル男から大分落ち着いたちょいギャル 男のヤマトは、 やはりどう見てもホストにしか見えない…。
お姉系でちょっと派手なアヤは、 美嘉と同様ホステスみたいだ。
イズミがスーツ着たら絶対似合うだろう な~…
イズミがここにいないことを少しだけ寂しく 思いながら、
会場へと入った。
それぞれ学籍番号順に席が決まっているた め、
案の定みんなはバラバラ
仕方なく指定の席に座っていると、 隣に誰かが座った。
きつい香水のかおり。 ちらっと見ると、 ものすごいギャル…。
髪は金髪と言うよりシルバーで、
ピンクの花みたいのを髪に二つつけてい る。
顔黒で、
つけまつげをつけているのか目のまわりは 真っ黒
唇を白く塗っていて、
黄色でキラキラとしたつけ爪が光ってい た。
この表現でどれくらいのギャルなのか、 伝わっただろうか…。
これは見て見ぬフリに限る。 今までたくさんのギャルを見て来たけど、
ここまで本格的なギャルは初めてだ。
何年か前に雑誌でよく見たことあるけど、 まさかこんな身近にいるとは…。
ギャルは別に嫌いではない。 どっちかと言うと美嘉もギャルだし。
でもあまりに派手な子はなんとなく性格が 悪そうなイメージがある。
あくまでイメージだけど…。 その時携帯電話がポケットで振動した。
着信:イズミ
イズミからだ。 出たいけど、
もうすぐ式が始まってしまう。 後でかけ直そう…
そう思い携帯電話をポケットにしまおうと した時…
「あ~!それウタと同じ機種ぢゃねえ~! !」 隣のギャルが美嘉の携帯を指さす。
そして自分のポケットからストラップが大 量についた携帯を取り出し、 美嘉の携帯の横に並べた
「ほらぁ~やっぱりぃ!!!!!同じ機種ぢゃ~ ん♪仲間仲間ぁ~!!!!!」
一人盛り上がるギャル。愛想笑いをする美 嘉。
「ぢゃあ~同じ機種ってことでぇ~ダチに なんない~ 名前はぁ~?あたしウタ♪変 わった名前でしょ!?ポエムの詩って書いてウ タだからぁ~!そっちはぁ?」
なんとなく、
理由はないけど悪い子じゃないような気が したんだ。
うまくは言えないけど、同じようなオーラ を持っている。
そんな気がして…
「美嘉だよっ!!よろしく♪」 ウタはニッと笑いながら、
携帯を開いた。
「Ok~美嘉ね~!!!!!今日からマブダチね♪連 絡先交換しよぉ~!!!!」
ウタもなんとなく美嘉に同じようなオーラを 感じていたのかもしれないと、今となって は思う。
ウタと連絡先を交換し、 式は始まる。
学長の話、 校歌などつまらない式…
一時間くらいで式は終わり、
式に参加したみんなは一斉に立ち上がっ た。
「美嘉ぁ~、メールとかするからぁ!!!!!まっ たねぇ~♪♪♪」
ウタはハスキーな声でそう叫び、 どこかへいなくなってしまった。
美嘉は再びアヤと合流。
「大学の学食食べに行こうよ♪」 アヤの提案で大学へ向かうことにした。
大学に向かう途中、 イズミに電話をかける。 さっき出れなかったから
♪プルルルルル♪
『もしも~し!』 電話を待ってた様子のイズミ。
『もしもし?ごめんね。入学式だったの!!』
『私こそごめん!今から大学まで遊びに行 ってもいい!?』
『えっ、いいよいいよ♪今アヤとちょうど大学 向かってるとこだし!!』
『良かったぁ~♪じゃあ正門で待ち合わせ ね!』
そして電話を切り、 美嘉は小走りで走った。
「なんで走るの!?」 驚いて目を見開くアヤ。
「イズミが大学来るって!!正門前で待ち合わ せ~♪」
「イズミちゃんに会うの久しぶりだね。あた しも走る~♪」
アヤも続けて小走りした。
正門前にはイズミが立っている。
「イズミ~♪」 美嘉とアヤが正門へ駆け寄ると、
イズミが笑顔で振り向いた
「久しぶり!スーツ着てる!入学式だもん ね♪」
久しぶりに再会した三人は学食へと向かっ た。
大学の学食はメニューが多く、 なんと言っても安い!!
三人はラーメンを頼み、席についた。
「イズミは今日資格の学校休み??」 美嘉がラーメンをすすりながら聞く。
「今日は午前で終わり~♪」 イズミはスープをすすりながら答えた。
「え!?イズミちゃん学校行ってるの!?知 らなかったぁ~!どこの学校?」
アヤがラーメンを食べる手を止め、 興奮気味に問う。
アヤはイズミがホームヘルパーの資格とりたい からわざと大学落ちたなんて知らないん だ。
やばかったかな…??
イズミは落ち着いた様子で答えた。
「資格とるための学校だよん!」
「へ~そうなんだぁ☆」
アヤはそれ以上は聞かずに納得。 不安が取り除かれる。
その時突然目の前が真っ暗になった。 それと同時に聞こえるイズミとアヤの笑い声。
「だ~れだ?」 その言葉でようやく状況を理解。
誰かが後ろから手で目隠ししているんだ と…。
この低い声…
「優!優でしょっ!?」
目隠しする手を離し、 後ろを振り向く。
なんとケンちゃんだ。
「彼氏の名前間違えるなんてヒドイな~!」 テーブルの陰から優が笑いながら出て来
て、 立ち上がった。
「騙すとかありえない~!!」 持っていた箸で優の指を刺す。
「あいたたた!悪かった悪かった♪」
学校で優とこんなふうに仲良く出来るなん て…
なんか夢のようだ。
これからもずっとずっと続くといいな。 K 大学を受験して、
本当に良かった!!
ご飯を食べ終わり、 サークル会館へ行くことにした。
前に一度見学した
“旅行サークル”に入る予定!!
旅行好きだし 優もいるしね!!
大学生ではないイズミも、一緒に旅行サーク ルに入ることになった。
正式な手続きをするために部室に行く。
「失礼しま~す!!」
前に一度ここに来た時はまだ制服で…緊張 してなかなか部室に入れなかったっけ。
でも、もうれっきとした K 大学生♪
そう思うと自信が持て、堂々と部室に入る ことが出来た。
なんと部室にはすでにシンタロウとヤマトがいて ちゃっかり手続きをしている。
行動が早い…。
「シンタロウとヤマトにもさっき偶然会ってな。部 室に連れて来たんやで」
シンタロウとヤマトも 偶然優とケンちゃんに遭遇したんだ。
大学って言ったってかなり広いのに、 よく偶然遭遇したな…。
くだらないことに感心しながら靴をぬいで 部室に入った。
ミドリさんが美嘉に向かって軽く頭を下げ る。
ミドリさんとは前に連絡先を交換したけど、 一度も連絡をとったことはない。
軽く頭を下げ返し、 サークルに入る正式な手続きをした。
手続きは終わり、晴れて
“旅行サークル”の一員になることが出来 た。
旅行サークルのメンバーは 35 人くらいい る。
今日たまたま部室にいた 9 人の人達に軽く 自己紹介などをし、
外が暗くなるまで話をしていた。
帰りは優に送ってもらい今日一日の疲れか らかスーツも脱がないままベットへダイ ブ。
その時ポケットで携帯電話が震えた。
メール受信:ミドリさん 一旦ベッドに横になった体を起こし
受信 BOX を開く。
《入学おめでと(^^)》
あまりに普通の内容に、再びベッドに倒れ 込んだ
携帯を手に取り、 カチカチと返事を打つ。
送信:ミドリさん
《ありがとうございまぁす(>_<)》 これで終わりかと思っていた。
しかしミドリさんからのメールはまだまだ続 く。
受信:ミドリさん
《美嘉ちゃんは優とうまくいってるの?》
そう言えば、 ミドリさんて優のこと好きっポイんだ…。
こんな時、 なんて返したらいいのかな?
《ラブラブです♪》って返したらイヤミっぽ いし
《うまくいってません…》なんて送ったらチ
ャンスだと思われるかもしれない…。
頭を抱えて悩んだが、 考えるのが面倒になり 曖昧な言葉で返事をした
送信:ミドリさん
《まぁまぁです(^^)》
それでもミドリさんはめげずにメールを送っ てくる
受信:ミドリさん
《私は今好きな人がいるんだよね(0_0)》
好きな人って、 きっと優のことだよね…
嫌な予感がする。
せっかく楽しい大学生活が始まったばかり なのに
サークルの先輩とライバルになるなんて…
また面倒なことになりそうだ。 送信:ミドリさん
《そうですか(*_*)》
嫌な予感をなんとなく察しながら、 そっけなく返すことにした。
ミドリさんは何がしたいんだろう…。
なんで好きな人がいるとか美嘉にそんなこ と言ってくるの??
全ては次に来るミドリさんからのメールでわ かるような気がして、 携帯電話を強く握りしめた。
♪ブーブーブー♪
携帯電話のバイブが指先まで響く。
軽く深呼吸をし、 受信 BOX を開いた。
受信:ミドリさん
《私ね、ケンが好きなんだぁ。。。》
…ケン?
「ケンちゃん!?」 勢いよく起き上がり、
一人なのに大声をあげてしまった。
ケンちゃん!? アヤの彼氏のケンちゃん?
ミドリさんの好きな人は優ではなくてケンちゃ んだったの??
美嘉は一人で息を荒くしながら返信した。
送信:ミドリさん
《いつから好きなんですか!?!?》
返事が待ち遠しい。
早く!! 早く来いっ!!
しばらくメールは来なかった。
かなり眠たいけど、 寝るわけにはいかない。
何度も目をこすり、
何度もあくびをし必死で起きていると携帯 電話が鳴った。
受信:ミドリさん
《実はねアヤちゃんとケンが付き合う前に、私 ケンと付き合ってたんだ。
でも喧嘩して別れちゃって…別れてからも ずっと好きだったんだよね(:_;)》
ミドリさんとケンちゃんが付き合ってた…?? じゃあミドリさんはケンちゃんとアヤが付き合い
始めた時辛くなかったのかな??
今日もアヤとケンちゃんが部室でイチャイチャ してるの見て、
苦しくなかったのかな…??
美嘉は高校の頃の自分を思い出していた。 ヒロと別れてヒロに新しい彼女が出来て、
それをずっと見て来た。
辛くて苦しくて、 悲しかった…。
美嘉はヒロを諦めた。 辛かったから…
ミドリさんはどうしてそこまでケンちゃんを好 きでいられるのかな??
そんなことを思いながら眠りについた。
その次の日からオリエンテーションなどが 始まり
履修する授業も決まり、普通の大学生活が 始まった。
ミドリさんには何てメールしていいのかわか らなくて、
返事をすることができなかった。 今日は昼まで授業がある
授業を終え、 アヤと食堂で昼食を食べていたその時…
「あれっ!!美嘉 美嘉ぢゃん !!今昼食 一緒に食べていい!!! ?」
このハスキーな声。
…ウタだ。
入学式で話しかけられてそれ以来。
と言っても入学式からまだ一週間しか経っ てないけど…。
ウタは今日も激しくギャルギャルだ。 髪や化粧は入学式のまま
胸元が開いたキラキラした白いニットのセ
ーターに、
パンツが見えそうなくらい短い黒のスカー ト。
アヤはウタを見て、 絶句している。
「あ、いいよっ!!一緒に食べよう♪」
美嘉がそう答えるとウタは机にかばんを置 き、
嬉しそうにご飯を注文しに行ってしまっ た。
「今の子…誰!?」
引きつった表情で美嘉の腕を掴み耳元で呟 くアヤ。
「あ、あぁ…入学式の時に仲良くなった 子!!」
「へ~超ギャルだね…」
「お待たせぇ!!!!!!」 ウタがカレーライスを持ってイスに座る。
「いっただっきまぁ~す!!!って感じ!!!」
そしてもくもくとカレーライスを食べ始め た。
スプーンをグーで握り、おいしそうに…。
「その子美嘉の友達~!! 」 ウタがカレーを頬張りながらアヤを見つめる。
「あ…うん!!高校からの友達のアヤ♪」
「アヤ~!!!!!よろしくだっちゃぁ♪♪」
ウタはあいてるほうの手をアヤに向かって差し 出すとアヤは手を握った。
「よ…よろしくぅ」
いつもテンションの高いアヤも、 ウタには圧倒されている様子。
「ねーねー美嘉とアヤはぁ~サークルとか入 る予定ありありぃ!?!?」
テンションの高いウタ。 笑顔がつられてしまう。
「サークル入ってるよ♪旅行サークル!!」 ウタは喉をつまらせたのか咳込み、
胸をドンドンと叩き水を飲みながら言っ た。
「旅行サークル!?何それぇ~ !ウタも行きた い!」
軽く頷くアヤ。
それは Ok のサイン。
「うんいいよぉ ♪ じゃあこれから部室行 く??」
「ぜひお願いしますって感ぢぃ~!!!」 ご飯を食べ終わったウタを連れ、
アヤと部室へ向かった。
「失礼しま~す!!」
部室にいるのは優とシンタロウ
「おー久しぶり」
「授業終わったん?」 美嘉はウタの手を引き、
部室に引っ張り込んだ。
「この子旅行サークルに入りたいんだって
♪」
「どもぉ~ウタでぇっす♪ポエムの詩と書い てウタって言いま~ぁす!!! よろしくなりぃ
♪♪♪」
シンタロウやその他の部員はア然とし、 部室は沈黙に包まれる。
沈黙の中。 優がプッと吹き出した。
「おもろい子が入って来たなぁ~!楽しく なりそうやな。この紙に名前と学部書いて や!」
優の言葉をきっかけに、雰囲気が明るく変 わる。
ウタは紙に名前と学部を書き、 顔をくしゃくしゃにして笑った。
「いんやぁ~ここのサークルイケメン多い だっちゃねぇぇぇ♪♪」
わざと優の腕を組み、 自慢げに言う美嘉。
「この人はダメだも~ん!!美嘉のダーリン だから♪♪」
なんとなく…
ウタにだったらこんな冗談も通じる気がした
んだ。
その予想は大当たり。
ウタは美嘉の頭を両手のげんこつでぐりぐり する。
「くっそ~!!!!!!マジかよぉ!!!超ガッカリぃ!! でも別にいいのだぁ♪」
そして頬を赤らめながら左手を前に差し出 した。
左手の薬指にはキラリと光るシルバーの指 輪。
「ウタには大好きなダーリンがいるのだ♪♪♪」 とてもとても幸せそうな顔で笑っていた。
ウタはあんまり学校には来ない。
理由はわからないけど、学校に来るのが面 倒でサボってるのかな。
それか彼氏とのデートで忙しいのかも。
ウタの彼氏は五つ上の 23 才普通のサラリー マン
プリクラを見せてもらったけど マジメそうな人だったな
ウタの彼氏だからイカツイ人だと思っていた だけに意外。
たまに… 本当たまーに学校に来て
その時は一緒に学食を食べたり部室に行っ たりもしていた。
アヤとウタも仲良くなって二人で遊んだりもし てるって聞いた。
大学に入学して一ヶ月が経った頃…
《寝坊したから今日学校サボるわぁ♪》 突然アヤから届いたメール 今日は一人か。
コンビニでアルバイト情報誌を買って学食
で一人で読んでいた時…
「よ~」
後ろから声をかけられ、ゆっくり振り向い た。
「ケンちゃん!!」
ケンちゃんはいつも優と一緒にいる印象があ るから一人なのは珍しい。
「ここ座っていい?」
「うん、いいよぉ!!」 ケンちゃんは美嘉の正面の席に座った。
「バイト探してんの?」 ケンちゃんはアルバイト情報誌を見て言う。
「バイトしないと家賃やばいんだぁ~…」 ケンちゃんと話す機会はなかなかない。
アルバイト情報誌を見ながら必死で話題を 考えていた。
…そうだっ!!
なかなか二人で話す機会がないからこそ、 二人の時にしか聞けないことを聞けばいい
んじゃない??
我ながらナイスアイディア!!
「あの…」
携帯をいじっているケンちゃんにさりげなく 話を切り出す。
「ん?どうした?」 ケンちゃんは携帯電話をポケットにしまい、
身を乗り出した。
「優って… 過去にどんな恋愛してきた の??」
優は過去の恋愛についてあまり話してくれ ない。 美嘉もあえて聞かないようにしている。
聞いてはいけないような気がしたから…
気になって部屋で元カノのプリクラや写真 を探してみたりしたこともあったけど、 結局は一枚も見つからなかった。
元カノとの思い出の品がないのはいいこと だけど…
やっぱり気になるじゃん??
どんな人と付き合ってたのかな~とか、 昔の彼女かわいかったのかな~…とか。
こんなこと気にするなんてバカみたいって 言われるかもしれないね。
でも好きな人の全てを知りたいって思うの
は、 当たり前だと思うんだ。
ケンちゃんはテーブルに肘をつけて少し悩ん だ様子で、
目線を地面へと移動した
「いやぁ~…俺わからねぇなぁ…」
声が裏返っている。 それは明らかに何かを隠している証拠。
“優は過去にどんな恋愛してきたの??” 優の過去の恋愛なんて
最初は軽い気持ちで聞いただけ。
今日ケンちゃんと二人で話す機会がなかった らおそらくずっと聞くことはなかっただろ うし。
でも今は違う。 ケンちゃんの焦りようを見て、 どうしても知りたくなった。
ってか聞かないとスッキリしないし!!
「絶対言わないから、教えて!!」
興奮して両手をテーブルに叩きつけて立ち 上がる美嘉。
「でも…」
「お願いします!!ケン様この通り!!」 両手をくっつけながら頭を下げる。
この熱意は伝わるのか…
「わ…わかったから座わって。そのかわり優 には言うなよ?」
美嘉はその言葉に腰を降ろし、 声を出さずに何度もうなずいた。
ケンちゃんは周りをキョロキョロと見渡し人 がいないことを確認すると、
カバンにはいってるペットボトルのジュー スを一口飲んで話し始めた。
「あいつ大学に入学したばっかりの時バイ ト先の 6 つ上の女と付き合ってたんだ。」
「6 つ上?!」
「そう。
優が 19 才で女が 25 才。 しかもその女結婚もしてて 3 才の子供もい た。
優もそれ知ってた」
「…じゃあ不倫??」
「まぁ世間一般ではそう言うよな。
でもその女も旦那より優のほうが好きだっ たみたい。
俺よく相談のってたし…なんか旦那がすご い酒乱だったって。」
非現実的な話。 ドラマでしか聞いたことのない言葉。
ケンちゃんは続ける。
「子供も優にすげぇ懐いてたんだ。
それである日優が女と会ってる時に女の携 帯に警察から電話来たんだって
“旦那が酒飲んで駅で暴れてたから保護し てる”って。」
「うん…」
「それで女が警察に行こうとした時、 優は“行くな”って言って止めたんだって。
そしたら女はそのまま迎えには行かなかっ たらしいんだ」
返事が見つからない。 ケンちゃんの言葉を ひたすら待っている。
「それが原因でその女は旦那と離婚するこ とになって、
優に懐いてた子供も“お前のせいでお父さ んとお母さんが別れたんだ”ってすごい泣 いたらしくて…そんでそのまま別れたって 俺は聞いた」
ショックなのか 悲しいのか。
よくわからないけど
あまりの衝撃に息をすることさえ忘れてし まう。
「あいつなんであの時…女の携帯に警察か ら電話来た時、
“行くな”って止めたんだろうってすごい 後悔してんだ。
好きな人の幸せのために背中押してやれな かったってかなり悔やんでた」
好きな人が幸せになるために背中押す。 それが正解なのかな。
優のしたことは 間違ってないよ。
好きな人が他の人のところへ行こうとして るんだもん。
行かないでって思うのが当たり前じゃん。
前にイズミが
「どんな人がタイプ?」
って優に聞いた時、
「年下。でも付き合った人は年上!」 って答えた時あったよね
あの時、
一瞬寂しそうな顔をした理由が、今わかっ た。
優の親も離婚して、 傷ついたから…
自分のせいで離婚して子供が泣いてる姿を 見た時は、
辛かったよね。
優は人の笑顔を見るのが好きだもん。
もしかして保育士になりたいって言ってた のは
まだ引きずってるからなの??
自分のせいで好きな人の子供傷つけちゃっ たから…
だから子供の笑顔が見たいから保育士にな りたいの??
美嘉は一点を見つめたまま、 放心状態になっていた。
「…嘉~美嘉~?」 ケンちゃんに呼ばれる声で意識を取り戻す。
「…あ、ごめんごめん!そっかそっか~そん なことがあったんだぁ!!」
落ち込んでるのを知られたくなくて、 わざと明るく振る舞っている。
ケンちゃんはそれに気付いたか気付いてない かはわからないが、
再びペットボトルのジュースを飲みながら 話し始めた。
「でも優、美嘉に出会ってからマジで楽し そうだよ。だから俺安心してるしこれから も優をよろしくな!」
そう言い残して、 去って行くケンちゃん。
初めて聞いた優の過去。 美嘉はアルバイト情報誌を握りしめ、
走って家に帰った。
送信:優
《今日うち来れる??》
無性に優に会いたくなりその衝動でメール を送ってしまった。
受信:優
《遊べるで♪次の授業終わったら行くわ!》
テレビもつけず、
何もしないでただベッドに座り優を待ち続 ける。
別に怒ったりしてるわけじゃない。
ただなんとなく今すぐに優に会いたいん だ。
待っている時間はすごく長く感じた。 ピンポーン
チャイムの音。
別に急ぐ必要もないのに玄関に向かって走 る。
ドアについてる小さい覗き穴を覗いてみた が、
真っ暗だ。
おそらく優が指で隠しているのだろう。 半年も付き合えば、
優がどんなイタズラをするかなんてだいた いは予想出来る。
鍵を開け、 ドアをゆっくりと開いた
「美~嘉~~♪」 ドアを開けた瞬間に
美嘉に飛び付いて来る優
「あははっ!!びっくりしたぁ!!」 悩んでいるのをバレないよう、
いつも通りに接した。
「美嘉どうしたん? なんかあったか?」
…優には隠し事できないなぁ。
でも優の過去で悩んでるなんて言えない し。
「バイトのことで悩んでただけぇ!!」
「ならええけどな」 優は頭をポンッと叩き、部屋に上がった。
「部屋かなり片付いたしょっ!?」
「そうやな~よく頑張ったな。ごほうびや
♪」
優は美嘉の唇にキスし、そのまま美嘉のひ ざに寝転んだ。
「優の甘えん坊!!」
「美嘉には負けるわ!今日小テストあって、 俺寝てへんね…ん」
優はそのまま美嘉のひざの上ですやすやと 気持ちよさそうに寝てしまった
ひざの上で子供のような顔をして寝ている 優。
微笑ましい光景。 ほっぺを指先でつんつんと突いてみた。
優…。
ケンちゃんから優には言わないでって約束し たから直接聞いたりはしないけど、
どうして何も話してくれないの?? 美嘉じゃ頼りにならないかなぁ??
美嘉は今までたくさんのことを優に話して 来たのに…
優は何も話してくれないんだね。
強がりなのはどっちだよっ!! いつも笑ってるけど、
本当は辛い時もあったんでしょ??
過去についた傷が今も痛んで、 頼る人がいなくて、 一人で泣いた夜もあったでしょ??
そんな時、
美嘉に電話かけようと受話器握った日は何 回あった??
ずっとずっと、 一人で抱えてたのは優じゃん…。
過去の話聞いても怒ったりはしないのに。 優の心に負った深い深い傷をキレイに治し
てあげる力は美嘉にはまだないかもしれな い。
だけど、
ちょっとくらい忘れさせることぐらいなら できるから…。
ねぇ、 そうだよね?
もっと頼ってよ。
優…
優が今まで抱えてきた辛さに気付いてあげ られなかった自分の不甲斐なさと…
優が負った傷の深さを考えると、 涙が溢れ出た。
その涙は頬を伝わり、
優のほっぺにポツンと落ちる。
急いで涙を拭いたが、 優はほっぺに落ちた美嘉の涙に気が付き、
横になったまま美嘉のまぶたに指をなぞっ た。
「泣いとるん…?」
「泣いてないよ…」 泣いてるよ!!
優のせいだよ。
辛さを隠してるくせに… 相談してくれないのが悲しいの。
優は体を起こし、 ほっぺをつねった。
「泣いとるやん。 美嘉の強がり」
強がり… それ自分じゃん。
「どっちがだよぉ…」 美嘉は優に抱き付き、
優の体をポカポカと叩いた。
「優の…優のバカァ!!バカバカバカバカ」 何も気付かなかった自分へのいらだちや、
何も話してくれなかった優への怒り。
優が背負った傷の悲しみや、 優が美嘉のそばにいてくれてる安心感。
いろんな気持ちが混ざり合い、 複雑な涙だった。
優は何も聞かず、
ただずっと泣いている美嘉をやさしく抱き 寄せ、涙を拭いてくれた。