優は美嘉の頭を少し強めにくしゃくしゃっ と撫でた。
「アホぉ!気付けや。好きな女の体他の男 に見られんのいややろ。せやからシャツ着 ておきぃ」
そう言ってプイッと前を向き車を動かす 優。
もしかして美嘉がキャミソール着て結構肌 を露出してるから??
だから他の男に肌見られたくないから、 シャツ着ろって言ってるの??
優って全然ヤキモキとか焼いたことないの に…
もしかして ヤキモキ焼いてるの??
ミラー越しに 優の顔を見つめる。
「何見とんねん!!」
優は照れくさそうに顔をそむけてしまっ た。
優のシャツ… まだぬくもりが 微かに残っている。
シャツに袖を通し、 少し長くて余った袖に顔をうずめながら 笑いをこらえていた。
やがて車は
サークルのメンバーと待ち合わせしている 大学前に到着。
今日キャンプに参加するのは 16 人。 美嘉・アヤ・イズミ・ウタ・ミドリさん。
優・ケンちゃん・ヤマト・シンタロウ他同じサークルメ ンバーだ。
みんな合流して、 五台の車に別れて乗る。
もちろん美嘉は優の車♪
…と言うより半ば強制的に乗せられてしま
った。
二時間かけて 海へ向かう。
テントなどはキャンプ場で借りる予定。
昼頃 キャンプ場に到着。
車を降りた時、 ミドリさんと目が合った。
ミドリさんは笑いながら手を振っている。
アヤがこっちを見ていないか確認しながら、 ミドリさんに手を振り返した。
場所を決め、 借りたテントをそれぞれ組み立てる。
美嘉・アヤ・イズミ・ウタ。 四人が同じテントだ。
「あ~っ、あっちぃ!!!!!バリバリキャンプ日 和だしぃ~♪♪」
汗をかきながら、 その場に腰をおろすウタ。
「これが終われば海だ~♪海~♪」 油断したのかイズミは支えていたテントから
手を離した。
「あ~っ!テントかたむいてるぅ!」 焦ってテントを支える
アヤ。
「倒れる倒れる倒れる~っ!!」 美嘉も一緒になってテントを支え、
無事完成した。
完成したテントに みんなで一斉に入る。
「ね~ね~意外と広くない!! なんか超 わくわくするんだけどぉ♪…痛っ!!!!!!!」
ウタは興奮しながら立ち上がり、
テントに頭をぶつけた。
「あっ、ウタのばかぁ!!テント壊れるし~!!」
「あははぁ!!!!!!ごめんちゃ~い♪♪」
わざと怒ったように言う美嘉に対し、 ペロッと舌を出す反省してないウタ。
「ね~早く海行こお ♪ 水着に着替えてさ ぁ!」
「「大賛成~!!」」 アヤの提案にみんなは声を揃え、
それぞれ水着に着替え始めた。
イズミとアヤはタオルで隠しながら着替えてい る。
少しも隠さずに堂々と着替えるウタ。 美嘉も…
隠さなくていっか!!
堂々と着替えよ~っと。
「アヤの水着超セクシーぢゃん~って感じ
♪♪」
ウタがアヤの黒い水着を じっと見つめる。
「あ~っ!美嘉の水着白くてかわいい!」 イズミが美嘉の水着を指さした。
「えへ♪おニューなの!!イズミのもチェック
でかわいい!!ウタのも夏っポイね!!」
夏らしく、 みんなで水着の誉め合いっ子。
「太った~やばい~!」
「みんなスタイルいいね!私なんか…」
水着姿を見つめながら、自信なさげなアヤと イズミ。
「みんなスタイルいいしっ!!美嘉なんてこ んなにやばいしっ!!」
そう言ってお腹の肉をむにっと掴んでみせ た。
「い~やっ!!!!!!ウタのほうがすごぃよ♪ほらほ らぁ!!!!」
ウタが対抗してさらに強くお腹の肉を掴む。 テントの中には四人の笑い声が響いた。
「お嬢さん達~俺ら海行くけどど~す る?」
外から聞こえるのは ケンちゃんと優の声。
その近くで聞こえる笑い声はおそらくヤマト とシンタロウだろう。
「今行く~!」 アヤが代表して叫び、
テントから飛び出て海に向かって走った。
優に水着姿を見られるのが恥ずかしくて、 そのまま海に飛び込んだ
だって水着姿なんて一年ぶりだもん。
もう裸も見られてるくせに純情ぶるなぁ!! って感じだけど。
裸を見られるのと水着を見られるのはちょ っと違う感覚。
海に飛び込むって言っても泳げないから、 フトモモくらいの深さのところにしか行け
ないのが悲しい…。
みんなも走って来て 次々に海に飛び込んだ。
水しぶきが太陽に当たってじりじりした肌 に心地良く染み渡る。
…あれ 優がいない。
少し寂しい気持ちで 水平線を見ていた。
その時、 ひやっとしたものが体全体を覆う。
…浮輪だ。 このハイビスカス柄の浮輪は、
確か優が買ってくれたやつだ。
後ろを振り向けば、 ニカッと笑っている優。
「浮輪膨らましとった。遅くなってごめん な!」
美嘉は浮輪でぷかぷか浮きながら、 唇を尖らせて答えた。
「別にぃ~!!」 バカ。
本当は寂しかったくせに素直になれっ!!
…と心で自分を応援する
優は浮輪に掴まり、 一緒になってぷかぷかと浮いた。
「寂しかったん?」
「寂しくないよっ!!」 バタアシをして、
優に勢いよく水をかける
「寂しかったからいじけとるんやろ?素直 にならなこうするで!」
浮輪をくるくると回し始める優。
「ギャ!!目回るっ!!許してぇ~!!」
いつの間にか足がつかないくらい深い所ま で来てしまっていた。
優は美嘉と同じ目線の高さまで体を下ろ し、
浮輪を回す手を止め軽く抱きしめた。
「寂しかったやろ?」 優のひんやりとした肌が気持ちいい。
「…めちゃめちゃ寂しかったよっ!!」 優から目をそらし、
少し怒ったように答えた
やっと… 素直に言えた。
「素直でええ子や」
優が美嘉の頭をナデナデする。
子供扱いされた気分になり指で水を弾き優 の顔に飛ばした。
「あ~暑い暑い!今日は暑いなぁ~熱々だ わ♪」
二人を見てわざとらしく大声で冷やかすヤマ ト。
優はヤマトのほうを見ながら美嘉に耳打ちし た。
「あいつさ~水責めにせん?!」 水責め??
楽しそう…!!
美嘉は大きく頷き、 ヤマトに向かって激しく水しぶきをかけた。
「うわ~!口に入った!しょっぺぇ!」 焦るヤマトに優がさらに水をかける。
それを見た近くにいたメンバーも一緒にな ってヤマトに水をかけた。
ヤマトは抵抗して水をかけ返し、 みんなは髪も顔もびしょ濡れだ。
「みんなでビーチバレーしよ~ぉ!」
ミドリさんが砂浜でビーチボールを持って叫 んでいる。
「おぉ~いいね♪」
「やろうぜ!」 みんなは次々に海から上がって行く。
美嘉も一緒になって上がろうとした時、 アヤが美嘉の浮輪を掴みながら言った。
「ねぇ~これが“青春”ってやつかなぁ!?」 満面の笑みのアヤ。
「うん!!絶対そうだよ!!これが“青春”」 美嘉もとびきりの笑顔で答えた。
“青春” 年が若く元気な時代。
辞書にはこう書かれてある。 年が若くて元気なら全部が青春なのか??
じゃあ若くて元気で毎日勉強ばっかりして 何も楽しいことがなくて… それも青春でしたって言えるのかな??
美嘉が思うにその時が楽しくて、
いつか将来思い出した時「あの頃は楽しか ったなぁ~。」ってそう思えるのが“青春” なんじゃないかなぁ。
もし何年後かに今日を思い出した時、 美嘉は迷わず言えるよ…
“あの頃は~青春時代だった”
ってね!!
しばらくみんなでビーチバレーをやり、 だんだんと日が沈んで来た。
「お腹減った~そろそろバーベキューの用 意する?」
誰かが言った一言でビーチバレーはお開き になり
それぞれテントで着替えを始めた。
夏とは言えさすがに夜は多少肌寒いし虫が 多い。
寒さと虫さされ予防のためにもスカートか ら上下白のスウェットに着替えた。
長い間海にいたので、 すでに日焼けで肌が痛む
ちょっと肌に服が触れただけで、 ヒリヒリしている…。
「みなさぁん~集合ぉ~!!!!!!」 ウタがテントの中で集合をかけた。 美嘉とイズミとアヤはウタを中心に集まる。
ごそごそしながらカバンから何かを探して いるウタ
三人の目線は、 ウタのカバン一点に集中していた。
ウタは何かを握ったままグーにして手を前に 差し出した。
「これぇ~みんな一人一個プレゼンとなり ょぉ~ん!!!!!!」
ゆっくり開いた手。 その中から現れたのは
…ゴムだ。
ゴムと言っても、 髪を縛る時に使うゴムじゃない。
その…避妊に使うゴム…
…なんて照れている場合じゃなくて!! ウタはそれを三つ差し出している。
「何これ?チョコレート?」
それを手に取るイズミ。 その一言に、
三人はイズミがまだ処女であるということを 確信。
それと同時に、 シンタロウ~頑張れって!! そう思っただろう。
「チョコぢゃないよぉ~♪♪ コ・ン・ド・ー・ ム!!!!!!!」
ウタが笑顔で答えると、 イズミは顔を真っ赤にした
「コココ…コンドーム!?」
「そうだっちゃぁ~!!!!夏の海だから何が起 こるかわからなぃからねぇ~♪♪」
ウタは残りの二つを美嘉とアヤに配る。
「サンキュー♪もらっておくよ!」 アヤは軽い返事をして
ゴムをかばんにしまった
「え~!コ…コンドームいらないよ!」 イズミは断固拒否。
しかしウタはイズミのカバンに無理矢理入れ た。
イズミはまんざらでもなさそうだ…。
「ほらぁ~!!!!美嘉チンも早くしまってしまっ てぇ~♪♪♪」
ウタは困っている美嘉を急かす。
「あ…じゃあいただいておきま~すっ!!」 断る雰囲気でもなかったので、
ありがたくポケットにしまった。
外からはバーベキューのいい匂い。
きっと早く着替え終えた誰かがさっそく用 意を始めたのだろう。
その匂いに誘われ、 四人は外へ飛び出した。
偶然、 運よく夕日が沈んで行く瞬間だ。
外では肉や野菜を焼いているせいで煙がす
ごい。
その煙がとてつもなく目に染みて… 夕日のせいか煙のせいかはわからない。 胸の奥に何か熱いものが込み上げて、
涙が出そうになったんだ
バーベキューをお腹いっぱい堪能し、
暗くなってきたところでケンちゃんと優が車 のトランクから大量の花火を取り出した。
「ケンちゃんと優、気がきくぅ~♪♪」 みんなはその花火に群がり、
ライターで火をつけて 花火を始めた。
ヤマトと優とケンちゃんは、
子供みたいに花火をぐるぐると回してい る。
イズミとシンタロウは二人でラブラブの世界だ。
ミドリさんは花火をせずにバーベキューの片 付けをしている。
美嘉とウタは砂に座り込みながら花火をして いた。
「 ね ー ね ー 美 嘉 ぁ !!!!!! 競 争 し な い っ!! !! 」
ウタが二本の線香花火を差し出す。
「競争って??」
美嘉は線香花火を一本受け取った。
「どっちが線香花火長くもつかぁ!!!!!先に 落ちたほうが負けぇ~!!!!!!!!!」
「うん、Ok♪」
「ぢゃあ~勝ったほうがこれからも彼氏と ラブラブでいられるってことねぇ~!!!!!!!」
「いいよっ。絶対負けないよ~♪」
「ウタも負けないも~ん!!!!!!!!!!!」
二人で花火をくっつけ、同時にライターで 火を着ける。
パチパチと光る線香花火
すぐ近くでは優達のうるさいくらい楽しそ うな笑い声が聞こえるのに、
線香花火をやってる空間だけはなぜか静か だ。
パチパチ パチパチ…
落ち着く癒される空間。
ウタの持っている線香花火の火は次第に弱ま り、
丸い火の玉がポトンと音をたてて砂の上に 落ちた
それから少し経ち、
美嘉が持っていた線香花火の火の玉もポト リと落ちた。
「あ~ぁ~!!!!!!!ウタの負けだぁぁぁぁ!!」 ウタは下を向いて大袈裟に落ち込む。
「やったぁ♪美嘉の勝ちぃ!!」 自慢げに言うと、
ウタは美嘉に向かって舌を出しながら空を見 上げた
美嘉もつられて 空を見上げる。
瞬く星…。
いつもなら家や店の光でぼんやりしか見え ないけれど、
ここは…海は光が少ないから星がはっきり 見える
ウタは手を伸ばして星を取るそぶりをしなが ら寂しげにポツリと呟いた。
「やっぱりウタの負けだょねぇ…そうだょね ぇ…」
ウタの言葉の意味を この時は理解出来なかった。
ただ、
ウタに初めて会った時に感じた自分と同じオ
ーラを少しだけ感じていたんだ…。
その時ケンちゃんが二人のもとに歩いて来 た。
「アヤ知らない?」
そう言えばバーベキューを食べた後、
寒いから上着取りに行って来るってテント に行ったまま帰って来ない。
「ちょっとテント見てくる!!」 心配になり、
見に行くことにした。
「いってらっしゃぃ~!!!!」 さっきの寂しげなウタはもういない。 元気なウタに戻っていた。 テントは静まり返っている。
アヤ疲れて寝ちゃったのかな??
もし寝ていて起こしたらかわいそうなの で、
忍び足でテントに近づき入口のチャックを 開けた
するとアヤはテントの中に座り、 背を向けている。
手の動きから、 携帯電話をいじっている様子だ。
「アーヤっ!!ケンちゃん心配してたよん♪」 靴を脱いでテントの中に入り、
背を向けているアヤを覗き込む。
その時やっと気付いた。 アヤがいじっているのは、美嘉の携帯電話…。 とっさに思い出したのは昨日ミドリさんと送
り合ったメール。
アヤは突然立ち上がり、 美嘉の顔に携帯電話を投げつけた。
「美嘉最低!」
美嘉は口を開けたまま アヤの姿を見つめる。
アヤは美嘉を見下ろし、 威勢のいい声で叫んだ。
「ミドリさんがケンちゃんのこと好きなの知っ てて協力してたんでしょ!?あたしとケンち ゃんが早く別れればいいって陰で笑ってた んでしょ!?」
そのまま外に出て行ってしまったアヤ。 美嘉はテントに座り込み動けずにいた。
アヤ…違うよ。
ケンちゃんとミドリさんがうまく行けばいいな んて
思ってないよ。
投げつけられてほっぺにあたった携帯電 話。
ひりひりと痛んでいる。
美嘉はね、
アヤとケンちゃんが上手くいけばいいと思って るよ。
別れて欲しいなんて思ったことなんかな い。
友達の幸せを願うのは当たり前じゃん…。 でもね、
ミドリさんの気持ちもわかるんだ。
気持ちを伝えて諦めたいって気持ちもわか る。
ミドリさんだってね、
ケンちゃんに気持ち伝えたら諦めるって言っ てたもん。
確かにメールだけを見たら誤解されるかも しれない。
でも、
ケンちゃんは絶対アヤを離したりはしないと思 ったから…
だからせめてミドリさんにはきっぱりけじめ をつけて諦めてもらいたかったの。
美嘉は 間違ってたのかな…??
その時、 テントの外でアヤの叫び声が聞こえた。
嫌な予感。
急いでテントから飛び出て叫び声のほうへ 走る。
…予想は的中。
目の前にはミドリさんの胸倉を掴んでいるアヤ の姿。
信じがたい光景。
「人の彼氏誘惑するんじゃねーよ!ってか 人の彼氏に惚れるなよ!」
アヤが悲鳴に近い声で叫ぶ 周りにいたみんなは
何が起こったのかわからずに呆然とするば かり。
ミドリさんは美嘉を強く睨みつけた。
きっと美嘉がアヤにミドリさんの気持ちをバラ したのだと勘違いしたのだろう
仕方ないよね。
アヤが美嘉の携帯を勝手に見て… なんて言ったって、 この状況で信じてもらえるはずはないし。
ますますややこしくなるだけだから。
「あんたがいなきゃケンちゃんは…ケンちゃん は…全部あんたのせいだ!」
そう言ってアヤが手を上げた時…
「やめろよ!」 ミドリさんの前に立ちはだかったのは、
ケンちゃんだった。
これは紛れもない現実。
「どいて!なんでそんな女かばうの!?」
声を張り上げて叫ぶアヤに ケンちゃんはミドリさんを守りながら言った。
「アヤ…ごめん」 アヤは一度挙げた手をおろし、
どこかへ走り去ってしまった。
ミドリさんは泣き出してしまい、
ケンちゃんに肩を支えられたまま二人で消え ていった。
「え~何今の」
「どーゆーこと?!」 みんなはざわめく。
ただ一人、 美嘉だけが状況を把握していた。
…わからない。
なんでケンちゃんはミドリさんをかばった の??
なんで走って行くアヤのことを追い掛けなか ったの??
楽しかったキャンプも、いっきに嫌な雰囲 気に変わってしまった。
アヤが美嘉の携帯電話を勝手に見るなんて… 予想もしてなかったよ。
アヤきっと誤解したよね。
美嘉がケンちゃんとミドリさんを協力してると 思ったよね…。
ケンちゃんがアヤを追い掛けないでミドリさんを 守るなんて、
思ってなかったんだよ…
美嘉はテントに戻り、 寝袋に潜り込んだ。
イズミとウタは二人に何があったのか…などを 討論していたけど、
聞かないフリをしていた
「美嘉起きとる?ちょっと出てこれへん か?」
テントの外から聞こえる優の声。
「ヒューヒュー♪ラブラブぅ!!!!!!!」
「行ってきなさい♪仲良くね!」
イズミとウタに冷やかされながらテントを出 る。
優は何も言わないまま手を繋ぎ 海のほうへと歩き始めた
真っ暗なのに 波の音だけがリアルに響く。
波の音に吸い込まれてしまいそう。 二人は砂浜に腰をおろした。
あれから戻って来ないアヤのことが、 かなり気になっている。
優は波の音に負けないくらいの大声で話し 始めた
「ケンからだいたいのことは聞いた。」
きっと全て美嘉のせいになってるんだろう な…
そう思うと自然にため息が出てしまう。
優は美嘉の返事を待たずに話し続けた。
「美嘉は悪くないから心配しなくてええ よ。あいつがハッキリしなかったからこう なったんや」
繋いだ手をぎゅっと握ると、 優もぎゅっと握り返してくれた。
優はいつだって味方でいてくれるね。 美嘉のことならなんでも知ってるもん。
その時、
すごく遠くのほうの外灯の下にうずくまっ てるアヤの姿が見えた。
優は立ち上がり、 美嘉の手をぐいっと引いて起こす。
そして携帯電話を投げつけられて少し腫れ たほっぺを優しく指先でさすった。
「痛かったやろ…」 アヤのほうばかりを気にしている美嘉。
優は頭を撫で、 アヤをちらっと見た。
「大切な友達やろ。行ったれ!」
「でも…」
「俺はここにおるから」 ピースをしている優。
美嘉はアヤに向かって 走った。
アヤのほうへ向かう途中、ふと考えていた。
優は美嘉とアヤを仲直りさせるためにわざと あの場所に連れて行ったんじゃない の…??
美嘉からアヤがちょうど見える場所にわざと 座った
優はそうやって自然にきっかけを作ってく れる。
見返りを求めるわけでもなく、
ただ人のためにいろんな機会を作ってくれ る。
そーゆー人だから。 そこも大好きなんだ!!
うずくまったアヤに近寄り おそるおそる声を掛けた
「アヤ…?」 アヤは一瞬体をビクッとさせ、
そしてすぐに叫んだ。
「来ないで!」 あまりの迫力に、
くじけてしまいそう…。
でもくじけない。
「アヤごめんね…」 アヤは何も答えてはくれない。 沈黙に耐えられず、
話し続けた。
「美嘉ね、アヤとケンちゃんを別れさせたかっ たわけじゃないよ…。ミドリさんがケンちゃんに 気持ち伝えたら諦めるって言ってたから…ア ヤ本当ごめん。」
それでもアヤからの言葉はない。
「アヤ…」 美嘉がアヤの頭にそっと触れると、
アヤはその手を強く振り払い小さな声で言っ た。
「わかってたよ…ケンちゃん…さんが…の写 真…」
波の音でとぎれとぎれにしか聞こえない。 美嘉はアヤにさらに近寄り ゆっくり聞き返した。
「ごめん、もっかい言って…?」
アヤは鼻をすすりながらも再び口を開いた。
「あたし…知ってた。ミドリさんとケンちゃんが 付き合ってたの…ケンちゃんの部屋で写真見 たの」
アヤは知ってたんだ。 知ってて気付かないフリしてたんだ。
「ミドリさんがケンちゃんに未練あるのも知っ てたし…ケンちゃんもずっとずっとミドリさん に未練あったと思う」
「ケンちゃんミドリさんに未練あったの…??」
「女の勘…ってやつ?だからケンちゃんと一 緒にいてもずっと寂しかったんだ…」
アヤとケンちゃんはラブラブで、 悩みなんかないと思っていた。
「ごめん…」 自然に言葉が出てきた。
「なんで美嘉が謝るのぉ…あたし美嘉と優 さんがずっとうらやましかったの。なんか… 仲良しでさ。だから壊したくなって別れた らいいのにって思ったこと何回もあった… マジごめん…」
ウタが言っていたことの理由が、 今判明した。
アヤは悪気があったわけじゃないんだよ ね??
自分はケンちゃんと一緒にいても寂しくて、 だから美嘉と優に嫉妬してたんだよね。
「アヤ…ケンちゃんともう一回話してみなよ!! 好きならちゃんと話して気持ち伝えな よ!!」
両手でアヤの肩を掴み、 体を揺らす。
アヤはゆっくりと顔を上げた。 たくさん泣いたのか、
ポッコリ腫れている目。
「もうダメなんだぁ…さっきフラれちゃっ たぁ。やっぱりミドリさんが好きなんだって
ぇ…」
美嘉は何も言えずに肩を掴んだ手を離し、 ペタリと座り込んだ。
アヤとケンちゃんが別れた…??
だってあんなに最近までラブラブだったの に…
そーっと手を伸ばして アヤの頭を撫でてみた。
手で涙を拭くアヤ。 星を見つめている。
「美嘉勝手に携帯見てごめんね。あとさっ き携帯ぶつけちゃってごめん…美嘉悪くな いよね…」
そして星を見上げた目から、 再びポロポロと涙が溢れ出た。
何も言ってあげられることも出来ずに、
ただアヤの体をぎゅっと抱きしめることしか 出来なかった。
「アヤ…辛かったね…苦しかったね…」
アヤは声を出して泣き叫んだ。
我慢していたものが全て溢れたかのよう に…
そして落ち着いた頃に、少し笑いながら呟 いた。
「これも“青春”の 1 ページなのかなぁ…。」 アヤをテントまで運び、
寝袋に寝かせた。
イズミとウタは遊び疲れたのか、 すでに寝てしまっている
ウタいびきうるさいし…。 テントを出て行こうとすると、
アヤは美嘉の手をがしっと掴み背を向けなが ら言った。
「美嘉…美嘉は優さんと幸せになってね。じ ゃないと承知しないから!」
ゆっくりと掴んだ腕が離れる。
美嘉は何も言わないまま優が待つ海へ走っ た。
「美嘉おかえり。」 優の横に座り、
そのまま砂浜に寝そべって星を見た。
ケンちゃんは、
アヤがノゾムと別れてから初めての彼氏だっ た。
ノゾムと別れてから元気なかったアヤを、 ケンちゃんが笑顔にしてくれてたんだよ。
つい最近までラブラブしてたじゃん。
今日だって手繋いで幸せそうに歩いてたじ
ゃん…
ずっとずっとミドリさんが好きだったなん て、
そんなのひどすぎるよ。
ケンちゃんとミドリさんは前から両思いだった んだ。
アヤはそれを知っててずっと…。
ミドリさんがケンちゃんのことを好きって聞い た時、
昔の自分と重ねて 同情した。
元彼に彼女が出来て、 それを見るのは辛いだろうなって…。
でも一番辛かったのはアヤだったんだね…。 大好きな人と一緒にいるのに、
自分のことを見てくれていない。
そんなの、 寂しすぎるよね…。
頭の中で、
アヤがケンちゃんと笑っている姿を思い出して いた。
二人で手を繋いで歩いている姿だとか、
アヤが幸せそうにケンちゃんの話をしている顔 だとか…。
そんなことを考えているうちに、 なぜか涙が溢れて来た。
自分が失恋したわけじゃないのに… どうしてだろう。
それくらい悲しい。
仲良しだった二人が突然離れる瞬間を見 て、
“恋”ってはかないものなんだと感じた。
アヤと自分を重ね合わせてしまった部分もあ る。
今隣にいる優も、 いつかは離れてゆくのかもしれない。
もしくは、 美嘉から離れてゆくのかもしれない。
手で顔を覆いながら泣いた。
“永遠” ってこの世に存在しないのかな??
わからない…。
こんなに辛くてもこんなに悲しくても、
これが“青春”だったと笑って言える日は 本当に来ますか…??
優は何も言わずに手を握っていてくれた。 潮風が涙を乾かし、
涙で濡れていた頬がひんやりとする。
さっきまで遠くで聞こえていた声も次第に 少なくなり、 波の音だけが静かに響き渡っていた。
なぜかさっきウタとした線香花火がポトリと
落ちる光景が頭にぼんやりと浮かぶ。 まだ目の奥が熱い…。
生ぬるい風が吹き抜ける夏の夜、
少しだけ冷えた体に繋いだ手だけが温かか った。
「恋って難しいね。」 美嘉の問い掛けに、
「そうやな。」 と優は答える。
「でも好きになる気持ちはみんな同じだよ ね。」
「ほんまやな。」
二人はそれぞれにいろんな想いを抱えてい た。
口には出さないけど、
なんとなく同じことを考えているような気 がするんだ…。
【美嘉は優さんと幸せになるんだよ】
さっきアヤが言った言葉が心の奥に引っ掛か っていて、
いつか来るかもしれない“別れ”に強い不 安を感じ、優の手を強く握りしめた。
体を起こし優の肩に寄り掛かると、 優は美嘉の肩をそっと抱き寄せた。
この先何があるかわからない。
優もヒロのように突然去って行くかもしれ ないし
ケンちゃんみたいに元カノが現れたらそっち を選ぶかもしれない。
美嘉にだってもっともっと好きな人が出来 て、
離れてしまう日が来るかもしれない。
この楽しい時間がいつまで続くかなんて、 誰にもわからないよね。
そしてそんなの、 知りたくもない…。
長い人生だもん。 何があるかなんてわからないよ。
ずっと一緒に居られる保障なんてどこにも ない、
ずっと笑いながら同じ道歩んでいける保障 なんてどこにもないの。
人はみんなそんな不安を抱えながら、 それでも恋をするんだね
それでも人を好きになっていくんだ… 不思議だね。
「ハックション!!」
昨日ソファーでそのまま寝てしまい風邪気 味だったせいで、
くしゃみが出てしまった
「大丈夫か?」
心配そうに顔を覗き込む優に美嘉は笑顔で
答える
「全然大丈夫!!」
遠い場所でこんな夜に優と二人でいるなん て
なんか変な気分だ。
「風邪悪化したら困るで。そろそろ戻るか」 手を離し立ち上がろうとした優の服のすそ
を伸びるくらいに引っ張る。
「行かないで…」 わからない。
理由はわからないけど、なんか不安なの…。
こうして二人で遠くに旅行に来れるのは 今日が最後になる気がするの…。
優は一度立ち上がろうとした腰を再び砂浜 へと降ろし、
「来るか?」 と足の間を指さした。
ちょこちょこと足の間に移動すると、
優は後ろから美嘉の体を包むように抱きし めた。
「星キレイやなぁ」 上を向く優のマネをして美嘉も上を向く。
この態勢のまま二人で海から星を見たのは あの時… そう、優が美嘉に告白してくれた時以来。
優は覚えているかな? でも今見える星は、
あの時よりずっとずっとキラキラ輝いてい るよ。
「あれがきっとなんかの星座やな」
星を指さす優。
美嘉は星を見ずに、 優の手を見つめていた。
この手はいつも美嘉を優しく包んでくれ て、
守ってくれる。
まるで壊れものを扱うようにそっと…。 いつも何度も、
助けられて来たよ。
優の手を離さなければいけないのは、 いつ、
どんな瞬間ですか…?
美嘉は優の手を両手で握り、 そして手の平にキスをした。
大きくて温かくて… 大好きな優の手。 何度も何度もキスをした
優は美嘉のアゴを指でくいっと動かし、 二人の唇は重なり合う。
波の音と潮の香りが、二人を始まったあの 日へと引き戻そうとしているようだ。
風が吹くたびに優の髪が美嘉の頬へとあた り、
くすぐったいような…でも優が近くにいて くれてるという安心感を与えてくれる。
さっき見た星空があまりにキレイすぎて、 目を閉じていても鮮明によみがえって来
る。
重ね合った唇をゆっくりと離し二人の吐息 が一緒になった時、 美嘉は優の体を強く押し倒した。
「美嘉?どうしたん…」 優の言葉を遮り、
美嘉は優の上に乗ったまま再びキスをす る。
なぜかとても不安で… なぜかとても愛を感じたくて… なぜかとても一つになりたいの。
言葉なんかいらない、 ただ思いのままに行動する。
始めて来た遠い地が、 美嘉を大胆にさせてくれたのだろうか…
いや、違う。 一つになりたい。 優と今一つになりたい。 ただそれだけ。
ゆっくり唇を離し、 横になった優にしがみついた。
「優・・・・・」 なんでだろう。
なんでこんなに不安になってるんだろう。
優とはうまくいってるのに。 喧嘩したわけじゃないのに。
優はずっと美嘉を離さないでいてくれ る??
どんなに辛くても…
何があっても… 手を離さないでいてくれる??
今すごくすごく愛しいと思ってるの。 だから一つになりたいの
優は微笑み首に軽くキスをした後、 美嘉の肩を掴み起き上がった。
そして今度は美嘉の体をそっと砂の上に倒 す。
「ダメ!!今日は美嘉が・・・」
優は美嘉の言葉を遮り、唇を重ねながら言 った。
「このほうが・・・美嘉が俺の女やって実 感できてええねん」
優の舌が美嘉の口へとゆっくり入り、 自然に声が洩れてしまう
波の音で声は掻き消されているはずなの に、
離れた場所にあるテントにみんながいると 思うとなんとなく落ち付かない…。
美嘉はそのまま優に身を委ねた。
風で飛んできた砂が目に入り、 涙で滲む。
ちょうど真上に見える星空もぼんやりして いて…
その時、 ぼんやりとした視界の中に流れ星を見た。
【みんながずっとずっとずーっと幸せであ りますように・・・】
心の中で流れ星に願う。強く願う。
冷えた体に、 温かい手が心地よい。
体がだんだんと、 熱を増す。
しかし優の手は、 突然動きを止めてしまった。