車は家へと到着した。 いつも通り美嘉が最後。
今は一人暮らしも始めたから、
1番家が遠いわけじゃないけど…。
もっと優と一緒にいたいだけ。
「優ありがとね ♪ キャンプ楽しかったね っ!!」
「そうやな!いろいろあったけど楽しかっ たな」
二人は車を降り、 トランクから荷物を降ろし始めた。
トランクから取り出した大きい荷物を美嘉 に手渡しながら優は心配そうな顔で問う。
「あれ以来、変な物ドアにかけられてへん か?」
荷物を受け取り、
重かったので一旦地面に置いてから答え た。
「あー、なんかお弁当とかかけられてたけ ど捨てたよ!!多分誰かが間違えてかけてる んだと思うけど…」
お弁当を捨てたゴミステーションを覗く と、
そこにはもうない。
キャンプに行ってる間、ゴミが回収されて
「部屋の前まで送ったるか?」
「いや、大丈夫!!優も運転で疲れてるでし ょ??だから平気♪」
「それならええけど…なんかあったら電話 しな」
二人は軽く抱擁をし、
車に乗り込んだ優はクラクションを二回鳴 らして去って行った。
美嘉は車が見えなくなるまで手を振った。 重い荷物を抱え、
階段を上り部屋を目指す
行きはあんなに軽く感じたのに、 帰りはやたらと重く感じる。
息切れをしながら部屋の前に着いた時、
ドアの前に散らばっている“ある物”を見 て、
その上に持っていた荷物を勢いよく落とし マンションを飛び出た。
マンションにいるのが怖くて近くのコンビ ニに駆け込み、 震える手で優に電話をかける。
この時かなり青ざめた顔をしていたことだ ろう。
♪プルルルルル♪
『どないしたん?』
『優…今どこ??』
『まだ美嘉んちの近くにおるで』
『お願い!戻って来て欲しいの!お願い…今 近くのコンビニにいるから』
『すぐ行くわ!』
しばらくしてコンビニの外でクラクション が鳴ったので走って外に出ると
車の前には優が立っていた。
「何があったん?」
「あの…部屋…とりあえず一緒に部屋の前 に来て!!」
優を先頭に、 再び部屋の前へと向かう
「あの荷物の下見て…」
ドアの前にはさっき美嘉があせって床に投 げた荷物がそのままの状態で落ちている。
優はその荷物をゆっくり持ち上げ、 荷物の下にあった物を見て呟いた。
「これ…何やねん」 部屋の前に落ちていたのは
大量の使用済みコンドーム。
「やぁ…何これぇ…」 あまりの衝撃で
その場に腰を抜かしてしまった。
一体誰がこんなことしたの?? 誰かに恨まれてるの??
優はそれを素手でかき集め、 窓の外へと投げ捨てた。
そして美嘉の手から部屋の鍵を奪い、
強引に鍵を開けて荷物と共に体を持ち上げ て部屋の中へと運んだ。
「泊まってええか?」 優はゆっくり頷いた美嘉を持ち上げたまま
ベッドへと運ぶ。
電気とテレビをつけカーテンを閉めると、 優は美嘉の隣に座り恐怖で震える手を自分
の両手で包み込んだ。
「もう怖くないで。俺がおるからな。」
しかし震えは止まらない
入浴剤も石鹸もお弁当も間違えじゃなかっ たのかな…??
「明日バイト休みか?」
優からの問い掛けに美嘉は落ち着きを取り 戻し答える。
「ん…明日まで旅行って言ってあるから休 み」
「じゃあ明日俺美嘉んちで見張りしとるか ら。怪しいやつおったら捕まえたる!安心 せぇ」
「ありがとう…」 優の心強さに安心しながらも、
一体誰が何のためにやったのか… 疑問は深まるばかり。
気持ちも大分静まり、 優と手を繋ぎながら布団に入った。
今日もまた一緒に居られるのはすごい嬉し いけど…
早く解決してほしい。
このままビクビクしながら生活するの嫌だ もん。
「優が来てくれて良かったぁ~疲れてたの にごめんね…」
「気にせんでえぇよ!」
「でもさ、美嘉が電話してから優がコンビ ニ来るの早かったよね!!」
一瞬沈黙になる。 優は咳ばらいをし、
口を開いた。
「怖がらせたらあかんと思て言わへんかっ たけど、美嘉と別れたあとな、美嘉のマン ションの近くに変な男がおって…なんか怪 しいな~思て一応マンションの近くに車止 めとったら美嘉から電話が来たんや」
体がぞくっとする。 身震い。
「変な男って…?」
「暗くてハッキリは見えへんかったけど、 なんか挙動不振やったから怪しかったで」
入浴剤や石鹸や弁当や使用済みコンドーム を部屋の前に置いて行く挙動不振な男。
あなたは誰ですか…?
人に恨まれることした覚えはないし…
ストーカーされるほどモテるわけでもない し…
優を信じて明日にかけるしかない!! キャンプの疲れからか
いつの間にか寝てしまったみたいだ。
寝不足だったせいもあるし…。
気付けば夕方 5 時。
一日の半分以上を睡眠で過ごしてしまっ た。
先に目覚めていた優は 美嘉の寝顔を写メールに撮り、 自慢げに見せてくれた。
半目だし口開いてるし… 今までこんな顔をして寝てたんだ。
大ショック!!
見なきゃ良かった。 でも優はかわいいって言ってくれるんだ♪
外が暗くなり、
電気もテレビもつけずに二人でじっと部屋 に閉じこもる。
もし部屋にいるのがわかったら、
犯人が来なくなってしまうかもしれないか ら。
犯人が来たら優がドアを開けて捕獲する作 戦。
今日も来るとは限らないけど、
ここ二日間連続で来てるみたいだから今日 も来るような気がする…。
隣の人が外に出たり、
上の階の人が走るだけでビクッとしてしま う
音に敏感な二人。
外灯だけがカーテン越しにぼんやりと光る 真っ暗な部屋。
時間は夜の7時。 暗闇に二人でなんだかエッチなムード…
になるはずもなく、
ただひたすら誰かもわからない犯人が来る のを待っていた。
その時… ガタンガタンガタン
静寂する部屋に響く 大きな音。
郵便受けに何かをたくさん入れている… そんな音。
嫌がらせをしている犯人が玄関の向こうに いると思うと怖い。
体は昨日のようにガクガクと震え始める。
「大丈夫やから」
ぎゅっと握られた手で優がそばにいること を再確認し、
二人は玄関へと向かった
相変わらず止まない音。 優がドアの覗き穴を覗いている。
「ね…どうだった??」 小声で優に尋ねると、
優は首を横に振った。
優の知らない人なんだ…
「美嘉の知っとるやつか?」 心臓をドキドキさせ、
覗き穴を覗く。
その先に見えたのは…
…先生? 先生だ。
バイト先の歯科医師の先生!!
先生はニヤニヤと笑いながら、 ひたすら郵便受けに何かを入れている。
なんで住所知ってるの?
…履歴書だ。 履歴書に住所書いたもん
だから最初に面接した時 一人暮らしかを聞いてきたの?
実家じゃこんなこと出来ないもんね。
警察に捕まっちゃうもんね…。 三日間旅行に行くって連絡したから、
美嘉が三日間部屋にいないと思って嫌がら せしてたの??
その時思い出したのは 受付の林さんの意味深な言葉。
━「先生に気をつけてね。セクハラとか…そ れで辞めた子もたくさんいるからね」━
なるほどね…。
新しい一人暮らしの子がバイトにはいるた び、
こんなことしてるの??
なんのために? バカみたい。
「知り合いやった?」
「バイト先の医師…」
「ほんまに?俺捕まえたるわ」
ドアノブに手をかける優を、 そでを引っ張り止めた。
「…大丈夫。バイト辞めるから…」
優はその言葉を無視して手を振り払い、 ドアを開けた。
優が強くドアを閉めた拍子に郵便受けが開 く。
その中から出て来たのは大量の CD…。 しかも全部同じ曲。
それから後のことはよくわからない。 優がドアの外に捕まえに行って、
美嘉は家の中で大量の CD に囲まれながら うずくまって震えていたからだ。
ただ…
「俺の女怖がらせてただですむと思っとる んか?今度またここに来たら次は海に沈め たるわ」
こんな怒鳴り声だけがドアごしに響いてい た。
それからはバイトを辞め
優の脅しが効いたのか嫌がらせはパッタリ となくなった。
世の中には、 変な人もいるもんだ。
またアルバイト情報誌に募集出して、 同じこと繰り返すのかな??
そう考えると、 怖いね…。
バイトを辞めてしまったために、 家賃を払うお金がなくなってしまい 新しいバイトを探そうとした。 だけど…
「また美嘉になんかあったら心配やししば らくバイトせんで俺んちにいてええよ!」
優の言葉に甘えてしまい優の家で一緒に暮 らすことになった。
家賃は払えないけど生活するお金だけは多 少残っていたので、
そのお金が尽きるまではお世話になるつも り…。
家具家電などは全てリサイクルショップに 売り、最低限の荷物だけを持って優の家で 同棲生活を始める。
そのことを両親に報告しようと優と共に美 嘉の実家へ行ったが、 あっさり承諾を得ることが出来た。
優の人間性が、 きっとそうさせてくれたんだと思うよ…。
朝も昼も夜も毎日一緒。
洗面所には二本の歯ブラシがコップに入 り、
食器棚にはおそろいで色違いのコーヒーカ ップが並べて置いてある。
優の服や教科書で埋まっていた部屋も、
美嘉の服や好きなキャラクターのぬいぐる みで埋まってゆく。
二人で大学へ行き、
先に授業を終えて帰って来たほうが夕飯を 作り相手を待つ。
それが二人で決めた約束だ。
いつしか優の部屋は次第にサークルメンバ
ーのたまり場になり、
帰って来ると必ず誰かが部屋にいてゲーム をしたり雑談したりしていた
いつもは人がたまってわいわいうるさい部 屋も夜になれば二人きりになり
優の足の上にちょこんと乗りながらテレビ を見るのが大好きだった。
もう一つ、 布団に入って手を繋ぎながら眠る…
この瞬間も大好き。
たまに実家に帰って布団で寝ようとして も、
なかなか寝れなくなってしまって…
だって優と手を繋いで寝ることが、 美嘉にとって眠り薬になっていたから。
今年も夏が終わる。 秋は驚くほどあっという間に通り過ぎ、 今年もあの季節がやって来た。
白くて冷たい結晶がちらちらと空から舞い 落ち、
手で掴めばすぐに消えてしまう…。
12 月。
冬がやって来た。
「美嘉ぁぁぁこっちにかわいい小物あるよ ぉ~!!!!!!!!」
「マジで~!?今行くっ!!」
━12 月 19 日 今日はウタと街に出て、
クリスマスプレゼントを買いに来た。
去年は優に料理を作ってあげたっけ…。
きっと今年も優はプレゼントはいらないか ら料理作ってって言うんだろうなぁ。
美嘉の胸元には、
去年のクリスマスに優からもらったネック レスが変わらずに光っている。
美嘉も何か形に残る物を優にプレゼントし てあげたい!!
そう思っていた時、
ちょうど今日の朝にウタからメールが入った のだ。
受信:ウタ
《美嘉っち今日暇ぁぁぁ !?!?街行かない っ 》
《いぃよん♪ちょうどクリスマスプレゼン トも買いたかったし!!》
受信:ウタ
《わ~いわ~い!!!!!ぢゃあ 4 時に駅前集合だ っちゃ♪♪♪》
送信:ウタ
《了解ーっ(бзб)//》
「ねー、ちょっと zippo 見に行ってもい い??」
「美嘉チン zippo 買うの いぃょぉ~行 こっ♪♪♪」
プレゼントはもう決めていた。
zippo にするつもり。
優はタバコ吸うし、
zippo はタバコ吸う時に必ず使うからその 度に美嘉のことを思い出して欲しいし!!
ぶっちゃけ優がタバコ吸ってる姿、
男っぽくてめちゃめちゃかっこいいんだよ ね♪
煙を吐き出す瞬間の横顔なんて、 それはもう彼女の美嘉でさえうっとり…
…って浸ってる場合じゃなくて!!
送信:ウタ
とにかくプレゼントは決めていたから、 すぐに決めることが出来た。
優柔不断だから決めてなかったら一日中悩 んでいただろうな…。
黒くて中央に十字架がついた zippo。 これが1番優っぽい。 だからこれにする!!
日付と二人の名前を彫ってもらい、
クリスマスらしく赤と緑のチェックのラッ ピングに包んでもらい、 大切にかばんへとしまった。
「美嘉プレゼント買えて良かったねぇ ぇ !!!!!!ウタマフラー見に行っていいなりか ぁ ?」
「もちろんいいよん♪」
二人は一回外へ出て、 マフラーを探すために歩き出した。
デパートに入り、 マフラーを探す。
ウタは緑色のマフラーを手に取り、 美嘉の首へとぐるぐる巻きつけた。
「美嘉っチ~このマフラーバリ似合う ぅ!!!!!!」
「美嘉に似合ってもしょうがないじゃん っ!!」
ウタは時間をたっぷりかけて悩みに悩んだ 末、
その緑色のマフラーを買った。
「ウタもプレゼント買えて良かったねっ♪」
「良かっただっちゃ~!!!!!!美嘉もう少し時 間大丈夫なりかぁ~ ?」
「全然大丈夫だよん。もうすぐ冬休みだし ね ♪ ウタ学校来ないから知らなかったし ょ??」
「知らなかったなりぃ!!!!ちょっと外で話さ ない~ !?!?コーヒーおごるからさぁぁぁ
♪♪♪」
「Ok!!」
大きな公園の中にあるベンチに乗った雪を 手ではらい、
そこに腰をかけた。
「ちょっと待っててって感じ~ぃ!!!!!」
ウタは自動販売機まで走って缶コーヒーを二 缶買い
そして戻ってこようとした途中に足を滑ら せて転んでしまった。
美嘉はウタのもとへと駆け寄る。
「ウタ!大丈夫!?怪我はない??」
ウタはむくっと起き上がり缶コーヒーを美嘉 に差し出し、
自分の頭を叩いた。
「転んじゃったぁ !!!!!ウタドジだからさ ぁ~!!!!!あははははぁ♪♪♪」
ウタの手を引いて起こし、 体についた雪をはらう。
そして手を繋ぎながら再びベンチへと向か った。
「ウタ本当に怪我ない??大丈夫??」
「平気だっちゃ~!!!美嘉はお姉ちゃんみた いなりねぇ ♪♪ ウタよりおチビちゃんなのに ぃ~!!!!」
「うるさいって!!」
美嘉は熱いコーヒーをウタのほっぺにくっつ けた。
「熱っ!!!!!!!!!あちちちちちち!!!!」
「ざま~みろぉ~♪うけけけけ」
ウタはなんとなくほっとけないと言うか…
いつも元気なのがたまに無理してんのかな って思う時もある。
なんとなく美嘉に似ていて、 強情っ張りな感じがして…
ウタの弱音とか聞いたことないし…。 だからなんとなく心配なんだ。
「美嘉はウタのマブダチ~ 」 白い息を吐きながら問い掛けるウタ。
「な~に今さら!!当たり前っしょ♪いきな りどうしたの??」
ウタは何も答えずに自分の左手の薬指にはめ た指輪を取り、 コーヒーの中にポチャンと落とした。
「ウタ何やってんの!?」 ウタの手から缶コーヒーを強引に奪い、
雪の上に缶の中のコーヒーを出して指輪を 探す。
指輪はコーヒーが全部なくなってから最後 にポトンと雪の上に落ちた。
雪は冷たいけど、
コーヒーに包まれていた指輪はほんのり熱 をもっている。
その指輪を拾い、 ウタに差し出した。
「ほら、大切な指輪でしょ…??」 ウタは首を横に振り、
指輪を受け取ろうとはしない。
そして笑顔のまま話し続けた。
「もうダメかもしれないなりぃ~!!!!!!!!」 ウタが彼氏となんかあったのだと悟り、
美嘉は隣に腰を降ろした
「彼氏となんかあったの…??」
ウタは声を出さずに何度も頷く。
「…何があったの??」 ウタは上を向き、
降っていた雪がちょうど目に入って痛そう な顔をした。
そしてすぐ笑顔に戻り、口を開いた。
「ウタね~彼氏との赤ちゃん中絶しちゃった のだぁ!!!!!!!!」
美嘉は缶コーヒーを握りしめながら、 唾を飲み込んだ。
「…中絶??」
「うん!!!!!!!しかも二回してるなりぃ~!!!!」 明るく話すウタ。
無理してるのが痛いくらいに伝わってく る。
ウタは早口のまま話し続けた。
「一回目は、高校卒業したと同時に出来ち ゃって~仕事の都合とかあるから堕ろせっ て言われちゃったなりぃ!!!!!でも次は必ず 産もうねって言ってくれたのだ~!!!」
今は中途半端な言葉をかけてしまいそう。 最後まで聞かなきゃ。
「二回目は~今年の夏に海に行った時にお 腹にいたんだぁ~!!!!ウタは産むつもりだった のにねっ、堕ろせって言われてお金投げつ
けられちゃったぁ!!!!!堕ろさないと別れる って~ウタダーリン超好きだから~中絶選ん だなりぃ!!!!!」
「ウタ…」
「でもしかたないよねえ!!!!!ウタダーリンが 好きだからぁ~別れたくなかったしぃ~っ て感じ!!」
さっき転んだ時に頭に乗った雪が溶け始め てウタの頬を流れ その雫が涙のように見えた。
「ダーリンそれから冷たいんだっちゃ~!!!! 電話あんまり出てくれないし~困ったって 感ぢなり!!!!!!」
「ウタ…でも…」
ウタは美嘉が言おうとすることをわざと聞こ うとせずに、
話し続ける。
「男なんて~妊娠する前は産もうとか言う けど~実際出来たら堕ろせだもん。参っち ゃうねぇ!!!!!!まぁ、男なんてみんなそうだよ ね~!!!!!中絶したカップルは幸せになれる わけないってやつぅ!?!?」
ウタ、 それは違う。
男がみんなそうなんじゃないよ。
美嘉だって赤ちゃんを… だけど、
二人とも幸せだったよ。
でも、
それを言えずにいた。
美嘉はさっきコーヒーに入れた指輪をウタの 手の平に置き、 その上からそっと手を握った。
「ウタ、もう我慢しないでいいんだよ…笑わな くていいんだよっ…」
ウタの笑顔は一瞬にして消える。 重なった手の上に、
一粒の雫がこぼれ落ちた
「ウタ…ウタね、本当は産みたかったなりぃ…」
「そうだよね…」
「もぅ、ダーリンとはダメみたいなりよぉ… 大好きだけど…もう別れるって決めたなり よぉ…」
入学式の時初めてウタに出会った時、
自分と同じオーラみたいなのを感じてい た。
うまくは言えないけど、似たような道を歩 んで来たような…
大好きな人の赤ちゃんを産みたいって思う 気持ちはみんな同じだよね。
流産してしまったとしても中絶しなければ いけない理由があったとしても
赤ちゃんを想うその姿は一人の女の子では なく、もう一人の立派な母親なんだ。
男がみんな中絶を望んでいるわけじゃな
い。
一緒に喜んでくれて、
一緒に希望を持って隣で歩んでくれる人は 必ずいる。
ウタにはそーゆー人に出会って欲しいよ…。
重なった手は、 ウタの目から流れる雫で濡れている。
雪がしんしんと降り、 頭に積もり始めた頃…
ウタは突然立ち上がり、 持っていた指輪を遠くへ投げ捨てた。
「ウタぁ…」
「あぁ~、なんかスッキリしたなりぃ!!!!!!!」 その顔は、
何かをやりとげたような…そんな顔に見え た。
ラッピングを開け、
買ったばかりの緑のマフラーを美嘉の首に 巻きつけるウタ。
「やっぱりこのマフラーは美嘉に超似合う って感ぢ~!! 本当は美嘉にプレゼント するために買ったなりぃ♪♪」
「ありがと…」
ウタは美嘉の返事を聞くとそのまま笑顔で走 り去ってしまった。
二人の距離が遠くなった時、
ウタは美嘉のほうを振り向き大きな声で叫ん だ。
「美嘉~聞いてくれてありがとなり!!!!!!!! スッキリしただっちゃ♪美嘉はウタのマブダ チなりよぉ!!!!!!!」
見えなくるウタの姿。
美嘉の手は、 ウタの涙でまだほんのり温かい。
力になる言葉をかけてあげることが出来な くて
ごめんね。
でも話したことで少しでもスッキリしたな ら、
それでいいのかな。
ウタが指輪を投げ捨てた時 やりとげたような顔をしてた。
それは嘘じゃないから…
ウタがいなくなったのを確認し、
雪の中からウタが投げ捨てた指輪を探し始め た。
いつかウタにもっと大切な人が出来てその人 との赤ちゃんを産んだ時、 指輪を渡してあげたい。
余計なお世話かもしれない。
だけど過去と向き合って生きていくこと は、
大切なことだと思うんだ…。
なかなか見つからない指輪。 降り続ける雪…
たった一本の外灯。
見つからないかもしれないよ…。 でも必ず見つけてみせる
指輪を探し始めてから二時間が経った時…
「あった~!!」 人目も気にせず
大声で叫ぶ。
あった! ウタの指輪見つかった!!
指輪についた雪をはらい
雪が積もっているベンチに気にせず腰をか けた。
「あった~!!良かったぁぁぁ~…」 指輪を指先でつまみ外灯へかざしてみる。
ウタが幸せそうに左手の薬指につけた指輪を 見せびらかす光景が目に浮かんだ。
大好きな人と別れるのは辛いよね。
生きていれば一度はその辛さを体験すると 思う。
でもそれを乗り越えた時 初めて“未練”は
“思い出“に変わるの。
それには長い時間やたくさんの努力や勇気 が必要だけど…
前に進めない人は絶対にいない。
乗り越えられない人の前に壁はたたないん だよ。
神様は乗り越えられる人の前にしか壁を作 らないの。
だからもし壁が出来て立ち止まってしまっ た時は
絶対に乗り越えられるんだ。
そう考えたら、 怖くないよ。
頑張れるよね。
…なんて、 美嘉が言える立場じゃないね。
美嘉もたくさんの友達や大切な人に出会っ て気付いたんだ。
いつかまた目の前に壁が立ったとしたら 壊してでも乗り越えてみせる。
しんしんと降る雪の向こう側に、 三年前の光景を見た。
ファミレスで赤ちゃんが出来たと報告した 時、
突然席を立ち上がりいなくなって…
やっぱりダメかと思って不安になりうつむ いていたら、
突然目の前に戻って来た
そしてお菓子の入った赤くてちっちゃいブ
ーツを差し出して、
嬉しそうに、 幸せそうにあなたは言ったんだ。
「やったじゃん!産もうってか産め!」
どんなに裏切られたとしても どんなに嫌われても
一生会うことはなくても お互いを忘れてしまう日が来ても…
赤ちゃんを産んで欲しいって言ってくれ た。
一瞬でも美嘉のお腹の中に、 二人の夢の中に赤ちゃんはいました…。
それはこれからもずっとずっと消えること のない真実…。