「ジングルベ~ルジングルベ~ル鈴が~鳴 る♪」
━12 月 24 日 クリスマスイブ
今年は例年より雪が多いみたい。
折り紙を細長く切り、
それを丸く折ってノリで張り付けたのをい くつも繋げて天井に飾る。
やっぱりパーティーなんだからそれなりに 飾り付けしなきゃね!!
まぁ、
パーティーって言っても二人でなんだけ ど…。
「美嘉~もうツリーに星乗せてええか?」
「ダメ~!!美嘉がやるの~!!」
昨日二人で買った大きなもみの木。 ライトを飾り付けて、
残るは1番上に乗せるメインの星。
「あら!?届かない…」
「ったく~しゃ~ないわぁ!」
もみの木の1番上に手が届かなかった美嘉 の体を優が後ろから持ち上げ、
無事に星は飾られた。
部屋の電気を消してライトを点灯させてみ る。
「うわぁ~キレイ!!」
色とりどりのライトがピカピカと点灯して いて
とてもキレイだ。
まるで昔優と見た夜景のように…。
「まぁ後はパーティー始まってからのお楽 しみやな!」
部屋の電気をつける優。
「はぁ~~い」 美嘉は唇を尖らせた。
今年も優は美嘉の手作り料理を希望。
…って言っても、
同棲を始めてから何回も料理を作ってるか らそれほどかしこまって作るわけじゃない けど。
去年は失敗しないかドキドキしていて、
前日に徹夜で練習しちゃったりなんかし て!!
あの初々しさは一体どこへ行ってしまった のだろう…。
今日作る予定の料理は、手巻き寿司 たこのサラダ
唐揚げ あとはあの~、 何て言ったっけ…
クリスマスに食べる大きいチキン! もちろんクリスマスケーキもね♪
料理ってほどじゃなくて
ただ材料買って並べるだけって感じなんだ けどさ
今年はクリスマスケーキの生クリームの砂 糖と塩を間違えないようにしなきゃ。
優と二人でスーパーへ買い出しに行く。
その時にサンタクロースの衣装を発見し た。
「優~これ着てぇ!」 優はその隣にある物を指さす。
「それより美嘉がこれ来たら絶対似合うで
♪」
優が指さしたのは
サンタクロースの女の子バージョンの衣 装。
ワンピースになっている
「こんなのあるんだ~!!かわいい~♪」
「買ったるか?」
優はサンタクロースの衣装に手を伸ばし た。
「ダメ~!!」 優の手を止める美嘉。
「え~美嘉なら絶対似合うと思うんやけど なぁ」
子供みたいにスネた顔をする優。
愛しくて抱き付きたくなってしまったけ ど…
お店だから我慢我慢。
確かにサンタクロースの衣装かわいいから 欲しいけど…
「そんなことより今月のガス代高かったん だから節約節約ぅ♪」
こんな所帯じみたことを言いながら、
本来の目的である料理の材料をかごに入れ た。
お会計をするためにレジに並んでいた時…
「あ~卵入れるの忘れとったわ。美嘉悪い けど取って来てくれるか?」
卵は確かかごに入れたはずなのに…。 不審に思いながらも
卵を取りに走る。
卵を取って戻って来た時にはもう会計を終 えてしまったみたいで 優はどこにもいない。
仕方なく一人でレジに並んでいると、 遠くで優が袋から卵を出し上にあげた。
卵あったんだ!!
卵を戻しに行くために再び走る。 卵にこんなに踊らされるなんて…。
店中を往復し、 息切れしながら優のもとへと向かった。
「卵あったの~??」
「あったみたいやわ。ごめんな!」 なんだか嘘くさい…。
家に帰りさっそく料理を作り始めようとキ ッチンへ向かった時…
「美嘉~」 優に呼ばれる声で、
部屋へ戻る。
「も~!!今から料理作るのにぃ~…何!?」 優は大きな紙袋からサンタクロースの衣装
を取り出した。
「じゃじゃ~ん!」
「え!サンタクロースの衣装じゃんっ!!い つ買ったの!?」
「美嘉に卵買いに行かせた時やで♪」
…やられた。
優って本当にびっくりさせるのがうまいよ ね。
「着てみぃ?」 言われるがまま洗面所へ行き、
サンタクロースの衣装に着替えた。
スカートは短いし、 コスプレみたいでやらしい感じ…。
白いボンボンのついた帽子をかぶり、 優のもとへと向かう。
「どう?似合う??」 優は立ち上がり、
美嘉を抱き寄せた。
「めちゃめちゃかわいいやん!似合うわ」
「えへへぇ♪」
優の体ごしから見える窓の外はもう暗くな りかけている。
とりあえず夕飯作らなきゃ!!
「優ありがとぉ!!とびきりおいしい料理作 るからね♪」
「おぉ~期待しとる!」
キッチンへ向かおうとしたその時、
テーブルに置いてある花瓶にかすみ草が飾 られてあるのを見つけたた。
かすみ草なんてさっき買ってなかったじゃ ん。
これも美嘉に卵買いに行かせてる間に 買ったのかな??
でも、
照れ屋な優のために聞かないでおこうっ と…。
やっとのことで料理を作り始める。 料理自体は本格的じゃないからいいけど… 問題はクリスマスケーキ
しつこいくらいに砂糖と塩を確認しなが ら、
どうにか完成。
結果は…大成功♪
料理を机の上に並べて、クラッカーを鳴ら す。
冷やしておいたシャンパンをあけ…
「かんぱ~い!!」 一口だけ飲み、
料理を食べ始めた。
「どう?どう??」
料理を口にいっぱい含めながら答える優。
「ほんま最高やわ!」
あっという間にたいらげ
お腹いっぱいになった二人はベッドに腰を かけた
「ほんまうまかったわ~!美嘉ありがと な。」
「どーいたしまして♪」 テレビはつけない。
だってつけたらテレビに集中しちゃうか ら。
今日は特別な日だから、二人でたくさん話 せるように…。
優はあまり
“好き”って言わない。
“愛してるよ”なんて…言われたことない し。
ってか
“愛してるよ”なんて優以外の人にでさえ 言われたことないよ。
本気でもないのに
“結婚しようね~” って言う男とかよくいるけど、 優は絶対言わないと思う
もしいつか優がそんなこと言う日が来た ら、
本当のプロポーズの時だろうな…。
でも軽々しく気持ちを口にするよりは、
たまに言われたほうが愛を感じるのかもし
れないね。
話は変わって… 早く優にプレゼントを渡したかった。
優はきっと美嘉がプレゼント用意してるな んて思ってないだろうし、
優なら何あげても喜んでくれる気がするん だ。
実は今日ずっと渡したくてうずうずしてい たのだ
でもなんかびっくりするシチュエーション で渡したいなー。
しばらく考える。
…ひらめいた!!
「ちょっとおトイレ…」 そう言い残し、
トイレへ行くふりをしてプレゼントを持っ たまま玄関の外へ出た。
そしてチャイムを鳴らせば…完璧。
ピンポーン♪
「はい」 ドアの向こうから
優が玄関に走ってくる音がする。
両手にプレゼントを抱き優が出て来るのを 待つ。
ガチャリ…
ドアが開いた。
「優~メリークリスマス♪美嘉サンタがプ レゼントを届けにまいりましたぁ!!」
その場でくるりと一周しプレゼントを差し 出した
ア然としている優。
げっ…もしかして調子乗り過ぎたかな?? ほんの冗談なのに。
やば~い…。
何も言わずに立ち尽くしている優の顔を覗 き込んだ。
「お~い!!優~??」
その声に優はどうにか意識を取り戻した様 子。
そして美嘉の手を引き玄関の中に連れ込ん だ。
「いつ外出たん?その格好で出たら風邪引 くやろ!」
優の目の前にプレゼントをそーっと差し出 す。
「あの~そんなことよりプレゼントで~ す…」
その瞬間… 力強くドアに押し付けられ、
二人の唇が激しく重なった。
「…んっ、優…??」
唇がゆっくり離れる。
骨が折れそうなくらいきつく抱きしめる優 の体が震えてるように感じた。
「そんなことされたら、毎年クリスマスに 美嘉のこと思い出すやん…」
毎年思い出していいよ。 毎年思い出して欲しいよ でもなぜかその言葉が出なかったんだ…。
「優…プレゼント開けて??」
優は美嘉の体をゆっくり離し、
今度は触れるか触れないかの軽いキスをし た。
「ありがとな」
そして手を握り合ったまま部屋へと向か う。
その途中、 唇を指先でそっと触れながら考えていた。
さっきのキス、 なんか熱くて激しくて…
いつもの優じゃないような、 そんな気がしたな。
二人は床に腰を降ろし、優はプレゼントを 開ける
中に入っていた zippo を取り出しとても嬉 しそうな顔で、
大切そうに握りしめた。
「これで今煙草吸ってええ?」
「…うんっ!!」
さっき優の様子がいつもと違うように感じ たことを疑問に思いながらも
優が煙草に火をつける姿を見ていた。
優はタバコの煙を遠くにフゥーっと吐き出 し、
その煙草を一旦灰皿の上に乗せ、
両手で美嘉の髪をくしゃくしゃしながら言 った。
「今まで吸った煙草の中で1番うまいわ! ありがとな!」
嬉しさと恥ずかしさで可愛いげもなくプイ ッと横を向くと、 優は笑いながら再び煙草をくわえた。
優、喜んでくれたね。 優が喜んでくれて、
美嘉も嬉しかった…。
素直になれなくてごめんね。
「ねーねーねーねーツリー点灯しようよぉ
♪部屋の電気消してさぁ!!」
「おぉー。ええで!」
部屋の電気を消し、
いつものように優の足の間に入りながらラ イトのスイッチを押した。
さっきより外が暗くなったおかげで、 ライトがより綺麗に見える。
「わぁ~キレイ♪赤いのがルビーで~白い のがダイヤモンドで~…」
「言っとること昔と変わってへんやん!夜 景見に行った時も言うてへんかったか?」
「うるさいっ!!それくらい綺麗だってこと なのぉ~♪」
美嘉が言った一語一句を覚えていてくれて いるのが嬉しい。
さりげなくて嬉しい。
外では車が走っているはずなのに、
積もった雪が音を消してしまっているの か、
テレビもつけていない静寂した部屋の中は 二人の呼吸の音だけが響いていた。
優は美嘉がかぶっていたサンタクロースの 帽子の先っぽについていた白いボンボンを 手で触る。
「もうあれから一年もたったんやなぁ。」
あれから一年…。 美嘉と優が初めて一つになった日。
受験や卒業やいろんなことがあったけど、 でもすごく楽しい一年だった。
本当に良かった。
「一年かぁ!!早いよねぇ~…」
しんみりとした雰囲気。
それを壊そうとするかのように優は美嘉が かぶっているサンタの帽子を頭から奪っ た。
「あ~。美嘉の帽子返せぇ~!!」
優の手から帽子を無理矢理奪い返そうとす る。
「わかったわかった。返したるよ!」
優は微笑みながら美嘉の頭に帽子を戻し た。
その時、
帽子の中に何か入っているような違和感を 感じ、自ら帽子をはずすと…
ゴロン 頭の上から小さい箱が出て来て、
床に転がる。
美嘉はその箱を手に取り優の顔を見ながら 言った
「何これ??」
「…クリスマスプレゼントやで!」 さらりと答える優。
大学に来て、
…クリスマスプレゼント??
だって去年ネックレス貰ったじゃん。 今年も貰っていいの??
「あと 1 分以内に開けないと没収するで!」
制限時間を決められ 焦ってラッピングを開ける。
箱の中にはもう一つ小さい箱が入ってい る。
その小さい箱をゆっくりゆっくり開ける と…
そこに入っていたのは、指輪だ。 シルバーで
“PLEDGE“と彫られてある指輪…。
「…これ…」
優は箱から指輪を取り出し、 美嘉の左手薬指にするりとはめた。
左手の薬指でキラリと光る指輪。
この指に指輪をはめる感覚… 久しぶり。
「サイズわからへんから 7 号にしといたけ ど…ちょっと緩いけどええ感じやな!」
美嘉は指輪を そっと唇に近づけた。
「優、ありがと…」
優は後ろから抱きしめ、そして美嘉の左手 をツリーのライトにかざす…
「これからは俺の指輪つけてくれるんや な…?」
不安げな声でぽつりと呟く優。
一年も 待たせちゃったね…。
美嘉は強く強く頷いた。
この先 心を揺るがす出来事が何も起こらず
優とずっとこうして過ごしていけますよう に…。
指輪を見つめながら優に問う。
「“PLEDGE”ってどーゆー意味??」 優は窓ガラスの曇った部分に大きく
“PLEDGE”と書いて答えた。
「誓約とか誓いって意味やで」
「誓約…誓いかぁ」
「俺は何があっても美嘉のこと好きってい う誓いや!」
「優…」
「美嘉、好きやで。」
二人の唇は自然にそっと触れた。 お互いの気持ちが重なり合い
触れた唇がとても熱く感じた…。
♪ピロリピロリ
メール受信音が、 雰囲気を壊す。
「ごめん、メール…」
「見てええよ!」
受信:ウタ
《メリクリだっちゃぁぁぁ(еде)/》
まだイブなのに気が早いなぁ… そう思い時計を見たら時間は 12 時 03 分。 日付は 12 月 25 日に変わっている。
今年も 行かなくちゃ。
時計をじっと見つめている美嘉を見て優は 言った
「車出したるで!」 どこに行くのかは聞いてこない。
それだけはわかってくれているんだね。
「ありがと…」
優がテーブルから車の鍵を取ろうとした 時、
テーブルに飾られていたかすみ草の花瓶が 音をたてて倒れた。
不吉な予感…。
部屋を出て 車が動き出す。
コンビニに寄り花とお菓子を買って 学校の駐車場に車を止めた。
懐かしい校舎。 でも今はそれどころじゃないんだ。
もう 12 時 25 分。
少し遅れて良かったのかもしれない。
だって去年のようにヒロとバッタリ会って しまうかもしれないから。
お参りに来るかわからないけど この時間ならきっと会うことはないよね…。
「行って来るねっ!!」
コンビニの袋を手に下げ車のドアに手をか けた時
優は美嘉の手首を強く掴み引き止めた。
ただクリスマスには 美嘉が必ずどこかへ出掛ける…
「…優??」
「行かなあかんの?」
「……え」
「どうしても行かなあかんのか?」
掴まれた手からは
優の不安な気持ちが痛いくらいに伝わって くる。
優がなんで不安になっているのかはわから ない。
今思えばこの時からこれから起こる何かを 感じていたのかもしれない…。
「行かない…」 お参りは、
明日の朝でも行ける。
今は優の不安な気持ちを取り除いてあげた いんだ
だから優が行って欲しくないなら、 行かないよ。
優は掴んだ手をパッと離し、
美嘉の頭をポンと叩きながらいつもの笑顔 を見せた。
「冗談やって!俺ここにおるから気ぃつけ てな」
もし優がこの時美嘉の手を離していなかっ たら、
この時優のそばを離れることはなかっただ ろう。
そしてこの先 胸を痛めることはなかったのに…。
優のいつもの笑顔に安心し、 ドアを開け外に出た。
「すぐ戻って来るからねっ!!」
車の窓ごしに手を振って公園へと向かっ た。
ベタ雪のせいか
歩くたびに足元がギュッギュッと鳴ってい る。
雪の結晶もいつもより大きく見える。 呼吸をするたびに口から出る白い息が
視界を邪魔する。
凍える手をポケットに入れて、 公園まで歩いた。
公園に入ろうとした時、花壇の近くに見え た黒い人影。
もしかして
……ヒロ??
違う。
あの後ろ姿は ヒロじゃない。
だってヒロは もっと背が高くて…。
じゃあ
……誰??
そーっと花壇に近付くと
花壇の前で手を合わせていたその人は足音 に気付いたのか
ゆっくりと振り向いた。
…ノゾム?? ノゾムだ。
「ノ…ゾム??なんでここに?!」 花壇には
白い花と赤いブーツに入ったお菓子が 供えられている。
ノゾムは一瞬驚きの表情を見せたが、
すぐに落ち着きを取り戻したみたいだっ た。
「美嘉久しぶりだな。元気だったか?」
「元気だけど…なんでノゾムがここに…?」
その瞬間強い風が吹き、 美嘉の長い髪の毛が乱れて顔にかかり… 整えようと手で髪をとかした時、
左手の薬指ではさっき優から貰った指輪が 雪の結晶のごとく光り輝いた。
指輪に気付いたノゾムは突然その場に腰を降 ろし
降り積もった雪を寒さで赤くなった手で かき集め始めた。
「…新しい恋してんなら聞かねぇほうがい いよ」
…聞かないほうがいい。 美嘉もそう思うよ。
聞かないほうが、
余計なことを悩んだり考えたりしないです む。
聞いてしまったら もう後には戻れない気がするから…。
だけど… だけどね…
聞いたらまた苦しくて悲しい想いをするか もしれない。
でも聞かないと一生後悔するような気がす るの。
遠い遠い頭の奥で、 誰かの声が聞こえた。
【…聞いてあげて…】 その声は
赤ちゃんですか。
それとも…。 あの人の心の声ですか。
「なんでノゾムがここにいるの?教え て??」
ノゾムは、
作ったばかりの雪玉を遠くへ投げ飛ばし た。
割れる雪玉。
「聞いたら美嘉の人生変わるかもしれねー よ?」
浮かんだのは 優の笑顔。
聞かなかったら一生心の奥に引っ掛かって しまうかもしれない。
自分のためにも、 優のためにも…。
答えはとっくに 決まってる。
聞かなきゃ。
唾をゴクリと飲み、 ゆっくり頷いた。
ノゾムの話を聞き終えた時 足がガクガクと震え…
力が抜けて立っていることさえ出来ずに雪 の上に座り込んだ。
寒いはずなのに なぜか体中が熱くて…
頭や胸、手や足。
…体の全体がドクンドクンと脈打っている。
遠くで響く車のクラクションの音が まるで夢みたいに聞こえて…
大粒の結晶がほてった頬に落ち、 溶けた雫が背中に流れ落ちた。
冷たくてビクンと揺れる体で今の状況が現 実であることを
どうにか把握出来る。
頭の中では過去の映像がぐるぐると回って いて…
何回も何回も同じ映像ばかりが 頭の中を駆け巡る。
さっきコンビニで買った花とお菓子が入っ た袋を
汗をかくほど強く握っていた。
「俺携帯番号変わってねぇから何かあった ら連絡してこい。」
ノゾムは美嘉が持っていたコンビニの袋を取 り、
中に入っていた花とお菓子を花壇に置い て、
再び軽く手を合わせて去って行ってしまっ た。
ノゾムが話してくれた内容は
…こうだった。
今日はノゾムが
ヒロの代わりとして赤ちゃんのお参りに来 た。
代わりに来た理由。
それはヒロがどうしてもここに来ることが 出来ない理由があったから。
あらかじめヒロが買っておいた白い花と赤 いブーツに入ったお菓子を持ってお参りに 来た。
ヒロは… 癌に侵されている。
今病院で治療を受けるために入院してい て…
お参りに来たかったんだけど、 退院許可が出なかったんだって。
事情を詳しく聞いたノゾムが、 来れないヒロの代わりにここに来た。
高校二年の夏。 ヒロがちょうど変わってしまった時期…
体調が悪くて病院に行った時、 癌宣告をされた。
いつか自分はこの世から
美嘉の隣から いなくなってしまうかもしれないから…
寂しがりやの美嘉を 一人にさせることは出来ないって。
だから美嘉から 離れて行った。
これがヒロがいきなり 変わった理由。
突然別れを告げた理由。
それでも自分の存在を 忘れて欲しくなくて、
わざと美嘉の友達と付き合ったりして 美嘉の近くにいようとしてたんだって…。
去年のクリスマスにここで偶然会った時も
卒業式の日最後に話した時も 何かを言おうとして
くれてたよね。
もしかして… それを言いたかったの?
自分は病気だから… 癌だから…
嫌いになって別れたんじゃないよって。
そう言いたかったの…?
美嘉が寂しがりやだから
いつか自分はいなくなってしまうかもしれ ないから、
だからわざと離れて行ってたんだ。
何度も何度も言おうとしてくれていたの に、
ヒロの話を聞いてあげることが出来なかっ た。
自分を諦めさせるために別れる時ひどいこ とをたくさんさせて…
別れてもどこかで繋がっていたいと思って くれてたから 自分の存在を忘れないで欲しかったから…
ミヤビと付き合ったり してたんだね。
あの時の“バイバイ”は優しい言葉だった。 ヒロの精一杯の
愛だったんだ。
川原で背を向けて歩き出した時… 卒業式の日握手した手を離した時…
どれくらい辛かった?? 不安だった??
どうして今になって そんなこと…。
知らないほうが良かったのかな。 知って良かったのかな。
わかんない。 わかんないよ…。
一時間くらい 雪の上に座っていた。
花壇に置いた花やお菓子の上にはだんだん 雪が降り積もって見えなくなってゆく。
「…美嘉!」
なかなか帰って来ない美嘉を心配して探し てくれていたのか、 鼻を真っ赤にして走って来る優。
「何しとるん?心配したやろ!あ~耳こん なに赤くして。アホ…」
優は両手で 美嘉の耳を包んだ。
しかし優の手も氷のように冷たくて…
長い時間 探していてくれたんだね
優は花壇に置いてある花やお菓子を見てい る。
赤ちゃんへのお供えだと気付いたのか、 美嘉を花壇の前まで抱き上げて運んだ。
「お参りせぇ」 感覚のない手を合わせてお参りする。 その横で一緒になって手を合わせる優。
頭の中では ノゾムの言葉だけが繰り返されている。
お参りを終えると 再び抱き上げられ、 そのまま車まで運ばれた
優の着ていたニットの上着を肩にかけら れ、
車は動く。
優は何も聞いて来ない。 美嘉が雪の上で一時間座っていたことも
毎年クリスマスにお参りに行っていたこと も…。
音楽もかけずに静まった車内で、 二人が言葉を交わすことはなかった。
車は家を通り過ぎ どこかへ向かって走る。
しばらくして着いた場所は二人が始まった 海だ。
優はエンジンをつけたまま砂浜に車を停め た。
「外やと寒いから車の中で話そう。な?」 寒さで震える声で
美嘉は答える。
「……うん」
車の中にいるのに、 波の音が聞こえてくる。
いつもはゆっくりで癒される波の音も、 今日は激しくて怖い音。
「お互い伝えることがあったら海に来よう って約束したやん。」
前… 海に来た時約束したね。
“何かあったら 海に来て話そう”って。
指切りげんまん したよね。
「はりせんぼん飲みたいんか?」 美嘉が首を大きく横に振ると
優は髪を優しく撫でた。
「ええ子や。ゆっくりでええから話せる な?」
シートベルトを強く握りしめ ゆっくりと口を開いた。
「美嘉ね、毎年クリスマスに赤ちゃんのお 参り行ってたの…」
「なんとなく…気付いてたで」
「それでね、去年偶然元彼に会ったの」
「…うん」
「その時ね、ちょっと迷っちゃったの。優 か元彼か…でも美嘉はやっぱり優が好きだ から優と一緒にいたいって思った」
「…そうやったんか」
「それでね、今年もお参り行ったの。そし たら元彼の友達がいたんだ」
「友達?」
「その友達は今美嘉が新しい恋してるなら 聞かないほうがいいって言ったんだ。でも 美嘉は聞いておかないとずっと気になると 思って…だから聞いたの」
「理由は何やったん?」
「元彼…癌なんだって。だからお参り来れな いんだって…」
優からの返事がなくなったので 続けて話す。
「美嘉と別れた時にはもう癌だって気付い てたんだって…」
優はしばらく沈黙を続けそしてゆっくり話 し始めた。
「俺が前、美嘉に元彼どんなやつだった ん?って聞いたの覚えとる?」
「うん、覚えてる。」
「そん時美嘉が元彼を悪く言って、俺が“今 の言い方やとそこも好きやったって言い方
やな”って言ったのは覚えとる?」
「覚えてるよ……」
「もう一回聞くで。元彼どんな男だった ん?」
唇を噛み締めながら ゆっくり答えた。
「……短気で嘘つきでどうしようもない 男…」
この言葉を聞いて 優が何を感じ取ったのかはわからない。
優はフフッと笑い、 ドアを開け 外に出てしまった。
ドアが開いた一瞬車内に流れ込んで来た外 の空気は、
雪と潮の香りが混ざり合い美嘉の心のよう に複雑だった。
車を降り、 走って優の腕にぎゅっとしがみつく。
しがみつかないと優がどこかへ消えてしま う…
そんな気がしたから。
優はそんな美嘉をいつものような優しい笑 顔で見つめ、
手を握った。
「一回会いに行きぃ」
「…え?」
「元彼に一回会ってそれから考えたらええ よ。俺待っとるから。時間かかっても待っ とるから…」
優はこの時どんな気持ちだったのかな。 本当は
どこにも行くなって…
離れるなって言いたかったんじゃない の??
お参りに行く前、 優に手首を掴まれて引き止められた時…
あの時離れなかったら何か変わっていたか な。
今頃家で二人でケーキでも食べながらイチ ャイチャしてたかな…。
遠くから来た車のライトが二人を照らした 時、
優の目から流れる一粒の雫を見た。
美嘉はすぐに目をそらし視線を地面へとず らして下を向く。
溶けて流れ出た雪かもしれない…。
優はヒロに一回会えって言うけど、 それでいいの?? それが本当の気持ち?
ねぇ、優…。 クリスマスから三日が経ち、
美嘉はノゾムに電話をかけた。
【一回会いに行きぃ。それから考えてええ から】
優の言葉… 素直に受け止める。
逃げてばかりじゃ、 ダメだよね。
今すぐ行動しなきゃ 前に進めなくなってしまいそうだから…。
♪プルルルルル♪
『もしもし』
『ノゾム?美嘉…』
『来ると思ってた。ってか遅ぇよ!』
『ごめん…』
『彼氏は大丈夫か?』
『うん、会いに行きなって言ってくれた。』
『そっか。俺が勝手に教えていいのかわか んねーけど…東病院の 302 号室にいっか ら。』
『わかった。ありがとう…』
ノゾムの言ったことを 近くにあった紙にメモする。
そして電話を切り、 メモを強く握りしめた。
「病院でええんやろ?車出したるわ」 メモを覗き込みながら言う優。
「いや、いいよ。歩くから大丈夫…」
「いや、出す。嫌って言われても出すわ!」
優はなんでこんな時にまで こんなにやさしくしてくれるんだろう。
本当は辛いよね。 不安だよね…。
病院の住所を伝え、 そして車は病院へと到着した。
「優、行ってくるね。」
「頑張れな。俺ここでずっと待っとるか ら!」
笑顔を作る優。 今は優のやさしさに心が痛いよ。
普通出来ない。
好きな人を元彼に会わせるために送り迎え するなんて、
普通は出来ない。
車を降り、 病院へ向かった。
立ち尽くす。
ここに、 ヒロがいるんだよね…。
美嘉今からヒロに会うんだよね。 実感わかない。
勇気を出して中に入り、階段を駆け上がる。
1 階…2 階…3 階…
302 号室の前。 この病室の中に
ヒロがいるんだ。
ドアの前で深呼吸をし、ドアノブに手をか ける。
…ヒロに会うのが怖い。
ヒロが言おうとしてたことを聞こうともし ないで
自分だけが傷ついたのだと思い込んでい た。
ヒロが病気と闘っている時、 美嘉は新しい生活を始めて新しい恋して…
今さら会う資格あるのかな?? その時、
思い出したのは優の言葉
【ずっと待っとるから】
病院の入口で
トントン
汗をかいた手のひらを握りしめ、 ノックをする。
…返事がない。 寝てるのかな?? もう一回…
トントン やはり返事はない。
さらに深く深呼吸をし、そおっとドアを開 けてみた。
「失礼しまぁす…」 小さい個室の真ん中にある一つのベット。
そこに寝ているのは…
ヒロ?? 最後に会った卒業式の日とは全然違う。
やつれたように痩せてしまっている。
相変わらず帽子をかぶっていて、 細い体が吐息で微かに揺れていた。
「ヒロ…」
ほっぺに手をあてる。
「こんなに、こんなに痩せちゃって…」 ヒロが寝返りをうった瞬間に、
かぶっていた帽子が少しずれた。
髪の毛が… ない。
だからずっと 帽子かぶってたんだ。
クリスマスに会った時も卒業式も…
“帽子が俺のマイブームだ”って言ってた じゃん
やっぱり嘘つき…。
耐えられなくなり、
病室を出て待合室のイスに座ってうつむい ていた
「美嘉ちゃん」 誰かに肩を叩かれ
顔を上げる。
「エリさん…」 ヒロのお姉さんのエリさんだ。
「ノゾムから聞いたよ。よく来てくれたね!」
「はい…」
「病気のこと言えなくてごめんね」
今頭に浮かぶのは、 さっき見たヒロの姿だけ…。
「あたしは病気のこと美嘉ちゃんに言いな って何回も言ったんだけど、でもあいつは いつかいなくなるかもしれない自分より、 他の男と幸せになってもらいたいって」
「はい…」
「あいつね、いつも病室のドアが開く時嬉 しそうな顔すんの。美嘉ちゃんに言ってな いんだから来るはずないのに…いつか来る こと期待してんの。バカだよね!」
うん…バカだよ。 本当にバカだよ
バカすぎるよ…。
もしノゾムから病気のこと聞かなかったら、 ずっと知らないままだったんだよ??
ヒロが病気と闘ってるなんて… ずっと知らないままだったんだよ??
いつかヒロのこと忘れて他の人と結婚し て…
それなのに美嘉を待ってたなんて、 ヒロは本当にバカだよ。
「あいつ今でも美嘉ちゃんの事想ってる よ…」
エリさんの言葉に 唇を噛みしめながら返事をした。
「美嘉には今、すごく大切な人がいます。 その人が下で待っててくれて…だからヒロ に会っていいのかわからないです…」