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第二十章 ピース

作者:日-美嘉 当前章节:15359 字 更新时间:2026-6-15 17:36

年が明け、 学校が始まった。

インターネットでヒロが今闘っている悪性 リンパ腫について調べてみる。

《悪性リンパ腫》 白血球中のリンパ球が癌化した悪性腫瘍。 発症年間 10000 人前後。

年齢は関係無し。 固形癌より良好な治療成績。

完全に完治することが出来る確率 50~80

%。

悪性リンパ腫に侵された人で、 助かった人もたくさんいる。

助かった人が たくさんいる。

ほんの少しだけ 安心した。

それから あまり学校へ行かなくなってしまった。

なんか、 行く気になれない…。

ヒロのこと、 忘れたはずだったのに。

卒業してから 会わなくなって…

ヒロに新しい彼女が出来た時、 やっと諦める決心が出来たの。

でもね、 今ヒロが美嘉と別れた理由を聞いて

ヒロの本当の気持ちを知って 今心は

揺れ動いているんだ。

……最低。 都合のいい女。

こんな自分 大嫌い。

美嘉は 恋していいのかな。

こんな自分が誰かを好きになっていい の??

優を選んだ決意は固かったはずなのに こんなにも簡単に

揺らぐなんて…。

………ヒロ。

悩んでるのは、

ヒロが病気だから?

癌だって わかったから?

……違う。 そうじゃない。

病気だから同情してるとか… そんなんじゃない。

ヒロに裏切られた事。 傷つけられた事。

いろんな事を思い出して別れてからずっと 無理矢理諦めをつけてきた。

でもそれが美嘉のためを想う嘘だと知って ヒロが変わってなかった事を知って 好きだった頃の気持ちが戻って来てる。

だって 大好きだったんだもん。

ずっとずっと 大好きだったんだもん。

本当は 別れたくなかったよ。

離れるわけないと思ってた。 一生隣にいてくれると

思ってた。

だから別れてから… すごくすごく辛かった。

だけどね… ずっとずっと想っていたんだよ。 ずっとずっと好きだった

忘れられなかったの。

あの人に… 優に出会うまでは。

………優。

優はどんな美嘉でも 受け止めてくれる。

元彼に未練あっても、 過去を聞いても… それでも好きでいてくれたよね。

優の笑顔には たくさん助けられたよ。

優の言葉に たくさん助けられたよ。

優がいたから 乗り越えられた問題がいっぱいある。

家族も友達も過去も。

いつも元気で やさしくて前向きで…

温かい手で包んでくれる 魔法の手を持っている。

この人となら ずっとずっと一緒に歩んで行ける。

これからも手を繋いで一緒に歩んで行け る。

そう思っていたよ。

あの人に… ノゾムに

真実を聞くまでは。

今も優の家で 一緒に暮らしている。

ゆっくり考えろって言ってくれた優。

美嘉が迷ってるのを知っているんだ。 でもあえて

俺のとこに来いとは言わない。

きっと美嘉を 追い詰めないため…。

優はそんな人。

いつまでもこんなにダラダラしてられない よね。

早く答えを出さなきゃ。

━2 月 4 日。 朝起きたら

優はもう居なかった。

大学へ行ってしまったのかな。

冬休みが終わってから 一度も大学には行ってない。

二月後半にはテストがあるから、 それだけ行けばいいや。

この日行こうと決めてる場所がある。

メイクをし、 何枚も重ね着をして家を出た。

引越しした時に優から貰った合い鍵で 鍵をかける。

「よしっ!!」 一人で気合いをいれて

駅まで歩き始めた。

それが優のやさしさ。

列車を乗り継ぎ、 着いた場所は…優と始まった海。

いつも車で来てたから気付かなかったけど 意外に遠いんだ。

冬の海に誰もいるはずなく静まり返ってい る。

夏だと砂浜であるところに今は雪が積もっ ていて

持ってきた新聞紙をひき腰をおろした。 目を閉じて、

波の音に耳を澄ませる。

…ザザーンザザーン

波の音って不思議。 心情によって聞こえ方が変わるから。

気持ちが落ち着いている時や嬉しい時には ゆっくり優しい音。

不安な時や悩んでいる時は激しくて悲しい 音。

今日の波は いつもより激しくて悲しい音に聞こえる。

波は必ず行っては 戻って来る。

海で、 いろんなことがあった。

ここで優と始まって、 かすみ草をプレゼントしてくれたっけ。

卒業式にも来た。

お互い伝えることがあれば海に来ようって 指切りげんまんしたよね。

お互いの夢を 語り合って…

今でも優は素敵な保育士になれると思って る。

キャンプ行った時も、 海でたくさん遊んだ。

優が買ってくれた浮輪つけて くるくる回されたなぁ。

アヤと仲直りするきっかけを作ってくれて、 砂浜で一つになって

二人で朝日見たよね。

…あの日見た朝日は 一生忘れない。

クリスマス。 お参りの帰り海に来た。

ヒロが病気であることを話した。 優は笑って会いに行けって言ってくれて…

優の目から 流れる雫を見たよ。

……優の本音は?? いろいろなことを

思い返していた。

雪を掻き分け下にうもれている砂を取り出

そうと試みたが 雪が深すぎて砂が見つからなかった。

立ち上がり 波の音と広い水平線を目に焼き付けて

再び駅へと歩き始めた。

そしてまたいくつもの列車を乗り継ぎ… 駅を降りて歩く。

懐かしい街並み。 懐かしい空気。 切なくなる風景。

海で雪を掻き分けた時の指先がまだ痛い。

手をポケットに入れたけどなかなか温まる 気配はない。

途中コンビニで温かいココアを買ったけれ ど、

すぐに冷たくなってしまった。

ウタからもらった緑色のマフラーのおかげで 首元が少しはポカポカしている。

まだ誰も踏んだ形跡のない坂道を、 滑らないよう注意しながら降りる。

次に着いた場所は、

…ヒロと別れてしまった 川原だ。

雪の上にひいた新聞紙に座り、

川の音に耳を澄ませる。 チョロチョロ…

凍ってしまっているのか 流れる音が聞こえたり聞こえなかったり。

川の音って不思議。

音が聞こえると安心出来るのに、 聞こえなくなると不安になったりする。

川の水は波とは違って、一度流れてしまっ たらもう戻っては来ない。

ヒロとたくさんここに来たよね。

初めてヒロが美嘉をここに連れて来てくれ た時、

二人だけの場所が出来てすごい嬉しかった なぁ。

二人でよく学校サボってここでお弁当食べ たり、横になったりしたね。

最後にデートした日、 ここで別々の道を歩み始めて…

ヒロの後ろ姿を 見送った。

……繋がってるのに 追い掛けなかった。

傷つくのが 怖がったんだ。

振り返らなかったヒロはどんな気持ちだっ たの?

別れてからも一人でこの川原に来て、

泣いたりヒロのことを思い出していたりし た。

何度も何度もヒロが来るかもしれないっ て…

待ったりもした。

美嘉のために自分を傷つけて、 一人でどれだけ苦しんだの??

とぎれとぎれ流れる川の音と懐かしい景色 を目に焼き付け、

家路へと歩き始めた。

果てしなく広くて、 さらさらとして汚れなき砂浜。

優しく癒される音で流れて、 何度も何度も戻って来て安心をくれる波。

一日の始まりと一日の終わりを実感するこ とのできる。

それが“海”

夏になれば勢いよく流れて、

冬になれば流れたり流れなかったりで毎日 不安にさせる。

一度流れたら進むばかりでもう戻っては来 ない。

一日の始まりも終わりも感じることは出来 ない。

でも夏になれば綺麗な花がたくさん咲いて 心を洗ってくれる。

それが“川”

ねぇ。 どっちを選べばいい??

どっちも好き。 どっちも大好き。

でも両方は選べないの。 両方選べば両方傷ついちゃうから。

一人は必ず傷つけてしまうことになる。 でも……

どっちかを選ばなきゃならないんだ。

ねぇ、

“海”と“川”

この先美嘉には どっちが必要なの??

どっちに行けば、 正しいって言われるの?

━2 月 9 日

今日の天気は あいにくの雨。

くるまった。

起きたら、 優は隣にいなかった。

…最近いつもいない。 まだほんのり温かい布団は、

ついさっきまで家にいた証拠。

授業に行ったのかな?? コンビニに食べ物買いに行ったのかな??

それにしても 最近悩んでばかりで 頭が痛い…。

毎日のように頭痛薬を飲んでいるせいか、 効き目もだんだんなくなってきた。

優柔不断な自分が とことん嫌だ。

なんとなく、 誰にも相談出来ない。

大切なことだから、

……だからこそ自分で答えを決めたいんだ。

あと一歩、 あと一歩踏み出す勇気があれば…

きっかけがあれば…。

布団を頭からかぶり、

…雨は嫌い。

だって外に遊びに行けないし、 じめじめしてるんだもん。

…雨の音は嫌い。

だって空が泣き叫んでる声のように聞こえ るんだもん。

雨の音を聞こえないようにするため 近くにあった MD を MD プレーヤーに入 れ、

リモコンで再生のスイッチを押す。

曲が流れ始めた。

この曲は、 浜崎あゆみの“who...” イントロが流れ始める。

………♪♪♪

辛い時誰がそばに居てくれて 誰の肩で涙を流した? 喜びは誰と分け合って 誰と手を取り合って来た?

思い出しているよ…

二人離れて過ごした夜は月が遠くで泣いて いたよ

二人離れて過ごした夜は月が遠くで泣いて た…

本当の強さは誰が教えてくれて 優しさは誰が伝えててくれた? 誰がいたから歩こうとして 誰に髪を撫でてほしかった? 誰が諦めないでいてくれた? 忘れないよずっと…

道に迷った時そして 道が遠すぎた時に

一人呟いていたよ そんなものだと…

これからもずっとこの歌声があなたに届き ますようにと

これからもずっとこの歌声があなたに届く ようにと…

♪♪♪………………… 曲を聞きながら

考えていた。

辛い時 一緒に泣いてくれて

楽しい時 一緒に笑ってくれてたのは…

強さや優しさをたくさん教えてくれていた のは…

髪を撫でてくれて、 手を繋いでいたかったのは…

これからもずっとずっと一緒に隣で歩んで 行きたいと思うのは…

曲が終わると同時に 立ち上がった。

この曲を聞いて 頭に浮かんだのは

ただ一人。 ただ一人。

……あの人だった。

これから一人を傷つけてしまうことにな る。

でも 決めたんだ。

悩んで悩んで決めたの。

この曲が 決断をくれた。

もう気持ちは 揺らいだりしない。

迷いはない。 後悔しない。 この気持ちを貫く。

…そう決めた。

何も持たず何も羽織らず部屋を飛び出た。 走って階段を

駆け降りる。

嫌いな雨の音さえも もう耳に入らない。

美嘉は今すぐに… あの人のもとへと行く。

雨の中、 傘もささずに共同玄関を飛び出る。

走り出したその時… ドンッッ… 誰かにぶつかった。

「すみませ…」

「美嘉?」 顔を雨に打たれながらも顔を上げる。

「優…」

ぶつかったのは優。 優も傘を持ち忘れてしまったのか、

上着を頭にかぶせている

「傘もささないでどないしたん?」

そう言って自分が頭にかぶせていた上着 を、

美嘉の頭にかぶせた。

ぶつかった拍子にもともと緩かった薬指の 指輪がずれてしまい…

激しく降る雨でズレた指輪が滑り落ち、

悲しい音を立てコンクリートの地面に転が った。

“PLEDGE 誓い 誓約…”

「あ…指輪…」

地面に転がった指輪を拾おうと右手を伸ば した時

優は美嘉の右腕を 強く掴んだ。

「拾ったらあかん」

優は何かを 感じ取っている。

美嘉の決意に 気付いている。

「でも…指輪が…」 その時、

優が手に持っていたコンビニの袋の中にプ リンが二つ入っているのを見た

美嘉が元気ないから…

美嘉が大好きなプリンを二人で食べるため に、

コンビニまで買いに行ってくれてたんだ ね…。

優は美嘉の肩を 両手でがしっと掴む。

「クリスマスの日な、海で元彼どんなやつ やったん?って聞いたやん」

「うん…」

「あん時美嘉が元彼を悪く答えた時そこが 今でも好きって言い方やった」

言葉が出ない。 何を言っても

言い訳に聞こえてしまいそうだから…。

「あん時から俺じゃダメなんやと思って た」

雨の音のせいで 聞き取りにくい声。

優は負けずに 大声で続ける。

「俺な、昔好きやった女の背中押してやれ へんかったこと今でも後悔しとんねん」

「…うん」

知ってたよ。

やっと言ってくれたね。ずっと待ってた よ…。

「好きな女の幸せ願えなかった俺は最低 や」

そんなことない。 優は… 優は正しいよ。

体を強く抱き寄せる優。 でもね、

美嘉は優を抱きしめ返すことは出来ない の…。

雨で濡れた服が冷たくて 優のぬくもりが感じられない。

雨の音で、 優の鼓動さえも聞こえない。

「美嘉は俺のこと好きやった?」

抱きしめられたまま 頷く。

「俺と過ごして楽しかったか?」 今は何度も何度も強く頷くことが

精一杯だった。

優は抱きしめていた体をそっと離し、

美嘉の濡れた髪をくしゃくしゃ撫でて微笑 んだ。

温かい手。 頭を撫でるこの手が

大好きだった。

優の髪の毛から垂れる雨の雫が、 美嘉の顔にポタポタと落ちる。

「俺、美嘉のこと今でもめちゃめちゃ好き やで。これからもずっと好きやと思う」

「優…」

「せやから美嘉には幸せになってほしいね ん。好きな女には誰よりも幸せになってほ しい。それが俺にとっての幸せやから…」

そして優は 美嘉の背中を 強く押した。

「行ってこい!」

背中を押された反動で少しだけ前に進み、 ゆっくり振り返る。

降り止もうとしない雨。

雨で髪も服もびしょびしょに濡れた優の 姿。

戻って しまいそう…。

後ろへ一歩踏み出した。 その時…

「行け。戻って来たら、嫌いになるで!」

激しさを増す雨の音が、優の心の叫びに聞 こえる

戻っては いけない…。

もう戻らない。 同じ過ちは

繰り返さないんだ。

雨と涙で ぼやける優の姿。

でも確かに見た。

優が両手で ピースしているのを…。

優が前に教えてくれた ピースのおまじない。

【ピースの意味は二つあるんやで。一つ目 は、辛い時とか勇気出ん時ピースすると元 気が出て笑顔になれる。

二つ目は、誰かに向かって頑張れって応援 する時にピースをすれば、された人は成功 するんやって!】

優はどっちの 意味なのかな。

辛いから 笑顔になれるため…??

それとも美嘉に頑張れって言ってくれてる の…?

両手でしてるから、 両方の意味なの??

そのまま 走り続けた。

優は過去に好きな人の背中を押してあげら れなかったから、 美嘉の背中を強く押してくれたんだね。

美嘉がヒロのもとへ戻ってしまうことを何 となく気付いていて、 それでも何も言わずに守ってくれていた。

どんな美嘉でも好きでいてくれて…

1番に美嘉のことを考えてくれていたよ ね。

優に何度も助けられた。 その手に助けられた。

優の手は美嘉の涙を乾かし、 怒りをおさえ、 安心を与えてくれて…

あなたの手は やっぱり 魔法の手でした。

優にたくさんのことを 教えてもらいました。

勇気も希望も… 前へ進むことを

教えてもらいました。

……優。 優がさっき言ってくれた言葉は、

本音ですか??

本当に 優は幸せですか??

…ただの 強がりなのかな。

でもね…

優が本当にそう思って言ってくれたことだ ったと信じます。

本音だと… 後悔してないと 信じます。

優、本当にごめんね。 自分勝手な美嘉を…

最後まで支えてくれて ありがとう。

果てしなくて、 綺麗な砂が一面に広がっていて…

優しい音を出しながら必ず戻ってくる波を 持っている海が好きでした。

でも小さくて、 すぐに不安にさせて…

一度流れたら 二度と戻って来ない川。

あたたかい時期に 川原に咲く花。

たった一輪だとしても… 枯れそうだとしても…

それでも美嘉は その花のほうが 大切だったみたいです。

枯れたら 美嘉の涙で元気にしてあげたいのです。

病院に向かって 走った。

決めたあの人に 会うために。

病院に着いた時服も髪もびしょびしょで、 看護士や患者さんの視線が痛かった。

でも今は そんなことよりも…。

階段を駆け上がり、

ヒロのいる 302 号室へ向かう。

302 号室の前。 ここを開けたら、

後戻りは出来ない。

いいんだ。 美嘉は

ヒロを選んだの。

ずっとそばにいて支えてくれた人を傷つけ てまでヒロを選んだから。

「…失礼します!!」 ノックをせずに

強くドアを開ける。

……誰もいない。

布団は開いたままで、 花瓶には色とりどりの花が飾られたまま。

「どこにいるんだろ…」 ひとり言を呟き

病室のイスに腰をかけた

何も考えずただ勢いだけで来てしまったせ いか、

なんだか拍子抜け…。

改めて落ち着いて考えると、 胸が痛いよ。

優を傷つけてしまった。 裏切ってしまった。

ずっと守って くれてたのに。

指輪… PLEDGE… 誓い…

落としてしまいました。拾えませんでした。

懲りずに優のことを考えて心を痛めていた その時

病室のドアが開いた。

「美嘉ちゃん!来てくれたんだね!」

「そんなに濡れてどうしたの!?今タオル 貸すから!」

エリさんは心配そうな顔で棚の中から取り出 したタオルを投げた。

「あ、ありがとうございます…ヒロは??」

「弘樹は今検査中だよ!もうすぐ戻って来 るからジュースでも飲んで待ってな!」

エリさんは嬉しそうに冷蔵庫からジュースを 取り出し、

コップについでいる。

タオルで顔と髪を拭こうとした時、 手に持っていたある物に気が付いた。

優が頭にかけてくれた 上着。

…そのまま持って来ちゃった。

自分も雨に濡れたくないはずなのに、 美嘉にかけてくれた。

唇を噛み締めながら上着を小さくたたみ ひざの上に置いた。

「ノゾムから聞いて来てくれたんでしょ?」 コーラの入ったコップを差し出しながら

エリさんが問い掛ける。

コップを受け取りながら噛み締めてた唇を 戻して答えた。

「あっ、エリさん…」

「ノゾム?なんのことですか??」

「あれ?ノゾムから電話来なかった?だから 来てくれたのかと思ってたよ」

確かにノゾムから何回か 着信があったけど…。

悩んでる途中だったから電話に出なかった んだ。

「…ノゾムがどうしたんですか??」

「弘樹が美嘉ちゃんにどうしても話したい ことがあるって言ってたの。それでノゾムに 頼んだんだ。美嘉ちゃんを病院に連れて来 いって。だから来てくれたのかと思った!」

ヒロが美嘉に話…? 話って何??

頭の中では 悪い妄想ばかりが 駆け巡る。

もし… もしヒロにまた突き放されたとしても、 絶対に諦めない。

選んだ道を引き返すようなことはしない。 何があっても

離れたりはしない。 追い掛けるんだ。

しばらくイスに座って待っていると、 病室の外で看護士の声が聞こえた。

立ち上がり、

優の上着をイスの上にそっと置きヒロを待 つ。

ドアがゆっくり開き、 ヒロが顔を覗かせた。

美嘉の姿を見つけたヒロは、

驚きと喜びを足して2で割ったような表情 を見せた。

「よぅ美嘉。久しぶり…でもねーか!」

「うん……」 ヒロは看護士に介助されながら、

ベッドに座る。

看護士は病室から出て行き、 病室の中は美嘉とヒロとエリさんの三人。

「美嘉ちゃんに話あるんでしょ?」 何かを期待した様子の

エリさん。

美嘉も話があるんだ。 今すぐヒロに

話したいことがあるの。

「おめぇーは出てけ!」

エリさんに向かって 強気な口調のヒロ。

「はいはいはーい♪」

エリさんは何か言いたげな表情で 病室から出て行った。

その表情は喜びが隠せないような… そんなふうにも見えた。

病室の窓から見える 一本の太い木。

その木についている葉っぱが激しく揺れ、 風が強いことを表している。

ヒロはベッドの横についてる手すりに捕ま りながら立ち上がろうとしているので、 ヒロのもとへ駆け寄り肩を貸した。

ヒロは美嘉の肩を掴みながら立ち上がり、 そのまま体をぐいっと抱き寄せる。

「最近寝てばっかりであんまり体使ってね ぇから…マジだせぇな」

「あはは…しょうがないよ!!」 笑顔が引きつる。 こんな状況なのに…

抱きしめられてドキドキしているんだ。

病室の窓から少しもれている空気がヒュー ヒューと鳴った時…

「美嘉ね…」

「話が…」

二人は同時に口を開き 言葉が重なった。

「…ヒロから言っていいよ!!」

「俺大したことじゃねぇから先に言え!」

目を合わせて笑う二人。

「も~、卒業式の時と一緒じゃん!!」

「だな。じゃあ今回は俺から言うわ!」

ヒロは抱きしめる手の力を強めた。

「俺、今美嘉に彼氏がいんの知ってっけど… でも好きなんだよ。もう絶対離したりしね ぇよ。俺のところに戻って来い」

大したことないとか言って… 相変わらず嘘つき。

ヒロの体に 手を回す。

あの頃とは違って腰回りが細くなって… 回した手が

余るくらい。

「……バカ。遅いよ…」

ヒロの胸に顔を押し付け涙をこらえている と、

ヒロは体をゆっくり離し優しくキスをし た。

「もう離さねぇから…」

美嘉は…

美嘉はずっとこう言われるのを待ってたの かもしれない。

好きだから…

好きな人に幸せになってもらいたいから離 れる。

それも嬉しい。

だけど、 好きだからこそ離さないで欲しかった。

好きだから相手を幸せに出来なくても 一緒にいたい。

離れたくない。 離れるなって

言われたかったんだ。

ずっとずっと 言われたかったんだ…。

「…俺、ずっと美嘉を抱きしめたかった」

「…うん」

美嘉が優と校門の前で話してた時と、 卒業式に話した時。

ヒロ寂しい顔で 笑ったよね。

あの時本当はね、 ヒロが何かを伝えたがってるの

気付いていたのかもしれない。

でもね、

知らないフリしたの。

知るのが 怖かったんだ。

あの時美嘉は新しい道を歩き始めてたか ら、

お互い別々の道を歩んで行くのが 正解だと思ってた。

ヒロとこの先一緒に歩んでいくのは、 とても辛いこのなのかもしれない。

優を選んでいれば、

何も考えずに楽しく過ごせたのかもしれな い。

でもね、 ヒロの悲しみや不安を

一緒に背負っていきたいと思ったの。

支えになってあげたい。

大事な人を傷つけてまで選んだ恋。 何があっても

離したりしない。

諦めたりしないからね。 絶対…。

この日久しぶりに 実家に帰った。

今までずっと 優の家にいたから…。

実家に帰るのは 何ヶ月ぶりだろう。

「ただいま~!!」

久しぶりに帰ったので、お母さんは驚いた 様子。

「あら?美嘉が家に帰って来るの久しぶり だね!メール返事くれないし。元気にして た?」

「ん…明日から実家に戻って来るから。」

「優君となんかあったの…?」

何も答えなかった。 お母さんもそれ以上何も聞いてこなく、

会話を聞いていたお父さんも何も聞いては 来なかった。

せっかく家の負担減らすために一人暮らし 始めたのに、

こんなんじゃダメだね。

またバイト探して新しい家を探さなきゃ。

美嘉の部屋はない。 引っ越す時に、 いらないって言った。

行く場所がなくお姉ちゃんの部屋に入る。

「あれ?おかえり!」

あっけらかんとした態度に心が洗われたり もする

「お姉ちゃんやっほー」 ベッドの上に

腰を降ろした。

「彼氏となんかあったの?」

「…えっ、なんで??」

「指輪してないから!」

「別れちゃったぁ…」

「そっかー…」

「しかも元彼と戻っちゃったぁ」 机にひじをつきながら

お姉ちゃんは語る。

「人生いろいろあるよ。平凡な人生なんて つまらないでしょ!後悔するかしないかな んて、誰にもわからないし。進みたい道に 進む、それでいいと思う!」

その言葉の意味を 深く考えていた。

今日雨の中で優に会った時

ヒロを選んだ自分に少し腹が立ったりもし た。

どうしてこんなに想ってくれる人を 離してしまうんだろう。

また傷つくかもしれないのに、

どうして自ら辛い道を選んだんだろうっ て…

…そう思った。

自分を攻めた。

でも今は自分の出した答えに自信持つこと が出来るよ。

後悔するかしないかなんて誰にもわからな い。

進みたい道に進む。 美嘉は

進みたい道に進んだ。

だから間違ってないよ。

お姉ちゃんの部屋に 布団をひいて寝た。

美嘉にとって眠り薬だった優の手のぬくも りは

もう無い。

これからもずっと…

寝返りをうっても 隣に優はいないんだ。

聞こえる吐息は 優のじゃないんだ。

それもいつか 慣れてくのかな。

美嘉は ヒロと共に生きていく。 ヒロと共に生きていく。

結局全然寝れず、 朝早く優にメールを送った。

《今日の午前 10 時に部屋の荷物を取りに 行くね》

服も化粧品も大学の教科書も… なにもかも優の部屋にある。

だから取りに行かなきゃいけない。

昨日優が頭にかけてくれた上着も返さなく ちゃ。

きっと会うのは嫌だろうから、 あえてメールを送ることにした。

取りに行く時間がわかれば その時間に家を出るだろうと思ったから。

今日の天気は 雨上がりの晴天。

バスに乗って 優の家に向かう。

指輪どうなったかな。 昨日は雨と風が強かったから

飛んで行ったのかな。

優が拾ったのかな??

わからないけど、 探したりしない。

エレベーターに乗り、

優の部屋に向かった。 ポケットから合い鍵を出し鍵を開ける。

静かに靴を脱いで部屋にはいった。

…ベッドで寝ている優。 背を向けているから

顔は見えない。

薄暗い部屋。 カーテンも 閉まったまま。

朝送ったメールまだ見てないのかな??

もし今優が起きてしまったとして美嘉が部 屋にいたら、

嫌な思いをするだろう。

物音をたてないよう 静かに荷物をつめる。

部屋の隅に追いやられたハイビスカス柄の 浮輪やサンタクロースの衣裳。

夏も冬もたくさんの季節を一緒に過ごした ことを物語っている。

テーブルの上には花瓶が倒れたまま枯れて しまったかすみ草と、 袋に入ったままの二つのプリン。

この部屋でたくさんの時間を過ごした。 二人だけの時間を

過ごした。

ここでたくさんの試練を乗り越えたね。

たくさん笑ったね。 たくさん泣いたね。

出て行く美嘉より残される優のほうが 何倍も辛いんだ。

いつか優が美嘉のことを恨んでしまう日が 来るかもしれない。

それでもいいの。 いいんだ。

美嘉は優を傷つけてしまったんだから…。

ずっと待っててくれた優を手放してしまっ たんだから。

…当然の報い。

でもね、

美嘉は何があってもこの部屋で過ごしたこ とを

忘れないよ。

絶対絶対、 忘れないよ。

背を向けて寝ている 優の背中。

そう言えば優の背中を見ることって あまりなかったな。

優はいつも美嘉の横にいてくれてたもん ね。

横にいて 一緒に笑ってくれてたもんね…。

床に座り、

優の背中を見ながら起こさないよう小さな 声で話しかけた。

「優…優のこと好きだったよ。大好きだった よ。元彼の代わりとか、そんなんじゃない。 優っていう一人の人が好きだったの。優と 過ごしてた時間は本当に楽しかった。だけ どね、それより大切なことに気付いちゃっ たの…あの人を助けてあげたい。一緒にいた いの。好きなの。優…傷つけて本当にごめん

なさい…」

持っていた優の上着を ギュッと抱きしめた。

優の香りをかぐのは これで最後だね。

抱きしめた上着は涙で丸い染みがつき… 上着をたたんで

優の枕元にそっと置き、 部屋を出た。

合い鍵で鍵を閉め、 ポストの中に入れる。

ドアに向かって深く頭を下げマンションを 出た。

その時…

「…美嘉!」 上から呼ばれた声で

顔を見上げる。

太陽がちょうど雲で隠れていたおかげで ハッキリと見える。

……優。

部屋のベランダから体を乗り出している 優。

優… 本当は起きてたんだ。

全部聞いてたんだ。 胸が苦しい。

息がつまる。 言葉が出ない。

立ち尽くす美嘉。 優は大きな声で叫ぶ。

「美嘉、俺待っとるからな。ずっとずーー

ーっと待っとるから!辛くなったり寂しく なった時は、俺の所に来な。いつでも待っ とるから!」

優は最後まで やさしいね。

どうしてそんなに 優しいんだろ。

こんな美嘉のために どうして…。

優にはもっと いい人がいるよ。 幸せになれるよ。

「俺いつかまた美嘉のしょっぱいケーキ食 べれる日夢見とるから!」

生クリームの塩と砂糖間違えたの 気付いてたんだ。

知ってて全部食べてくれたんだ。 優…。

優に向かってあっかんべーをすると、 優は美嘉に向かってピースをした。

「俺、美嘉の笑顔が1番好きやで!」 ぽろぽろと流れ出る涙。

自然にぽろぽろと…。

「ピース返しせぇ!」

両手でピースを返す。 涙を流しながらも

笑顔で…。

優。 ピースのおまじない きいたよ。

ピースの一つ目の意味。 今笑顔になれた。

ピースの二つ目の意味。 優が幸せに

なれますように…。

大きな荷物を持って 歩き始めた。

そんな中途半端な考え持ってたら。

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