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第二十一章 大きな壁

作者:日-美嘉 当前章节:15349 字 更新时间:2026-6-15 17:36

それから毎日 病院へお見舞いに行った

しかしテストがあるので大学に行かなけれ ばならない。

授業をあまり出ていないから、

テストを受けないと卒業留年になっちゃう かもしれないんだ…。

本当はまだ大学に行くのは気が重い…。

実家から学校への距離は遠く、

まだ空が明るくなったばかりの時間にバス で学校へ向かう。

どんなに悩んでもお腹は減るし、 どんなに胸を痛めても朝は来る。

不思議だね。

大学では相変わらずたくさんの人がいて、 楽しそうな笑い声が響いて…

きっとみんなそれぞれ 心に傷を負ったりしてるんだよね。

優に似た人を見ると 心臓がドキッとする。

今は会わないほうがいいと思うの。 お互いのために…。

ねぇ、

いつか普通に笑って挨拶くらい出来る日が 来るのかな??

ダメだよね。

でも、 想うくらいなら許されるよね…??

教室のドアを開けた。

「あ~!おはよぉ美嘉学校来ないんだもん。 メール返してくれないし!」

「アヤ~おはよ。」

「聞いて聞いて~!あたし彼氏出来た♪」

アヤはケンちゃんを 忘れられたみたいだ。

「アヤ彼氏出来たんだ~。おめでと!!今度紹 介してね♪」

アヤの隣に座っていたシンタロウが、 心配そうに声をかけてきた。

「美嘉何かあったか?」 態度に出てたかな。

元気ないように見えるかな?? しっかりしなきゃ。

気持ちのささいな変化って

女の子より男の子のほうが意外と気付くも のなのかもしれない。

「うん、ちょっとね!!それよりシンタロウも久 しぶり!!」

わざと返事を濁した。

優と別れたことは、

近いうちにみんなに言うつもり。

「美嘉~イズミちゃんホームヘルパーの資格 とれたってぇ♪」

鉛筆をくるくると回しながら言うアヤ。

いつの間にかみんな 前に進み始めてるんだ。

「さすがイズミだね!!」

「今日テスト終わったら久しぶりにイズミ呼 んでみんなで昼飯食べねぇ?」

シンタロウの提案にアヤが喜ぶ

「あーそれいい♪そうしよ!楽しみだね美嘉

♪」

美嘉は無理に笑って 頷いた。

シンタロウはそんな美嘉の顔を何か言いたげな 表情で見つめていた。

久しぶりにみんなで集まれるのは嬉しい。 でもあんまり大学にいたくないな…。

キーンコーン カーンコーン

テストの終わりを告げるチャイムが鳴る。 勉強してないから、

結果は言うまでもない。

「俺ヤマト学食に呼ぶからアヤはイズミ呼んで。」

「了解♪」

電話をかけ始める二人。

最初に電話を終えたシンタロウに疑問を投げ掛 けた。

「ねぇ、ウタは??」

「あいつ最近また学校来ないんだよな。アヤ が連絡しても返事来ないって言ってたし。」

ウタ… 学校来てないんだ。

そう言えばクリスマスにメール来てから連 絡とってないな。

テストにも来ないなんて…。 近々連絡してみよう。

学食へ行くと、 イズミとヤマトがすでに待っていた。

「美嘉~久しぶり!」 イズミが美嘉に抱き付く。

「イズミ~会いたかったよ~…」

「あたしはあたしは?」 話に割り込むアヤ。

「アヤは結構会ってるから別にいい♪」

イズミが冷たく答えると、 アヤは泣きマネを始めた。

「あ~ひどいひどい~。美嘉はあたしに会 えて嬉しい?!」

「美嘉も~…アヤは別にいいかな!!」

「美嘉までひど~い!え~ん…」

悲しむアヤを見て、 美嘉とイズミは声をそろえた。

「嘘っ!冗談だよ♪♪」

「ったくお前らは相変わらずだなぁ~。」

椅子に座り煙草の煙を吐き出しながら低い 声でボソッと呟いたのは、

ヤマトだ。

ギャル男から一転、

薄くヒゲなんか生やしたりなんかしてワイ ルド系なっている。

ヤマトに何があった…??

「ねぇ~ヤマトどうしたの??」 小さい声でイズミに耳打ちする。

「なんかね、今度は彼女に渋い男が好きだ って言われたみたい!」

ニヤニヤと笑いながら答えるイズミ。

「ヤマトタバコなんか吸ってなかったよ ね!?」

「あぁ、あれはふかしてるだけ!肺には入 れてないよ!」

…相変わらず単純だな。

「ねー、お腹減ったよ。早くご飯買いに行 こ♪」

アヤの一声でみんなは昼食を買いに歩き出し た。

今日は何食べようかな。 ハンバーグカレーにしようっと!!

久しぶりの学食だもん。やっぱり安くて経 済的だね!!

ハンバーグカレーを注文し、 テーブルまで運ぶ。

「いっただっきます♪」

五人は丸いテーブルを囲み昼食を食べ始め た。

「アヤの彼氏ってどんな人??」 福神漬をポリポリと噛みながら、

アヤに問い掛ける。

アヤは待ってました!

と言わんばかりに目を輝かせながら答え た。

「えっとね~中学からの友達の紹介で知り 合ったんだけど、同じ歳なんだよねぇ♪」

「ラブラブなの??」 冷やかしたような言い方で聞くと、

アヤは箸を止めてそれはもうとびきりの笑顔

で答えた。

「当然♪毎日ラ~ブラブ!デートもしまくり

♪」

アヤ、 幸せそう。

ちょっとだけ、 羨ましいな。

ヒロは入院生活を送っているから、 デートは出来ない。

だからデート出来るアヤを少しだけ妬んでし まったんだ…。

最低な考え。

…いつかヒロが元気になってデート出来る 日が来るまで

楽しみに待とう。

「美嘉は優さんと相変わらずラブラブ か?」

ヤマトからの突然の問いに 言葉がつまる。

「あ…えっと…」

優と別れたことはいづれ話すつもりだっ た。

しかしあまりに突然だったので、 何て答えればいいのかわからない。

「喧嘩でもしたの~?」 イズミが美嘉の顔を心配そうに覗き込んだ時

目からはなぜか涙がこぼれ落ちて ハンバーグカレーの上にポトリと落ちた。

また、

泣き虫になっちゃったみたい…。

「あれ!?美嘉どうしたの~?」

アヤが大袈裟な言い方で 美嘉の腕を掴む。

ヒロを選んだことを、 後悔して泣いてるんじゃない。

優を傷つけてしまったこと。 そのことに心が痛むの…

ただ涙を流す美嘉に シンタロウが落ち着いた声で問い掛けた。

「美嘉何かあったんだろ?顔見たらわかる よ。」

やっぱり顔に出てたんだ

一生懸命笑顔作ってたつもりだったのに な。

もう 言うしかないよね…。

「別れちゃった…」 持っていたスプーンを皿の上に置く。

沈黙…。

「別れた~!?」 アヤとイズミとヤマトが立ち上がり沈黙を破った。

二人は美嘉に攻め寄る。

その瞬間

テーブルに置いてあったコップが床に落 ち、

激しい音をたてて割れた

「みんな落ち着いて聞こうぜ。」 さすがはシンタロウ。

シンタロウの一声で 立ち上がった二人は腰を降ろす。

「で、なななななんで別れたんだよ。」

煙草を吸いながら話すヤマトにまだ動揺が見 える。

「美嘉から?!優さんから?!」 興奮するアヤ。

美嘉は力なく答えた。

「美嘉から…」

イズミが美嘉の顔をじっと見つめている。

そしてテーブルに肘をつけながら口を開い た。

「別れた理由は?喧嘩とかぐらいじゃ二人 は別れたりはしないよね。私優さんと美嘉 を見てきたからわかるよ」

美嘉はうつむき、 目を強く閉じた。

「優より好きな人がいて…その人を選んだ の。」

相手がヒロだって事。 ヒロが癌だと言うことは言わない。

反対されるような気がしたから。 美嘉が決めた道、 否定されたくないの…。

「戻る気はないのか?」 シンタロウの問い掛けに、

美嘉はゆっくり頷いた。

気まずい雰囲気の中、 立ち上がり美嘉の胸倉を掴んで叫ぶヤマト。

「お前勝手すぎるよ!好きなやつが出来た からさっさと乗り換えるなんてありえねー よ。優さんがどれだけ美嘉のこと好きだっ たか知ってんのか?マジで見損なったわ」

そして美嘉を強く睨み、昼食を残したまま どこかに行ってしまった。

掴んでいた胸倉を突然離されたので、 フラついてそのまま床に座り込んだ。

状況を理解出来ずに ア然とする美嘉。

上からは嫌な視線を感じる。

床に座り込んでいる美嘉を見下しているの はアヤだ

「本当に最低だよ!美嘉ってそんな軽い子 だったんだね!」

かばんを手に取り、

アヤもヤマトに続いてどこかに走り去ってしま った。

沸き上がる怒り。 不快感。

確かに言わなかった美嘉も悪い。 だけどね、

ヒロが病気のこと。

たくさん悩んだこと。 優が背中押してくれたこと。 何も知らないじゃん… 話を聞こうともしてくれないし。

でも、

二人が言っていたことは間違ってないよ ね。

美嘉は 最低だから。

優が美嘉をどれだけ好きでいてくれたかな んて、

美嘉が1番知ってるよ…

そんな優を裏切り、 離してしまったんだもん

それですぐ違う男の所に行くんだから、 軽いって言われてもしかたないよね。

見損なわれても、 しかたないんだよね…。

「…大丈夫?」

そう言って手を差し出してくれたのはイズミ だ。

「とりあえず座って話そうぜ。」

シンタロウが床に散らばったコップの破片を拾 いながら落ち着きを払って言った

とりあえず椅子に座る。

…沈黙。 イズミとシンタロウの目線が痛い

三人とも話をどうやって切り出すか考えて いるのだろう。

「ちゃんと話すね。」 沈黙を破り、

美嘉が口を開く。

イズミとシンタロウの返事を待たないまま話し続 けた。

「あのね、好きな人って元彼なんだ…」

口をあけてあんぐりする露骨な二人。 そりゃあそうだろう。

二人にとってヒロは

美嘉と別れて美嘉の友達と付き合った最低

な男でしかないのだから。

「元彼今病気で入院してて…病気って言っ ても死ぬとかそんなんじゃなくて癌なんだ けど…」

“癌”

と言う単語を聞いてイズミが机に手をつき立 ち上がった。

「癌…大丈夫なの?!」

「うん。調べたら早期発見なら助かる率は 高いし…本人も元気だから大丈夫だよ!!」

「それならいいけど…」 イズミはわかりやすく安心した顔をして

再び座った。

「でも、病気だから元彼を選んだんじゃな いの。ずっと考えて元彼に対する気持ちが 大きかったことに気付いちゃった…」

再び沈黙が続く。

さっきまで出ていたはずの涙もすでに止ま り、

沈黙に耐えきれずに ハンバーグカレーの残りを食べ始めた。

「美嘉は後悔してないのか?」 突然のシンタロウの問いに

美嘉はキッパリと答えた

「うん、してない!!」

「きっと辛くなると思うぞ?」

「わかってる…」

長い時間無言だったイズミが二人の会話を聞 いて、美嘉の顔をじっと見つめながら言っ た。

「美嘉は元彼が好きなんだよね?」

大きく頷く美嘉。

「大好きなんだよね?」

「…うん!!」

顔を近付け、 ニッコリと微笑むイズミ。

「好きならいいじゃん。後悔してないなら いいよ!美嘉が決めたことだもん。私は美 嘉を応援するよ!ね、シンタロウ?」

イズミがシンタロウに同意を求めると、 シンタロウは軽く頷いた。

あのね、 都合のいい話かもしれない。

だけどイズミとシンタロウは そう言ってくれるような気がしたんだ…。

「でも美嘉優のこと傷つけちゃったん

だ~…最低だよね!!ブスのくせに調子乗る な~って感じだよね!!」

わざと明るく振る舞い自分の頭をペシッと 叩くと

イズミが美嘉の右のほっぺをシンタロウが左のほ っぺをぎゅっと引っ張り、 怒ったように言った。

「自分を下げるようなこと言うなっつー の」

「そうだよ。優柔不断の美嘉が答えだした んだから私は偉いと思うよ!」

「ヒンタホウ…イフミ…」

本当は

“シンタロウ、イズミ”と言いたかったのだ。

しかし両方のほっぺをつねられていたせい で

言葉がうまく言えない。

それを聞いたイズミとシンタロウは同時に吹き出 した。

美嘉も つられて笑ってしまう。

「美嘉、息抜きしながら頑張るんだよ!私 で良かったらいつでも大学に飛んでくるか ら♪」

「授業も出ろよ!」

二人からの激励の言葉に気持ちがようやく 落ち着き始める。

アヤとヤマトにも ちゃんと言わなきゃ…。

例え反対されても、 決意が変わらなかったらそれでいいよね。

「イズミ、シンタロウありがとう。美嘉これから病 院行ってくるね…」

二人に見送られながら学食を出ると、 遠くにアヤの姿を見つけた

ヒロの事を ちゃんと説明するいい機会かもしれない。

美嘉はアヤに駆け寄った。

「アヤ!!」 アヤはぷいっとそっぽを向いて

歩き始める。

そんなアヤを後ろから追い掛けて引き止め た。

「アヤ…話聞いて??」 アヤは美嘉の手を強く振り払い

横目で睨みつけた。

「ってか美嘉がそんな人だと思ってなかっ た!」

歩き続けるアヤを 必死で引き止める。

「アヤ…あのね…」

アヤは美嘉を突き放し、 再び歩き始めたので 遠くなるアヤに向かって 大声で叫んだ。

「…好きな人ってヒロなの!!」

アヤは足を止め、 ゆっくり振り返る。

近寄ろうとしたが、

振り返ったアヤの顔があまりに恐ろしかった ので

足を止めた。

深呼吸をし、 落ち着いて話し始めた。

「あのねヒロ実はね…」 アヤは美嘉の言葉を最後まで聞かずに

こっちへ向かって歩いてきた。

その時… パンッッ

鈍い音が響く。

アヤはの平手打ちが 美嘉のほっぺに直撃。

寒さで感覚があまりなかったほっぺも、

少しずつ叩かれた痛みがあらわれてきた。

「美嘉も所詮ケンちゃんと同じ人間だったん だね」

ケンちゃんはアヤと付き合ってるにも関わら ず、

元カノのミドリさんが好きだった。

そして最終的に選んだのはミドリさんだっ た。

優と付き合っていたのに最終的に元彼のヒ ロを選んだ美嘉は、 ケンちゃんと同じだと思ったのだろう。

確かに美嘉はケンちゃんと同じかもしれな い。

もしかしたらそれよりも…

きっと優と自分を重ね合わせたんだ。

「アヤ、あのね…」 アヤは美嘉の話を聞こうとせずに叫んだ。

「なんでヒロ君なの!?あんな最低な男の どこがいいの!?あんな男選ぶなんて信じ られない!」

パシッ… 美嘉の手の平は

気付けばアヤの頬を強く叩いていた。

叩いた手のひらが、 じんじんしている。

でもね、 今は友達だからこそ全部知って欲しいの。

「痛ぁ~!何すんの!?偉そうに二人の男 選んでる美嘉が悪いんじゃん!優さん傷つ けたくせに」

確かに、 確かにそうだよ。

美嘉は最低だよ。 そんなの自分が1番よくわかってるよ。

でもね、 ヒロの悪口は言わないで

ヒロは何も悪くないの。 ヒロは何も悪くないんだから…。 ヒロが病気だってことを知れば、

反対されるかもしれない

だけど“頑張ってね”

って言ってもらえるかも…みたいなズルイ 気持ちもちょっとあったのかな

ヒロが病気なのを理由にして、

優ではなくヒロを選んだことを許してもら おうとしてた気持ちも 少なからずあったのかもしれない。

でも

優を離しヒロを選んだ事実は変わりないん だよね

それは最低だよ。 やっぱり最低だよ。

最初は反対されるのが嫌で言わないつもり だった

一緒にいろいろ乗り越えて来た仲間だか ら、

知って欲しかったんだ。

「時にはね、すごくすごく大切なものを捨 ててまでも守らなきゃいけないものだって あるよ…」

アヤに捨てゼリフを吐き、学校を出た。

アヤがちゃんと話を聞いてくれなかったか ら、

腹が立ったのかもしれない。

アヤに言われたことが図星だったから、 八つ当たりしたのかもしれない。

この時以来、

ヒロが癌であることを誰にも言わないと決 めた。

知ってるのは、 家族とイズミとシンタロウだけ…

むしゃくしゃした気持ちのまま 病院へと向かった。

「ヒ~ロっ!!」

病院に着き、 ノックもせずに病室のドアを開けた。

「お…おめぇ、一回外出てろ!」

ヒロが厳しい表情で 強く言う。

ヒロは帽子をかぶっていない頭を 自分の両手で必死に隠している。

焦って病室を出た。 もしかして、

入っちゃいけない時だったかな??

「いーぞー」 病室からヒロの声が聞こえたので、

ノックを二回してからドアを開けた。

「今さらノックしてんじゃねーよ!」 いつも通り帽子をかぶっているヒロ。

「ね~なんで出てけって言ったの??」

「帽子かぶってなかったんだよ!好きな女 にカッコ悪ぃ姿見せらんねーだろ」

バカ!! 何こんな時にカッコつけてるのさ…。

本当は 髪ないの辛いよね。

無理して 明るくしてるよね。

涙が出そう。 美嘉ってこんなに弱かったっけ。

ヒロが1番泣きたいはずなのに、 美嘉が泣いたらダメじゃん。

「美嘉来い。俺行ってやれねぇけどごめん な」

ベッドに近付くと

ヒロは立ちひざをしながら美嘉の体を抱き しめた

「ったくよぉ~泣き虫な所は変わんねぇな ぁ。」

「泣いてないもん!!」

言葉とは反対に とめどなく溢れる涙。

泣かないって 決めたはずなのに…。

ヒロは抱き寄せた体をゆっくり離し、 涙を親指で拭いて、 いじわるそうに笑った。

「目から出てるこの水はなんだろう な~?」

「…汗だよっ!!」

「美嘉の汗は目から出るんだぁ~すっげ ぇ!」

馬鹿にしたような 子供扱いした言い方。

少しムカッときて病室から出ようと後ろを 向いた時、

ヒロは美嘉の持っていたかばんを掴んで引 き止めた。

「こんな俺で嫌じゃねぇのか?」 背を向けたまま答える。

「こんな俺…って??」

「病院でしか会えねーし髪もないし…」

「嫌って言ったらどうするの??」

少しいじわるしてみた。さっきされた仕返 し。

「それでも離さねぇけどな!」 振り向き、

舌を出しながら答える。

「髪無くても~病院以外で会えなくても~ いいの!!」

「ふ~ん」 そっけなく答えて窓のほうを向くヒロ。

本当は嬉しいくせに、 一瞬笑顔になったくせに!!

素直じゃないんだから。

…って素直じゃないのは美嘉も同じか。 ヒロは近くにあった小さい手鏡を取り、

自分の姿をうつした。

「俺、坊主でもイケんじゃねぇ~?」

「うん、イケる!!一休さんみたいで…」

「はぁ?今何つった?聞こえねぇ~!」

「別に~波平さんみたいでかっこいいって 言ったんだよぉ♪」

「…てめぇ~、ふざけんなよ!」

ヒロが美嘉のマフラーを強く引っ張り、 その勢いでベッドに倒れ込む。

「美嘉達高校の時みたいに戻れるよね…?」

こんなこと言うつもりはなかったんだ。 でも言葉が勝手に出て来てしまった。

「おぅ当たりめぇだろ」

「また二人で川原行ったりデートしたり出 来るよね??」

「余裕だ!ってか絶対してみせっから。俺 体強いから安心しろ!」

「ヒロ、強いもんね!!喧嘩とか負けたこと ないもんね!!」

ヒロは美嘉の体を強引に自分のほうへと寄 せ、

そっとキスをした。

あの頃より ずっとずっと優しいキスをした。

ねぇ、 昔みたいに戻れるよね。

また二人で 笑い合えるんだね。

一緒に闘って行こうね。 唇でヒロの温かさを感じ 耳でヒロの鼓動を感じる

触れる唇の温もりは 生きている証。

体に響く鼓動は 生きている証。

【待っとるから。ずーっとずーーーっと待 っとるから。辛くなったり寂しくなった時 には俺の所に来な!】

優が最後に言ってくれた言葉。 この言葉がね、

もう戻って来ないことを感じていて…

もう会えないかもしれないことをわかって

いて…

それでも美嘉を安心させるために優がつい た最初で最後の嘘だったとしてもね、

その言葉が 今美嘉の心の支えになっているんだよ。

こんなにもこんなにも、心の支えになって いるんだ。

今は優のことを思い出して 涙を流したりはしません

もしいつか、 あなたが誰よりも幸せになる日が来た時…

その時に思い出して、 美嘉は一人で涙を流すでしょう。

だから今は考えない。 振り返らない。

いつかあなたが世界一幸せになる日まで。

雨が降ってもいつかは晴れる。 降った雨が一輪の花を咲かす。

大好きだった人、 さようなら。

今も大好きな人、 これからも一緒に…。

それから何日間か、

テストだけは受けた。 アヤとヤマトにはあの日から避けられたままで…

ヒロの事、

説明しても二人が美嘉のことを見損なう気 持ちは変わらないと思ったから

だから今は言わない。

二人とも大切な友達だから仲直りしたいけ ど、

そのきっかけも見つからないまま春休みに 入った

大学の春休みは とてつもなく長い。

毎日のようにお花やお菓子を持って ヒロのお見舞いに行った

毎日ヒロに会えて嬉しかったし、

ヒロが日に日に元気になっていく姿を見て たら美嘉も元気貰えるんだ!!

ヒロの検査が長引いてお見舞いに行けない 日は、イズミや親友のマナミと街でショッピング をしたり

カラオケに行ったりしていた。

あ、そうそう。 バイトも始めたの。

派遣のバイトだからシフトはないけど…

でもいろんな職種を経験出来るから楽しい

また一人暮らししなくちゃいけないから ね!!

バイトがある日も終わったら病院へ駆け付 け、

結構ハードな生活を過ごしていた。 一人になると不安になっちゃうから…

ヒロの変わり果てた姿は慣れたけど、

まだ時々昔の元気なヒロを思い出して胸が 苦しかったりするの。

春休みもすぐに終わり、また学校が始まる。

気付けば大学二年生になっていた。 もう4分の1が終わってしまった。

残りの4分の3もあっという間に過ぎて行 くのかなぁ。

テストはどうにかクリアし、 二年で頑張れば留年は逃れそう。

授業に出るのが嫌だ。 ウタは来ていないし、 アヤは完全無視だから一人なんだもん。

ヤマトやシンタロウとはとっている授業が違うから あまり会うことないし。

話し掛けてくれる子も何人かいたけど、 今から仲良くなりたいとは思えなかった。

友達は大切。

だけどすれ違って疲れてしまう時もあるん だ。

昼になると学食も食べずに、 誰もいない教室で一人 お母さんが作ったおにぎりを食べていた。

イズミはたまに大学に来てくれてはいたけ ど、

グループホームで仕事を始めて忙しいみた いだ。

でも不思議と寂しくなかった。 授業が終わればヒロに会えるから。 ヒロと笑って話せることが今一番の幸せ。

ヒロは入院してるから、普通に付き合って る時当たり前に出来ることが幸せに思えた りするんだ。

例えば手を繋いで歩くとか、 抱き合ってキスするとか

ヒロが病気になってしまったことが良かっ たとは言えないけど、

そのおかげで気付いたこともたくさんあ る。

ささいなことで幸せを感じることが出来る ようになったんだ。

一度離れた二人だから、お互いを大切にす ることが出来る。

ヒロが元気になって退院出来たら一緒に自 転車乗って川原行こうねって約束したの。

早く元気になればいいな!!

頑張ろうね。 美嘉も頑張るからね。

━6 月…

春でもなく夏でもない。でも夏に近いのか な??

まだちょっと肌寒いくらいだ。

授業を終え、 病院に向かう途中ウタに電話をかけた。

今までに何回か連絡してみたけど、 繋がるアナウンスはいつも同じ。

“ただいま電話に出ることが出来ません。 ピーッと言う音の後にメッセージをお入れ

下さい。 ピーッ”

メッセージも 何件か入れた。

『美嘉です。ウタ連絡ちょうだい!!』

『美嘉です。ウタ~大丈夫??』 しかし

音沙汰無しだった。

今日もほとんど諦めた気持ちで電話をかけ る。

♪プルルルルルルル♪

ガチャ

またいつものアナウンスだと思い、 通話ボタンを押して切ろうとしたその時…

『もしもし~美嘉なりかぁぁぁ ?』

ウタの声だ。

一度耳から離した受話器をもう一度耳にあ てた。

『ウ…ウタ!!やっと繋がったぁ~!』

『ごめんちゃぃ♪♪忙しかったのだぁ!!!!!』

相変わらずのウタのテンションに胸を撫でお ろす。

『ウタ、学校来ないの??テストも来なかっ たし心配したんだからぁ!!』

『ウタね、学校辞めるつもりなのだぁ!!!!!!』 悪びれもない態度で

衝撃発言をするウタ。

辞める?? なんで?!

受話器に口をくっつけながら大声で問う。 なぜか返事を急いでいたのだ。

『なんで辞めるの!?なんかあったの??』 受話器の向こうは、

ざわざわしている。

『美嘉今外なりかぁ 』

『そうだけど…』

『近くにコンビニあったら入って本のコー ナー行ってくりぃ♪♪』

言われるがまま、

近くのコンビニまで走り本のコーナーへ行 く。

『ウタ!コンビニ着いたよ!!』

『そこに赤いドレス着た女の人が表紙の本 あったりしない  ?』

赤いドレスを着た女の人が表紙の本は… 確かにある。

しかしその本は男の人が読むHな雑誌のコ

ーナーにあって…

運悪くちょうどそのあたりに二人の男が立 ち読みをしている

気まずい…

だけどウタに何があったのか今すぐ知りた い。

「ちょっと横失礼しま~す!!」

立ち読みしている男の人の隙間に入り込 み、

ウタが言っている本を手に取った。

『ウタ、本あったよ!!』

『んぢゃぁ、そこの 124 ページ開いて見て ちょ~!!!!!』

電話をしながら本を開くのは意外に困難 だ。

いろんな方法を試した結果、

首を曲げて耳と肩の間に携帯を挟む方法が

1番いい。

真ん前にある窓ガラスに反射してうつる自 分の姿がかなり不格好だけど…

今はそんなことより、 ウタだ!!

「121 ページ、122 ページ 123 ページ…」 ひとり言をぶつぶつと言いながら 124 ペー

ジを開く

こんな時なかなか 124 ページが開けなくて イライラするもんだ。

そしてやっと 124 ページを開くことが出来 た時…

『美嘉~見れたなりかぁ   ?!』 そのページを見て

開いた口が塞がらなかった。

そこにはドレスを着てメイクをバッチリし たウタの姿。

『ウウ…ウタ載ってる!!』

動揺を隠せず大声で叫ぶと、 ウタはケラケラと笑った。

『ウタね~今、夜の仕事やってるの~!!!!!!!!ク ラブで働いてるんだぁ!!!!』

雑誌の写真の中のウタは前のように濃いメイ クではなく、

ナチュラルメイクで黒のフリフリしたドレ スがとても似合っていた。

『なんで夜の仕事やってるの??』

手に持った本を一旦閉じ落ち着きを払った 声でウタに問う。

『ウタね、自分のお店持つのが夢なん だ~!!!!!!』

『…お店??』

『うん、ジュエリーの店経営したいんだっ ちゃ♪♪♪』

『大学行きながらは出来ないの!?』

『早く資金貯めたいなりよぉ♪♪今までは彼 氏いたから夜働いたりできなかったけど、 今なら大丈夫なのだぁ!!!!!!!』

ウタやっぱり彼氏と別れちゃったんだ。

…って今は浸ってる場合じゃない。

『そっかぁ…』

『でもね、やめても部室には顔出すだっち ゃ !!!!!! 美 嘉 も ち ろ ん マ ブ ダ チ っ し

ょ    』

ウタはあまり学校来なかったし、

辞めたとしても今さら状況は変わらないか もしれない。

でもやっぱりもう来ないんだなぁと思うと 寂しくなるものだ。

大学辞めないで一緒に頑張ろう??

…なんて言える立場じゃないから。 やっぱり友達の夢は応援したい。

『うん、マブダチだよっ!!そのかわり店持 ったらジュエリー安くしてねぇ♪♪』

『当たり前だっちゃぁ!!!!エンゲージリング あげる!!!!暇出来たらウタと遊んでねぇ!…あ っ、客来たから、また連絡するなりね♪♪♪』

『仕事頑張ってね!!』

電話を切ったあと

本を見るために寄ったコンビニで花を買 い、

とぼとぼと病院へ向かった。

本に載っていたウタは別の世界の人になって しまったみたいで、

なんだか寂しい。

ウタは自分の店を持つために学校を辞めて夜 の仕事をし、

イズミはなりたかったホームヘルパーの資格 をとって今働いている。

みんないずれバラバラになるのかもしれな いけど

みんな夢を追い掛けて行ってるんだけどな んだかすごく寂しくて…

高校の時は何も考えずにただ楽しかったら 笑って

悲しかったら泣いていた

でも今はそうはいかないよね。

高校時代の自分が少し羨ましくなったりも する。

少しづつ、 大人に近づいているのがわかるよ…。

美嘉の夢って なんだろうな。

世界を回る通訳だっけ。 ヒロを置いて世界なんか回れる??

違う。 ヒロを置いて行くのが嫌なんじゃない。 美嘉がヒロと離れるのが嫌なんだ。

本当に通訳になりたかったのかな。 今もなりたい??

今の夢はね、

大好きな人が元気になってその人と一緒に 手を繋いで外を散歩すること。

こんなんで大学行ってる意味あるのかな ぁ。

ウタが辞めたって聞いて、なんか美嘉も大学 に行ってる意味がわからなくなっちゃっ た。

夢も消えかけてるのに、大学に通う意味が 見つからないよ…。

生ぬるい風が 長い髪を揺らす。

どこかから聞こえるうるさい誰かの笑い声 に、 今はなんだか耳を塞きたくなってしまう。

外が薄暗くなった頃、 病院に着いた。

病室へ向かう足どりが少し重く、 階段を一段一段踏み締めて上る。

302 号室の前。

落ち込んでいることを悟られないよう両手 で顔をパンッと叩き、 気合いを入れてノックをした。

トン トン

「どうぞー。」

ドアごしに聞こえる低い声。 その落ち着きようが、

入院生活に慣れてしまったことを物語って いる。

「失礼しまぁ~す♪」 無理に笑顔を作って

ドアを開けた。

「お~美嘉。毎日ありがとな。」 いつもは誰かかれかいるのに、

今日はいないみたいだ。

「あれ?エリさんとかお父さんお母さん は??」

「あーちょうどさっき帰ったばっかりだ わ!」

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