「そっかぁ!!」 コンビニで買った花を取り出し、
近くにあった花瓶に入れようとした。
しかしすでに花が入っていたので 袋にしまい床に置く。
「なんか飲むか?」
「ん??いらないいらない!ヒロはゆっく り寝てなさい♪」
ヒロを無理矢理横にならせてから布団をか け、
近くにあった椅子に腰をかけた。
腰をかけた瞬間に鳴ったミシッという音が 病室に響く。
「大学やめよっかなぁ~…」
沈黙の中ポツリと呟くと
ヒロはさっきかけたばかりの布団を取りガ バッと起き上がった。
「なんでだよ!誰かにいじめられたの か?!」
ヒロから目をそらし、
風でカタカタと揺れている窓のほうを見な がら答える。
「いや、いじめられたとかじゃなくて…」
「美嘉をいじめるやつがいたら俺が助ける から!殴る。」
美嘉の話を遮るヒロ。
でもヒロの今言ったことが嘘や冗談ではな いことがわかる。
高校時代 PHS の番号とアドレスが黒板にか かれた時、
教室まで来てブチ切れたっけ…。
そんな過去を思い出すと笑いが込み上げて 来た。
「何がおかしいんだよ」 ヒロはそんな美嘉の姿に気付いたようだ。
「別になんもだよ!!気にしないで♪」
「別にいいけどよ!で、なんでやめたいん だ?」
真剣な表情のヒロに対して、 それに答えるよう真面目に返答する。
「なんかね~なんで大学に行ってるかわか らなくなっちゃった。何がしたいかとかわ からないんだよね…」
ヒロは真面目な顔から一変、
安心したのと呆れたのを入り混ぜたような 表情を見せた。
「そんなのみんな同じだろ」
「…えっ??」
ヒロの言っている意味を理解することが出 来ず、美嘉はヒロの顔を覗き込む。
「つまりな、何か目的があって学校に通う やつなんかあまりいないんじゃねぇ?みん な学校に通いながらやりたいこととかを探 して行くんだと俺は思うけどな。」
「そっかなぁ…」
「だから美嘉も学校に行きながらゆっくり 考えたらいいんじゃねぇ?それからでも遅 くはねぇし」
「うん…」
「まぁ俺は勉強嫌いだから辞めたくなる気 持ちもわかるけどな!」
ヒロは最後に軽い笑いを混ぜ、 布団に横になった。
ヒロの言った言葉一語一句を繰り返し、 ゆっくりゆっくりと心で受け止める。
足元に置いていた花の入ったコンビニの袋 を見つめながら、 ヒロに向かって頭を下げた。
「ヒロ、ありがと…」 しかし
ヒロからの返事はない。
聞こえなかったのかな。 もう一回言ってみよ。
「ヒロ…ありがとね」
しかしやっぱり返事は無かった。
そーっと立ち上がりヒロのほうへ近寄る と、
スースーと寝息をたてて寝てしまってい る。
「まったくもぉ~…」 布団を肩までかけ直した後、
ヒロの寝顔を見ながら思っていた。
本当はね、 学校行くのちょっと辛いの。
いつも一人だしね、 みんながバラバラになって行くのが怖い。
みんな夢があって、
自分だけ取り残されたみたいで寂しいん だ。
でもヒロの言葉で頑張ろうって思えた。 話聞いてくれてありがとうね。 今美嘉にはヒロだけだから。
ヒロが全てだから…。
お互い頑張ろうね。
ほっぺに軽くキスをして病室を出た。 それからは真面目に授業に出て、
夏休み前のテストも完璧だった。
━8 月夏休み 今年の夏は一段と暑い。
むし暑いどころの話じゃない。 裸で歩きたいくらい。
太陽が当たって 熱したコンクリート。
ただ歩いているだけで 湧き出る汗。
大学に入って 二回目の夏が来た。
夏休み中にサークルの先輩からキャンプを 誘う電話が来たけれど、 バイトが忙しいという理由で断った。
そんなの行けない…。 行けるわけない。
イズミとウタとシンタロウは行かないらしいけど アヤとヤマトはわかんない。
でもケンちゃんがいるからおそらくアヤは行か ないだろう。
話は変わって派遣のバイトは週に四回は行 っている。
一人暮らしをすることはもう諦めたんだ。 だって家計を助けるために一人暮らしをす
るくらいなら、
バイト代を家に入れるほうが効率が良いこ とに気付いたから。
学校まで遠いのは不便だけど、
バイトやお見舞いで不動産屋に行く暇ない し!!
まぁ、
実家の物置きになっていた部屋を無理矢理 美嘉の部屋にしてもらったんだけどね…。
今日もいつも通り朝の 8 時に目覚めると、 携帯電話に一件のメールが届いていた。
寝ぼけながら
受信 BOX を開く。
受信:ヤマト
“ヤマト” と言う単語を見て、
しょぼしょぼしてた目もパッチリと冴えて しまった。
携帯電話の画面に
“ヤマト”の文字を見たのはいつぶりだろう。
…って言ってもヤマトとは
もともとあんまりメールとかしたことない けどね
なんで今さらメール来るの??
またあの日みたいに見損なったって言われ ちゃうのかな??
緊張しながら メールを開く。
《美嘉ごめん。イズミから別れた理由は聞い た。俺あん時カッとなってマジで悪かっ た。》
ヤマトからのメールは意外な内容だった。 でもなぜか嬉しいわけでもなく、 何の感情も感じられなかった。
仲直りするきっかけが欲しかったはずなの に…。
イズミとシンタロウがヤマトに話したことに対して怒 りを感じているわけではない。
なんか優と別れた理由がヒロの病気のせい になっているみたいで嫌だったんだ。
どんな理由にしても元彼を選んだことには 変わりないから、 謝らなくても良かったんだよ。
むしろ美嘉が謝るべきなのに…。
すぐさま ヤマトにメールを返信。
《美嘉こそごめんね》 返信すると同時に、
電話がかかって来た。
♪プルルルルル♪
着信:ヤマト
『もしもし…』
『もしもし美嘉か?』
『そーだよ!!』
『マジごめんな。俺何も知らなくて…』
『いや、こっちこそごめん!!』
電話なのに 頭を下げてしまっている
『俺が悪い。マジごめんな。そう言えば美 嘉はキャンプ行くのか?』
心の中で、 行けるはずないだろ!!と叫んでいる自分。
冷静に冷静に…。
男って女ほど昔付き合ってた人の存在とか を気にしないのかもしれない。
『い…行かないっ!!』 力いっぱい否定する。
今はこれが精一杯。
『そっか。俺も行かないんだけどな。』
ヤマトも行かないんだ… そう思うと少しだけホッとした。
『そっかぁ。』
力なく返事をするとヤマトは少し寂しげな口 調で言った。
『最近みんなで集まったりしてねーよな。 なんかうまく言えないけど…なんかな…』
ヤマトが言いたいことはわかる。
ヤマトもみんながバラバラになっていること を気付いていたんだね。
…沈黙。
美嘉は部屋の隅に追いやられた卒業アルバ ムに目をやった。
後で久しぶりに見てみようかなぁ。
『またみんなで遊んだり飯食ったりしよう な!』
受話器の向こうから突然聞こえたヤマトの声 にハッと意識を取り戻し、
答えた。
『そうだねっ!!』
『じゃあ、またな!』 電話を切った後
慣れたはずの静寂がとてつもなく寂しく感 じた。
アヤと喧嘩したこと、
アヤにビンタされて美嘉もビンタをやり返し てしまったこと…
あの日を思い出すと 落ち込むばかり。
美嘉から電話とかメールをして謝るべきな んだろうけど…
ヒロのことを悪く言ったこと、
実はまだ引きずったりもしているんだ。 本当執念深いよね。
「…はぁぁぁあ~」
わざと声が出るくらい大きなため息をつ き、
バイトへ行くための準備を始めた。
今日はチラシ配りのバイト。 この暑さの中チラシ配りは辛いなぁ~…
でも今日のバイトはいつもより早めに終わ るから嬉しい♪♪
それに今日は病院にお見舞いに行く前に買 いたい物があるんだぁ。
だからさっさとバイト終わらせないとっ!!
適当にメイクをし、
白いノースリーブにジーンズ生地のミニス カートをはいて家を出た。
直射日光が当たり頭がじりじりする。
なるべく日影に身を隠し歩く人の群れにひ たすらチラシを配り続ける。
最後の一枚を配り終えた時… やったぁ
終わったぁ~!!
心で万歳をしながら首の骨をポキッと鳴ら し、
今日の朝落ち込んでいたのがまるで嘘のよ うにうきうきした気分で帰り支度を始めた
向かった場所は、 いつも行っているコンビニだ。
そして買いたい物とは… カメラ!!
…と言ってもインスタントカメラなんだけ どね。
高校時代にヒロと撮った写真は別れてから 全て捨ててしまったので、 もう一度ヒロとの写真が欲しかったから。
27 枚撮りのインスタントカメラを購入し、 ついでに何か食べる物を買おうとお菓子の コーナーをうろうろしてた時…
“新商品” と大きく書かれた文字に目を奪われ、
その新商品のお菓子を手に取った。
「…みかんキャラメル」 思わず言葉に出してしまい、
一人で笑ってしまった。
みかんキャラメルって…おいしいの?? なんかオレンジ色だし~!!
冗談半分な気持ちもあったし、
どんな味なのか興味もあったのでインスタ ントカメラとみかんキャラメルを持ってレ ジに並ぶ。
コンビニを出て、 いつもより軽い足取りで病院へ向かった。
「失礼しま~す♪」
「おぅ。」
ノックをしないでドアを開けてしまった が、
ヒロももう慣れてしまったみたいだ。
「ヒロっち元気~??」
「おぅ。…って昨日も会ったじゃん!」
インスタントカメラを取り出そうと袋に手 を入れた時に、
ふと考えた。
ヒロ、 写真撮るの嫌じゃないかな??
自分が病気の姿なんて撮られたくないか も…。
取り出す前に気付いて良かった良かった。 一度掴んだインスタントカメラから手を離
し、 代わりにみかんキャラメルを取り出す。
「ねーねーこれ見て~♪新商品だから買っ て来ちゃった~♪」
みかんキャラメルのほうに注目させ、
インスタントカメラの入った袋をヒロから 見えないベッドの下にさりげなく置いた。
「みかんキャラメル~?これうまいの?」 ヒロはみかんキャラメルを見ながら、
不思議そうな顔をしている。
「さぁわかんないなぁ~!!食べてみてぇ~
♪」
箱を開けキャラメルを一粒取り出しヒロの 手の平に置くと、 ヒロはキャラメルを握りしめて微笑んだ。
「このキャラメル食ってまずくて俺が死ん だら美嘉のせいだからな!」
“死” 冗談でも聞きたくなかった響き。
ふざけてでも言ってほしくなかった言葉に 肩を落としため息をついた。
ヒロが“死”を口にした瞬間、 病室の空気は変わった。
うまく表現出来ないけど空気が凍りついて いる…そんな感じ。
ヒロにとって“死”は、遠いようで近い。 ヒロは生きるとわかっていながらも
いざ“死”を意識すると怖くなったりもす るんだ
ヒロはこの微妙な空気が自分の発言のせい だと気付いたのか、
雰囲気を変えようとするかのように口を開 いた。
「じゃあ~食うかな!」
「どう?うまい?」
美嘉もヒロと会っている間は楽しく過ごし たいからなるべく考えないようにしようと 思い、
近くにあった椅子に腰をかけ笑って返事を した。
「うん、食べて食べて~♪♪」
「でもやっぱり美嘉が毒味してくれねーと な。」
そう言いながらキャラメルを自分の口に入 れる。
美嘉に毒味させると言いながら自分の口に 入れてしまうという矛盾に少し疑問を感じ ていると…
ヒロが美嘉の頭の後ろに手を回し、 自分のほうへと引き寄せた。
二人の唇が近づきキスをされるのかと思っ て目を閉じると、 口の中に何か物体が入って来た。
甘い味が広がる。
その物体をゆっくり噛むとやわらかい感 触…。
この味はもしかして… みかんキャラメル??
パッと目を開けると、
ヒロがいじめっ子のような顔で笑ってい る。
「あ~!!美嘉に毒味させたでしょぉ~!?」
改めてキャラメルを噛み味を確認。
「…意外とうまい!!」
みかんキャラメルと聞いて絶対微妙な味だ と思っていたが、
キャラメルの甘さとみかんの酸っぱさがマ ッチしていてなかなかの味わいだ。
「マジかよ?俺にも食わせて!」 ヒロはキャラメルをもう一粒開け、
美嘉の唇に挟んだ。
美嘉はキャラメルを唇に挟んだまま、 ヒロの唇へと運ぶ。
キャラメルが口の中に運ばれた時、 二人の唇はそっと重なり合った。
いつもしてるキスとは違って、 シチュエーションにドキドキしてしまう。
唇は長い時間何度も何度も触れ合い、
絡み合う舌はみかんキャラメルの味で甘く 溶けそうだった。
ガサッ…
ベッドの下に置いたインスタントカメラの 入った袋を蹴ってしまった音をきっかけ に、
二人の唇は離れる。
「…みかんキャラメルおいしかった??」
沈黙になると照れくさいので、 すかさず言葉を発した。
「かなりうまい!俺普通のキャラメルより 好きかもしんねぇ」
ヒロはキャラメルの箱を握って嬉しそうに ニコニコしている。
どうやらみかんキャラメルを気に入ってし まったみたいだ。
「じゃあまた買ってくるねぇ♪そしてまた 食べさせてあげるぅ!!」
「おー、ありがとな。俺も美嘉に食わせて やっから!食いたくなったら言えよ」
ヒロはキャラメルの箱をじっと見つめ、 そして何かを発見したような顔をした。
「今思ったんだけど、美嘉とみかんって響 き似てねぇ?!」
突然の発言に 吹き出す美嘉。
「確かに似てるけど~!!何いきなり~!」 キャラメルの箱をカラカラと振るヒロ。
「このキャラメル食うたび美嘉から元気も らえる気がするわ。何たって美嘉とみかん だからな!」
冗談だか本気だかわからないヒロの発言 に、
病室では笑い声が響いていた。
この時、
子供みたいに笑うヒロがとても愛しく感じ たのを今でも覚えている。
突然ヒロがベッドの横にある棚に置いてあ った自分の携帯電話を手に取った。
「何してるの~??」
ヒロは何も答えずカチカチと携帯電話をい じっている。
「ヒ~ロ君~?」
わざと子供をたしなめるような言い方で話 し掛けると、 ヒロは美嘉に携帯電話を向けた。
パシャッ
「美嘉の顔撮ったぜ~」 ようやく状況を理解することが出来た。
「あ~!!写メール撮ったでしょ!?」
ヒロの携帯電話を無理矢理奪おうとする が、
ヒロはそれを離そうとしない。
「も~。ちゃんと消してね!!」
「普通のカメラとかあったら良かったんだ けどなー。そしたら美嘉と二人で撮れんの に!」
さっきコンビニで買ったインスタントカメ ラを思い出した。
ヒロは写真を撮るのが嫌かもしれないと思 って隠したけど、 ヒロも撮りたいと思ってくれてたんだ…。
すかさずベッドの下からインスタントカメ ラを取り出して、 ヒロに向かって自慢げに差し出す。
「実はカメラあるので~す♪」 ヒロは驚いたような顔をしたけど、
その顔に少し違和感を感じた。
「すげぇ、カメラまであんの?やるな!」
ヒロの言葉が大袈裟で、わざとらしく聞こ える。
もしかして美嘉がカメラ買ったのに気付い て、
わざと言ってるんじゃないの…??
一つの不安が生まれた。 見えないようにベッドの下に隠したけど、
その前に美嘉がカメラを取り出そうと迷っ ていた時に気付いたとしても不思議ではな い。
もしその不安が当たっていたら…
「じゃあ今度撮ろうっ」 一度差し出したカメラを再び袋にしまう。
右手を差し出すヒロ。
「…何??」
「そのカメラ俺が預かったらダメか?」
「でも…」
「いいだろ?」
迫力に負けてしまい、 おずおずとカメラを手渡した。
ヒロはそのカメラを受け取ったと同時に美 嘉のほうへ向けてシャッターを押し、 その瞬間フラッシュが光った。
「あ~ちょっと!!また撮ったでしょ!?」
「うるせ~。撮ってねぇし!」
「嘘つきぃ!!」
ヒロはそのカメラを大切そうに枕の横に置 いた。
27 枚撮りのカメラ。 残りは 26 枚…。
長いはずの夏もあっという間に過ぎ、 焼き芋の季節。
あー今年は夏なのに肌が白いままだ。
日焼けでひりひりしないのなんて久しぶ り。
━秋
物悲しい季節。 パラパラと舞う
落ち葉…
ベンチに座って 読書をする人。
でもやっぱり焼き芋に 栗にサンマに~…
まぁ、 なんだかんだで食欲の秋だったりして!!
だって秋の食べ物って おいしいんだも~ん♪
来年の今頃は ヒロと一緒に焼き芋焼いてるといいなぁ。
でもあんまり食べすぎるとさらに太っちゃ って嫌われちゃうかもしれないから、 ほどほどにしなきゃ。
…っとまぁこんな感じで特に大きな事件も なく
秋も過ぎていった。
平和が1番!!
秋が終わると雪がちらちらと降り、 冬が近づいて来た。
ヒロと 四年振りに過ごす冬。
この季節に 何度心を痛めたことだろう。
今でもまだ 痛む時はあるけど。
冬… きっと永遠に、
何かを思い出す季節。
学校とバイトには 相変わらず行っている。
最近どこにも遊びに行ってないなぁ。
ヤマトやシンタロウとは 学校で話したりもするけど…。
アヤの新しい彼氏はどうやら同じ大学の人み たいで
学食でイチャついてる姿をたまに見かけ る。
ヒロはと言えば… みかんキャラメルを買った日以来、
お見舞いに行くたびにみかんキャラメルを 買って行った。
そのたびにヒロは元気が出ると言って嬉し そうに食べてくれたんだ。
そんなヒロの笑顔を見ると美嘉も嬉しくな っちゃって…
ベッドの横の棚には
みかんキャラメルの空き箱が大量に積み重 なっている。
みかんキャラメルが効いたのかはわからな いけど
ヒロの体はどんどん元気になっていった。
もう退院してもいいんじゃないかってくら い…。
きっと来年あたりには
退院も夢じゃない。
検査は辛いはずなのに、ヒロは絶対弱音を 吐いたりはしなかった。
「俺強いから!」
ヒロの口癖。 うん
ヒロは強いよ。
喧嘩負けたことないもんね。
なんたって大変な病気と一生懸命闘ってる んだもん。
美嘉だったら 絶対弱音吐いてると思う
強いから… ヒロは強いからね。
━12 月 24 日
今日は クリスマスイブ。
またヒロとクリスマスイブを過ごせる日が 来るなんて
思ってなかったよ。
今日は運よくバイトが休みなので 昼頃に目を覚ました。
大学はすでに冬休み。 思ったんだけど、
大学って勉強する時間より休みのほうが長 くない??
気のせいかな。
昨日髪が濡れたまま寝てしまったために ひどい寝癖。
鏡を見なくても 手触りでそのひどさがわかるくらいだ。
「おはよぉ~」 のそっと居間に顔を出す
「もうお昼よ。本当にぐーたらして」
呆れ顔のお母さんを見てお姉ちゃんが笑 う。
「美嘉寝癖すご~いよ!アフロみたいにな ってる!お父さん見て~」
ソファーに座って新聞を読んでいたお父さ んが、新聞をずらして美嘉の頭をちらっと 見た。
「今どきっぽくていいんじゃないか。」
一時バラバラになりかけた家族の姿は もうどこにも無い。
今あるのは 仲良しで温かい家族の姿
そう、 昔のように。
に、
平日ではなく特別な日だと思うと一分一秒 がもったいなく思えたりもするのだ。
「うるさ~い!!」
美嘉は乱暴に椅子に座り
テーブルの上に置かれた目玉焼きにフォー クを突き刺した。
「今日もヒロ君の所に行くのかい?」
お母さんの問いに 元気に答える美嘉。
「もっちろ~ん!!」
家族はヒロが癌だってことを知ってる。 みんな、
そばにいてあげなさいって言ってくれた。
目玉焼きを無理矢理口に押し込み、 牛乳で流し込んだ。
「ごっちそうさまでしたぁ~♪♪」 洗面所に直行し、
髪を水で濡らしてみたが頑固な寝癖はなか なか直らない。
仕方なくワックスを手につけ クシャクシャと髪をセットした。
走って階段を駆け上がり部屋に戻る。
別に時間に追われているわけではないの
鏡と向かい合ってメイクをする。 勝負の時だ。
メイクが上手くいくかいかないかによって その日一日の気分が変わるから
今日の勝負は勝利。 そして第二の勝負は服選び。
1 週間前にバイト代で買った服に着替える。
値札をパチンと切り、 まだシワの無い白のニットに袖を通した。
黒と白チェックの膝より少し短いスカート をはき黒いコートを羽織りえりを立てたら 完璧♪
第二の勝負も 勝利だ。
お気に入りの甘い香水をシュッとふりか け、
「行って来まぁ~す♪」 茶色いロングブーツを履き家を出た。
なぜこんなにオシャレしてるのかと言う と…
まぁ、 あまり意味はない。
いつもバイト終わって髪もボサボサだしメ イクも取れかけたままお見舞いに行ったり してたから、 たまにはかわいい姿で会いに行きたい。
街に出て、 携帯電話ショップに入った。
「この黒い携帯電話契約したいんですけ ど…」
もちろん自分で使うために契約するわけで はない
美嘉はお気に入りの
ピンク色で最新機種の携帯電話を持ってい るからね♪♪
じゃあ誰に買うって? それは夜になれば
わかる話…。
「身分証明できる物とハンコはあります か?」
「あります。」
「では契約書に記入お願いします。」
20 歳になったから親の承諾がなくても契約 出来るから便利だ。
…美嘉ももう 20 歳か…。 時間が過ぎるのは早いなぁ。
契約書に記入を終える。
「少々お待ち下さい」
そう言われしばらく待っていると、
綺麗なお姉さんが黒い携帯電話を差し出し た。
「大変お待たせいたしました」
「こちらでよろしいですね?」
「はい!!」
買ったばかりの携帯電話を持って店を出 る。
買った携帯電話は最新機種ってほど新しく はないけど、
ムービーを撮ったりテレビ電話をしたり出 来る機能がある。
ラッピングを買い、 携帯電話を綺麗に包んだ
もう夕方の 5 時。 夏ならまだ明るいが、
冬なので真っ暗。
ケーキ屋さんでショートケーキを二つ買 い、
コンビニでみかんキャラメルを買って病院 へ向かった。
クリスマスケーキは昨日の夜作ったんだけ ど…
失敗しちゃったんだ。
今回はケーキ屋さんのケーキで 我慢してもらおう。
「失礼しま~す」
いつものようにノックをしないでドアを開 けると
そこにはヒロのお母さんの姿が…。
「あら、美嘉ちゃん来てくれたの!」
ノックをしなかったことに今さら後悔す る。
「す…すみません!!」 ドアを閉めようとする美嘉に
大声で叫ぶヒロのお母さん。
「あら、いいのよ!」 閉めかけたドアを再びゆっくり開くと、
ヒロのお母さんは上着を羽織りながら微笑 んだ。
「おばさんもちょうど帰ろうと思ってたと こだからあとはよろしくね!」
ヒロのお母さんは そう言って帰ってしまった。
病室は二人きり。
「メリクリ~っ!!」
「まだクリスマスじゃね~し!」
「そう言えばみかんキャラメル買って来た よ♪」
「お~サンキュ」
箱からキャラメルを一粒取り出して唇に挟 み、
ヒロの唇へと運ぶ。
なぜかこのキャラメルを食べる時は、
お互い唇に運び合うことが当たり前になっ ていた
「あ~ケーキも買って来たぁ!!」
ケーキの箱を取り出しベッドの上に置く と、
ヒロはキャラメルを噛みながら言った。
「ありがとな。でも俺キャラメル食ってる から後で貰うわ!美嘉先に食っていいよ!」
「わーい♪♪」 ケーキを取り出し、
箱に入っていたフォークでケーキを頬張っ た。
その姿を見てヒロが笑う
「子供みてぇ…」
美嘉はケーキを食べる手を止め、 ヒロを睨みつけた。
「もうハタチだも~ん。ってかヒロより誕 生日早いからヒロより大人だし!!」
「はいはい、そーっすね~美嘉は大人です。 俺が悪かった!」
ムキになって反論する美嘉に対して、 イヤミっぽく言い放つヒロ。
余裕の表情を浮かべている。
ケーキを食べ終え満足したところで
かばんからプレゼントを取り出しヒロに手 渡した
「はい、プレゼント♪」 プレゼントを受け取りつつも焦るヒロ。
「俺なんも買ってねぇよ!?」
「ヒロは元気でいてくれたらいーのっ!!」
「退院したらぜってぇお礼すっから。マジ でありがとな!」
プレゼントを開けようとするヒロの手を止 める。
不思議そうな顔をするヒロの目を じっと見つめた。
「プレゼントは 12 時になったら開けて っ!!」
何かを考え込むヒロ。
「…わかった!」 何か結論が出たのか、
期待に満ち溢れた顔でそう答えた。
「じゃあそろそろ帰ろっかな!!」 椅子から立ち上がると
ヒロは美嘉の指先を掴んで引き止めた。
「お参り…俺行けねぇけどごめんな。」
笑顔が隠せない。 なぜなら、
ヒロに渡したプレゼントがお参りに関する 物だったから…。
「気にしないで!なんかお供えしておいて 欲しい物とかある??」
ヒロは 申し訳なさそうに呟いた
「供えてもらいてぇのあるんだけど、俺の 家にあるんだよな」
「じゃあ美嘉が取りに行くよ!!」 答えは即答だ。
お参りに行く 12 時まで まだかなり時間があるから全然大丈夫。
「姉貴に聞けばわかると思うから。ごめん な」
「了解♪プレゼントは絶対 12 時に開けてね
♪」
強く念を押し、 病院を出た。
病院からヒロの家まで意外と近かったりす る。
まぁ、 近いからこの病院なのかもしれないけど…
ヒロの家の前に着いた。部屋の電気が光っ ているのがわかる。
ピンポーン
「はいは~い。あ、美嘉ちゃん!」 出て来たのは
お姉さんのエリさんだ。
「あ、なんかヒロにお供えの…」
寒さのせいで言葉がうまく出なかったけれ ど、
エリさんは気付いてくれたみたいだ。
「あぁ、あれね!とりあえず入りなよ!」
「おじゃましま~す…」 コートと靴についた雪をはらい、
家の中に入る。
懐かしいな。
最後にここに来たのは、ヒロと別れる前日 だったなぁ。
寒い場所から突然暖かい空間に変わったの で、
シモヤケで体が痒い。
エリさん案内され ヒロの部屋に入った。
「どうぞどうぞ」
あの頃と 全く変わらない部屋。
この部屋にもう一度来たいと 何度夢見ただろう…。
ベッドに腰を下ろし冷えた手に息をかけて 温めていると、
エリさんは部屋の隅から大きなダンボールを 取り出してきた。
「あいつが言ってたのは多分これのことか な!」
「…何ですか??これ」
「開けてみな!」
ダンボールを開けようと手を伸ばす。
しかし凍えた手のせいでダンボールが横に 倒れてしまい
中身が出て来てしまった
ダンボールの中に入っていたのは 大量の赤いブーツに入ったお菓子と ピンクの手袋。
「これ…」 奥を探っても
出て来るのはお菓子と手袋だけ…。
「あいつ入院したら買いに行けなくなるか もしれないからってまとめ買いしたんだっ て。自分は多分 60 歳くらいまで生きるから って 43 個も買ってんの。笑えるよね!」
「笑えますね…」 全然笑えない。
エリさんもきっとそう。
もー、 ヒロはなんでこんなにバカなの??
バカバカバカバカ。 もっと好きになっちゃうじゃん。 バーカ。
涙が出そうなのを 必死で堪えた。
12 時近くになるまでヒロの部屋でエリさんと 話していた。
11 時 50 分 手袋とお菓子を一つずつ持ち、
公園へ向かい始める。
ヒロの部屋から持って来た手袋とお菓子を ポケットに入れる。
今年は そんなに寒くない。
昨日雨が少し降ったみたいで 地面がビチョビチョしている。
はねないように そーっと歩かなきゃ。
公園の前に着いてポケットから携帯電話を 取り出し時間を確認すると、
もう 12 時 15 分だ。
今頃ヒロはプレゼントを開けて 困惑していることだろう
携帯電話を手に持ったまま、 テレビ電話を掛けた。
そう、
掛けた番号は今日美嘉が街で契約した携帯 電話の番号だ。
♪プルルルル♪
『ガチャ、ピッピッ』
ヒロは着信音に気付き電話には出たもの の、
焦っていろんなボタンを押してしまってい る様子。
『もしも~しヒロ??』
『ピッピッ』 相変わらず
ボタンを押している。
『ヒ~ロ~君??』
『…あれ?もしもし』
『ヒロ~メリークリスマス♪』
『…美嘉か?なんでプレゼントに携帯…』
ヒロはテレビ電話だと言うことに気付いて いないみたいで、 耳に受話器をあてたままて話している。
おかげで美嘉から見える画面は真っ暗だ。
『ヒロ~携帯の画面見て!!』
『え?何?』
『だ~か~ら~、携帯の画面見てよ!!』 ヒロがゆっくりと耳から受話器を離すと、
美嘉の携帯の画面にはヒロの姿が映った。
しかしヒロは再び受話器を耳にあてながら 話し始める。
『なんだよ、なんで顔が映ってんだ!?』 焦るヒロをよそに
冷静に答える美嘉。
『テレビ電話だから受話器耳から離しても 聞こえるよ!!病院内は携帯電話使用禁止だ けど、今日だけは許してもらおう!!』
ヒロはやっとテレビ電話のしくみを理解し たみたいで、 画面には再びヒロの姿が映った。
『俺~状況が理解できねぇ~』 かなり混乱している。
落ち着いて説明しなきゃ
『だからね、ヒロお参り来れないからテレ ビ電話すれば画面も見えるでしょ??わか る?』
〈説明〉
ヒロは外泊出来なくてお参りに来れないか ら、
せめてテレビ電話で生中継すればヒロもお 参りした気分になれるかなーなんて考えた りして…。
ヒロの携帯はテレビ電話の機能がついてな
いからその機能がついてる機種を契約した わけ!!
つまりヒロが画面ごしにお参り出来るって 言うのが
美嘉からのプレゼント。
無言を続けるヒロ。
多分まだ状況を理解していないんだと悟 り、
説明より行動をすることにした。