饭饭TXT > 海外名作 > 《恋空(日文版)》作者:[日]美嘉【完结】 > koizora.JP.txt

第二十二章 弱音

作者:日-美嘉 当前章节:15363 字 更新时间:2026-6-15 17:36

一月中旬

まだ雪も溶けない。 いや、

むしろ1番雪が多い月かもしれない。

この時期は一生に一回の大イベント…って ほどでもないけど、 一生に一回は必ず参加できる行事がある。

成人式だ。 まだ外が明るくなる前に起こされ、

会館みたいな場所で着付けと髪のセットと メイクをしてもらった。

着付けの予約がもういっぱいで、 朝しか時間がとれなかったんだって。

着物って初めて着たけど胸が締め付けられ て息苦しい…。

浴衣とそんなに変わらないと思ってたけ ど、

全然違うものなんだ。

この日のためにとお母さんが奮発して買っ てくれた紺色の着物を着て

ちょっと和風な女の子を演じてみた。

式は昼過ぎからなので、とりあえずお父さ んが運転する車でおじいちゃんとおばあち ゃんの家まで連れて行ってもらい、 着物姿のお披露目会。

式の時間が近くなると、そのまま近くの駅 に降ろしてもらった。

駅で中学校からの親友であるマナミと待ち合 わせしているのだ。

改札口の前にピンク色のかわいい着物を着 たマナミを見つけ、

慣れない下駄を履いていたので転ばないよ う注意しながら走った。

「やっほぉ!!マナ久しぶりぃ~♪♪」

「美嘉久しぶり~…ってか遅刻!」

「ごめ~ん!!」

「ま、慣れてるからいいけど~!」

地下鉄に乗り、 式の会場であるホテルへと向かう。

イズミやシンタロウ達は離れた場所に住んでるか ら、

式の会場は違う場所。

ホテルには着物やスーツを着たたくさんの 人がいて、

中学校が一緒だった人やなんとなく見たこ とある人がたくさんいる。

みんな同じ年齢なんだ…と当たり前のこと に関心していると式が始まった

式と言ってもかしこまった式ではなくただ の挨拶がある程度で、

美嘉とマナミは式を途中で抜け出し外に出て 中学時代のことなど懐かしい話をしてい た。

みんながぞろぞろと帰り始めた頃、

美嘉はマナミに別れを告げてそそくさと病院 へ向かった。

ヒロ美嘉の着物姿見てなんて言うかな~!! かわいいって言ってくれるかなぁ??

持っていたポーチの中から手鏡を取り出 し、

軽くメイクを直し階段を上っていざ病室 へ…

トントン 今日はちゃんとノックする。

だってこの前ノックしないで入ったら ヒロのお母さんがいたんだもん。

「どうぞ~。」 病室から返事が聞こえたので、

ドアを開く。

…ん?でも今の声ヒロではないような…。 ま、いーか。

「失礼しま~す♪」

「おぅ美嘉」

「成人おめでとさん♪」

ハモるように同時に重なった二人の男の 声。

「ノゾムじゃん!!」 病室にいたのはノゾムだ。ヒロもノゾムもスー

ツを着ている。 きっとノゾムもお見舞いに来たのだろう。

「美嘉久しぶりだな!」

ノゾムとは去年のクリスマスに公園で会った 以来だ

「うん!!ノゾム久しぶり~♪♪」

ノゾムに挨拶しながらも、初めて見るヒロの スーツ姿に胸がときめいている

だってスーツ超似合うんだもん!!

「ほらヒロ~美嘉の着物姿見てどうよ?」 ノゾムが冷やかしたように言うと、

ヒロは二回ほど咳ばらいして美嘉を手招き した。

それに従いベッドに近寄ると、

ヒロは美嘉の手を握りその手を天井に向か ってあげた。

「ノゾム手出すなよ!」 そして美嘉の手をぐいっと引き、

耳元で囁いた。

「マジで似合ってる」

「ヒロもかっこいい♪」 美嘉も囁き返す。

「うるせー」 ヒロは照れくさそうに微笑んだ。

「あ~あ仲良しですこと~~♪」

口を曲げてイヤミを言うノゾム。

美嘉は自慢げな顔をしながら舌をペロッと 出した

それを見たヒロは突然ベッドの横にある積 み重なったみかんキャラメルの1番上に置 いてあった箱を手に取り、

キャラメルがまだいくつか入っているのを 確認して一粒を美嘉に手渡してきた。

「キャラメル食べたいの??」

美嘉はキャラメルの袋を取りながら問う と、

ヒロは表情を変えずに淡々と答えた。

「…食いたくなった」

いつもなら唇に挟んで食べさせてあげてる けど…

今日はノゾムがいるから

さすがに口移しをしたら恥ずかしいか な??

そう思いキャラメルを手でつまみながらヒ ロに食べさせてあげようとする

しかしヒロはキャラメルを食べようとはし ない。

仕方なく唇に挟みいつものようにヒロの唇 へ運ぶと、

ヒロは繋いだ手をぎゅっと握りおいしそう にキャラメルを噛んでいた。

握った手から伝わって来るヒロの気持ち。

…ヤキモキ、嫉妬。

きっと高校時代に美嘉とノゾムがキスしたこ とをまだ少し根に持っていて、

ノゾムにわざと二人の仲良しぶりを見せ付け ているんだ…。

「ってかお前らなんか結婚式みたいじゃ ね?!」

ノゾムが大声で言う。 なんだか演技くさい。

「そぉ??」 話題の変化に少しだけ焦り、

しかもノゾムの言葉の意味をあまり理解する ことが出来ないまま、 曖昧な返事をしてしまった。

ノゾムは何かを大発見したような顔をして手 を叩き再び大声で言った。

「そーだ!お前ら結婚式しちゃえば?ちょ うど着物とスーツだし!」

あぁ

ノゾムは二人が着物とスーツ姿だから結婚式 の衣装みたいだって言いたかったんだ!!

「どぉする??」

美嘉はヒロの顔を覗き込むとヒロは微笑ん だ。

「いいんじゃねぇ」

ノゾムはそんな二人を見ながらぺらぺらと早 口で話し続ける。

「プチ結婚式やろうぜ♪俺進行すっから!」 ノゾムの強引さは相変わらずだ。

でもこうして三人でいると本当に高校時代 に戻ったような錯覚に陥ってしまう。

「でも用意とかしてないよ??」

「どうにかなるから心配すんなって!」

ノゾムは美嘉の肩をポンと叩いたと同時に、 ヒロのほうをちらっと見た。

その瞬間に二人がニヤリと笑ったのを見逃 しはしなかった。

「じゃあ始めるぞ!」 ノゾムの進行でプチ結婚式は始まる。

ヒロはベッドに座ったままで、

美嘉はベッドの横にある椅子に腰をかけな がらお互い両手を握り合った。

窓の外からは車の音や歩いている人の声が 微かに聞こえる。

ノゾムは何回か咳ばらいをし、 ネクタイを右手で整えながら口を開いた。

「え~桜井弘樹さん。あなたは田原美嘉さ んを一生愛していくことを近います か~?」

ヒロの顔をちらっと見ると、

少し照れくさそうな顔をして目をそらして 答えた

「誓います。」

樹さんを一生愛していくことを誓います か?」

その答え。 その答えは決まっている

迷いはない。

「…誓います!!」 美嘉は病室に響く元気な声で答えた。

「じゃあ誓いのキスをしてくださ~い♪」

その言葉に二人は顔を見合わせ、

そして一瞬唇が触れるか触れないかくらい の軽いキスをした。

そのままおでこをくっつけながらお互い小 さな声で誓い合う…。

“これからもずーっと一緒だよ。よろしく ね”

そしてまたノゾムの進行を待っていた。

「じゃあ次は指輪交換して下さ~い♪」 ノゾムの言葉。

キョトンとする美嘉。

指輪交換? 指輪なんて持ってないし…。 どうすればいいんだろう

その瞬間繋いでいた手が離れた。

「じゃあ~田原美嘉さん。あなたは桜井弘

「美嘉、左手出せ」

ヒロの声で美嘉の思考は停止。 言われるがままに左手を差し出す。

するとヒロは美嘉の左手の薬指にするりと 指輪をはめた。

そう、

それは高校一年生のクリスマスの日にヒロ がプレゼントしてくれたペアリング…。

ヒロの左手の薬指にもいつの間にか指輪が つけられている。

「俺が退院したら籍入れような!」

「え?この指輪ずっと持っててくれてた の…?」

ヒロは質問に答えないまま美嘉に問う。

「返事は?」 美嘉は指輪をじっと見つめながら答えた。

「…うん!!」

ノゾムが指を口にあて、 ピーピーと音を鳴らす。

「よっ、ご両人♪本当の式には呼べよ!」

驚きのあまり、 言葉が出なかった。

この指輪…

卒業式の日に美嘉がヒロに返してからずっ と持っててくれてたの??

またこの指輪をつけることが出来るんだ ね。

退院したら一生一緒に暮らしていけるんだ ね。

「ノゾム、これ頼んでいいか?」

ヒロはベッドの横にある引き出しの中から 前に美嘉が買ったインスタントカメラを取 り出し

ノゾムに手渡した。

「あったり前だぜ♪」 ノゾムはそれを受け取り

カメラを二人に向けた。

美嘉とヒロは指輪が見えるように左手を顔 の横に出しポーズをとる。

しかしノゾムはレンズを覗きながらもなかな か撮る気配はない。

「ノゾム撮らないの??」

一旦左手を降ろすとノゾムはレンズから目を 離して言った。

「高校の時に俺が言ってたやつ覚えて る?」

しばらく考えてみた。 高校の時にノゾムが言ってたこと…??

たくさんありすぎてわからない。

「ヒロわかる??」 隣にいたヒロに問う。

「なんとなくな!」

ヒロは美嘉の髪についてたかんざしを指で いじりながら答えた。

「ま、いーや。多分聞けばわかるから!じ ゃあ撮るぞ~♪」

そして再びカメラを二人に向けたので左手 を顔の横に出しポーズをすると

ノゾムはシャッターに指をあてながら言っ た。

「この先何があっても~?」

…高校の学校祭で美嘉とヒロとノゾムとアヤが カメラマンに写真を撮ってもらった時、 ノゾムが決めたあの言葉。

あの言葉。

「だ~い好き!」

「だ~い好き!!」

二人が声を揃えた瞬間、

パシャという音と共にフラッシュが光っ た。

「お前らよく覚えてんなぁ~!」

ノゾムが感心した表情でレンズから目を離 す。

「記憶力いいからね~余裕だも~ん♪♪」

撮られる直前まで思い出せなかったくせ に、

偉そうに言ってしまった

「ノゾム、ありがとな。」

ヒロがノゾムに軽く頭を下げている。 高校時代なら信じられない光景だ。

「水くせぇ~よ!気にすんなって!」

ノゾムは困ったように頭をかきながらヒロに カメラを返した。

「ノゾムありがとねっ♪」 美嘉もヒロに続けてノゾムに頭を下げる。

「じゃあ俺は帰るからな。仲良くしろよ!」 ノゾムはそう言い残し、

さっさと病室を出て行ってしまった。

きっと感謝されることに慣れてないんだろ う。

「あら…ノゾム帰っちゃったね!!」

「あいつシャイだな」

「でもノゾムってキューピッドだよね!!あの 日ノゾムがヒロの家から電話かけて来なかっ たら多分ヒロと仲良くなってなかった し!!」

「あいつには感謝だな」

ノゾムに感謝しながらベッドの上に置かれた インスタントカメラを手に取り、 持ち上げてカメラの残り枚数を見てみた。

この前まで残り 26 枚あったのが、 なぜか 20 枚になっている

さっきノゾムは一枚しか撮ってなかったし…。

不思議そうにカメラを見つめていると

ヒロはそのカメラを奪い棚にしまってしま った。

「カメラの残り枚数さぁ…」 疑問を口に出そうとしたその時、

ヒロは美嘉の言葉をわざと遮るようにして 話し始めた。

「実は今日プチ結婚式やんのノゾムと計画し てたんだよな!」

疑問は消え、

今度はヒロの言った言葉を理解することに 励む。

「計画??」

「そう。昨日メールで連絡取って計画立て てたんだわ!」

さっきヒロとノゾムが目を合わせてニヤリと 笑った理由…

そーゆーことか。

「あ~なんか怪しかったもん!!」

「マジ?でもこーゆー機会じゃねぇと俺ス

ーツ着れねぇからさ」

病室が沈黙になった瞬間

頭の中でカメラの残り枚数が減っていたと いう疑問がよみがえった。

でもヒロが焦ったようにカメラを棚に隠 し、

わざとらしく話を遮ったことを考えると聞 かないほうがいいような気がして…

まぁ、

残り枚数なんてそんなに重大なことでもな いか。

問い質すことはとりあえずやめよう。 現像したらわかるし!!

美嘉はヒロのひざに頭を乗せ、 甘えたように頭をゴロゴロ移動させた。

「ねぇヒロ~覚えてるぅ??」

「ん?何がだ?」

「昔さぁ~ヒロが

“いつか写真を見ながらこの時も楽しかっ たけど今はこの時よりもっと幸せだね~っ て言えたらいいね“って言ってたじゃ ん??覚えてる??」

「おー」

「ヒロが今持ってるカメラを現像してその 写真が出来たら、その写真見て“この時も 楽しかったけど今のほうが幸せだね”って 言おうねっ♪♪」

“言おうな!” 期待していたヒロからの返事はなかった。

ただセットされた髪形を崩さないよう、 優しく髪を撫でてくれた

この時初めて、 いつもとは違う不安が 美嘉の心の奥に 生まれたんだ。

「じゃあまた♪」

「玄関まで送るか?」

「寝てなさいっ!!」

着崩れしてしまった着物を手でおさえなが ら病院を出た。

夕暮れの空に手をかざす

ヒロから貰ったペアリングに夕日があたっ て

目をそらしてしまいそうなくらいに輝いて いる。

ヒロと別れた後、 唯一の繋がりは指輪だった。

PHS から携帯に変えて連絡が取れなくな り、

お互い新しい相手が出来て会うこともなく なって…

制服のポケットに入った指輪だけが、 ヒロと繋がっていたの。

卒業式に指輪をヒロに返した時、 本当にもう終わったんだと思った。

もうヒロと会うこともないんだなぁ…って。 でもね、

その指輪が今薬指で光ってるの。

もうポケットの中じゃない。 薬指で光ってるんだよ。

運命ってあるのかもしれないね。 大切な人を傷つけてしまったけれど…。

神様は意地悪ばっかりする。

だけどこんな美嘉にもたまには味方をして くれているのかもしれない。

「退院したら籍入れような!」 ヒロの言葉を思い出し、

顔がニンマリしてしまう

成人式を終えて少しだけ大人になった美嘉 は、

いつものように家へと帰った。

まだ冷たさが残る生ぬるい風が、 雪溶けの下にある土の匂いを運ぶ。

冬眠していた虫や動物がピョコッと顔を出 す。

春…

二年最後のテストを見事にクリアし、 美嘉は大学三年生になった。

二年生で授業単位のほとんど取得すること が出来たので、 今年はほとんど授業が無い。

やったー♪♪

ケンちゃんは残念ながら留年してしまい、

もう一年大学に通わなければならないらし い。

そして優…。 優は無事に卒業してから資格を取得して、 保育士になったと風の噂で聞いた。

こっちで保育士になったのか、 地元に帰ってしまったのかはわからない。

誰かに聞けばすぐにわかる事なんだけど、 あえて聞かずにいる。

どっちにしろ優の夢が叶った。 それが嬉しかったんだ。

優ならいい保育士になれるよ、絶対!!

授業が無いから、 バイトとお見舞いで毎日が過ぎて行き、 そんな毎日に充実感さえ感じていた。

大学の学食も恋しくなってきた 6 月。 ヤマトから届いたお呼びのメール。

《大学正門前に集合》

今日はバイトがないから昼から病院に行く つもりだったんだけど…

久しぶりだし まぁいっか。

バスに乗り久しぶりの大学へ向かう。

そして正門前… いるのはイズミ一人。

「イズミ~会いたかったぁ~♪♪」

「美嘉ぁ!久しぶり!」

二人はまるで遠距離をしている恋人が再会 したかのように抱き合った。

「美嘉痩せた!?」

「全然っ!!多分バイトのせいで筋肉ついた だけぇ♪派遣だから力仕事もあったりする の!!」

「頑張ってるんだね。無理はダメだよ!」

そう言いながら頭をナデナデするイズミ。 さすが美嘉の第二のお母さん。

短かった髪が伸び珍しくスカートをはいち ゃったりなんかしているイズミ。

さては… 美嘉はある事に確信を持ち、

ニヤニヤしながらイズミに問い質した。

「イズミもしかしてシンタロウとやっちゃっ…」 イズミは美嘉の口を手で押さえ、

辺りをキョロキョロと見回し誰もいないこ とを確認すると耳打ちした。

「やっちゃった…♪」 美嘉は再びイズミに抱き付き、

ぴょんぴょんと飛び跳ねてつい大声で叫ん でしまった。

「イズミ~やったじゃ~ん!!」

「し~っ!あんまり大声で言ったらダ メ~!」

イズミは人差し指を縦に唇にあて怒ったそぶ りをしながらも、

嬉しそうな顔をしていた

「お前らは相変わらず騒がしいな~!」

くわえ煙草をしてポケットに手を入れなが らがに股で歩いて来るヤマト。

片手に大きな白い紙袋を持ち、

あいてるもう片手を上に挙げヤマトの後ろを 歩いているシンタロウ。

アヤはいないけど、

久しぶりのメンバーに心が休まる。

「シンタロウ、ヤマト久しぶり~♪♪」

「久しぶりだな。」

「おぅ、あっち行くぞ」

親指を立て学食の方向に指を向けるヤマトに 従い、 四人は連なり学食に向かって歩き出した。

「なんか食べる??」 席につき、

イズミからの問いに美嘉は首を横に振る。 お腹減ってない…。

「俺もさっき食った♪」 ヤマトは二本目の煙草に火を着ける。

「俺もいらねぇ。」

シンタロウはかばんからペットボトルを取り出 し、

緑茶らしきものを一口飲んだ。

「私も家で食べて来たんだ~ ♪ 良かった ぁ!」

イズミはテーブルにひじを付き、 手の平にあごを乗せながら言った。

それからは、 なぜか続く沈黙…。

ヤマトが煙草の煙を吐き出す音だけが虚しく 響いている。

きっと集まるのが久しぶりだから、 みんな緊張してしまっているのだろう。

美嘉もその一人だ。

「シンタロウ例の物…」 イズミがシンタロウに向かって発した言葉。

意味深な言葉。 例の物…??

美嘉の視線は自然にシンタロウに向く。

シンタロウは持っていた大きな紙袋の中から色 とりどりの何かを取り出し。 テーブルの上に広げた。

「これ…」 出てきたのは、

折り紙で作られたたくさんの鶴。

赤や黄色や青や紫。 そして金や銀の折り紙で作られた鶴。

「これ美嘉の彼氏に渡しといて」 シンタロウが美嘉のほうに折り鶴を寄せる。

「まぁ千羽じゃないんだけどね!千羽もあ ったら邪魔かな~と思って 100 羽にした♪」

イズミが肩を上げながら 誇らしげに言う。

ヤマトは何も言わずに 煙草をくわえたまま。

「え、鶴作ってくれたの…??」

目を見開き鶴を凝視しながら問うと、

ヤマトは煙草の灰を灰皿にポンッと落としな がら呟いた。

「美嘉の彼氏が早く元気になれるよーに三 人で願い込めて折ったからな」

イズミもシンタロウもヤマトも、 忙しいのに鶴折ってくれたんだ…。

ヒロのために、

ヒロが早く元気になるように鶴折ってくれ たんだ

友情がばらばらになるかもって寂しく感じ てたりしたけど、 絶対になったりはしないよね…。

「鶴折ろうって提案したのヤマトなんだよ~

♪」

イズミがヤマトを指さす。 ヤマトは煙草を灰皿に強く押し付けて、

怒ったような表情をした

「それ言うなってあれほど言っただろ!」

怒りの表情の中に照れくささが隠れ見え る。

「うぅ…ありがと…」 感動のあまりに熱いものが込み上げる。

涙が出そう。

「泣いたら鶴没収だ」 意地悪なシンタロウの言葉。

それを聞いて美嘉は即座に上を向き、 まばたきをしないよう必死で堪えた。

まばたきをすると涙が溢れてしまいそうだ ったから。

隣でバシッと叩いたような音が響く。

「嘘だぞ、冗談」

さっきとは全然違うシンタロウの優しい言い方。 きっと美嘉が上を向いている間に、

イズミに怒られてしまったのだろう。

まばたきをした瞬間、

涙がぽろぽろと流れ落ち赤い鶴の上に落ち た。

「辛いかもしれないけど頑張るんだよ!私 も彼氏が元気になるように祈ってるからね

♪」

そう言ってティッシュを差し出してくれる イズミ。

涙でイズミもヤマトもシンタロウの顔もぼやけて見え る。

イズミが差し出してくれたティッシュを取り 出し涙を拭くと、 だんだん視界が鮮明に見えて来た。

「そー言えばこれ…」

ヤマトが数枚のおりがみをかばんから取り出 す。

「折り紙??」

「美嘉が折った鶴もこの鶴の中に混ぜた ら、彼氏も早く元気になれるんじゃん?」

三本目の煙草に火を着けながら話すヤマト。

そしてイズミが何かを思い出したように突然 口を開いた。

「あ、私さっきこの鶴 100 羽あるって言っ たけど 99 羽しか折ってなかったんだ!最後 の 1 羽は美嘉に折ってもらおうと思って♪」

美嘉は紫の折り紙を一枚手に取り、 そして鶴を折り始めた。

鶴はすぐに完成。 イズミとシンタロウとヤマトが作ってくれた 99 羽の 鶴の中に繋げた。

「本当にありがとう。絶対元気になると思 う!!本当にありがとっ!!」

三人は顔を見合わし、 安心したように微笑んでいた。

「早く退院できたらいいね!」 美嘉の目を真っ直ぐ見ながらイズミが言う。

「彼氏が元気になったらみんなで遊ぼう ぜ。」

「俺らに紹介しろよ!」

シンタロウとヤマトが声を合わせて言った。

ねぇ、ヒロ。 こんなにたくさんの人達がね、

ヒロが元気になってくれることを祈ってい るんだよ。

ヒロが退院するの待ってるんだよ…。 だから早く

元気になってね。

「俺ら次授業あるからそろそろ行くか」 シンタロウが椅子から立ち上がる。

「そうだな。じゃあイズミと美嘉またなぁ♪」

ヤマトはまだ吸ったばかりの長いタバコを灰 皿にぎゅっと押し付け、 二人は去って行ってしまった。

「ヤマト、シンタロウ~本当ありがとぉ!!」

二人の姿が見えなくなるまで椅子から立ち 上がったまま手を振った。 感謝の気持ちを込めて…

二人の姿が見えなくなったので振っていた 手を降ろし、

椅子に再び腰をかけた。

イズミが美嘉の二の腕を指でつんつんと突き ながら何か言いたそうにしている。

「イズミ??」

「ねーねー美嘉編み物とかしたことあ る?」

突然の話題転換。

「編み物??したことない!!不器用だか ら…」

「私今編み物やってるんだよね♪冬になっ たらシンタロウにあげようと思ってセーター編 んでるんだ!美嘉も彼氏に何か編んでみた ら!?」

「でも出来るかなぁ…」

「大丈夫だって!決まり♪編み方なら教えて あげるから♪じゃあさっそく毛糸買いに行

こう!」

テーブルの上に散らばったたくさんの折り 鶴を紙袋にまとめると、

イズミは半ば強引に美嘉の手を引き毛糸や布 などが売ってる店へと連れて行った。

「美嘉は彼氏に何編んであげたい?」

イズミが淡い黄色の毛糸を手に取りながら問 う。

「う~ん、何にしようかな~??」

あまり来たことのないお店に少し戸惑い辺 りをキョロキョロとしながら曖昧に答え た。

「うんとね~私が教えられるのはセーター と手袋と帽子と…」

「帽子!帽子がいい!!」 イズミの言葉を最後まで聞かずに、

店内に響き渡る大声で叫ぶ。

周りにいるお客さんの視線が痛い…。 だけど帽子がいい。

「Ok~帽子ね♪じゃあ好きな色選んで~!」

イズミは周りの視線を全然気にしてない様子 で、

何種類かの毛糸を手に取りカゴの中にポイ ッと投げ入れた。

ヒロの姿を頭の中で想像しながら、 似合う色を探す。

一時間弱選んだ結果、 選んだのは黒と白の毛糸

各二個ずつ買うことに決めた。

「じゃあこれから編みかた教えるから、も う一回学食行こー♪」

「お願いします!!イズミ先生♪♪」

買ったばかりの毛糸を持ち、 再び学食へと向かう。

そして帽子の編みかたを事細かに教えても らった

「こんな感じ。なんとなくわかったか な?!」

「うん、バッチリ♪頑張る~!!」

「わからなくなったらいつでも教えるから ね!」

「うんイズミありがとう。折り鶴も本当にあ りがとうね!!」

イズミに何度も何度もお礼を言い、 そして別れた。

歩きながらさっきイズミから教えてもらった 帽子の編みかたを頭の中で必死で復習す る。

今のうちに復習しておかないと、 バカだからすぐに忘れてしまいそうだし…。

右手にはイズミとヤマトとシンタロウが一生懸命折っ てくれた色とりどりの折り鶴。

左手には黒と白の毛糸。

大好きな友達がそばにいて支えてくれてい るという安心感。

そしてこれから毛糸で帽子を編み、

帽子をヒロにあげる日のことを考えていた ら自然に顔がほころんでいた。

友達の大切さに改めて気付き、

満足げな笑みを浮かべながら病院へ向かっ た。

トントン 返事がないのでドアを開けると、

病室内は静まっている。

スースーと響くヒロの小さい寝息。

「寝てるのかぁ…」 肩をガックリ落とし、

ヒロを起こさないように紙袋から 100 羽の 折り鶴取り出してベッドの横に吊り下げ た。

寝息をたてながら微かに揺れている体。

揺れている体が生きていることを証明して いる。

ヒロのかぶっている茶色いニットの帽子 は、

毎日かぶっているせいか少しほつれてしま っている。

「冬までに頑張って帽子編むからね!!楽し みにしててね!!」

指でほっぺをツンツンと突く。

「…う~ん」

ヒロは唸りながらゴロンと寝返りをうって

窓の方を向いてしまった。

もしかして今日美嘉がバイトないの知って るから昼間に病院に来ると思って待ちくた びれて寝ちゃったのかな??

ベッドの横にはみかんキャラメルのゴミが たくさん散らばっている。

みかんキャラメルを食べると美嘉から元気 が貰える気がするって言ってたから、 今日は元気なかったのかなぁ??

目覚めてベッドの横にある折り鶴見つけた らきっと驚くよね。

その時、

寝ているヒロを無理矢理起こしてしまいた いくらい無性に愛しくなってしまった。

かばんに入っていたノートを破き 置き手紙を書く。

【気持ち良さそうに寝てるから今日は帰る ね。今日は来るの遅くなっちゃってごめん ね!!明日また来るねっ☆P.S.鶴は美嘉の友達 がヒロが早く元気になれるように作ってく れたの!!】

置き手紙を折り鶴と一緒にベッドの横に置 き

おでこに軽いキスをして病室を出た。

それから編み棒を買い、冬に向けて帽子を 編み始めた。

この帽子が完成する頃にはヒロが元気にな って退院していることを祈って

一編み一編みに願いを込める。

今年の夏も去年と同様、あまり出掛けたり しなかったなぁ。

でも外でするバイトが多かったから、 ほんのり小麦色の肌になっている。

いつの間にか大好きだったはずの夏も終わ り、

落ち葉がカサカサと地面を舞っている。

…秋。 トンボが空を飛び、

青々していた木々もほんのりオレンジ色に 染まり…

オレンジ色に染まった木々が夕日と重な り、

絵葉書のような綺麗で切なくなってしまう 風景を毎日のように見ることが出来る。

まだ夏が終わったばかりなのに、

吹き抜ける風はなぜか少しだけ冬を思わせ る匂いで…

その風は無情にも止まらずにどんどん流れ て行く時間が、

冬になるのを急かしているようにさえ思え た。

帽子が 3 分の1ほど完成した 9 月中旬。 ヒロに三日間の外泊許可が出た。

一日目と二日目はゆっくり家族と家で過ご してもらい、

三日目は一緒に過ごす時間を作ってもらう ことが出来た。

朝早くから作った手作り弁当を持ち、

期待に満ちた顔で走ってヒロの家へ向か う。

今日は待ちに待った ヒロの外泊。

今日は三日ある外泊の

最後の日。

昨日とおとついは家でゆっくり出来たかな ぁ?

お母さんの手作り料理たくさん食べたかな ぁ??

具合悪くなってないかなぁ。

……心配。

ヒロと病院以外で会えるのは高校以来だ。 それがとても嬉しくて昨日は眠れなかった

んだ。

ヒロも久しぶりに家に帰れたから、 嬉しいだろうな!!

ずっと… 病室にいたもん。

毎日毎日…

病室の薄暗いライトばっかり見てたもん ね。

ピンポーン

ドアの向こうからドタドタと走って来る音 が聞こえる。

そしてゆっくり ドアが開いた。

そこには 元気なヒロの姿。

「外泊おめでとう♪♪」

「おぅ、ありがとな!」

ヒロの私服姿を見るのはかなり久しぶりだ ぁ。

病院ではいつも パジャマだったから…。

ヒロは癌だとは思えないほど元気で、

それはそれはこのまま退院してもいいんじ ゃないかってくらい。

このまま退院出来たら

…どれだけ嬉しいだろうな。

「おじゃましま~す♪」

靴を脱いで玄関に上がろうとするが、 ヒロは上着を羽織りながら美嘉を止める。

「今日は行きてぇ場所があっから、付き合 ってもらうわ!」

美嘉は片足だけを玄関に上げたまま、

靴を履こうとするヒロの上着を掴んで必要 以上に大袈裟な声で叫んだ。

「家で安静にしてないとだめっ!!」 頭に手を乗せて

微笑むヒロ。

…余裕の笑みだ。

「どうしても行きてぇんだよ」

「でもぉ…」

「俺強いから心配すんなって!」

ヒロは美嘉の返事を聞こうとしないまま、 強引に玄関の外へと引っ張った。

連れて行かれたのは 自転車置き場。

この黒い自転車… 高校の時によく二人で乗ってたよね。

美嘉の特等席だった。

ヒロに持ち上げられ、 後ろに乗る。

「乗れ。飛ばすからしっかりつかまってろ よ!」

初めてこの自転車に乗った時と同じセリ フ。

変わらない優しさ。

ヒロの背中に…

あの頃よりも細くなってしまった背中にし がみついた。

冷たい風。

でもヒロの体温が寒さを消し去ってくれ る。

ぎこちない自転車の音が 時間を過去へと引き戻そうとしていた。

「ねーねーどこ行くの~??」

風の音と周りの雑音に負けないくらいの 大声で問う。

「~…った~…」 問いへの答えは、

ちょうど通り掛かかった工事現場のショベ ルカーの音によって

消されてしまった。

「え!?聞こえなかった!!もう一回!!」

「だから~俺らが出会った場所!」

出会った場所… それは学校。

これから 学校に行くのかなぁ??

ささいな疑問を頭の中で駆け巡らせつつ、 自転車は予想通り学校の駐輪場へと到着し

た。

ヒロが差し出してくれた手を掴み、 自転車から降りる。

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