日曜の夕方
これから ヒロと遊ぶ予定。
用意が早くできたので、ヒロの家に向かう ため
予定より一本早いバスに乗った。
案の定バス停に ヒロの姿はない。
ヒロを驚かせよう… そう思い歩いてヒロの家へと向かおうと近 道を通り、 人通りが少ない薄暗い道を歩いていたその 時…
背後にいた車のドアが開き、 誰が走って来る音が聞こえた。
ボコッッ
鈍い音と同時に頭に激痛が走る。 視界が真っ白になった
もうろうとした意識の中無理矢理腕を引っ 張られ
スモークがかった白いワゴン車に連れ込ま れる。
…頭がくらくらする
…痛い…何コレ?
手足を強い力でおさえ、洋服を乱暴に剥ぎ 取る
見覚えのない四人の男。
…レイプ。 これはレイプだ。 恐怖の中…
レイプされているという事実だけは把握出
来る。
「…やっ・・・」 自然と出る叫び声。
一人の男に口を塞がれた
「てめー静かにしねぇと生きて帰さねぇ ぞ」
男は不気味に 微笑んでいる。
…目は笑っていない。 笑みを浮かべながら顔や腹を
ひたすら殴り続ける。
その時
♪プルルルルル 車内に響く着信音。
この着信音は… ヒロだ。
遅いから心配して 電話くれたんだ。
電話に出て ヒロに助けを求めたい。
しかし二人の男が手足をおさえているため 身動きが出来ない。
着信音は 悲しく鳴り響いていた。
抵抗したら もっと殴られる。
殺されるかも…
恐怖と悲しみの中、 唇を噛み締め じっと耐える。
ヒロと初めて一つになった日… あんなに優しく抱いてくれたのに。 何で今さら思い出してんだろ。
…涙が止まらない。
突然ピカッ光る眩しい光。 助けが
来てくれた…??
そんな淡い期待さえ すぐに砕かれてしまった。
ニヤニヤしながら 耳元で呟く男。
「てめぇチクったらわかってるよな?今撮 ってる写真ばらまくからな」
体が身震いする。 さっきの光は
助けなんかじゃない。
カメラの フラッシュだったんだ。
「こんなんでいいだろ」 男達は笑いながら意味深な言葉を発し、 その言葉を合図に
車が動き始めた。
車は 10 分くらい走り、 知らない場所で車から捨てるように降ろさ
れ、
…途方に暮れていた。 震える指で
走り去る車のナンバーを PHS にメモする。
暗い場所が怖い。 明るい場所に行きたい…
明かりを求めて近くのコンビニへと歩き始 めた。
でも…
ボロボロに破れて 血のついた洋服。
殴られて腫れた顔。
とてもじゃないけど 人前に出れるような姿ではない。
足を止めコンビニの裏にある白いベンチに 横たわった。
ずっと鳴っているヒロからの電話。 今すぐヒロの声が
聞きたい。
『今どこ?』
『……わかんない』
『わかんないってどうしたんだよ!泣いて んのか?美嘉今どこにいんの?言えよ』
『どっかのコンビニの裏…』
『近くになにある?』
『パチンコ屋がある…』
『今行くから』
電話は一方的に 切られてしまった。
ベンチに横になりながら星を見る。
ヒロに 嫌われちゃうのかな…。
目を閉じてヒロの温もりを思い出そうとし ても
今はさっきの出来事が鮮明に甦って来るだ け。
それから しばらく経ち…
キキーッ
自転車のブレーキ音。 起き上がると
少し遠くにはボロボロの美嘉を見て驚いて いるヒロの姿が
ぼんやり見えた。
ヒロは自転車を投げ捨て 美嘉のもとへ駆け寄り 強い力で抱きしめた。
ヒロが来てくれた安心感からか… 子供みたいに声を出して泣きわめく美嘉。
「守ってやれなくてごめん…」 ヒロの怒りと悲しみが
体にひしひしと伝わる。
ヒロの存在に安心した気持ちと ヒロに申し訳ない気持ちが混ざり合い 頭の中はぐちゃぐちゃだ
ヒロは悪くない。
汚れちゃったよ。 ヒロ… 美嘉汚れちゃった。
ヒロの胸の中で一時間くらい泣き続けてい た。
「…落ち着いたか?」
「うん……」
顔を上げる。 真っ直ぐ前を見つめているヒロ。
その表情は悔しげで…。
「俺んち行くぞ。このまま帰せねぇから」
「うん…美嘉のいる場所よくわかったね…」
「俺の愛の力かもな!」
フフッと笑うヒロの笑顔の裏に 悲しさが隠れ見える。
わかってるよ。 無理…してるよね。
ヒロは詳しく聞いてはこなかった。 でも何があったか きっとわかってる。
自転車に乗り、 ヒロの家に到着。
「部屋入って待ってて」
「おじゃまします…」
小声で呟き ヒロの部屋にちょこんと座り込んだ。
混乱している頭を抱え、呆然としていると…
「美嘉ちゃん!」 背後から名前を呼ぶ声に体がビクッとし、
恐る恐る 後ろを振り向いた。
「…エリさん」 エリさんとは
ヒロのお姉さんの名前。
ヒロよりも四つ上で、 レディースの番長をしているらしい。
最初会った時はかなり怖かったけれど、 ヒロの家に遊びに来るたび仲良くなって今 じゃ悩みを聞いてもらったり、メールや電 話で連絡をとったりする仲だ。
美嘉にとっても お姉ちゃん的存在。
「びっくりさせてごめんね。弘樹から聞い た。辛かったね。あたしも似たような経験 あるし、女同士のほうが話しやすいよね?」
言葉を返すことが 出来ない。
「あ、無理して話さなくてもいいよ。いつ か話せるようになったら話して?そいつの 特徴とか、車の種類とか。あたしも昔それ
で犯人見つけ出したからさ。美嘉ちゃん傷 つけた犯人、あたしと弘樹で必ず見つけ出 してあげっから!」
エリさんの言葉を信じ、 目をギュッと閉じて PHS を手に取り 詳しく説明をした。
「白いスモークがかったワゴン車に、ナン バーは 183*。四人の男で 10 代か 20 代…一 人は前歯がかけてたような……」
エリさんに傷を手当してもらい、 ヒロに自転車で家まで送ってもらった。
二人の間に会話はない。 でも今ね…
感謝の気持ちでいっぱいなんだ。
どこかもわからない場所を捜しあててくれ て 自転車を投げ捨てて走って抱きしめてくれ た。
ヒロが 安心をくれたんだよ。
ヒロの背中に強くしがみつき、 大好きだと…
実感していた。
家の前に到着し、 ヒロが差し出してくれた手につかまり 自転車から降りる。
「ありがと…じゃあまた明日ね…」 下を向いて帰ろうと背中を向けたその時…
「…待てよ」
美嘉の手を握り 引き止めるヒロ。
終わりを予感させる。
…そんな雰囲気。
もうヒロとは ダメなのかな。 終わりかな。
「…ごめんね」 自然に出た言葉。
ヒロは美嘉の肩を両手でぐいっと掴んだ。
「謝ってんじゃねぇよ。俺美嘉と終わらせ る気ねぇから。こんなことって言ったら言 い方悪いけど、まだ好きな気持ち変わって ないから。これからは俺が美嘉を絶対守る し、今日のことなんて忘れさせてやっから。 犯人捜すから」
涙が溢れた。 今度は嬉し涙だった。 ヒロありがとう。
ただいまも言わず部屋に直行し、 布団に潜り込んだ。
眠れるわけがない。 目を閉じるとあの光景が甦るから。
結局一睡もしないまま
朝を迎えた。
「…いってきます」 転んだと嘘をつき、
目と口の横にバンソウコウを貼り玄関を出 る。
玄関の前には ヒロが立っている。
「え…どうしたの?こんな朝早くに…」
「迎えにきたんだよ!」
「え…なんで??」
「いいから早く乗れ」
ヒロはおでこに軽くキスをすると、 体を持ち上げて
後ろに乗せた。
「掴まってろ!」 ヒロから美嘉の家までは自転車で一時間以
上はかかる距離だ。
ただでさえ学校だから早く起きなきゃなら ないのに…
ヒロ何時に起きたの??
心配してくれたんだ。 優しいね…。
学校へ行くと アヤとユカは顔の傷を見て 目を見開いた。
「どうしたの?!」
声を揃える二人。
「転んだの!!」
「美嘉ドジなんだから、気をつけなよ!」
「は~い♪」 アヤの心配をよそに
明るくふるまう。
ヒロはそれから毎日学校から家までの往復 を送り迎えしてくれた。
少しずつ 心の傷が消えていく…。
あの事件以来、 ヒロは気を使っているのかキスしかしてこ ない。
それも ほっぺやおでこに…。
確かにまだ 少し怖い気持ちはある。
ヒロの優しい気持ちは すごく嬉しいよ。
だけどね… ちょっと寂しい。
いろんな男に回されたから
“美嘉の体は汚い” そう思ってるのかなって不安になるよ。
勇気を出して、
ヒロの家で遊んでいる時聞いてみることに した。
「ねぇ~ヒロはしたいとか思わない の??」
唐突で かつ大胆な質問。
「何を?」
「……エッチ!!」
飲んでいたお茶を 吹き出すヒロ。
「は?いきなり何!」
「…まじめな話だもん」
「…そりゃあしてぇけど美嘉がしたいって 思える日まで待つ」
「したい気持ちはあるんだ。怖いけど…でも ヒロが美嘉の体を汚いと思ってできないの かなぁって不安なの」
ヒロは美嘉の頭を 自分の胸へと引き寄せた
「ばーか!お前俺がそんな男だと思ってた の?」
美嘉をベッドまで運び、体をそっと倒す。
「怖くなったら言えよ?無理すんな。俺が 美嘉の嫌な事全部忘れさせてやるから。傷 消してやるから安心しろ」
二人の唇が近づき、 体がビクッとする。
「大丈夫…俺だから」 ヒロはゆっくり時間をかけて抱いてくれ
た。
そう 初めての時よりも…。
「俺が一生美嘉を守る」 その言葉が
今の美嘉の傷薬なんだ。
あの日の傷みは、 ヒロによって 消されていく…。
夜になり 家まで送ってもらった。
「またねっ!!」
玄関のドアに 手をかける。
「美嘉!」 名前を呼ばれた声で
振り返った。
ヒロは美嘉の唇に軽くキスをすると
「じゃあな!」 と叫び再び自転車に乗って帰って行った。
家に帰り ベッドの上にあるぬいぐるみを握りしめ る。
ヒロありがとう。 美嘉ね…
あの日のこと忘れられそうだよ。
いつの間にかうとうとしていた時…
♪プルルルルル♪ 着信:ヒロ ヒロからの電話で
目が覚めた。
この電話によって 衝撃の事実が判明する。
『あい…』 寝ぼけたまま
電話を取る。
『…犯人見つかった』
『ふぇ…犯人…?』
『お前をレイプした犯人見つかった!』
興奮気味なヒロの声に、ガバッと体を起こ した。
『え…マジで??』
『おぅ、マジ。姉貴と姉貴のダチに協力し てもらって見つかった。美嘉が車のナンバ
ー見たからそれが決め手で!』
『マ…ジかぁ』 犯人が見つかった。
喜んでいいのだろうか。
その時 ある事実を思い出した。
…写真。
『ヒロ…写真とられた!!チクッたらばらま くって言われたよ…』
慌てた美嘉の言葉に、 興奮気味だったヒロは静かになり、 いつもよりさらに低い声で答えた。
『はぁ?マジかよ。マジぶっ殺す。俺が写 真奪ってやるから。明日会えるか?』
『うん…』
『明日朝行くから』
そうして電話は切れた。 犯人
見つかった…。
電話を握りしめたまま、震えが止まらなか った。
一睡もしないまま 朝が来る。
学校をサボり、 迎えに来てくれたヒロの自転車に乗ってヒ ロの家へと向かった。
「おじゃまします…」
「美嘉ちゃんいらっしゃい!」
…エリさんだ。
「犯人見つかったよ。今からそいつらここ に呼ぶけど…大丈夫?やっぱ最低なことを して傷つけられたわけだし、ケジメつけさ せたいから」
何も言わずに 深く頷く美嘉。
これから
…犯人に会うんだ。
犯人に会うの、 本当は少し怖い。
でも反省して欲しい。 二度と同じことを繰り返してはほしくない
から。
ヒロと手を握り合い 部屋でじっと待つ。
「俺がいるから大丈夫」 ヒロは美嘉を安心させるため
何度も優しく声をかけてくれた。
その時… 玄関のドアが開く激しい音と共に、
エリさんとエリさんの友達らしき人の叫ぶよう な声。
「てめぇらタラタラしてんじゃねーよ。早 く謝れよコラァ」
こっちへ向かう足音が 徐々に近付いて来る。
…犯人が来る。 ヒロの手を折れるくらい強く握った。 キイィ
部屋のドアが開き、 ぞろぞろと人が入って来る。
体は一瞬にして硬直… 鳥肌がたつ。
間違いない。
…確かにあの四人。
顔ぶれも、 車の香水とタバコが混ざったきついにおい も…。
あの日の記憶が甦る。 ヒロが手をぎゅっと握り返したことで、
記憶を取り戻した。
「こいつら?」 エリさんの質問に
何度も頷く。
その瞬間ヒロがものすごい剣幕で立ち上が り、
一人の男を睨み胸倉をつかんで叫んだ。
「てめぇが犯人か!てめぇ俺の女って知っ ててやったのか?」
え… ヒロは何言ってるの??
「はぁ?弘樹の知り合い?意味わかんね ぇ。説明してくんねぇ?」
眉間にシワを寄せる エリさん。
「こいつ俺の知り合い」 ヒロは胸元を掴んだ男を強く睨みながら答
えた。
「なんで弘樹の知り合いが美嘉ちゃんをレ イプしたんだよ?」
「俺にもわかんねーよ。てめぇ説明しろや コラ」
胸倉を掴まれている男が怯えた表情で口を 開いた
「咲さんに頼まれた…」
………咲さんに 頼まれた??
「咲って弘樹の元カノだよな?」 エリさんはしかめっつらで問う。
「咲がなんだよ。てめぇ詳しく言えよ」
ヒロの怒鳴り声に 再び男が口を開いた。
「咲さんに“嫌いな女いるからその女レイ プして写真撮ったら金やる”って言われ て…」
この時その言葉を理解することが出来なか った。
ヒロはその男の顔を 拳で強く殴り、 その男は口から血を流し倒れた。
横に並んでいた三人の男が謝る。
「許して下さ…」
「聞こえねぇ」 ヒロはの三人とも壁に押さえ付けて順番に
殴り、無理矢理土下座させて頭を踏みつけ る。
全員が謝り終えるとエリさんは四人の男を 家の外に出した。
「弘樹説明しな」
部屋に戻り ヒロを睨むエリさん。
「でも…ヒロ彼女と別れたんだよね??」 美嘉は苦笑いをしながらヒロの顔を覗き込
んだが
ヒロは何も答えようとはしなかった。
「嘘ついてたのか?」 エリさんの表情は
さらに曇る。
「俺は別れようって言ったんだ…でもあい つが嫌だって言うんだよ。」
うつむくヒロを見つめながら 一つの疑問が頭に浮かんだ。
「美嘉ヒロの元カノに会ったことないよ ね?なんで元カノ美嘉の顔知ってる の??」
顔を上げ美嘉の目を見つめながら答えるヒ ロ。
「実は美嘉と付き合い初めてから一回咲と 会った。っつーか家の前にいたんだ。そん 時美嘉のプリクラくれたら諦めるって言わ れたから一枚やったんだよな…ごめん」
「おめぇ、謝って許される事じゃねーよ」 壁を蹴るエリさん。
ヒロは美嘉に頭を下げた
「ごめんな…」
その時重大なことを思い出し、 美嘉はヒロのそでをつかんだ。
「写真…撮られた写真奪ってない…」 美嘉のそんな姿を見て、エリさんは冷静に答
えた。
「大丈夫。あいつらに聞いたら、フィルム いれてなかったって言ってたから安心し て!」
「咲だっけ?そいつとは縁切りな」
エリさんがイライラした様子で言うと、 ヒロは再び頭を下げた。
「マジでごめんな。俺のせいで…」
「うん…大丈夫」
その日もヒロに自転車で送ってもらい、 家へ帰った。
家へ帰ってから何回も何回も ヒロからメールが届いていた。
《ミカ、ゴメンナ》
美嘉をレイプした犯人はヒロの知り合いだ ったなんて。
しかも 元カノに頼まれて…。
犯人が誰かも判明したし謝ってもらうこと も出来た。
だけど、 スッキリしないのはなぜだろう。
写真は? フィルムは本当に入ってなかったの? だってフラッシュ光ったんだよ…??
ヒロはなんで元カノに会ったことを秘密に してたの??
美嘉がクラスの男と話するだけで 怒るくせに。
なんで美嘉は ヒロの元カノに嫌われてるの??
ねぇ これって本当に解決したのかな。
本当にこのまま終わるのかな…。
ヒロの元カノが男友達に頼んで美嘉をレイ プした
何それ… どうして平気で人を傷つけられるの??
治りかけていた傷が 再び痛み始める。
この傷は きっと…
一生跡が残るだろう。