いつの間にかもう風が冷たい季節。
マフラー無しでは外を歩く気にもなれな い。 バーバリーのマフラーを巻いて学校に行 く。
放課後はヒロと遊び、 家に帰ってすぐに寝る。
全ては順調で何もかもがうまくいってい た。
しかしこの平凡な生活はあっけなく崩れて いく…
日曜日の朝。 今日はヒロが美嘉の家に遊びに来る予定。
♪ピロリン ピロリン♪
セットした目覚まし時計より早く、 メールが届く音で目が覚めた。
眠い目をこすりながら 受信 BOX を開く。
《マダワカレナイノ?》 このメールって…
内容ですぐにわかった。
ヒロの元カノだ。
でも PHS 自体変えたはずなのに なんでまたメール来るの??
ヒロまた会ったの??
昼になり 半信半疑のままヒロが来た。
不安なままでいるのは嫌だ。 ハッキリするために聞いてみよう。
「ヒロたん~…」 ヒロの膝に転がる美嘉。
「甘えてどうした?」
「今日またヒロの元カノからメール来た ぁ~…」
「はぁ?マジで?」
「うん~…ヒロ元カノに会ってないよね ぇ??」
ヒロの様子をうかがうように顔を覗き込 む。
ヒロは全く動揺していない様子。
「バーカ。俺はお前だけだし。しかも毎日 遊んでるんだから会う暇ないしわかるだ ろ!」
この言い方は 信頼性がある。
「…うん。 でもなんで??」
「美嘉の知り合いに俺の元カノと繋がりあ るやつとかいないか?」
「う~~ん…多分いないと思う!!」
「つーか元カノの番号わかる?」
「前の PHS 見たらわかるけど…」
「教えろ!」
昔の PHS の電源を入れ、 しぶしぶ教えた。
ヒロは自分の PHS からどこかに電話をかけ 始める
「誰にかけてるの??」
「内緒」
笑っていたヒロは 急に真面目で話始める。
『あ~俺。おー、弘樹。てめぇ~俺の女に 関わるのやめろや。』
きっと 元カノにかけてるんだ。
『だいたいなんでアドレス知ってんだよ。 あ?俺はてめぇと関わる気はもうねーし、 二度と関わんな』
電話一方的に切るヒロ。
「もうこねぇから安心しろ」
そう言って美嘉の前髪をかき上げ、 おでこに軽いキスをした
その日はもうメールも電話も来なかったけ れど、次の日からまた前のように嫌がらせ は続いた。
ヒロには言わない。 気にしない…。
学校で昼休みお弁当を食べている時
「あ~なんか具合悪い…っ吐きそう~」 突然の吐き気に
トイレへダッシュ。
吐くのは胃を壊して入院した時以来だ。 また胃が変になったかな
最近具合い悪いし…。
その日家での夕飯も、 吐き気のせいで食べることが出来なかっ た。
「病院に行きなさい」 お母さんにそう言われ、次の日の放課後お
父さんに迎えに来てもらい 一緒に総合病院へ行った
受付をし、 一通りの症状を説明して尿検査と血液検査 をする
あとは結果待ち。
なぜか美嘉一人が 診察室へと呼ばれ…
医者は何のためらいもなく、 検査結果の紙を見ながら結果を口にした。
「妊娠してますね」
妊娠…。 頭の中は真っ白。
「保護者の方にお伝えしても大丈夫かな? 保護者の方呼んで下さい」
医者の声が 遠くから聞こえる。
フラフラしながら、 待ち合い室にいるお父さんを診察室に呼び 出した
お父さんは医者の説明を聞いて、 何も言わずに頷いていた
お父さんの顔 怖くて見ることが出来ない。
帰りの車で会話したのはたった一言…
「相手はヒロ君だな?」
「うん…」
「お帰り~ どうだった?」
キッチンから お母さんの声。
まさか妊娠しているなんてこれっぽっちも 思っていないだろう。
だって美嘉も思ってなかったもん。 何も返事をせずに部屋に入り
布団の中に潜り込んだ。
居間ではお父さんの声がかすかに聞こえ る。
お父さんはお母さんに結果… つまり妊娠したことを報告しているのだろ う。
しばらくして話し声が聞こえなくなると同 時に、部屋のドアが静かに開いた。
この夕飯の香り… お母さんだ。
目を閉じて 寝たフリをする。
薄目を開けるとお母さんはベッドの横に座 り、 美嘉の顔を見つめてただ涙を流していた…。
妊娠…。 どうしよう。 図書室でした時
確かに避妊してなかった
お腹にはヒロとの赤ちゃんがいる まだ二人とも 16 歳なんだよ…。
病院へ行った日から食欲がなくなり つわりはひどくなるばかり。
痛いくらいに冷たい風。雪がちらちら降っ て来た
クリスマスが近い。 今はクリスマスより…
でも一人で悩むことじゃないよね。 ヒロにも言うべきことだよね。
ヒロはなんて言うかな?喜んでくれるか な??
それとも…。
具合いの悪さを我慢して学校へ行く。
学校じゃ話す気にはなれなかったので、 放課後ヒロを学校の近くにあるファミレス に誘った。
ずっと休んでいたので会うのは久しぶりだ から、ヒロはとても嬉しそう。
本当はね、 美嘉もヒロに会えてすごく嬉しいよ。
でもね、 これから言うことを考えると不安で喜べな い…。
「美嘉サラダしか食わねぇのか?ニンジン 残して~それだからいつまでたってもチビ なんだぞ!」
不安な心とは裏腹に、 ヒロはとても楽しそう。
「…話あるんだぁ」
「話?なんの話?別れ話なら聞かねぇぞ!」
「別れ話じゃないよ…」
「まぁ別れようって言われても嫌だって言 うけどな!」
「まじめな話だから…」 ヒロはいつもと違う雰囲気を察したのか、
真顔になり美嘉の目をじっと見つめた。
「どうした?」 水を一口飲み込み、
話し始める。 妊娠の事実を…
「具合悪くて病院に行ったの。そしたら…で きてた」
「え?」
「赤ちゃん…」 ヒロの表情を見ると答えがわかってしまう
気がして顔を見るのが怖い。
ヒロは何も言わずに立ち上がり、 店の外に出て行ってしまった。
正直… 妊娠してると言われてかなり驚いた。
だけどね、 すごく嬉しかったんだ。
美嘉はヒロの事が 好きだから…。
ヒロとの赤ちゃん、 産みたいと思ったの。
でも ヒロは違ったのかな??
二人ともまだ 16 歳だし、結婚できる年でも ない。
働いてるわけでもないから産んで養えるわ けでもない。
そんな状況の中で、 赤ちゃん産むのは困難かもしれないね。
ヒロにとって“妊娠”は重い事実で、 これからもっと遊びたいのかもしれない し…。
不安は どんどん増すばかり。
下を向いて考えていると人の気配がしたの で顔を上げた。
「ヒロ…?」 ヒロは息切れをしながら袋から赤いキーホ
ルダーみたいな物を取り出し、美嘉に差し 出した。
「何…?」 よく見たら、
クリスマス時期によく売っている小さくて 赤いブーツに飴やチョコなどのお菓子が入 っているやつだ。
「美嘉おめでとう!俺らの子産もう。産も うっつーか産んでくれ。俺学校やめて働く し、ぜってぇ二人幸せにすっから!」
思いがけない言葉。 ヒロがとびきりの笑顔で赤ちゃん産んでほ
しいって、 そう言ってくれた…。
「産んでいいの…??」 不安げな美嘉。
ヒロは目を輝かせながら答える。
「あたりめーだ!頑張って二人で育てよう ぜ!」
心に決めた。 赤ちゃん産むよ。
…産んでって言ってくれてありがとう。 ヒロの事大好き!!
ヒロと産む決心をしてから三日後… 向かう先はヒロの家。 今日はヒロの親に妊娠の報告をする予定
だ。
そして産むことも…。
最初にエリさんの部屋に行き全てを報告す る。
「おめでと!あたしもついに叔母か~あた しに2番目に抱かせてね♪」
エリさんは とても喜んでくれた。
その時、 出掛けていたヒロの両親が帰宅。
二人は 緊張しながら居間へ…。
「おじゃましてまぁす」
「あら美嘉ちゃん こんにちは!」
挨拶を笑顔で返してくれたヒロのお母さ ん。
ヒロは美嘉をソファーに座らせ、 自分は立ち上がりながら話し始める。
「親父達に話あんだわ。嬉しい話。な、美 嘉!」
美嘉も その場で立ち上がる。
「…はい!!」
「なんと美嘉が妊娠しましたー!美嘉の腹 に俺の赤ちゃんがいま~す!」
お腹を撫でるヒロ。
居間は、 沈黙になった。
一瞬時間が止まる。
ヒロは沈黙をかき消そうとするかのように 口を開いた。
「俺達産むことに決めたから!」 目を見開く
ヒロのお母さん。
「産むったって育てられるの?」
「俺学校やめて働くし」 自信満々なヒロ。
「美嘉ちゃんはどう思ってるの?」
ヒロのお母さんからの問いにキッパリと答 えた。
「もちろん産みたいです!!」
今まで黙っていたヒロのお父さんが 腕を組みながら口を開く
「弘樹と美嘉ちゃんが二人でそう決めたの だからわしは何も言わない。弘樹、美嘉ち ゃんを幸せにする自信はあるのか?」
「もちろん!美嘉も赤ちゃんも必ず幸せに する」
即答し、 親の前にも関わらずにガバッと抱き付くヒ ロ。
ヒロの両親はそんな二人の姿を見て少し呆 れたように笑った。
「頑張りなさい」 お父さんが見せた笑顔はヒロにとても似て
いる。
「美嘉ちゃん体冷えたら困るから、帰りマ フラー貸すからしていきなさいよ!」
お母さんはしていたマフラーを貸してくれ た。
目を合わせてニンマリと笑い声を揃える二 人。
「「明日は美嘉の親に報告だ~!」」
しかし… 次の日の放課後
足早に美嘉の家へ向かう
美嘉の親は妊娠を知っているから、 後は産むことの承諾をもらわなければなら ない。
「おじゃまします!」 妊娠発覚以来、
ヒロが家に来るのは今日が初だ。 しかし全く緊張していない様子のヒロ。
家の中は 気まずい雰囲気。
居間のドアをそっと開くと、 お父さんがソファーに座っている。
「お父さんヒロが…」
「居間に 連れてきなさい」
ヒロの手を握り 居間へ案内する。
「こんばんは」 お父さんを前にさすがのヒロも緊張してい
る。
「座りなさい。」 二人は手を離し
腰をおろした
重い空気。
「このたびは…美嘉さんの妊娠が赤ちゃん で産む話しを…」
しどろもどろなヒロ。 美嘉はその言葉を遮って強めの口調で言っ た。
「赤ちゃん 産みたいの!!」
瞬ギョッとした顔を見せたお父さん。 すぐ顔を戻し冷静な態度で話し始めた。
「産むって言っても簡単なことじゃない。 二人はまだ学生だし産む費用はどうする? 育てられるのか?」
「学校やめて働きます。幸せにします。お 願いします…」
ヒロは突然立ち上がり 頭を下げた。
お父さんは黙り続け、 それ以上言葉を発することはなかった。
肩を落とし、 二人はため息をつきながら部屋へと戻る。
「とりあえず今日は帰るな」
「ごめんね…」
「俺はぜってぇ諦めねーよ。赤ちゃん産ま せてみせる。美嘉もそれぐらいの決意ある よな?」
「…うん!!」
「じゃあな!」
ヒロは一旦玄関のドアを開けたが 何かを思い出したように足を止め戻って来 る。
「どしたの??」
「忘れ物した」 玄関の回りを見渡すヒロ
親がいないのを確認して美嘉の頭の後ろに 手を回し顔を引き寄せ 唇にキスをして帰って行った。
次の日 つわりが悪化。
学校を休もうと思いヒロにメールを送る。
《グアイワルイヨォ↓》
《ガッコウヤスムネ!》 結局返事は
来なかった。
それから三日間 学校を休んだ。
体重は 4 ㎏減…。 痩せた理由は
つわりで食欲がなかったせいもある。
それともう一つ。
もう四日も ヒロからの連絡がない。
メールをしても返事は来ないし、 電話をしても留守番電話ばかり。
赤ちゃん産むこと反対されたから 呆れられちゃったのかな…。
夜中の二時。
いつもなら 寝ている時間。
居間から聞こえる話し声で目が覚めた。 お父さんとお母さん
こんな夜中に 何話してるの??
そっと 居間のドアを開く。
!?!? ヒロがいる。
夢…?
ほっぺをつねってみた。痛い。 夢じゃない。
明るい茶髪も黒く染められていて、 いつも耳にたくさんつけているシルバーピ アスは一つもない。
だけどあの後ろ姿は… ヒロだ。
なんでこんな夜中 にヒロがいるの?
ヒロは正座をして
お父さんとお母さんに向かって頭を下げて いる。
「お願いします」 三人の会話に
そっと耳をすませた。
「反対だ。」 厳しい顔で答える
お父さん。
「必ず幸せにします。産んで欲しいんです」
「毎日来ても、反対の気持ちは変わらない」
「本気です。頑張って働くのでお願いしま す…」
お母さんが頭を下げるヒロを見て 困った顔をしている。
お父さんは変わらず 厳しい表情。
「今美嘉に学校やめさせるわけにはいかな い。弘樹君の親もそうだろう」
「明日もあさってもいいって言われるまで 俺は毎日ここに来ます」
走って部屋に戻り、 ベッドに飛び込んだ。
ヒロは… ヒロは毎日家に来て赤ちゃんを産むことを お父さんとお母さんに頼んでくれてたん だ。
だから連絡する暇なかったの??
人に頭下げるのが大嫌いなヒロが、 ピアスをはずして髪も黒くして… お願いしてた。
寝ながらお腹に両手を当てて 強く強く誓う。
「絶対ヒロとの赤ちゃん産んでみせるよ…」
しばらくたって、 玄関からドアが開く音が聞こえた。
「おじゃましました」 ヒロが
家を出たみたい。
窓の外には、 ヒロの後ろ姿が見える。
「…ヒロー!!」 窓を開けて大声で叫ぶとヒロは振り返り手
を振りながら窓のほうに向かって走ってき た。
「調子大丈夫か?連絡できなくてごめん な」
白い息を吐きながら 心配するヒロ。
「髪染めたの??」 ヒロの黒髪に
手を伸ばす。
「あぁ~イメチェン。似合うか?」
「似合うよ!ヒロ、なんでここにいる の??」
本当は知っている。 だけどわざと知らないフリをしてみた。
「この近くにダチいるから。今そいつと遊 んでた…偶然だな」
ヒロの嘘つき。 全部知ってるんだから…
外に出て 今すぐヒロを抱きしめてあげたいよ。
ヒロは美嘉が寂しくないようにとずっと窓 ごしで話をしてくれた。
ヒロの頭の上に 雪が積もり始める…。
「頭に雪積もってるよ~!!」
「いい男がだいなしだ~なんてな」
ねぇヒロ 気付いてる?
今すごく悲しい顔して 笑ってるよ…。
「お前ほっぺ赤いぞ。体冷やすなよ?」
「ヒロのほうが赤いよっ!!」 ヒロのほっぺに
そっと両手を当てた。
「お前の手あったけぇ」
ヒロは美嘉の両手を取り手の平をじっと見 つめている。
「…どうしたの??」
「ちっちぇ~手だな。俺の手の半分くらい じゃねぇ?こんなちっちぇ~手で母親にな れるんだからすげぇよな。美嘉ならいい母 親になれるな!」
そう言ったヒロの顔が なぜかすごく大人びて見えた。
今まで 見たことのない表情。
これから美嘉はお母さんになり、 ヒロはお父さんになるんだね。
次の日の朝、 学校から電話があった。
これ以上休むと 単位がやばいらしい。
しばらく休むつもりだったのに… しぶしぶ学校へ向かう。 玄関で靴を履きかえ
目をこすりながら教室に入る。
「おっは♪」
…アヤだ。
「おはよ~グルト♪♪」
…ノゾムも一緒か。
そういえばノゾムとアヤは付き合ってたんだ。 いろいろありすぎて
忘れてた。
遊び人のノゾムだけど アヤとは続いているみたい
喧嘩はよくしてるけど、なんだかんだで仲 良し。
この二人は妊娠のことなど知るはずもな い…。
「美嘉~具合大丈夫?」
「風邪でずっと休んでたみたいだもんな。 ヒロも学校来てなかったぞ!」
二人に心配をかけないために、 カバンを振り回しながら答える美嘉。
「もう風邪治ったし元気だよ~ん!!」
「それなら良かったぁ~♪もーすぐクリス マスだね!美嘉予定は?!」
アヤの問いに忘れかけていたクリスマスが近 いことを思い出した。
「どうせあれだろ、ヒロとラブラブだ ろ~!」
ニヤニヤしながら 冷やかすノゾム。
アヤは美嘉の返事を待たずに話し続ける。
「プレゼント買った?」
「えっ、まだ何も…」
「やっぱヒロとラブラブかよ~ちきしょう め~」
「あんたにはあたしがいるでしょ!」
アヤはノゾムに 蹴りをいれた。
「痛ぇ~俺泣いちゃうよ!?」
「マジキモいし(笑)勝手に泣いてろ!」 泣きマネをするノゾムにアヤはチョップをし
二人は夫婦漫才をしながらラブラブで去っ て行った。
なんだったんだろう…。 のろけかい!!
クリスマスプレゼント…考えてなかったな ぁ。
ぼーっと考えている時、背後から声をかけ られた
「美~嘉♪何ボ~っとしてんの!?」 ユカだ。
考え事をしていただけに普段より驚いてし まう。
「あっ、ユカ!!今ね、クリスマスについて考 えてたの!!」
「クリスマス?あ~、もうちょっとだもん ね♪彼氏いないユカには無縁だわぁ(笑)何か あった?」
「クリスマスプレゼントどうしようかなっ て思ってたの!!」
「ヒロ君にあげるの?…う~ん、美嘉今日 暇?街に出て探さない?」
「えっ、いいの??」
「困った時はお互い様だよ♪ユカ暇人だし ね!」
「ユカちんありがと♪マジで大好きっっ!!」
ユカのナイスな提案。 放課後、
美嘉とユカは列車に乗り街へ向かった。
街はイルミネーションが宝石みたいにキラ キラしていて、 たくさんのカップルが幸せそうにしてい る。
二人は
小物 shop に入った。
「ユカこれどうかな??」
「ちょっと派手かも!?でもカワイイ~♪」 店内に鳴り響くクリスマスソングに負けな
いくらいの大声で騒いでいた。
ユカも一生懸命 探してくれている。
「ちょっと来てぇ!」
ユカに呼ばれて行った場所は香水売り場。
「香水はどう?ヒロ君を美嘉の香りに染め ちゃえ♪」
「それいいかもっ!!」 たくさんある種類の中から香水を選ぶ。
「ねーねー、これどうかな??」
“人気 NO.1”と書かれている香水を手に取 り、
ユカに見せた。
「NO.1 より美嘉がヒロ君に似合うと思っ た香りを選んであげたほうが喜ぶと思う な!」
「…うん、ヒロに似合うの選ぶ!!」
一時間ほど選んだ結果、“スカルプチャー” と言う名前の、 ほんのり甘くて男らしい香りの香水を買っ た。
これが一番 ヒロに似合う香りだと思ったんだ!!
プレゼントも無事買えたし、 一安心しながらユカとご飯でも食べようと外 を歩いていた時だった。
「あれ…ヒロ君じゃない?」
「えっ、どこ!?」 ユカの指さした方向を見る
まさにヒロだ。
知らない女の人と 話している。
何か もめている感じ…。
ヒロのマフラーを強引に引っ張る女。 その女を睨むヒロ。
「何あれ!美嘉ヒロ君のとこに行きなよ! ほら行こう!?」
歩き出すユカの腕を掴み 引き止めた。
「大丈夫、ヒロのこと信じてるから…」
夜遅いのもあり、 心配してくれていたユカとはそのまま別れ た。
帰り道… ヒロが女の子と話していた映像が幾度とな く頭に浮かぶ。
大丈夫。 信じてるから…。
家に帰り すぐにヒロにメールを送信した。
♪ピポッ♪
送信 12 月 21 日 20:58
《イマナニシテル》
♪ピロリピロリ♪
受信 12 月 21 日 21:05
《イマイエツイタ♪》
♪ピポッ♪
送信 12 月 21 日 21:11
《ユカトマチイッタ》
♪ピロリピロリ♪
受信 12 月 21 日 21:15
《オレモ♪ナカマ!》
♪ピポッ♪
送信 12 月 21 日 21:58
《ウン、ナカマ☆》
しばらくして P メールではなく
P メール DX というロングメールが届いた。
♪ピロリピロリ♪
DX 受信 12 月 21 日 22:38
《俺ショウと街行って偶然元カノに会った。話 かけんなつったらあいつキレて美嘉に会いに 行くとか言い出した。口だけだろーけどこ れからは俺の近くにいろ!》
良かった。 聞く前に答えてくれた。
偶然元カノに会ったんだ……………………!?
元カノ!?
あれは 元カノだったの!?
しかも会いに来るって 本当に口だけ?
散々嫌がらせされてたんだもん。 口だけには思えないよ…
街で見掛けた時 声かけなくて正解だったよね。
かけてたらかなり修羅場になってた…。
次の日、 親に内緒で保険証をこっそり持ち出し、 ヒロと待ち合わせをして病院に行った。
前に一度行った総合病院の産婦人科で受付 を済ませ待合室で待つ。
「記入お願いします」 一枚の紙を差し出す看護士。
【妊娠中の方 来院した理由に○をつけて下さい。
①出産する
②中絶する】
ペンを持ちながら、 一瞬ためらう。
両親の顔が 頭に浮かんだから…。
「もちろん①だろ!」
ヒロはためらう美嘉からペンを奪い、
①に丸をつけた。
「…うん!!」 紙を提出し
診察室へと呼ばれた。
「産むのかな?」 医者からの問いに
真っ直ぐ前を見て答える
その表情に迷いはない。
「産みます!!」
「では頑張って元気な赤ちゃんを産みまし ょうね!」
個室に連れて行かれ、 パンツを脱ぎ変な形のイスに座る。
腰から下はカーテンで区切られ、 向こう側は見えない。
カーテンの向こうから 医者の声が聞こえた。
「ちょっと冷たいかもしれないけど我慢し てくださいね。」
ひやっとした器具が、 子宮らへんまで入っていくのがわかる。
…痛い。
「近くにあるモニターを見て下さい」
痛みをこらえ 医者に言われた通りモニターを見た。
…赤ちゃん? ちっちゃくて色がハッキリしてないけど、
指の形や頭の形が なんとなくわかる。
「お腹のあたりに何か繋がってるのが見え るかな?」
繋がってるの…? これかな?
「…なんとなく」
「それがへその緒。そこで繋がって赤ちゃ んは栄養をとってるんだよ!」
へその緒。 美嘉と赤ちゃんはここで繋がってるんだ。
少し動いている赤ちゃんはとてもかわいか った。
診察が終わりお会計を済ませヒロのもとへ 走る。
「お疲れ!」
「ヒロ聞いてぇ!赤ちゃん見たの!ちっち ゃくってかわいかったの!!へその緒で繋が ってたんだよ!!」
「マジかよ!俺も見たかった~。男?女?」
「まだわからない!!」
「女の子でも男の子でもいいな。三人で手 繋いで歩きてぇ!」
「ヒロ気が早いから~!!」 美嘉のお腹に顔を当てるヒロ。
「お~い。パパですよ~聞こえるかぁ~?」
周囲からの痛い視線。 でもそんなことは気にしない。
「ママですよ~ぉ!!わかりますかぁ??」 二人は目を合わせて
笑い合った。
「バーカバーカ!ヒロの親バカ~♪」
「お前もな!」
赤ちゃん、 早く産まれて欲しいな。
二人の赤ちゃん…。 絶対かわいいね。
その日 手を繋いで帰った。
━12 月 23 日 明日から冬休みだしクリスマス近いしでテ
ンションは最高潮♪
終業式で先生とケンカになり職員室に呼び 出されたヒロを
一人教室で待っていた。
その時…
♪プルルルルル♪
電話だ。 しかも非通知。
『もしも~し』
『もしも~し、俺。』 俺?
ヒロかなぁ。
『ヒロ??』 相手は平然と答える。
『おー、ヒロ』
『なんで非通知??』
『先生に電話取られた。今終わったから体 育館の裏で待ってるから』
ガチャ プープープー
一方的に 切られた。
なんでわざわざ 電話して来るの?
しかも非通知。
なんで 体育館の裏??
しかもあの声は ヒロじゃない。
明らかに様子が おかしい。
しかしうかれてしまっていたのかその変な 様子に気付くことが出来ず、 ただ電話の相手をヒロだと信じ 学校を出て体育館の裏へ走った。
体育館の裏には 誰もいない。
ヒロの PHS に電話をかけてみたけど、 着信音が鳴るばかりで出る気配がない。
…自分から 呼び出したくせに。
学校に戻りヒロの靴があるかどうかを確認 しようと歩き出したその時…
ガサッッッ 体育館の裏にある大きい木の陰から、
女一人と男一人が出て来て道をふさいだ。
男の方は美嘉と同じ学校の制服を来てい て、
見たことのある顔。 話したことはないけど、確か隣のクラス…。
女のほうは違う学校の制服を着ている。 顔はどこか見たことがある。 どこだったかな…
あっ!!確かこの間街でヒロと話してた人… ヒロの元カノ?
ヒロの元カノだ!!
騙された。 あの電話はヒロじゃなかったんだ。
そんな事を思っても、 もう手遅れ…。
ヒロの元カノの咲は こっちに近づいて来た。
咲は背が高くかなりのギャルで迫力があ る。
150 ㎝もない美嘉は、 迫力負けしそう…。
「美嘉ちゃ~ん。やっと会えたね。あんた ヒロとべったりだから~呼び出すの大変だ ったよ。まぁこいつが情報くれてたからこ うやって会えたんだけど~(笑)」
咲は隣にいる男を 指さす。
同じ学校にヒロの元カノと繋がってる人が いて、元カノはその人をスパイにしてたん だ…。
だから PHS を変えてもメールが来たり、 美嘉が教室に一人でいたこともわかったん だ。
勇気を振り絞り 冷静を装った。
「何か用?」 美嘉の顔を
きつく睨む咲。
「はぁ~?何か用?じゃね~よ。早くヒロ と別れろブス!」
「嫌だ。絶対別れないから!!」
美嘉も負けじと 睨み返す。
「嫌じゃねーよ。てめぇみたいな奴ヒロに は合わねぇんだよ」
わかってるよ…。 でもヒロが好きだから、別れたくないの。 今美嘉のお腹にはヒロとの赤ちゃんがいる んだ。
映画のワンシーンのような信じられない現 実に
立ち尽くした。
溢れる涙をこらえ、 上を向く。
ちらちらと降る雪が 痛いくらい目にしみる。
こんなやつらの前で 泣くもんか…。
咲の隣にいた男が、 ポケットから何かを取り出しヒラヒラして いる。
…写真だ。
ハッキリとは見えないけどわかる。 レイプされた時に撮られた写真。 やっぱり、
あの時フィルムは入っていた…。
取り返さなくちゃ。 男に駆け寄り写真を奪おうと試みたが、
男は写真を咲に手渡した
今度は咲のほうに駆け寄り必死に奪ばおう としたが、 背の高い咲が写真を高くあげているために 届くはずもない。
咲はそんな美嘉の姿を 見下しながら笑っている
写真をばらまかれるのが嫌なんじゃない。 その写真を見たら、
ヒロが傷つくから…。
ヒロの悲しい顔は 見たくないの。
どうにかして写真を奪おうと諦めなかっ た。
その時…
「てめぇいいかげんしつけ~んだよ!」 ドンッッ
美嘉の肩を強く押す咲。 その拍子に氷の上にしりもちをつき
体育館の壁に頭を打った
腰がズキーンと痛む。
「咲ちょっとやりすぎ」 男が言う。
「こんくらい余裕だから~」
咲は写真をヒラヒラしながら男のほうを向 き、 油断したのか写真を持つたほうの手を降ろ した。
今なら… 奪える。
一瞬の隙をみて立ち上がり、 咲から写真を奪い校門へ向かって走った
後を追い掛けてくる二人 写真を握ったまま、
必死で逃げる美嘉。
校門の手前で追い付かれてしまい、 二人に周りを囲まれた。
「写真返せよ。マジばらまくぞ?フィルム だってあんだからな」
咲は覆いかぶさるようにして握っている写 真を掴む。
美嘉は写真をグシャグシャに握りしめて離 さなかった。
校門に向かって走ったのは理由がある。 職員室の窓からは、
校門がちょうど見える。
今ヒロは 職員室にいるはず。
もしかしたらこの状況に気付いてくれるか も…
そんなちっぽけな望みを託した。
しかし 校門の手前で追いつかれてしまったから
ギリギリ職員室から見えないかもしれな い…。
ヒロ助けて!! 写真はもうボロボロになっていたが
それでも離さなかった。
「あんたがいなきゃヒロはあたしのもんだ ったんだよ!」
咲の言葉… 今まで黙っていた美嘉もさすがに耐えられ ず
言い返す。
「ヒロは物じゃないよ!!ヒロの事が好きな ら卑怯な手ばっか使わないで正々堂々勝負 しなよ!ヒロを好きな気持ちは負けない し!」
その瞬間、 写真を掴んでいた咲の手がパッと離れた。
おそるおそる顔をあげる なぜかおびえた顔をしている咲。
咲と一緒にいた男も、 青ざめた顔をして走って逃げて行ってしま った。
背後から近づく足音。 後ろをゆっくり振り向く
ヒロだ! ヒロが来た!!
職員室から見えたのか、教室にいない美嘉 を探しに来たのかはわからない
制服のポケットに手を入れ、 鋭い目付きで歩いてくるヒロ。
咲は震えながらも ヒロから目が離せない様子。
「てめぇこんなところで何やってんだ?」 ヒロは咲の胸倉を掴む。
咲の制服のリボンが取れて地面に落ちた。
「こないだ言ったよな?美嘉になんかした らブッ殺すってよ」
そう言ってヒロは美嘉を守るように 後ろから抱きしめた。
美嘉が持っていたボロボロの写真に気付い てしまったみたいで、 手から写真を奪おうとしている。
「やだっ、だめ!!」 写真を取られないようにさらに強く握りし
めた。
ヒロは突然キスをし、 あまりにいきなりで力の抜けた美嘉の手か ら写真を奪うと、 その写真をじっと見つめていた。
見られた…。 写真を見たヒロは持っていたカバンを地面
に投げつけ、 その場で写真をビリビリと破りものすごい 剣幕で咲に殴りかかった。
美嘉は間に入り込み、 いっぱいいっぱいの力でヒロに抱き付いて 止める
「だめ!!職員室から見えるんだよ?ヒロま た停学になっちゃうよ??」
ヒロは少し落ち着きを取り戻したのか、 地面に落ちたびりびりの写真を蹴り、 カバンを拾い上げた。