「学校出ようぜ。咲、てめぇもついて来い」 ヒロは美嘉の肩に手を回したまま歩き出し
た。
咲は素直に 後ろからちょこちょことついて来ている。
学校を出て 近くの空き地に集まる。
「てめぇ美嘉に何やったんだよ」
「…別にぃ」
「美嘉、なんかされたか?」
肩押されてシリモチついた事は、 心配かけるから言わないほうがいいよね…。
「いや、大丈夫だよ…」
「美嘉に謝れや」 ヒロは持ってたかばんを咲に投げつけた。
「ごめん…でも…」
「でもなんだよ?」
「はぁ?俺はてめぇなんかもう好きじゃね
ーよ。二度と関わるなっつっただろ」
泣き出す咲。
「ヒロ…美嘉は大丈夫…」
「…ごめん」
咲は ひたすら謝り続ける。
さっきまですごい迫力で突っ掛かって来て たのに…
今体を小さくして 謝っている。
恋の力って すごいなぁ…。
こんな状況の中で 少し感心していた。
「そー言えばてめぇ写真のネガどうし た?」
「…家にある」
「それ焼けよ?バラまいたらどうなるかわ かってんだろ」
「…わかった」
「本当はブッ殺してぇけど美嘉が許すって 言ってっからやめとく。俺は一生許さねぇ けどな」
「…はい」
「あたしまだヒロの事好きで…」
「わかったらどっか行け。二度と俺らに関 わるなよ」
ヒロが冷たく言い放つと咲はとぼとぼと帰 って行った。
ちょっと可哀相にさえ思えてしまう。 でも…
美嘉も たくさん傷つけられたよ
一生消えない傷を つけられた。
放心状態のまま咲が帰って行く姿を見つめ ていた
「美嘉?大丈夫か?」 ヒロに呼ばれる声で
ハッと目覚める。
「ん?うん大丈夫!!」
「俺のせいでごめん…」
「謝らないでよっ。さっきのヒロかっこ良 かったよ!!ヒロって美嘉がピンチになった らいつも助けてくれるね。スーパーマンみ たいだね!!これからも助けてね!!」
「まかせろ。ってかマジでカワイイし。そ んなカワイイ事言うなって!」
ヒロは美嘉の頭をくしゃくしゃと撫でて、 ぎゅっと抱きしめた。
「…お前もカッコ良かったぞ!」
「へ??何が?」
「ヒロを好きな気持ちは負けない~ってや つ」
「え~っ!!聞こえてたの!?」
「ちょうど見つけた時だったから~聞こえ た!」
「や~もう恥ずかしいし!!最悪!!」 ヒロの胸からパッと離れて背を向ける美
嘉。
ヒロは美嘉の手を引っ張り自分の巻いてい たマフラーの片方を美嘉の首に巻いて耳元 でささやいた
「いや、マジで嬉しかったから。ふざけた ように言ったけど、すげぇ嬉しかった。あ りがとな」
恥ずかしい。 でもすごい嬉しかった。
でも強がりな美嘉はなかなか素直になれな い…。
「ふ~んだ!!なんかお腹痛いし疲れちゃっ た。今日は帰ろうかなっ」
ヒロは何も答えない。 話をそらしたから、
怒っちゃったかな?
「…ヒロ??」 ヒロの顔を覗き込むと、ヒロは真面目な顔
で言った。
「かけおちしねぇ?」
「えっ?かけおち!?冗談でしょ?」 首を横に振るヒロ。
本気のようだ。
「かかかかけおち~!?!?」
「おぅ!」
「かけおちってあのドラマとかでやってる 不倫してる人達がやるやつ????」
動揺を隠せない。 だってかけおちって…。
「それ。かけおちって言い方はおおげさか もしんねぇけどな」
「冗談やめてよ!!!」
「冗談じゃねぇよ。俺本気だから。美嘉の 両親は子供産むの反対じゃん?でもやっぱ り産んでもらいてぇからさ」
「で…でもどこに?お金ないよ??」
「どうすっかな。じゃあとりあえずノゾムん ち?」
ノゾムんちかい!! 心の中で
軽く突っ込みを入れた。
「だってそんないきなり行っても大丈夫な のっ?ノゾムんちだって親とかいるしょ!!」
「あいつんち親共働きだから多分大丈夫だ わ」
「離れたら、美嘉の両親も考え直してくれ るかもしれねぇしな。俺はぶっちゃけ美嘉 といたいんだけどな!あ、ちょっと待って ろ。」
ヒロはポケットから PHS を取り出し、 誰かに電話をかけ始めた
『おぅ。今何してんの?あ、マジかよ。近 いうちお前んち行っていい?もちろん美嘉 と!かけおち!』
内容から察するに、 電話の相手はノゾムだ。
ヒロは一分もしないうちに電話を切った。
「ノゾムはいつでも Ok だって!どうする?」
「とりあえず制服はまずくないっ??用意 なんもしてないし…」
「今日は帰るか?明日の朝迎えに行くか ら!体冷やすなよ」
ヒロは自分のマフラーを美嘉にぐるぐると 巻き付け唇にキスをした。
「足りな~い!!」 わざといじけたフリをしその場に座り込ん
で下を向く。
「わがまま娘~赤ちゃんに笑われんぞ!仕 方ねぇな~」
ヒロも座り込み、 下から顔を覗き込んだ。
ヒロと目が合う。 でもヒロはなかなかキスをしてくれない…。
「えっ…じゃあ行っちゃう~??」
「チュゥしてくんないの??」
「しようと思ったけど、や~めた!明日ま で楽しみにとって置くわ」
ヒロは美嘉の唇に指をなぞらせ、 両手を引いて体を起こす
「ヒロのケチ~!!い~だ!!もう帰るもん!」
「怒るなガキ!明日たくさんしようぜ~ま た明日な!」
用意をするため、 この日は早い時間に家へ帰った。
かけおちと言うか プチ家出と言うか…
服や化粧品をできるだけカバンにつめる。 親とは会話をせず、
今日起こった映画のような出来事を思い出 しながら眠りについた。
まだ朝日が昇らないうちに起き、 親に置き手紙を書いた。
【お父さんお母さん。美嘉はしばらく帰り ません。心配しないで下さい】
そっと居間のテーブルに置き、 お腹の調子が悪かったので薬箱から正露薬 を取り出して、 昨日ヒロから借りたマフラーを巻き音をた てないよう家を出た。
は白い息を吐き出しながら小さいカバンを 一つ持って玄関の前に立っているヒロ。
「メリクリー♪」
「いや、まだ今日はイブだから!でかい荷 物持ちやがって~」
ヒロは美嘉の持っていた大きな荷物を左手 でひょいと持ち上げる。
「重いからいいよぉ~…!!」
「うるせ~って!お前は俺の手握ってれば それでいんだよ」
そして右手で美嘉の手を取りコートのポケ ットの中に強引に入れ、 二人でゆっくり歩きながらノゾムの家へと向 かった
♪ピンポーン♪
到着。
「勝手にどうぞー♪」 インターホンから聞こえるノゾムの声。 勝手に入りノゾムの部屋のドアを開けた時…
「美嘉ぁ~ヒロ君~おはよ~♪」 アヤがベッドの上で
くつろいでいる。
「えっアヤ?!なんでこんな朝早くにノゾムの 部屋にいるの??!しかもくつろいでる し!!」
「今日から冬休みだし昨日からお泊り♪二 人でかけおちしたんだって?なんかあった のぉ?」
実は今妊娠していて、 美嘉の両親に産むことを反対されてるから 家出した…
なんて言えるはずがない
ヒロは困っていた美嘉を押し退け、 口を開いた。
「俺が美嘉を奪って来たんだわ。美嘉とず っと一緒にいたいからな!」
「ヒロ君やるねぇ♪」 冷やかしたような顔でヒロの背中を叩くア
ヤ。
暇だったので、 四人で近くのゲームセンターへ行くことに した。
「ね~四人でプリクラ撮らない?」 アヤの提案に
美嘉のテンションが上がる。
「いいねぇ!!」 四人で機械に入り何回か撮影をし、
プリクラは完成。
「プリクラ出て来た~♪わけよう!!」 出来立てのプリクラを
アヤに手渡した。
「俺に一枚くれ!今 PHS の裏に貼るから!」 ノゾムがアヤの手からプリクラを一枚奪う。
「美嘉も貼る~!!」
「じゃああたしもぉ♪」
「ヒロも貼れよ!」
ノゾムがヒロにすすめる。
「俺はいい。恥ずかしいし!」
「え~ヒロ貼らないの??ガーン」 おそろいになると思ったのに。
残念。
そして夜…。 近くのスーパーでクリスマスケーキや夕
飯、シャンパンやワイン、クラッカーなど を買いノゾムの家に帰った。
「みなさんの幸せを祈って乾杯~!」 ノゾムの乾杯の音頭で四人のクリスマスイブ
パーティーは始まる。
ヒロとノゾムとアヤは お酒を飲んでいる。 まだ未成年なのに!!
なぜか美嘉だけは ワインに似せたグレープジュース…。
お酒が苦手なせいもある それともう一つ。
「酒は飲むな。お前は今一人の体じゃない んだから」
さっきヒロが耳元でこう呟いたからだ。
酔ったのか、 目の前でイチャつくアヤとノゾム。
「ひざ枕~」 まるで二人に勝負でもするかのようにヒロ
は甘えた表情で美嘉のひざにコロンと横に なった。
「ヒロ~よしよし♪」 ヒロのやわらかい髪を
そっと撫でる。
いつもなら子供扱いすると怒られるけれど 今日は酔っているのか子供みたいに甘えて くるヒロがとても愛しい…。
ヒロは嬉しそうに、 ひざ枕で寝ていた。
その時…
「じゃじゃ~ん♪実はノゾム君にプレゼント がありまーす♪」
アヤは突然立ち上がり カバンから可愛くラッピングされたプレゼ ントを取り出しノゾムに渡した。
「お~サンキュ♪わりぃ俺なんも買ってね ぇや」
両手を顔の前につけて 謝るノゾム。
「ありえない~」
「そのかわり、俺のキッスをプレゼントす っから~♪」
「最低~キモい!いらない!」 ラブラブな二人を横目に美嘉もカバンから
プレゼントを取り出した。
膝枕でうとうとしているヒロに小さい声で 呟く。
「美嘉もヒロにプレゼントあるんだよ っ!!」
「…………マジで!?」 ヒロは目をこすりながらがばっと起き上が
った。
「うん、本当だよ。はいこれ!!」
プレゼントを手渡す。 ヒロはそのプレゼントを受け取り、
とびきりの笑顔を見せた
「たいした物じゃないけど…」 ヒロは申し訳なさそうに言う美嘉のほっぺ
を、 指でつまむ。
「何言ってんだよ。美嘉から貰えたら例え ゴミでも嬉しいから!」
プレゼント買って 良かった!!
するとヒロはカバンからピンク色の小さな 袋を取り出し、 美嘉に向かって差し出している。
「…ん??」
「俺もある。美嘉に」 え!?ヒロが美嘉に??信じられないし!!
「あ…りがと…」
あまりにびっくりしすぎて、 言葉がつまってしまう。
「ヒロ君優しぃ~♪それに比べてノゾムは…」 アヤが羨ましそうに見ている。
「近々買ってやっから。許せ!」
「も~しょうがない」 なんだかんだで
この二人はうまくいっているみたい…。
「開けていいか!?」 ヒロの問いに人指し指と親指で丸を作る美
嘉。
ガサガサ ヒロがラッピングをあけている… 喜んでくれるかなぁ…?
「香水?マジで嬉しい!さっそくつけてい いか?!」
「うん、いい…」 最後まで言い終わらないうちに、
ヒロは香水をシュッと手首にかけた。
「あらぁ?なんかいい香りがする♪美嘉か らのプレゼント?」
アヤが香水の香りに気付く
「おぅ!」
「なんかヒロ君っぽい香りだね♪」
そう言われたヒロは本当にとても嬉しそう で、
美嘉もアヤの言葉がとても嬉しかった。
「ありがとな!」 ヒロは香水を大事そうに握りながら
満面の笑みを浮かべている。
「お~っと。アツアツだな!火傷しそう」 ちゃかすノゾム。
「うるせ~から!」 ヒロはちょっと照れた感じで、
ノゾムに蹴りをいれた。
「俺この香水毎日つけるわ。ありがとな。 美嘉、俺のも開けてみて!」
ヒロから貰った小さなピンクの袋を サンタクロースからプレゼントを貰った子 供のように開ける。
…中身はからっぽ。
「なんもないよ??」 袋を覗きながら不思議そうに言うと、
ヒロは美嘉の目に手の平をあてた。
「ちょっと目つぶれ」 ヒロに言われた通りに
目をつぶる。
左手に 何か違和感を感じる。
「あ~美嘉いいなぁ。うらやましい♪」 近くで聞こえるアヤの声。
「目~開けてみ?」
耳元で聞こえるヒロの声に体をビクッとさ せながら、
おそるおそる目を開けた
「…ぇええぇえ!?」 思わず叫び声を
発してしまった。
左手の薬指には、 キラリと光るシルバーの指輪。
自分の左手を顔の横に出しているヒロ。 ヒロの左手薬指にも、
同じ指輪がキラリ。
「ペアリングだから!」 ヒロは自慢げに
そう言って笑った。
…言葉が出ない。 これが感動ってやつ??
「どうした?嬉しくなかったか?袋に入れ なくてごめんな。びっくりさせたかったん だ!」
美嘉はヒロに飛び付き、ヒロはその勢いで じゅうたんの上に背中をついて倒れた。
「嬉しいよぉ~ヒロ~ふぇ~ん…」
「ヒロ君泣~かした♪」 アヤがヒロを指さす。
「よしよし。泣くな!」
「さぁ~ハッピーエンドだしまた飲む ぞ~!」
ノゾムの一声で 美嘉以外の三人は再び飲み始めた。
でも美嘉はまた一人 仲間はずれのグレープジュース…。
まぁ、 別にいいけどね。
今は何より薬指の指輪が元気をくれるし!! 酔いは最高潮になりアヤとノゾムはノリノリで
テレビゲームを始め、 美嘉とヒロは部屋の隅っこでイチャイチャ していた。
美嘉の肩に手を回すヒロが甘えた声で呟 く。
「なぁなぁちょっと外いかねぇー?」 ジュースしか飲んでいない美嘉も、
お酒のにおいや雰囲気でほろ酔い気味だ。
「ん~いいよぉ!!外行こっ♪」 ゲームに夢中のアヤとノゾムを置いて、
こっそり部屋を抜け出し外へ…。
外は大粒の雪が ちらちらと降っている。
その雪が街灯に照らされ結晶の形が見えて とてもロマンチック。
「うぅ~寒いね~…」
「ほら、風邪ひくぞ。お母さん!」 ヒロは美嘉の
首にぐるぐるとマフラーを巻きつけた。
「ありがとっ♪」 テンションがあがり、
降ったばかりの雪の上をぴょんぴょん飛び 跳ねた巻いてもらったマフラーがポトッと 雪の上に落ちる。
ヒロは落ちたマフラーを拾い 雪をほろった。
そして再びマフラーを巻いてくれ、 両手で美嘉の髪をわざとボサボサにしなが らニカッと微笑んだ。
「お前は~本当世話のやける子だ。ほっぺ 赤いし!そこがまたカワイイんだけどな」
雪は止むことなく 降り続ける。
二人の鼻はトナカイのように真っ赤だ。
「12 時過ぎたから、メリクリだね!!」
「だな!体冷やしたらいけないのに外に出 させてごめんな」
「平気!!なんかあったの?酔ったの??」
「渡してぇ物あって…」 渡したい物??
プレゼントはさっきもらったし。
「あいつらのいる前じゃ渡せねぇから。こ れ…」
そう言ってポケットから何かを取り出す。
「…手袋?」 ヒロがポケットから取り出したのは
黄色い毛糸の手袋だ。
それもすごくちっちゃいサイズの…
「産まれてくる赤ちゃんに買ったんだ。ま だ女の子か男の子かわからないから黄色に した」
その手袋を受け取り、 ぎゅっと握りしめた。
赤ちゃん聞いた?? あなたのパパはね
あなたが産まれて来るのを待ち望んでるん だよ…
小さい手袋を見て、 赤ちゃんの小ささを実感した。
そして、 病院のモニターにうつっていた赤ちゃんの 姿を思い出した。
あんなに小さい口で、 一生懸命呼吸している。
あんな細いへその緒で、一生懸命栄養を摂 っている。
あんなに小さい体で、 一生懸命生きている。
今お腹の中で、 必死に生きてるんだ。
愛する人との… 大切な赤ちゃん。
大好きなヒロとの 赤ちゃん。
絶対に産んでみせる。 幸せにしてみせる。
ヒロありがとう。 今日この日のことは、 一生忘れないから…。
大粒の雪が目の中に降り落ちて、 涙のように流れ出た。
二人は手を繋いだまま ノゾムの家へ戻った。
さっきまで騒がしかった二人はいつの間に かもう静かになり ベッドの上でイチャイチャしている。
ベッドから毛布を奪い 美嘉とヒロは部屋の隅で冷えた体を温め合 った。
アヤとノゾムは もう二人の世界。
美嘉とヒロの姿は 見えていないだろう。
最初は見て見ぬフリをしていたが その行為はだんだんエスカレートする。
微かにもれる アヤの声。
友達のそんな声を聞くのはなんとも言えな い気持ちだ。
ヒロは毛布を体にガバッとかけ、
あぐらをかいている自分の膝の上に美嘉の 頭を乗せた。
きっとアヤの声に耳を塞ぎたい美嘉の気持ち に気付いたのだろう。
下から見るヒロは なぜかいつもより数倍かっこよく見える。
ヒロのほっぺに両手をあて自分の唇にヒロ の顔を寄せた。
しかし唇は軽く触れる程度しかあたらな い。
美嘉の頭の下にそっと手を入れて、 頭をゆっくり持ち上げさっきより少し強め に唇を重ねるヒロ。
ヒロのキスは 大好き。
キスをしながら 優しく頭を撫でてくれるから。
………たくさんの 愛を感じる。
いつもは口が悪いし すぐ怒るし 意地悪ばかりする。
だけど… どうしてこんなに優しいキスするのかな。 きっと
心が優しいからだね。
触れる唇があまりに温かくて 涙が出そうになる。
この幸せが いつまでも いつまでも 続きますように。
今はただただ そう願うだけ…………。
唇がそっと離れる。
美嘉の体を起こし きつく抱きしめるヒロ。
その体は 心なしか震えている。
「ヒロ………どうしたの??」 ヒロは体を離し
目線を地面へとずらしながら答えた。
「……なんかわかんねぇけど、俺緊張して る。かんかかっこわりぃな」
ヒロの言葉は 美嘉の胸の奥を 熱くした。
それと同時に 愛しさが 込み上げてくる。
「美嘉も……………ドキドキしてるよ。」
美嘉のお腹を じっと見つめるヒロ。
「赤ちゃんがここにいるんだな。なんかま だ信じられねぇよ」
「うん…………」
「嬉しくて最近寝れねぇーんだ。常に赤ち ゃんの名前考えたり顔想像したりしてる し」
「ぷぷっ…バーカ」
「俺おかしいかな?」
「………美嘉も、美嘉も同じだよ。だから変 じゃないよ!!」
二人は目を合わせて 照れくさそうな顔で 微笑んだ。
赤ちゃん 聞こえますか。
二人の声は 届いていますか。
先のことを考えると 少しも不安がないわけじゃない。
だけどこの小さな命を 絶対に守り抜きたいと思った。
何があっても 絶対に守り抜きたいと思ったんだ。
手を握り合う二人。 まだ幼さの残る手。
たった 16 才の 小さなパパとママ。
まだ子供だと言われても 頼りないと言われても
それでも愛は誰よりも誰よりも大きい。
……大きい。
“赤ちゃんはパパとママを自分で選ぶ” こんな言葉をどこかで聞いたことがある。
赤ちゃん。
パパとママに 美嘉とヒロを選んでくれて本当にありがと
う。
固い決意と永遠を誓って 二人は強く握り合った手を離さなかった。 手を繋いだまま
床に転がり毛布に潜り込む。
目を閉じて 二人の赤ちゃんを 想像してみた。
あ~…… きっと
可愛いだろうなぁ。
美嘉に似たら わがままになるかも。
ヒロに似たら ヤキモチ焼きになっちゃうかもね。
大好きな人との赤ちゃんだから、 大切な宝物だよ。
「美嘉」 名前を呼ぶと同時に美嘉の体を抱き寄せる
ヒロ。
「………ん??」 目を開くと
そこにはヒロの柔らかい笑顔があった。
その笑顔が妙に安心をくれたのを覚えてい る。
「美嘉と赤ちゃんはへその緒で繋がって て、俺と美嘉は今こうして繋がってる。 今俺と美嘉と赤ちゃん、三人で一つなんだ な…」
毛布の中で響く ヒロの声。
「うん、今三人で一つだねっ…」
…ヒロって何でこんなに温かいんだろ。
「疲れたろ。寝ろ」
「ありが……と」 最高なクリスマスイブ。
明日もきっと最高なクリスマスになる。
ヒロの胸にうずまりながら眠りについた。
「美嘉ぁ~美嘉ぁ~?」 誰かに起こされる声で
目覚めた。
「起きてぇ~!」 この高い声はアヤだ。
「…アヤ起きてたの??」
「酔い冷めちゃったし目も覚めたぁ。って かあたし達酔ってここでHしちゃったみた い!ごめ~ん…」
「あ全然気にしないでいいからっ!!」
「あ~テンションあがって来た♪寝たし~
♪」
少し寝て元気になったアヤはノゾムとヒロを叩 き起こしている。
「ほらまた飲むよ~♪」
「…うるせーな。げっ、まだ3時じゃね~か」 少し機嫌が悪いノゾム。
「ヒロ君も♪」
「あ~頭いてぇ」 アヤはノロノロしてる二人を強引に起こし
た。
「ほら美嘉もぉ!また飲むよ~♪」 具合悪い…。
お腹痛いし吐きそう。 つわりかも…。
「ごめん、美嘉ちょっと調子悪いから少し 寝てもいい??」
「あら!それは無理しないで寝なさ~い♪」 持って来た正露薬を近くにあったお茶で飲
み、 横になる。
「大丈夫か?」 心配そうに顔を覗き込むヒロ。
「うん、大丈夫。多分つわり!!」
ヒロは美嘉に毛布をかけ頭をポンッと叩き いなくなった。
横になった時、 背中で固い物を踏んだ。
「……痛ぁ」 踏んでしまったのは
ヒロの PHS。
背中で強く踏んでしまったせいで、 裏のフタが取れてしまっている。
急いで直そうと思い、
PHS と裏フタを持ち上げた時… 気付いてしまった。
PHS 裏フタには、 昼間四人で撮ったプリクラが貼ってある。
貼ろうって言ったら、 恥ずかしいから嫌だって言ったじゃん!! バレないようにフタの裏に貼ったの?? 本当は貼りたかったの?
素直じゃないんだから…
自然と笑いが込み上げて来て、 毛布で口を覆いながら声を出して笑った。
「何笑ってんだ?早く寝ろよ!チビ!」 笑い声が聞こえてしまったのか、
ヒロが遠くから叫んでいる。
今なら何言われても 全然怖くない。
ヒロ~ 愛しい…。
しばらく横になっていたけど なかなか寝付けなかった
三人はまた飲み始めたのか盛り上がってい る。
起き上がるのが面倒で、そのまま寝たふり をしていた。
うるさいくらいに騒いでいた大声は突然静 まり、
アヤがひそひそと話す声が聞こえる。
「ヒロ君、ぶっちゃけ話しようょ♪」 美嘉には
丸聞こえだ。
「お~いいけど」
「俺もまぜろよ!」 ヒロとノゾムも
ひそひそと話している。
「ヒロ君はー美嘉のどんなところが好きで すかぁ?!」
微妙な質問を投げ掛けるアヤ。
その答えが聞きたくて、息を止めて耳をす ませた
「そんなの、もったいなくて言えねーなー」
「え~いいじゃん♪教えてぇ~♪」
「こいつ入学した時から美嘉狙いだったん だぜ」
話に割り込むノゾム。
「マジで~!?」
「ノゾム、てめぇ…」
「痛ぇ!すまんすまん」 姿は見えないけど、
おそらくヒロがノゾムに蹴りをいれたのだろ う…。
「ヒロ君浮気したことないの?」
「ねぇよ。俺意外と一途だから!」
「昔はひどかったけどな今は美嘉命だ ろ?」
「あたりめぇ~だろ」 ノゾムの問いに
ヒロは大きめの声で答えた。
「美嘉を幸せにしてあげてね♪泣かしたら 許さないから!ってか結婚するの?」
「する!お前らも仲良くな。ってか近いう ちびっくりする報告あっから。俺も学校や めるしー」
「学校やめんの?なんでだよ!俺寂しいわ」
「まだ言わねぇ。でもいい話だから楽しみ にな」
こんな会話を聞きながら眠りについた。 カーテンの隙間から漏れる眩しい光で目が
覚めた
今何時…?? その時
唇に何かが近づいて来る気配を感じた。
唇が軽く触れ合う。 ヒロ…?? 何度も何度も
キスをしてくる。
軽いキス。
「う~ん…」 隣で
声が聞こえた。
今の声はヒロの声。 なんで??
だって今ヒロは美嘉にキスしてるから、 声なんて聞こえるはずないし…
じゃあ美嘉は今誰とキスしてるの?? そっと薄目を開ける。
…ノゾム?? 確かにノゾムだ。
なんでノゾムが美嘉にキスしてるの? 酔ってアヤと勘違いしてるのかな??
頭の中は大パニック。 この状況を
誰かに見られたらまずい
寝返りをうつフリをして唇を離し横を向い た。
やはり横では ヒロが寝息をたてて寝ている。
ノゾムはそのままベッドに戻り、 再び眠りについたみたいだった。
美嘉とアヤを
勘違いしただけだよね…
いつの間にか眠りにつき起きた時はすでに 昼。
「おっはぁ♪」 化粧は落ち
つけまつげはずれて大変な状態のアヤ。
「おは…うわっ、お前マジやばいって!妖 怪…」
ノゾムがアヤの顔を見て 後ずさりした。
「うっさいからぁ!」
「嘘~♪」 アヤとノゾムは起きたばかりだと言うのに元気
だ。
やっぱり仲良し…。 そんな二人を見て
思ったことはただ一つ。
昨日のキスは、 間違いだね。
ノゾムはアヤと美嘉を間違えたんだ。 ノゾム覚えてないみたいだし忘れよう…。
「おはよー美嘉」 背後から挨拶をするヒロ
なんとなく罪悪感…。
「おはよっ。あ、ヒロ寝癖すごいよぉ~!!」
「うるせーよ!」 ヒロは後ろから腕を回し首をしめてきた。
「ギブギブ!!ごめんちゃ~い!!」
幸せの絶頂期だった。 ずっとこの幸せが続けばいいな。
そう思っていたのに…。
「………お腹…痛い…」 突然襲った強い腹痛で、美嘉はその場に倒
れ込んだ。
「えっ!?大丈夫?」 美嘉のそばに座り、
大声をあげるアヤ。
「お腹…痛い………」
「ノゾム、車出せるか?」 ヒロは美嘉を抱きかかえながら冷静に言
う。
「無免許でいいなら親父の車出すから」 ノゾムは部屋のドアを勢いよく開け、
車の鍵をとりに階段を駆け降りた。
ヒロに抱きかかえられたまま、 遠くなっていく意識の中車に運ばれた。
ノゾムは不慣れた手つきでエンジンをかけ 車を動かす。
助手席に乗っているアヤが振り向いた。
「もうすぐ着くから頑張って!」 ヒロは横になってる美嘉のお腹をさすり、
手を力強く握る。
「美嘉、大丈夫だから。病院行ったらすぐ 治るからな。心配すんな」
「…うん…」
「何科の病院?!」 ノゾムの問いにアヤは興奮状態で答える。
「腹痛は~内科!」 ヒロは繋いだ手をさらに強く握り
静かに呟いた。
「…産婦人科」 車内は
一瞬沈黙になる。
アヤが再び振り返り 小声で問う。
「美嘉…もしかして妊娠してるの?」 ゆっくり頷くヒロ。
「ばかぁ~なんで言ってくれなかった の!?相談のったのに…あたし誰にも言った りしないよ…」
アヤは 泣き出してしまった。
「俺、絶対誰にも言わねぇから。すぐそこ の産婦人科に車止めっから」
ノゾムは近くの産婦人科に車をとめ、 美嘉はヒロに抱きかかえられたまま病院に 運ばれた。
しかし保険証がない…。家に置いたままだ。 アヤは美嘉の親に電話をかけ、
状況と病院の場所を細かく伝えている。
緊迫した空気の中 繋いだ手は次第に汗ばんでゆく…。
しばら経ち お母さんが息切れをしながら病院にやって きた。
「心配したんだよ…」
ポツリと呟き、 保険証を持って受付をする。
受付を済ませると、 すぐに診察室へと呼ばれた。
「美嘉、大丈夫だから。頑張れな。」
「うん、いってくる…」 握り合って汗ばんでいた二人の手は、
いともあっさり離されてしまった。
妊娠をしているということ。 産みたいということ。 腹痛があるということ。 女の医者に事細かに説明する。
医者に診察台に連れて行かれ、
前に一度やったことがあるようパンツを脱 ぎ、 腰から下にカーテンがかけられている診察 台に足を乗せた。
冷たい器具が、 子宮に入っていく。
痛い… 痛いよ…。
診察台の横にはまたモニターがあり、 じっとそのモニターを見つめていた。
見えた。 赤ちゃん。
前も見た、 赤ちゃん。
見えたよ。 相変わらず
ちっちゃいね。
ポケットに入ったままの昨日ヒロからもら った黄色い毛糸の手袋を取り出し、 両手で握りしめた。
でも、 でもね…
気付いてしまったんだ。
ちっちゃい手も 足も
頭も
動いていないことを…。 診察を終え、
診察室へと戻る。
イスに座り、
とてつもなく不安な気持ちのまま医者の言 葉を待た。
どうか、 どうか悪い結果ではありませんように…。
医者は 静かに話し始める。
「残念ですが… 流産です。」
「……え」 視界がぼやけて
見えた。
医者は続ける。
「赤ちゃんは、2~3 日前に亡くなっていま す。2~3 日前に誰かに殴られたとか、転ん だとかなかったかな?」
2~3 日前… もしかしてヒロの元カノが学校に来て、
それで写真の取り合いになって
肩をおされた。 しりもちをついた。
…その時?
医者はお母さんを診察室に呼び出し 流産を告げた。
流産…流産て何? どういう意味?
赤ちゃんどうなったの?わからないよ…
その日のうちに緊急入院をすることになっ た。
今日はクリスマス。 街はキラキラしたイルミネーションの中
カップルでにぎわっている。
美嘉も今頃 ヒロと楽しく過ごしているはずだった。
それなのに 流産? 緊急入院?? 何が起きたか
よくわからない。
診察室を出て ヒロ達から見えない場所にあるイスにもた れかかった。
しばらくして看護士に呼ばれ、 階段で二階に上がり奥のほうの病室に案内 された
パジャマのような服に着替えさせられ、
5 つあるうちの1番窓側のベッドに横にな る。
「何かあればボタン押して下さいね!」 病室から出て行こうとする看護士を引き止
める。
「……流産って何ですか??」
看護士は悲しげな表情で流産について説明 をしてくれた。
「胎児が子宮内で死んでしまって妊娠が継 続できなくなることです…」
胎児が 子宮内で 死ぬ…??
赤ちゃん、 死んじゃったの??
だってつい最近まで 生きてたよ??
へその緒から栄養を摂って、 小さい指が動いていたんだよ…??