饭饭TXT > 海外名作 > 《欢迎来到茶花馆(日文版)》作者:[日]未知【完结】 > 欢迎来到茶花馆.txt

文章简介

作者:日-未知 当前章节:15412 字 更新时间:2026-6-23 02:26

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附:【本作品来自互联网,本人不做任何负责】内容版权归作者所有!

僕の名前は吉沢晶(よしざわ あきら)。

普通に貧乏大学生をしていた……。

極めて普通に貧乏大学生をやって、大学生活を終えるはずだったんだ。

そう、はずだったという過去形。

何処をどう間違ったんだろう?

今、僕は偉そうにふんぞり返る1人の少年の靴を磨いているのだ。

母子家庭の僕は母さんに無理を言って、大学へ通わせてもらう事になった。

一人っ子だけど、母さんの負担を増やすわけには行かなかったから、学費は奨学金で、生活はバイトをして、お金について家に迷惑をかけないと言う条件を僕から提示した。

暫くの間は4畳半に申し訳程度の水道と電気コンロのある部屋で下宿。

最近は下宿って流行らないらしくって格安で借りれるのは下宿ぐらいだったから。

それでもやっぱり、人の家の二階。

気を使うし、友達は呼べないし、自由に風呂にも入れない。

クーラーだって無いから夏は地獄。

引越しを決めて1年、やっと、口うるさいおばさんの居る安い下宿生活から解放されて、コツコツ貯めたお金で一人暮らしのワンルームを借りることが出来た引越しの日、僕はとある家の前を通ったんだ。

夏の暑い日で、ミンミンと蝉がうるさく鳴いていた。

肩まであるごつごつした石垣の上に、椿の垣根があって、どの時期になっても葉が散ることはなく、屋敷自体を見ることは出来ない。

見ることが出来たのは古い門の向こうに見える小さな玄関だけ。

敷地はとても広い。

このあたりの6軒分の区画を1軒で持っている感じで、聞いたところによると昔この辺の地主だったらしい。

人を拒絶するかのような、何処か圧迫感のあるその垣根は周りの家に比べてなんだか異様に思えて、僕のワンルームへの通り道であるここを通るたびにチラリと視線を走らせていた。

暑く一際蝉の煩かった夏が終わり、あっという間に秋が過ぎて冬が来た。

1人暮らしを謳歌していた時、僕に不幸が訪れる。

今まで散々、色々あって不幸だったと思っていたけれど、まさか自分の住処を無くす事になるとは思ってもいなかった。

不動産屋がボロだったんだ。

小僧だってナメられたのかもしれない。

格安で借りる事のできた古いそのアパートは、取り壊しが決まって、僕は追い出される事になってしまった。

乱暴に僕の玄関のドアを叩いた男の人は一言。

「2週間以内に転居するように」

ありえない……。

ただでさえお金の無い僕に引越しはおろか、新居になるだろう場所の敷金も礼金も用意できるわけ無い。

とはいえ、住む場所が無いのは食べられないも同じ事。お金を作る為に殆どの家財道具も売ったけれど、結局手元に残ったのは数万円。

貯金が無いわけじゃないし、そりゃギリでどうにか……って思ってみたけど、月々の家賃が邪魔をする。

学校に行って、それ以外の時間をバイトに当てたとしても日々の食費、光熱費などを考えれば僕が支払える家賃は本当に少なくて、そんな場所なんて大学の近くには無かった。

下宿に逆戻りか……と以前の下宿場所を尋ねてみたが、僕が出て行った時に下宿をやめたのだという。

踏んだり蹴ったりだ。

頼れる人も居ない僕は溜息をついて1週間を過ごし、絶望のまま更に1週間を過ごした。

そして約束の2週間後。

泣いて頼めば何とか期限を引き延ばせるかもしれない……そう思った僕もまだまだ甘い。

泣いて頼もうが何しようが、約束通り、僕はものの見事に追い出されてしまった。

少なくなったとりあえずの僕の荷物と一緒に放り出されたのは昼過ぎで、僕はその場で2つの風呂敷包みと一緒に呆然と暫く過ごす。

気が付いた時には既に夕日があたりを紅く染めていて、カラスの鳴き声と一緒に僕も溜息をついたのだった。

寒い冬。

スッカリ暗くなって街灯だけが明るい道を歩きながら今後の事を考える。

友人の家に行くことも考えたが、滞在できたとしても1週間以内が限度だろう。

「そんな迷惑かけられないよな…」

とはいえ、冬の夜は冷える。

できれば春が良かった。それなら多少の野宿も苦にならなかっただろうから。

いつの間にか降って来た雨は深夜に近づくと雪に変っていた。

「さ、寒い……」

一度大学へ戻ったが既に大学の門は固く閉ざされていて中に入ることはできず、習慣なのか結局アパートへの道を歩いている。

ふと目に入ったのはあの大きなお屋敷の椿の垣根。

「……全く世の中不公平だ。不運には不幸が降り注いでいるのに……」

チラリと目をやった屋敷の木製の門はとても大きな屋根がついていて、家の門には到底見えない。

「今まで椿の垣根ばっかりに目が行ってて気づかなかったけど、こんなに立派だったのか……」

石垣分の石段を登り、門のすぐ下に来てみれば、大きな屋根が雪を遮ってくれた。

外にいるのは変わらないし、空気は冷え切っているけれど、雪が体につかないと言うだけで何だか少しだけ寒く感じなくなったような気がする。

「……今日は、ココで休ませて貰おう」

ズルズルと門の柱にもたれ掛かってお尻を地面につければ冷やりとして、お尻から寒さが上がってくるようでクッと縮み上がった。

「い、石ってこんなに冷たかったっけ……えっと……何か敷く物」

キョロキョロと周りを見渡せばゴミ置き場にダンボールが積み重なっている。

「そっか、明日は資源ゴミの日だっけ」

その場に風呂敷包みを置いて、ゴミ置き場へ。

ガサガサと厚手のダンボールを選んで束ねている紐を無理やり外して拝借し、門の屋根の下にダンボールを敷き詰めた。

風呂敷の中から厚手のトレーナーを取り出して4枚ほど重ね着し、敷き詰めたダンボールに横になると更に上に布団をかけるかのようにダンボールを被る。

「……なんか泣けてくるな」

自然と目からこぼれる涙がとっても温かいな~と思って、俺は疲れきってそのまま眠ってしまった

フワフワの雲の上、干したての布団のように柔らかくて温かなものに身を沈める僕。

それが夢だと言う事は頭のどこかで思っていても、その暖かさに沈んでいきたいと思ってしまう。

(あぁ…気持ちイイ…このまま目が覚めなくても良いかも)

夢だと分っている分、そう思ったりもしたけれど、次の瞬間、僕の耳に「んふぅ~」という僕ではない息が聞こえ、同時に温かい風を感じて、僕は眠りの世界から意識を浮上させはじめた。

意識がハッキリしていくほどに自分の体が本当に暖かく、ふんわりしたものに包まれているのが良く分る。

(……ダンボールってこんなに温かくて柔らかいものなのか?)

そんな事を思いながら意識を覚醒させると、僕を包んでいるものがダンボールではない事に気がついた。

(……ち、違う。コレはダンボールじゃない!)

それが何か分かった時、僕はその場で飛び起きる。

「な、な、なんじゃこりゃ~!!」

僕の今の気持ち全てをその叫びに注ぎ込み、その声が部屋中に響いた時、僕を抱きしめていたその温かいものが目を覚ました。

「……ぅん、煩い……」

半分ほど瞼を開けた瞳で僕の方をにらみ付けたその人はゆっくりと上体を起こし、頭をかいてファっと欠伸をする。

ぴったりしたボクサーパンツを穿いている男は明らかにそれだけを身にまとっていて、当の僕はといえば……全裸。

ヒィっとベッドの端まで尻で後ずさり、布団を手に取って握り締め、自分の胸に手をあて、布団で自分の体を隠した。

状況が分らない。

確か僕は雪がちらつく屋外で、冷たく固い石の上でダンボールに包まれて寝たはず。

な?の?に!

僕のワンルームのアパートの部屋よりずっと広い部屋、カーテンのようなものが垂れ下がっている何だか普通より広いベッドの隅っこに今、僕はいる。

そして、僕の目の前には全裸に近い筋肉質でバランスの取れた細身の体、少しオールバックが崩れかかった黒髪の知らない男の人が1人。

目をまん丸に見開いてみても、光景は変わらず、明らかに夢では無い現実の光景に僕の口は勝手に喋った。

「ど、どうなって……こうなって?」

無意識の内に手に持って前だけを隠す形になっていた布団を体に巻いて、オロオロする僕。

どうして屋内にいるのか?

どうして布団の上に居て、知らない人がそばにいるのか?

何よりも、どうして僕は全裸なのか?

疑問は疑問を呼んで、僕の頭の中がクエスチョンマークで満たされようとした時、不機嫌そうだった男の人がチラリと視線を僕の足に向けた。

「え?な、何?」

その視線に首を傾げれば、男の人は自分のほうに投げ出されている僕の足首を掴んで、四つん這いになり、僕に近づく。

「ひ、ひぃい!」

思わず出た叫び声に目の前の男の人はムッと僕を睨みつけた。

「人を化け物みたいに……」

そう呟いた男の人は僕の足をグイッと引っ張り、僕はバランスを崩してゴロンとその場に仰向けに転がる。

「わっ!」

突然の事に小さく叫んで一瞬目を閉じた僕が、再び目を開いてみれば、ベッドの上で仰向けになった僕の体を布団ごと両手両足で挟み込むようにして男の人は僕の体の上にいた。

「な、何を……」

誰なのかもわからない、何をされるのかも分らない、しかも、どうかんがえても何だか怪しい体勢。

僕は怖くてグッと瞼を閉じた。

鼻の辺りにバラの香りがして、僕の額にコツンと何かが当たる。

「ふむ、熱は無いようだな。華奢な割に丈夫なようだ」

瞼を開けてみれば僕の顔の数センチ前に男の顔があった。

「わっ、わわわ……」

パクパクと口を動かし僕の口からでた慌てた声に、男の人はフーと溜息を1つついて鋭い瞳を僕に向け聞く。

「名前は?」

「な、なま、なま」

「生じゃない!名前だ。ったく、トロイな……名無しなのか?」

「う、うぐ……よ、吉沢晶(初対面なのにトロイって言わなくったって)」

「吉沢か、OK。俺は四ノ宮 慶(しのみや けい)だ」

「し、四ノ宮……さん」

「そう、四ノ宮だ」

なんだか偉そうに自分の名前を言った四ノ宮さんは仰向けに寝たままの僕の背中に腕をいれ、グイッと抱き起こして、そのまま何故か僕を自分の胸の中に抱っこした。

モコモコの布団ごと抱っこされている僕は動く事ができずになされるままになる。

「あの……どうして抱っこなんでしょう?」

「あ?なんだ?文句あるのか?」

「いえ、文句は……ないです」

「ならいいだろう」

(……この人って、自分主義者なのか?)

なんだか分らないがとにかく偉そうな四ノ宮さん。

何かと言うとキラリと瞳の端が光って、一重瞼の切れ長な目は睨みつけるように僕を見るから僕はそれ以上何も言う事が出来ない。

「あ、えっと、四ノ宮さん。ココは一体?」

「ココは神宮路(じんぐうじ)邸。通称椿館だ」

「椿?……あ!もしかして」

「そう、お前はこの屋敷の入口に転がってて揚羽(あげは)様が中に運んで介抱するように私に命じられ、私はずっとお前を介抱していたんだぞ」

フーと瞳を伏せて言う四ノ宮さん。

どうやら僕は寒さ対策をして寝たつもりだったが雪の降る夜、浅知恵の寒さ対策が功を奏することはなく、死にかけだったらしい。

未だ僕を抱きしめている四ノ宮さんにちょっとドキドキしてしまっている僕が居て、僕は四ノ宮さんの胸に腕を突っ張って少し体を放し、ペコリとお辞儀をする。

「あ、ありがとうございます」

「ん?」

「し、死にかけを助けていただいてありがとうございます」

「あぁ、そう言う事か。ま、礼を言うなら俺じゃなく揚羽様だ」

「で、でも、方法はどうであれ、介抱してくれたのは四ノ宮さんですし」

僕がそういうと四ノ宮さんの眉がピクリと動いた。

「方法はどうであれだって?お前ね~本当に自分がどういう状況だったか分ってるのか?氷よりも冷たくなってたんだぞ?それを温めるのは人肌が一番なんだよ」

(そ、そうなのだろうか?)

僕は四ノ宮さんのなんだか自分勝手な理屈にハハッと乾いた笑いを返し、それを見て、四ノ宮さんはジッと僕を見て言う。

「それにな、俺も男だからな。女の子を抱くのは嫌いじゃない」

四ノ宮さんの言葉に僕は目を見開いて彼を見た。

「ど、どうしてそれを!」

驚いて言う僕に四ノ宮さんは半分呆れたような視線を向けて溜息をつく。

「どうしてって。一晩中全裸のお前を抱いてやってたんだぞ?あるべきものがソコに無ければどんなに胸が無かろうとそれは女だ」

ウッと四ノ宮さんの言葉に息を詰まらせ僕は俯く。

そう、僕は僕って言ってるけど性別は女。

ただ、普通の人と違うのは僕は僕って言ってるだけの女じゃなくって戸籍上は男だということ。

役所の手違いで僕の性別は世間では「男」と言う事になった。

でも、両方の機能を備えているフタナリと言うわけではなく、その逆、胸も無いけど男の象徴もなかった。

男の象徴が無いと言う事を見ればきっと僕は女何だろうと思う。

だから、本当なら申請を出して、どんなに手続きが面倒でも「女」に戻すのがいいんだろう。

でも、幸か不幸か僕はどんな年頃になっても胸が膨らむ事は無かった。

ただ、身長が少し低くて、喉仏が小さく、声が高め。

それに、不思議な事に僕には月経がこなかった。本当にただ男の象徴が無いだけの存在なんだ。

それだけだから、男だと言っても誰も疑わなかったし、僕自身男だと思ってきた。

思おうとしたと言った方が近いかな?胸も無ければ月経も無く、かといって男の象徴があるわけでもない、それは僕にはとても中途半端な存在だと物語るようで、どちらかに心を決めておかなければ自分が壊れてしまいそうな気がしたから。

母さんだって、女かもしれないって思ってるけど、僕の気持ちを尊重してくれて今では僕を男として扱ってくれる。

しかし、勿論脱がされてしまえばあるべきイチモツが無いんだからすぐにおかしいってばれてしまう。

今までそれにだけ最大限の注意を払っていたのに、まさかこんな形で家族以外の人にばれるなんて……。

ちらりと四ノ宮さんを見て僕は聞く。

「あの……この事、誰かに?」

「いや、今は私だけだ。私はお前を介抱して、今、目が覚めたんだから当然だろう?」

「じゃ、じゃぁ!この事は誰にも言わないで下さい!」

僕の必死さにちょっと四ノ宮さんはビックリしていた。

ずっと男として生活してきた僕にとって、今更女として振舞えといわれても無理な事。

何より、ばれたら大学もどうなるか分らないし、色々面倒が増えるだけ。

「……女だってのは嫌なのか?」

僕をジットリとした目で見ながら言う四ノ宮さんにタジタジ答える。

「イヤだとかそういうのじゃないんですけど……。僕は女としても不完全で」

「?。まな板よりも胸がぺったんこだからか?」

「そ、そういう意味じゃなくって!本当に僕は、アレが無いだけで、やっぱり男なんです」

四ノ宮さんに聞かれても、女がいやとか、男が良いとかそういう感じではなくって、色々面倒って言うのが頭をもたげるのは事実だけど、僕自身よくわかってないから四ノ宮さんにうまく答えられず、ただ、今の気持ちを言うだけにした。

少々四ノ宮さんは首をひねりながらも、僕が溜息をついたのを見て「分った」と言ってくれ、僕はホッと肩をなでおろす。

そんな僕に四ノ宮さんは顔を近づけて聞いてきた。

「で、お前はあんな所で汚いダンボールに包まって何してたんだ?」

「あ、えっと、それはですね……」

「それは?」

「あぅ……」

「嘘は無しだぞ」

ごまかそうとしていた所にニヤリとそういわれ、僕は仕方なく、ありのままを四ノ宮さんに話した。

母子家庭で大学生、住処を追われてとりあえずあの場所で雪を避けていたこと等々、今までの全てを話す。

黙って話しを聞いていた四ノ宮さんだったが、全部話し終わると、プッと噴出して大声で笑い始めた。

「アハハ!そりゃ凄い!」

「凄い?」

「ま~人生も凄いが、何よりお前の馬鹿さ加減が凄い。ククク!」

ムッとする僕の顔をみて大きく口を開けて笑うのはとどめたものの、未だ四ノ宮さんは肩を揺らして笑っている。

「……人の不幸を笑うと、自分が不幸になるんですよ」

プクッと頬を膨らませ、そっぽを向いて僕が言えば、四ノ宮さんは目の端に現れた笑いすぎの涙を指ですくって、僕を見た。

「ククク、いや、すまん。しかし、行く先が実家ではなくって、この屋敷の玄関先とはな……」

「大学からツイ、コッチに帰ってきちゃってたし、ココは人の気配があまりしなかったから迷惑でもないだろうと思って。それに……」

僕が四ノ宮さんの言葉にもぞもぞ口の中で言葉を濁すと、少しきつめの四ノ宮さんの声が聞こえる。

「それに?なんだ?はっきり言え」

「それに……母さんに迷惑かけられないから。住む場所が無くって、荷物だって殆ど売ったりしちゃって手元に無いし、そんな姿みたらきっと母さんは心配する。母さんに心配だけはさせたくなかったから」

僕が俯いてそう言うと、四ノ宮さんはフーと大きな息を吐いてグイッと僕の顔を上に向けさせて少し言った。

「それで、凍え死んでみろ。その時の母親の気持ちはどうなるんだ?」

「ど、どうなるんだって……」

「お前ね、雪が降るのは気温が何度の時か分かってるのか?」

「それくらい……僕だって」

しどろもどろで答える。

だって、四ノ宮さんの言い分は最もかもしれないけれど、途方にはくれていたけど、僕は死ぬつもりも無かったし、アレで十分大丈夫だって思ったんだもん。

理不尽に怒られている様な気がして、眉をハの字にし、唇を尖らせる。

「そ、それは…」

「まぁ、パニックになっていたって言う事を差し引いてもだ、浅はかな考えで浅はかな事をするな」

「……はぃ」

一応、四ノ宮さんの言葉に頷いたけれど、本当は僕はその時、頭の中にいろんな反論を抱えていた。

でも、それをしなかったのは、四ノ宮さんの表情がとても真剣だったから。

反論するのが子供っぽいって思ったし、何より、あの真剣さに口答えをしてはいけない様な気がした。

頷いた僕に四ノ宮さんはニヤリと笑う。

「ま、何にせよ、死ななくて良かったな」

「……はい」

「あの時、揚羽様がお出かけする事になって無かったら誰もあの門を通らないからな。あの寒空にダンボールってありえんだろ?」

(うぐっ……この人しつこいなぁ。はいって言ったじゃん……)

四ノ宮さんが分かったって言ってるのに僕が玄関先でダンボールに包まれていたことを浅はかだといい続ける中、僕はふと疑問に思って聞く。

「あの、それはそうと。先ほどから出てくる揚羽さんって誰ですか?」

「揚羽さんじゃなくって、揚羽様だ。揚羽様はこの屋敷の主人で、私の雇い主」

「雇い主?」

「私はこの館の執事の1人だ」

「あぁ、羊さん」

「……典型的なボケをするな。突っ込む気も失せる」

アハハと乾いた笑いを返し、四ノ宮さんは呆れた視線を僕に向けるのだった。

四ノ宮さんはフゥと深い呼吸を1つして、僕を抱きかかえたまま立ち上がる。

「あ、あの……」

つまらない事を言って怒らせたのかと僕がつぶやけば、四ノ宮さんはそのまま僕を抱えて歩き、部屋の隅にある扉を開けた。

「とにかく何時までもこの状態ってわけに行かないだろ?この部屋にある服でサイズの合うものを着ろ」

「え?あの僕の荷物とか僕の着てた服は……」

「……一部は廃棄処分。一部は洗濯だ」

「は、廃棄?!」

「とにかく!話は後だ、着替えろ!」

布団に包まれたまま、床に下ろされ、半分イライラした様子で言った四ノ宮さんの言葉が終わる直前に扉がパタンと閉められる。

(なんだか、四ノ宮さんって……)

そんな事を思いながら、布団の端っこを手で持って、ぐるりと部屋の中を見渡した。

僕のワンルームのマンション部屋ほどの広さがある衣裳部屋。

(……洋服だけにこの部屋って。なんか気分が沈むよな~)

この部屋と同じだけの大きさの1人暮らしの部屋で喜んでいた自分が可哀想になってくる。

それと同時に、僕はこの屋敷の大きさを測りかねていた。

確かに外から見ても、何処からどこまでがココの敷地なのかと思うほどに大きくて椿の垣根が万里の長城のように思える長さがあったこの屋敷だったけれど、僕の中での一番大きい家って言えば、普通の間取りの2階建て5LDKの実家だ。

それ以上だろうとは頭でわかっても、衣裳部屋でこの大きさだ。考えれば考えるほどに未知の世界。

ハァ~と溜息しかでてこない状況に僕はとにかくこの家の事は考えないようにと思考を停止した。

目の前にあるのは執事服というのだろうか?漫画やアニメで最近良く見るタキシードのような洋服が殆ど。

この部屋が四ノ宮さんの部屋なのだとしたら多分、これらは全部四ノ宮さんの洋服なのだろう。

執事服をかきわけて、普段着ゾーンに入ってガサガサ洋服を探す。

しかし、四ノ宮さんと僕では明らかに体の大きさが違うんだから、当然どの洋服もとても大きくて、僕にはブカブカ。

「合うものっていったって……」

そう呟いて、僕はとにかくサイズが合わなくても少し小さめの洋服は無いかと服の山をかき分けた。

でも、小さめの服なんて1つも見つからず、仕方なく僕は多分四ノ宮さんにとってはハーフパンツだろうカーキ色のパンツに、膝近くまで裾の来てしまうデニムのシャツを羽織る。

ブラブラと余った袖はクルクルと折り上げて、ブカブカ感は否めないが、何とか見れる格好にして、扉をノックした。

「着替え終わったのか?」

「はい……一応」

「一応?」

僕の言葉に四ノ宮さんは言葉尻を上げていい、カチャリと扉を開け、真っ先に「ブッ!」と噴出す。

「……気持ちは分からなくは無いですけど、噴出すことはないでしょう?」

「ククク、すまん、すまん……いや、うん、いいんじゃないか?」

ムッとして僕が言うと、謝罪の言葉を吐いた四ノ宮さんだったが、その口の端でまだニヤニヤと笑っていた。

「僕が悪いんじゃないですからね。そもそもあう服が全く無いのと、四ノ宮さんが馬鹿でかいのが悪いんです」

「それは違うだろ?お前がやたらと小さいのが原因だ」

ポフポフと上から僕の頭を叩いてそういった四ノ宮さんだったが、次の瞬間にはニッコリ微笑んで、腕をさっと僕の前方に向け、部屋にあるテーブルセットの方へ手をさしだす。

(あ、なんだか執事さんっぽい)

と僕が何気に思って、衣裳部屋から出ると、四ノ宮さんはパタリと扉を閉めた。

いつの間にか四ノ宮さんも着替えていて、ピッチリ、パリッとした執事服に、先ほどまで乱れていた髪の毛もすっかりきれいなオールバックになって細いフレームのメガネをかけている。

(僕、そんなに着替えに時間かかってないと思うんだけどな~四ノ宮さん身支度早っ……)

少し、四ノ宮さんの素早さに感心してボケッとしていると、四ノ宮さんは部屋にあるテーブルセットの椅子を引いて僕を座らせた。

「あ、ど、どうも」

僕がヘコヘコ首を動かしてそういって座ると一瞬四ノ宮さんの片方の眉がピクリと上がった様な気がしたけどあえて見ない振りをする。

さっきの様子からして、そこで僕が「何か?」なんていったらどんな言葉が返ってくるのか分らない。

自信満々で自分主義で威張りんぼ、そんな四ノ宮さんのイメージが僕の中に出てきていた。

ま~僕を一晩中解放してくれてたことを考えれば優しい人なのかもしれないけど、今の僕にはそれは考えられない。

僕が、触らぬ神に祟りなしっていう気分で居ると僕の隣に四ノ宮さんが腰掛けた。

「さて、それじゃ、話そうか」

「は、はい。えっと…あの…」

四ノ宮さんの言葉に何から聞こうか迷っていると、またしても四ノ宮さんの片眉が上がる。

(い、嫌な予感……)

僕の予感は的中で、ギリッと四ノ宮さんの鋭い視線が僕を突き刺した。

「お前さぁ……」

少し声のトーンが低くなり、僕はビクンと体を揺らして、薄く口の端を上げて聞く。

「なんですか?」

「さっきからオドオドした『えっと』『あの』って感じの、どうにかしろ」

「どうにかって言ったって…そんな…」

「ほら、それだ、それ!イライラするんだよ」

「うっ……んな事言ったって!」

四ノ宮さんのイラつきはホントに怖くって、切れ長な目が余計に怖さを増していて、僕は緊張のドキドキと一緒に、やってられない気持ちで目からポロリと涙が落ち、叫んでた。

「僕だって!僕だって……どうなってるのか良くわかんないし」

「ある程度は説明しただろうが」

「アレだけで理解するなんて無理です!第一、話そうかって言うならそっちから勝手に話してくれればいいでしょ!」

涙目でにらみつけて言う僕に四ノ宮さんはなんだか面倒臭そうにハァと溜息をつく。

「お前さ~女じゃないって言いながらやってる態度は女そのものじゃねぇか」

「う、煩いな!四ノ宮さんが悪いんじゃないか!!」

「そうそう、慶が悪い」

「え?」

ガタンと椅子から立ち上がった僕の後ろから声がして、僕は思わず振り返った。

開いた部屋のドアにもたれ掛かって、腕組みをしている男の人。

後ろで髪をひっつめ、赤い紐で束ねた四ノ宮さんほど筋肉の無いどちらかといえばひょろっとしている。

背の高さは四宮さんの方が高い。もちろん、僕よりずっと高い。

ゆっくり入ってきたその男の人に四ノ宮さんはハァと再び溜息をついて立ち上がり、その人物に聞く。

「香月、何時から居た?」

「そこのお子様が慶に怒鳴った所。つまりはツイさっきだ」

ニッコリ微笑んで答える香月と呼ばれたその人に、四ノ宮さんは僕の後ろに立って僕の頭をポンポンと叩いた。

「ったく、ノックぐらいしろ。それに、私が悪いんじゃない。コイツが悪いんだ」

「青少年が泣いてるけど?」

「泣くほどの事じゃねぇよ」

「ははぁ~ん、さては慶、獲物見つけて早速料理してんだろ~?お前ってSだもんな~S」

「え、獲物?S?何?」

僕が2人の会話についていけずにキョロキョロしていると、男の人が僕の目の高さと同じ高さになるようにしゃがみ、ニヤッと笑った。

「青少年、名前は?」

「吉沢…晶」

「晶君か。俺は蔵前香月(くらまえ かづき)、よろしく」

ニッコリ笑った蔵前さんはそのまま僕の頬にキスをしてきたから、僕はビックリしてその場で固まる。

「……香月、何やってんだ?」

「ん?何って挨拶だよ挨拶。美味しそうなほっぺただったしね~」

「お、美味しそう?く、蔵前さんって……女?」

「違うよ~俺は君と同じ男の子」

ペロリと舌をだして、僕の頬にキスをした唇を舐めていう蔵前さんの姿に僕は腰が抜けたようにヘナヘナとその場に座り込んだ。

今まで女の子と付き合った事もなければ男の子とだって当然無い。

だからチュウなんて出来事、頬であろうとなんであろうと初めてだ。

その場に座り込んだ僕の背中には四ノ宮さんの足があり、背凭れのようにもたれかかれば、四ノ宮さんがヒョイッと僕を抱き上げる。

「全く、コイツはまだそういうのに慣れてない青少年なんだから止めとけよ」

「え~そうなの?慶が仕込んだんじゃないの?」

「あのな……」

「ふ~ん、でも、ってことは……ウフフ、可愛い?」

ニッコリ微笑んで言う蔵前さんの言葉に、僕はゾクゾクっと寒気がして、思わず四ノ宮さんに抱きついた。

四ノ宮さんはそんな僕の様子にハァと溜息をついて蔵前さんを呆れた眼差しで見てから言う。

「アホ。青少年が怯えてるぞ」

「怖がる事ないのに~優しくしてあげるよ?」

「何をする気だ…全く。それより、何か用があったんじゃないのか?」

「あぁ、うん、揚羽様が新人が目を覚ましたら連れて来いって」

「それを早く言え。OK。じゃ、今から行くか」

頭の中がこんがらがって、脳みそがグチャグチャにかき回されたような感じの中、2人の話は勝手に進み、僕は四ノ宮さんに横抱きにされたまま、キュッと四ノ宮さんに掴まって小さく聞いた。

「ど、何処にいくんです?」

四ノ宮さんはチラリと僕の方に視線を落とし、また鋭い目つきで命令口調で言う。

「揚羽様のところだ。いいか、絶対に失礼の無いようにしろ」

「多少はいいんじゃない?初、揚羽様なんだし」

前を歩く蔵前さんが振り返りながらそういったが、四ノ宮さんは「ダメだ!」と一喝。

僕にいたっては有無も言わせないって感じの四ノ宮さんに何かをたずねる事もできず、かといって、失礼の無いようにって言われたって、その『揚羽様』とやらが何者かも説明されてないのに……とちょっと唇を尖らせていた。

それにしても大きなお屋敷。

僕がいた四ノ宮さんの部屋は洋室だったし、洋館ぽかったのに、いつの間にか、純和風になっている。

どうやら、洋館の方は別館って感じで使用人用みたい。

で、揚羽様とやらが存在している場所は本館っぽい感じのコッチの純和風日本家屋の方らしい。

暫く歩いて、襖の前まで来た時、四ノ宮さんは僕を床におろし、正座をしろと命令した。

とにかく今は言われる通りにするしかない。

「揚羽様、四ノ宮と新人を連れてまいりました」

「ん、開けて良いよ」

中から聞こえるのは子供の様な声。

『揚羽様』なんていうから僕は大人の色っぽい成熟した女性を思い描いていたけれど、どうやら全然違うみたい。

(子供?でも、子供がこんなお屋敷に住んでるなんて……)

僕が首をかしげていると、目の前の襖を蔵前さんがひらき、僕の頭に四ノ宮さんの手がのってをグイッと土下座をするように頭を下げさせた。

トストスと僕の方に歩いてくる足音がして、目の前で止まる。

「四ノ宮、手を放せ。顔が見みたい」

「はい」

僕の頭を抑えていた四ノ宮さんの手が退くと、僕の顎に白くて細い指が現れ、クイッと僕に顔を上げさせた。

透き通るように白い肌に、パッチリと綺麗な茶色がかった瞳。

長い黒髪は、僕を覗き込むと肩からサラサラ落ちてきて、なんだかホンワリ甘い香りがする。

まるで日本人形のような子がそこにいた。

(か、可愛い女の子だなぁ……着物を着ているせいかな?本当に日本人形が動いているみたいだ)

ぼんやりと見とれるように眺めている僕に、横から四ノ宮さんの突き刺すような視線がチクチク当たっているのが良くわかる。

明らかにボンヤリ眺め、何も言い出さない僕に挨拶をしろといっているんだろう。

(タイミングって言うのがあるじゃないか……)

僕は四ノ宮さんの視線に心の中でため息をついてその子に向かって言う。

「吉沢晶といいます」

「ほぉ、行き倒れは晶と言うのか?」

「はい(……行き倒れって。まぁ、ある意味間違いじゃないけど)このたびは助けていただきありがとうございます」

「フム、かまわん。丁度出かけるところで気づいてよかった。玄関先で死なれては堪らんからな」

「はぁ…(まぁ、そりゃそうだろうけど、助けた理由ってそれ?)」

ハハッと乾いた笑いを漏らす僕の顔にその子は少し動けば触れ合ってしまうんじゃないかと言う位すぐ近くまで顔を近づけてきた。

髪の毛だけではなく、まるで体全体から甘い香りを発しているようで、その香りは僕の鼻をくすぐり、そのまま脳ミソを溶かしてしまう。

麻酔薬をかがされたように僕はボーとして、体の自由が奪われていくようだった。

(なんだか……このまま何されてもいいかって位気持ちイイな……)

その子の輝く茶色い瞳に映る僕は何だか色っぽく、とろける様な顔をしている。

ジッと顔を見つめ、僕がもうその子の虜になるんじゃないかと思ったその際どい瞬間、フフッとその子は笑った。

その子の微笑みの声は僕を現実に引き戻す。

(ど、どうしたんだろ、僕。惹き込まれる様で……危なかった)

僕はさりげなくフイッと瞳をその子から流すと、その子はクスクスと笑った。

「中々、良い声と可愛い顔をしているな。四ノ宮、どう思う?」

僕の顎をつかんだまま、チラリと四ノ宮さんの方へ視線を流し、そう言ったその子の視線が来ると四ノ宮さんはニッコリ微笑む。

さっきまでの横柄で偉そうな態度と言葉使いをしていた四ノ宮さんとは思えない全く正反対の態度。

「少々しつけが必要かとは思いますが、揚羽様がお気に召されたのであれば、この四ノ宮が仕込みますので問題はありません」

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