「してやるって言ってるだろ?……あぁ、脱ぐより脱がされるほうがいいのか?」
「ち、違いますよ!わ、わかりました、脱ぎますけど、本当に説明してくださいね」
言い出したら聞かない四ノ宮さんだし、何より四ノ宮さんに脱がされたその後、どうなるかなんて考えなくても想像がついた。
四ノ宮さんの腕から抜け出して立ち上がり、少し距離を置いた僕は四ノ宮さんの顔をジッと見つめる。
疑いの眼差しを向ける僕に四ノ宮さんはニッコリ微笑んだ。
「俺が約束を破った事があるか?」
「…いっぱいありますよ(っていうか四ノ宮さんってはぐらかすのが上手いから)」
「そうだったか?ま、今回は無いから安心しろ」
「あと、脱がせてどうするかだけ聞かせてくださいよ。ただ脱ぐのは…恥かしいんで」
「フン、全部知ってるっていっただろ?今更…」
「は、恥かしいものは恥かしいんです!」
僕の体を頭から足までなめるように見て微笑む四ノ宮さんに僕が叫べば、四ノ宮さんはやれやれといった風にため息をついた。
番外2
「俺のマーキング以外のものが付いてないか調べるんだよ」
「…マーキング以外?付いてませんよそんなの。っていうか、四ノ宮さんがやたらと襲ってくるから僕の体はマーキングだらけといったほうが。それに、僕が四ノ宮さんにマーキング受けてるの知ってて僕に何かをする人なんて居ないでしょ。僕から誘っても逃げられます」
「う、うるさい!良いから脱げ!」
アヒルのように口を突き出して、ムッとしながら外されたシャツのボタンをもう一度つけていた僕の言い分に、少し顔を赤くした四ノ宮さんが襲い掛かってきて、ボタンがはじけ飛ぶのもかまわず、シャツを剥ぎ取る。
突然の事に驚いて僕が逃げようとすれば四ノ宮さんはいとも簡単に僕を抱き上げて、僕をベッドに放り込み、覆いかぶさりながらパンツも脱がせた。
ブリーフ一枚になった僕は慌てて布団の中へ逃げようとしたが、腰はガッチリ四ノ宮さんの両足に挟まれて、手首は手で押さえつけられる。
「無いって言ってるでしょ!どうして脱がせるんですか!?」
「無いはずがないんだ」
僕の体にジッと視線を注ぎ込む四ノ宮さんは、足の裏からわきの下まで隅から隅まで見て周り、少し首を傾げた。
「おかしいな…無い」
「だから、無いって言ってるでしょ!もう、一体何を探してるんです?」
「揚羽蝶の印だ」
「あ、揚羽蝶?」
今度は僕が首を傾げれば、四ノ宮さんはもう一度僕の体に顔を這わせる。
肌の近く、舐められるように見られれば、僕の肌には四ノ宮さんの呼吸が当たって、僕はドキンと心臓を鳴らした。
四ノ宮さんが近くに居るだけで最近の僕は別のことを想像してしまう。
今はただ、僕の体に蝶の印がないか、それを調べているだけなのに、僕は四ノ宮さんの息から舌に変わらないかと期待している。
(あ…四ノ宮さんの息が僕の太腿に)
首筋から右胸を通って、腰から右足先へ。
そして、上がってきた四ノ宮さんの呼吸に僕は思わずゴクリと唾を飲み込み、グッと唇を口の中に入れるようにして声を出さないように我慢した。
こんな事で感じてしまっているなんて何故か四ノ宮さんには気づかれたくなくて、足の指を握って力を入れる。
力を入れても当たってくる息遣いにピクリと体が動いてしまったが、気づいていないのか、印を探すのに集中しているのか四ノ宮さんの息は腰を通り、僕の胸元までやってきた。
「……。どうかしたのか?」
「な、何がですか?」
「体がピンク色だし、小動物のように震えてる」
ジッと顎の下から僕を上目に見つめてくる四ノ宮さんから顔を背けて「別に」といった僕。
しかし、次の瞬間、僕の胸の中心で少し突き出て存在を主張している蕾を四ノ宮さんが舐めあげた。
「ぁふぅっ!」
会話をしていて唇をかみ締めてなかった僕の口から今まで我慢していた声が漏れ出し、続けざまに数回、同じような短い嬌声を喉奥から自然に垂れ流す。
「クスクス、どうかしたのか?」
悪戯な笑顔を僕の顔の目の前に持ってきて言う四ノ宮さんはゆっくりと大きな胸板をさらしだし始めていた。
「し、四ノ宮さん。チェックするだけだって言ってたじゃないですか……あぅん!」
「そのつもりだったぜ。だからチェックしてただろうが」
「チェ、チェックだったら、どうして四ノ宮さんまで脱ぐんです!」
僕の体を上から下へと移動する四ノ宮さんの緩やかで滑らかな指の動きと、肌にあたる息遣いに耐え切れず、僕は四ノ宮さんを突き飛ばすようにして起き上がる。
火事場の馬鹿力というのか、押さえつけられていたはずの僕は四ノ宮さんの拘束から解き放たれて、逆に四ノ宮さんを押し倒すようにベッドに膝をついた。
眼下に驚いたように横たわる四ノ宮さんの姿が見えて、しまった!と僕は思ったが、時すでに遅し。
ホォ~と意地悪そうに四ノ宮さんの口の端が上がる。
それはまるで悪魔が、さまざまなたくらみの中から、一番の妙案が思いついたときの様子にそっくり。
「あ、あう、すみません」
「すみません、ねぇ」
「だ、だって、四ノ宮さんが悪いんです!」
今まで見上げていた四ノ宮さんを初めて見下ろしているせいなのか、僕は少しだけなんだか強気だった。
いつも自分がやられているように、四ノ宮さんの足を自分の足で挟みこんでその上に座り、体重をかけて手首を押さえつける。
僕の心臓がバクバクとはじけるように早鐘を打ち始めた。
こんなことをして後でどうなるだろうという不安もあったけれど、それ以上に心臓を鳴らしたのは興奮。
なされるままの僕が、好き勝手に僕を玩んできた四ノ宮さんを押さえつけている。
それだけで、僕はありえないほど興奮していた。
ハァハァと僕の口からは荒い息が漏れ出してゴクリとつばを飲んだ僕の口からはいつもとは違う、僕じゃないみたいな言葉発せられる。
「せ、説明しないと、退きませんよ」
「説明って?したはずだろう?」
「し、してないですよ!その揚羽の模様があったからどうなのかとか」
「あぁ、それは後でもいいんじゃないか?チェックした後でも」
「だ、駄目です!説明してください!第一、今回のことだって、何がなんだかわからないまま揚羽様の所に連れて行かれて」
「仕方ないだろ?防ぐ前に動かれたら俺にもどうしようもない。って、それもさっき言った。殆ど説明してないか?」
「言ってましたけど、説明はされてませんよ」
「細かい。あまり細かすぎるとイイ男になれないぞ」
「今そんな事関係ないでしょ!四ノ宮さんがちゃんと教えてくれないから何もかもわからないままで、揚羽様に会ったかと思えばキスされて、挙句の果てにお前は行き倒れだから関係ないって言われたんだよ!何も知らないし、何もわからない。それがどれだけ恥ずかしかったと思ってるんです!結局、四ノ宮さんに揚羽様が「ど阿呆、好きにせぃ」って伝えろって言われたし」
いつもと変わらぬ態度で、僕の言うことをのらりくらりとすり抜けようとする四ノ宮さんに、ムカついて怒鳴ったけれど、その僕の怒鳴った言葉に四ノ宮さんは凄く驚いた顔をした。
突然の驚いた顔に僕のほうがドキッとしてしまう。
しばらくまぶたを半分閉じて、考え込むような表情をした四ノ宮さんはフゥと大きめの息をひとつして、ちらりと視線を僕の方へと向けた。
「本当に『好きにしろ』といったのか?」
「うん、何だかわかんないけど…」
少し真剣な顔をして考え込んだ四ノ宮さんは僕に組み敷かれたままの状態で、視線を僕に戻した。
「で、初めから話してみろ。されたこと全てだ」
「ぜ、全部ですか?」
「あぁ、全部だ。もれなく全部」
全部と言われて僕は一瞬どうしようかと迷ってしまう。
揚羽様にされたことを言えば、もしかしたら四ノ宮さんは怒ってしまうかもしれないし、どちらかといえば知られたくないと言ったほうが良い。
揚羽様にされたことを言うのは別にかまわないと思うけど、四ノ宮さんは勘が良いからそのときの僕の気持ちまで読み取ってしまいそうな気がして。
揚羽様は可愛いと思うし、その揚羽様にキスされて、僕は揚羽様にこのまま抱かれても、飲み込まれてもいいって思ってしまった。
なんというか、そんな気持ちを抱いてしまったことが四ノ宮さんに対して、罪悪感のようなものになってしまっている。
どうして罪悪感だと思うのかって言う所は良く分からないけれど、知られたくないっていう気持ちは大きい。
黙り込んだ僕の頬に暖かい四ノ宮さんの手が添えられ、僕はハッとする。
「どうした?言うなとでもいわれているのか?だったら…」
「いえ、そうじゃないです」
優しくなでられる四ノ宮さんの手がより僕の罪悪感をあおってきたけれど、言わないというわけにも行かないだろうと、僕は重く口を開いてあそこであったことを話した。
じっと僕を見つめる四ノ宮さんの視線を感じながらも、僕は自分の視線を重ねることは出来ず、思い出しているのだと言う風を装って視線をそらす。
全てを話し終えると四ノ宮さんは両手で僕の頬を包み込み、そむけていた顔を無理やり自分のほうへ向かせた。
「なるほどな。では、印を探す必要はないな」
「え?」
僕が驚き、自分から四ノ宮さんに視線を向ければ、そこにはニヤリと微笑む四ノ宮さんがいて、僕はしまった!と思う。
こういう微笑をするときの四ノ宮さんは僕の考えを必要以上に読み取っていて、何かを企むか思うかしているのだ。
案の定、僕の頬を包んでいた四ノ宮さんの指がギュッと僕の頬を抓る。
「で、お前は、揚羽様に一瞬でもグラッと来たから俺には言いたくなかったと?」
「えっと…違いますよ。うん、そうじゃなくって」
「嘘をつくな。お前は嘘をつく時、下唇を隠すんだ」
「そ、そんなこと!」
「お前の体のどこが一番感じる所かまで知ってる俺が、お前の嘘を見抜けないとでも思ってるのか?」
こういうドキッとすることを平気で言ってしまう所が四ノ宮さんの凄い所だけど、勘がよすぎる四ノ宮さんは苦手だ。
僕の頬を抓っている四ノ宮さんの手を弾いてムッと口をすぼめた僕はハァとため息をついた。
「そりゃ、あんなに可愛い人にキスされれば誰だってグラッと来るでしょ?」
「ほぉ~、俺って言う絶対的な存在があってもか?」
「うっ。で、でも!そうは言いますけど!」
「しかし、何だかんだいっても、俺に毒されて入るんだろうな~揚羽様に興味を持つんだから」
ニヤニヤとそういう四ノ宮さんの言いたいことがわからず、首を傾げていればクククとこらえ笑いをして、四ノ宮さんが聞いてくる。
「晶、揚羽様は男の子だぞ」
「え?!」
「ククク、やっぱり女の子だと思ってたんだろう?まぁ、仕方ないといえば仕方ないが」
ありえないと思った。
大学にいる女の子達よりも、椿館にいるメイドさんはレベルが高い。
そのメイドさんよりもずっと綺麗で可愛いのが揚羽様だった。
「う、嘘……あれが男の子?」
「着飾っているのは、この椿館の持ち主でもある本家の御館様の趣味で、今はゴスロリ系が好みらしいな。もちろん男子の格好をするときもあるぞ。全ては御館様の趣向だ。何だかんだ言っても、男に興味を持つなんて、俺の調教の仕方が良かったとか?」
「ち、違います!可愛い女の子だと思ってたんです!別に僕は男好きって訳じゃないんですから!」
何だかからかわれているような物言いに、思わず怒鳴った僕だったけれど、その瞬間、少し寂しげな四ノ宮さんの表情が見えて、チクリと胸が痛む。
「あ、あの、えっと…」
「そうだな、晶は俺が無理やり囲ってるようなもんだ。からかって悪かったよ」
小さなため息と一緒にそういった、四ノ宮さんの言葉と表情に思わず僕は言い訳するよりも先に、四ノ宮さんの唇を奪っていた。
四ノ宮さんの耳のすぐ横に両手をついて、唇を揺らめかせれば、四ノ宮さんはそっと瞳を閉じる。
背中に腕が回され、僕から口付けたはずなのに、いつの間にか唇の主導権は四ノ宮さんが握って、僕は鼻から艶やかな甘い息を漏らしていた。
揺らめく四ノ宮さんの唇と、口中で蠢く舌はそれだけで僕をドキドキさせて、僕の下半身がうずく。
求められ、そして求めるキス。
激しさを増す、その前に四ノ宮さんから少し距離をとり、互いの唇がわずかに触れる程度の位置で動く。
「男好きじゃなかったんじゃないのか?」
低く響く四ノ宮さんの声に少し息を切らした僕は顔が厚くなっていくのを感じていた。
「そ、それは、男なら誰でもいいというわけではないと言うことです」
「じゃぁ、俺は?」
「し、四ノ宮さんは……特別です」
「へぇ、俺は特別か。悪い気はしないな」
フフンと笑った四ノ宮さんの姿に少しホッとすると同時に、僕はうずいてきた体を何とかして欲しいと思う。
四ノ宮さんにマーキングされてからたった数週間で、僕は四ノ宮さんの香りに包まれるだけでドキドキするようになった。
この部屋に入れば体が熱くなり、半年たった今となっては、四ノ宮さん無しなんて考えられないほどになっている。
そんな僕に笑う四ノ宮さんはお預けするかのように深く抱きしめ、脱がすこともしない。
わずかに触れる唇、背中に回された腕、そして、密着することで渡ってくる四ノ宮さんの体温。
「し、四ノ宮さん…あの」
「ん?なんだ?あぁ、そうか、まだ昼間だから止めないとな」
「え、あっ!」
僕をこんなにしておいて、止めようなんて。僕の拘束から抜けようとした四ノ宮さんの肩を押さえこんだ。
end
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