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作者:日-未知 当前章节:15213 字 更新时间:2026-6-23 02:25

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附:【本作品来自互联网,本人不做任何负责】内容版权归作者所有!

第1夜

( ?暑苦しい)

ネクタイを緩めながら真鍋は帰路についていた。蝉時雨も途絶える夜はまだ耐えられるが、暑苦しい夏は、彼にとって嫌な季節である。

世間では海、花火大会等等、夏休みなどのイベントがあるとは言え、社会人である彼にはなんら関係ない。

あまりにも貴重な土日を使うほど彼の気持ちは若さを保っていないし、数日程度の夏休みで何を楽しめというのか?

どうせなら着込める冬のほうがいい ?それが彼の持論だ。悪友には『水着が楽しめる夏の何処が悪い!』といつも怒られるのだが、水着を愛でる暇すらないというのが、彼の実情だ。

(車が使えればいいんだが ?)

少しの暑さを我慢すればエアコンが効く部屋があるのに ?駅から出、一人ため息をつく。

彼の住む部屋は、最寄り駅から20分ほどかかる。駅前にマンションがないわけではないが、家賃とのバランスで選んだ。

かなり面倒なのだが、都心から程近いところに立地するため、たとえ歩くことになっても電車通勤のほうが便利なのだ。

下手に車を使おうものなら、渋滞に巻き込まれてとんでもないことになる。だから自家用車はプライベートでしか使わないのだが、肝心のプライベートも、ごろごろしていてそうする機会がない。

(こういうときには ?一杯やるのがいいんだけどな ?)

夏の夜長にビールを一杯。忙しくて中々憂さ晴らしの出来ない社会人のひそかな楽しみというものだ。

どこかの飲み屋に行ってにぎやかに飲むのもよい―この際真鍋がそういう性格の持ち主ではないことはおいておく―が、一人で落ち着いて飲むのも悪くはない ?そんなことをのんびりと考えている真鍋。

一人で飲むならどのビールにしようかな ?などと思っていると、道端に人が倒れている。

(なんとまぁ ?)

これはまた珍事だ。路上に人が倒れている。ありそうでなかなか見られない ?いや、見たくない光景。

簡単に言うと、酔いつぶれて撒き散らしてつぶれた ?制服を着ているようなので、おそらく高校生。

法律はともかく、別に真鍋自身は未成年が酒を飲んでも大いに構わないと思っているが、せめて制服のままで飲むのはやめておいてほしいと思っている。

そして、飲ませるほうも飲ませるほうだ。いくらなんでもあからさまな制服組に酒を与えたらいけないだろう ?と、避けたくてもじっと見ているのは、高校生だからということが大きいのだろうか。

(さて ?どうするか ?)

瞬間的に二つの選択肢が浮かぶ。このまま捨てておいても、全く害はない。むしろ、真鍋自身のためとも言える。

だが、何となく放っておくことができなかった ?そのくらいの良心も持ち合わせていたから困っている。

面倒ごとは嫌だ ?そう思ったが、見過ごして何かあっても後味が悪くなる。それなら一晩我慢して引き取っておいたほうが、自己満足とはいえ、後々にもいいかもしれない。

そのため真鍋は酒に加え、おつまみをお持ち帰りしたのだった。

-----

(何でこうなったんだか ?)

少年を持ち帰った真鍋は、切ないため息をついた。これが女子高生だったら ?と思うのだが、それはそれで問題がある。下手したらつかまりかねない。

だから男子高校生でよかったのだ ?そう言い聞かせたものの、それでよかったと思える嗜好は持ち合わせていない。

(この楽しみをどうしてくれるんだ ?)

ベランダにもたれかかりながら、遠くを見やる。ただ暑いだけでいつもと何かが変わるわけではない。

『季節』を感じないのは、やはり都心だからなのだろうか。せっかく『季節』を感じるためにささやかな一杯を楽しみにしていたのに、少年の介抱をしていたおかげで飲む気もすっかりうせてしまった。

酔いつぶれた人間を前にして飲みたくなるほうがおかしいだろう。当事者は前後不覚でも、そばにいるものは案外冷静になるものである。その上、たった一つのベッドを奪われ、真鍋の機嫌はあまりよろしくない。

だが、前後不覚の人間に文句を言っても仕方のないことだ、そして、拾うことを選んだのは自分なのだ ?ぐっと怒りをこらえる。

『ん ?』

ベッドのほうから少年のうめき声が聞こえ、あわててその方向を見やる。目が覚めたか ?と思ったが、そういうわけではなかったようだ。ただ単に寝言を言いかけたのだろう。動揺した自分に苦笑した。

『何で ?だよ ?』

だが、苦笑もすぐに止まる。続いて聞こえたのは、聞いてるほうが苦しくなるような寝言だった。

表情も苦しそうで、嫌な夢でも見ているのか ?とまで考えてから気づく。

嫌な夢を見るような状態でなければ、平日にここまで酔いつぶれるようなことはしないはずだ。

(ったく ?何があったんだよ ?)

先ほどまで酒が飲めなくなったと文句をたれていた真鍋だが、それどころではないことに気づく。

この少年は酔わないといけないようなことを経験した挙句、夢にまで襲われているのだ。安らぎの場がない ?即起こそうとしたものの、それも躊躇われた。

自分がどうにかしてさらに悪夢にでもなったら困る。

(失恋でもしたのか?)

この苦しみから察すると、そして、年に似合わず酒に溺れて苦しみから逃げようとしたことから判断すると、そう思うのが妥当だろう。テストの成績が悪いから酔いつぶれるような真似は、普通しない。

自分とは無関係なはずなのに、目が離せなくなる真鍋。

(こいつの事情なんか全く知らないんだけどな)

それでも独りにしておきたくなかった ?ついでに、寝る場所の不足もあり、側で眠ることに決める。何かあったらいつでも対応できるように ?そんなことを考えていながら、真鍋も眠りに落ちてしまった ?。

第2夜

(結局 ?寝ちまった)

何かあったら ?と思ったが、結局一晩ぐっすり寝こけた真鍋。

だが、少年は目を覚ましていないようで一安心する。穏やかそうに眠っているので、あれからは悪い夢は見なかったのだろう。

暗がりの上、シチュエーションもありそのときは気づかなかったのだが、少年の容姿はいい線を行っている。

つやのある黒髪、高校生だろうが、決して子供っぽいという印象はない。目鼻立ちもしっかりとしており、女の子が放っておかなさそうだ。

それなのになんで一人で ?と思ったが、どうせ今日までの付き合い、気にしても仕方があるまい。

(吐いても美青年 ?)

世の中は理不尽にできているものだ。寝るまでの怒りはすっかり失せ、じっと彼を見てみる。

男に興味のない彼でさえも唸ってしまう。あと10年若ければ ?などとくだらないことを思ってみると ?。

「お、目覚めたか」

酔いつぶれた少年が目を覚ます。見知らぬ空間にいる彼はどんな反応をするだろうか ?じっとそれを待つ。

「え?え?」

ゆっくりと目を開いた少年は、暫く目をこすって現状を確認する。

だが、おかしい状況に気づいたのだろう。いきなり飛び起き、部屋を見回す。

そして、首をひねって暫く考え込む。結論は出なかったようだが、相手が解らない以上聞くに訊けないのだろう。

苦笑しながら真鍋は答えを教えてやる。

「俺がお持ち帰りしたんだ」

まぁ ?表現は良くないが、間違ってはいない。

「な、な、な ?なんですと?」

がくがくと震え、青ざめる少年。

「変態!ケダモノ!」

挙句の果てに一回り上の真鍋に対し、暴言の言いたい放題。

気が付けば同じ男の部屋にいた、そして真鍋の『お持ち帰り』という言葉 ?普通の神経をしていればそう思うのは当然かもしれない。殴りかからないのが不思議なくらい。

別に痛くもかゆくもないが、どこかで止めておきたいものだ。

「仕方ないだろう?昨日酔っ払って倒れてたんだから、引っ張ってきてやったんだ。君は一晩中外で寝る趣味でもあるのか?」

面倒くさそうに説明してやると、怒りの表情の代わりに、申し訳なさそうな顔つきになる。

この分だといくらかの記憶はあるようだが、それはそれで不幸かもしれない。記憶を忘れたほうが幸せなときもあるものだ。

「その ?ご迷惑をおかけしました」

ぺこりと深々と頭を下げる。ただパニックに陥っていただけで、基本的な分別は持っているのだろう。

これはただのハプニングだ ?真鍋もそれ以上の追求はするつもりはなかった。

「構わないよ。俺が勝手にしたことだ。俺はたまたま遭遇しただけで、君が何処の誰だかなんか分からない。

だから別に未成年が酒飲むなとも、親御さんを心配させるなとも言わない。

だけど ?制服着て酒を飲むのはさすがに感心しないな。飲むときにはそこを気をつけないと ?というか、今日、学校なんだろ?

制服は見ての通りあぁなんだが ?どうする?残念ながら俺はこれから会社だ。君の相手をする暇がない。帰るならタクシー代やるから、好きにするといい」

そう言って真鍋は財布から福沢を一枚抜く。高校生がわざわざ飲むのに遠くを選ぶとは思えないし、そうであれば最寄り駅までにするだろう。

「だけど ?そこまでしてもらうには ?」

渡された万札をあわてて真鍋に押し付ける少年。相手の素性も知らないのだから、そのままいただいて逃げてしまえばいいのに律儀なことだ。

いや、初対面なのに渡すのだから警戒もするか ?真鍋から笑みが漏れる。

「ちゃんと理由はあるんだな。あれなんだが、どうにかしてくれないと部屋に臭いが移って困る ?」

「ご、ごめんなさい!」

「申し訳ないと思うのなら ?受け取ってくれるよね」

「はい ?すみま ?いえ、--ありがとうございます」

さすがに一晩臭いにとりつかれて眠る趣味は持ち合わせていない。あくまでも自分のためということで真鍋も綺麗にしたし、室内に干しておくくらいだから、そこまで臭いがするわけではないのだが ?これ以上拒否して恩人の立場を台無しにするのは避けたかったのだろう。先ほどとは一転して、お金を受け取る少年。

だが、見知らぬ人間からお金をもらうのは居心地悪いようだ。

「気にするな。だが ?ひとつ言わせてもらうか。俺としては君にどんなことがあったのかは知らないし、興味もないが、辛いのを酒でごまかすのは感心しないな」

もっと辛いだけだから ?一杯飲みそびれた腹いせにそれだけ言い残して、真鍋は出社したのだった。

第3夜

自室に少年を置いてきたのが気がかりだったが、基本的には礼儀正しそうな少年だった。

万が一のためにスペアキーも持っているし、そこまで心配することはあるまい。

とは言え、気になる部分もあって ?上司に文句を言わせないほど完璧に仕事を済ませ、いつもより早足で帰宅する真鍋。

外界の喧騒など、気にすらならないほどに急いだ。そして、部屋に到着すると、ドアの前には見覚えのある人影があった ?。

「君は ?」

見間違えるはずがない。今朝方まで自分の部屋に寝かせておいた少年だった。帰ったと思ったが、どうして?

「先ほどはありがとうございました」

会うなり頭を下げる少年。わざわざお礼を言うためだけに戻ったのか ?それはありえない。

ただ単にお礼を言いたいのなら、手紙でも書いて、郵便受けに入れておけばいい。他に目的があるのだろう。

「いや、別に構わない。学校には行ったのか?」

「おかげさまで。酒も残ってなかったから」

前後不覚になるだけ飲んだのに、酒は残っていなかったのか ?その若さに脱帽してしまう真鍋。

だが、何事もなかったのなら、それはそれでいいことだ。いい意味で身体から力が抜けていくような気になる。

「それならよかった。制服は ?持って帰ったんだよな?それなら、何か忘れ物でもしたか?」

出るときに鍵は郵便受けの中に入れるように指示しておいた。入れてから忘れ物をしたことに気づいたのが妥当な線か。

「これ、返したかったから」

それだけ言って少年はポケットの中から何かを取り出す。それは、先ほど渡してやった諭吉さんだった。

「それはやるといっただろう?」

あきれながら受けとるのを拒む。わざわざこれを渡すためだけに待っていたのか?バイトが終わって夜遅く来るつもりなら、電気がつくころを見計らえばいいはずだ。

酔いつぶれることが出来たんだ。門限などあるはずはないだろう。それなら、いったい何時間待っていたのだろうか?

高校生が下校する時間は、社会人よりはるかに早い。これは礼儀云々ではなく、馬鹿の類に属するのではなかろうか。

「そうなんですけどね ?俺もそれはどうしようかとずっと考えてたんですけど、ご迷惑かけた上に、こんなものをもらってしまっては俺だって落ち着かないんですよ。

本来だったら俺が払うのが筋でしょう?」

確かに、それも尤もな話だ。意識がなかったとはいえ、部屋を借りたのは少年だし、真鍋がかけた手間というものもある。

だが、ここでもらっても真鍋の立場がなくなることを解っているのだろうか。

とはいえ、ここで突っ返しても少年の努力を無駄にすることになる。どうしたらよいものだろうか ?。

「そうか ?なら仕方ない。どこか食いに行くか?」

「 ?はい?」

唐突な提案に少年がぼけっとする。

「君は受け取らないんだろう?残念ながら俺だって一度渡したものをもらうわけにはいかない。なんか空しいし。

ほら、シルバーシートでお年寄りに席を譲ったとする。遠慮されたら君は分かったと言って座るか?」

「いや ?それは ?」

『こじつけでは』言うとした彼の口を封じ、強引に話を進める。

「だろう?それなら ?後腐れなく使ってしまうに限る」

「いえ ?何もそこまでしてもらう必要は ?」

何処までも遠慮するらしい。たかが一枚のためにわざわざ時間を費やしてまで待っていて ?律儀な少年だ。

ここまで来ると真鍋も半分意地が入ってくる。いつもの彼だったらここまで食い下がることはない。

「恩人に対して文句は言わないよな」

少年は苦笑いしながらはいと言った。

第4夜

結局その日は食わずじまいだった。真鍋自身はその日のうちに行ってもかまわなかったのだが、彼が日を変えてくれ ?とお願いして、次の日になった。

別に1日位遅らせて何の効果があるのかと思ったが、少年曰く、心の準備が必要だとのこと。昨日の今日で ?という気持ちも理解はできたので、真鍋もそれを了承した。

少年が逃げないよう、携帯の番号とメアドを控えておくことも怠らなかった。

「 ?待たせたな」

息を切らせて部屋に戻ると、彼は制服姿で待っている。

「別にそんなに急ぐことはなかったのに ?」

「いや、なんとなく待っているような気がしてな ?ったく、鍵渡しておいたのだから、入ってればいいのに」

少年にはスペアキーを渡しておいた。初対面で無用心かとは思ったものの、彼なら悪用はしない ?そんな気がした。

「そうも行かないですよ。友達ならまだしも、そんなに面識もないのに勝手に入ってたら失礼でしょう?」

「君も律儀だな」

「ダチなら遠慮なく入りますけどね。ただ、真鍋さんには世話になりっぱなしだから、このくらいは ?ね」

まだ遊び盛りの高校生ではあるが、妙なところでしっかりとしている。そんな彼に好感を抱く真鍋。

「立ち話もなんだ。さっさと行くか。さすがに制服で酒はやばいから ?その辺は考えてくれよな」

-----

仕事関係でこちらに来たことと、出勤時間の関係、そして高校生と接点がなかったので解らなかったのだが、彼―仁科譲―は、この付近の高校に通っているらしい。

それなら酔いつぶれたことは危険な行為だったということになる。

「そんな危険を冒してまで飲むなんて ?何があったんだ?」

「情けない話、失恋なんですよね」

少しは躊躇うかと思っていたが、即答えてくる仁科。当然、表情は明るくない。

ここから先は彼の傷をえぐるような真似になるとは思っていたが、つい聞いてしまう。

「思いつめるほど ?好きだったのか?」

「そうです。幼馴染ですからね。本当に大切だった。だけど ?知らない間に仲良くなっていて、俺だけが取り残されて」

仁科の話によるとその二人とも幼馴染であるらしい。今まで3人でいたのが、独りあぶれることになるのだ。確かにそれは辛い、真鍋も納得する。

これが第三者ならまだ救われたのかもしれない。だが、近くにいたもの同士 ?救いがないとしかいえない。

「で、やけ酒したってわけだ」

「そういうことです。どうしたらいいかわからなくて、家のを持ってって。逃げだってことはわかってるんですけど」

フォークを置き、仁科は俯いた。それから沈黙する。

本当は何も口に入らなかったのかもしれない。ただ、真鍋のことを考えて口に運んでいたのだろう。

何も食べなければ彼が気を害すると思ったから ?。

仁科本人はそう言っているが、知らなかったというのは、嘘なのかもしれない。

本当は親友たちが付き合っているのは知っていたのだ。

だが、あえて気づかぬ振りをしていたのだろう。

二人を気遣って ?それもあるだろうが、知らなければ自分が傷つかないですむから。

「それで、昨日聞かされたのか」

それには黙って頷いただけだった。友達が仲がよくなっていくのを見るたびに、少しずつ仁科の心には傷がつけられていたのかもしれない。

だが、彼は決してそれを悟られぬように、ずっと我慢していたのだ。それが直接聞かされたことにより、彼の心にも限界が来てしまった。

「だれか ?悩みを聞いてくれる友達はいなかったのか?」

いないはずはないだろう。話を聞いている限りでは仁科は誠実そうな印象を受ける。友達だってたくさんいるはずだ。

やけ酒する前に誰かに相談していれば、ここまで思いつめることはなかっただろうに ?。

「相談できたら ?違ってたのかもしれませんね」

苦しげに彼はつぶやいた。それには多少の自嘲が含まれていたことに気づかぬほど、真鍋は鈍くない。

そして、触れてほしくないことであることも然り。ただ成り行きであっただけの関係だ。自分に心を開かないのも無理はないだろう。

「あーあ、うじうじしていても仕方ないね。真鍋さん、おごってくれるんでしょ?追加してもいい?」

そんな重苦しい空気を破りたいのか、仁科が笑顔を作る。別に気を使わなくてもいい ?そう思ったが、ここは彼のしたいようにさせてやりたかった。

「あぁ。だけど、まずはその皿を平らげろ。でないと追加はしないぞ。何なら一晩中付き合ってやろうか?明日サボるってのなら、酒も付き合うが」

「またもやお持ち帰りですか。真鍋さんも物好きだ」

『確かに』真鍋も苦笑する。少しは否定しようかと思ったものの、否定のしようがなかった。

女の子が相手ならまだしも、見知らぬ人間、しかも男相手に失恋の慰めに付き合う必要などないのだ。

だが、仁科のことは放っておけなかった。そう思うのは、出会いのインパクトが強すぎるからなのだろうか。

「それを言うな。自覚してるんだから。まぁ、今回は君の意思を尊重するけどな。一応俺も男と一夜を明かす趣味はないんで」

「それが ?普通だよな。今日はいいよ。また真鍋さんに迷惑かけるから ?」

何気なく言ったつもりだったが ?突き放されたとでも思って、真鍋の言葉に傷ついたのだろうか?寂しそうに視線をそらす仁科。

真鍋を見ることが出来ず、視線を彷徨わせたところで ?固まった。

第5夜

「どうした?」

明らかに仁科の様子がおかしい。それを気にした真鍋の問いも、仁科の耳には入っていなかったようだ。

不思議に重いその視線を追ったところであらかた理由がわかる。

(なるほど ?)

視線の先には、男女がいた。高校生だろうか。明るくよく動きそうな―ボウイッシュと言えばいいのだろうか―女の子の後を、おとなしそうな少年がついてくる。

もし彼等がカップルというのなら、それはそれでお似合いかもしれない。引くほうと引っ張られるほう、バランスが取れている。

今のご時世、男らしさ、女らしさを追及してはいけない。それぞれにはそれぞれの付き合い方があるが ?まぁ、そんな推測はこの際どうでもいいことか。

人は見かけだけで判断できるわけではないし、仁科が固まっているということは、他人ではないということだ。

彼等が仁科の幼馴染ということになる。こちらのほうが重要。

「真鍋さんの思ったとおり。あれが俺のダチ。どう?可愛いでしょう?」

ふむ ?考え込む真鍋。確かに可愛いと言われれば同意するものの、仁科には悪いが、恋人にしたいと思うほどでもない。

下手に付き合ったら尻にしかれることは目に見えている。仁科はそんな子が好みなのだろうか?

「まぁ ?可愛いけどなぁ ?」

だが、否定する必要もあるまい。蓼食う虫も好き好きという。彼らの関係を知らぬ自分が言っても仕方がない ?真鍋は出かけた言葉を飲み込んだ。

とは言え、もてそうな仁科が酔いつぶれるほどの女の子か ?疑問に思ったところで凍りつく。彼らと目が合った。

「あれ、仁科、どうしてこんなところに ?ってか、この人、誰?」

件の少女がこちらに駆けつけ、後を追うように少年が来る。初対面の人間に『誰?』というのはさすがに不躾ではないか ?と思っても仕方がない。大切なのは仁科の反応だ。

肝心の仁科は凍り付いていた。それは仕方あるまい。これは普通に考えてありえない組み合わせなのだから。これが赤の他人であれば、いくらでも誤魔化しが利く。

だが、付き合いが深い彼らの場合、下手すれば墓穴を掘ることになりかねない。どうしたらよいものだろうか ?考えながら彼は口を開く。

「まぁ、アレだ。昨日飲みすぎて吐いてしまって、倒れていたところをだな ?迷惑をかけてしまったからな ?」

ちょっと不自然か ?口ごもりながら説明したが、逆にそれが効果ありだったようだ。納得する少女。

「確かに社会人が吐くほど飲むのは問題ですからね。信用面もありますし。口止めってやつですか?」

すぱっと直球だ。

「まぁ、そういうこと。そんなわけで一緒にいるってことだ。暫くこれ借りるけど、問題はあるか?」

「いえ、こんな奴でよければ」

もともと眼中になかったのか。『煮るなり焼くなりお好きにどうぞ』そう加えて少女は去っていった。仁科のライバルであろう少年は困惑していたが、同じように彼女にくっついていった。

「助かりました」

ほっと一息をつく仁科。安心したのは真鍋も同じだった。よもやこんなところでうわさの主に出会うとは思わなかった。

彼等の学校の行動範囲内にある店とはいえ、こんな日に出会うとは誰が思うだろうか。

「まぁ ?嘘はついていないからな」

残念ながら、真鍋の言葉には嘘は全くない。主語が違うだけで、『飲みすぎた』ことも、『迷惑をかけた』事も事実だ。

そう仕向けたとはいえ ?全て彼女たちが勝手に誤解したことだ。真鍋には落ち度はない。

「確かに。でも、なんか ?落ち着かないですね」

居心地悪そうに仁科が周りを見回す。そんなに意識しなくてもいいと思うのだが、恋敵が一緒にいる店で食事をするのもあまり気分のよいものではないだろう。肝心の味も楽しめなそうだ。

「気にするな ?と言っても無理か。場を移すか?それとも ?」

「お言葉に甘えて持ち帰られます」

-----

結局会計を済ませ、コンビニで2、3本ビールを買い込む真鍋。居酒屋でもよかったのだが、制服組に飲ませるような店はこの近辺にはない。だから、またもやテイクアウトになる真鍋。

「本当に ?よかったのか?」

「何がです?」

「俺みたいな年寄りより、愚痴を言いたいなら適する相手が一杯いるだろう?」

「年寄りったって ?まだそんなに老けちゃいないでしょう」

真鍋の年寄り発言に仁科は苦笑する。別に額面どおりに言ったわけではなかったのだが ?彼はそれを理解してくれたようだ。

「てか、こんな話、ダチにはできないですからね。それに ?俺は真鍋さんだから持ち帰られるんですよ」

初めて見せた柔らかな笑みに、どきっとする真鍋。

今まで思いつめた顔しか見ていなかったから、仕方ないと言えば仕方ないが ?さすがに男相手にドッキリはまずい。

苦笑いしながら話題を変えることにする ?。

「俺を口説くんじゃない」

「別に口説いてるわけじゃないですけどね。そういえば真鍋さんってカノジョいるんですか?」

「ははは、残念だが。あの部屋のどこに女っ気はあるのか?」

真鍋の言うとおり、真鍋の部屋には女っ気はない。ただ、真鍋自身はかなりモてるほうだ。すらりとした身体つき、落ち着いていて、それなりに甘いマスクは、同性からも羨望の対象となりうる。

ただ、性格に少し難があることと、口で言っているほど、色恋に ?というか、人間に関心がないというのが真実だ。

「確かに。あったら俺なんか放っておくでしょうね。でも、もったいないなぁ ?。真鍋さん、かなりいい線行ってるんだけど ?」

妙にほめ殺しをする仁科に、むずがゆくなる。

「おいおい。そういう仁科こそ ?別に片思いをする必要はないだろう」

「それが ?あるんだなぁ。真鍋さん、驚かないで聞いてくれます?」

「その保証はないな」

「そりゃそうだ。どうしよっかなぁ ?」

真鍋の即答に答えるかどうか迷う仁科。悪いことをしてしまったかと思うが、ナニを聞いても驚かないほど真鍋も人ができているわけではない。驚かないといって驚くよりかはましだろう。

「別に、いいたくなければ言わなくてもいいぞ」

気にならない ?と言えば、嘘になる。ここまで首を突っ込んでしまった以上、その原因を知りたいとは思う。

だが ?それと同時に興味本位で聞いてもいいものかと思い始めたことも事実だ。今までは赤の他人だったから、なんとも思わなかった。適当に聞き流して、次の日には忘れているだろう。

だが ?少し情が入ってしまったのだ。

「いいよ。真鍋さんも ?本当は気になってるんだろ?あの二人連れ、覚えてる?」

あぁ ?聞かれて記憶をたどる。少し気の強そうな少女と、その後に続くおとなしそうな少年。

「そっちの、男のほう」

第6夜

男のほうといわれて、少年のほうに焦点を当てる。少女に比べインパクトがなかったのでなんとも言えないところだが、線は細く、華奢そうだった。

守ってあげたいというタイプ ?言うならば、母性本能をくすぐるというやつか。そこまで分析してから、ひとつの事実に気がつく。

「 ?ほぉ」

もし、真鍋の推測が正しければ、そういうことになる。だが、どういえばいいのかが思いつかなかった。

気持ち悪いかと聞かれてもなんとも思わないし、同情かといわれても、同情するほど真鍋は優しくはない。どうしようもなかった。

「驚かないんだね」

「そう言われてもなぁ ?」

正直、コメントのしようがなかった。そういう類の人がいることは知っていても、真鍋自身、ホモと会うのは全くの初めてだ。答えに戸惑う彼を責めることなど、誰にもできないだろう。

「やっぱり、俺ここで帰るよ。これ以上真鍋さんに迷惑かけるわけにはいかないし。ほんとに今日はごちそうさま」

自分を否定されたと思ったのだろうか、それとも対象にされると思ったと思ったのだろうか ?寂しそうに来た方向に戻っていく仁科の腕を、慌てて真鍋はつかんだ。

詳しい理由はわからないが、今彼を独りにしてはいけないような気がしたし、自分がそうしたくなかった。

それは彼の性癖を知ってからでも ?それに気づいてひとつの答えが見つかった。

「性癖がどうであれ、仁科は仁科だろう?」

相手が男であれ女であれ、一人の人間に恋して傷ついているのだ ?。

「ほんとに ?真鍋さんって人がいい。ここで俺を独りにしておくのも思いやりだと思うよ?」

「馬鹿言うな。これはただの自己満足だ」

「だから人がいいっていってるんだよ ?」

明確な拒絶だった。だが、ここでおとなしく引き下がるわけにはいかない。

仁科は心の奥底で誰かに助けを求めているような気がする。ここですがり付こうとする手に気づかなければ、真鍋は一生後悔する ?そんな予感がした。

「つべこべ言うな。高校生が背伸びして遠慮なんかするな。ガキはガキらしく、大人に甘えていればいいんだ。それに ?下手に飲まれると、迷惑するのはこっち、それは解るな」

独りの人間にここまで手を差し伸べる人間ではないのに ?胸に生まれたほんのわずかな変化、戸惑いを隠すため、あえてぶっきらぼうに言ってやる。

「真鍋さん ?ありがと」

今にも泣きそうな顔で笑みを向ける仁科。そんな仕草にも真鍋は胸の痛みを覚えてしまう。

「ちょっとだけ ?甘えさせてもらいます」

手をちょっと動かし、真鍋のをぎゅっと握る。赤くなりそうな顔を隠して真鍋はつないだ手を離さぬまま帰宅したのだった。

-----

「で、どうして好きになったんだ ??」

自分で聞いておきながらおかしな質問だと思う。人を好きになることに理由などないのだ。

~だから好きと言うのは、結局は後付でしかない。本来なら「どこが好き」なのかを聞いたほうがいいのかもしれない。だが、それはそれでニュアンスが違うような気がした。

「どうしてって ?俺にも。別に男の身体じゃないとだめってわけじゃないし。

まぁ ?昔から放っておけなかったからね。俺がいてやらないとってな感じで。

佐井 ?あの女と取り合いになって ?なんだかんだいってこの腐れ縁が続いていったんだけどな ?だけど、佑 ?男のほうだけど ?は当然男に興味を持つはずがないから、次第に自分を引っ張ってくれる佐井のやつに惹かれるわけで」

「それは ?難儀なことだな」

そうとしか言いようがなかった。

「まぁね。どんなに俺が格好良くても、女には絶対勝てませんからねぇ」

「自分で格好いいと言うか、普通 ?」

「 ?つまり俺の自意識過剰ってやつか!」

即入れた真鍋の、この場にそぐわないとしか言いようのない突っ込みに不快感を示すことはなかった。おまけに、それで少し悩んだ様子も見せる。

そんな仁科が可愛く見えて、つい真鍋の口もほころぶ。

「真鍋さんも笑うんだ ?って、何がおかしいんですか」

「いや ?別に自意識過剰なんかじゃないよ。本当に仁科は格好いいと思う」

その言葉に嘘も偽りもなかった。別に真鍋は仁科の外見だけに触れたわけではない。

目に見えぬように人を気遣っているところも、友達想いであることも。

一途なまでに人を愛して、その傷は自分だけで抱え込んでしまう。臆病といえば臆病なのかもしれないが ?その一言で片付けたくはなかった。

第7夜

「 ?でも、好きなやつ一人落とせないなら、意味がない」

ポツリとつぶやいたそのたった一言に、仁科の抱えている全ての苦しみが刻み込まれているような気がする。

正直真鍋は迷った。これ以上彼の心を暴いてはいけないような気がする。

仁科とは深い関係ではない以上、そっと一晩眠らせておいたほうがいいのかもしれない。それで、何もなかったかのように帰してやればよいいのだ。

だが ?それでは仁科が独りだ。同性を好きになったという性質上、クラスメートには相談せず、笑い続けるのだろう。

確かにそれで佐井と佑は幸せなのかもしれない。だが、仁科は?親友の幸せを願うしかない男であっていいのか?

それは違うだろう。仁科だって幸せになってよいはずだ。だが、彼ももう少し前を向くべきなのかもしれない。

たとえそれが仁科の心の全てを知らないから出たものであっても ?。

「真鍋 ?さん ??」

いつの間にか仁科を抱きしめていた。決して仁科は独りではない ?それを伝えたかった。

別に、自分だけで抱え込むことはない。クラスメートに相談できないのなら、真鍋に相談すればいい。子供は子供らしく、大人に甘えればいいのだ。

「 ?同情ですか?」

そんな行動に仁科が非難の視線を浴びせる。最初は何故?と驚いたものの、すぐにその理由の見当は付いた。

性癖を知った上で真鍋が取った行動だからだろう。真鍋が軽い気持ちでそうしたと思っているのだ。

「それは ?分からないな」

同情なんかじゃない ?本当なら否定してやるべきなのかもしれない。だが、それはできなかった。自分の気持ちに嘘をつくわけにはいかなかった。

どうして同情でないと断言できるのだろうか?同じ男を好きになって、失恋して酔いつぶれた ?それで充分理由付けができるのではないか。

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