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作者:日-SIG5 当前章节:7792 字 更新时间:2026-6-23 02:14

「大丈夫、少なくとも私の周りでは、そういう計画とか、聞くことなんてなかったよ」

彼女は、少しほっとしたように見えたが、さらに話を続けた。

「アタシたち、今、そのことについて調べてるんです」

「今回の事件と、関係が深いようだからね」

「え、知ってるんですか!?」

「推測だよ。でも、あの事件の被害者の家族が今度は加害者になってるんだから、普通はそう考えるよね」

湧奈は、頷く。

「資料室には行ったのか?」

「はい、友達に見てもらいました」

「警察署には?」

「行きました」

「うーん……あとは、藤井さんかなあ?」

「藤井さん?」

「今回の事件の加害者じゃなくて、その家族の方。もしかしたら、まだ何か知ってるかもしれないしね」

「あ、そうか!」

湧奈は立ち上がり、言った。

「あの、手伝ってもらえますか?」

「もちろん」

宏忠は答えた。

 次の日、二人は藤井家を訪ねた。呼び鈴を鳴らすと、

『はい、どちら様でしょうか』

意外に、落ち着いた声だった。

「数ヶ月前に伺った推関と笠石です」

宏忠は、『BAKU』という言葉を使うのを避けた。

『あ、はい』

相手は、普通に対応した。ただ、扉を開けて出てきたその人は、以前あった時よりも窶れて見えた。

「何のご用でしょうか?」

さすがの宏忠も、戸惑っているようだ。

「十年前の事件について、聞かせてほしいんです」

湧奈が言った。

「え……?」

相手は俯いてしまった。

「笠石さん……」

宏忠が止めようとしたが、湧奈は続けた。

「アタシも大切な人を失っています。だから、辛い気持ちは、思い出したくない気持ちは、分かっているつもりです。でも、お願いします!その事件を解かないと、アタシは失った仲間の信じた会社を信じることができないんです!胸を張って、この会社の社員だって言えないんです!」

今まで思っていたことを、全部吐き出した。

「……」

この被害者の妻であり、加害者の母は、俯いたままだったが、不意に顔をあげて言った。

「……私も、あの事件を有耶無耶にしたくありませんでした。でも、結局、解決しなくて……私は、何を話せばいいんですか?」

ほっと息を吐き出してから、今度は宏忠が口を開いた。

「以前、私が奈々子ちゃんのことで伺った時、沙奈さんのことについて『勘違いしている』と仰いましたよね?何か根拠があるのかと思ったのですが……」

母親は、何かを思いだしたようだった。

「中へ」

そう言って家の中へ走っていった。二人があとを追って中に入ると、もう、母親は何かを持って、階段を下りてきていた。

「これ……」

息切れしながら、彼女はそう言った。

「?」

睡眠薬だった。

「ご主人が使っていたものですか?」

「はい……」

息を整えながら、母親は答えた。

「あの日だけ、使っていなかったんです。それを私の母に言ったら、この薬に依存していたんじゃないかって、だから私は、自分をそう納得させていたんです」

「なるほど。しかし、禁断症状がでたとしても、いきなり死に至るとは」

「待って……ください」

突然、湧奈が言った。

「え?睡眠薬って、一日で効果消えるんじゃ……」

彼女が何を言っているのか分からず、宏忠は問い返す。

「ご主人はその日、飲んでいないという話をしているんだぞ?」

「でも、警察の簡易検査では、睡眠薬がはっきりと確認されてました!」

「!?」

少し間を空けて、宏忠が訊いた。

「睡眠薬を使わなかったということは、警察には言いましたか?」

「はっきりとは覚えていませんけど、確か、『普段から睡眠薬を使っていたか』って訊かれて、『はい』って答えただけだった気がします」

「……と、なると」

「誰かに大量に飲まされた可能性も……」

と、ここで湧奈の携帯が鳴った。

「あっ、すいません!」

見ると、修斗からのようだ。

「推関さん、修斗からなんですが……」

「でて」

湧奈は通話ボタンを押す。

「もしもし……」

『もしもし、湧奈、今、悟から連絡があった!』

「えっ!何て?」

『BAKUに見学にきた人の中に、文佳の恋人がいた』

「!?……な、名前は?」

『煤土准太(すすどじゅんた)』

「あのっ、煤土准太って知ってますかっ?」

これは母親に向けての問いだった。

「准太……あ!」

「知ってますか?」

「確か、文佳が付き合っているって……何度か家に来たことがありました」

『おい、お前今どこに』

「ゴメン、またあとで!」

修斗にそれ以上言わせず、湧奈は通話を切った。

「事件の日には来ていましたか?」

宏忠が訊いた。

「あ……」

8,真実

 彼は電話を受けた。

「もしもし」

『もしもし、私』

「文佳か。捕まったって聞いたけど、電話なんてかけられんのか?」

それには答えず、文佳は続ける。

『私、もうすぐ死刑なんだ』

しかし、その声はとても落ち着いていた。

「そうか……」

男は不気味な笑みを浮かべた。

『……あのさ、私の実家に睡眠薬あったよね?』

「?」

『お父さんの遺品っていうと、あれが一番に思い浮かぶの』

「……」

『最期はそれ飲んで死んだ方がいいって言ったら、許してもらえてね。でも、お母さんに探してもらったら、ないって言うの。あの睡眠薬じゃなきゃ意味ないのに、なくしちゃったんだって。だから、結局絞首刑』

「……それは残念だな。でも、遺品はなくなってねえよ」

『え?』

男はそのまま立ち上がり、側にある机の引き出しの奧に手を突っ込みながら、続ける。

「なくなったのは、お前の父さんのやつじゃねえ」

『何言ってるの?』

「お前の父さんの使ってたのは、俺が持ってる」

男はようやくそれを見つけ、手に取る。

『!?……どういうこと?』

「お前だってBAKUの社員を殺したあと、ナイフは部屋に持ち帰ったろ?同じさ」

『ってことはアンタがお父さんを……』

「ああ、だいぶ飲ませてやったからな。よく寝られただろ?」

『許さない!』

「しかし、お前はすぐ死刑。死刑になるやつの話なんて誰も聞きやしないと思うけどな」

『……』

「じゃあな」

男が通話を切ろうとした、次の瞬間、扉が破られた。

「!?」

「准太、お前も終わりだと思うけどな」

悟が言った。

「くそっ!謀りやがったな!?」

 そう、これは悟の作戦だった。前の日、湧奈たちから話を聞き、睡眠薬を調べたが、彼の指紋は見つからなかった。しかし、それを使っていたはずの被害者の指紋もないことが分かった。すり替えられていたと考えた悟は、文佳にそのことを話し、半信半疑の彼女に電話をかけさせたのだった。

 准太は部屋の奥へと逃げた。

「無駄だ!行くぞ!」

仲間たちと共に、悟はそれを追う。と、突然准太が襲いかかってきた。

「……っ!」

思わず身をひいた悟の頬を血が流れる。

「通せよ」

准太は両手にナイフを持っていた。

「通せるわけねえだろ。お前、何人の人泣かせたと思ってんだ!」

「知るかよ!」

再び准太が攻撃してきた。悟はそれをかわす。

が、一撃が腕を掠めた。

「ぐっ……!」

「おら、どけよっ!」

准太が、一歩踏み込んだ。しかし、悟しか見えていなかったようで、他の警官に気がつかず、回り込まれて取り押さえられた。

「くそっ!放せっ!」

「終わったな……」

悟が負傷した腕をもう片方の手で押さえながら、呟いた。

 BAKUの社員代表として、警察署に来た湧奈たちは、准太と対面した。文佳と、彼女の母親もいた。悟も准太の隣についている。

「結局、みんな、お前の計画だったってことか?」

「……」

悟の問いに、准太は答えない。

「文佳の父さんをお前が殺し、それをBAKUによるものだと文佳に思わせる。そして自分は社内見学に行き、BAKUの情報を文佳に送り、BAKU社員を、伸羅を、殺させた」

「……」

「社内見学の時の、他のメンバーは」

「あいつらは関係ねえ」

准太が口を開いた。

「……お前は、何でBAKUを恨んでるんだ?」

「BAKUに入れなかったから」

「え……それだけ……?」

湧奈が言った。

「あの後俺は何をやってもだめだった。住むところはあった。親の家が。……もう親はいねえけど。だけど、食事する金もなかった。……そんな時に、文佳に会った」

「私を、殺人の道具として、使った……!?」

「ふざけんなよ……!」

湧奈は強く拳を握りしめた。准太を睨みつける。

「俺はもう満足だ。死刑で構わない」

「開き直んな!」

「うるせえ女だな」

湧奈は、我慢の限界だった。

「こっ……!」

「止めろ」

宏忠が押さえた。が、湧奈は振り解いて、准太に向かっていく。

「待てっ、だめだ!」

宏忠以外の人間は湧奈の気迫に凍りついて動けない。湧奈は強く握った拳で殴りかかった。

「会社のためでもあるんだ!」

湧奈の手が止まる。宏忠は続けた。

「君が背負っているものは、君が思っている以上に大きいんだ。君の拳は、BAKUの拳だ。それを使ったら、マスコミは何て報道すると思う!?」

湧奈は殴りかかるそのモーションのまま、答える。

「『BAKUの社員が、暴力を振るった……』」

「そういうことだ」

「でもっ、それでもっ……!」

彼女はその手を握りしめたまま言う。

「駄目だ。君のためにもよくない」

「ぐっ……あっ!」

不意に、湧奈が手を開き、その場に崩れ落ちた。

「どうしたのっ!?」

明里が声をかけると、湧奈は泣き出した。

「『恨むな』って、伸羅がっ!」

「えっ?」

「そうだな」

宏忠が納得したように頷いた。

「え、何、どういう……?」

「北郷君が笠石さんに遺した言葉、湧奈さんに『自分を恨むな』って意味で言っただけじゃなくて」

「『人を恨むな』って、もっと広い意味だったんだ……」

湧奈は泣きながら言った。

「分かった……伸羅、分かったよ……」

 数分後、湧奈は立ち上がって、准太を見て言った。

「死なせなんかしない。罪は生きてちゃんと償ってもらう」

「ちっ……!」

准太は舌打ちしたが、それ以上何も言わなかった。

「私も……」

文佳だった。

「うん。伸羅の分までちゃんと生きて償ってもらうよ。悟!しっかりやってよ!」

湧奈は涙を手で拭いながら言った。

「おう、まかせろ!」

 数日後、准太は無期懲役、文佳は懲役十五年が決まった。

9,終章

 BAKUは元通りになった。事件も解決し、社員の恐怖も収まってきた。湧奈はその分頑張らなくてはならなくなったが。

 事件解決から一週間たったある日、湧奈は藤井家を訪れた。

「こんにちは!」

「ああ!バクさん!」

奈々子が彼女を迎えた。

「いや、アタシはバクじゃないから……アタシは湧奈だよ」

「湧奈?」

「うん」

「ああ、どうも」

彼女の母親が現れた。

 家に入れてもらい、お茶を飲みながら、二人は話した。

「ありがとうございました。十年前の事件まで解決してくださって」

「あ、いえ、アタシは、別に……」

照れながら、湧奈は応える。

 と、そこに沙奈が入ってきた。

「あっ……こんにちはー」

「……」

沙奈はしばらく黙って立っていたが、

「……すいませんでした」

呟くようにそう言い、

「え?……あ、いえ、気にしないで」

湧奈の言葉が終わる前に、二階に上がっていってしまった。

「すいません……」

「あ、いや、ホント、もう気にしてませんから!」

湧奈は心からそう思っていた。沙奈も反省しているのだ。それ以上何か言う必要などないだろう。

「じゃ、アタシ、お墓参りに行くんで、失礼します」

伸羅の墓は、BAKUの会社から、さほど遠くないところにある。湧奈は墓に花を添えた。

「伸羅、来たよ。事件解決したよ……」

しばらく、そうして墓に向かって話しかけていたが、目頭が熱くなってきたので、止めた。

「……アタシ、頑張るから。……ありがとね」

最後にそういって、湧奈は会社に戻った。

 彼女の仕事場には、修斗が来ていた。

「修斗、どうしたの?」

「ああ、ちょっとな」

と、そこに別の社員がやってきた。

「これ、今とってきたやつ。頼む」

「ああ」

その社員から夢の入ったディスクを受け取ると、修斗は部屋を出ていった。

「どうしたの?」

「よく分かんないけど、夢を仕分け班にもっていってくれるっていうから」

「?」

 修斗は、自分の仕事場に戻り、机の引き出しを開けた。そして封筒を取り出すと、その中に先ほどのディスクと一枚の紙を入れた。

「さてと……」

 要は、突然部屋に現れた修斗を見て、心底驚いた。

「ど、どうしたの?」

「ああ、夢もってきた」

「え?でも矢波君は配達班じゃ……」

が、修斗はそれ以上何も言わず、夢の入った封筒を要に渡すと、部屋を出ていった。

「……あ、これ……!」

要が修斗に渡した封筒だった。中に入っていた紙を開いてみて、思わず要は笑ってしまった。

「何コレ……」

丸が書いてあるだけだった。しかし、要は笑い続けていた。周りの社員は何事かと不審がっていたが。

 自分の仕事場に戻ってきた修斗は

「どこ行ってたんだ?」

雅史に訊かれ

「配達とお知らせ」

素っ気なく言い、そのまま仕事に出ていった。

 宏忠は、久しぶりに他の班を回っていた。数年前とは、大分変わっていることに気づいた。

 社内が明るくなった。若い班長が多くなってきたことが、その理由の一つだろう。応対班の音沢阿佐美は、今日も冷静ながら、部屋を和やかな空気で満たしているし、編集班の平河隆介も元気がある(……と、宏忠が思ったのは、隆介が明里から逃げているのを見たからである)。

「この会社の未来は明るいな」

 たった今、午前〇時を回ったところだ。ある家の屋根の上に、湧奈はいた。

 湧奈は、ウエストポーチから夢のコピー機をを取り出して、屋根に取り付けた。そして数分後、すぐに取り外して、またポーチに仕舞った。それが済むと彼女は屋根から飛び降りた。が、物音一つ立てず、軽やかに着地した。

「何してるの?」

「!?」

幼い声に彼女はかなり驚いた。

「こっち」

今彼女がいた家の隣の家。その窓から幼い女の子がこちらを不思議そうに見ていた。

「あちゃあ……起こしちゃった?」

湧奈は片手を頭に当てて言った。

「ううん。眠れなくてずっと起きてたの」

「そうなの。……アタシはBAKUの社員なの。夢をみんなに届ける仕事をしてるんだよ」    

                                         〈完〉 

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