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第4章 繋がらない点と線

作者:日-竹下義朗 当前章节:2895 字 更新时间:2026-6-23 02:02

 10月16日、金曜日、午前10時── 。

 木村未来から深山の住所を知らせる電話が入った。俺は午後一、深山の住んでいる新宿区河田町(かわだちょう)へと向かった。JR新宿駅西口から練馬車庫行きの都バスに乗り、薬王寺町(やくおうじまち)のバス停で降りる。外苑東通りから一歩路地へ入ると、ここが同じ新宿区なのかと思える程、閑(しず)かで、まるでここだけ時間が停まっているかのようだ。バス停から5分程歩いただろうか? 深山の自宅はひっそりと佇(たたず)んでいた。築何年なのだろう? 古びた木造家屋からすると、深山はここで生まれ育ったのだろうか?

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 深山の家を眺めていると、いつの間(ま)に現れたのか、初老の男性が俺に声を掛けてきた。

「明夫ちゃんの知り合いかい?」

「あ、はい、まあそんな所です。ところで、おじさんは、ご近所の方ですか?」

「ああ、そうだよ。生まれも育ちもここ河田町さ」

「それじゃ、深山さんの事はよくご存じで?」

「存じてるも何も、明夫ちゃんが生まれた時から知っているよ。そう言やぁ、昔はよく遊んでやったなぁ」

「深山さんってどんな人ですか?」

「どんな人って ?あんた、明夫ちゃんの知り合いなんだろ?」

「それはそうなんですが、付き合いがまだ浅くて、知らない事の方が多い位なものですから ?」

「明夫ちゃんは素直で優しくて明るい子だったよ。でもなぁ、あんな事があってから人間変わっちまったなぁ」

「あんな事って何ですか?」

「6年前、妹のせっちゃんを亡くしたんだよ」

「せっちゃん?」

「そう、せっちゃん。節子って言うんだけどね。明夫ちゃんとは四つ違いで、明夫ちゃんと同じで素直で優しくて明るい子だったよ。結婚して幸せそうだったんだけどなぁ」

「その節子さんは何故亡くなられたんですか?」

「それがさ、自殺なんだよ」

「自殺? 何故、自殺なんかされたんですか?」

「さぁ、なんでだろうなぁ ?夫婦仲も良さそうだったし、俺にもなんで、せっちゃんが自殺したのか、まるで見当がつかないんだよ」

「 ?」

「でも、せっちゃんを亡くして以来、明夫ちゃん、変わっちまったなぁ」

「 ?」

「すっかり笑顔を見せなくなっちまったし、おまけに10年も勤めた会社を急に辞めて転職しちまうんだもんなぁ」

「その転職の事なんですが、深山さんは以前、仕事は何をされていたんですか?」

「会社はなんて言ったかなぁ ?あ、そうそう。帝通だ。そこで課長していたんだよ」

「エッ、帝通って、あの広告代理店大手の? 深山さんはそこの課長だったんですか?」

「そう言やぁ、今思い出したよ。明夫ちゃん、同期入社で真っ先に課長に昇進したとかで、わざわざ俺の所に報告しに来たんだから。あの時は本当に嬉しそうだったよ」

「でも、何故わざわざ帝通の課長だった深山さんが転職なんかしたんですか? 同期の中では一番の出世頭(がしら)だったんですよね? その儘(まま)勤めていれば、いずれは幹部じゃないですか?」

「そうなんだよ。あれだけ課長になった事を喜んでいた明夫ちゃんが、なんで辞めちまったのか。それが俺にも分からないんだよ」

 仕事で余程大きなミスでもしたのだろうか? それとも、社内で使い込みでもしたのだろうか? いや、木村未来の話ぶりからすると、深山がそんな事をするような人間には到底思えない。

「ところで、節子さんの事ですが、ご主人だった方のお名前はご存じですか?」

「ああ、よく憶(おぼ)えてるよ。せっちゃんの亭主は北村康隆(やすたか)君と言ってね。せっちゃんとは明夫ちゃん家(ち)で知り合ったんだよ」

「それはどう言う事ですか?」

「明夫ちゃんと康隆君は東都大学の先輩、後輩の間柄でね。康隆君は、よく明夫ちゃん家(ち)に遊びに来ていたんだよ。そこで、康隆君が同(おな)い年のせっちゃんに一目惚れして ?まあ、せっちゃんも性格のいい康隆君の事が好きになって交際が始まったって訳さ」

「深山さんは二人の交際をどう思われていたんですか?」

「そりゃ、大賛成だったさ。なんてったって、明夫ちゃんと康隆君は大学卒業後も一緒に山登りへ行くくらい仲良かったし、こいつなら妹を安心して任せられるって思っていたからなぁ」

「エッ、山登り? 深山さんは山登りされていたんですか?」

「そりゃ、山くらい登るさ。だって、明夫ちゃんと康隆君は大学時代、ワンダーフォーゲル部だったんだから」

 深山が山登りをしていたとは ?これで、彼の体が筋肉質だった理由(わけ)も分かった。あの体は登山で鍛えられたものだったに違いない。

「最後にもう一つだけお聞きしても宜しいですか?」

「ああ、なんだい?」

「北村さんのお住まいはご存じですか?」

「康隆君は練馬区桜台のマンションにせっちゃんと一緒に住んでいたんだけど、せっちゃんがあんな事になっちまって居(い)たたまれなかったんだろうなぁ。生まれ故郷の信州松本へ帰って、今は親父さんの建築設計事務所で働いているって言う話だよ」

「そうですか ?」

 俺は初老の男性に礼を述べ、その場をあとにした。

 バス停まで歩きながら、俺は深山が山登りをしていた事が妙に引っかかった。ひょっとしたら、藍沢の名前で涸沢小屋と北穂高小屋に泊まったのは深山だったのか? だとすれば、筆跡確認を渋った理由(わけ)も分かる。しかし、深山が北穂高小屋に泊まったのだとすれば、俺が初対面の深山の顔を見て、何も思い出さない筈が無い。第一、遺体で見つかった藍沢の事もある。藍沢は上高地で登山届を出した後、本当に涸沢小屋、北穂高小屋を経て、奥穂高岳へ向かう途中で滑落したのだろうか? もしそうだったとしても、何故、涸沢小屋と北穂高小屋の宿帳に残されていた筆跡が彼のものでは無かったのだろう? いや、そもそも彼は単独で行動していたのだろうか? 繋(つな)がりそうで、なかなか繋がらない点と線にもどかしさを感じる。これは、まだまだ色々と調べてみる必要がありそうだ

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