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■■ 鈴が鳴る! ~第十四回~ ■■

作者:日-紅子 当前章节:4588 字 更新时间:2026-6-23 04:52

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「アンタが降参するっていうんなら、苦痛は最小限で封印してあげる。

 でも抵抗するのなら、容赦はしない。頭を握り潰して、首を引きちぎってやる」

 判断に迷った。

 魔女はかなりの傷を負っている。

 立っているのがやっと、反撃する力も殆どないだろう。

 なのに、この降伏勧告とも取れる言葉。

 真意を測りかねる。

 まだ余力があるのか。それともブラフか。

 視線をくまなく走らせ、状況を分析する。

 体型はわずかに大きくなった。しかし、魔力の匂いはない。

 なるほど。こうして時間を稼ぎ回復を図る手か。

 そんな子供騙しが通用するとでも思ったか。

 魔女と言っても所詮は人間。愚鈍で臆病で脆弱な生き物だ。

 先ほどは予想外の反撃を受けたが、それももう覚えた。

 爪で薙ぎ払い。牙で止めを刺す。

 リンが足を引きずりながら、一歩踏み出した。

 何気ない動きに、無意識に身体が動いた。

 大きく後ろに跳躍。間合いをとる。

 魔獣としての本能が危険を告げている。

「ぐるるるるるるぅぅぅぅ」

 呻きが漏れた。牙を伝い涎がポタポタと落ちる。

 もう一度、闇の中に繋がれるのは御免だ。

 魔女は弱っている。このまま殺せるはずだ。

 ブラフに引っかかってどうする。

 理知的な部分が心を奮い立たせる。

 本能に従うか。知性を信じるか。

「結論は出た? ちっこい脳みそをフル回転させて、ちゃんと考えたんでしょうね」

 吼えた。

「ふうん。そうなんだ」

 魔女の顔に小さな驚きと、やや嬉しそうな色が見えた。

 自分は動物ではない。魔獣としてのプライドが、盲目的に本能に従うのを拒否した。

 だが、魔女にも何らかの手があるのだろう。それは解る。

 この状況なのだ。とっておきの秘策に違いない。

 ならば、自分はその上を行かねばならない。

 力ではなく知恵でも魔女を超えるのだ。

 魔女は自分を力が強いただの獣と見下している。その傲慢さが隙だ。

 布石は既に打ってある。

 分体。

 魔女の知らない力だ。

 自分は身体の一部を切り離し、短時間なら動かす事ができる。

 先ほど吹き飛ばされた頭の破片は再生し、周囲の空間に潜み命令を待っている。

 牙を備えた分体は十分に必殺の威力を持つだろう。

 魔女を取り囲み一斉に攻撃を掛ける、と同時に本体である自分も間合いを詰め飛び掛る。

 どれほどの体術があろうが、どれほどの魔術が使えようが、一溜りもあるまい。

 リンの方が動いた。

 右足を引きずりながら、歩を進める。

 まっすぐ。最短距離で。

 猟犬が地を蹴った。左右に大きくステップを使い、三度目の跳躍で魔女に向かう。

 今まで以上に高い位置からの攻撃。

 リンの視線が空中の猟犬を追う。

 今だ。

 猟犬が吼えた。空間がビリビリと震える。

 その声に反応して、リンの周囲で無数の影が生まれた。

 大人の拳くらいはある球体。表面には刃物のような鋭い突起を備えていた。

 上下左右から、一斉にリンに襲い掛かる。

 十分な速度を持つそれらは、必殺の威力を持っているだろう。

 勝った。

 魔女の敗因は、己の力を過信した事にあった。

 自慢の牙で止めを刺す。

 口を開き、そこで。

 グラリと身体が揺れた。

 状況を確認するよりも早く、視界が狭まった。

 がくんとした反動が首に掛かる。

 何が?

 頭に何か触れている。いや、掴まれている。

 細く柔らかい感触。

 振り払おうと腕を。違和感が。肩口に。

 小さな含み笑い。すぐ近く。

 目を動かして、それを追う。

 アーモンド型の瞳とぶつかった。

 魔女に。掴まれて。頭を。

 混乱している。落ち着け。何が起こっているのだ。

「ほんと、気の毒ね」

 溜息交じりの呟きが聞こえた。

 たかが犬コロの分際で、魔女であるアタシに牙を剥くなんて。

 怒りを通り越して、愉快になってくる。罠を貼っているつもりなのは明白だった。

 なら、それにに乗ってやろう。

 己の愚かさをじっくり解らせてやる方が楽しい。

 右足を引きずりながら、間合いを詰める。

 進路はまっすぐ。最短距離。

 猟犬が地を蹴った。右左に一回ずつ、次の跳躍で大きく跳躍した。

 通常の相手なら目で追うので精一杯だろう。直線的な攻撃よりは工夫が見える。悪くない。

 吠えた。

 と同時に周囲の空間が歪む。

 十センチ程度の球体が滲み出た。数はかなり多い。

 それぞれがランダムな軌道を描きながら、突っ込んでくる。

 分体。吹き飛ばした頭の破片から生んだのか。

 こんな能力を持っているとは知らなかった。

 表面に備えたスパイクは鋭い。当たると致命傷だろう。

 正直、失敗したと思った。

 左手だけで十分に勝てると言ったのは間違いだった。

 使えない右手でも釣りがある。そう宣言してやるべきだった。

 その方が下手に希望を持たせずに済んかもしれない。

 ホンの少しだけ不憫に思った。

 左の指先を小さく動かす。

 体内の魔力を微かに放出して、魔力の防壁を生む。

 迫っていた球体が一瞬にして全て吹き飛んだ。

 次は本体か。

 視線を上に向ける。

 猟犬は跳躍の最高点に達そうとしていた。

 なるほど。分体と本体の同時攻撃のつもりだったのか。

 狙いは悪くない。だが、タイミングがずれている。

 これでは時間差攻撃になってるぞ。

 もっとも完全な同時攻撃だったら、さっきの防壁で本体も四散していただろう。

 そういう意味では運がいいのか。

 違うな。

 運が悪いんだ。

 指先を小さく弾いて、空間に断層を作り猟犬に放つ。二回。狙いは両腕。

 猟犬の腕が、肩から千切れた。

 ご自慢の武器もこの程度だ。

 分体の事もある。消し去っておくか。

 ぱちんと指を鳴らす。

 両腕付近の重力をコントロールして、一瞬で磨り潰した。

 これでよし。

 空間座標を書き換え、猟犬のすぐ近くに転移する。

 猟犬の口元から牙が覗いていた。

 勝ったつもりでいるんだろうな。

 猟犬程度ではこの動きにはついて来れない。

「ほんと、気の毒ね」

 呟きながら、無傷の左手を猟犬の頭に伸ばす。

 空中。足場のない空間にリンの身体が浮いている。

 左手はしっかりと猟犬の頭を掴んでいた。

 整った唇が小さく開いて、くすくすと笑いを漏らす。

 手の下で幾つもの目が忙しなく動いているのを感じる。

 動転している。焦っている。恐怖している。

 それが楽しかった。

 だから、もう少しからかってやろうと思った。

 耳元にそっと顔を近づけて、柔らかな声で告げる。

「ちょっと予定変更するわ。ごめんね」

 微かに力を込める。

 猟犬が苦痛に呻き、身体をよじった。

 だが、その程度は抵抗にすらならない。

 ちらりと鳴海に視線を移す。

 急速に力を引き出した反動で眠っている。安らかな息を立てていた。

 それでいい。残酷な部分を見せないで済む。

「先に引き千切る事にしたから」

 大きく腕を振った。右から左。左から右。

 猟犬の巨体が、重いはずの身体が、まるでヌイグルミのように軽々と空中で踊る。

 少しずつ速度があげながら、何度も何度も振り回す。

 リンの力と重力の綱引きに耐え切れず、首がありえない方向に曲がり、

めちめちと音を立てた。

 猟犬の上げる苦痛の呻きを耳に、鼻歌を漏らしながら、ぶんぶん振り回した。

 かなりの時間がかかった。ついに首の付け根が裂け、千切れた。

 魔獣の生命力というべきか。首から下を失ったというのに、辛うじて息があった。

 時間を掛ければ、身体を再生させられるだろう。

 だが、その誇るべき力も、この状況では苦痛を長引かせるだけだ。

「じゃあ、次は約束どおりに、頭を……ね」

 頭を掴む力がだんだんと強くなっていく。

 締め付けられる。骨が軋む。

 眼球が潰れた。一つ、二つ。

 頭部に並んだ無数の目が、圧力で次々と割れていく。

 できる限りの言葉を並べた。知りうる限りの単語を口にした。

 プライドも何もなかった。ただ生きたいという本能が、ひたすらに命乞いをさせた。

 不意に力が緩んだ。

 助かったのか。微かな希望に全力すがりつく。

「ちょっとは期待した?」

 嘲りを多分に含んだ口調は、何よりも雄弁に猟犬の運命を語っていた。

 絶望に凍りつく猟犬の顔に満足そうに頷くと、最後の力を込める。

 乾いたあまりにあっけない音。猟犬の意識はぷっつりと途絶えた。

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