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■■ 鈴が鳴る! ~第一回~ ■■

作者:日-紅子 当前章节:3216 字 更新时间:2026-6-23 04:52

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 ぶっちゃけありえない。

 今、自身の置かれた状況を、端的且つ詩的に表現するとそんな感じだった。

 ぶっちゃけありえない。

 神楽坂 鳴海(かぐらざか なるみ)は、集まる視線の重圧に、ごくりと唾を呑む。

 恐怖で喉が張り付いて声が出ない。

 ぶっちゃけありえない。

 ここは薄暗い洞窟の奥。

 足元に転がった懐中電灯の小さな光が照らし出す視線の主達は異形だった。

 蝙蝠を不器用に大きくした獣や、巨大な牙を見せる真っ黒な犬。

 顔の真ん中に大きな目を付けた子供。中世の騎士の如き甲冑姿。

 老人の首を持つ鼠。人の顔が浮かぶ火の玉。

 ぶっちゃけありえない。

 常軌を逸するにも程がある。

「どう見ても人間だ」

「こいつが封印を破ったのか?」

「ただの小僧にしか見えんが」

「とにかくアタイ達を自由にしてくれたのは、この坊やってことさね」

 口々に漏らす言葉が、鳴海の耳にぼんやりと聞こえる。

「ウマソウダ。オレ、ハラヘッタ」

 馬の頭をした巨漢が涎を撒き散らすのを、近くの小鬼が不愉快そうに見ている。

「ミンナイラナイ。ナラ、オレクウ」

 物騒な方向に話が進んできた。

 鳴海はようやく自分の立場の危うさを認識する。

 逃げなければ! しかし完全に抜けた腰は動く事もままならない。

「ま、構わないんじゃないかね。依存のある者はおるかね」

 青白い顔の老人が周囲を見舞わず。

 頷いて同意を表す者も居るが、大半は興味がないのか特に気にする様子もない。

 自分の運命を決めるには、あまりに簡単な決議だ。

 不平を漏らしたくなるが、それよりも何とか逃げないと。

 ずるずると両手で身体を引きずりながら、少しでも距離を空けようと試みる。

「オレ、クウ」

 馬面が人の胴体程の太さを持つ腕を伸ばし、足元で這いずっている鳴海の襟首を持ち上げる。

「ひぃぃぃぃ~。ぼぼぼぼぼぼボクなんか食べても、美味しくないですよぉぉぉ」

 ようやく言葉が出た。

 震えてか細くなんとも情けない物だが、ようやく自分の意見を口にできた。

「お待ち」

 凛とした声。

 派手な着物に身を包んだ女性だった。

 白く輝く肌が、大きく開いた胸元から見えている。

 鳴海も立場を忘れて見とれるくらいの妖艶さが漂っていた。

「ジャマスルカ」

 馬面の声に敵意が満ちる。

 地獄に仏とはこの事かも知れない。

 クモの糸に懸命にしがみ付くカンダタの気持ちが、鳴海には痛いほど良く判った。

「別にそんな気はないけどね」

 ため息交じりに、ぷっつりと糸を切る。

「アンタがそのガキを喰いたいってんなら止めやしないけど」

 顎を軽く動かして、周りを見てみるよう注意を促す。

 先程より化け物の数が減っていた。

「頭の良いヤツは、もう行っちまったよ。

 封印が解かれた事を、あのガキが気づかないハズがない。

 いや、もう近くまで来てるのかも知れないね」

「ムウゥ」

「折角、自由になれたんだ。すぐに捕まるのは、遠慮したいだろ」

「ソノトオリダ」

 馬面が大きく頷いた。

「ニンゲン。ウンガヨカッタナ」

 いや、十分に悪いと思いますよ。

 そんな馬鹿な軽口を飲み込み、懸命に首を上下に動かす。

 無造作に馬面が手を離した。受身もとれず、腰から着地する。

「うぅぅ。痛たた」

 泣きそうになりながら、腰を擦る。

 と、目の前で馬面の姿が空気に溶けていく。

 今まで見てたのは幻覚だったんだよ。誰かがそう言えば、信じられるだろう。

「さてっと、アタイもそろそろ行かないとね」

 しなをつくるように、身体をくねらせながら、着物の女性が告げる。

「あ、ありがとうございました」

 とりあえずは彼女に助けられた格好になる。深々と頭を下げた。

「気にしないでおくれよ。結果が変わる訳じゃないんだからさ」

「はぁ」

 後半の意味が良く理解できないが、とりあえず曖昧な返事をしておいた。

「じゃあ」

 女性の腕が首に伸びてきた。驚く鳴海に小さな微笑を向けると、ぐいっと抱き寄せる。

 色白のきめ細かな肌がすぐ近くにあった。息をするのも忘れてしまう。

 女性の細い指が、鳴海の首元をから胸元に向かって、ゆっくり撫で下りていく。

 処理情報が脳のキャパシティを超え、暴走しそうになる。心拍数が際限なく上がる。

 胸の中心で止まった。

「うふふ。元気じゃないか」

 色っぽい声に意識がとろけそうになりんがら、鳴海は視線を落とした。

 それは信じられない光景だった。女性の手が胸の中に吸い込まれいく。

 じんわりとした違和感が、次第に大きくはっきりとした苦痛に変わる。

 なんとか振り払おうとするが、身体が麻痺して動かない。

「ちょっと気の毒な気はするけどさ」

 女性が手を抜いた。その手に、赤い楕円形の何かが握られていた。

 一定のリズムで動く、それは! まさか! そんな!

 女性が抱擁を解いた。自分の体重が支えられず、よろよろと腰が落ちる。

 胸元から信じられない量の液体が流れていた。弱い光に照らされたそれは赤い。

 女性の口元から、二股に分かれた舌が伸びた。ちろちろと、それを舐める。

「まあ、運が悪かったって事さね」

 不自然なくらい顎が開き、それが飲まれていく。

 それは蛇が卵を呑むシーンを思わせた。

 ぶっちゃけありえない。

 体温が、力がどんどん抜けていく。視界の色が薄れていく。

 こんなトコで全て終わってしまうのだろうか。

 ぶっちゃけありえない。

 先週買ったゲームはまだクリアしてないし、友人に貸した本だってまだ返ってきてない。

 部屋の机の上には作ってないプラモがあるし、恋愛だってまだしてない。

 死にたくない。死にたくない。死にたくない。

 死にたくない。死にたくない。死にたくない。

 狭くなっていく視界に、抵抗しようとするが、その引力は圧倒的だ。

 指先すら動かせなかった。

 意識が闇に呑まれていく。

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