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■■ 鈴が鳴る! ~第二回~ ■■

作者:日-紅子 当前章节:3033 字 更新时间:2026-6-23 04:52

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 『県立藤見野(ふじみの)高校』。

 全校生徒は約千五百人。ゆったりとした校風と盛んなクラブ活動で人気のある学校だ。

 グラウンドの東西南北を囲む校舎は数年前に改装を終え、鉄筋コンクリートの真新しい物

に変わっていた。

 東校舎の近く。グラウンドから見て校舎裏に当たる場所に、縦長の簡素な建物がある。

 改装から取り残されたそれは、歴史を感じさせる場所と言えるかも知れない。

 通称『クラブハウス』。大小五十を超えるクラブの部室が集められた棟。

 この時間になれば、ユニフォーム姿の野球部がバットやボールの準備をしている様子や、

サッカー部が雑談しながらスパイクの紐を結んでる姿が見える。

 もちろん、運動部だけではない。

 開いた窓からは、机に座ってペンを走らせる漫画部の生徒達や、台本を片手に稽古する

演劇部員達も確認できる。

 東校舎の渡り廊下をのんびり歩く男子生徒も放課後の部活に向かう一人だった。

 身長は低めで痩せ型。

 平凡に分けた少し長めの髪とやや下がった目尻は、彼の持つ雰囲気を柔らかい物にしている。

 制服である緑を基調にしたブレザーとパンツはともかく、自由に選択できるシャツに淡い色の

襟付きを選択する点は、よく言えば優等生的な良識を持っているのだろう。

 胸に揺れる神楽坂と書かれたネームプレートはブルー。つまり一年生である事を表す。

「ナルミ、久しぶりにゲーセンよってかねえか」

「ゴメン。部活なんだ」

「最近、付き合いわるーい。っていうかぁ、ナルミってクラブ入ってたっけ」

「先月くらいからね。ちょっと断れない事情があってさ」

「ナルミが、部活で青春か。似合わねぇ」

「あはは、言えてるかも」

「ったくどういう意味だよ」

「ま、しょうがないか。じゃあな。青春少年!」

「部活頑張ってねぇ」

 偶然会ったクラスメイト達と他愛のないキャッチボールをして分かれる。

 ポケットから携帯を出した。

 光沢のあるワインレッド。

 夏休みのバイトで買い換えた薄型のヤツだ。

 時間を確認。やや遅れている。

「掃除当番って言っても許してくれないだろうな」

 憂鬱そうに呟き、クラブハウスに急ぐ。

 と、そこで。

「あの、神楽坂くん」

 背後からのか細い声に足を止めた。

 かぐらざか。長く言い辛いせいか、苗字で呼ばれるなんて滅多にない。

 誰だろう。澄んだ声には聞き覚えがある。しかし、まさかと思う。

 クラスメイトの悪ふざけだろうか。そう考えるのが自然かも知れない。

「あの、神楽坂くん、ちょっといいかな」

 壊れかけたパペットのように、ぎりぎりと首を向ける。

 悪戯ではなかった。

 長い艶やかな黒髪に白い肌。

 大きな瞳とすっと通った鼻が、細身の上品な輪郭に、絶妙なバランスで配置されている。

 健康的な色の唇はルージュではない。天然の物だ。

 赤い留め金のループタイが、色を抑えたシャツに映えていた。

「あのね、聞いてほしい事があるんだけど。時間いいかな」

「か、か、春日さんが僕に」

 勤めて平静を装ったつもりだが、声は綺麗に裏返ってしまう。

「あ、急いでたらいいの。いきなりごめんね」

「ううん、ぜんぜん暇だから」

 首が千切れるほどの勢いでぶるんぶるん首を振る。

「良かった」

 ほっとした様子で微笑む、その表情に鳴海は溶けそうになる。

 春日 弥生(かすが やよい)は、鳴海と同じクラスだ。

 成績も優秀で、運動も得意。手芸部に所属していて、昼休みは編み棒を動かしている時もある。

 その容姿もあるが、明るく面倒見の良い性格で同姓に人気がある。

 もちろん、鳴海達男子生徒にもファンが多い。

 学年の男子達で極秘裏に行われた『彼女にしたい子コンテスト』では、ベストテンに入る程だ。

 その弥生からいきなり声を掛けられた。鳴海の舞い上がりぶりも十分に理解できる。

「あのね」

 やや迷いのある表情。微かに視線を外し、言葉を探る。

 これって告白? 小さな疑問が鳴海の心に浮かぶ。

 いや、そんな虫の良い事があるだろうか。

 成績も運動も凡庸で、外見も普通。何はともあれ、どこにでも居る平凡な学生だ。

 ぶっちゃけありえない。

 だが。

 だが、タデ食う虫も好き好きとの言葉もある。

 こういう素敵な子に限って、彼氏にするなら平凡な人、なのかもしれない。

「いきなりこんな事言われても困ると思うんだけど、神楽坂くんとそんなに話した事もないのに、

 でもふざけてるとか冗談とかじゃなくて……」

 やっぱり間違いない。春日さんみたいな素敵な子が彼女になってくれるなんて!

 鳴海の脳内に花畑が広がり、そこを二人が駆けていく。

 信じられないくらい貧相なイメージが上映される。

「あの、神楽坂くん、聞いてる?」

 はっと現実に引き戻された。上目使いの仕草にドキッとくる。

 まさか聞いてませんでしたとは言えない。

 小さく息を整え、落ち着く為、胸元に手を当てる。

 このシチュエーション。普通の人間なら、心臓が激しいビートを刻んでいるだろう。

 しかし、鳴海はそれを感じる事ができない。

 冷たい現実に背筋が寒くなる。弾んでいた気持ちが沈んでいく。

「神楽坂くん?」

「あ、え、うん。もちろんオーケーだよ」

 気持ちを掻き集めて笑顔を作る。

「良かった」

 弥生が安堵の息をついた。

「今更だけど、ボクも春日さんのコトが……」

「クラスで神楽坂くんだけだもんね」

「へ?」

「蛇ノ目屋のリンちゃんと親しいのって」

 屈託のない微笑みは、鳴海の希望と妄想を木っ端微塵に砕くには十二分な物だった。

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