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■■ 鈴が鳴る! ~第四回~ ■■

作者:日-紅子 当前章节:4030 字 更新时间:2026-6-23 04:52

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鳴海の視界に飛び込んで来たのは、見慣れた天井だった。

 脳がゆったりと覚醒を始める。

 首を動かした。

 漫画が並んだ本棚。ゲームを詰め込んだ棚。まだ隙間の多いCDラック。

 壁際に置いたテレビとビデオ。机の上に詰まれたプラモの箱。

 自分の部屋、ベッドの上だ。

 大きく安堵の息を吐いた。

 リアルな夢だった。

 学校の裏山で奇妙な洞窟を見つけたのは、偶然だった。

 そこに探検に行く。夏休みの最後、暇つぶしにしては魅力的な計画。

 人がやっと通れるような狭い横穴を抜け、ゆるやかな傾斜を長い時間を掛けて下った。

 奥に開かれた空間があり、小さな祠が建っていた。そこで……。

「いたた」

 不意に痛みが走った。胸元を押さえて、違和感を覚える。

 シャツを着ていない。慌てて身体を起こそうとするが、全身が痺れていて上手く動けない。

「目が覚めた?」

 甲高い声。驚くよりも早くベッドの下から、小さな顔が現れた。

 愛くるしい笑顔にどきっとした。

「アタシ、鈴鳴 紅音(すずなり あかね)。リンって呼んでね」

「リン?」

「そそ、鈴が鳴るって書くから、リン。可愛いっしょ」

 鈴の音からだろう。センスは悪くないと思った。

 よいっしょっと、年寄りくさい掛け声と共に、リンが立ち上がる。

 小柄でか細い。小学生に見えるが、緑のブレザーとスカートは藤見野高校の物だ。

「ね、この箱に見覚えない?」

 十センチ四方の小さな木箱。

 鳴海には見覚えがあった。

 あの小さな祠の中に収められた箱。

「あるみたいね」

 とりあえず鳴海は頷く。

「ね、アンタが見た時にさ。ここに封印がされてなかった?」

「え」

「ここに封印がされてあったでしょ?」

 悪寒が走った。リンの声の奥には、質問というより詰問という雰囲気があった。

 可愛い笑顔。先程から変わらない表情が作り物に思えた。

 嘘をついて誤魔化すか、正直に話すか。一瞬、迷った。

「良く解らないけど、縄で縛られてて、変な札が貼ってあった」

「アンタが外したの?」

「中に何が入ってるのか。気になって」

「質問に答えなさい。アンタが外したのね」

「……うん」

「正直でよろしい」

 妙に大人びた仕草で腕を組んで、大きく頷いた。

「でもね」

 すうっと息を吸い、

「何て事してくれたの! このおバカ!」

 信じられないくらいの大声で怒鳴った。

 唖然とする鳴海に、シーツの上から馬乗りになった。広がったスカートを

気にする様子もなく、右手を振り上げる。

 麻痺した身体ではどうにもできない。そこから繰り出される平手打ちを予想し、

覚悟を決める。

 予想は裏切られた。

 ぐーだった。体重が綺麗に乗っていた。速度も申し分なかった。キレも絶品だった。

 小柄な身体からは信じられないくらいの重い一撃。意識が飛びそうになる。

 それだけじゃなかった。

 コンビネーションだった。バランスも崩さなかった。左腕でも威力は変わらなかった。

 十発までは数えていた。鳴海は一方的に殴られ続けた。

「まあ、これくらいで勘弁してあげるわ」

 リンがやれやれという仕草で身体をどけた時には、鳴海の頬は腫れ上がっていた。

 抗議の声をあげようとするが、じんじんと口の中が痛み、言葉にならなかった。

「この箱にはね、妖怪を封じていたの」

 荒唐無稽な話。二十一世紀に妖怪。普通なら声を出して笑っていただろう。

 だが、鳴海はあの箱を開けた時、何が起こったか。実際に体験したのだ。

「厳重に封印術を施していたのに、アンタが開けちゃったのよ」

 悪夢じゃなかった。あの洞窟での出来事を思い出す。

 ぶっちゃけありえない。

 あの禍々しい化け物達は、現実の物だったのだ。

「アタシがもうちょっと遅かったら、アンタも死んでるところなのよ!」

 胸元から溢れる血。そういえば、どうして?

 今更ながらの疑問が浮かんだ。

「まったく、おめでたいヤツね。アンタは『魂喰らい』に心臓を喰われたの」

「魂喰らい?」

「そう、人をたぶらかして、心臓を喰らう化け物よ」

 痺れる手をゆっくり動かし、胸元を押さえる。

 いつもなら感じる振動がない。

「今のアンタに心臓はないわ」

 リンがベッドの脇で腰を下ろして、胡坐を組んだ。

「魂喰らいに喰われた心臓を再生させるのはできない。

 ヤツは相手の心臓というリアリティの一部を喰ってるからね」

「言ってる事が、良く解らないんだけど」

「むむ、そりゃそうか。とにかく、アンタの心臓はアタシの作った代用品で動いてるの」

「代用品?」

「ホントは人造生命体のコアになる物なんだけどね。

 しばらくはアンタの命を維持してくれる」

「しばらくって、どういう事」

「代用品はあくまで代用品って事よ。個人差はあると思うけど、

 長くても一年くらいしかもたない」

 あまりに短い余命宣告に鳴海の頭が真っ白になる。

「い、一年」

「そんな深刻な顔しないの。その前に魂喰らいから、心臓を取り返せればいいだけだから」

「でも、もしダメだったら」

「ま、最悪のケースもあるから、とりあえずは悔いのない生活をしておきなさい」

「そんな!」

 衝撃に跳ねるように身体を起こす。

「アンタ、どうやって?」

 リンに驚きの色が浮かんだ。

「いだだ!」

 痺れが嘘みたいに引いていく。と、途端に激痛が胸に走った。

「なるほど、そういうワケか。ふん、これは使えるかもね」

 妙に納得した表情で頷いた。

「よし! アンタはアタシの助手として働きなさい」

「そんな勝手な」

「なによ。あそこで死ぬトコロだったのよ。恩義ってのを感じないの?」

「そ、それは」

 そう言われると、反論できなくなるのが鳴海という人間だった。

「ふふん。命を助けられたんだから、アタシの手足となって、ボロ雑巾になるまで働きなさい」

 あまりに理不尽。不平を漏らそうとするが、

「返事はどうしたの?」

 キツイ視線に黙らされてしまう。

「……解ったよ」

「なんか不満そうだけど?」

「うぅ」

「ま、その代わりにアタシが、アンタを助けてあげるって」

 そっけないが不思議な安心感が湧く。

 と、今更ながらの疑問が鳴海の中に生まれた。

「えっと、リンちゃんだっけ」

「リンでいいわよ。ちゃん付けなんてガキ扱いされてるみたいで嫌だから」

「じゃあ、リン。君って一体?」

「アタシ、そうね。アンタ達の解りやすい単語なら、魔女ってトコかな」

「魔女?」

 胡散臭い響きに苦笑を浮かべる。

「なに、その顔。忠告しといてあげるけどさ。アタシをバカにするとカエルに変えちゃうからね」

「気をつけるよ。じゃあ、ボクからも一つ忠告」

「なに?」

「気づいてるかも知れないけど、見えてるよ」

「は?」

 組んでいる足を指差す。

 スカートを抑えて、バネ仕掛けの人形よろしく立ち上がる。

 今までの生意気な口が嘘みたい。耳まで真っ赤だった。

 硬く握った拳が小さく震えている。伏せた瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。

 ちょっと気の毒な気もしたが、リンの不注意が原因だ。

 一方的にやられていたが、ささやかな報復に少し気分がすっきりする。

 無言のまま、リンがゆっくりと右手を振り上げた。

 身体が自由でも防ぎ切れなかった。

 ぐーで、体重の乗った、速くて、キレのある。

 どうでもいいが、意外にも白くて可愛いデザインだった。

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