饭饭TXT > 海外名作 > 《ごたごた気流(日文版)》作者:[日]星新一【完结】 > ごたごた気流.txt

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作者:日-星新一 当前章节:15383 字 更新时间:2026-6-16 01:47

ざいます。不正を芽のうちにつむことで、社会をよりよくいたしましょう……」

「わかりました。そうしましょう」

 ちぇっ、もうけそこなってしまった。万引発見で礼金を得るにも、それだけの研

究と努力がいるというわけか。しかし、あんなふうに、監視カメラを逆手にとる妙

な常習犯が横行しているとは……。

「もっと大物をねらうとするか……」

 男はダイヤルを操作する。画面には、指名手配中の逃走犯人の写真がつぎつぎに

あらわれた。各警察間の連絡テレビ用だったものだが、一般の〈有線放送〉に開放

されたのだ。

 それにスポンサーとして保険会社がついた。それぞれに懸賞金がついている。テ

ープの声がそれをしゃべっている。

〈テレビをごらんのみなさま。ダイヤルをお回しになっていて、どこかでこれらの

犯人を発見なさいましたら、もよりの警察にお電話なさって下さい。賞金をさしあ

げます。あなたの繁栄、社会の平穏につながります。それがわが社のねがいなので

す……〉

 いずれもかなりの金額だった。逃走犯人にとって大きな精神的圧迫となっている

だろう。だから、警察も賞金をみとめたのだ。

「一回でいいから、ああいう大物を釣りあげてみたいものだな……」

 男はそう思う。現実に、それで賞金をかせいだ者もいる。偶然の結果かもしれな

かったし、あるいは、ひまと頭と勘とを使って、こういう人物はこう逃げるはずだ

とダイヤルを回して追い、さがし出したのかもしれない。

 しかし、いずれにせよ、男にはそれほどの熱意がなかった。しばらくのあいだ、

犯人発見の空想にひたっただけ。

 それでも、ものはためしと、やってみる。幸運ということだってある。ダイヤル

を回すと、画面に公園があらわれた。

 公園内にはキャッチボール、花を折ることなど、禁止されている行為がある。そ

れを監視するテレビカメラの光景が〈有線放送〉にも流されているのだ。池の金魚

に石をぶつける者はぐんと減った。やはりカメラの効用というべきだろう。

 散歩をしている人びとが見える。あのなかに、犯人がいるかもしれない。男は少

し注意をする。しかし、もちろんそううまく出現してくれるわけはない。

 さっきから、ひとりの若者が、ぼんやりと立ちつづけている。なにをしようとし

ているのだろう。それは、やがてわかった。

 若い女がやってきて、声をかけあい、つれだって歩き、画面から消えた。デート

の待合せだったらしい。もしかしたら、いまの女、若者がいることをテレビでたし

かめ、それから出かけてきたのかもしれないな。このごろは、ちゃっかりした女が

ふえている。

 男の頭には、いまの若者の顔が残っている。そうだ、いまのうちにと、彼はある

ダイヤルに合わせた。警察用の家出人さがしの画面に。

〈これらの人を見かけたら、すぐお知らせ下さい。依頼人から謝礼が出ます……〉

 男はひとつひとつダイヤルを進め、つぎつぎに家出人の顔を見た。しかし、いま

の若者はそのなかになかった。

「ものごと、そううまくはいかないというわけか……」

 男はあきらめ、いまの若者の顔はそれで忘れた。

 いままでとまったく変ったものを見ようかなと、男はダイヤルをいくつかいじっ

た。画面にお寺の本堂がうつる。葬式をやっていた。坊さんがお経を読む声、涙に

くれる遺族や友人の姿、弔辞を読む有名人。それらに、いながらにして接すること

ができた。

 葬式をビデオに記録し、とっておきたいという遺族もいる。また、どうしても仕

事のつごうで列席できず、テレビを通じて礼拝したいという人もある。それらの要

求をみたすため、お寺がそなえつけたテレビカメラ。

 ダイヤルをつぎつぎに進めれば、各地のお寺や教会での葬式を見物することもで

きる。世の中には、その見物が趣味という人がいるらしいが、男はそうでなかった

 一分間ほど見て、このところ知人に葬式のない幸福をかみしめ、べつなものに画

面を変えた。

 ホテルでパーティをやっていた。広い部屋、楽しげな人たち。どこかの会社の創

立五十年記念の会だった。みな、ほどよく酔い、社長や来客が、きまり文句のあい

さつをしゃべり、拍手がつづいた。

 どこのホテルも、内部の各所にテレビカメラがしかけられている。各階の廊下が

主だ。犯罪防止のためだが、それは〈有線放送〉には流されない。プライバシー保

護のためだ。面会人を避け、ひとりの時間を持つためホテルに宿泊する人もある。

それを見られては、お客さまのためにならない。

 どこのボウリング場の内部も、この〈有線放送〉で見ることができる。いま、ど

の程度にこんでいるのかを、来ようとする人に知らせるためのものだが、へたくそ

なボウリングを眺めるのも、ちょっと面白い。

 ボウリング場のみならず、テニスコート、ゴルフ場、季節によってはスキー、ス

ケート場まで見ることができる。

 娯楽関係だけに限らない。裁判の光景だって見ることができる。裁判は公開が原

則。傍聴席にカメラをおいて、どこが悪い。裁判所にしても、公正さを世に示した

ほうがいいというものだ。

 それで〈有線放送〉に乗るようになったのだが、全国の地方裁判所、刑事民事の

すべてにわたってとなると、もうだれも熱心に見る者はいなくなった。知人が巻き

こまれた事件なら話はべつだが、自分に関係のない裁判など、だれが関心を持つも

のか。重要な裁判は、新聞が整理し解説し、要点をまとめて知らせてくれるのだか

ら。

〈有線放送〉が普及する前もあとも、その点あまり変りはなかった。

 政治も同様。すべての議会を〈有線放送〉で見ることができる。国会をはじめ、

都議会、区議会、しかも本会議ばかりでなく、どの委員会の部屋にもテレビカメラ

がそなえつけられている。

 こうなると、中継しないのと同じこと、ほとんどの人は関心を示さない。時間つ

ぶしに見る人さえない。しかし、議員たちはカメラを取り去ることに反対だった。

だれかが見ていてくれると考えているらしい。現実には、その家族ぐらいしか、い

や、その家族さえ見つづけてはいまい。

 かつて〈一般放送〉だけだった時代、国会中継となると代議士が芝居がかった行

動をしたものだが、いまやなんということもない。どことなくむなしい。

 それでも、どの議員も自分の事務所に〈有線放送〉のカメラを持っている。そこ

へダイヤルを合わせてみる。

〈有権者のみなさま。わたくしがいま、とくに訴えたいことは……〉

 ビデオの録画による政見発表が、くりかえし放映されている。街頭で大声をはり

あげられるよりいいとはいうものの、これまたむなしい気分にさせられる。同じ見

るのなら、遠くはなれた山のなかの、村会議員のそれのほうが興味があるというも

のだ。

 また、ダイヤルを回すことによって、どの学校の、どの講義をも聞くことができ

る。その気になれば、一流大学の教授の講義をも聞けるのだ。しかし、それで資格

が取れるわけではない。月謝を払わないで、卒業免状をもらえるわけがない。理科

系だったら、実験をしなければ知識が身につかない。

 学問とは、月謝を払って校内へ出かけること。かつて〈一般放送〉で、教育番組

の重要性が叫ばれた時代もあった。しかし、視聴率はひどいものに終った。そうい

うものなのだ。家にねそべっていて学問をしようというのが無理なのだ。

 男は、それでも、ある大学の講義を五分ほど聞いた。学生時代の先生の、その後

を知りたいと思ったのだ。

「あい変らずお元気だな。少しとしをとられたようだ。定年まであと何年かな……

 べつな番号にダイヤルを回す。

 どこか名も知れぬ小さな劇団の芝居がうつった。奇声をあげ、奇妙な動作をし、

筋もなんにもなかった。そのうちに終り、ひとりが画面にむかって言う。

〈ごらんいただけましたでしょうか。これこそ新しい芸術。これがわからないよう

では、現代人じゃない。このみごとな前衛性は、すばらしかったでしょう〉

 男は肩をすくめてつぶやく。

「たまたま、ごらんになってはいたけどね。なにがなにやら、さっぱりわからん。

頭のおかしいのは、そっちじゃないのかね。本気でやってたのなら、ごくろうさま

なことだ」

 あれこれダイヤルを回しているうちに、時間が流れ、男はなにかを食べ、いつし

か夜になる。

 男は、ある盛り場の道にダイヤルを合わせる。このところ、これがくせになって

いる。何日か前、ここで偶然にけんかを見た。酔っぱらいのなぐりあいだった。ま

もなく、かけつけた警官に制止されはしたが。

〈おぼえていろ、こんど会ったら、ぶちのめしてやるから……〉

 と、どなりあって別れたのだ。まったく、あのシーンはすごかった。胸のどきど

きする迫力があった。芝居でなく、本物なのだ。流れる血も、痛がる声も、つくり

ごとではない。それに、これを見ているのは自分のほかにほとんどいないのだと思

うと、その興奮は一段と強かった。

 もう一回あれを見たいものだとの期待は押さえられない。やつらは「こんど会っ

たら」と言いあっていた。それに望みをつなぎ、つい、この盛り場を画面に出して

しまうのだった。

 しかし、今夜もなにも起こらなかった。ほろ酔いの人たちが歩いているだけ。

「だめか。あれは酔った上でのけんかで、さめたら忘れてしまったのかもしれない

な」

 男はあきらめ、時計を見る。

「そろそろ寝るとするか……」

 ビールを持ってきて、それを飲む。そして、なんとなくまた、刑務所の監視塔の

カメラにダイヤルを合わせてしまう。夜にまぎれて脱獄するのを、この目で見たい

ものだと……。

「やはり、だめだな。囚人たち、だらしのないやつばかりだ。ここに、こんな熱心

なファンがいるのだから、一回ぐらい楽しませてくれてもいいだろうに。監視係が

いねむりをしていても、おれは通報しないでやるぞ……」

 はたして通報しないかな。賞金ほしさに、電話をかけてしまうかもしれないな。

しかし、そうそう脱獄などあるわけがない。

 やがて男はあきらめ、テレビのスイッチを切り、眠りにつく。あしたは会社に出

勤しなければならない。

 おれは、のびをしながらつぶやく。

「あきれたね。あの男、一日中ねそべって〈有線放送〉を眺めつづけだった。ほか

には、なんにもしなかった。なんともいいようのない、とんでもないやつだ……」

 おれは留守番監視サービス会社の社員。出張や行楽などの旅行で留守をする個人

の住宅内にテレビカメラをとりつけ、泥棒が入らないよう警戒し料金をもらう企業

だ。

 ひとりで百軒ほど受け持つ。どの画面も、動く人かげがひとつもない、からっぽ

な部屋ばかり。だから百軒も受け持てるのだ。どこかの画面に人があらわれれば、

警備保障の会社のパトロール車に連絡すればいいのだ。

 しかし、あの男は出張から帰っても、解約の電話を入れるのを忘れ、カメラにカ

バーをかけていない。会社では写真により、そこの住人の帰宅とみとめて、監視対

象からはずしている。

 しかし、おれはちょっと興味を持った。あいつの日常を見物してやろうと。おれ

は会社のそばの寮に住んでいる。そして、きょうは非番。会社からここまでを配線

でつなぎ、テレビで眺めることにしたのだ。

 こういう機会でもないと、いかに〈有線放送〉の時代とはいえ、個人の生活を見

ることはできない。プライバシーは決して〈有線放送〉に乗らないのだ。

 大いに期待したわけだが、なんということ、いっこうに動かず、ねそべったまま

テレビを見つづけの人物とは……。

 おれは〈一般放送〉の番組へと切り換えた。落語家がしゃべっていた。

〈ええ、まず、江戸小話をひとつ。ご隠居さん、世の中にはのんびりした人がいる

もんですね。八っつぁん、なんでまた、そんなことを言い出したんだね。いやね、

一日中、ずっと川に釣糸をたらし、ウキをながめつづけというやつがいたんですよ

。そんな人がいるかねえ。うそじゃありませんよ、ご隠居さん、あっしが、はじめ

から終りまで、ずっと見てたんですから……〉

 ふん、何回も聞いた、お古い小話じゃないか。つまらん。ああ、あ、おれもそろ

そろ眠るとするか。

  すなおな性格

 ひとりの若い男がやってきた。占い師はそれを迎えた。神秘的にして、にこやか

。やや深刻そうでありながら、あいそがいい。そんな表情と口調とで言った。

「よくいらっしゃいました。さあ、さあ、どうぞ|椅《い》|子《す》へ。まこと

に現代は迷いの多い世の中。複雑にして、危機をはらんだ時代です。本来はそうじ

ゃないんでしょうが、政治家やマスコミが、複雑だ危機だと、くりかえし叫びつづ

けてきたので、本当にそうなっちゃった。社会がいけないんです。しかし、社会に

文句を言っても、答えはかえってこない。そこに占い師の存在価値があるのです。

わたしは占星術が専門です。星占い。よく当りますよ。驚くほどよく当ります」

「そりゃあ、当るでしょう。当るからこそ、占い師のわけでしょう。こう、店をか

まえて営業している。そこを信用したからこそ、ぼくはここへやって来たのです」

 人のよさそうな男のようすを見て、占い師はいささかあきれ顔。

「科学にもとづく天気予報さえ疑ってかかる人が多いのに、これは珍しい人だな。

あなたは、すなおな性格のようですなあ」

「これはこれは。ぼくのそんな性格を、ずばりと指摘なさるなんて、じつにすばら

しい。もしかしたら、あなたは天才的な占い師かもしれない」

「なんとなくくすぐったいが、信用されるということは、悪くない気持ちです。で

、どんな悩みごとをお持ちなのでしょうか」

「そこなんです。まもなく大学を卒業するんですが、どんな職業をえらんだものか

、それを教えていただきたいので……」

「これはまた、なんと主体性のないこと」

「すごい。またも、ずばりと指摘なさった。ぼくは友人たちから、いつもそう言わ

れているんですよ」

「もう少し、くわしくお話し下さい。とくいな学科はなんであるとか……」

「それがねえ、ないんですよ。頭は悪くないと自分でも思っているし、成績もみな

平均点以上。にが手な学科でもあればいいんでしょうが、それもない。ですから、

どんな道を選んだものか、見当がつかないんです」

「こんなお客ははじめてだ。全面的に他人まかせとは。新しい世代があらわれたと

いうべきか、あなたが変っているというべきか。まず、大学の先生に相談したらど

うなんです」

「相談してみましたよ。すると、それぐらい自分できめられなくて、どうする。そ

うおこられました。まったく、いまの大学の教授ときたら、無責任というべきか、

学生への愛情不足というか……」

「そういう見方もあるわけですな」

「あれこれ考えているうちに、雑誌で|川柳《せんりゅう》を読みました。おちぶ

れてから占いにすがりつき。そこで決心がついたのです。だれだって、おちぶれた

くない。ころばぬ先のつえ。以上が、ぼくのここへやってきた理由のすべてです」

 男は理路整然と説明した。占い師のほうも、これが商売。もっともらしく聞く。

「では、運勢の診断にかかるとしますか。あなたの星座はなんでしょう」

「白鳥座だそうです。うまれた時、まうえにあった。父は天文学者で、その点はた

しかです。ちょうど月食がありましてねえ。太陽に大黒点があらわれた年だったと

か……」

「あつかいやすいような、あつかいにくいような、変なお客だな。まあ、いいでし

ょう。星占いをやってあげましょう……」

 占い師は星座表をながめ、意味ありげなカードを並べ、それから言った。

「……なるほど、やはりそうか。あなたが就職先に迷うのも当然です。あなたは企

業の一員となるのにふさわしくない性質です。その根拠は、ここに火星があり……

「くわしい解説はいりません。結論だけわかればいいのです。で、具体的に、どん

なことをやったらいいんでしょうか」

「個人でなにかするにしても、資金がいります。まず、歩合制のセールスマンにな

って、大いにかせいだらいいでしょう」

 占い師としては、この男、世の中の非情さを知らないようだ。考えが甘い。少し

苦労させたほうが当人のためだ。そんな気分での、常識的な指示だった。しかし、

男はすなおであり、さらに聞く。

「金がたまったら、どうしましょう」

「株をおやりなさい。うまくいきますよ」

 株をやるようになれば、各企業についての調査や研究に身を入れるだろう。その

なかから、自分に合ったものを発見できるという結果になるだろう。

「女性運はどうでしょう」

「当分のあいだ、よくありません。そんなことより、まず仕事にはげみなさい。そ

の努力によって、運命は必ず順調の道をたどります」

 常識的にして妥当な言葉だった。

「やってみましょう。いろいろとお教えいただき、ありがとうございました」

 男は金を払い、帰っていった。

 その指示どおり、男は仕事にはげんだ。これが運命と信じこんでいるので、かな

りの失敗にもくじけない。最初は家庭用品のセールスをやった。何度ことわられて

も、くじけない。ほかに生きる道はないと思っているからだ。したがって、能率も

あがり、成績は悪くなかった。

 時どき、占い師をおとずれる。

「おかげさまで順調です。運命の波に乗っているという感じです。たくさんお客が

つき、信用もでき、いまは宝石のセールスをやっています。これは利益が大きい」

「まあ、がんばって下さい」

「これはお礼です」

 まとまった額を、男は占い師に渡す。

 しだいに仕事は大がかりになる。つぎに占い師を訪れた時は、こう話した。

「しばしば外国へ出かけています。いまは生産設備をひとそろい売りこむことをや

っています。ぼくが出かけてゆくと、たいてい買ってくれる。運命の力は、おそろ

しいほどですね。これはお礼です」

 それを聞き、占い師は内心、まさかこれほどになろうとはと、むずむずするよう

な気分。しかし、うなずいて言う。

「占いとは、そういうものなのです。ご成功、おめでとう。さらにがんばって下さ

い」

「そろそろ、この仕事をやめるつもりです」

「なぜ。せっかくうまくいっているのに」

「最初におっしゃったじゃありませんか。資金ができたら株をやれとの運命の指示

に従い、その方面へ転身するつもりです」

「そうでしたな……」

 巨額なお礼をもらい、占い師はいささか当惑。この男、でまかせの言葉を信じて

、どえらい金をもうけやがった。いまの仕事をつづけていればいいのに、へたに商

売がえをすると、失敗するぞ。うしろめたい不安にかられた。このあたりが潮時と

、その占い師はだまって引っ越してしまった。損をしたとどなりこまれては、たま

ったものじゃない。

 男は株の売買をはじめた。これも順調だった。たまに損をすることがあるが、運

命の試練だろうと、あきらめない。すぐにその倍ぐらいもうけるのだった。これが

運命と信じこんでいるのだから、迷いがない。決断はいつも適切。かなりの財産を

作って、三十歳を越えた。

 さて、これからどうしたものか。星占い師を訪れたが、どこへ越したか不明。

 自分ではなにもきめられない性格なのだ。仕方がないので、べつな占い師のとこ

ろへ行く。

「じつは、悩みごとがありまして……」

「いらっしゃいませ。お見かけしたところ、だいぶ景気がよろしいようで」

「よくわかるな。悩みはそこにある」

「なければ困るが、あればあったで悩み多し。それが金銭というものです。で、問

題はどんなことで……」

「そこです。じつは、これから金をどう使ったものか、わからないのだ」

「なんですって。珍しい質問をするかただ。普通はもうけ方を聞きにくる人ばかり

なのに。手をお見せ下さい。わたしは手相で占うのです。東洋の方式は、手の筋で

運命を見る。西洋の方式は、手のひらの肉のつきぐあいで、性格にふさわしい進路

を予知する。その両方の長所をとり入れたのが、わたしのやり方で、よく適中しま

す……」

 ためつすがめつ、手のひらを見つめる。

「どうあらわれていますか」

「旦那はいままで、働きつづけだった」

「よくわかるな。すばらしい占いだ。で、どうしたらいいと出ています」

「遊ばなければいけません。のんきに旅をし、うまいものを食べ、女遊びでも……

 働きづめは健康のためにもよくない。また、余裕をもって世間をながめる心境に

なったほうがいいとの意味をこめた、妥当な忠告だった。男は聞く。

「しかし、以前の占い師は、女性運に恵まれてないと言っていた」

「結婚は急がないほうがいい。しかし、女性にはもてますよ。ごらんなさい、手の

ひらのこの部分が……」

 かなりの財産のある男のようだ。へたに結婚をすすめ、あとで文句をつけられて

は困る。そう考えて、うまくぼかした。

「占いに出ているのなら、そうなのだろう。しかし、どう遊んだものか。残念なこ

とに、現実によく知らないのだ。どうだろう、謝礼は充分に出す。どんなふうに遊

べばいいのか、指導してくれないか。運命にさからいたくないのだ」

「ふしぎなかたですなあ、旦那は。お相手するのは願ってもないことですが、本当

なんですか」

「ああ。できれば、すぐにはじめたい」

 こんなうまい話はなかった。占い師は、なんとか考え出す。金をもうける計画な

ら大変だが、遊ぶほうなら容易なのだ。

「では、旦那。さっそく、美人のたくさんいるナイトクラブへでも……」

 いそいそと案内に立つ。なにしろ金はあるのだ。それを気前よく使うのだから、

もてるにきまっている。女性たちは口々に言う。

「あら、すてきなかたねえ。これから、たびたびいらっしゃってね」

 まんざらでもない気分の男に、占い師はささやく。

「旦那いかがです。女性運もそう悪くはないでしょう」

「まったくだ。占いの通りだ」

「大いに楽しむべきです。そうでなかったら、悪運の道にふみ込んでしまうところ

でした」

 占い師はたちまち、ごきげんとり専門の役に転身した。自分もいっしょに遊べる

のだし、謝礼の金も入るのだ。温泉にでも行って、うまいものを食べながら、しば

らくのんびりしましょう。ゴルフをはじめませんか、わたしもいっしょに習います

。ヨットを買って、美女たちを乗せ、海の旅はいかがでしょう。ひとつ、雄大な計

画、猛獣狩りをしに外国へ行きませんか。銃をぶっぱなすと、気分がすっといたし

ますよ。

 遊ぶ方法はいろいろあり、あくせく働くより楽だった。占い師は言う。

「貫録と申しますか、品位というか、それが旦那の身にそなわってきましたよ。こ

う申しては失礼だが、最初は、ビジネスしか知らない、金もうけ専門の人物といっ

た外見だった。それがいまや、みちがえるように……」

「おまえの占いのおかげだ」

「わたくしとしても占ったかいがあったというもので……」

 占い師は調子がいい。あと占うことといえば、自分のひき時だけ。男の金がなく

なりかけると、占い師はたちまち姿を消した。

 男はどうしていいのかわからず、ひとりとり残されたかっこうだった。もう四十

歳ちかい。これから、いかなる運命をたどればいいのか。彼のやったのは、べつな

占い師を訪れることだった。

「迷っているのだ。これから、どう人生をすごしたらいいのか、占ってくれ」

「うれいのかげがありますな。いまさら金もうけをする気もない。といって、遊び

にもあきた。そんなふうにお見うけ……」

「よくわかるな」

「そこが商売でして。わたしの専門は、姓名判断。くわしいことは、それによって

わかります。この紙にお名前を……」

 男はそれに書きながら言う。

「もっともらしい解説はいらない。要領よく方針だけを教えてくれ」

「これはこれは、物わかりのいいお客さま。占いは理屈じゃない。そうこなくては

いけません。結論はですな、あなたはなにか生きがいのある行動をすべきである。

いかがでしょう……」

「なるほど、たしかにそんな気分だ。金もうけや遊びより、もっと刺激の強烈なこ

とがしたい。すばらしい占いだ。で、どうしたらいい。代金は払うから教えてくれ

「二日ほどのあいだに、なにかきっかけがあらわれましょう。その時です。ためら

ってはいけません」

「うまくゆくかな」

「信念ですよ。それさえあれば必ず……」

「そうだろうな。それに従おう」

 男は謝礼をおいて帰っていった。そのあと、この占い師は電話をかける。

「適当な人物がみつかった。うまく仕事をやってくれそうだ。名前はだな……」

 なんと、この占い師、某国の秘密情報機関とも契約していた。よさそうな人物を

選び出して連絡をすると、リベートがもらえる。情報部員は、つぎの日さっそく男

を訪問する。

「とつぜん紹介もなしにうかがいましたが、いかがでしょう。外国旅行をなさって

みませんか」

「もう旅行はあきた。そんな金もない」

「旅費ばかりでなく、たくさんの謝礼をさしあげます。いささか危険がともないま

すが」

「危険とは面白い。なにか仕事か」

「重要な極秘書類の運び役です。航空機が離陸しますと、スチュワーデスがあなた

に|拳銃《けんじゅう》をお渡しします。それで身をまもって下さい。お使いにな

れますか」

「猛獣狩りの時に使ったことがある。で、万一その書類が盗まれたらどういうこと

になる」

「そんなことがおこっては困るのです。書類があなたのからだから十センチ以上は

なれると、しかけてある爆薬が作用し、書類もろとも、あなたをふっ飛ばします」

「スリルとサスペンスにみちているな」

「対立国の陣営も必死です。あなたは世界の航空路をどう乗りついでもいい。目的

地の本部にとどけて下さい。爆発させずに書類をはずせるのは、そこだけです。い

かがでしょう。やっていただけますか」

「やりますとも。まったく、あの占い師はすごい。こんな形で実現するのだから。

これが運命というものだろう。信念さえあれば、必ず成功するのだ……」

 男はすぐ承知した。実行にうつる。予期したとおりというべきか、予想した以上

にというべきか、この任務にはさまざまな危険がつきまとった。

 あとをつけられ、ホテルの窓に銃弾がうちこまれ、なまめかしい美女が誘惑にあ

らわれ、間一髪というところで毒入りの酒を飲まなくてすみ……。

 一回だけ、寝ているところをとっつかまった。書類をどこにかくしたのか問いつ

められ、胸や腹をぶんなぐられた。しかし、書類はシャツの内側にぬいつけられて

あり、さいわい爆発しなかった。

「命だけは助けて下さい。書類はカバンの二重底のなかに……」

 相手がそれをこじあける。しかけてあった催眠ガスが噴出し、そいつはばったり

。男はあやうく脱出できた。

 やってみると、けっこう面白い仕事だった。ぞくぞくする。これが運命なのだし

、同じことなら、楽しんでやったほうがいい。

 使うほうも、こんな熱心な人材は珍しいと、つぎつぎに仕事を与え、謝礼をはず

んだ。書類を運ぶといった簡単なことではなく、どこそこへ潜入し、機密を盗んで

こいという、高級な任務を与えられるようにもなった。

 しかし、いつまでもとはいかなかった。男はくびを言い渡された。

「もうやめてもいいぞ。ごくろうだった」

「もっと働かせて下さい。これまで、すべてうまくやりとげてきたでしょう」

「おまえの顔は、対立国にすっかりおぼえられてしまったのだ。第一線では使えな

い。功績にむくいて昇進させたいが、おまえは一時やといの身分で、情報部の一員

ではない。役につけて、内部の秘密を知られては困るのだ。よって免職とする。少

しだけ退職金をやる」

 男はお払い箱となった。さて、これからどうしたものか。たよるは占い師しかい

なかった。街を歩き、看板をみつけ、入っていって言う。

「これからどうしたものだろう」

「わたしは霊感占いです。あなたはこれまで、波乱にとんだ人生だったようですな

「その通り。よくわかるな。二十代で金もうけ、三十代で遊びについやし、四十代

でスパイの手伝い。そろそろ五十だ……」

 聞きながら、占い師は思念をこらすふりをした。妙な経歴の客が来たものだ。こ

んなのにふさわしい、まともな職業など、あるわけがない。せいぜい小説家だろう

が、そんな素質はなさそうだ。

「どうもこうもないな。こうなったら、非合法なことでもやるほか……」

 思わず、そうつぶやく。男はありがたく、その指示を受ける。

「そういたしましょう」

「なにか、わたしが言いましたか」

「ええ、霊感のお言葉を口になさいましたよ。それが運命なら、熱心にはげむとし

ましょう。これはお礼です」

「まあ、せいぜい努力なさることですな」

 かなりの額の金をもらい、占い師はきょとんとする。なにをしゃべったのだろう

。やがて、非合法、すなわち犯罪をそそのかしてしまったようだと気づき、あわて

て引っ越す。巻きぞえはごめんだ。

 しかし、男はその指示にはげんだのだった。ゲーム装置をかねたチューインガム

の自動販売機を作り、それをレストランやバーなどに売りこんだ。

 単純ですぐおぼえることができ、はじめたらやめられない面白さのある装置。か

つてさまざまな遊びをした時期の経験が、そのヒントとなった。また、売りこむこ

つも知っている。たちまちのうちに、その自動販売機は普及した。

 そのチューインガムのなかには、少量の弱い麻薬が入れてある。だから、はじめ

ると病みつきになってしまうのだ。麻薬の密輸には、スパイの手先だった時の体験

が役に立った。

 黒い組織ができあがってゆく。集金係の子分だの、その監督係だの、用心棒だの

がふえる。利益があがり、資金が大きくなる。それをもとに、株主総会でのいやが

らせだの、株券の偽造だのをやった。以前に株をやった時の知識が役に立った。

 また、秘密の|賭《と》|博《ばく》場も経営し、さらに発展させていった。こ

れが運命なのだ。忠実に従わなければならぬ。天の指示なのだ。

 あるビルの地下室に、賭博場に適当な一室があるという。なんとかそこを手に入

れたいが、なかなか居住者が承知しない。子分からその報告を受け、男はのりこん

だ。信念をもって努力すれば、うまくゆくはずだ。

 行ってみると、占い師の看板が出ていた。

「いらっしゃいませ。どんなことでお悩みですか」

 そう言われると、男はつい聞いてしまう。そういう性格なのだった。

「これからどうするかだ」

「あなたは、このところよからぬ仕事をしておいでのようだ」

「まさしく、そうだ。よくわかったな。なんで占った」

「霊気ですよ。わたしは煙占いをやっています。大気こそ、人間になくてはならな

いもの。その人の運勢は、まわりの大気の微妙な流れの変化となってあらわれる。

それをやると、ぴたりと当る。だから、風も吹かない、換気装置のない、静かなこ

の地下室で営業しているのです」

「ひとつ占ってくれ。礼は前金で払うよ」

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