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作者:日-星新一 当前章节:15016 字 更新时间:2026-6-16 01:47

射砲をそなえつけるのもあらわれ、どの大使館も軍事基地と化していった。

 異様な光景だった。だが、軍備のなんたるかを知らない子供たちは、さまざまな

武器をテレビで見て面白がる。大衆がそれに気をとられているうちに、クーデター

が発生した。

「このありさまはなんだ。国内に各国の軍隊が入りこんできたようなものだ。占領

されたも同然。こんなみっともないことはない。理屈はどうでも、われわれは断固

として、やつらを追い出さねばならない。このままでは、いつ戦争に巻きこまれる

かわからない。平和のため、いまこそ実力を示す時だ……」

 支離滅裂。もっとも、クーデターとはそういうものなのだ。

 父親の科学者が、青年に言う。

「わたしもなんだか心配になってきたぞ。ただごとでない。ますます社会の運勢の

気流がおかしくなってゆく。この調子だと、どうなるかわからん……」

「どうしましょう、おとうさん。しかし、この装置だけはこわしたくない。こわし

たら、ぼく自身の破滅です」

 青年も、装置がなければただの人ということを知っている。

「わかっているよ。おまえを不幸な目にあわせるつもりはない」

「おねがいです。いい知恵を貸して下さい」

「どうだ、海外取材旅行を申し出てみたら」

「これだけの実績をあげてきたのです。申し出れば許可になるでしょう。なるほど

、それはいいアイデアですね。大事件さわぎは国外で……」

「そういうわけだ」

「どこへ出かけたらいいでしょう」

「それは装置に聞いてみるんだな。ちょっとアンテナを大きくしてみよう。雲行き

のおかしな方角がわかる……」

 父親はそれをやった。レーダーはある方角を示している。以前から、国際的にく

すぶっている地方。

「……やはり、ここだ。遠い火事ほど面白いというぞ。みなも喜ぶだろう。思う存

分やって、集中豪雨を見せてくれ。わたしも衛星中継で楽しませてもらうよ」

「はい、きっと期待にこたえます。おとうさん」

 インタビュー 星 新一 戦後·私·SF

  若き日の読書――乱歩·楚人冠·太宰

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――きょうは戦後SF作家の第一号であり、日本SFの発生の現場に立ちあってこ

られた星さんに、当時の思い出を中心にお話をうかがいたいと思います。はじめに

SFと出会うまでの読書遍歴から――。

[#ここで字下げ終わり]

星 子供の頃では江戸川乱歩さんの〈少年探偵団〉のシリーズが印象に残ってます

ね。乱歩さんがあの作品をお書きになった頃に、ぼくはちょうど小林少年と同年齢

で、しかも生まれ育った(*1)東京の山の手が舞台でしょう。家の近所には実際

に西洋館なんかもあったりして、まさに同時進行の感覚で読んでましたから、本当

に共感するものがありましたね。昭和十年前後のことですけど。あと印象に残って

るものでは、佐藤春夫さんが中国の短篇を子供向きに書き直して一冊にまとめた本

が出ていて、それなんかもかなり……だからぼくは今でも、ショート·ショートの

原点は中国の怪奇談じゃないかと思ってるくらいでね。西洋のものよりはるかに異

様な話が多いですよ。中国人ってのはものすごいリアリストでしょう、なにしろ神

を認めないんだから。そのなかで、あえて“怪力乱神”を語ってるわけだから、本

当に妙な話ばかりが集まっていて、もっと注目されていい分野だと思いますけどね

。中学生になってからだと、杉村|楚《そ》|人《じん》|冠《かん》(*2)と

いうエッセイストの全集が家にあったので、それを何度くり返し読んだか分からな

いくらい読みました。分かりやすい文章で、ユーモアがあって、ヘンに気取ったと

ころもなくて。あと戦後になってイカレたのは太宰(治)ですね。空前絶後のユニ

ークな作家じゃないかと思って。

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――特にどういう点が?

[#ここで字下げ終わり]

星 あのヘンな文体ですね。あれ、新井素子と一脈通ずるものじゃないかな(笑)

。どっちも読者に個人的に語りかけてくるような錯覚を生じさせるところがあって

、それがあれだけ人を|惹《ひ》きつける秘密なんじゃないですか。

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*1 〈家は本郷の|曙町《あけぼのちょう》にあった。いまは町名も変ってしま

ったが、東洋大学からみて、通りをへだてた小高い丘の上あたり。そのころ、つま

り昭和十年ごろのことだが、本郷のあたりには明治のおもかげが色濃く残っていた

。関東大震災で焼けなかったためである。表通りから裏道に入ると、くすんだ色の

木造の家々が、静かに並んでいた。そのあいだを、金魚売りなど、さまざまな物売

りの声が、きせるをなおすラオ屋のかん高い笛の|音《ね》が、時たま通り抜けて

ゆく。

 夜になると、いっそう静かで、風のかげんによっては、田端あたりか上野駅のか

、汽車の音がはっきり聞こえてくることもあった。過去は静寂のなかにある。〉(

『祖父·小金井良精の記』〈新潮社〉より)

*2 杉村楚人冠(一八七二―一九四五)は本名広太郎。和歌山県生まれ。|英吉

利《イギリス》法律学校(中央大)で学んだのち、在日アメリカ大使館につとめる

。明治三六年「東京朝日新聞」に入社し新聞記者として活躍。随筆家としても知ら

れる。著書に『七花八裂』『大英遊記』等がある。

〈この本(「楚人冠全集」:引用者註)が私に与えた影響は甚大である。私がいま

、難解で|晦渋《かいじゅう》な文章が書けず、書く気にもならないのはそのため

である。また難解で晦渋な文章にお目にかかると、ニセモノじゃないかとまず疑う

ようになったのも、そのためである。ユーモアには教養と上品さがなければならな

い、借り物の思想をふりまわすべきでない、押しつけがましいのはいけない、人生

における感覚を大切にすべきだ、といったことを知ったのもこの本である。〉(星

新一『きまぐれ博物誌』〈角川文庫〉より)

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  空飛ぶ円盤研究会

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――星さんがSFに向かわれた一つのきっかけとして、〈空飛ぶ円盤研究会〉(*

3)にお入りになったということがあるわけですね。

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星 今では空飛ぶ円盤なんて言葉自体古くなっちゃって、一般の人でもUFOで通

じるんだからね。テレビでも年中やってるし。あの頃空飛ぶ円盤なんていったら、

こいつ頭おかしいんじゃないかってな扱いでしたよ(笑)。マスコミだってまとも

に取りあげたりしなかったし、まさにマイナー中のマイナーで、またそれだけに会

員もみんな熱心でしたね。

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――そこに集まった人たちに、なにか共通する思いみたいなものはあったのでしょ

うか。

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星 ……まあいろいろと、一言ではいえないようなものがあったんじゃないかな。

ぼくの場合には、親父が死んだあとの会社の整理ということが、かなりの部分を占

めていたし(*4)、空飛ぶ円盤の会を始めた荒井(欣一)さんの場合は、お嬢さ

んがストマイという薬の副作用で耳が不自由になられたとかで“本当に宇宙人が来

てくれりゃ助かるのになあ”なんてなにかの折にふっと漏らされたことがありまし

たね。それから柴野(拓美)さんにしても、ずっと|喘《ぜん》|息《そく》に悩

まされていたりとか……みなさんそれぞれに、なんともやりきれないものを背負い

こんじゃって、その救いとかはけ口とか、そんなものもあったんじゃないかなとい

う気がします。

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――そういうものを抱えてはいても、新興宗教などに救いを求めるような人たちで

はなかった……。

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星 むしろUFOを全面的に信じてる人は少なかったみたいですね。興味はすごく

あるけれども、どこかに疑う部分をもっていた。

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――理性的な人たちだったわけですね。

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星 要するにUFOというものは、いろいろ調べて深入りしても、ある段階から先

は分からないんですよ。超心理学の実験やって、そういう現象があるところまでは

分かっても、そこから先は仮説一つ満足に立てられないのと同じで。そういう物足

りなさからね、SFだったら自由に仮説を立てられるというんで、SFの方へ来ち

ゃったのが、初期の「宇宙塵」(*5)の連中だったという気がします。

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――そうしますと、当時SFに関心をもった人たちの場合も、その根底には先ほど

お話に

あった“いわく言いがたいもの”があって、そこからの救いを求める道すじにSF

があったと考えてもいいのでしょうか?

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星 それはやっぱり小松(左京)さんにしても、半村(良)さんや筒井(康隆)さ

んだって、言うに言われぬなにかがあったでしょうな。それをいちがいに救いを求

めてとは言えないでしょうが、少なくともぼくの中には、そういう現実からの逃避

としてのSFという傾向はありましたね。SFは逃避じゃないという人もいるし、

事実そうかもしれませんが、ぼくの場合それがかなりの要素を占めてたのはたしか

です。もっとも一方でね、三十歳前後で会社を|潰《つぶ》した男を雇ってくれる

企業なんて、当時なかったわけですよ。それがたまたま「宇宙塵」の二号にショー

ト·ショートを書いたら、「宝石」に転載された(*6)。よし、こうなったらこ

れで人生いきてゆく以外にないというね。それこそ“背水の陣”って気持ちもあっ

たんですよ。

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*3 正式名称は「日本空飛ぶ円盤研究会(JFSA)」。昭和三〇年七月設立。

日本最初の全国的円盤団体である。会長は荒井欣一、顧問として北村小松、糸川英

夫、徳川夢声、石黒敬七らを擁し、会員中にも荒正人、新田次郎、三島由紀夫、敏

郎、黒沼健、南山宏、平野威馬雄ほか|錚《そう》|々《そう》たる顔ぶれが並ぶ

。会誌「宇宙機」をはじめとする出版啓蒙活動や、「全日本空飛ぶ円盤研究連合」

結成(昭三二)等積極的活動を展開したが、昭和三五年に一たん休会、のち四七年

から活動を再開している。(詳しくは「地球ロマン」第二号〈天空人嗜好〉を参照

。)なお星氏は同会の「宇宙機」に三回寄稿している。そのうちの一篇「円盤を警

戒せよ」は、『星新一の世界』(新評社)に再録されている。

*4 〈父の死後、会社を引きついだはいいが、巨額の負債と営業不振でどうしよ

うもなく、整理を他人に委託した。雑事から解放されたというものの、精神的な空

虚さは一段と増した。前途になんの希望もない。なにをしたものか、まるで見当が

つかなかった。つぶれた会社の二代目、三〇歳の男をやとってくれるところなどな

い。友人に泣きごとを並べるには、私は意地が強すぎた。自暴自棄になるには、私

は理性が強すぎた。だから、読書、碁、映画、バーということで、一日一日をつぶ

していたわけである。いったい、これからどうなるのだろう。将来を考えるのがこ

わかった。〉(新潮社『星新一の作品集Ⅰ』付録「星のくずかご」No.1「そのこ

ろ」より)

*5 日本最初のSF同人誌。昭和三二年五月の創刊以来、星氏をはじめ多くのS

F作家を世に送り出した。主宰者の柴野拓美氏は、創刊当時の星氏の印象を次のよ

うに記している。

〈氏とはじめて顔を合わせたのは、一九五六年の秋、荒井欣一主宰による「日本空

飛ぶ円盤研究会」の定例会の席上だった。日付ははっきりしないが、その一日、私

がSFの同人誌を出そうという提案をしたところ、まっさきに、というより、待っ

てましたという表情で名乗り出てきたのが星氏であった。「仲間にいれてください

。星といいます。よろしく」(略)/やがて五七年新春ごろから話が具体化し、五

月に「宇宙塵」創刊にこぎつけた。星さんは毎号すぐれた随想や小説をよせてくれ

るだけでなく、毎月発行のたびに十数冊ひきうけて、知友間に宣伝してくれた。(

略)/はじめの数号は、|五《ご》|反《たん》|田《だ》の印刷屋からとってき

た謄写原紙を、すぐ近くにあった星製薬ビルまでもっていって、校正を手伝っても

らったりした。うすぐらいビルの階段をあがっていくと、夏のことで吹きとおしに

した副社長室で、星さんは所在なげに|椅《い》|子《す》にもたれていることが

多かった。〉(柴野拓美「星新一氏と『宇宙塵』」より。『星新一の世界』〈新評

社〉所収)

*6 星氏の処女作「セキストラ」の「宝石」(昭三二·一一)転載にあたり、江

戸川乱歩は紹介文の中で〈大下|宇《う》|陀《だ》|児《る》さんが「宇宙塵」

というSF同人誌にのっている「セキストラ」を読めと、しきりに推賞するので、

わたしも一読して非常に感心した。(中略)これは傑作だと思った。日本人がこう

いう作品を書いているということが、わたしを驚かせた。(以下略)〉と述べてい

る。

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  SFがマイナーだった頃

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――日本のSFは第一歩から背水の陣だった(笑)。当時の読書界の受けとめ方は

どういう感じでしたか?

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星 それは非常にマイナーなもんでしたよ。「宝石」に何作か書いた頃、探偵作家

クラブだかの会合に行ったら、当時のいわゆる“|倶《ク》|楽《ラ》|部《ブ》

雑誌”(*7)の編集者にね“星さんの作品は面白いけれども、ハイブロウすぎて

ウチの雑誌に向かない”なんて言われたことがあったくらいで(笑)。

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――それが今や小·中学校の教科書にも掲載されている(笑)。

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星 ぼくが最初からショート·ショートばかり続けて書いたのもね、本来、推理小

説の雑誌である「宝石」の中では、SFはマイナーな形式なので、あんまり長くペ

ージを取っては申しわけないような、そんな雰囲気も影響してるんですよ。あんま

りサイエンスがかったものも遠慮するとか。だから筒井さんにしても、あんまりハ

ードなSFは初期の頃は書いてないでしょう。

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――そのあたり、ハードなものを書きたいけれど、とりあえず……という感じで?

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星 いや、ぼくの場合にはSFを書こうと思って書き始めたわけじゃないからね。

そもそもSFという呼び方があることすら、しばらく知らなかったくらいで。柴野

さんに言われて、ああそうですかってなもんだから(笑)。他の人はどうなんでし

ょうね。福島(正実)さんが「SFマガジン」を始める前に、ポケット版のSFシ

リーズを出しましたけど、あれの作品の選び方みてると、あまりハードなものは入

れてませんよね(*8)。怪奇小説的なものとか、F·ブラウンの『火星人ゴーホ

ーム』とか。だから作家の側からすると、当時はどういうハードなものがあるのか

ということ自体、よく知らなかったんじゃないかという気もするな。だけどなによ

りね、ぼくもそうだし、筒井さんもそうだと思うけど、要するに食わなくちゃなら

んわけですよ。そのためには読んで分かってもらえる表現でなかったら「宝石」で

すら掲載してくれない。「宝石」の次に書いたのは「文春漫画読本」でしたから、

そうなるとなおのこと、こみいったものじゃダメだというので、とにかく分かりや

すい表現を選んで、明解なオチをつけて、ということを心がけた。だから趣味でハ

ードなものに手を出そうなんて|呑《のん》|気《き》なことは許されなかったん

ですね。

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*7 昭和二〇年代後半から三〇年代前半まで流行した通俗読物雑誌の別称。当時

全盛を極めた講談社の「講談倶楽部」と光文社の「面白倶楽部」がともに“倶楽部

”の語をもつことにあやかって、「小説倶楽部」「傑作倶楽部」「読切倶楽部」等

の誌名が多くつけられたことに由来する。真鍋元之編『大衆文学事典』(青蛙房)

によれば、倶楽部雑誌の衰滅は、当時急速に普及したテレビのドラマ番組と週刊誌

ブームに起因するという。同書にいわく、〈倶楽部雑誌の従来の愛好者は、家庭の

茶の間ではテレビで時間を消し、通勤の車中には週刊誌を持ちはじめた。〉

*8 早川書房は昭和三二年末から〈ハヤカワ·ファンタジイ·シリーズ〉の刊行

を開始した。主なラインナップは『盗まれた街』(フィニイ)『ドノヴァンの脳髄

』(シオドマク)『火星人ゴーホーム』(ブラウン)『鋼鉄都市』(アシモフ)『

呪われた村』(ウィンダム)等。

〈都筑道夫とぼくとは、このシリーズを出すにあたって、過去の経験(先行する他

社のSFシリーズが相次いで挫折したこと:引用者註)にかんがみ、つぎの三点に

特に留意した。第一には、いたずらな偏見を招くおそれのあるサイエンス·フィク

ションという言葉を使うことを避け、すでに日本語の中に定着しているファンタジ

ーという言葉を用いること。第二には、最初からプロパーSFを選ばず、むしろ、

サスペンス·スリラーとしても読むことのできる作品――SFファンのみならず一

般読者――とくにミステリー読者にも受け入れられやすい作品を、主として取り上

げること。そして第三には、翻訳を、ミステリー以上に読み易く、しかもSF独得

の雰囲気を損なわない正確なものにすること。〉(福島正実『未踏の時代』〈早川

書房〉より)

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  海外SFの衝撃

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――それでいよいよ「SFマガジン」の創刊となるわけですが、福島正実さんのよ

うに、一つの使命感をもってSFに取り組む人たちを、すでに作家として活動され

ていた星さんはどういうふうに見ておられましたか。

[#ここで字下げ終わり]

星 福島さんがああいうことを始めたわけですけど、だからといってぼくがすぐに

交際しはじめたかというと、そうでもなかったんです。だいたい「SFマガジン」

に日本作家が登場するまでかなりの号数があったはずですし(*9[#「*9」は

アンカー])、しかもぼくの場合は、その中でも何人めにあたるか分からないくら

いで。ぼくはすでに「宝石」でデビューしてましたから、福島さんとしては使いに

くいということもあったかもしれんですな。あの人は自分の方針に合わない作品は

、厳しく書き直しを命じたりしてましたからね。そうするのに気がひけるというこ

とがあったかもしれない。

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――「SFマガジン」自体の印象は?

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星 創刊号が出たときはショックでしたね(*10[#「*10」はアンカー])。シ

ェクリイ、ブラッドベリ、ディックの「探険隊帰る」……いまだに鮮烈な印象でね

。あんなすごい雑誌には二度とお目にかかれないだろうと思います。ただ二号めか

ら一年間くらいは、ぼくの趣味とはちょっと合わない感じがありました。

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――当時、日本のSF作家の間で評判になった作品はありましたか?

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星 P·K·ディックの『宇宙の眼』なんかそうでしたね。あれは誰もが共通して

本当にすごいと。

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――特にどういうところが?

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星 ああいう発想は、それまでの日本人にはちょっと出せなかったですもんね。た

とえばJ·フィニイの『盗まれた街』みたいに、宇宙人が|莢《さや》の形で飛来

して、それが人間そっくりになって出てくるなんていうのだったら、当時の我々に

も分かりやすかったですけど、『宇宙の眼』みたいに登場人物が他人の意識内の世

界にひっぱりこまれて冒険するなんて、ああいう発想は本当に思いもつかなかった

。しかもそれがわりと分かりやすく書かれていたので、みんなショックだったんじ

ゃないですか。

[#ここから2字下げ]

――当時(昭三四)星さんが児童向けの科学解説書『生命のふしぎ』(新潮社)を

書かれて、その中にシェクリイの『ひる』とA·ベスターの『分解された男』を引

用されていますが、やはりあのあたりも興味をもたれた?

[#ここで字下げ終わり]

星 そうですね。やっぱりシェクリイだし、あとブラウンの『火星人ゴーホーム』

やブラッドベリの『火星年代記』なんかもいまだに読んだ感激が忘れられない。

『生命のふしぎ』で思い出しましたが、あの頃のSF作家は哀れなもんだったです

よ、今でこそみんな呑気な顔してますけど(笑)。ぼくの場合『生命のふしぎ』を

出したのが一つの縁になって、新潮社から最初の短篇集(『人造美人』昭三六·二

)を出してもらうまでに作家になって三年ぐらいかかってますからね。その間、同

じ頃デビューしたミステリー作家がどんどん単行本出すのを横目で見ながら、テレ

ビ·ドラマの原案(NHKの人形劇「宇宙船シリカ」昭三五放映)なんか作らされ

ていたんですから――あれはあれで楽しい仕事ではありましたが――他にも虫プロ

で働かされてた人もずいぶんいたようですね。

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*9「SFマガジン」にはじめて日本作家が登場するのは、昭和三五年五月号(通

巻四号)。〈日本作家特集〉と銘うち、高橋泰邦「“白鯨”応答せず」、都筑道夫

「機嫌買いの機械」及び「機会がうんだ機械」、安部公房「完全映画」の四篇が掲

載されている。ちなみに星氏の初登場は同年九月号(通巻八号)で「To Build, or

Not to Build」を寄稿している。のち「作るべきか」と改題、『妖精配給会社』

に収録。

*10「SFマガジン」の創刊が、当時の知識人に与えた新鮮な衝撃を端的に示す一

つの証言を次に掲げる。

〈地上の時間ではまだたったの十五年しか経っていない日本SF界の創世期を、こ

のごろひどく懐しく思い出す。なにしろSFに手を出す出版社は例外なくつぶれる

といわれ、事実そのとおりになっていた時代である。したがって昭和三十四年十二

月、早川書房が空想科学小説誌と銘うって「SFマガジン」を創刊したとき、私ら

は何よりもまず前車の|轍《てつ》を踏むのではないかと|惧《おそ》れ、どうに

もうさん臭いなといった顔をし、それから――それからその中|綴《と》じの|瀟

洒《しょうしゃ》な雑誌に飛びついた! 文字どおり狂喜して|貪《むさぼ》り読

むくらい飢え渇いていたので、発行日を待ちかねて書店をうろうろし、買ってくる

と半日足らずで読んでしまい、またひと月をおちつきなく過ごすというくらいの熱

狂的なファンだったが、それはもっぱらフィニイやシェクリイやブラッドベリなど

、かつて知らぬ新しい輝きに充ちた世界に対してであって、日本の作家にはほとん

ど関心を持たなかった。持ちたくても星新一のほかには、これという人がいなかっ

たのだから仕方がない。〉(中井英夫『牙の時代』〈小松左京著·角川文庫〉解説

より)

[#ここで字下げ終わり]

  テレビとSFの普及

[#ここから2字下げ]

――テレビ·ドラマといえば、日本におけるテレビの普及とSFの普及は、同時進

行のような印象を受けるのですが、いかがでしょう。

[#ここで字下げ終わり]

星 そう、たしかにテレビの普及が始まった時代でしたね。あるのが珍しいという

感じはもうなくなって、かなりの勢いで普及して、高度経済成長が始まりだしたと

いう……。

[#ここから2字下げ]

――両者の相関関係みたいなものは?

[#ここで字下げ終わり]

星 あると思います。精神的な余裕が出てきたんじゃないですか。それまでは目先

の生活に手一杯で、宇宙人だのUFOだのといったことは考える余裕すらなかった

わけで。

[#ここから2字下げ]

――余裕のシンボルとしてテレビがあった?

[#ここで字下げ終わり]

星 それもありますね。しかもあの頃のテレビ·ドラマは、本当に過去の遺産を一

気に食い潰した時代でね、たとえば『ヒッチコック劇場』なんていうのは、ミステ

リーの名作短篇を三〇分ドラマにして毎週放映してたわけだし、あと『ミステリー

·ゾーン』(*11)にしても、SFの名作を一気に使っちゃったわけで。ぼく自身

、当時のテレビから得たものはずいぶん役に立ってますね、あとになって。

[#ここから2字下げ]

――テレビの普及もその一つの表われだと思うのですが、当時、科学というものが

非常に身近になったというような雰囲気はありましたか?

[#ここで字下げ終わり]

星 たしかに未来は豊かで輝かしいものであるということを、ほとんどの人が疑わ

なかったんじゃないですかね。現にアメリカというお手本がありましたから。日本

は戦争でいったん|挫《ざ》|折《せつ》しちゃったけれども、科学はさらにより

良いものをもたらしてくれると、盲目的に信じちゃってましたよね。実際、六四年

に新幹線が開通して、東京オリンピックが開かれて、それからいわゆるバラ色の未

来学なんてことが言われだして、米ソが競って人工衛星を打ちあげるわ、宇宙衛星

でアメリカのテレビ中継が入るわ……ああいうことの|総《すべ》ての絶頂が七〇

年の大阪万国博ですね。あれとアポロ宇宙船の月面着陸がほぼ同じ頃で、それが過

ぎたら今度は下る一方でしょう。未来学はバラ色から灰色に変わり、終末論だ、公

害だ、石油ショックだ……よくまあSFが生き残ってきたと思うくらい(笑)。ぼ

くなんか、たまたまオカルト·ブームがあったので助かったんじゃないかな(笑)

[#ここから1字下げ]

*11 米国CBS製作のドラマ·シリーズ〈ミステリー·ゾーン〉(原題はThe Twilight

Zone)は、日本では昭和三五年四月から四四年九月まで、五期に分けて放映され

た。番組のホスト役でもあるロッド·サーリングをはじめ、C·ボーモント、R·

マシスンら怪奇作家がシナリオに腕をふるった同シリーズは“史上最も優れたSF

テレビシリーズ”と呼ばれている。

[#ここで字下げ終わり]

  そして日本のSFは……

[#ここから2字下げ]

――そういう事件からの具体的な影響は?

[#ここで字下げ終わり]

星 そう、強いてあげれば石油ショックのあおりでPR誌が激減したことでしょう

か。PR誌と新聞の日曜版は、ショート·ショートのとてもよい発表舞台でしたか

ら、それがかなり減ったので……だから一時期ショート·ショートはほとんど書か

ないで、短篇ばかりの時期がありましたね。

[#ここから2字下げ]

――それは評論家が指摘するような、いわゆる“オチ”ショート·ショートから不

条理なストーリー展開の重視へという星さんの作風の変化とも関係があるのでしょ

うか?

[#ここで字下げ終わり]

星 あるかもしれません。短篇の場合、どうしてもストーリーが必要になりますか

ら。ショート·ショートならアイディアだけでなんとかもっていけますが、短篇は

それだけでなくストーリーでも|愉《たの》しませなくちゃいけない。それで短篇

の注文しか来なかった時期には、メモにいろいろ思いついたことを書いておいた中

からアイディアを選び出す過程で、無意識のうちに、短篇としてふくらますことが

できるようなテーマを選んでいた可能性はあるかもしれませんね、今思うと。それ

からオチのつけ方の変化ということで言うと、今でもつけようと思えば昔風のオチ

にすることもできるわけですが、それだと自分が飽きてくるんですよ(笑)。

[#ここから2字下げ]

――最後に現在の日本SF界について。

[#ここで字下げ終わり]

星 これは世界の中でも例外的に恵まれてるんじゃないですか。だいたいこれだけ

短期間に、これだけの作家を送り出した分野というのは、他にないんじゃないでし

ょうか。それもぼくらの時代から|夢枕獏《ゆめまくらばく》·新井素子に至るま

で、世代的にも切れ目なくつながってるんですからね。アメリカも盛んだといわれ

ますけど、第一線で活躍してる新人なんて数えるくらいしかいないでしょう。ラフ

ァティだってぼくより年上なんだから(笑)。その点日本がSFに関しては世界一

になってきたんじゃないですかね。一億の人口があって、そのほとんどが字が読め

て、テレビは全国ネット、新聞も全国紙がある。そういう共通の基盤があるから、

SFもまだ書きやすいのかもしれない。それと社会が豊かになったために、若い人

たちがいわゆる人生の苦労というものをあまり知らないで成長する。だから実体験

で小説書こうとしても書くネタがなんにもない。そのかわり劇画でストーリーづく

りのノウハウを覚えこんじゃってますから、長篇やシリーズものなんかいくらでも

書けるんじゃないかな、これからの作家は。現にそういう傾向はすでにあるようだ

し(*12)。実体験として火星に行ってないことにおいては、年寄も若者もないわ

けだから、SFこそ自由に腕をふるえる分野ということにこれからはますますなっ

てくるんじゃないでしょうかね(笑)。

[#ここから1字下げ]

*12 たとえば『世界のSF文学·総解説』(自由国民社)の「80年代のSF界」

で伊藤典夫氏は、ここ数年間のSF界における顕著な動向として〈シリーズものに

独立した作品以上の魅力を見いだす読者〉の急増を指摘し、〈現在ではジュヴナイ

ルも含めた国産SFのおよそ四割以上を、そういった連作が占める勢いだ〉と述べ

ている。

[#ここで字下げ終わり]

[#地から2字上げ](S60·1·23於戸越、星新一氏宅)

(「幻想文学」第十一号より転載)

ごたごた|気流《きりゅう》

 |星《ほし》|新《しん》|一《いち》

平成14年1月11日 発行

発行者 角川歴彦

発行所 株式会社角川書店

〒102-8177 東京都千代田区富士見2-13-3

shoseki@kadokawa.co.jp

(C) Shin-ichi HOSHI 2002

本電子書籍は下記にもとづいて制作しました

角川文庫『ごたごた気流』昭和60年9月25日初版発行

          平成10年8月30日24版発行

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本书由书香门第论坛整理制作

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