饭饭TXT > 海外名作 > 《仮面城(日文版)》作者:[日]横溝正史/横沟正史【完结】 > [ジュヴナイル] 横溝正史 「仮面城」 v0.9.txt

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作者:日-横溝正史/横沟正史 当前章节:15399 字 更新时间:2026-6-16 00:33

 一同がドアのまえにたたずんで、耳をすますと、なかから聞こえてくるのは苦しそうなうめき声。金田一耕助はそれを聞くと、ドアをひらいて、壁の|傍《そば》のスイッチをひねった。と、パッと電燈がついたが、そのとたん、一同はおもわずアッと立ちすくんだ。

 そこは寝室になっているらしく、へやのすみにりっぱなベッドがあったが、そのベッドの下にパジャマを着た老人があけに染まっているのだ。

 金田一耕助はそれを見ると、つかつかとそばへより、老人のからだを起こしたが、その顔を一目見るなり、

「アッ、こ、こ、これは……!」

 と、びっくりしておもわずどもってしまった。

「き、金田一さん、ど、どうかしましたか?」

 等々力警部もつりこまれて、おもわずおなじようにどもった。

「警部さん、見てください、このひとの顔を……あなたも知っているひとですよ」

 耕助のことばに文彦も、警部のあとからこわごわ老人の顔をのぞきこんだが、そのとたん、世にも意外な感じにうたれたのである。

「あ、金田一さん、こ、こりゃ宝石王の、加藤宝作さんじゃありませんか?」

 警部のおどろいたのもむりはない。いかにもそれは日本一の宝石王といわれる、加藤宝作老人なのだった。

 宝作老人は左の肩をうたれたと見え、パジャマにピストルの穴があき、ぐっしょりと血に染まっている。そして、たぶん出血のためだろう、気を失って、おりおりくちびるからもれるのは、苦しそうなうめき声ばかり。

「ああ、きみ、きみ、きみ……!」

 金田一耕助は気がついたように、刑事のほうをふりかえり、

「医者を、早く、早く……!」

 |言《げん》|下《か》に刑事のひとりがとびだそうとするのを、あとから等々力警部が呼びとめて、

「ああ、それから応援の警官を呼んでくれたまえ。銀仮面のやつ、まだそのへんにまごまごしているかもしれないから……」

 それから、警部は耕助のほうをふりかえり、

「金田一さん、宝作老人をうったのは、やっぱり銀仮面のやつでしょうな」

 金田一耕助はちょっとためらって、

「そうかも知れません、いや、きっとそうでしょう。ぼくはその窓に、銀仮面のすがたがうつっているのを見ました。それからあいつがピストルをぶっぱなすのを……」

 だが、そうはいうものの、金田一耕助のその声に、なんとなく熱心さがかけているように思えたので、文彦はふしぎそうに顔を見なおしたのだった。

   雑木林のなか

 幸い、お医者さんがすぐきてくれたので、宝作老人はそれにまかせて、金田一耕助と等々力警部は、家のまわりを調べることになった。文彦と刑事のひとりも、ふたりについてろうかへ出た。

 見ると、ろうかのつきあたりに、ベランダがあるのだが、そのベランダの戸があけっぱなしになっていて、そこからあわい月かげがさしこんでいる。そばへよると、庭からはしごがかけてあった。

「銀仮面のやつ、ここからしのびこんだんですね」

 等々力警部はそういって、まっさきにはしごをおりようとしたが、

「ああ、ちょっと待ってください」

 なにを思ったか、それをひきとめた金田一耕助、懐中電燈ではしごを調べていたが、やがてみずから先に立って、一段一段、注意ぶかくおりていった。

 そして、庭へおりたつと、なおもそのへんを、懐中電燈で調べていたが、やがてあとからおりてきた、等々力警部をふりかえると、

「どうもふしぎですね、警部さん」

「なにがですか、金田一さん」

「だって、あのはしごにも、このへんにも、どこにも血のあとが見えないのはどうしたのでしょう」

「なるほど、へんですね」

 そして、そのとき金田一耕助の顔色が、なんとなく曇っているのを、文彦はふしぎそうに見ていた。

「それから警部さん、もう一つふしぎなことがありますよ」

「なんですか、金田一さん」

「これだけ大きい洋館に、加藤宝作老人ひとりだけということはないでしょう。だれか使用人がいるはずです。その使用人はいったいどうしたのでしょう」

「ああ、それはわたしもさっきから、ふしぎに思っていたところです。ひとつ家のなかを調べてみましょうか」

 警部がふりかえったときだった。家のなかからもうひとりの刑事が出てきた。

「警部さん、家のなかにはだれもいませんよ」

「だれもいない……?」

「ええ、でも、ついさっきまで、だれかいたことはたしかです。使用人べやに寝どこがしいてあるのですが、その寝どこにまだぬくもりが残っています」

 それを聞くと金田一耕助と等々力警部は、おもわずギョッとして顔を見合わせた。

 ああ、その使用人はどうしたのだろう。ひょっとすると、銀仮面に連れられて、どこかで殺されてしまったのではあるまいか……。

 一同がなんともいえぬ不安な思いに、顔を見合わせて立ちすくんでいるとき、だしぬけに、やみのなかから聞こえてきたのは、ズドンというピストルの音。

「アッ、なんだ、あれは……!」

 警部が叫んだときだった。またもや、ズドン、ズドンとピストルをぶっぱなす音。あまり遠くではない。

「警部さん、いってみましょう!」

 金田一耕助は、はや、はかまのすそをふりみだして走っていく。等々力警部と文彦、それから、ふたりの刑事もそれについて走りだした。

 洋館を出るとすぐ左側にかなり広い雑木林がある。その雑木林のなかから、またもやズドンと、ピストルの音が聞こえてきた。

「だれだ! そこにいるのは……?」

 警部もきっとピストルを身がまえた。

「アッ、警部さん、早くきてください。あそこに、銀仮面がいるんです」

 それは電話で呼びよせられた応援の警官だった。

「なに、銀仮面がいる?」

 一同はなだれをうって雑木林へとびこむと、

「どこだ、どこだ、銀仮面は?」

「ほら、あそこです。あそこに立っています」

 警官の指さすほうを見て、一同はおもわずギョッと息をのみこんだ。

 なるほど、五、六メートルむこうの草のなかに、ゆうぜんと立っているのは、まぎれもなく銀仮面ではないか。

 林をもれる月光に、あの気味悪い銀仮面を光らせて、しかもその仮面の下からもれてくるのはなんともいえぬぶきみな声。

「く、く、く、く、く……」

 泣いているのか、笑っているのか、その声を聞いたせつな、文彦は全身の毛という毛がさかだつ思いがしたのだった。

   動かぬ銀仮面

「銀仮面、おとなしくしろ!」

 等々力警部が叫んだ。そして、おどしのために空にむかって、ピストルを一発ぶっぱなすと、

「銀仮面、こちらへ出てこい!」

 しかし、銀仮面は身動きをしようともしない。あいかわらず、

「く、く、く、く、く……」

 と、ぶきみな声をたてるばかりである。

「おのれ、いうことをきかぬと……」

 警部はピストルを身がまえたが、

「アッ、警部さん、ちょっと待ってください」

 あわててそれを押しとめた金田一耕助、ひざをも没する雑草をかきわけて、銀仮面のほうへ走っていった。

「アッ、金田一さん、あぶない!」

 警部がうしろから叫んだが、金田一耕助は耳にもいれず、相手のそばへかけよると、あのつばの広い帽子をパッととり、それから銀仮面をはずしたが、そのとたん、こちらから見ていた一同は、おもわずアッと手に汗をにぎった。

 口をきかないのもむりはない。その男はさるぐつわをはめられているのだ。また、身動きをしないのもどうり、その男はスギの大木にしばりつけられていたのである。

「いったい、ど、どうしたのだ。おまえはいったいだれだ?」

 近づいてきた一同が、よってたかって、さるぐつわをとり、縄をといてやると、その男は恐怖に顔をひきつらせて、くたくたと草のなかへくずおれると、

「わたしは……わたしはなにも知りません。ピストルの音と、だれかが救いを呼ぶ声に、目をさましてとび起きたところへ、銀仮面がやってきて……ピストルでおどされ、ここまで連れてこられ、ここにしばりつけられて、さるぐつわをはめられたのです」

 なるほど、そういえばその男は、まだ若い男だったが、ねまきを着たままで、スギの大木にしばりつけられ、その上に銀仮面のマントを、かぶせられていたのだった。

「いったい、きみはだれだ。あの洋館の者か?」

「そうです、使用人の|井《い》|口《ぐち》というのです」

 そこでまた、井口はきゅうに恐ろしそうな声をあげると、

「ご主人はどうしました。たしかにご主人の救いをもとめる声が聞こえましたが……」

「ご主人というのは、加藤宝作老人のことですか?」

 金田一耕助がたずねた。

「そうです、そうです」

「すると、あのうちは宝作老人のうちですね」

「そうです。近ごろ買って、引っ越してきたばかりです」

「近ごろ買って……そしてまえの持ち主はなんというひとですか?」

「知りません。わたしは知りません。ご主人はむろん知っていらっしゃるでしょうが……」

「よし、それじゃ警部さん、うちへひきかえしましょう」

「いや、それより銀仮面はどうしたのだ。おい、きみ、銀仮面はきみをしばりつけて、どっちの方面へ逃げたんだ!」

「知りません。わたしは仮面をかぶらされてしまったのですから」

「しかし、きみはあいつの顔を見たのだろう。仮面をはずしたとき……いったいどんなやつだった?」

「さあ……?」

 使用人の井口は首をかしげて、

「暗くてよくわからなかったのですが、まだ若い男のようでした。三十二、三歳の……」

「よし、それじゃきみたち」

 等々力警部は刑事や警官たちをふりかえり、

「銀仮面のゆくえをさがしてみろ。あいつはふつうの洋服すがたになって逃げだしたのだが、けがをしているから目印はある。それをたよりにさがしてみろ。わかったか!」

「はっ、承知しました」

 刑事や警官がバラバラと、暗い夜道を散っていったあと、使用人の井口をひき連れて、もとの洋館へ帰ってみると、加藤宝作老人は医者のかいほうで、ようやく正気にかえったところだった。

   地下道の足音

「アッ、警部さん、金田一さん、あなたがたはどうしてここへ……?」

 ベッドの上で、ほうたいまみれになった宝作老人は、一同の顔を見ると、びっくりしたように目を見張った。

「加藤さん」

 警部は相手をいたわるような目つきで、

「とんだ災難でしたね。しかし、どうしてこんなことになったのです。銀仮面はいったい、なにをねらってここへきたんですか?」

「ああ、それじゃ、あれはやっぱり銀仮面だったのですか」

「そうです。金田一さんはあいつの影が、その窓にうつっているのを見たのです」

「そうですよ。とっさのことで、わたしにはよくわからなかったのだが……」

 宝作老人は気味悪そうに身ぶるいをすると、

「わたしは今夜、早くからベッドへはいって寝たのです。いつもは支配人もうちにいるのですが、二、三日旅行しているので、いまはわたしと使用人の井口ふたりしかおりません。それで戸じまりにいっそう気をつけて、十時ごろに電燈を消して寝たのです。すると……」

「すると……?」

「何時ごろでしたか、よく寝ていたのでわかりませんが、なにやらガタガタいう音で目がさめました。そこで電燈をつけたのですが、すると、とつぜんその押し人れのなかから、あいつがとびだしてきたんです」

「押し入れのなかから……?」

 金田一耕助がたずねた。

「そうです、そうです。それでわたしがびっくりして、声をたてようとすると、いきなりそいつがピストルをぶっぱなして……それきりあとのことは覚えておりません」

「加藤さん」

 金田一耕助はきっと相手の顔を見守りながら、

「このうちは、あなたがお買いになるまえは、いったいだれのうちだったのですか?」

「ええ……と、わたしは|仲介者《ちゅうかいしゃ》から買ったのですが……そうそう、たしかまえの持ち主は、大野……大野健蔵というひとでした」

 金田一耕助と文彦は、それを聞くとハッと顔を見合わせたが、つぎの瞬間、耕助は身をひるがえして、押し入れのまえにとんでいくと、パッとドアをひらいた。

 引っ越してきたばかりのこととて、押し入れのなかはからっぽである。金田一耕助は懐中電燈で、押し入れのなかを調べていたが、すぐ右側のかべに、小さなかくしボタンがあるのを発見して押してみた。

 と、そのとたん、一同はおもわずアッと声をたてたのである。

 おお、なんということだろう。押し入れの床が、ガタンと下へひらいたかと思うと、そこにはまた、まっ暗な縦穴がひらいているではないか。しかも、懐中電燈の光で調べてみると、その縦穴には垂直に、鉄のはしごがついている。

 一同はしばらくだまって顔を見合わせていたが、やがて金田一耕助がきっぱりと、

「警部さん、あなたはここにいてください。加藤さんにまだいろいろとおたずねになることがあるのでしょう。ぼく、ちょっとこの抜け穴を調べてみます」

「アッ、先生、ぼくもいきます」

 文彦が叫んだ。

「よし、きたまえ」

 金田一耕助は一步鉄ばしごに足をかけたが、とつぜん、ギョッとしたように立ちすくんでしまった。

「せ、先生、ど、どうかしましたか?」

「シッ、だまって! あれを聞きたまえ!」

 金田一耕助はそういって、抜け穴の底を指さした。それをきいて一同が、きっと、聞き耳をたてていると、ああ、聞こえる、聞こえる、抜け穴の底からかすかな足音が……ためらうように步いてはとまり、それからまた、思いきったように步きだす足音……。

 しかも、その足音はしだいにこちらへ近づいてくるではないか。

 一同はおもわずギョッと顔を見合わせた。

   またもや消えた銀仮面

 ああ、ひょっとすると銀仮面がまだ、地下の抜け穴をうろついているのではあるまいか。

「だ、だれだっ! そこにいるのは!」

 等々力警部がたまりかねて、大きな声で叫んだ。その声はまるで、ふかい古井戸にむかって叫ぶように、あちこちにこだまして、遠く、かすかに、いんいんとしてひびいていく。と、たちまち足音はむきをかえて、もときたほうへ走っていった。

「しまった!」

 と、舌を鳴らした金田一耕助、手にした懐中電燈を口にくわえると、いきなり鉄ばしごのそばにある、太い垂直棒にとびついた。と、見るやスルスルスル、そのすがたはまたたくうちにまっ暗な縦穴の、やみのなかにのみこまれていったのである。

「あぶない! 金田一さん!」

「先生! 先生!」

 等々力警部と文彦は、手に汗にぎって縦穴のなかをのぞいていたが、やがて十メートルあまり下のところで、懐中電燈の光が安定したのを見とどけると、じぶんたちもつぎつぎと、垂直棒をすべっていった。

 そこはまっ暗な地下道だったが、金田一耕助のすがたはもうそのへんには見えない。

「先生! 先生!」

「金田一さん、金田一さん!」

 等々力警部と文彦は、手にした懐中電燈をふりかざしながら、やみにむかって叫んだ。しかしその声はただいたずらに、まっ暗な地下道にこだまするばかりで、金田一耕助の返事はない。

「警部さん、いってみよう。金田一先生は悪者のあとを追っかけていったにちがいありません」

「よし!」

 地質の関係かこの地下道は、まっすぐに掘ってなくて、ヘビのようにくねくねとうねっているのだ。その地下道をすすむこと二十メートルあまり、等々力警部と文彦は、とつぜん、ギョッとして立ちどまった。ゆくてのやみのなかから、はげしい息づかいと、もみ合う物音が聞こえてくるのだ。

「だれか!」

 等々力警部が声をかけると、

「アッ、警部さん、きてください。くせものをつかまえたんですが、こいつ少しみょうなんです。からだがゴムのようにやわらかで……」

 その声はまぎれもなく金田一耕助。それを聞くと等々力警部と文彦は、大急ぎでそばへかけつけると、サッと懐中電燈の光をあびせたが、そのとたん、

「アッ、き、き、きみは香代子さん!」

 おどろいてとびのいたのは金田一耕助である。

 なるほど金田一耕助に組みしかれて、ぐったりと倒れているのは、大野老人のひとり娘、香代子だったではないか。

「きみだったのか。きみだと知っていたら、こんな手あらなまねをするんじゃなかったんだ」

 金田一耕助に助けられて、よろよろと起きなおる香代子を、等々力警部はうたがわしそうな目で見つめながら、

「お嬢さん、あんたはなんだっていまじぶん、こんなところへきたんです。まさか銀仮面の仲間じゃあるまいと思うが、こんどというこんどこそ、すべての秘密をあかしてもらわんと、このままじゃすみませんぞ」

 等々力警部に鋭くきめつけられて、

「すみません、……すみません」

 と、香代子はただむせび泣くばかり。

 金田一耕助はやさしくその肩に手をかけて、

「香代子さん、こうなったらなにもかもいってしまいなさい。きみがいくらかくしても、ぼくはちゃんと知っています。あなたがたの秘密というのは、人造ダイヤのことでしょう」

 それを聞いて香代子はもちろんのこと、等々力警部も文彦も、思わずアッと、金田一耕助の顔を見なおした。

   人造ダイヤ

 人造ダイヤ! おお、人造ダイヤモンド! それはなんという大きな秘密だったことだろう。

 きみたちもご存じのように、化学的にいえば、ダイヤモンドは純粋の炭素からできている。木炭や、きみたちが学校でつかう鉛筆のしんなどと、ほとんどおなじ成分なのだ。

 だから、ダイヤモンドに高い熱をあたえると、燃えて炭酸ガスになってしまう。むかしある王さまが、世界一の大きなダイヤモンドを作ろうとして、じぶんの持っているダイヤを全部、|炉《ろ》にいれてとかしたところが、あけて見たら、ダイヤは影も形もなかったという、お話まで伝わっているくらいである。

 しかし、そうして成分もわかっているのだし、しかもその原料というのが、世にありふれた炭素なのだから、人間の力でダイヤができぬはずはない。――と、いうのがむかしから、科学者たちの夢だった。

 しかし、学問的にはできるはずだとわかっていても、じっさいには、いままで大きなダイヤモンドを、作りあげたひとはひとりもいない。ただ、いまから六十年ほどまえに、フランスの科学者が、電気炉のなかで、強い圧力をかけながら、炭素をとかして、ダイヤを作ることに成功したが、それは|顕微鏡《けんびきょう》で見えるか見えないかというほどの大きさだったから、じっさいの役には立たないのだ。

 それからのちもこの問題を解決しようとして、多くの学者が努力した。ダイヤモンドを作ることに成功しなかったとしても、それらのひとびとの努力はけっしてむだではなかった。ダイヤモンドと木炭がおなじ成分からできていながら、ちがっている秘密がだんだんわかってきたからなのだ。だから、そのちがいさえなくすれば、人造ダイヤは作りだすことができるはずなのである。

 きみたちはこの物語のはじめのほうで、金田一耕助が成城にある大野老人の地下室で、純粋の炭素を製造する、ふしぎな機械を発見したことを覚えているだろう。あの機械と、大野老人の手元から出た、いくつかの大宝石から、金田一耕助はついにこの秘密を見やぶったのだった。

 金田一耕助のことばに、香代子は涙にぬれた目をあげると、

「まあ、先生! 先生どうしてそのことを、知っていらっしゃいますの?」

 金田一耕助はにこにこしながら、

「だってきみは、あれだけの大きなダイヤを、まるで炭のかけらぐらいにしか、思っていなかったじゃありませんか。きょう警視庁でダイヤの話が出たときも、きみの顔にはありありとそれが出ていましたよ」

 等々力警部は目をパチクリとさせながら、世にもふしぎな話を聞いていたが、やがて息をはずませて、

「そ、それじゃ、あの黄金の小箱にはいっていたダイヤモンドも、大宝冠にちりばめてあったダイヤモンドも、みんな人工的に作られたものだというのですか?」

「はい」

「そして、それはみんな、あなたのおとうさんが作ったというんですね」

「はい、そうなんですわ」

 等々力警部はいよいよおどろいて、

「ああ、なんということだ。もし、それがほんとうだとすると、たいへんな話になりますよ。日本はたちまち、世界一の金持ちになりますよ。ああ、わかった、わかった。それだからこそ、銀仮面のやつがあなたがたをねらっていたのですね。あなたがたから、人造ダイヤの秘密をぬすもうとしているのですね」

「ええ、それですから、父もおじも、銀仮面にゆうかいされたのです。銀仮面は父やおじに、人造ダイヤを作らせようとしているのです」

 ああ、これで銀仮面が、あんなにまでしゅうねんぶかく、大野老人をつけねらっているわけがわかった。いまかりに大野老人をつかって、人造ダイヤを無限に作るとすれば、世界の富を|一《いっ》|手《て》にあつめることができるではないか。

「しかし、香代子さん」

 そのとき、しずかにそばからことばをはさんだのは金田一耕助である。

「人造ダイヤのことはいずれゆっくりおたずねするとして、あなたはどうして今夜、こんなところへきたんですか?」

「ああ、それは……」

 香代子はきゅうにおびえたような顔をして、

「この家は成城へうつるまえ、あたしたちが住んでいた家なのです。そのとき、父が万一のことを思って、この地下道を作っておいたのですが、あたし、今夜ふとしたことから、銀仮面の正体に気がついたのです。それで、そのしょうこをたしかめようとして、ここからしのんできたのです」

「な、な、なんですって? 銀仮面の正体に気がついたんですって? いったい、それはだれですか?」

 等々力警部はおもわず大声をあげてきいたが、金田一耕助はいきなりその口を押さえると、

「シッ、警部さん、そんな大きな声をだしちゃいけません。壁に耳ある世のなかですからね。はっはっは、いや、香代子さん、それはぼくもだいたい見当がついているんですがね」

   やみ夜の上陸

 ああ、金田一耕助や香代子が気がついたという銀仮面の正体とは、はたしてだれだったのだろうか。……それはしばらくおあずけにしておいて、ここでは怪汽船、宝石丸の、そのごのなりゆきから、話をすすめていくことにしよう。

 越中島の岸ぺきをはなれた宝石丸は、途中、海上保安庁の警備艇に発見されることもなく、ぶじに東京湾をはなれて、西へ西へとすすんでいた。船は海岸線を遠くはなれて、はるか沖合を走っているので、いったいどこを走っているかわからないが、東京で金田一耕助が香代子の秘密を発見したころ、ようやく進路をかえて、海岸線へ近づこうとしているようすだった。

 船首に近い上甲板に立っているのは、あの魔法使いみたいな老婆に化けた怪人である。怪人は目のまえにせまってくる絶ぺきを、さっきからジッと見守っていた。

 雲間にまたたいている北極星の位置から判断すると、船のへさきはいま、真東にむかっているようだ。しかし、見わたすかぎり陸上には、人家の明かりらしいものは一つも見あたらない。とつぜん、前方の山の上から、花火のように黄色い火が、流れ星のように尾をひいて、パッと空にのぼっていった。

「うっふっふ。仮面城に異状なしというわけか。どれ、上陸にとりかかろうか」

 怪人がホッと安心したようにつぶやいたときだった。うしろに近づいてきたのは無線技師である。

「東京の銀仮面さまから電報です」

「ああ、そうか。きみ、ひとつ読んでみてくれ」

「はい、『ぶじ東京湾を脱出のよし、安心せり、捕りょはすぐ仮面城に連れてゆき、かんきんすべし。余は負傷せるも重傷ならず、あす仮面城にむかう予定。銀仮面』です」

「ほほう、すると首領は負傷されたのか」

「ええ、でも、重傷ではないということですから」

「フム、首領にそんなぬかりがあるはずはないから。よし、それではいまから、捕りょをボートにのせて上陸する。ここへ連れてくるよう伝えてくれたまえ」

「はっ、かしこまりました」

 無線技師が階段をかけおりていくと間もなく、うしろ手にしばりあげられ、さるぐつわをはめられた、大野老人と文彦のおかあさんが、ひきずりだされてきたが、どうしたわけか三太少年のすがたは見えなかった。

「あの小僧はどうした?」

「それがどうもおかしいんです。クロロホルムをかがせてあるから、ついだいじょうぶと船室にカギをかけずにおいたら、いつの間にかいなくなっているんです」

「バカやろう!」

 怪人の口から|雷《かみなり》のような声がふってきた。

「それで見張りの役がすむと思っているのか。もう一度、船中を残らずさがしてこい!」

「は、もうしわけありません」

 ものすごい怪人のけんまくに、さすがあらくれ男の水夫たちも、青くなってあたふたと、階段をかけおりていった。

 そのうしろすがたを見送って、怪人はあらためて、大野老人のほうへむきなおった。

「いや、大野先生、船中ではなにかとご無礼をもうしあげましたが、上陸のあかつきにはいろいろとおわびもうしあげます。むこうには先生の弟さんもいらっしゃるはずですから」

 それから文彦のおかあさんのほうへむきなおると、

「それから竹田のおくさん、あなたもいろいろご不自由をかけましたが、もうしばらくのしんぼうです。大野先生がわたしたちの命令にしたがってくだすったら、あなたはぶじに帰してあげます。

 だから、あなたからもくれぐれも、先生によろしくおねがいしてください」

 ああ、なんという虫のよいことばだろう。銀仮面の一味は大野きょうだいを脅迫して人造ダイヤの秘密を手にいれるまで、文彦のおかあさんを、人質にとっておくつもりなのだ。

 文彦のおかあさんは、まっ青になって涙をうかべ、大野老人は歯ぎしりをしてくやしがったが、そのときどうやら、船は上陸地点へついたようすだった。

   仮面城

 船中をすみからすみまでさがしても、三太少年のすがたはとうとう見つからなかった。怪人もしかたなくあきらめて、一同に上陸を命じた。きっと途中で、海のなかへとびこんだと思ったのだろう。

 やがて怪人と捕りょのふたりをのせたボートが、まっ先に船をはなれ、そのうしろにはいろいろの荷物をつんだ三そうのボートがつづいた。

 いくことおよそ十分あまり、やがてボートがついたところは、切り立ったような断がいのふもとだった。

「さあ、おりろ」

 怪人は、片手にふたりの捕りょをしばった綱の端を持ち、片手でピストルをにぎっている。少しでも逃げだしそうなようすが見えたら、ズドンと、ぶっぱなすつもりなのだろう。ふたりの捕りょはよろよろと、力なくボートから岩の上へおり立った。

 そのふたりをなかにはさんで、怪人の一行は、切り立ったような絶ぺきをのぼっていく。絶ぺきには岩をきざんで階段が作ってあり、船員たちは手に手にたいまつをふりかざしているのだ。

 のぼること約百メートル、ようやく道がゆるやかになってきたかと思うと、やがて一行はまばらな赤松林のなかに出た。赤松林のうしろには、大きな岩がそびえている。

 その岩のまえまでくると、

「とまれ!」

 怪人が強く綱をひいたので、ふたりの捕りょはおもわずよろよろ立ちどまった。

 怪人は懐中電燈の光をたよりに、岩の上をさぐっていたが、するとどうだろう。何十トンもあろうという大きな岩が、ぶきみな音をたててしずかに回転していくではないか。そして、そのあとにポッカリひらいたのは、地獄の入り口のようなどうくつだった。

「あっはっは、なにもおどろくことはない。これこそ仮面城の入り口だ。これでもなかにはちゃんと電燈もついておれば、水道もひいてある。先生がたのご研究には、なにも不自由はございませんから安心してください」

 大野老人と文彦のおかあさんは、おもわず顔を見合わせた。怪人はまた強く綱をひいて、

「前へすすめ! なにもこわがることはない。ぐずぐずせずに早く步かんか!」

 うしろからせきたてられて、ふたりの捕りょはしかたなく、このぶきみなどうくつのなかへはいっていった。すぐそのあとから、一行が、どやどやと穴のなかへもぐりこんだ。

 こうして一同がはいってしまうと、またもや大きな岩が動きだして、仮面城の入り口は、ぴったりとざされてしまったのである。

 あとは深夜のしずけさで、聞こえるものとては波の音ばかり。

 と、このときだった。松林のなかでバサリとマツの小枝がゆれたかと思うと、ガサガサと|下《した》|草《ぐさ》をわけて、サルのようにとびだしてきた一つの影があった。

 その影は、岩のまえに立ちよると、耳をすまして、ジッとなかのようすをうかがっていたが、そのときだった。雲をやぶった月の光がサッとその男を照らしだしたが、見ればそれこそ、東京湾の岸ぺきから、いかりにすがって追ってきた、牛丸青年ではないか。

 ああ、それにしても三太少年はどうしたのだろう。三太はほんとうに、海へとびこんでしまったのだろうか。

   燃える怪汽船

 牛丸青年はしばらく岩に耳をあて、なかのようすをうかがっていた。岩に耳をあてたところで、耳が不自由なのだからなにも聞こえるはずはないが、そうしてからだをくっつけていると、やはりなにかのけはいがわかるのだろう。

 牛丸青年は息をころして、なかのようすをうかがっていたが、やがて安心したように、岩の表をさぐりはじめた。

 おそらくさっきの怪人が、岩をひらいたあのしかけをさぐっているのだろう。しかし、銀仮面の一味もさるもの、そんななまやさしいことで、すぐわかるような、しかけをしておくはずがない。

 牛丸青年はがっかりしたような顔色で、岩の表をながめていたが、やがて全身の力をこめて、岩を押してみた。しかし、牛丸青年がいかに怪力とはいえ、何十トンもあろうという岩が、そう、やすやすと動くものではない。

 牛丸青年はいよいよがっかりした顔色で、うらめしそうに、岩の表をながめていたが、そのときなのだ。きゅうにあたりがパッと明るくなったのは……。

 牛丸青年はびっくりして、ハッとうしろをふりかえったが、そのとたん、おもわず大きく目を見張った。

 ああ、なんということだろう。さっきの牛丸青年が、いかりにぶらさがってきた宝石丸が、いまやえんえんとして燃えあがっているではないか。

 おそらく船員のだれかのそそうから、火が燃料に燃えうつったにちがいない。見る見るうちにほのおが船ぜんたいを押しつつんで、牛丸青年には聞こえなかったが、パチパチともののはじける音、ドカン、ドカンとなにかの爆発するひびき。

 あたり一面、ま昼のように明るくなった海面を、船からとびこんだ船員たちが、助けを求めながらただよっているのだ。

 牛丸青年はびっくりして、しばらくこのありさまをながめていたが、と、このとき、かれのもたれていたあの岩の戸がぐらぐら動きだしたので、牛丸青年はギョッとして、もとの松林にとびこむと、下草のなかに身をふせた。

 すると、ほとんどそれと同時に、岩の戸が大きくひらくと、なかからとびだしてきたのは、十人近くの人影である。船から無電をうけとったのか、それとも物音に気づいてとびだしてきたのか、燃えさかる船を見ると、しばらく、ぼうぜんとして立ちすくんでいたが、やがて、口ぐちになにかわめきながら、岸ぺきを目がけて走っていった。そして、そのすがたはまたたくうちに、岸ぺきにきざまれた、あのあぶなっかしい階段のほうへ、見えなくなってしまった。

 そのうしろすがたを見送って、松林のなかからはいだしたのは牛丸青年。岩の戸のところまできてみると、なんとそれはひらいたままではないか。さすがの悪者たちも、よほどあわてていたと見えて、しめるのを忘れていったのだ。

(しめた!)

 口がきけないのだから、ことばにだしてはいわなかったが、牛丸青年はいかにもうれしそうにあたりを見まわした。

 と、このときだった。

 とつぜん、船の中央から、ドカーンというものすごい大音響が起こったかと思うと、天までとどくようなまっかな火柱が燃えあがった。と、同時に燃えあがるほのおと、黒い煙が宝石丸を押しつつみ、船はしばらく海上を、のたうちまわっていたが、やがてまっぷたつにさけたかと思うと、ぶくぶくと海のなかへ沈んでいくのだった。

 牛丸青年はそれをしり目にかけながら、用心ぶかく、仮面城のなかへもぐりこんでいった。

   トランクのなか

 どうくつのなかはコンクリートでかためられた、りっぱな地下道になっている。

 天じょうにはおちついた蛍光燈の光がかがやき、ろうかの両側には、ところどころ、緑色にぬった鉄のとびらがあった。人影はどこにも見えなかった。

 牛丸青年は用心ぶかく、そのろうかをすすんでいった。間もなく下へおりる階段にぶつかった。見るとその階段にはまだ新しい足跡が、いりみだれている。

 さては悪者たちはこの階段をおりていったのか……。

 そう考えた牛丸青年は、あいかわらず用心ぶかく、その階段をおりていった。階段をおりると、そこにまたさっきとおなじようなろうかがあったが、そこからまた、下へおりる階段がついているのだ。そして、いりみだれた足跡は、その階段をおりている。

 牛丸青年は用心ぶかく、その足跡をつけていったが、やがて階段をおりきると、足跡はこんどはろうかの奥のほうへつづいていた。

 つまり、この仮面城は地下三階になっていて、小さなビルディングくらいの大きさをもっているのだ。

 牛丸青年は内心舌をまいておどろきながら、足跡を伝ってろうかを奥へ奥へとすすんでいったが、とつぜん、ギョッとしたように立ちすくんだ。

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