れている品が、頭のなかに映像となって伝わってきた。服の下のからだつきまでわ
かる。あまり美人でないこともわかり、それはほどほどにした。
なんという能力。しかも、前後左右がいっぺんにわかるのだ。なまじっか目が見
えていた時より、すごいではないか。
男は黒眼鏡を買い、病院へ戻った。医者は迎えて言った。
「勝手に外出なさっては、危険でございます」
男はそれを装置の点字で知り、もっともテレパシーでわかってはいたのだが、と
にかく答えた。
「いや、ちょっとそのへんまでね。運動をかねてだ」
「外出なさりたい時には、おっしゃって下さい。つきそいをつけます。すべてはこ
ちらの責任なのですから」
「ありがたいが、いずれひとりで歩けるようになるのが目標だ。自立の精神までは
失いたくない」
「ご立派なお心がけです」
しばらくは、つきそいの人に助けられての外出となった。いい気になって歩きま
わったりしては、変に思われる。
やがて、退院し、自宅での生活に戻る。医者からは定期的に金がとどくし、保険
の金も入り、食事は配達され、そのたぐいの心配はない。しかし、いささか退屈だ
った。仕事がないのだ。視力を失ったので、やれば出来るのだが、資料調べの注文
がこなくなった。
外交関係の通訳をやるか。外国語はとくいでないが、テレパシーで本音はわかる
のだ。あるいは国際空港につとめるか。|鞄《かばん》のなかは透視ですぐにわか
る。しかし、いずれもこの特殊な能力を知られた上でのことだ。それがいいことか
どうかは、ゆっくり考えてからでいい。
男は歩いて盛り場へ出かけ、酒を飲むことが多くなった。感じのいい店かどうか
は、テレパシーでわかるのだ。だまって飲みながらお客たちの心をのぞくのは、け
っこう楽しいことだった。
普通の人以上に周囲のことはわかるのだが、黒眼鏡と白い杖のため、いたわられ
ることが多かった。ほどほどに酔い、引きあげる。
ある日、帰りがけに二人の若者にあとをつけられた。襲って金を奪うつもりらし
いことは、テレパシーでわかった。目が不自由な人と知った上でとは、なんてこと
をするやつだ。近づいてくるのも透視でわかる。飛びかかられる寸前、男は杖を振
るってつぎつぎとたたきのめした。二人は信じられないといった感情を示し、その
場へのびた。
その二人、犯罪組織に属していて、反省どころか、男が目の不自由をよそおって
いるのだと思った。縄張り内でそんなことをされては……。
男は、やつらのしかえしがいかに理不尽でひどいものか、体験してみて、はじめ
てわかった。数人がかりで襲われた。透視能力もテレパシーも役に立たない。もう
、さんざんな目に会わされた。
「目が見えるだけでもありがたいと思え」
そう言われ、やっとほうり出された時は、手も足も形容しようもないほどにやら
れていた。運び込まれた病院でなんとか治療してもらったが、もとのように回復は
しなかった。
足の骨は折れ、神経も傷つけられていた。手の筋肉のすじも切られていた。すな
わち、手足も不自由になってしまったのだ。歩くことも、物を持つことも。
さらに絶望的になるところだが、男は一種の期待のようなものを抱いていた。視
力を失った時のようなことが起るのではないか。
はたして、念じるだけで物品を浮上させる能力の身についたことがわかった。テ
レキネシス。また、足で歩かず、念じるだけで移動できるテレポーテーションの能
力も身についていた。これには自分でも驚いた。杖にすがって立ち、どこへと念じ
ると、山や海岸へ瞬時に移り、いい空気が味わえる。視力はないが、それ以上の能
力で風景が感じとれる。
それはそれとして、まずは襲ったやつらへの報復だ。ひとりずつ追い求める。テ
レポート能力があるのだ。いそうなところへ出現し、いなければすぐに戻る。いた
らテレキネシスで首をしめあげる。一対一なら、優位にあるのだ。
少しはなれて、念力を作用させる。首への力をふりはらおうとすると、相手のみ
ぞおちに一発くらわせる。それで、たいていうまくゆく。かくして、ひとりまたひ
とりと片づけていった。
手がかりは残さなかったが、やつらは犯罪組織。やられた連中の顔ぶれから、い
つか襲った男のしわざとかんづいた。そして、予想以上に手ごわいことも。
ある夜、男が外出すると、強烈な殺意を感じた。どうやら、すご腕の殺し屋をさ
しむけてきたらしい。驚きと、自分が対象だとの確認のため、テレポートへ移るの
が少しおくれた。弾丸をくらう。つづいて、もう一発。ついに一巻の終りのようだ
な。男はそう思う。肉体を失うわけか。となると、そのかわりに……。
そのかわりに、男は不死の能力を得た。テレパシー、透視、テレキネシス、テレ
ポート、それらの超能力に加えて不死。そして、意識はちゃんとあるのだ。肉体が
ないのだから、だれにも見えない。
男はまず殺し屋をさがしてやっつけ、ボスの息の根をとめ、その犯罪組織の一味
を壊滅させた。
その男の性格が気まぐれで残酷でなかったことを喜ぶべきだろう。彼そのものは
とてつもない存在なのだが、善良な人をどうこうしようなんてことはない。しかし
、人しれず悪いことをやって平然としているやつを始末することはある。悪人退治
が好きになったらしい。その結果、その友人たちはわけがわからず、口にするのだ
。
「あいつが変死するとはねえ。魔がさしたとしか思えないね」
|地球《ちきゅう》から|来《き》た|男《おとこ》
|星《ほし》|新《しん》|一《いち》
平成13年2月9日 発行
発行者 角川歴彦
発行所 株式会社 角川書店
〒102-8177 東京都千代田区富士見2-13-3
shoseki@kadokawa.co.jp
Shin-ichi HOSHI 2001
本電子書籍は下記にもとづいて制作しました
角川文庫『地球から来た男』昭和58年5月25日初版刊行
平成12年7月20日44版刊行
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本书由书香门第论坛整理制作
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