饭饭TXT > 海外名作 > 《地球から来た男/最后的地球人(日文版)》作者:[日]星新一【完结】 > 地球から来た男.txt

第 8 页

作者:日-星新一 当前章节:15363 字 更新时间:2026-6-16 01:47

うお思いになりませんか」

「だろうな。企業につとめていると、想像はつくよ。商品の価格なんか、ちょっと

したことで上下する。まして、宇宙人がやって来たとなるとね」

「でしょう。友好的ならまだいいのですが、そうじゃないのですから、ことですよ

「はっきりしているのか」

「くわしい説明は、あなたのご返事しだいです。とにかく、このままでは、地球が

どうなるかわからないのです」

 青年の声は低いが、熱がこもっていた。男はふしぎがって聞く。

「それが事実とすれば、重大なことだな。しかし、なんでそんな話を、このわたし

に……」

「お力をお貸し下さい」

「しかしね、わたしは会社づとめ。家族もある。妻と小学生の娘ひとりだがね。そ

の片手間に、なにができます」

「あなたをみこんでの、お願いなのです。やつらとの戦列に加わっていただきたい

のです。したがって、その期間は、会社を休んでいただかなくてはなりません。ご

家族とも、しばらくはお別れです」

「本格的だな。しかし、この年になって、そんな依頼を受けるとはね。もっと若い

人のほうがいいんじゃないかな」

「もちろん、若い人も加わっています。しかし、社会体験のある人も必要なのです

。各分野のすぐれた能力を結集して、敵に当らなければならないのです」

「そうかもしれないな」

「急いでいるのですが、いまここでご返事をとは申しません。二日間、お待ちしま

す。お考えの上、おきめ下さい。なお、今後の人生にマイナスになることはありま

せん。それから、この点は最も重要なのですが……」

「なんだい」

「戦いに負けたら、あなたのご家族をはじめ、人類はすべてほろびるのです。あん

なやつ、くたばれとお思いの知人もお持ちでしょうが、親しい友人もたくさんお持

ちでしょう。勝たねばならないのです」

「わかった」

「このことは内密に。他人にご相談なさらないで下さい。もっとも、笑われるのが

おちでしょうが」

「いずれにせよ、ただの冗談ではないようだな。よく考えてみるよ」

 男は青年と別れた。

 二日後、青年があらわれて言う。

「いかがでしょう」

「協力するよ。なんだか面白そうだ。仕事のほうは、一段落させたし」

「ありがたい。では、くわしい打ち合せをいたしましょう。ぼくについてきて下さ

い」

 案内されてついたところは、大きいビルの地下室だった。ひとつの組織で、何人

かがここで働いているらしい。うながされて、男は部屋のひとつに入った。

 制服姿の男が迎えた。

「承知していただいて、ありがとう」

「二、三、質問させて下さい。会社にだまってここへ来たのです。無断欠勤という

わけにはいきませんし」

「休暇届を郵送すればいい。社の上層部にはここから話をつけるから、問題になる

ことはない。すべてが片づいたら、もとの地位に戻れるよ」

「そうでしたか。それと、もうひとつ。なぜ、わたしみたいな者をご指名に」

「各方面に、適任者を求めているのだ。あなたについても、いろいろと調べさせて

もらった。このあいだの、会社での定期的な健康診断も参考にさせてもらったよ。

プライバシーにふみこんだ形だが、なにしろ非常の場合なんだから、がまんしてく

れ」

「仕方ないでしょうね。過去に悪事をやったことはありませんし、その程度ならか

まいませんよ。ところで、状況はどうなのです」

 男は聞いた。制服の人物は言う。

「その実体を見てもらおう……」

 ボタンが押され、壁の画面に映像がうつし出された。円盤状の物体の飛来。着陸

。基地の建設。宇宙人の外見は地球人に似ているが、皮膚は青っぽい。

「……やつらは、ほとんど人の住んでないところを選んで、計画を進行させている

。一般の人が知らないでいる原因でもある」

「このままだと、どうなるのです」

「地球は制圧されてしまうだろうな。もっとも、いま見た基地は、われわれの手に

より、すべて破壊した。しかし、やつらも容易なことではあきらめない。目のとど

かない土地をねらって、侵攻のための基地づくりをつづけている」

「本来は、軍隊のすることじゃないのですか」

「たしかに、その通り。しかし、軍隊が動くとなると、国によっては手続きが必要

だし、目立ちもする。なんの目的でと話題になり、好ましいことではないのだ。そ

れに、いま程度のものだと、わざわざ軍を動かすほどのことはないのだ。簡単な武

器でなんとかなる。最近は、性能のいい、使いやすいものが作られているからな」

「それでも、少しは使用法の練習をやらなくてはならないでしょう」

「当然だ。ほぼ二週間は、集団生活をしてもらう。からだのためにもなるぞ」

「でしょうね」

 男は、ふとりぎみの自分の腹のあたりを見て笑った。

「しかし、楽観は困る。力では地球側が優位にあり、敵の動きもにぶってきた。や

つらもこの星をあきらめ、終結も遠くないことと思われる。だが、これは遊びでは

ない。運命をかけての戦いなのだ。その考えで行動してもらわねばならない」

「わかっています」

「では、すぐ出発してもらおうか。家へ電話をするのはかまわない。毎日でもいい

。しかし、言うのは元気でいるとだけ、あとは家族のようすを聞くだけだ。こちら

の場所や仕事について話してはならない。交換手が検閲しているから、そのつもり

でな」

「はい」

 男はふたたび案内され、車に乗せられた。夜のことでもあり、着いたところがど

こなのか、よくわからなかった。

 朝になってみると、山岳地帯で、会社の寮といった感じの建物のなかだった。一

般の人は近よれないようになっているらしい。それらしき人影を見かけなかった。

 つまり、ここにいるのは組織の連中と、民間から集められた人たちだけなのだ。

民間人には、少年もいれば、五十歳を越した人もいた。

 規則的な生活と訓練の日々がはじまった。能力に応じて、扱う武器がちがうのだ

。ほかの連中とは、すぐに親しくなれた。なにしろ、使命を同じくする仲間なのだ

「どうだ、気分は」

 そこの所長に聞かれ、男は答える。

「息切れはするし、時どき、目がくらみます。いままで運動不足だったせいか、い

ささか疲れました」

「やむをえないな。戦いなのだ。まもなく、活躍してもらうことになる。たのむぞ

、その時は」

 ヘリコプターが飛んできて、一同をどこかの滑走路まで運ぶ。そこから、小型ジ

ェット機。着いた地点は、国内なのか国外なのか、まるでわからない。樹木が少な

く岩石の多い丘がつづいている。

「今夜はゆっくり眠ってくれ。あすにそなえてな」

 つぎの日、ヘルメットがくばられ、指令が出た。

「敵はこの近くにいる。途中まではジープ。あとは歩いて接近する。成果を期待し

ているぞ」

 いよいよだ。気分がひきしまる。

 そして、ついにそれを目にした。円盤状の物体が着陸している。あれか、地球を

めざしてやってきた敵とは。

 小声で命令が出された。

「それぞれ、武器を持って、ばらばらに散ってくれ。指示は無電で告げる。ヘルメ

ットで声が伝わるのだ。合図によって、いっせいに発射する。各種の武器による、

多方面からの同時攻撃。これが効果をあげるのだ。敵に気づかれぬよう行動してく

れ」

 男は武器を手に、身を伏せて動いた。バズーカ砲のようなもので、使い方はすっ

かりおぼえこんでいる。耳をすませる。

「うて」

 男は引金をひいた。ねらいは正確、それはみごとに命中した。しかし、その爆発

の寸前、円盤から青い光線が発射され、男の肩に当り、鋭い感触があった。

「やられた」

 痛みはひろがり、そのあとは徐々に|麻《ま》|痺《ひ》してゆく。それが心臓

か頭に及んだら、おそらくだめなのではなかろうか。

 組織のひとりがかけつけてきた。

「どこをやられた」

「肩です」

「あんな反撃があるとは思わなかった。一段と注意するようつけ加えなかったこと

を、おわびする。まもなく、救急班が来るはずだ。しっかりしろ」

「むりでしょう。助からないんじゃないかと思いますよ。地球のものでない、宇宙

人の武器にやられたのですから」

「できるだけの手当てはする」

「覚悟はしています。で、相手をやっつけたことは、たしかなんでしょうね」

「爆発は見ただろう。うまくいった。地球への危険が、あれで確実にひとつ取り除

かれたのだ。やがて、やつらもあきらめるだろう。きみは、きみの家族を含めて、

人類を救ったのだ。報道管制が解除された時、きみの名は大きく書かれるだろう。

わたしも、報告書に、いかに勇敢に戦ったかを書く。きみの名は、永久に語りつが

れるだろう。しかし、いまは、まず元気を出すことだ」

「ええ……」

 声も弱っていた。救急班が到着し、手当てがなされた。しかし、それもむなしく

、男は息をひきとった。

「まあ、だいたい、うまくいっているようだな」

 組織のひとりが言い、他の者が応じた。

「そのようです。ヘルメット内の装置によれば、死の寸前の脳波は、高度の満足感

を示しています。なにしろ、人類を救うという大役をはたしたのですからね。盛り

場のけんかの巻きぞえで死ぬのじゃあ、死んでも死にきれない思いでしょうけど」

「順調というわけだな」

「できるものなら、宇宙の空間で、真に迫った戦いをさせて死なせたいものですね

「そりゃあそうだが、費用の点を考えてみるんだな。いまの程度が、健康保険ぎり

ぎりのところなんだ」

「それにしても、こんな方法が現実におこなわれるような時代になるとはねえ。た

しかに、安楽死としてこれにまさるものは、ちょっと考えられませんね」

「だろうなあ。あの男、訓練の時、息切れと、目のくらみを訴えた。症状が進みは

じめていたわけだ。現在では、あの病気は治療のしようがない。苦痛が高まるばか

りで、最後には死ぬのだ。治療法があれば、われわれもこんな仕事をしなくてすむ

のだが」

「この組織の秘密は、いつまでもつでしょう」

「少しでも長いことを祈るばかり。しかし、その時はその時だよ。新しい方法が考

え出されるだろう。必要であり、ヒューマニズムにみちた行為なのだから」

  来客たち

 その男は、六十歳ぐらい。からだつきも立派で、なかなかの貫録だった。交通の

便利なところにあるビルの一部屋を借りて、男と女の秘書をひとりずつおき、あれ

これと活動していた。

 どんな仕事かは、ひとことで説明しにくいものだった。会社と会社のもめごとの

仲介をやる。企業の弱味をにぎって、改めたらいいのではとアドバイスをして謝礼

をもらう。表に出せない金の運用の世話をする。不動産の争いに口をはさむ。つま

り、そういったたぐい。時には、法律すれすれのこともやる。不法でも、発覚しな

ければいいのだ。

 しかし、暴力的なことはしなかった。性格に合わなかったし、そうまでする必要

もなかった。まったく、ごたごたで金をもうけるのには、一種の快感があるのだっ

た。

 政治家とも何人かつきあいがあり、そう大物というわけではないが、かげの実力

者といえないこともなかった。だから、この事務所には、さまざまな人がやってく

る。

 井村という、四十歳ぐらいのやせた男がやってきて、声をひそめて報告した。

「先生、たのまれた件、さぐってきましたよ。よく目をつけましたね。あの会社、

会長派と社長派が対立していて、微妙なバランスを保っていて……」

「ふむふむ」

「専務がどっちへつくかが分れ目なんですが、要領のいいやつで……」

 この井村は、個人営業の興信所といったのが役割り。たのまれると、さまざまな

情報をさぐり出してくる。それがかなり正確なのだ。どんな手段に訴えてるのかな

ど、くわしくは聞かないことにしている。知ったりしたら、気がとがめるかもしれ

ない。そのかわり、金は多めに払うことにしている。

「じゃあ、その専務について、もう少し調べてもらうとするか。手腕とか人望とか

、双方からの働きかけなどについても……」

 タバコに火をつけて、男はなにげなく口にした。

「……平沢という人を知っていないかね。リスに似た顔つきをしているやつだ。き

みと同じぐらいの年の……」

 平沢も、ここに出入りする者のひとり。いろいろと用事をたのんでいる。よそで

はどんな評判なのかわかればと思ってだ。井村は言った。

「やっばり、リスに見えますか。なかなかのやつですよ。リスの平沢といやあ、ち

ょっとしたものでしたよ、ある方面ではね」

「でしたというと、いまの実力はさほどでもないということかね」

「そうじゃあないんです。死んだんですよ。三年ほど前に」

「なんだと、まさか」

「お親しかったみたいですね。だけど、驚いたって、死んだやつが生きかえるもの

じゃありませんよ。きょうは急ぎますので、では、これで……」

 井村の帰ったあと、男はつぶやく。

「つい、このあいだ会ったのにな。井村のやつ、別人と感ちがいしてるのだろうか

 二日ほどして、事務所にその平沢があらわれた。元気な声で言う。

「わかりましたぜ、先生。例のうわさの巨額資金のことです。うそじゃあないんで

すが、額がひとけた小さい……」

「たしかな筋か」

「いい借り手をさがしています。利息もまあまあですね……」

 平沢の話すのをいちおう聞いてから、男は、言わずにいられなかった。

「ところで、井村という名を聞いたことはないかい。きみぐらいの年齢で、やせぎ

みで、静かな口調の……」

「知ってはいますよ。深いつきあいではありませんがね。外見に似あわず、なかな

かのやつです。だから、やつの名を出す時など、だれに聞かれるかわからないから

、ひっくりかえして村井として使ったりしたものです」

「いまはどうなんだい」

「それが、死にましてね。惜しいというか、ほっとしたというか、妙な気分でした

よ」

「本当か……」

 男は声をあげ、平沢は言った。

「なんで、そんな変な声をお出しになるんです。わけがありそうですね」

「じつは、このあいだ井村が来て、きみが死んでるとか言ってたものでね」

「冗談じゃあ、ありませんよ。どうです、わたしが死んでいるように見えますか。

ちゃんと、さまざまな情報を持ってくるでしょう」

「うんうん」

「死んでるのは、井村ですよ。もう、かなりになる。階段で足をすべらせ、打ちど

ころが悪かったんです。ね、しっかりして下さいよ。わたしは健在でしょう」

「そうだな。で、きみに兄弟はないのかい。人ちがいされてるのかもしれない」

「兄弟はありませんし、親類にも心当りはありませんね。人ちがいなら、やつのほ

うだ。先生の考えてる井村は、わたしの知ってたのと別人なんでしょう」

「かもしれないな」

「そうですよ。では、そのうち」

 平沢は帰っていった。男はしばらく、ぼんやりしていた。なにがどうなっている

のだ。死んだのは、どっちなのだ。

 その二日後、井村がやってきた。真相はどうなのか。男は聞いた。

「同姓で、顔が似ていて、人ちがいされたことはないかね」

「ありませんね。いったい、どうしたんです」

「ほら、こないだの話の平沢、リスの平沢が来たんだよ。やつは、死んだのはきみ

のほうだと言っていたよ。なにか心当りはないかと思ってね」

「あるもんですか。死んだのは平沢のほうですよ。そんな年でもないのに、脳出血

。葬式に行ったわけじゃありませんけど、たしかです。わたしを見て、かげが薄い

感じでもしますか」

「しないな」

「だったら、いいじゃありませんか。計画どおりにことが進展していれば。あまり

妙な、よけいなほうに頭をお使いにならぬよう、お願いしますよ」

「そうだな」

 男はうなずく。しかし、ひとりになると、気になってならない。

 それから三日目に、この事務所に、松原という弁護士がやってきた。男とほぼ同

じ年配で、ほうぼうに顔がきく。だれかにおどしをちらつかされた時、この松原に

たのむと、たいていおさまる。金はかかるが、なにかと役に立つ人なのだ。男もて

いねいに迎える。

「よくおいで下さいました」

「近くまで来たついででね。どうかね、うまくいっているかね」

「はあ……」

「なにか、元気がないな」

「おかしな気分なのです……」

 死んだのはあっちだと主張しあっている二人のことを話した。松原はうなずいて

言う。

「ふしぎなことだな」

「気になりますよ」

「だれとだれのことなのだ。そこがわからないと、考えようがない」

「ご存知かどうか、井村と平沢という、どっちも四十歳ぐらいの……」

 松原の表情からは、知ってるのかどうかはわからなかった。弁護士とは、そうい

うものなのだろう。

「あくまで仮定だよ。こう考えたらどうだ。その二人は、なにかが原因で対立した

。その度が高まり、相手を消そうとして、殺し屋をやとった」

「そんな職業があるんですか」

「社会の裏側には、ないこともない。需要あれば、供給ありだ」

「で、どっちがやとったのです」

「両方がだよ。手づるをたよりに、さがす。殺し屋なんて、そうそういるものじゃ

ない。二つの仕事を引き受けたら、どうなる。しとめたと報告しないと、報酬がも

らえない。適当な形に仕上げたくもなるんじゃないかな」

「ありえますね。おたがい、相手が死んだものと思い込み……」

「ということも、ありうるというわけさ。しかし、そんなつまらんことで悩むのは

、よくないな。なすべきは仕事だよ」

 松原は帰っていった。

 四日ほどして、平沢がリスのような顔をしてあらわれた。男は聞いた。

「殺し屋なるものを知ってるかい」

「知りませんね。ご利用なさりたいんですか。これだけは、やめておいたほうがい

いと思いますよ」

「べつに、使う気はない」

「どうかしてますよ、このごろの先生は。なんで、殺し屋の話など……」

「井村の死んだのは、そのせいだということも考えられる」

「となると、さしむけたのは、わたしですか。なんで、そんなことを。先生は、井

村が死んだとは、思ってないんでしょう。なら、どうでもいいじゃありませんか。

しかし、だれです、そんなうわさを口にしたのは。これだけは教えて下さいよ」

「松原という弁護士さ……」

「あ、あの松原さんね。なかなかの人物でしたね。惜しい人だった」

「死んでいるような話しぶりだね」

「たしか、五年前かな。なくなられたのは」

「信じられん。五年前のいつだ」

「さあ、春ごろでしたかな。だけど、新聞の死亡欄にはのりませんでしたよ。のる

わけがありませんものね。あんなふうに、社会的な名声を求めない生き方、活躍も

それにふさわしい世界に限られてましたから。わたしも、そういうたぐいのはしく

れですけどね。つまり、信用と秘密をおきてとして、仕事をしているのですよ。だ

から、変なうわさは困るんです。やる気をなくしますよ。松原さんは死んでいるか

ら、別な人が作ったのでしょうが」

 平沢の去ったあと、男の来客を見る目つきが少し変った。こいつは、はたして生

きているのか、死んでいるのか。

 事務所へやってくる人は、しだいにへっていった。井村も、平沢も、松原も来な

くなった。なにをやっても金にならず、秘書をひとりにへらし、さらにそれにもや

めてもらい、ついには事務所も手ばなした。

 すっかりおちぶれ、男は昔の知人のせわで、なんとか生活している。折にふれ、

かつての順調だったころのことをなつかしむ。そのたびに、つぶやく。

「こうなったのも、だれかののろいにちがいない」

 あのころが異常だったとは思わずに。

  疑 問

 その青年はマンションの一室を自宅としていた。三十歳ちかいが、まだ独身。つ

とめ先は小さな貿易会社。大商社が手がけないようなものを狙って積極的に扱い、

かなりの利益を上げていた。ボーナスも高額で、彼もマンションを買うことができ

たのだ。

 青年は趣味として、あやしげな古い書物や文書を収集していた。外国のものが多

い。仕事で出張すると、あいまを利用し、図書館や古書店に行く。

 書物そのものを集めているのではなかった。青年の関心は、その内容にあった。

コピーでいいのだ。カメラはいつも持ち歩いていたし、複写機も普及している。だ

から、さほど金をかけずに集めることができた。古い書物だから、著作権の問題も

ない。

 そもそもは、長期的な天候予知の占いができればと思ってはじめたのだ。気象衛

星が打ち上げられ、コンピューターの性能も高まっているというのに、長期予報と

なると、あまりうまくいっていない。ぴたり的中となれば、農産物の買いつけなど

、ずいぶんやりやすくなる。

 しかし、それらの資料をふまえての黒魔術的な方法をもってしても、なかなかう

まくいかない。

 そのうち、青年の関心は、悪魔を呼び出す方法に移っていった。呼び出してどう

するかまでは考えていなかった。それだけだって、面白いではないか。

「だいたいわかった。たぶん、これでいいはずだ」

 そうつぶやける段階にまでなった。彼は材料を買いととのえ、準備は完了。

「さあ、とりかかるぞ」

 床のじゅうたんの上に、毛糸を伸ばして、星形を作った。長さが正確でなければ

ならない。

 |鋲《びょう》で固定させた。そして、五つのとんがった部分に、鳥の羽根、魚

の尻尾《しっぽ》、皿にのせた豚の臓物、銀貨、レンズを置いた。ゆっくりと|呪

《じゅ》|文《もん》をとなえはじめる。

「ペムラ、ペムラ、マポスロア……」

 と同時に、噴霧器で液体をまきちらした。ワインのなかに、薬品だの薬草だのを

とかしこんだものだ。呪文をとなえつづけながら、それをやる。

 霧のなかに人影があらわれた。

「うまくいったぞ。みごとに出現……」

 しかし、青年はたちまち、妙な声をあげた。

「……これが悪魔か」

 セーターを着た、ふだん着姿の、若い女が立っていた。二十二歳ぐらいか。すご

みのようなものは、なんにもない。むしろ、好感を抱かせる印象だ。しかし、油断

は禁物。青年は警戒しながら見つめていた。

 彼女はあたりを見まわして言った。

「あら、ここはどこなの。あたし、どうしてこんなところに……」

 それに対し、青年は言った。

「ここは、わたしの住居だ。研究を重ねて、呼び出すことに成功したというわけだ

。おまえは、わたしの命令に従わなければならない」

 若い女は目をぱちぱちさせた。

「わけがわからないわ。なんで、命令されることになるのよ。とんでもない話だわ

。昼間、会社でいいかげんこき使われているというのに」

「会社組織とは、進歩したものだな」

「あなたのほうこそ、どうかしてるんじゃないの。いま、会社なんて、珍しくもな

んともないじゃないの」

「しかし、悪魔の世界となると……」

 つぶやく青年に、若い女は言った。

「なんですって。ここが悪魔の世界なの。なぜ、あたしが連れてこられたの。いじ

められるのじゃ、割りが合わないわ。だけど、あなた、あまり悪魔らしくないわね

……」

「なに言っているんです。ちがいますよ。悪魔はあなたのほう」

「冗談もほどほどにしてよ。あたしは、会社づとめの、普通の女よ。魔女になりた

いと思うことはあるけど、思うだけ。うそだと疑うのなら、会社とあたしの名を教

えるから、電話してみたら。宿直の人がタイムカードを調べて、返事をしてくれる

はずだわ」

「ふうん、どうやら本当らしいな。とすると、どこかで手ちがいがあったわけか。

まあ、そこから出てきて、ここの椅子にかけませんか」

 彼女はひょいとまたいで、星形を越えた。なんの変化も起らなかったし、飛びか

かってもこなかった。

「いったい、どうなっているの。教えてくれてもいいでしょう」

 と若い女は言う。青年は冷蔵庫から出してきたジュースをすすめながら話した。

「五年がかりで集めた資料をもとに、悪魔を呼び出す方法というのをやってみたの

ですよ。すると、あなたが出てきた」

「おあいにくだったわね、ただの女で。がっかりでしょう」

「いや、なかなか魅力的ですよ。お会いできてよかった」

 青年の正直な感想だった。彼女も笑いながら言った。

「魅力はあれど、魔力はなしってとこね。でも、どうしてこうなっちゃったのかし

ら」

「わからない。やり方にまちがいがあったんでしょうな」

「あるいは、悪魔なんて、もう絶滅しちゃったのかもしれないわね」

「で、あなたはどこに住んでいるのです」

 青年が聞き、女は答えた。タクシーで二十分ほどの距離。伯父の持っているアパ

ートの一室に住んでいる。夕食後、その部屋でステレオを聞いていると、突然ここ

へ来てしまった。そんなことを話したあと、彼女は聞いた。

「どんな方法を使ったの。あたし、被害者なんだから、教えてくれてもいいでしょ

う」

「いいとも……」

 青年は星形を指さし、呪文を口にしながら説明した。そして、つづけて言った。

「……それにしても、一種の瞬間移動、テレポーテーションが実現したことはたし

かなようだ」

「そうみたいね。だけど、なぜ、あたしが選ばれたのかしら」

「わからない。なにか心当りはないかい」

「さあ、音楽を聞いているうちに、雑念が消え、べつな世界へ行きたいなという気

分だったわ。そのせいかもしれないわね」

「あるいはね。ほかに考えられない。しかし、きみは本当に、悪魔でも魔女でもな

いんだろうね」

「残念ながらね。ねえ、これを使って、うちまで帰してもらえるの」

「その呪文は知らない。読んだこともない。悪魔なら、帰れと言えば消えるはずな

んだが。やってみるか」

 女を星形の中央に立たせ「帰れ」と言ってみた。しかし、なんの変化もない。

「だめみたいね」

「悪魔じゃないせいか」

「あたし、お金、持っていないのよ」

「タクシー代なら払うよ。変な目にあわせて、申しわけなかった」

「はじめは驚いたけど、面白かったわ。また呼び出してね。電話するから。あたし

、雑念を払って、じっとしてるわ。きっと、いまの再現ができると思うわ」

 彼女は玄関から帰っていった。そのあと、青年はつぶやく。

「そういうことなのか」

 それから三日ほどたった夜、青年のところへ、このあいだの若い女から電話がか

かってきた。

「ねえ、またやってみてくれない。ちょっとお会いしたいの」

「その気になってくれたとは、うれしいね。ワインでも冷やしておくかな」

「そういうことは、そのうちゆっくり。いまは、ご相談したいことがあるの」

「じゃあ、やってみますか。星形を作るのに、七、八分かかります。豚の臓物と魚

の尻尾は、冷蔵庫のなかで冷凍状だ。そのままでもいいだろう。物に変りはないの

だ。そんな見当で、無我の境地に入って下さい」

 はたしてうまくゆくかどうか。青年は前回と同じように呪文をとなえた。

「ペムラ、ペムラ、マポスロア……」

 噴霧器が使われる。

 このあいだの若い女があらわれた。その右手に、なにかを持っている。よく見る

と、人間の腕だった。青年は驚く。

「なんです、それ」

「あ、こんなふうになってるのね」

 彼女はさほどあわてず、星形のマークのそとへ出た。すると、そのあとに四十歳

ぐらいの男が出現した。空間から抜け出たという感じだった。そいつは言う。

「はじめまして」

「いったい、だれなのです。なぜ、こんなところへ……」

 と聞く青年に、若い女がかわって答えた。

「あたしね、あれから考えたの。あなたに呼び出されるのも面白いけど、一方通行

じゃあ、アンバランスじゃないかしらってね。そこで、あなたから聞いた方法を使

って、やってみたの。あなたが出てくるかと思ってね。そしたら、なぜか、この人

が出てきちゃったのよ。どうしてかしら」

「わからないな。雑念にとらわれていたからかな。で、あなたはお仕事、なにをな

さっているのですか」

 と青年は四十男に言った。

「理髪店をやっています。堅実な商売ですが、いささか単調ですね。そのせいか、

ひまがあると、ふっと空想にふけったりします。年がいもなく……」

「ははあ、そのせいですね」

「しかし、こういうことが現実に自分の身に起るとは。びっくりしましたよ。テレ

ポーテーション、そういっていいんですか。他人の力によるものだから、正確には

……」

「呼び方にこだわることはないでしょう。大事なのは、この現実ですよ」

「その女のかたから、大体のことはお聞きしました。しかし、やり方について、も

う少しくわしく知りたいものですね……」

 さらに十日後。夜。青年の部屋は満員といった感じだった。

 青年。

 青年が呼び出した若い女。

 若い女が呼び出した四十男の理髪店主。

 理髪店主が呼び出した三十歳ほどの主婦。

 主婦の呼び出した中学生の男の子。

 中学生の呼び出した女性アナウンサー。

 それらが順次、ここへさかのぼってきたのだ。手をつなぎあってぞろぞろ出現し

たのは壮観だった。なぜか、異性を呼び出してしまうらしいことがわかった。紹介

みたいなことがおこなわれたあと、まず、理髪店主が言った。

「ラジオの女性アナウンサーが出現したとはねえ。マスコミ関係者だ。これで、も

う秘密は保てなくなる。わたしも、店のお客さんにも決して話したりしなかったの

に」

 女アナウンサーが言う。

「あら、あたしだって、話したりはしないわよ。本気でこんな体験を話したら、世

をまどわすからって、やめさせられちゃうわ」

 青年が口をはさんだ。

「本気じゃなく、冗談としてだって同じですよ。呪文とか、星形の寸法とか、噴霧

器に入れる液体の成分とか。やってみようとする人が出る。となると、ことですよ

 みな、困ったことだと、顔を見あわせる。中学生の男の子が言った。

「その点は、いまのところ大丈夫。ぼく、それについては、まだこの人に教えてな

いんです」

 女アナウンサーが言う。

「知りたい気もするけど、なんだか不安だわ。どんな人が出てくるのか、わかんな

いんでしょ。場合によっては、刑務所のなかに入れられている人が来るかもしれな

い。囚人って、なんとかしてそとへ出たいと思いつづけですものね。そんなのが出

現して、いなおり強盗になられたりしたら、いやだわ。変なことにならない方法な

んかないの」

 頭がいいのか、鋭い指摘だった。青年は顔をしかめて言う。

「そのへん、どうなっているのか、まるでわからないんです。自分で手をつけてお

きながら、説明できないなんて、情ない。こんなこと、はじめなけりゃよかったと

、反省しているんですが」

 主婦が口を出した。

目录
设置
设置
阅读主题
字体风格
雅黑 宋体 楷书 卡通
字体大小
适中 偏大 超大
保存设置
恢复默认
手机
手机阅读
扫码获取链接,使用浏览器打开
书架同步,随时随地,手机阅读
首 页 < 上一章 章节列表 下一章 > 尾 页