「草花がお好きのようですね」
「ええ、好きですよ」
とアール氏が答えると、男は言った。
「じつは、ちょっと、お見せしたいものがあります」
「なんですか。園芸用品の売り込みですか」
「もっといいものです。この粉ですよ。タネをまいてから、この粉をとかした水を
かけてやると、すばらしい早さで育つのです」
男は門をまわって庭に入ってきて、ビンに入った白い粉を見せた。アール氏は笑
った。
「まるで、花さかじいさんのような話ですね。とても信じられない」
「おうたがいでしたら、いま、ここでごらんに入れましょう。タネをまきますよ。
これはスイカ、これはイチゴ、これはトマトです」
「それなら、ついでにこれもまいてみよう。アサガオのタネだ」
「いいですとも」
男はこう言いながら、シャベルを借りて地面にタネを埋めた。それから、ビンの
粉を水にとかし、ジョウロでかけてやった。アール氏は、それをながめてつぶやい
た。
「ばかばかしいように思えてならないな」
「まあ、少しお待ち下さい」
「少しといっても、一週間ぐらいはかかるのだろう」
「とんでもありません。ほら」
と男の指さした場所を見て、アール氏は目を丸くした。もう芽が出はじめている
。
「これは驚いた。手品じゃないだろうな」
「タネもしかけもありません、と申しあげたいところですが、さっきのタネが育っ
たものです。さわってごらん下さい」
手でさわってみると、たしかに本物だった。見ているあいだに、芽はどんどん成
長してゆく。
「ふしぎとしか言いようがないな」
「しかけは、粉のほうです。成長を早めるこの薬を完成するのに、わたしは大変な
苦心を重ねました。しかし、効果はごらんの通り、すばらしいスピードアップでし
ょう」
タネをまいてから、まだ三時間ぐらいしかたたないのに、花が咲き、実がなりは
じめていた。男は実をもいでさし出した。
「めしあがってごらんなさい」
アール氏は、こわごわ口に入れた。どれもいい味だった。
「うむ。悪くない。となると、便利このうえない大発明だ。これを使えば毎日、と
りたてで新鮮なくだものが食べられることになるな」
「そういうことになります。たくさん、めしあがってみて下さい」
アール氏はつぎつぎに咲くアサガオの花をながめながらスイカ、イチゴ、トマト
を口に運んだ。
「やれやれ、おなかが一杯になってしまった。ところで、この発明をわたしに売っ
てくれないか。この薬を大量生産すれば、人びとは喜び、わたしももうかる」
「じつは、わたしもそれをお願いにきたのです。この研究のため、たくさんの借金
を作ってしまいました」
話はまとまり、アール氏はお金を払った。男は薬と、その製法を書いた書類を渡
し、お礼を言いながら帰っていった。
アール氏は家に入り、大喜びだった。
「さあ、いそがしくなるぞ。この薬をどんどん作って、売らなければならない」
だが、やがて首をかしげた。さっきあれだけスイカなどを食べたのに、もうおな
かがすいているのだ。
「これは、早まったことをしたようだ。この方法で育てたくだものは、おなかに入
ってからも、スピードはおとろえないらしいぞ」
窓から庭を見ると、アサガオをはじめ、もうみんなすっかり枯れてしまっていた
。
キツツキ計画
都会からはなれた森のなかに、小さな家があった。しかし、それは別荘などでは
なく、悪人団の本部だった。
ある日。その首領は、ここに子分たちを呼び集めて言った。
「大きな計画を思いついたぞ。おまえたちにも、ひと働きしてもらわなければなら
ない」
「銀行強盗でもやろうというのですか」
と子分たちは身を乗出した。だが、首領は手を振った。
「いや、そんなけちなことではない。いままで、だれひとり考えもしなかったよう
な、どえらい仕事だ。どうだ。やってみるか」
「やりますとも。命令を出して下さい」
「それでは、まず町へ行って金網を買ってきてくれ」
それを聞いて、子分たちは首をかしげた。
「なんに使うのですか」
「大きな鳥小屋を作るのだ」
「気はたしかなんですか。ちっとも、どえらい仕事とは思えませんが」
「そのなかで、たくさんのキツツキを育てるのだ」
「ますます、わからなくなりました」
とふしぎがる子分に、首領は言った。
「おまえたちにもわからないとなると、だれにも気づかれることなく、この計画を
進めることができそうだ。成功への自信がついてきたぞ」
「いったい、キツツキをどうするのです」
「押しボタンを見ると、クチバシで突っつくように訓練する。そして、町にむけて
飛び立たせるのだ。どうなると思う」
「家の門などについている、ベルのボタンを押すでしょうね」
「そうだ。そればかりではない。火災用だの、防犯用だのの非常ベルを、いたると
ころで押すわけだ」
説明されているうちに、子分たちにもしだいにわかってきた。
「警察は、さぞあわてるでしょう」
「そのほか、オートメーション工場に忍びこんでボタンを押しまくれば、へんな品
物がぞくぞく出てくる。コンピューターのある部屋に飛びこんでキーを押せば、め
ちゃくちゃな答えが出はじめる」
「町じゅう、大混乱になりますね」
「そこだよ。そこへわれわれが乗りこむ。どさくさまぎれに、欲しい品物を手当り
しだいに持ってこれるというわけだ」
「なるほど、なるほど。わかりました。さすがに首領だけあって、すごい計画です
。さっそく、とりかかりましょう」
子分たちは大きな鳥小屋を作り、キツツキを育て数もふやした。毎日エサをやり
ながら、クチバシでボタンを押すように訓練した。
やがて、これでよしと見きわめをつけた首領は、キツツキをいっせいに飛ばせた
。
「さあ、ラジオを聞きながら待とう。まもなく、大さわぎのニュースが放送される
だろう。そうしたら、われわれは宅配用の車に乗って出発するのだ」
しかし、いくら待っても臨時ニュースは放送されなかった。夜になって待ちくた
びれたころ、こんな平凡なニュースが放送された。
「きょう、町はずれにある鳥の研究所にいたずら者が入りこんだらしく、ドアをあ
けるボタンが、しらないまに押されてしまいました。そのため、実験用に飼ってい
た、たくさんのタカが飛び出してしまいました。しかし、夕方になると、ほとんど
が戻ってきました。犯人はまだ不明ですが、このタカによって被害を受けたかたは
、研究所へ申し出れば、損害に相当するお金を払ってくれるそうです……」
これを聞いて、悪人たちはがっかりした。
はじめに、とんでもないボタンを押してしまったようだ。せっかく飛ばせたキツ
ツキが、みなタカに食べられてしまったらしい。大もうけの計画がだめになり、大
損害だ。しかし、だからといって、このことを申し出るわけにはいかない。
ユキコちゃんのしかえし
研究室のなかで博士は熱心に薬を作っていたが、やがて、うれしそうにつぶやい
た。
「さあ、できたぞ。ききめを調べてみることにしよう」
それから、ネコをかかえて、犬を入れてあるオリのそばへ行った。強そうな犬で
、ネコを見てうなっている。ネコのほうは、こわそうにふるえはじめた。
博士はいまの薬をネコの頭にぬり、オリのなかに押しこんだ。普通なら、たちま
ちやられてしまうところだ。しかし、薬のききめのためか、なにごともおこらなか
った。それどころか、犬はネコの子分のように、おとなしくなってしまった。
「これでよし。みごとに成功だ」
と博士は満足そうにうなずいた。
この光景を、遊びに来ていたとなりの家の子、ユキコちゃんが物かげからすっか
り見ていた。そして、こう思った。
「すごいお薬ね。あんなに簡単に、相手を恐れいらせてしまう作用があるなんて。
あたしも使ってみたいな」
ユキコちゃんは、おとなしい性質だった。だから、時々友だちにいじめられる。
それが、くやしくてならなかったのだ。
目を輝かしてうらやましそうにながめていると、博士は用事でも思い出したらし
く、部屋から出ていった。
「いまのうちだわ。ちょっとだけ、使わせてもらおうっと」
ユキコちゃんはすばやく机の上のびんを取り、頭につけてみた。自分ではとくに
強くなったような気はしなかったが、ききめのあることはたしかだ。いま、この目
で見たばかりだもの。
その薬からは、甘いようなにおいがした。このにおいが相手を恐れいらせるのだ
ろう。
そとへ出て、あたりを散歩した。そのうち、めざす相手を見つけた。ユキコちゃ
んは思いきって呼びかけた。
「ねえ。いつかはよくも、あたしをいじめたわね」
はたして、ききめはあるのだろうか。反対にやっつけられてしまうのではないか
と、なんだかこわくなった。しかし、心配することはなかった。ふりむいた男の子
は青い顔になり、ふるえ声で言った。
「ぼくが悪かった。あやまるよ」
いつもはいばっているのに、うそのような変り方だった。このすばらしい効果に
力を得て、ユキコちゃんはさらに言った。
「そんなこと言わずに、かかってきたらどうなの」
「ごめん、ごめん」
男の子は泣きそうな声を出して、逃げていった。ユキコちゃんは、すっかり面白
くなってしまった。
うたを歌いながら道をまがったり、公園へ行ったりして、いじわるな男の子たち
を見つけては声をかけた。
「さあ、しかえしにきたわよ」
「もういじめたりしないから、かんべんしてよ」
どの男の子も、みんな恐れいって逃げてゆく。おとなのなかにも、こわごわ道を
よけるのがいた。これでいつものかたきうちができ、ユキコちゃんは大喜びで家へ
帰ってきた。
玄関を入って、ドアをしめようとふりむいて驚いた。たくさんの犬が、ぞろぞろ
とついてきている。大きな悲鳴をあげると、となりから博士がやってきて、わけを
話してくれた。
あの薬は強い相手を恐れいらす薬ではなく、犬をなつかせるにおいを持つ薬だっ
たのだ。そのかんちがいだった。しかし、男の子たちは犬を引きつれているユキコ
ちゃんを見て、みなこわがってしまったのだ。
なにもかもかんちがいではあったが、その日から、だれもユキコちゃんをいじめ
たり、からかったりしなくなった。
ふしぎな放送
ここは地球から遠く離れた、小さな惑星の上につくられた宇宙基地。水も空気も
なく、植物もない荒れはてた薄暗い星だ。建物は銀色のドームで、このような基地
は、ほうぼうの星にある。
どこも、なかに何名かの隊員が住んでいた。毎日、空の星々を観測したり、宇宙
服を着てそとに出て、地質の調査などをしたりしていた。
ドームのなかの生活は、そう不自由なものではなかった。しかし、退屈でさびし
いものだった。地球からの宇宙船は、ごくたまにしかやってこない。
そんな隊員たちをなぐさめるものは、一定時間ごとに地球から送られてくる放送
だった。その電波によって、なつかしい故郷のニュースや面白い話題を知ることが
できるのだ。
「おい、まだかな。地球からの放送は」
その時刻が近づくと、だれからともなくこう言い出す。
「あと五分ほどだ。待ち遠しいな」
みんな、そわそわしてくる。そして、受信機のまわりに集っていると、やっと地
球からの電波がはいってきた。
〈遠い宇宙基地で活躍中のみなさま。この放送をお聞きのことと思います……〉
いつもこの言葉ではじまる。
「この放送を聞いていない宇宙基地など、あるものか」
ひとりが言うと、みんなは笑いながらうなずきあった。アナウンサーの声はつづ
いた。
〈きょうはまず、とくに重要な放送をお送りします。ひとことも聞きもらさないよ
う、ご注意ねがいます……〉
みんなは顔をみあわせ、ささやいた。
「なんだろう。いつもの口調とちがうぞ」
「地球で、なにか悪いことが起ったのでなければいいが」
からだを乗り出していると、その放送がはじまった。それはこんなふうだった。
〈コ·コ·コ……〉
みなは目を丸くした。
「なんだ、これは。わけがわからん」
「ニワトリの鳴きまねだろうか。なにかの冗談かもしれないぞ」
「いや、地球の本部が、そんなことをするはずがない。変な悪ふざけで事故がおこ
ったら、とりかえしがつかなくなるからな」
だれもが首をかしげていると、アナウンサーの言葉が変った。
〈ナ·ナ·ナ……〉
やはりわけがわからなかった。
「もしかしたら、暗号かもしれないぞ。メモにとっておいて、あとで研究しよう」
地球からの放送は、このような調子で、つぎつぎとちがった発音を送ってくる。
だが、どう考えても、意味のない言葉なのだ。
そのうえ、電波はしだいに弱くなってゆく。受信機の性能をいっぱいに高め、耳
を押しつけても、音は小さくなる一方だった。やがて、ついに聞えなくなってしま
った。
静かになった受信機を見つめ、みなは青い顔になった。
「電波がとぎれた。やはり、地球に重大な異変が起ったにちがいない。問い合せの
通信をしても、これでは応答がないだろう」
「暗号表を調べたが、のってない言葉だ」
「コンピューターにかけたが、解読できない。大変なことになったぞ。地球はほろ
び、われわれは最後の指示もわからぬまま、宇宙基地にとり残されてしまったのだ
。どうしよう」
ため息をつく者、ふるえだす者、泣き出す者が出た。その時、とつぜん受信機が
声を出した。ふたたび放送がはじまったのだ。
〈宇宙基地のみなさん。いまの通信は、どこまで聞きとれましたか。全文は「コナ
ルカロフニレコヒニフ」でした。最初の五字しか聞きとれなかった基地は、通信機
のアンテナの感度を強くする必要があります。本部に連絡くだされば、そのための
資材を貨物宇宙船でお送りします。では、これより本日の地球のニュースを……〉
ネ コ
郊外の林の奥の家に、エス氏はひとりで住んでいた。いや、正しくいえば、ネコ
といっしょに暮していた。
高価な、毛なみのいいネコで、エス氏は心からかわいがり、なによりも大切にし
ていた。
ネコについての本を買いあつめ、なんども読みかえし、ほとんど暗記してしまっ
たほどだった。ネコはどんな食べ物が好きなのかを研究し、毎日、それをつくって
食べさせた。また、ちょっとでもネコが元気をなくすと、あわてて医者を呼びよせ
る。
多くの人は、夜になるとテレビをながめるものだが、エス氏はそれよりも、ネコ
の背中をなでるほうが好きだった。
ある夜のこと。
そとで、聞きなれないひびきがした。それから、玄関のドアにノックの音がした
。
エス氏はネコと遊ぶのをやめ、ドアをあけてそとをながめ、首をかしげた。ドア
をたたいたのは、手ではなかったのだ。
うす茶色をした細長いものだ。ワニのしっぽのようでもあり、タコの足のようで
もあった。
「いったい、これは、なんのいたずらだ」
エス氏はそういいながら、相手をよく見た。だが、そのとたんに気を失った。
うす茶色の細長いものは、道具やオモチャのようなものではなく、そのからだの
一部だったのだ。
大きさは人間と同じくらいだが、形はまるでちがっていた。前から見たところで
は、トランプのクラブのような形の生物だった。よこから見るとスペードの形にに
ていて、上から見るとハート型に近かった。一本足でとびはねているが、足あとは
ダイヤの形かもしれない。
うす茶色の長い一本の腕は、頭のてっぺんあたりからのびている。こんな生物が
、地球上にいるわけがない。そう、遠いカード星から、はるばるやってきたのだ。
そのカード星人は、ドアをくぐって、なかに入ってきた。ネコはたいくつそうに
ねそべったまま「にゃあ」とないた。
それを聞き、カード星人は話しかけた。
「わたしは、どんな星のどんな生物とでも、テレパシーで話しあえる能力をもって
います。学校で習って、身につけました。それでお話をしましょう」
ネコはなくのをやめ、テレパシーで答えた。
「あら、ちゃんと話が通じるわ。べんりな方法があるものね。ところで、見なれな
いかただけど、なんの用できたの」
「じつは、わたしはカード星の調査員でございます。ほうぼうの星々をまわり、平
和的な星と、そうでない星との区別をし、記録をとっております」
「それで、ここへも立ち寄ったというわけね」
「はい、さようでございます。しかし、敬服いたしました。たいていの星の住民は
、わたしの姿を見ると驚いて、わめいたり逃げたりします。だが、あなたは、おち
ついていらっしゃいます」
「いちいち驚くようでは、支配者の地位はたもてないわよ」
「これはこれは。あなたが、この星を支配なさっている種族でしたか。わたしはて
っきり、そこに倒れている二本足の生物のほうが、支配者だろうと思いこんでいま
した。失礼いたしました。で、この二本足は……」
カード星人は、うす茶色の腕のさきを、気を失ったままでいるエス氏にむけた。
ネコはあっさりと答えた。
「自分たちのことを、人間とよんでいるわ。あたしたちの、ドレイの役をする生物
よ。まじめによく働いてくれるわ」
「どんなぐあいにでしょう」
「そうね。ぜんぶ話すのはめんどうくさいけど、たとえばこの家よ。人間が作って
くれたわ。それから牛という動物を飼い、ミルクをしぼって、あたしたちに毎日、
はこんでくれるわ」
「なかなか利口な生物ではありませんか。しかし、そのうちドレイの地位に不満を
感じて、反逆しはじめるかもしれないでしょう。大丈夫なのですか」
「そんなこと、心配したこともないわ。そこまでの知恵はない生物よ」
カード星人は感心して聞いていたが、変な形の装置をとりだして言った。
「まことに失礼なお願いですが、ウソ発見器を使わせていただけませんか。調査を
正確にしたいのでございます」
「どうぞ、ご自由に」
と、ネコはめんどくさそうに答えた。カード星人は、器械の一部をネコの頭にの
せ、いくつかの質問をした。
そして、いままでの話がほんとうかどうかを、たしかめた。また、平和的な心の
もちぬしかどうかの点は、とくに念をいれて調査した。
「おそれいりました。このような平和的な種族が支配する星は、いままでに見たこ
とがありません。どうぞ、いつまでも支配しつづけるよう、お祈りいたします」
「もちろん、そのつもりよ」
と答えるネコと別れ、カード星人はぶかっこうな動きでとびはねながら、ドアか
ら出ていった。それから、林のなかにとめておいた小型の宇宙船に乗りこみ、夜の
空へと消えていった。
しばらくして、エス氏は気をとりもどした。こわごわあたりを見まわしながら、
ネコに話しかけた。
「なにか見なかったかい。みょうな形をしたやつが、いたような気がしたが」
ネコはいつものように「にゃあ」とないた。
エス氏はうなずいて言った。
「見なかったというんだな。そうだろうとも。うす茶色で、クラブの形をした生物
など、いるわけがない。なにかの錯覚だったにきまっている。なあ、そうだろう」
エス氏はまた、ネコの背中をなではじめた。ネコは、なにごともなかったように
「にゃあ」となくだけだった。
花とひみつ
ハナコちゃんは、花が大好きだった。女の子はだれでも花が好きだが、ハナコち
ゃんは、とくに花が好きだったのだ。キクやチューリップのような草花も、サクラ
やツバキのように木に咲く花も好きだった。いつも世界じゅうが花でいっぱいにな
るといいな、と思っていた。
天気のいい、ある日のこと、ハナコちゃんは野原にでかけた。花を写生するため
だった。いろいろな草花の絵を紙にかきながら、ふと、こんなことを考えた。
モグラをならすことができたら、きっと、おもしろいだろうな。モグラたちに地
面の下を動きまわらせて、草や木のせわをさせるのよ。草や木はよろこんで、きれ
いな花を、たくさん咲かせてくれるでしょう。
ハナコちゃんは、その思いつきを、じぶんの絵にかきくわえた。
そのとき、風が吹いてきて、せっかくのその絵を飛ばしてしまった。
「あら、大変だわ」
ハナコちゃんは、あわてて追いかけた。だけど、手がとどかない。みるみるうち
に、絵は風にのって、高く高くあがってしまった。糸の切れたタコのように。
もう、あきらめなければならなかった。
絵は雲のうえで、お日さまの光をあびながら、たのしくおどりつづけた。そして
、流れつづけていった。通りがかった渡り鳥たちが、
「なんだろう」
と、近よってきて、ながめたこともあった。そのうち、風のないところにきて、
絵はゆっくりと落ちはじめた。下は青い海。絵は波にのまれ、海にしずんでしまう
のだろうか。
しかし、カモメがそれを見つけた。そのカモメは白い紙を、けがをしたなかまか
と思ったのだ。海に落ちるすこしまえに、口にくわえ、空へと運びあげた。
「なあんだ。ただの紙きれじゃないか。飛行機がすてたのかな」
カモメは絵をはなした。また、ひらひらと落ちてゆく。しかし、こんどは海では
なかった。
小さな島があった。人が住んでいる、そこには建物がいくつもあった。ある国が
作った、ひみつの研究所だったのだ。このような場所でなら、ほかの国に知られる
ことなく、どんな研究でもできる。
空から落ちてきた絵は、その窓のひとつに、飛びこんでいった。
へやに入ってきた研究所長は、机の上にのっている絵に気がついた。そして、本
国から送られてきた、命令書と思いこんでしまった。所長は、部下のひとりを呼ん
で相談した。
「本国から、こんな図面がとどいた。草や木のせわをする、モグラの絵がかいてあ
る。こんなものを、なんのために、作らなければならないのだろう」
もちろん、その部下にも、わかるはずがない。
「それは、きっと、なにかわけがあるからでしょう」
「あまりにも、みょうな計画だ。くわしく、といあわせてみるとしようか」
「よしたほうがいいと思います。まえにも、なにかをといあわせて、おこられたこ
とがありました。研究所は、研究して作りあげさえすればいいのだ、と。本国から
の命令には、そのまま従ったほうがいいでしょう」
所長は、研究所の学者たちを集めて言った。
「本国からの命令だが、モグラを訓練し、仕事をさせるまでにするのは、大変なこ
とだ。モグラは、犬や馬のように利口な動物ではない」
所長は困った顔をした。そのとき、ひとりの学者が言った。
「いい考えがあります。それと同じ働きをする、ロボットのモグラを作ったらどう
でしょう」
「うむ。そのほうが、簡単かもしれない。それにきめよう」
島の研究所は、ロボットのモグラを作るのに全力をあげた。まず、いろいろな設
計図がかかれ、いちばんいい形がきめられた。そとがわのおおいは、決してさびな
い、銀色をした金属。なかには、高性能のモーターが入れられた。強力な電源で、
いつまでも動きつづける。なにもかも自動的にはたらくのだ。
大きなウエキバチのなかで、その実験がおこなわれた。ロボットのモグラは、地
面のなかにもぐり、動きまわった。こえた土をよそから運んできて、根のまわりの
とおきかえる。また、水分がたりないと、水の多いところから持ってくる。草や木
の育ちやすいようにつくすのだ。
地面に落ちたよぶんなタネは、からだのなかにしまい、べつな場所にまいてくれ
る。やくにたたない雑草をみわけ、その根をかんで枯らせてしまう。
「よし、成功だ」
「ばんざい」
みなは大よろこびだった。
研究が完成したというしらせで、飛行機にのって、本国から大臣がやってきた。
そして、
「早く見せてくれ」
と言った。研究所長はロボットのモグラを出し、とくいそうに答えた。
「はい、この通りです。本物のモグラを訓練しても、こううまくは動きません。と
りあえず、五百匹ほど作りました」
それを見て、大臣はびっくりした。
「ロボットのモグラだと。だれがこんなものを作れと言ったか」
「はい、命令の図面にございました」
「そんな命令は出さなかった。たいせつな研究所で、こんなくだらないものを作る
とは。おまえたちは、なんというばかなやつだ。仕事をまかせておくわけにいかな
い。みな、くびだ」
ほめられるどころか、島の研究所は、とりこわしになってしまった。人びともい
なくなってしまったが、残された五百匹のロボットのモグラたちは、島の地面の下
ではたらきつづけた。
まもなく、島は花でいっぱいになってしまった。しかし、人間とちがって、ロボ
ットのモグラは休むことを知らない。それぞれ、陸をめざして移っていった。
ロボットのモグラは泳ぐことができない。海の底の地面の下を通っていったのだ
。だから、海の魚たちは、少しも気がつかなかったにちがいない。
それからずっと、ロボットのモグラたちは、どこかで、あたえられた仕事をやり
つづけているのだ。しかし、私たちの目にふれることはない。それに、世界じゅう
に五百匹では、あまりめだたない数なのだ。
ハナコちゃんは、ある時、お庭のすみで咲いていた花をみつけて、驚いてしまっ
た。
「タネもまかないのに、どうして草花があらわれたのかしら。ふしぎねえ」
もしかしたら、それはロボットのモグラのやったことだったかもしれない。
また、みなさんのなかにも、枯れかかっていた花が、急に元気をとりもどすのを
見たりして、ふしぎに思ったことのある人はいないだろうか。
とりひき
煙が立ちのぼったかと思うと、悪魔は音もなく出現した。時どき世の中にあらわ
れ、人びとのあいだに悪いことをひろめるのが仕事なのだ。
悪魔は、あたりを見まわした。静かな夜であり、近くに小さな家があった。近づ
いてのぞいてみると、なかに男がひとりいる。悪魔はしっぽをかくし、玄関の戸を
たたいた。
「こんばんは」
驚かれては困るので、できるだけやさしい声を出した。出てきた相手は言った。
「なんでしょうか。わたしは、ただの留守番ですが」
「じつは、あなたにすばらしいプレゼントをさしあげようと思って、やってきた者
です」
「そのようなお話でしたら、よその家へいらっしゃったらいいでしょう。わたしは
欲ばりではありません」
と、ことわられたが、悪魔はていねいな口調で話しつづけた。
「遠慮ぶかいかたですね。そのような人こそ、わたしのプレゼントを受けるにふさ
わしいのですよ」
「いったい、なんなのですか」
「どんな勝負ごとにも、勝てるという力です」
「そんな力は、欲しいと思いません」
「しかし、持っていても、損はないでしょう。ぜひ、もらって下さい」
「ご命令とあれば、いただきましょう」
「そうですよ。では……」
と、悪魔は相手の胸を指さし、なにやら口のなかで文句をとなえた。そして言っ
た。
「さあ、これですみました。ためしに、サイコロをころがしてごらんなさい。一を
出そうとすれば、かならずそれが出ますよ」
「はい。やってみます」
サイコロは十回もつづけて一の目が出た。
「どうです。うれしいでしょう」
「べつに、うれしくもありません」
「いや、そのうち、ありがたみがわかりますよ。この力をうまく使えば、好きなだ
け、お金がもうかるではありませんか……」
悪魔は笑い顔になった。どんなまじめな人でも、この力を使ってみたくなる。そ
して、安易にもうけた金は、安易に使うにきまっている。ほかの人たちはそれを見
て、まともに働くのがばかばかしくなってくる。つまり、悪がひろまるというわけ
だ。悪魔は、さらに言いたした。
「これだけのものをさしあげたのですから、わたしのお願いも聞いて下さい」
「なんでしょうか。おっしゃって下さい」
「あなたが死ぬ時には、魂を下さるという約束をして下さい」
だが、相手は気の毒そうに言った。
「魂など、ありません」
「あなたがそうお考えになっているだけのことです。ぜひ、約束をお願いします」
「そんなにおっしゃるのなら、お気に召すようにいたしましょう。お約束します」
「これで、話はきまりました。さよなら」
悪魔は相手の気の変らないうちにと、すばやく姿を消し、自分の国へと戻ってい
った。
つぎの朝。その家にエフ博士が友人を連れて帰ってきた。そして、こう説明した
。
「これが、わたしの作ったロボットだ。命令にはすなおに従うし、よく留守番をし
てくれる」
「人間そっくりですね」
と感心する友人に、博士はすすめた。
「どうだ。これを相手にトランプでもやってみないか」
「いやですよ。精巧な電子頭脳をそなえたロボットが相手では、なにをやっても負
けるにきまっています。やろうとする人など、あるわけがありませんよ」
これを知ったら、悪魔はさぞくやしがるだろう。ロボットが勝負ごとで勝ったか
らといって、悪はひろまらない。また、魂の手に入るのを待っていても、ロボット
は死なない。かりに死んだとしても、魂の残るわけがない。
へんな怪獣
ある日、空のかなたから大きな宇宙船があらわれ、地球に近づいてきた。
「いったい、どこの星から、なにしにやってきたのだろうか」
「乗っているのが友好的だといいがな」
人びとが話しあいながらながめていると、それは町はずれに静かに着陸した。や
がてドアが開いた。なかから出てきたものを見て、みなは悲鳴をあげた。
巨大な怪獣だったのだ。からだはカンガルーのような形で、手はゴリラのようだ
った。頭はオオカミに似て大きく、ツノもあった。全身が灰色のウロコでおおわれ
ていて、みるからに強そうだ。
まわりをとりまいて警戒している軍隊は、攻撃態勢をとった。しかし、すぐには
攻撃せず、まず話しかけがこころみられた。
「わたしたち地球人は、戦いを好むものではありません。どんな目的でおいでにな
ったのですか。おっしゃってくだされば、できるだけお役に立ちたいと思っており
ます」
といった意味のことを、身ぶりや絵や、字や声や電波で伝えようとしたのだ。あ
んな宇宙船に乗ってきたのだから、相手は文明を持っているはずだ。それなのに、
なにをやっても、まったく通じなかった。
みんながあきらめかけたころ、怪獣はわけのわからない叫びをあげ、ぎごちない
歩き方で少し動いた。そばにあった木が三本ほど、ふみつぶされた。
「もしかしたら、長い宇宙の旅で、おなかをすかしているのかもしれない。食べ物
を与えてみよう」