饭饭TXT > 海外名作 > 《竹取物语(日文版)》作者:[日]未知/翻译:星新一【完结】 > 竹取物語.txt

文章简介

作者:日-未知/翻译:星新一 当前章节:15350 字 更新时间:2026-6-23 02:38

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 角川e文庫

 竹取物語(口語訳)

[#地から2字上げ]星 新一 訳

目次

 一、姫のおいたち

 二、姫の望み

 三、み仏の石の|鉢《はち》

 四、|蓬《ほう》|莱《らい》の玉の枝

 五、火ねずみの|皮衣《かわごろも》

 六、|龍《りゅう》の首の玉

 七、つばめの|子《こ》|安《やす》|貝《がい》

 八、ミカドのおでまし

 九、|天《あま》の|羽衣《はごろも》

あとがき

解説

  一、姫のおいたち

 むかし、竹取りじいさんと呼ばれる人がいた。名はミヤツコ。時には、|讃《さ

ぬ》|岐《き》の|造麻呂《みやつこまろ》と、もっともらしく名乗ったりする。

 野や山に出かけて、竹を取ってきて、さまざまな品を作る。

 |笠《かさ》、|竿《さお》、|笊《ざる》、|籠《かご》、|筆《ふで》、|

箱《はこ》、|筒《つつ》、|箸《はし》。

 |筍《たけのこ》は料理用。そのほか、すだれ、ふるい、かんざし、どれも竹カ

ンムリの字だ。

 自分でも作り、職人たちに売ることもある。竹については、くわしいのだ。

 ある日、竹の林のなかで、一本の光るのをみつけた。ふしぎなことだと、そばへ

寄ってよく見ると、竹の筒のなかに明るいものがあるらしい。

 その部分を、ていねいに割ってみる。手なれた仕事だ。なかには、手のひらに乗

るような小さな女の子が、すわっていた。まことに、かわいらしい。

 じいさんは、つぶやいた。

「竹とは、長いつきあいだ。高いとこ、滝のちかく、たくさんの竹、指にタコ。竹

はわたし、わたしは竹。うちの子にしてもいいと思う」

 両方の手のひらで包むようにして、家へ連れて帰った。妻のおばあさんに、わけ

を話して育てさせた。

 ずっと子に恵まれなかった老夫婦。それに、あいらしく美しいのだから、心の込

めかたがちがう。竹の製品は、お手のものだ。ゆりかご用の小さな籠、留守中にネ

ズミが近付いたりしないように、かぶせる籠。いろいろ頭も使った。

 じいさんは、その日から、珍しい竹に出会うようになった。|節《ふし》と節と

のあいだの筒に、|黄金《こがね》が入っているのだ。なにか、ぴんとくるものを

感じるので、それとわかる。そのおかげで、しだいに金持ちになっていった。

 この子は、日がたつにつれ、若い竹のように、すくすくと大きくなっていった。

三ヵ月ぐらいで十三、四歳ぐらいの、普通の娘と同じほどに。髪をたらし適当に切

っただけの子供あつかいではと、前髪を上にあげ、たばねてうしろへたらすように

した。

 おとなっぽくなった。また、女性用のハカマを着けさせた。|裳《も》と呼ぶも

の。外出させないどころか、すだれで囲った部屋を作り、そのなかで大事に育てた

。それを建築するぐらいの金はあるのだ。

 わが子という思いを除外しても、その顔つきの、きよらかで美しいことは、人な

みでなかった。日のささない家のなかでは、暗い場所があっていいのに、光がみち

あふれているようだ。

 精神的にも、明るさがただよっていた。竹取りじいさん、気分が沈んだり、疲れ

て苦しさを感じたりする時も、この子を見れば、それらは消えてしまう。怒りを感

じた時も、それがおさまる。

 仕事に出かけるたびに、じいさんは黄金の入った竹を持ち帰る。そのため、かな

りの財産ができた。むかしは|長者《ちょうじゃ》と呼んだものだ。家事を手伝わ

せる人も|雇《やと》った。

 娘も成人といっていいほどになったので、名をつけさせようと思った。じいさん

は、秋田という男を呼んだ。|御《み》|室《むろ》|戸《ど》で|神《かん》|

主《ぬし》をやっている。

「この子に、いい名をつけてくれ」

「なよ竹の、かぐや姫がいいだろう」

 なよ竹とは、ほっそりと、しなやかの意味を持つ。かぐや姫とは、きらめき輝く

ように見えることから。

 それから、三日にわたる大宴会。成人を知らせ、祝うためだ。近郊の人たち、遠

くても成人した男性はなるべく招待した。ごちそうを出し、酒をすすめる。歌う人

も出る。

 笛、|笙《しょう》、そのほか管楽器。ひちりきだって、もとは竹のついた漢字

だ。小さいのは|篠《しの》|笛《ぶえ》。|箏《こと》は当時の弦楽器の総称。

 竹取りじいさん、姫をみなに見せて自慢したいし、ほかの男の目に触れさせたく

ないし、複雑な気分。しかし、かくしたままでは、なんの会かわからない。最も盛

りあがった時に、声をかけた。

「みなさん、かぐや姫です」

 すだれを、さっとあげる。一瞬、静まりかえる。あまりの美しさ。ころあいをみ

て、すだれをおろし、もとのようにする。

「もっと見せてくれよ」

「いま、お見せしたでしょう」

 酔った上での幻と感じた人も多かったろう。そのため、だれも帰宅し、いかにす

ばらしい姫だったか、話してまわる。大げさになりながら、うわさがひろまる。

 聞かされたほうは、想像力でふくらませ、あこがれる。この目で見たいものだ、

わがものとしたいものだと、やってくる。男性なら、地位も職業も関係なしに。

 姫の家の門のそばに住む人も、|垣《かき》|根《ね》の近くの人でさえ、容易

に見ることはできないのだ。それなのに、男たちは暗くなっても眠ろうとせず、|

闇《やみ》のなかで垣根ごしにのぞこうとしたり、垣根に穴をあけようとしたり、

大声をあげたりする。

 それを「よばい」とからかう人も出た。本来は「呼ぶ」の変化だが、よき女性を

めざして、|装《よそお》って夜に寄ってくることまで広めたのだ、という話だが

 ちょっと、ひと息。

 竹とはねえ。その目のつけどころがいい。発想といったものでなく、もう感覚的

に神秘性がある。二十四時間で一メートルも伸びることもあるのだ。

 パンダの食べ物に不可欠なのだ。どんな成分かは、まだ研究が進んでないようだ

が。ロンドンの動物園のパンダには、どこから運んでいるのだろう。

 発明王エジソンが、電球を作ろうとした時、内部のフィラメントに、適当な物質

がない。片っぱしから試みたが、どれもうまくいかない。ついに日本から竹を取り

よせ、それを細くして炭化させ、はじめて電気を光に変えた。

 この『竹取物語』は、そんなことよりはるか昔、西暦九〇〇年の少し前ごろに作

られた。『源氏物語』のなかで、紫式部が日本最初の小説と書いている。

 はじめに、竹カンムリの字を並べたが、そのほかにも各種ある。|笑《わらい》

など、なぜ竹に関係しているのか、わからない。物語というものは、竹のようなも

のか。

 |筋《すじ》はストーリー。|筈《はず》は展開。|策《さく》は着想。|算《

さん》は構成。|第《だい》は次第であり、順序。|等《ひとし》や|符《ふ》は

大きな乱れのないこと。

 |簡《かん》は、よけいな部分のないこと。|箔《はく》は、しゃれた文体。|

節《せつ》は、区切り。|答《こたえ》は結末。名作は|範《はん》か。|籍《せ

き》や|簿《ぼ》は、分類のことか。メモは|便《びん》|箋《せん》に。常用漢

字では|編《へん》だが、以前は篇の字が使われていた。

 たまたま、そうなっただけだろう。新説を主張するつもりもない。なにかの話題

のきっかけになればと。

 では、話を進めるか。

  二、姫の望み

 相手にしてくれないので、近くをうろついても、どうにもならない。姫の家の手

伝いの人に、取り次いでほしいと話しかけても、いい返事はない。

 それでも、生活に余裕のある男たちは、夜も昼も、手がかりを求めて、そのあた

りで何日もすごした。

「これは、だめらしいな。こんなことに時間をかけるのは、どういうものか」

 帰ってゆく人も、少しずつふえていった。原文では彼らを「おろかなる人」と形

容しているが、賢明な人と呼ぶべきかもしれない。しかし、想像力の点では不足ぎ

みか。

 幻の美女に、会えもせず、話もせずに帰れるか。人生は、なんのためにある。い

かなる方法を使っても、わがものとしてみせる。自分はいままで、どの女性にもも

ててきた。ここだけ例外のはずはない。

 熱意あふれるというべきか、うぬぼれの強い自信家というべきか、最後に五人が

残った。あきらめることなく、夜昼かまわず、通いつめる。

[#ここから1字下げ]

 |石作《いしづくり》の|皇《み》|子《こ》。

 |庫《くら》|持《もち》の|皇《み》|子《こ》。

 右大臣の|阿《あ》|部《べ》の|御《み》|主《う》|人《し》。

 |大《だい》|納《な》|言《ごん》の|大《おお》|伴《とも》の|御《み》

|行《ゆき》。

 |中納言《ちゅうなごん》の|石上《いそのかみ》の|麻《ま》|呂《ろ》|足

《たり》。

[#ここで字下げ終わり]

 皇子とは、|帝《みかど》の親類のこと。あとの官職名の説明は省く。要は、身

分のいい人たちばかり。生活を心配することなく、恋に熱中出来る立場というわけ

だ。

 だれも、美女がいるとの話を耳にしただけで、かけつけて、くどきたくなる。さ

ほどでもない場合であっても。そういう人も、いるんだね。

 最後の五人。この分野の実力者たち。ここであきらめては、過去の名声に傷がつ

く。なにしろ、いま最高の女性、かぐや姫だ。なにしろ、まず実物を見なくては。

 食欲はなくても、感情は高まる一方。姫の家へ日参し、たたずんだり、歩いたり

。なんの進展もない。手紙を出しても、返事はない。恋しさを和歌にあらわし、送

ってみても手ごたえがない。

 むだと思っても、出かけてしまう。冬の水が凍り、雪の降る季節。夏は熱い日光

が、照りつけ、雷も鳴る。京都のあたりの冬と夏は一段とひどいのだ。

 この五人、抜けがけは無理と知った。最後は実力としても、とりあえずは共同戦

線。竹取りじいさんを呼びだして申し出た。

「娘さんを、ぜひ、わたくしに」

 一同、頭を下げ、手を合わせてたのんでみた。じいさん、首を振る。

「わたしたち夫婦の、実の子ではありませんので、あれこれ、さしずめいたことも

言いにくいのです。おわかり下さい」

 こんな返事では、どうしようもない。変化のないまま、月日がすぎてゆく。

 日参する一方、神仏に祈って加護を求める人もいる。逆に、いっそ姫へのあこが

れを忘れさせてほしいとの祈願をする人もいたが、心はおさまらない。

「どういうことなのだ。いつまでも、ひとりのままにしておくのか。なぜ成人の会

をやり、大ぜいの人を呼んだのだ。それは、絶対にだめではないからだろう」

 つぶやき、それをはげましとし、かよいつめる。熱意をみとめてもらうには、こ

れをつづけるしかない。

 こうなると、ただごとではない。竹取りじいさん、考えたあげく、かぐや姫に話

しかけた。

「おまえは、わが|家《や》の宝、いや大切な仏さまだよ……」

 姫がこの家に来てから、豊かになり、心までなごやかになったのだ。口調にだっ

て、それがあらわれる。

「……神か仏が姿を変えて、この世においでになったのでしょう。わたしは父親で

はありませんが、なにかのご縁で、ここにお連れし、お育てし、いまに至りました

。病気にかかってはと、心配したりもしました。このあたりもお察しいただいて、

わたしの申し上げることを、いちおうは聞いてはいただけませんか」

 かぐや姫は、軽くうなずく。

「どうぞ、なんでもおっしゃって下さい。親子のあいだではありませんか。ずっと

、そのような気持ちでおりました。自分のことを、神や仏のなにかなど、考えたこ

ともありません」

 じいさん、少しほっとして言う。

「それは、ありがたい。わたしも五十歳をかなり過ぎました。長いあいだ働いて、

疲れもたまっております。この先、どれぐらい生きられるかわからない。あとのこ

とが、心配なのです」

「なんのことなの……」

「ある年ごろになると、男は女のかたと結婚し、女は男のかたと結婚する。これが

、世のならわしです。それによって、子も出来、一族が栄えることになります。わ

たしは生きているうちに、そのお世話をすませたい。どうでしょう、男のかたをお

選びになりませんか」

 すると、かぐや姫は表情も変えずに言った。

「そうしなければならないって、なぜですの。わかりませんわ」

 あまりのことに、竹取りじいさん、口ごもった。理由など、考えたこともない。

しかし、だまったままでもいられない。

「やはり、なにかの生れかわりかもしれませんな。奇妙なことを、お聞きになる。

しかし、それはどうであろうと、あなたは人間の女性の姿だ。それらしく、ふるま

わなければいけません」

「そういうものですか」

「はい。わたしの生きているうちは、いまのままでもいいでしょう。身のまわりの

お手つだいを、してあげられます。しかし、女ひとりでの生活となると、不可能で

す。その相手がいないわけではない。長い年月、何人もの男が、姫をめざし、ここ

へ通いつづけています。それは、ご存知でしょう。熱意があります。そのなかの、

おひとりの愛をお受けになったらいかがでしょう」

 姫も答えなければならない。

「わたし自身、それほどの美人と思っておりません。ですから、軽々しくきめたく

ないのです。その人の本心がよくわからず、いっしょになる。あとになって、ほか

の女性を好きになったりされたら、後悔することになります。世の中での地位が高

い人だからといって、心の奥まではわからない。そこで、ためらってしまうのです

 じいさん、それも一理あると感心した。

「それは、ごもっともです。わたしも、そう思います。しかし、女の立場で考えた

ことがないので、わたしには見わけようがない。どんなかたをお好みですか。あの

五人の男、どなたも愛情の深い性格と思いますが。なにか、いい案がありましょう

か」

「心の底は、外見だけではわかりません。熱心さでは、どのかたも同じようです。

どなたとも申せません」

「では……」

「五人のかたに、それぞれ、見たいものを告げましょう。それをやって下さったか

たを、最も好意のあるかたとして、おつかえいたすことにしましょう。みなさんに

、そうお伝え下さい」

「それで満足なさるのでしたら、けっこうでしょう」

 これで、いくらかの進展がみられるだろう。

 そとでは、いつものように五人の男が集まっていた。それぞれ、なにかやってい

る。笛を吹く者。作った和歌を読みあげる者。曲をつけて歌う者。口笛を吹く者。

扇子でなにかをたたき、拍子をとる者。

 てんでんばらばら、しかも本気。このおかしな眺めも、やっと終りになるわけか

と、竹取りじいさん、門から出ていって、みなを集めて話した。

「みなさん、ご立派なかたがた。このようなつまらぬ家のそばに、長い年月、おい

でいただいて恐縮でございます。まずは、ありがたいことと、お礼を申します」

「ご返事があるとは、珍しいことですね」

「姫に申し上げたのだ。あなたがたのことでね。わたしの寿命も、いつまでもつか

保証できない。いまなら、熱意のある五人のかたがおいでになる。どなたかを選ん

で、おつかえなさるのがいいでしょうと」

「よく、申し上げて下さった。で、それについて姫は」

「すぐ断わられるかと思っていたが、そこがわたしの持ちかけかただ。姫は答えて

くれた。どなたさまもいいかたで、きめるのに迷ってしまいます。じつは、見たい

と望んでいる品があるので、それぞれの方に申します。持ってきてくださったかた

が、最も好意を持っているといたします、とのことだ」

「うむ」

「仕方ないし、公平と思える。力が不足だった人は、あきらめもつくだろう」

「それもそうだな」

 五人もなっとくした。竹取りじいさんは、その品を聞いてくるからと、ひとり家

に戻って、かぐや姫に言った。

「やってみるそうです。その品物をおっしゃって下さい」

「|石作《いしづくり》の|皇《み》|子《こ》には、み仏の石の|鉢《はち》と

いう品を、持ってきていただきたいのです」

「はあ」

 お|釈《しゃ》|迦《か》さまが悟りを開いた時、石で作られた鉢をお使いにな

っていたとされている。石作の名からの連想だろうか。|天《てん》|竺《じく》

にあるという。インドのことだが、なぜか竹カンムリの字。

「|庫《くら》|持《もち》の|皇《み》|子《こ》には、東の海に|蓬《ほう》

|莱《らい》という山があります。そこに生えている木で、根は|銀《しろがね》

、幹や枝は黄金、実は白い|玉《たま》。それの枝をひとつ持ってきていただきた

い」

「はあ」

 蓬莱山には仙人が住み、夢のようなところ。このような木を、だれも貴重だとは

思わない。

「阿部とかいう右大臣には、|唐《から》の国にある火ねずみの皮でできた|衣《

ころも》をお願いします」

「はあ」

 唐とは、中国。火ねずみの皮は、燃えることがなく、火によって、よごれが消え

、さらに美しくなる。

「|大《だい》|納《な》|言《ごん》の大伴さんには、|龍《りゅう》の首につ

いている五色に光る玉をお願いします」

「はあ」

 中国の古い書物の『|荘《そう》|子《じ》』にのっているという。

「中納言の|石上《いそのかみ》さんには、つばめの持っている|子《こ》|安《

やす》|貝《がい》。それをひとつ、おたのみします」

「はあ」

 子安貝は安産の力を持つ。つばめはいい季節になると出現し、飛ぶのも速い。ど

こか神秘さがある。

「わかりました」

「それにしても、むずかしい問題ですね。この国のなかに、あるかどうかだ。あの

人たちに話して、本気にしてくれるでしょうか」

 竹取りじいさんは困ったが、かぐや姫は言った。

「やってみることです。むずかしいとは思わないわ」

 と平然としている。常識が通用しないみたいだ。しかし、竹のなかから出てきた

姫だ。あの五人のなかにも、常識以上の人がいるかもしれない。

「とにかく、いちおう話してみます」

 じいさんは門を出て、姫の望みの品々を告げて、最後にこう言った。

「そういうわけです。ご成功なさるといいんですが」

 おえらがたの男性五人、ため息をついた。

「夢にも考えなかった品々だ。いっそのこと、もう近づくなと、はっきり言ってく

れればいいのに」

 うんざりした足どりで、だれも帰っていった。

 また、ひと息つく。

 ゆっくりと読み、現代風の文に訳してゆくと、この物語が長く読まれ、現代に伝

わってきた理由もわかる気がする。

 かくも昔に、なぜ結婚しなければならないかと、答えようもない質問をした。か

なりの驚きだったろう。常識を越えた思考は、物語に必要だし、聞いた人に忘れら

れない印象を残す。

 大ぜいの男性。最後には五人の上流階級の男が残るが、女性にとっては、夢のよ

うな話。女性にも面白い話なのだ。

 恋に恋するという言葉があるが、この五人は、それにひたっていた。気持ちよく

、酔っていた。実在はすれど、まだ会えない幻の美女。想像はふくらむ一方。日参

するぐらい、苦しくはない。その苦しさが、また想像をひろげるのだ。第三者には

、奇異な行為と思われても。

 だから、条件が示されると、ことは具体的になる。無限の想像が、有限となる。

五人の思考も一変し、物語の進展も一転する。

 なお。結婚と訳し、原文でも婚の字が使われているが、この五人、それぞれ正妻

、さらには側室がいるはずだ。生活と、さらには、いくらかの楽しみを保証してく

れる男性が、女性の望みだった時代だったのだ。

 また、さすが平安時代。実力行使に訴えないのがいい。やったら、みもふたもな

い。そこも物語の魅力のひとつである。

 では、話のつづきを。

  三、み仏の石の|鉢《はち》

 毎日のように訪れても、意味のないことがはっきりした。かぐや姫を手にするに

は、まさに不可能に近いことをやらなければならない。

 |石造《いしづくり》の|皇《み》|子《こ》は、しばらくぼんやりとしたまま

だった。こんなふうに生きていても、楽しくない。なにか、することはないものか

。あれこれ考えてみる。

 その石の鉢とやらは、中国よりさらに遠い|天《てん》|竺《じく》にあるらし

い。同じ地上に存在する。行けないことはない。しかし、この皇子は頭が悪いわけ

ではない。

「気の遠くなるような距離を進んで、天竺に行ったとする。いくつもあるわけでは

なく、そこにひとつしかない鉢だ。持ち帰らせてくれるはずがない」

 こう、つぶやくことになる。そのうち、計画は形をとってくる。

 かぐや姫のところへ、手紙を出した。

〈これから、姫のために天竺へ出かけます。石の鉢を求めて〉

 そして、三年の年月。

 石造の皇子は、|大和《やまと》の国の|十市《とおち》の|郡《こおり》、そ

この山寺に出かけた。み仏の前に、すすけて黒くなっている鉢をみかける。石で出

来ている。古く、ありがたみがあり、ちょうどいいようだ。

「新しいのを寄進します。あれをいただけないでしょうか」

「ご好意はありがたい。どうぞ」

 このままでは、つまらない。もっともらしく、錦の袋に入れ、造花をつけた。贈

り物には季節の花をつけるのが習慣だが、花の少ない季節だったのだ。それを、か

ぐや姫の家にとどけた。

 姫はその袋をあけた。本当に手に入れたとはねと、信じられない気分。鉢をのぞ

きこむと、和歌を書いた紙が入っていた。

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 海山の道に心をつくしはて

[#ここから3字下げ]

 な石の鉢の涙流れき

[#ここで字下げ終わり]

 お望みの品を求めて、海を越え、山の道を歩きつづけ、心をすりへらす苦労をし

ました。そして、持ち帰ったみ石の|鉢《はち》。まさに、|血《ち》の涙の流れ

る思いです。“ち”を両方にかけた、言葉のくふう。

「ありがたい品なら、少しは光っていいのではないかしら」

 かぐや姫は見つめたが、蛍ほどの光もない。和歌を作った。

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 おく|露《つゆ》の光をだにぞやどさまし

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 |小《お》|倉《ぐら》|山《やま》にてなにもとめけん

[#ここで字下げ終わり]

 本物のみ仏の石の鉢なら、草の葉の一粒の露ぐらいでも、光があっていいはずで

す。この暗い鉢。|大和《やまと》の小倉山あたりで拾ってきたのではありません

か。“くら”の言葉のあそび。あの山寺の近くに、この名の山がある。

 その歌とともに送り返されたので、皇子は鉢を門のそとに捨ててしまった。しか

し、いかにも残念なので、また和歌を送った。

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 |白《しら》|山《やま》にあへば光の|失《う》するかと

[#ここから3字下げ]

 鉢を捨ててもたのまるるかな

[#ここで字下げ終わり]

 お暗い山ではなく、あなたは、白く輝く山のようです。それと並んだので、鉢の

光も目立たず、消えてしまったのです。わたしは鉢を捨てましたし、恥じています

。しかし、わたしをお見捨てにならないよう、おたのみ申します。

 かぐや姫からは、それへの返事はなかった。歌を作っても、とりついでもくれな

い。あきらめるしかない。ぶつぶつ言いながらも家に帰り、普通の生活に戻った。

 鉢を捨てて、計略の失敗をみとめながらも、まだ、あつかましく言いよる。その

ことから、こういったことを〈鉢を捨つ〉と言うのがはやった。恥は、昔は“はぢ

”と表記したのだ。石の鉢だから、やけになって投げ捨てれば、割れて欠けるだろ

う。恥をかくといった意味だ。

 ひと息。

 出かけると知らせてから、三年間、|皇《み》|子《こ》は、どんな心境でいた

のだろうか。熱狂的な恋から、現実的な恋へと変った。

 それまでの似た体験のように、やれるだけやってみるといった気分だったろう。

おとなしく三年間を待ったのではあるまい。ほかの女性を、くどきもしたろう。

 しかし、姫への可能性も、なくなったわけではない。それらしき鉢も、努力して

さがしまわったわけでもない。なんとなく見つけた。ひとつ、これでやってみるか

 しゃれた和歌をやりとりした。やはり、だめだった。恥をかいたといっても、十

割を誇っていたのが、少し目減りしただけ。この皇子、それで心にけりがつき、あ

るいはいい結果といえるかもしれない。とくに損害を受けたわけじゃないし。

 物語を聞かされるほうも、そんな方法、皇子だからといって成功するはずがない

と思いつつ、やはりその通り。つぎは、もっと高度の手段をとるだろうと期待。

 そして、それは。

  四、|蓬《ほう》|莱《らい》の玉の枝

 |庫《くら》|持《もち》の皇子は、蓬莱|山《さん》に行って、銀の根で、幹

が金、玉が実となっている木の一枝を取ってくるようにたのまれた。

 この皇子、なかなか頭のいい人。情熱は情熱、実行は万全にと、計画をねった。

そのあげく、つまりはその品を持ってくればいいのだろうと、結論を出した。

「|筑《つく》|紫《し》の国の温泉へ出かけ、休養をとり、元気になってきます

 と、お役所に休暇をとどけた。竹カンムリなので、筑紫にしたのか。いまの九州

の総称である。

 かぐや姫の家にも、使いに手紙をとどけさせた。

〈これから、玉の枝を求めての旅に出ます。ご期待ください〉

 皇子に仕える人たちは、京から|難《なに》|波《わ》(大阪)の港まで、見送

りについてきた。船に乗り、みなに別れをつげる。

「休養なのだから、大げさにできない。ごく少人数で行く。あとはよろしく」

 信用できる、いつもの部下を二人ほど連れて、船は沖へ出た。人々は話しあいな

がら京へ向かった。

「さっぱりして帰ってこられるといい。恋わずらいに、温泉はいいだろう」

 しかし、出て三日後に、皇子たちは、その港へと船を戻す。そこで、かねてから

の計画を実行に移した。

 すべて、あらかじめ手は打ってある。人目につかないような場所に、仕事場とし

ての家を作ってある。小さいものではない。これだって、目立たないよう、かなり

苦労した。

 また内密に、一流の腕前の金属加工の|細《さい》|工《く》師たちを集めてお

いた。その人たちとともに、なかにこもる。

 熱で加工もするので、かまども内部にある。夜にその光がもれては、だれかに怪

しまれる。そのために、何重にも囲いを作った。そこで問題の品の製造にとりかか

る。

 皇子は領地を十四も持っている。各所の家や|庫《くら》から、金や銀や玉など

、取り寄せて用意してあった。

「蓬莱の玉の枝を作るのだ。姫の話だけでは、はっきりしない。学者にも調べても

らった。このようなものらしい」

 絵を見せる。枝は金。白い玉の実、葉は銀がいいんじゃないかと、相談しながら

、仕上げてゆく。

 三年がかりで完成。部下たちと、ひそかに|難《なに》|波《わ》の港へ運んだ

。また、自宅へも、港に帰ったとしらせを出した。

 大ぜいの人が、迎えに来た。皇子は言う。

「ご心配をかけた。温泉のほか、山野を歩いて、からだをきたえた。やりすぎたか

な。また、わたしは船酔いしやすくてね」

 お疲れのようだなと見る人もあった。

 そばには、細長い箱があり、高価なものが入っているような感じ。事実、やっと

作った品が入っているのだ。箱の上のおおいも、立派な布。長い棒につり下げて、

前後をかつがせて運ばせる。

「あのなかには、うどんげの花が入っているのではないか」

 そんなうわさが広まる。|天《てん》|竺《じく》にあると伝え聞く植物。三千

年に一回、花が咲き、世の中にめでたいことが起こる。きわめて貴重なものの意味

でもある。

 かぐや姫の耳にも入る。

「そうとしたら、|庫《くら》|持《もち》の|皇《み》|子《こ》に従わなけれ

ばならない」

 不安で、胸のつぶれる思いだった。

 悩んでいるうちに、姫の家の門がたたかれ、声があった。

「庫持の皇子です。やってまいりました」

 そとをのぞいた者が告げる。

「正装でなく、旅の姿でございます」

 竹取りじいさんが、門をあけて出ると、皇子が言った。

「もう命がけで、お望みの玉の枝を持ち帰りました。箱をあけて、ごらんに入れま

しょう。いかがでしょう。早く、姫にお見せして下さい」

 じいさんは、それを持って門の中へ戻った。その枝には、和歌がつけてある。

[#ここから1字下げ]

 いたづらに身はなしつとも玉の枝を

[#ここから3字下げ]

 手折らでただに帰らざらまし

[#ここで字下げ終わり]

 身命をなげ出しての努力。そのあげくに手にした玉の枝です。おわかり下さい。

わたしは、ここからも手ぶらでは帰りませんよ。

 姫は和歌も枝も、気の抜けたように眺めている。じいさんは、そばへ寄って言う

「あの皇子に望まれた|蓬《ほう》|莱《らい》の玉の枝。問題点ひとつない。そ

れを、この通り、お持ち帰りになられた。もはや、とやかく言いのがれはできませ

ん。少しでも早くと、旅の姿のまま、この家へおいでになられた。お会いになり、

親しくなさるのがいいでしょう。すぐれた皇子です」

 姫はぼんやりと、手のひらを顔に当てて、がっかりしている。できるわけがない

と思って、お断わりの意味で、あの難問を口にしたのに。まさか、持ってくるとは

 皇子は門を入り、|縁《えん》|側《がわ》に腰をかけ、声にして言う。

「ちゃんと仕事を、なしとげたのです。どうのこうのとおっしゃられては、困りま

す」

 じいさんも、うなずく。

「この国に、このようなものがあるとは、見たことも、聞いたこともない。本当の

玉の枝でございましょう。玉であり、金であり、銀です。こうなっては、口実も作

れません。大変な苦労をなさったのでしょう」

 姫はつぶやく。

「おじいさん、乗り気になっている。育ての親だと思っているからこそ、皇子をあ

きらめさせようと、ああ言ったのに。そこを察してもくれないで」

 じいさんは、部屋を片づけはじめている。そこで、すだれを上げれば、ご対面と

なり、二人の仲は進むのだ。じいさん、なにげなく皇子に聞く。

「ご苦労のあげくです。この木のあったのは、どんな場所です。ふしぎなほど美し

く、めったにない眺めだったのでしょうね」

「もちろんですとも。ぜひ聞いていただきたい……」

 皇子は、もっともらしく語りはじめた。

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