饭饭TXT > 海外名作 > 《竹取物语(日文版)》作者:[日]未知/翻译:星新一【完结】 > 竹取物語.txt

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作者:日-未知/翻译:星新一 当前章节:15376 字 更新时间:2026-6-23 02:38

をわきまえず、龍を殺そうと思って、船を出してしまいました。申しわけございま

せん。これからは、決していたしません。さわろうとさえ、考えません。お助け下

さい」

 祈願の言葉を大声でくりかえし、立ち上っては天に叫び、身を伏せて海に叫ぶ。

ここで誠意を示さなくてはならない。

 それを千回ほどくりかえすと、神のお耳にとどいたのか、とどろく雷の音も遠ざ

かっていった。しかし、イナズマは時たま光り、風の強さはそのまま。

 船乗りは、落ち着きをとりもどした。

「危機は越えたようですよ。やはり、龍の起した異変でした。お許しが出たのでし

ょう。少し明るくなってきた。この風は強いけれど、よい方向へと吹いている。そ

の区別ぐらいは、わたしにもつけられます。ご安心を。なんとか帰りつけるでしょ

う」

 そう呼びかけられても、大納言は龍のたたりの恐ろしさが消えず、耳に入らない

 その風は、三日か四日も吹きつづけて、船は出航地あたりへと戻され、海岸へた

どりついた。船乗りは、どうやら|播《はり》|磨《ま》(兵庫県)の|明石《あ

かし》の浜らしいと思った。

 大納言は頭をかかえてうずくまり、あえぎながら声を出した。

「南の海の、どこともわからぬ島にたどりついたようだな」

 船乗りは、明石にある役所にとどけ出た。船に乗せた人物、身なりは地味だった

が、地位のある者のようなことを言っていた。ほっておかないほうがいいだろうと

 役所の人たちが、船を調べに来た。大納言は、船の底にかがみこみ、目はつむっ

たまま。そとを見るのが、こわいのだ。

 みなでかつぎあげて、海ぞいの松林のそばにむしろを敷き、その上におろした。

役人たちは、あいさつをした。

「やはり、大伴の大納言さまでしたか。浜に着きましたよ。もう大丈夫です。ご気

分はいかがですか」

 名を呼ばれ、言葉もわかるので、南の島でないらしいと知った。身を起し、あた

りを眺める。

「ぶじに帰れたわけか」

 船がゆれて体調にわるかったのか、腹がふくれあがっている。大納言は病気の症

状が大げさに出る人なので、今回はオタフクカゼにかかったのか、左右の目のあた

りが、大きくはれあがっている。

 スモモを二つ、くっつけたようだ。おかしな顔つきなので、役人たちは、失礼と

は思いつつも、くすくす笑い出してしまった。

 ひと休みしたあと、大納言は|輿《こし》を作らせた。人を乗せて、かついで運

ぶもの。このへんでは、貴人の乗り物は用意してなかったのだ。その上でうめきな

がら、なんとか京の家へと帰りついた。

 その話をききつけて、命令を受けて出発し、好きなことをしていた部下たちが、

つぎつぎとお|屋《や》|敷《しき》へ帰ってきた。

「お元気で、お祝い申し上げます。わたくしたち、龍の玉を取れなかったので、戻

るに戻れませんでした。しかし、それをご自身でやってごらんになり、いかに大変

で困難なことか、おわかりになったのではありませんか。手ぶらで帰っても、もう

、おとがめはないでしょうと、参上したわけでございます。やはり、こちらにおつ

かえしたい」

 横たわって休んでいた大納言は、起きあがって男たちに言った。

「おまえたち、それでよかったのだ。龍にたちむかったりしてみろ。あれは雷さま

の仲間か、それ以上の力を持っているかの、どちらかだ。みな、死んでいただろう

。わたしは、よくない命令を出してしまった」

「おそれ入ります」

「おまえたちが、龍をつかまえたとしよう。それは、逆に、つかまったことだ。だ

れが命じたか、答えさせられ、そのあげく、わたしまで殺されることになったろう

「おかげで、だれも助かりました」

 しかし、大納言は不快そうに言う。

「帰って休みながら、こわかった旅を思い出してみた。そもそも、こんな目に会い

、死にかけたのも、もとはといえば、かぐや姫のせいだ。たちの悪いこと、泥棒以

上だ。わたしを殺そうとして、こんな話を持ちかけたのだ」

「そうかもしれませんね」

「きっと、そうだ。ひとの死など、なんとも思わない女だ。あの家のほうには、わ

たしは二度と近づかない。おまえたちも、気をつけたほうがいいぞ」

 なにか、すっきりした気分。とにかく、命は助かったのだ。|大《だい》|納《

な》|言《ごん》は、戻ってきた男たちに、|龍《りゅう》の玉を取ってこなかっ

たことをほめ、いい部下だと、家に残っていた品物をわけて与えた。

 おかしな理屈で、その話を聞いて、別居中の奥方は、大笑い。笑いすぎて死ぬか

もしれないと、そばの者が心配するほど。

 新築した派手な家。その屋根に飾った造花は、トビ、カラスなどが、巣を作る材

料にと、くわえていってなくなっていた。

「大伴の大納言は、龍の玉を取っておいでになったのか」

「いや、だめだった。しかし、両目のまわりに一つずつ、大きな玉をつけてお帰り

になった。スモモのようだが、かじってみるか」

「食べがたし」

 それから、思うようにならないことを〈食べがたし〉つまり“|堪《た》へがた

い”と言うようになった。「たえがたい」である。

 |妙《たえ》なる玉をと、海の旅。たえまもなしに台風が。食べるどころか、息

もたえだえ。たち悪の女にたぶらかされた。まあ、こんなとこか。

 ここでひと息。

 今回も、うまくいきませんな。この物語、はじめて聞いたとして、五人のうち三

人までだめとなると、四人目も同様と、ほぼ見当がついてしまう。

 作者としては、趣向をこらさなければならない。そこで、主人公を現実に海へ出

した。|蓬《ほう》|莱《らい》へ向かった人のは作り話だったが。

 育ちがいいので、世間しらず。その面白さは、当時の人にとっては、たまらなか

ったろう。『ドン·キホーテ』の書かれる、はるか以前の作なのだ。

 身分の高い人の苦難の旅となると、ひとつのテーマであり、長編で書かれること

が多い。その元祖はここにあって、短く、お笑い仕立てなのだからなあ。

 しかし、主人公にとっては、深刻な結末なのだ。さんざんにいじめられた。それ

は、かわいさあまって憎さ百倍との、感想となる。最近は使われないようだが、日

本語はうまい表現をする。

 太宰治『お|伽《とぎ》|草《ぞう》|紙《し》』のなかの「カチカチ山」とい

う作品を思い出した。もとのお話はご存知だろうが、太宰はウサギを美少女の残酷

さのあらわれと見て、タヌキは中年のぶさいくな男とした。

 まんまとウサギにだまされ、背中に火をつけられるわ、ひりひりする薬をぬりつ

けられるわ、泥の舟で沈めさせられるわ、さんざんな目に会わされる。美しいが、

やさしさがない。ギリシャ神話の三日月の女神まで持ち出すが、私の調べでは少し

誤解があるようなので、その名は出さない。

 さらに、好色のいましめか、美少女に手を出すなか、くどく言いよるなかと、教

訓をさぐっている。第三者には、こっけいな話さと。また、善悪よりも、感覚優先

の世の中とも書いている。太宰の結論を、原文の引用でここにのせる。

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 |曰《いわ》く、|惚《ほ》れたが悪いか。

 古来、世界中の文芸の哀話の主題は、一にここにかかっていると言っても過言で

はあるまい。女性にはすべて、この無慈悲な|兎《うさぎ》が一匹住んでいるし、

男性には、あの善良な|狸《たぬき》がいつも|溺《おぼ》れかかってあがいてい

る。作者の、それこそ三十何年来の、|頗《すこぶ》る不振の経歴に徴してみても

、それは明々白々であった。おそらくは、また、君に|於《お》いても。後略。

[#ここで字下げ終わり]

 後略で終るなんて珍しいが、太宰の「カチカチ山」についての新説である。「竹

取」は、それより昔のお話。文芸の原点なら、こっちですよ。

「かぐや姫は悪女だ」

 大納言の発言は、新鮮だ。そういえばと、はじめて気づくわけだ。もともと、悪

女とは不美人の女のこと。「悪女の深情け」は、不美人ほど、つきまとうの意味。

私は知った上で書いているのだ。

 美人だが悪質という意味になったのは、ごく新しい。しかし、たちまち定着した

。つまり、大衆の好みなのだ。その原形が、かぐや姫とはね。

 しかし、それも、もとはといえば男の勝手な思い込み。読者や聞き手にとっては

、だからこそ面白いのだ。

 いよいよ、ラストバッター。

  七、つばめの|子《こ》|安《やす》|貝《がい》

 さて、|中納言《ちゅうなごん》の|石上《いそのかみ》の|麻《ま》|呂《ろ

》|足《たり》は、家で働いてくれている男たちに、命令を伝えた。

「つばめが巣を作ったら、すぐに知らせてくれ」

 男たちはふしぎがり、やってきて、口ぐちに聞いた。

「なんのために、そんなことを」

「つばめの持っている、子安貝を取るためだ。それが、ぜひ欲しい」

 かぐや姫が、それを中納言に望んだのだ。とにかく、はじめなくてはならない。

男のひとりが言った。

「わたしは、つばめを何羽か殺し、腹をさいてみましたけど、見たことはありませ

ん。しかし、子を|生《う》む時には、そばにあるのかもしれません。どこから持

ってくるのか、見当もつきませんが」

「殺したとは、ひどいことをする。安産のききめのある貝だから、出産の時にそば

にあるとは考えられるな」

 中納言がうなずくと、べつな男が言う。

「人が見ようとすると、貝をかくしてしまうという話もあります」

 また、べつな男が言う。

「朝廷のなかの、穀物の倉庫。そのそばの、食事を作る建物の|軒《のき》|下《

した》に、つばめがたくさん巣を作っています」

「そんなに多いか」

「はい。身のこなしのいい者をえらんで、ハシゴのようなものを作って、のぼらせ

たらどうでしょう。つばめの数は多い。たまたま、子を生む時にめぐりあうことも

あるでしょう。のぞいて、そうとわかったら取ってくればいいと思います」

 名案のようだと、中納言は喜んだ。

「すばらしい方法を考えついてくれた。わたしは、現実的な計画を立てるのが|苦

《にが》|手《て》でねえ。感心したぞ。すぐ、とりかかろう」

 仕事熱心らしい男を二十人ほどにその役を命じ、ハシゴをいくつも用意させた。

ご自身は家にいて待ったが、早く手にしたい気分は押さえられない。

「子安貝は、手に入ったか」

 と何回も、ようすを見に行かせる。そのたびに、男たちがハシゴの位置を変え上

り下りする。おかしな動きだし、目立つし、見物人もやってくる。つばめは、巣に

寄ってこなくなる。

 その報告では、命令の出しようもない。

「それは困ったな。しかし、どうしたものか」

 いらいらしていると、その倉庫や建物をまかされているお役人、|倉《くら》|

津《つ》|麻《ま》|呂《ろ》という老人がやってきた。倉のじいさんとの意味か

「妙なさわぎなので、聞いてみると、こちらのご命令とか。あれじゃ、だめです。

みっともないし、笑ってる人もいる。わたしの意見をお聞きになって下さい」

「そうか。ぜひ教えてほしい」

 中納言は、近くに呼び寄せ、低い声で話し合った。倉のじいさんが言う。

「つばめの子安貝となると、やりかたがあるのです。二十人もの男が、ハシゴを上

下し、少しずらして、またのぼって巣をのぞきこむ。その光景をお考え下さい」

「子を生むどころではないな」

「ハシゴを片づけ、男たちを引きあげさせる。人数は、忠実な男ひとりでいい。そ

れを大きな|籠《かご》にのせ、それは|綱《つな》でつりあげられるようにして

おく。そして、子を生みそうな巣をねらう」

「上げる方法は」

「ハシゴを組み合せ、その上に滑車をつけ、綱で引きあげるのです。やはり、あと

四人はいりますな」

「それより、子を生みそうと、どうすればわかるのか」

 中納言が聞くと、倉のじいさんは言う。

「つばめが尾を上にむけて、からだを七回まわします。そのあとすぐ、子を生む。

ですから、動きを目にしたら七回目にまにあうよう、|籠《かご》をつりあげ、乗

っている人に取ってもらうのです」

「そうか、いい方法のようだな」

 その命令は出され、大部分のハシゴは片づけられ、人数もへって静かになった。

 ハシゴを組ませ、籠に乗った人を引きあげる練習もはじめさせた。倉のそばでそ

れを見ている中納言は、成功まちがいないという気分になった。

 それというのも、倉のじいさんがいい案を教えてくれたからだ。お礼をしなけれ

ばならない。そこで、呼びかけた。

「わたしの部下でもないのに相談に乗ってくれて、ありがたい。これをさしあげよ

う」

 自分の着物をぬいで、手渡した。

「おそれ入ります。早く終ってもらいたいためでもあったのですが」

「夕方に、ここへ来てくれないか。いい指示をしてほしいし」

 やがて、日が暮れてきた。倉のかげからのぞくと、つばめが巣を作っている。な

かに、尾をあげてまわるのもいる。

 そこで、籠を引き上げさせる。乗っている男は、巣に手を入れる。|中納言《ち

ゅうなごん》は、下から聞く。

「あったか」

「ありません」

 尾の動きは、話の通りだ。子を生んだにちがいない。それなのに、貝がないとは

。だんだん、がまんできなくなった。

「おまえの、さがしかたが悪いのだ。あるような気がするのだが……」

 乗る者を交代させようと見まわしたが、こうなったら、自分でやるのが最良だろ

う。

「……よし、わたしが乗る」

 そのうち、また尾をあげてまわるのを目にした。あれだとばかり、中納言は籠に

乗って上へ。巣に手を入れる。手のひらに、なにかをつかんだ。

「おい、なにかがあった。倉のじいさん、うまくいったぞ。さあ、おろしてくれ」

 それを聞き、男たちも、ついにやったかとほっとする。気がゆるんだ。綱をゆる

めなくてはいけないのに、あわてて引っぱる者もいた。そのため、綱が切れた。

 下には、穀物倉にゆかりのある大きな|釜《かま》があった。そこへ、あおむけ

に落ちた。人びとがかけよって、かかえ起す。

 気を失い、目は白い部分だけしか見えない。水をくんできて、口に入れ、背中を

さすったりする。なんとか、息を吹きかえし、手足を動かした。

 その中納言のからだを、釜からおろし、地面に横たえる。苦しそうだ。

「いかがですか、ご気分は」

 そう聞くと、かすれた声で言った。

「気はとり戻したが、打ちどころが悪かったのか、腰が動かない。それより、子安

貝だよ。ちゃんと手のなかにある。少しぐらいの苦痛は、この満足さで消えてしま

う。なにかに火をつけ、あかりとしてくれ。それを、この目で見たいのだ」

 頭をあげて、手のひらをひろげる。あかりに照らされたそれは、つばめの古いフ

ンだった。それを見て、中納言はがっかり。

「貝はなしか」

 むなしい結果。

 努力のあげく、なにも得られない。家に運ばれ、寝たままの日常。腰をやられて

、立てないのだ。衣服の出し入れもできない。

 姫にとどけるための箱も用意してあったが、フンを入れるわけにいかない。これ

だけの苦労をしたと伝えたくても。

 ばかげたことをやって、こんな症状になってしまった。人にも話せないし、知ら

れるとみっともない。

 気にすると、ますます弱まってゆく。弱まると、わが身があわれに思え、さらに

沈んだ気分になる。

 かぐや姫は、このことを知り、なぐさめの和歌をとどけた。

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 年を|経《へ》て浪立ちよらぬ|住《すみ》の|江《え》の

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 まつかひなしと聞くはまことか

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 ごぶさたですが、いかがなさっておいでですか。おたのみした貝を待っても、む

だというわけですか。この住の江とは、松の名所で、言葉のあそび。

 そばの人が読んであげると、中納言は弱っている気分を振りしぼり、苦痛をしの

んで頭を|枕《まくら》からあげ、手伝ってもらって、紙に歌を書いた。

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 かひはかくありけるものをわび果てて

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 死ぬる命を救ひやはせぬ

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 貝はだめでしたが、思いがけず和歌をいただけました。やってみたかいはあった

のでしょう。せめて、一目でもお会いできれば、死んでしまうわたくしへの、大き

な救いになりますのに。

 書き終えると、息が絶えてしまった。そのことを聞いて、かぐや姫は少し同情な

さった。これは前例のないことで、人びとのなかには「やっただけの、かいはあっ

た」と言う人もいた。

 |甲《か》|斐《い》があったと書くが、もとは“|効《かい》”だったようで

、このほうが意味が通る。

 子安貝は買うわけにいかず、名案をかいかぶって、かいがいしく動いてみた。つ

ばめの飛ぶのをかいくぐったが、失敗。姫をかいまみることなく、人生に幕。

 ちょっと、ひと息。

 どうも、うまくいきませんな。

 この人物の特色は、他人の意見をつぎつぎに求め、よりよい意見があると、それ

を試みる。最後には、自分で確認しようとする。経営学のはじまりみたいだ。

 横道にそれるが、つばめについて書いておく。漢字だと燕。妙な字だ。昔は神秘

的な鳥とされていた。

 暖かくなると出現し、秋になるといなくなる。渡り鳥と知らない人たちは、どこ

に消えるのか、ふしぎがった。木の穴にかくれるのかと思った人もいた。中国には

、泥の中で春を待つとの説もあった。

 地上にはめったにおりず、飛び方の早さ、害虫を食べて農作を助けてくれる。子

安貝とは、安産のおまもりだが、つばめのとなると、一段とありがたい品なのだろ

う。

 子を生むと、何ヵ所も書かれている。なぜ卵でないのか。その区別は、なかった

のかもしれない。

 この部分の物語の面白さは、自主性のない人物と、その部下の男たちの、ドタバ

タにあるのは、すぐにわかる。しかも〈かいがない〉のしゃれで、死んでしまうの

だ。無責任に物語を聞いていれば、中納言でも失敗だったなで終り。

 しかし、当人にとってはね。ついに死者が出たのだ。その立場になれば、悲劇そ

のものだ。会った人でないからむりもないが、姫は「少し」同情しただけ。

 この冷血の女めと言いたいとこだが、勝手に思い込んで、そのあげく死んだのだ

。のちの時代には、主義、信念、時には目立ちたがりで死ぬ人も出る。死について

考えさせますね。

 これで、五人はすべて失格。読むほうは、なんだかものたりない。作者たるもの

、その期待に応じなければならない。前の男は、海で死にかけ、今回は現実に死ん

でしまった。この手法は行きついた。

 同じことのくりかえしでは、この先をついてきてくれない。話を作るのは、楽じ

ゃないのだ。日本最初の物語だから、参考になる本があるわけじゃない。

 しかし、そんなことは、覚悟の上だ。むろん、作者はそう思っていただろう。一

転し予期しなかった人物を登場させる。

 その人とは。

  八、ミカドのおでまし

 さて、このような話がひろまり、かぐや姫がいかに美しいか、だれもが語りあっ

た。それはミカドの耳にも入った。

 ミカドとは帝と書くが、本来は直接に名をあげては恐れ多いので、|御《ご》|

所《しょ》の門を|御《み》|門《かど》と呼び、それに代えた。だから、ミカド

には敬称をつけない。

 ある日、ミカドは宮中に仕える女性、|中《なか》|臣《とみ》の|房《ふさ》

|子《こ》に言われた。

「どうやら、多くの男たちが、かぐや姫を手に入れようと、つとめたらしいな。み

な、みじめな失敗に終り、なかには命を失ったのもあるとか。どのような女なのか

、出かけて見てきてくれぬか」

「はい、行ってまいります」

 房子は、ミカドの思いももっともだと、竹取の家を訪れた。家の者たちは、宮中

からのお使いとあって、かしこまって迎えた。房子は、じいさんの妻、ばあさんに

言った。

「よろしいか。ミカドのお望みで、やってきました。かぐや姫は世にも珍しく美し

いので、見てまいれとのお言葉。わたしがうかがったのは、そのためです」

 ばあさんは、頭を下げた。

「しばらくお待ち下さい。本人にそのことを伝えますから」

 そして、家のなかの姫に話した。

「……というわけなのです。いままでの、ほかの男たちとはちがいます。ミカドの

お使いなのです。早く、お会いしてさしあげなさい」

「そう言われても、あたしはべつに美しいとは思っておりません。お見せするほど

の顔ではありません。お会いしません」

 その気になりそうにない。ばあさんは、困ってしまった。

「そのようなことを申しては、なりません。ほかならぬ、ミカドのお使いなのです

よ。軽くあしらっては、いけません」

「かまわないでしょう。使いの者なのです。ご本人ではないのですから。かわりに

見てこいと言われ、やって来た人」

 きげんも悪くなり、会おうとしない。

 ばあさんにすれば、ずっと育ててきたし、本当の子と思って毎日をすごしている

。しかし、こうなると強くも言えない。これまでにも、せっかくのいい話を、何回

もことわってきている。こんどもか。

 お使いの房子のところへ戻って、ばあさんは言った。

「まことに恐縮なことですが、あの子はまだ幼く、世間しらずで、分別もない。わ

がままな性格で、言い聞かせても、いやがるばかりなのです。申しわけありません

が」

 房子も、すぐ引きさがるわけにはいかない。

「かならず見て来いとの、ご命令なのです。それをせずに、ただ帰るわけにはまい

りません。ミカドとは、この国で最も高い身分のかたですよ。あなたがたは、ここ

に住んで暮らしている。そこをお考え下さい」

 声を強め、説得の意味をこめて言った。それは、かぐや姫の耳に入った。力ずく

のようなのが気に入らないらしく、こう答えた。

「むりにでも引き出したいのなら、殺してからなさったらいいでしょう」

 どうにもならない。これ以上いくら話しても、むだなようだ。あまり、こじらせ

たくもない。

 房子は引きあげ、ミカドにそのいきさつを報告した。ミカドはうなずく。

「そうか。かなりのわがままだな。そのため、命を失う者が出たりしたのか。そう

いう女が、いたとはな」

 それで、いちおうことがすんだ。

 しかし、ミカドは、気になってならない。ひとり、つぶやいたりする。

「会いませんの返事で終りでは、すっきりしないし、こちらの立場もない。なにか

手をつくしてみよう」

 そこで、竹取りじいさんを呼び出して、こう告げた。

「おまえの家にいるかぐや姫を、ここへよこしなさい。そば|仕《づか》えをさせ

たい。かなりの美しさと聞いたので、使いの者を行かせたが、会ってくれなかった

。どうも、すなおでないな。どんな育て方をしたのか」

 じいさん、頭をさげて申し上げた。

「育てはしましたが、実の姫ではないので、ゆきとどかない点はお許しを。あれに

は宮仕えのような、行儀作法にしばられたことなど、できっこありません。あつか

いにくい性質です。しかし、せっかくのお話。帰って、あらためて言いつけてみま

しょう」

 その答えに、ミカドは期待をかけて言った。

「よろしくたのむ。姫は、おまえとは長く暮していて、親子のようなものではない

か。宮仕えといっても、わたしのそばにいてくれるだけでいいのだ。そうなれば、

おまえに五位の|位《くらい》を与えよう。約束する」

 その身分になれば、宮中へ自由に出入りできる。じいさんは、喜んで家に帰り、

かぐや姫にわけを話した。

「これほどまでに、ミカドはおっしゃられたのだ。宮仕えしてもいいのではないか

。ありがたいお言葉と思うが」

 姫の答えは、これまでと同じ。

「そのようなことをする気には、どうしてもなりません。いやなのです。むりにで

もさせたいのなら、夜逃げをして、姿をかくしてしまいますよ。それほど位がほし

いのでしたら、わたしは宮中へあがり、そのあと、死ぬか消えるかいたしましょう

 それを聞いて、じいさんは驚いた。

「なんということを。わが子に死なれてまで、位や官職をもらおうなど、思っては

いない。しかし、なあ、宮仕えとは、死よりもつらいような仕事ではないのだよ。

なりたがる女も多いのだ。わたしには、そこがよくわからんのだ」

 じいさん、しきりに首をかしげる。姫は言った。

「これまで、いろいろなことがあったでしょう。わたしは、男のかたに仕えるのが

、いやなのです。たくさんの財産を使ったり、命を落とされたかたもいました。そ

れでも、わたしはお断わりしました。おわかりでしょう」

「そうだなあ」

「このお話は、ついこのあいだはじまったばかり。ほかのかたがたには、何年もの

年月をお待たせした上でです。ミカドだから、はい、すぐにでは、ほかのかたがお

気の毒ですし、みっともないと思われます。うそではありません。死ぬか消えるか

になってしまいますから」

「それなりに考えた上でのようだな。これからミカドにお会いし、宮仕えの件はそ

の気になれないとお伝えしてこよう。おまえに死なれては、なにがどうなろうと、

これほどの悲しみはない」

 竹取りじいさん、出かけていってミカドに申し上げた。

「どうも、たび重なる失礼をお許し下さい。ミカドのお心のありがたいこと、いや

な仕事ではないことを、くわしく説明したのですが、あの子の気を変えさせること

はできませんでした。力ずくなら、死ぬの消えるのとまで言います。わたしが育て

はしましたが、もとは竹林のなかでみつけたのです。どこか普通の人と、感じ方が

ちがっているようで、あつかいにくいのです。申しわけありません」

 ミカドも、それ以上はむりと思った。

「やむをえないな。宮仕えさせるのは、あきらめよう。そうだ。そういえば、おま

えの家は山のふもとのあたりだったな。わたしが狩りに出かけ、そのついでに立ち

寄ってみようか。そうすれば、顔を見ることもできるだろう。せめて、それぐらい

は手伝ってくれないか」

 そのたのみには、じいさんも断われない。

「いいお考えですね。それでしたら、お力になりましょう。あの子が気をゆるめて

、のんびりしている時に、ふいにお立ち寄りになれば、ごらんになれましょう」

 いつにしたらいいかを打ち合せ、ミカドはお供を連れて、狩りに出かけられた。

お供の人たちも、なぜ急にと、ふしぎがった。

 家に近づくと、じいさんが出迎え、ミカドをそっとなかへ案内した。そこには、

きよらかで美しい人がすわっている。あたりには光がただよい、この世の人とは思

えない。

 かぐや姫に、ちがいない。

 そばへ寄ろうとすると、奥へかくれようとする。着物のそでをつかもうとしたが

、姫はたもとで顔をかくしてしまい、はじに手が触れただけ。

 顔をかくしたが、ミカドはさきほど、気づかれずに見ている。忘れようもないほ

ど美しい。そでを、もう一方の手でつかむ。

「逃げないでくれ」

 引き寄せようとすると、かぐや姫はお答えした。

「この、わたくしのからだが、この国に生れたものでしたら、ミカドのために、ど

のようなことでもいたしましょう。それが、ちがうのでございます。なんとかして

連れていこうとなさっても、そうはいかないと思います」

「そんなことは、ありえない。いま、ここにいるではないか。この手で、そでをつ

かんでもいる」

 ミカドはお供の者たちに声をかけ、|輿《こし》という乗り物を、こちらに持っ

てくるよう命じた。その上に、移せばいいのだ。

 そのとたん、かぐや姫は影のように消えてしまった。手のなかのそでも、見えな

くなった。けはいは感じられるのだが。

「こうなってしまうとは、思ってもみなかった。せっかく、手にしたのに。普通の

人間とは、ちがうのだな。じいさんから、それは何回も聞かされていたが……」

 ミカドはつぶやき、立ちつづけた。姫は近くにいるようだし、立ち去る気にもな

れない。たのみこむ口調で呼びかけた。

「わかった。もう、連れていこうとは言わない。しかし、このまま別れるのも、心

残りだ。もう一回、もとの姿になって下さい。その上で帰りましょう」

 かぐや姫は、ふたたび現われた。たもとでかくしているが、顔つきはよくおぼえ

ている。この上なく美しい女性が、ここにこうしているのになあ。ミカドであって

も、できないこともあるとは。

 あきらめねばならないようだ。だまってうなずくと、姫は奥へと入っていった。

ミカドは、じいさんに言った。

「なんとか、会うことだけはできた。これも、おまえのおかげだ。いろいろと、手

数をかけてしまった。礼を言う」

「まことに、行きとどきませんで。おわかりいただけましたでしょう。せっかくの

お出ましです。お供のかたたちに、食事やお酒をさしあげましょう。ミカドも、ご

ゆっくり」

 ひそかなお出かけとはいえ、ミカドともなると、おそばの人や警備の人など、目

立たぬよう従ってきた人数も多い。じいさんとすれば、姫のおかげで豊かになった

わけでもあり、姫に代ってのもてなしのつもりだった。

 それも終り、ミカドも帰途につかれた。かぐや姫を残したままとは、残念でなら

ない。魂を残して行くようだ。乗っている輿の上で、和歌を作った。

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 帰るさの|行幸《みゆき》もの憂く思ほえて

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 そむきてとまるかぐや姫ゆゑ

[#ここで字下げ終わり]

 姫の心がわたしに背をむけたので、わたしのからだは、そちらに背をむけて帰ら

なければならない。きょうの訪れは、心残りの結果となってしまった。

 それをとどけさせると、姫からのご返事の歌があった。

[#ここから1字下げ]

 |葎《むぐら》はふ|下《した》にも年は|経《へ》ぬる身の

[#ここから3字下げ]

 なにかは玉の|台《うてな》をも見む

[#ここで字下げ終わり]

 むぐらとは、つる草のこと。そんなものにかこまれた家で、年月をすごしてきた

、身分の低い者でございます。玉のように貴いお家柄のかたとは、つりあいません

 ごらんになったミカドは、頭がからになった気分だった。戻りたいけれど、姫の

心はこの歌ではっきりしている。もの思いにふけって、ここで一夜をすごしたいが

、何十人ものお供がいるのだ。宮中に帰らなければならない。

 それからは、ミカドにとって、つまらない日々がつづいた。おそばにいる女性た

ちは、えらびぬいた美しさの持ち主のはずだ。そう思ってもいたのだ。

 しかし、かぐや姫を見たあととなっては、どうしても、くらべてしまう。そして

、ここは気の沈む場所ということになる。

 お|后《きさき》や女官たちの部屋へ出かける気にもならない。ひとりで、ぼん

やりと日をすごす。折にふれ、姫に手紙をお書きになる。それは心のこもった文だ

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