「怜司様に、なんと言われたんですか?」
門脇は自分も蓮見の隣に腰を下ろすと淡々と聞いてきた。
「……俺の仕事は……海堂さんのお世話係で……月30万の給料を出すと……」
「その他にもあるでしょう?」
「……俺の身体で……海堂さんを満足させられたら……一晩につき100万出すと……」
門脇はそれを聞いてハァと呆れたような吐息を吐いた。
「それで……蓮見様はそのお話に乗られたんですね?」
「……はい……俺……借金を早く返したくて……それで……」
門脇は眼鏡のブリッジに指を当てると、すっと立ち上がり蓮見を見下ろした。
「分かりました。……では蓮見様、少しの間、じっとして、私のすることを見ていて下さい。よろしいですね?」
「は、はい」
蓮見が頷くと、門脇は蓮見の足元に跪き、蓮見の小さく縮んだものに手を伸ばした。
「えっ!……ちょ、か、門脇さんっ!?」
慌ててそこを隠すようにした手を門脇はやんわりと外しながら言った。
「……じっとしていて下さい。……どんな風にされたら気持ちが良いのか、ちゃんと見て覚えて下さい。私だってこんなことは1度限りにしたいですからね」
それからの時間は、蓮見にとってはまるで夢のような一時だった。門脇の口淫は巧みで、蓮見はこんなにまで気持ち良いことが世の中にはあるのだと初めて知った。しかしそれと同時に拷問にも等しい苦しさをも味わうこととなった。
「ああっ、も、もう……い、達かせて……下さい……」
何度も絶頂寸前までの快感を与えられ、蓮見は達かせてと懇願しその度に門脇はそれを冷静に却下した。
「まだ駄目です。……もう少し我慢して下さい」
根元を紐でぎっちりと結わえつけられ、そうして再び門脇の温かく滑った口内に自身が呑み込まれる。口腔で根元から先端へと全体を扱き立てられる。雁を舌でくすぐられ、窄めた唇の輪を何度も往復させられる。しこった睾丸を転がすように掌全体で揉まれ、口に含まれしゃぶられる。強く吸われ、鈴口を舌先で抉られる……絶え間なく刺激される蓮見の雄芯は、ズキズキと痛むほどに脈打ち、ひたすらその解放の時を求めた。唾液と粘膜の擦れる卑猥な音も、蓮見の耳を刺激してさらに煽っていく。目を反らすことも許されなかった。上下する門脇のうっすらと上気した顔を見つめて、蓮見は身を震わせ喘ぎながら、蛇の生殺しのようなそれでいて熱病のような快楽の渦に翻弄されるしかなかった。
「……お、お願い……しますっ!……い、達かせてっ……!」
ぶるぶると身体を震わせ、赤く苦しげに歪んだ顔で叫んだ蓮見を下からちらりと見上げ、門脇は蓮見を咥えたまま紐の結び目を解いた。
堰き止められていたものが濁流のように出口へと押し寄せる。蓮見はベッドの上に大きく仰け反り、悲鳴のような声を上げ、めくるめく放出の快感が身体じゅうを駆け抜けていくのを体感した。
ベッドに仰向けになってはぁはぁと肩で息をしている蓮見を尻目に、門脇は蓮見の放ったものをごくりと嚥下し、さらにまだ勢いの衰えていない雄芯へと舌を絡ませた。
「えっ……あっ……ま、待って……」
蓮見は慌ててベッドから半身を起こすが、門脇は蓮見のそれを離そうとしなかった。ぞくぞくする快感がまた腰から背中へと這い上がってくる。
指で刺激を続けながらも口を離して門脇は淡々と言った。
「気持ち良いでしょう?達ったばかりのペニスは敏感でまた違った快感があるものなんですよ。……どうされたら気持ち良いか、なんとなくでも理解できましたか?」
「……は、はい……」
気だるい虚脱感とまた新たに湧き起こる快感の狭間で蓮見は陶然として頷いた。
「では次は私に実践してみて下さい」
門脇は立ち上がると細身のスーツを脱いだ。眼鏡も取りワイシャツだけを羽織った姿になった門脇は、細いが意外に引き締まった筋肉質の体型をしていた。門脇は蓮見をベッドの中央に仰向けに寝かせると、自分は頭を逆の方に向けてその上に乗ってきた。いわゆる69という体勢だ。
「私がやるのと同じようにして下さい」
そう言って、蓮見の腰を抱えるように脚の間に顔を埋めた。蓮見も四つん這いになった門脇の少し勃ち上がった性器へとおそるおそる手を伸ばした。
蓮見は必死になって門脇への愛撫を繰り返した。自身に与えられる刺激でつい舌や手がおろそかになると、門脇はわざとぐいっと腰を入れ、蓮見の喉の奥の方まで差し入れてくる。その度に咳き込みそうになったり吐きそうになったりしながらも、どうにかこうにか門脇に同調するように口や手を動かした。
「……とても……気持ち良いですよ」
時折、門脇は口を離すと吐息混じりにそう言った。門脇の性器は完全に勃起して硬く屹立し、その吐息にはせつないような響きが混じっている。蓮見も2回目だというのに門脇の口内で既に弾けそうになっていた。
「……今度は我慢せずに達っていいですよ。……私も達きます」
そう言うと門脇は蓮見の雄を素早いピッチで扱き立てた。
「んうふっ!……」
蓮見は門脇を咥え込んだまま、無意識に身を震わせ腰を突き上げ、そして一気に放出し、果てた。蓮見の口内へ激しく抽送を繰り返し、門脇もまた身体を強張らせると射精した。蓮見は門脇の放ったものを口の中で受け止めはしたものの、飲み込めずについだらりと口から零してしまった。こんなまずいものよく飲めるものだと思いながらも、喉や頬の裏の粘膜に何かひっかかっているような、粘つくような、そして苦いような無味のような変な感覚を味わわされた。門脇はちょっと眉を顰めてその零してしまったものを拭きとりながら言った。
「……私のは別に飲まなくても結構ですが、本番ではきちんと飲んで下さい。その方が喜ばれると思いますよ……ああ、もしかしたら顔に掛けられるかもしれませんが」
「……は、はぁ……」
門脇はさらに自分の顔や手にかかった蓮見の精液を拭きとり、自身も拭うとさっさと服を着けた。眼鏡をかけ元のきっちりした格好に戻ると、まだベッドに横たわってぐったりしている蓮見に声をかけた。
「蓮見様、隣室にあるお風呂は自由にお使い下さって構いませんよ。お休みになられるのでしたらご自分のお部屋にお戻りください。それから夕食は7時からです。階下の食堂へ遅れないようにいらして下さい。……では私はこれで」
門脇は一礼すると、隣の海堂の部屋へ続くドアをノックして入っていってしまった。
蓮見の下半身は門脇の唾液と自らの精液によってべたべたしてかなり気持ちが悪かった。蓮見はよろよろと起き上がると、床に落ちているタオルを拾い浴室に向かった。
とにかくだるかった。蓮見はべたつくところをシャワーで洗い流しながら、広々とした大理石で造られた浴室をぼんやり眺めた。獅子の頭を模した彫刻からはこんこんとお湯が溢れ出していて、浴槽は並々と清潔なお湯で満たされている。つくづく、この家は無駄が多いというか、お金が有り余るほどあるんだろうな、と蓮見は思った。確かに、海堂は5千万は大した金額じゃないと言っていた。しかし、海堂がどんな仕事をしてこんな贅沢な暮しをしているのか全く想像が付かなかった。聞いたら教えてくれるだろうか……それとも人には言えないような、ヤクザめいた怖くて汚いような何かをしているのだろうか……。それに、お世話係って一体何をすればいいんだろう。……海堂の下半身の世話だけって訳じゃないだろうし、門脇さんがいるんだから仕事関係じゃないことだけは確かだけど……。蓮見は重たい頭でそんなことを考えていた。
蓮見はシャワーを終え一旦寝室に戻り、服を着て、またトイレを通って自分の部屋へと戻った。寝室から廊下に出る扉はない。つまり浴室か海堂の部屋を通らない限りは寝室へは行けないようになっていた。
部屋に戻ると疲れがどっと出てきて、蓮見はスーツの上着を椅子に放り投げてそのままベッドに倒れ込んだ。
蓮見が目を覚ましたのは深夜だった。真っ暗な中で、はっとして起き上がり、きょろきょろと周りを見回した。……夕食、7時からって言われてたのに……そう考えた途端腹が鳴り、蓮見は立ち上がって部屋の電気を手探りで点けた。ふと見ると、机の上に一人用の土鍋と卓上コンロ、お櫃、それに茶碗と箸とお玉が置いてあった。もしかしなくても、蓮見が起きた時に食べるようにと用意されたもののようだった。
土鍋の蓋を開けてみると、鶏団子に春菊や大根やきのこが入っていて、お櫃のご飯は少し冷めていたけれど、蓮見はそれを全部土鍋に入れて温め、雑炊のようにしてふうふう言いながら食べた。……美味しかった。食べながら蓮見は、自分が泣いていることに気が付いた。涙がとめどなく溢れてきて、まだ途中の茶碗にぽたりとこぼれ落ちる。その涙は、不甲斐なく情けない自分に対する悔しさと、そしてそれ以上に、見ず知らずの自分を救ってくれた人がいるというありがたさ……こんな自分の為に、部屋だけでなく夜食にまで気を配ってくれたことに対する感謝の気持ちからだった。……不必要な人間ではない、ここにいていいのだ、と言われているような気がして、蓮見はとても嬉しかった。
茶碗に残っていたご飯を涙と一緒にかき込んで、蓮見は「御馳走様でした!」と言いながら手を合わせた。
部屋のロッカーにはちゃんとパジャマも準備されてあった。蓮見はそれに着替え、もう一度寝直す前に歯磨きとトイレに行こうと部屋を出た。トイレには間違えずに辿り着くことができて少しほっとしながら用を足すと、隣の浴室から何やら細々と話し声が聞こえてきた。壁が薄い訳ではなく、反響して聞こえてくるのだ。脱衣所の洗面台で歯磨きをしようと思っていた蓮見は、浴室との仕切りがガラスだったことを思い出して仕方なくトイレの中の洗面台で歯を磨いた。その間もお湯の流れる音に混じって話し声は聞こえてきた。何気なく聞き耳を立てると、その声は門脇だった。
「お世話係に30万、おまけにボーナス100万!!……一体どれだけ蓮見様を優遇されたら気が済むんです?」
いきなり自分の名前が聞こえてきて、蓮見の歯磨きの手が止まった。
「このままじゃ他の者にも示しが付きませんよ?」
そんなことを門脇が言う相手は海堂しか考えられない。しかし海堂の返事はよく聞き取れなかった。
ライズ 5
気になって歯磨きもそこそこに、蓮見はトイレの壁に近付いた。
「……怜司様はあんなまだ子供みたいなガリガリに痩せた子が好みだったんですか?」
「ふん……妬いてるのか?珍しいな」
「茶化さないで下さい。私は心配して……」
「それにしては……さっきは随分と蓮見に派手な声を上げさせてたじゃないか」
「あれは……怜司様が……ああ!……んっ……」
ようやく海堂の声も聞こえたと思ったのも束の間、その後はいくら耳を澄ませてもお湯の流れる音しか聞こえなくなってしまった。海堂と門脇が一緒に風呂に入っているらしいことも蓮見にとってはカルチャーショックに近いものがあったが、最後に聞こえた門脇の声は……少し甲高く響いて、嬌声にしか聞こえなかった。
海堂が門脇に「手ほどきをしろ」と言ったことからして、そして門脇もまた何の手ほどきか聞くまでもなくそれを実行したことで、どうやらこの二人の間には主従だけではない並々ならぬ関係があることはなんとなく理解はしていたものの、今この壁の向うで実際に二人が『何か』をしているらしい状況に蓮見は戸惑った。……門脇もまた、身体を使ってボーナスを得ているのだろうか。もしかして、この屋敷で働いている者は全員、そういうことを……?
蓮見は呆然としながらも、自分の部屋に戻った。しかし余計気になったのは門脇が言った言葉だった。……俺を優遇……海堂の好み……?蓮見は、それまでそんなことは考えたこともなく、海堂が単に惨めな自分を憐れんで、金持ちの気まぐれか何かで金を出してくれたのだとばかり思っていた。だが門脇の話だと、蓮見に対する海堂の態度は他の者に対するものとは違っているらしい。それを指摘した門脇に海堂は「妬いてるのか」とまで言っている。
蓮見はベッドに入り、天井をぼんやり眺めた。
自分をじっと見つめていた海堂の切れ長の眼と……風のようなキスをふと思い出した。……あれに何か……特別の意味があったのか、それとも……単なる所有物への烙印……?
翌朝は7時すぎに眼が覚めた。
着替えをするのに、普段着でいいのか、スーツにすべきなのか迷い、平日であることを思い出してスーツにした。
着替えた頃に机の上の電話が鳴った。慌てて受話器を取ると門脇からだった。
「おはようございます。お食事の用意ができていますから、食堂へいらして下さい」
門脇は相変わらず淡々と言い、昨夜のような感情がその裏にあるとは全く感じられない。
蓮見は「分かりました」と言って受話器を置き、部屋を出た。夜食の食器を持っていこうかとも思ったが、結局そのままにしてきた。
食堂には既に海堂がいて、蓮見が席に着くと話しかけてきた。
「昨日はちゃんと眠れたか?」
「あ、はい……」
「そうか。……新聞は来週からきみの部屋に届けさせる。他に何か必要なものがあったら門脇に言え。それと、外出は当分禁止だ。どうしても行きたいところがあるなら俺に言え」
「……分かりました」
「他に何か聞きたいことはないか?」
蓮見は一瞬、昨夜のことを聞こうかと思い、しかし給仕をしている者たちに知られたらまずいのかもしれないと思い直した。
「……いえ……」
それから六人の給仕を侍らせて二人だけで朝食を摂り、食事が終わると海堂は蓮見を連れて海堂の部屋に戻った。
「あの……門脇さんは……?」
蓮見が聞くと海堂はにべもなく答えた。
「あいつは朝は食べない。それに門脇の仕事はほとんど自分の部屋だけで事足りるからな、1日じゅう会わないことだってある。……きみの仕事はそういう訳にはいかないから、食事や寝る時以外は俺の部屋にいることになる」
「は、はい……」
蓮見は頷いて、さらに聞いた。
「お世話係って具体的には何をすればいいんですか?」
海堂は自分の大きな机の椅子に深々と座り、にやりと笑った。
「文字通り、俺の世話だ。してほしいことは俺が指示するが、俺のことできみが率先してやりたいことがあればやって構わない」
「はぁ……」
蓮見には今一つ何をしたらいいのか分からない。
「じゃあ、今何かしてほしいことはありますか?」
「そうだな……隣の書庫から『形而上学的素養に関するディモクラス考察』という題名の本を持ってきてくれ」
「はい……ええと……形而上学的……」
蓮見はその面倒くさそうな長ったらしい題名をぶつぶつと口の中で繰り返しながら海堂の部屋を出て、隣室の書庫に向かった。
書庫はまたとんでもなく広かった。部屋には窓はなく朝だというのに真っ暗で、ドアのすぐ横にある電気のスイッチを入れると、しらじらとした明かりの下、まるで図書館か何かのように天井まで届く高さの飾り気のないスチール製の本棚がずらりと並んでいた。見るからに難解そうな学術書や蓮見には到底読めそうもない洋書もたくさんあった。蓮見は物珍しげにつらつらと本棚を覗きながら言われた本を探した。本は大体大きさと種類によって本棚に納められているようで、言われた本が一体どんな内容のものなのかも分からない蓮見には、探すだけでかなりの時間がかかりそうに思えた。
蔵書を見るとなんとなく芸術関係のものが多いようだった。確かにいろんなところに絵画が飾られ、階段の手前には大きな彫像まであったことなどから、海堂がそういうものに関心があるということだけは分かった。
蓮見がようやくその本を探し出した時には1時間程経っていた。
ぶ厚く重いその本を抱えて海堂の部屋に戻ると、海堂は机の上にノートパソコンを広げて何やら熱心に打ち込んでいるところだった。
「こっちに持ってきてくれ」
海堂は顔を上げずにそう言い、蓮見は言われた通り海堂の傍に本を持っていった。
本を机の上に置くと、海堂が不意に蓮見の腕を掴んだ。そうしてパソコンから蓮見に視線を移すと、はっとして固まった蓮見に言った。
「……昨日の成果を見せてみろ」
海堂は蓮見の腕を取ったまま椅子から立ち上がり、身体を強張らせている蓮見をじっと見下ろした。
「なんだ?何か言いたそうな顔だな。言いたいことがあるなら言え」
「……あ、あの……その……」
蓮見には昨夜の海堂と門脇の、見てはいないがなんとなく妖しい様子が嫌でも思い出され、仕事と割り切っているつもりでも戸惑いや躊躇いがあった。
「……門脇さんに……悪いような……」
「門脇に?なんで、何がだ?」
海堂は眼を細めた。
「……昨日の夜……俺、聞いちゃったんです。……あなたと門脇さんのお風呂での会話……」
「ふん……それで?」
蓮見は海堂に眼を合わせられずに俯いた。目尻の辺りが赤らんでいる。
「……か、門脇さんは……あなたのあ、愛人じゃないんですか……?」
その言葉に、海堂はいきなり笑い出した。
「何を言うかと思ったら……」
「……だ、だってそうとしか……それなのに、俺にあんなこと……」
海堂は笑いながら蓮見の顎に手をかけ、顔を上向かせた。
「いいか、勘違いするな。この屋敷にある物も、いる者も、全部俺のものだ。俺は欲しいと思った物は何でも必ず手に入れる。そしてそれをどう扱おうが俺の自由だ。……門脇も、きみも含めてな」
切れ長の眼が蓮見を射る。
「きみが何を勘違いしたのか知らんが、門脇は秘書で仕事のパートナーだ。それ以上でもそれ以下でもない。まあ付き合いだけは長いがな。……身体の関係もあるが、あいつにとっちゃそれも仕事のうちだ。……これで安心したか?」
……海堂は門脇に対してそう思っているのかもしれないが、門脇の方は違うのではないか……なんとなく蓮見はそんな風に感じた。
それにまだ、蓮見の胸の内にはしこりのようなものが残っていた。それが何なのか、蓮見自身にもよく分からなかった。
「それから……もう一度言っておくが、きみも俺にとってはただの世話係だ。余計なことを考える必要はない。俺がしろと言ったことをすればいい。……分かったな?」
「……はい……分かりました」
海堂は蓮見の顎から手を離すと、蓮見を隣の寝室へ連れていった。ベッドは既にきちんとメイクされ、寝たような形跡も、昨日蓮見が零したものの名残もない。
「昨日と同じように全部脱いで、俺に奉仕しろ。門脇の手ほどきがどんなものだったか確認してやる」
海堂は薄く笑い、ベッドに腰掛けた。
「……は、はい……」
蓮見はスーツのボタンに手を掛けた。が、海堂はすぐにそれを制した。
「……いや、やっぱり気が変わった。俺が脱がせる」
海堂は言い、立っている蓮見のスーツに手をかけた。蓮見は黙ってその手の動きを見下ろした。長い指は器用に動いて上着のボタンを手早く外していった。ズボンからワイシャツを引き出し、それからネクタイの結び目を解きにかかる。こんな風に人に服を脱がされることも蓮見には子供の頃以来のことだった。気恥しくて顔を上げられなくなった。
ワイシャツを剥がされ、ズボンも下ろされた。足元に落とされたズボンから脚を抜くと、その脚も片足ずつ取られ靴下も脱がされる。パンツ一丁になった蓮見に海堂は言った。
「それは自分で脱げ」
「……は、はい……」
蓮見は一瞬躊躇って、それからパンツに手をかけ一気に下ろした。海堂には昨日も全身見られている。恥ずかしい気持ちは相変わらずだったが、なんとなく、諦念と義務感のようなものも感じていた。それに……どうせやらなければならないのなら、無駄に時間をかけたくなかった。
海堂は自分も上着を脱いでネクタイを外し、ズボンの前を寛げた。蓮見は海堂の足元に自ら跪くと、海堂の性器へと手を伸ばした。まだ変化のない雄芯を掌で撫でるように擦った。
門脇にされたことを思い出しながら、それを海堂に施していく……そう考えると妙に可笑しかった。海堂と門脇はそういう関係なのだから、門脇から直接されている行為の筈で、なんでそれを自分が間に入ってしなければならないのだろう、などと思ってしまう。……慣れていない俺がするより門脇にしてもらった方が余程上手いだろうに……。
海堂のずっしりとした肉茎を口に含んだ。まだ力のないそれに舌を絡める。舌を無理やり動かしていると唾液が勝手に溢れてきた。唾液と共に海堂を吸う。唇を窄め、扱く。しゃにむに奉仕を続けていると、次第に海堂の雄芯に力が漲り始めた。昨日は項垂れたままだったのに、と思い、蓮見は少し嬉しくなった。……嬉しい?……ふと自分の気持ちに気付いて面喰らう。……これは『仕事』だから、上手くできたら嬉しいのは当たり前なんだ。あくまでも、上手くしなくちゃいけないんだ……海堂を満足させなければ、借金は減らない……。
熱く、硬くなる肉茎は、蓮見の口内に充満していく。大きく開かされた唇の端から唾液が零れ、蓮見の顎を伝って落ちた。卑猥な濡れた音が薄暗い寝室に繰り返し響いた。
「……一回で随分進歩したな」
海堂が呟くように言った。心なしかその声に吐息が混じっている。
海堂の手が蓮見の頭を捉えた。押さえながら、緩急を付けるように、また角度を変えるように動かされる。
蓮見の口腔のそれは既に凶暴なまでに成長し、蓮見は息苦しさを覚えるほどだった。それを我慢しながら、唾液を溢れさせ、目を閉じて、蓮見は一心に奉仕を続けた。
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ライズ 6
「……もういい」
海堂は蓮見の頭を離した。蓮見は海堂の性器に手を添えたまま、怪訝そうに海堂を見上げた。……悦くなかったんだろうか、それとも何か気に障ったのか……そう蓮見が思っていると海堂はベッドから立ち上がり、自分のワイシャツのボタンを外していった。見る間に蓮見と同じように全裸になる。一糸纏わぬ海堂の肉体は、男が見ても惚れ惚れするような身体だった。服を着ている時はそれほど目だたなかったが、逆三角形に近い、引き締まった筋肉の束で覆われた鍛え上げられた肉体は、堂々たる威容を誇りながら蓮見の前に立ちはだかっていた。その中心で蓮見の唾液に濡れ天を衝く雄芯と相まって、何か一種の神々しいオブジェのようにも思えた。
海堂は蓮見の手を取り立ち上がらせた。蓮見は自分の痩せて貧弱な身体を、恨めしく恥ずかしいと感じ、海堂をまともに見ることができなかった。それを、蓮見が怯えていると受け取ったのか、海堂は言った。
「……どうした?……俺が怖いか?」
おどおどと視線を反らす蓮見の顎を取り、ぐっと顔を近付ける。
「……い、いえ……」
慌てて頭を振る蓮見に海堂は笑いかけた。間近で見る切れ長の眼は全然怖くなかった。……むしろ……どこか熱を帯びながらも澄んだ青空を思い起こさせた。
海堂は蓮見をベッドに横たえさせると、その上に被さってきた。
「門脇から教わったことはまだほんの入口だ。……今から本当の男の味を教えてやる」
そう言って、海堂は蓮見に口付けた。
昨日の、風のようなキスとはまるで違った。嵐のようだった。
激しく舌を吸われ、口内を縦横無尽に舐られて、蓮見は初めてのその感触に戸惑った。キスは……ただ唇同士をくっつけるものだとばかり思っていた。こんな……相手の中へ、奥へ、歯と歯がぶつかるほどに吸われ、絡められるものだったなんて……。歯茎を舌で擦られて、ぞくりと背筋が疼く。……何?今の感覚……。
何度も擦られた。その度にぞくぞくと背筋を何かが這い上ってくる。おずおずと海堂の舌に吸い付いた。されたように、舌を動かし頬の内側の粘膜を擦る。自分の息が荒くなるのを感じてますます戸惑った。……俺は感じてる?……キスされて、気持ち良いと感じてるんだ……。
海堂の温かい掌が頬や耳の辺りに触れていた。ゆっくりと撫でながら右手がだんだんに降りていく。唇を吸い合ったまま、その掌は蓮見の胸へと辿り着き、優しく揉むような動きに変わる。その指が蓮見の乳首に触れた。親指で丸く円を描くようにゆっくりとしかし確実に芯を捉えたその動きに、蓮見は思わず身を捩らせた。……まただ……またぞくっとした。今度は背筋だけじゃない……触れられた先っぽから……何か得体のしれない感じがする……。
蓮見の訳の分からない戸惑いをよそに、海堂は愛撫の手を休めることはなかった。男らしい強く激しい口付けとは裏腹に、指の動きは繊細で優しげだった。蓮見の米粒のような乳首を摘まんでは爪先で弾き、片方が熱く尖ってくるとさらにもう片方へと移動してじわじわと『変な感じ』を蓮見に与えた。
蓮見の唇から離れた海堂はそのまま蓮見をじっと見下ろした。乳首を弄られている蓮見の様子を窺い、身体じゅうがほんのりと赤くなった蓮見の反応に気を良くしたのか、今度は唇を蓮見の耳に寄せた。耳朶を軽く唇で挟みながら舐る。ぶるりと蓮見は震えた。……そこも気持ち良い。……たかが耳なのに……なんで?……ますますぞくぞくと背筋がざわめいた。
「……ふうん?」
海堂は蓮見の耳に息を吹き込むように囁いた。
「……門脇から聞いてはいたが……きみは本当にどこもかしこも感度が良さそうだな」
海堂の掌がゆっくり胸から腹へ、そして蓮見の薄い茂みへと伸ばされる。海堂に性器を弄られて初めて蓮見は自分が勃起していることに気が付いた。海堂の指がそこにかかり、やわやわと扱き立てる。
「んっ……」
蓮見は瞼を閉じ唇を噛んで声を押し殺した。海堂はふっと笑って唇を蓮見の首筋へと移動させた。そこを舐られ吸われて、性器への刺激と相まって蓮見の中の『変な感じ』ははっきりとした『快感』にいつしか変わっていった。
「ん……はっ……」
自然に呼吸が荒くなる。
海堂は首筋から胸へと唇を這わせていった。尖った乳首を唇で挟むと吸い上げた。
「ああっ!……」
つい声を上げてしまった。慌てて手の甲で口を押さえた蓮見をちらりと下から見上げて、海堂はさらに念入りに乳首を舐った。軽く噛まれる度に鋭い疼きが身体の中を走っていく。
……気持ち良い……何もかも……。海堂に触れられたあらゆる場所から快感が溢れ出してきた。自分ではもうどうしようもなく、何をしたらいいのかも分からなかった。
海堂は赤く濡れた乳首から唇を離し、またさらに下へと降りていった。蓮見の痩せた胸から窪んだ腹、浮き出た腰骨、そして脚の付け根に舌を這わせ、そこらじゅうを吸っていく。蓮見は身体じゅうが熱く感じてなすすべもなく、ただ自分の中の内なる快感に慄きながら唇を噛みしめシーツを掴むしかなかった。
やがて海堂は蓮見の勃ち上がった性器を口に含んだ。蓮見の身体が一瞬大きくびくんと震えた。海堂の口腔は熱く、技巧的な門脇とは違い一種情熱的な力強さがあった。唾液を全体に絡めるように扱かれて、蓮見は腰が揺れるのを我慢できなかった。痺れるような激しい快感がそこから急速に全身へと広がっていく。
「あっ!……ああ……」
強く吸われた。溢れだしそうな感覚を堪えてつい腰が引ける。海堂は唇を離し指だけで扱きながら下から蓮見を見上げた。
「気持ち良いか?……良いならそう言ってみろ。遠慮はするな。昨日はさんざん声を出していただろう?隣の部屋まで聞こえたぞ」
途端に恥ずかしさがこみ上げ、蓮見は顔を赤らめた。しかし再びその肉茎を唇で捉えられ、舐られると蓮見はもう口を手で塞ぐことも忘れ激しく喘いだ。
「いいっ……気持ち良い……はぁっ……あっ……」
「そうだ。それでいい」
海堂は満足げに言い、さらに強い愛撫を施していく。
蓮見は夢中で腰を動かした。もっと……と身体全体が快感を欲しがり強請っていた。俺はこんなに貪欲だったんだろうか……これまで経験のないことが嘘のように、いや、まるで自慰を覚えた猿みたいなものだ……。蓮見は自分とは思えないような喘ぎ声を立てながら、そんな風に思った。
「ああっ……んっ……いいっ!……」
激しく頭を振り、絶頂を追い求めた。それに呼応するように海堂の口淫は激しさを増し、吸い上げられ扱かれた蓮見の雄芯はびくびくと脈打ってはちきれんばかりに膨れていく。そして……大きな波が一気に蓮見を押し上げた。海堂の喉へぐいっと腰を打ち付けるように、身体を引き攣らせ、蓮見は爆ぜた。
せわしなく肩で息をしながら脱力している蓮見を見下ろし、海堂はわざとのように大きな音を立てて蓮見の放ったものを呑み込んだ。唾液と精液で濡れた唇を手の甲で拭うと、海堂はその手を枕元に伸ばした。プラスチックのボトルを手に取った海堂は、その蓋を外すと中の液体を掌に受ける。ゲル状の透明な液だった。少しの間それを片手の掌に乗せたまま、海堂はボトルを置き、蓮見の力のないままの脚に手をかけた。
「脚を開け」
蓮見はぼんやりと海堂を見上げ、ゆるゆると脚を曲げた。……この先何が自分の身に起こるのか、蓮見はまだ何も分かってはいなかった。
その粘り気のある液体を海堂は指に取り、その指をおもむろに蓮見の脚のあわいへと這わせた。そこが達ったばかりの性器ではなく、その後ろにある小さな窄まりだと気付き、蓮見は怪訝な顔で海堂を見上げた。そんなところ自分でも触ったことがないのに……何をするんだろう?
ゆるゆると指を丸く動かして、海堂は後孔の周りに万遍なく液体を塗りつける。くすぐったいような、熱いようなそんな曖昧な感覚がそこからじんわりと広がってきた。
液体を何度も指に取ってはそこに塗り込めれらるうちに、やがてぬるりとした感触がゆっくり蓮見の中へと侵入した。縁の辺りを擦りながら、海堂の濡れた長い中指は脱力しきった蓮見の中へさしたる抵抗もなく埋め込まれる。そうして海堂はその指を中で動かした。擦るような、押すような、探るような動きだった。同時に片方の手で蓮見の性器を握る。手に残っていた液体がそこに擦り付けられ、濡れた卑猥な音を立てた。蓮見は無意識に腰を蠢かせた。性器への刺激の方が強くて、後孔に指が入っているという感覚は途切れがちになる。……それが突然逆転した。
蓮見の奥へと侵入した海堂の指が、何かに触れた。そこを撫でるように押すように強く刺激され、蓮見は思わず腰を浮かせていた。がくがくと膝が震える。
「あっ!!……ああっ!!……な、なに?……」
「そうか。きみはここが悦いのか」
海堂は蓮見を見下ろしながら、さらに指でそこを圧迫した。ペニスへの刺激とは全く違う、内側から押し上げられるような、蓮見の今まで経験したことのない不思議な快感が押し寄せてきた。
「あっ……はぁっ……」
身悶える蓮見を眼を細めるようにして見つめていた海堂は、ゆっくりと中指を出し入れさせた。奥まった蓮見の快楽の源を確かめるように何度も往復させてはそこを擦り、さらに蓮見を悶えさせる。
そしてゆっくり中指を引き抜くと、そこに薬指も添えて再び蓮見の後孔へと侵入させた。先程よりももっとゆっくりと二本の指は狭い器官を進んで、既に覚えてしまった蓮見の奥を刺激した。強い刺激が蓮見の身体を否応なく震わせ、昂ぶらせる。
「ああっ!……な、んで?……こんな……い、いっ……」
せわしない呼吸の間に蓮見の唇をついて出たのは疑問の言葉だった。こんな……後ろの穴で感じるなんて……嘘だ……自分じゃない……蓮見はふるふると頭を振った。
海堂は薄く笑った。
「門脇にはこっちは教わらなかったんだな……俺が教える愉しみを奪われなくて良かった」
ライズ 7
海堂の指が後孔を離れた。そこはひくつきながらも綻んだままで、しかし蓮見はそんなことを思う余裕も気力もなかった。奥を弄られ、それが不思議な快感を呼び覚ましたことがあまりにも衝撃的で、自分で自分が信じられなかった。
海堂は蓮見の性器も離し、先程のボトルを再び手に取ると中の液体を自らの雄芯に塗り付けた。てらてらと鈍い光沢を放つそれを海堂は硬さを確かめるように幾度か扱き立て、半ば呆然と放心しながらその様子を見ている蓮見に四つん這いになるよう言った。蓮見はのろのろと重い身体を起こした。海堂に背を向け薄い尻を突き出す。いくらぼんやりしている頭でももうこれから何が行われるのかは明白で、蓮見は少しだけ怖いと思った。しかしそれは海堂が怖いのではなく、自分がおかしくなってしまうかもしれないという怖さだった。指を入れられただけで感じてしまった自分が怖かった。そこに海堂のあの大きくて硬い肉茎が入ってくる、そう思っただけで何やらざわざわとした慄きが胸の内に溢れて不安になってきた。
蓮見の葛藤をよそに、海堂は蓮見の腰をさらに高く上げさせた。中心を拡げるように蓮見の尻肉を両手で掴むと、緩く綻んだ窪みに充分にいきり立ったものを宛がった。
ぐっ、と蓮見の喉が鳴った。心臓がそこからせり出しそうになるかと思った。
指とは比較にならない太さのものが、蓮見の窄まりにぐいと押し入れられた。潤滑剤の助けもあってかそれは意外にすんなりと入ったように思えた。だが、それはほんの入り口の一番狭いところに亀頭の先が入っただけだった。すぐに蓮見は後悔した。
「だ、だめです!……そんなの入らないっ!……」
首を思い切り後ろに捻じ曲げて叫んだが、海堂は蓮見の腰に手を回すと静かに言った。
「苦しいのは最初だけだ。力を抜け」
そうして、腰を掴んだ手に力を込めるとぐい、と腰を進めた。みっしりとした肉茎が蓮見の窄まりをさらに押し広げる。
「ひあっ!!」
蓮見は思わず悲鳴のような声を上げた。痛いと言うよりも苦しい。極限まで拡げられた後孔は張り詰めてめりめりと音を立てるかのようだった。力を抜けと言われても、先程までの脱力感を自分で取り戻すことは到底できず、ただただ呼吸荒く、その腰を掴んだ手から逃れようとして身を捩った。
「離して!!……だめ、もういいです!!できない!」
「もう少しだ、我慢しろ。じきに悦くなる」
海堂はその手を緩めることはなくさらに深みへと抉るように腰を押し付けた。