饭饭TXT > 海外名作 > 《ライズ(日文版)》作者:未知【完结】 > ライズ(日文版).txt

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作者:未知 当前章节:15633 字 更新时间:2026-6-23 02:43

「……欲しい……もっと……!」

 掠れた声が蓮見の喉から溢れ出た。

 蓮見は、海堂から与えられる気が狂いそうな快楽に溺れ、囚われた囚人だった。激しく突き上げられ、悲鳴のような喘ぎを洩らし、恥も自分を偽ることも何もかもかなぐり捨てて、ただただその淫らな欲望を満たされたいと願う獣だった。

「……欲しいだけくれてやる」

 海堂の声だけが、蓮見の痺れて霞んだ脳裏に谺した。

 幾度も引き摺られ突き上げられて、蓮見は息も絶え絶えになりながらそれでも海堂を咥えて離さない。頭の芯は膿んでどろどろに溶け、ただその身を襲う狂おしい快楽だけがはっきりとした光明のように蓮見を突き動かしていた。自ら海堂の頸を引き寄せ、思うさま唇にむしゃぶりつき、舌を食み、腰を揺すり……それは傍から見れば、快楽に積極的に身を投じ、自分から強請っているようにしか見えなかった。いみじくも、さっき蓮見が思った、自分が海堂を征服しているのではないかということ、つまり……受け身である筈の蓮見が(確かにその身を抉られているのは蓮見の方だったが)快楽を貪り味わうことで逆に主導権を手中にしているという図式が出来上がっていた。だが今の蓮見にはそんなことは何も問題ではなく、それについて考えを巡らすこともなかった。ただこの身体じゅうから絶え間なく湧き起こる途方もない快楽の虜になり、我を忘れ、夢中になってそれをひたすら享受するのみだった。

 海堂の腰の動きが一段と激しくなる。小刻みな抽挿が繰り返され、蓮見は鏡に頭を押し付けそれ以上仰け反ることができないまま震えてそれを受け止める。体内の海堂が大きく膨らみ、狭い器官に充溢して、蓮見は息が詰まりそうなほどの激しい快感がそこから一気にせり上がってくるのを感じていた。そして同時に蓮見の奥まった部分がきゅうっと収縮する。海堂を食んで、搾り尽くすかのように……。

 荒い呼吸と共に小さく呻いた海堂はその身をぶるりと震わせた。引き締まった筋肉を強張らせ、蓮見の奥へ叩きつけるかのような熱い飛沫を浴びせた。

 力強く抱き締められた蓮見は、深く満たされた気持ちがした。

 ぬるりと海堂が離れると、白濁が内側から太腿を伝って滴った。ずっと海堂に抱えられていた右足は痺れたようになり、両足で立っていてもふらついた。海堂はシャワーの栓を開き、壁の鏡にもたれた蓮見の身体にお湯をかけていく。ぬるついた身体を優しげな手つきで洗い流しながら、蓮見を後ろ向きにして鏡に手を着かせた。

「下腹に力を入れろ」

 だらしなく綻んだ後孔が引き攣るような動きを繰り返し、やがて残りの白濁がどろりと溢れだした。海堂は指を入れ、掻き出すようにそこを丁寧に洗った。ようやく恥ずかしいと思う気持ちが戻ってきた蓮見は、鏡に映った自分が盛大に顔を赤らめているのを見ながら、海堂にされるがままでいた。海堂は洗い終わると蓮見の突き出した尻をぴしゃりと叩いた。

「終わったぞ。先に上がっていろ」

「は、はい」

 蓮見はよろけながらも海堂の傍をすり抜けてブースを出た。備え付けのタオルで身体を拭いていると、ノックも無しにいきなりシャワー室のドアが開けられた。

ライズ 11

「こちらだったんですね、夕食の時間になっても食堂にいらっしゃらないので探しましたよ」

 入ってきたのは門脇だった。蓮見ではなく、ブースの中の海堂に声を掛ける。

「お前ももう少し早く来たら、混ぜてやったのに」

 海堂がブースを出ながら本気とも冗談ともとれる口調で言った。

 蓮見は顔を赤らめながら慌ててタオルを腰に巻いた。しかし首筋や身体のあちこちにはしっかりと情事の痕跡が残り、門脇はそれにちらりと視線を向けた。

「……新人教育もほどほどになさって下さい」

 溜息を吐いて海堂にタオルを渡す。海堂はそれを受け取り身体を拭きながらにやりと笑った。

「もっと教えてくれと言われたんだがな」

「そ、そんなことは……」

 蓮見が慌てて首を振ると、海堂は笑いながら言った。

「言わなかったか?じゃああれは俺の空耳か」

 門脇は呆れたように頭を振り肩を竦めると、無言のままシャワー室を出ようとした。その背に海堂が声を掛ける。

「今夜店に出る。蓮見を連れていくからお前は休んでいろ」

「はいはい、承知いたしました」

 後ろも見ずにおざなりに返事をすると、門脇は足早に出ていった。その様子がなんとなく拗ねているようにも思え、蓮見は居たたまれないような気分になった。……いつもは門脇さんと一緒に行くんだ……なんだか俺が急に割り込んだみたいな……。

「門脇のことは気にするな」

 海堂はそんな蓮見の気持ちを察したのかそう言った。

「あいつにとっては残業手当が付かなくなるだけのことだ。きみは堂々としていればいい」

 本当にそれだけなのだろうか?何か釈然としないものが蓮見の胸中に残った。

 夕食後海堂と別れ一旦部屋に戻った。カジノなど行ったことのない蓮見にはどんな服装をすればいいのかもよく分からない。TVや映画などで外国のカジノの様子は見た記憶があるが、日本でもあんな感じなのかどうかは知らなかった。とりあえずその場面に倣い黒のスーツに白のドレスシャツに着替えていると、部屋のドアがノックされた。開けると海堂が立っていて、こちらも黒のスーツに同じく黒の蝶ネクタイをしていた。

「ドレスコードのこと言ってなかったな。男は全員蝶ネクタイ着用だ」

 そう言って海堂は手にしていた蝶ネクタイを蓮見の頸に付けた。最後に襟を正した指が蓮見の顎にかけられ、軽いキスがその唇へと落とされる。

「なかなか似合ってるな」

 突然のキスにどぎまぎする蓮見をよそに、海堂はすっと顎から手を離した。

「もう車の用意はできてる。行くぞ」

 最初に屋敷に来た時と同じ黒塗りのべンツが玄関前に停まっており、運転手が後部座席のドアを開けて待っていた。運転手は相変わらず無言で黒ずくめの恰好をしていた。

「こいつは島、運転手兼ボディーガードだ。無口で無表情なのはいつものことだから気にするな」

 島という男は長身だったが細身で、とてもボディーガードが務まるようには見えなかった。

 車は繁華街の方へ向かい、とある一軒のビルの前で停まった。そこは普通の貸しビルのようで、会社などの他に歯科医院とか美容室なども入っていた。車を横付けしたまま、3人で階段横のエレべーターに乗り込んだ。表示は1Fから12Fまであったが、海堂は鍵の束を取り出すと階数ボタンの下にある鍵穴に1本のキーを差し込んで回した。するとエレべーターはするすると下降し始めた。

「このビルも俺の所有だ。カジノは地下2Fにある。会員制だから知らない奴は入れないようにしてある」

 地下のあることすら何の表示もないし、確かに階段も1Fどまりだった。何か秘密めいた、違法な匂いがして蓮見は少し緊張した。

 エレべーターの扉が開くとすぐに目の前に広いフロアが広がっていた。赤い絨毯が敷き詰められ、まるでホテルのように燦然と輝く巨大なシャンデリアに眼を引かれた。テーブルには何人もの着飾った紳士淑女が飲み物を片手に笑いさざめきあって、カードやルーレットなどに興じている。中央には小さな噴水のようなものまであって、壺を持った天使の石像から水が流れ落ちていた。

 扉の傍に立っていた白いタキシード姿の従業員が海堂に一礼し、さっと飲み物の入ったグラスを差し出した。海堂はそれを受け取りそのまま蓮見に手渡した。落ち付かずにきょろきょろと辺りを見回している蓮見に声をかける。

「適当に見てきていいぞ。もし遊びたいなら金は出してやるが、負けたら借金が増えるだけだ。勝てる自信があるなら賭けてみろ」

 蓮見は滅相もないと慌てて首を振った。初めて見る光景に興味はあったが、ギャンブルは元々嫌いな質だった。そんな蓮見の様子に笑いながら、海堂は奥の方へと歩いていった。島と蓮見も後に続く。

 歩いていくといろんな人に声を掛けられた。大抵はしばらくぶりに顔を出したオーナーの海堂に対する挨拶だったが、中には蓮見に声を掛ける者もいた。

「きみ、見かけない顔だね。新入りかい?」

 でっぷりと太った脂ぎった中年の男は、あからさまに蓮見に色目を使ってきた。どう答えていいのか分からない蓮見がまごついていると、海堂は蓮見の横に立ち腰にさっと手を回して言った。

「失礼、こいつは俺の使用人でして。5千万、出してくれたら差し上げますがね」

 人をからかうような台詞だったが、5千万と聞いてその男は渋々離れていった。

 海堂はにやりと笑った。

「ふん……一晩100万だと言ったらOKしたかな」

 蓮見は何も言えずに俯いた。自分が人間ではなく品物か何かのような気がした。

 奥の方には、そこだけこの空間にはそぐわない頑丈そうな金属製のドアが付いた部屋があり、海堂がノックするとドアは内側から開いた。ドアを開けたのは50代くらいの、口髭をたくわえ白髪混じりの髪をぴったりと撫でつけた品の良さそうな紳士で、にっこりしながら3人を部屋に迎え入れた。 

「この店の支配人の倉田だ。こっちは俺の世話係になった蓮見だ」

 海堂が両方を紹介した。

「ようこそ、蓮見様、以後お見知りおきを」

 倉田はそう言って深々とお辞儀をした。

「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」

 蓮見も慌ててお辞儀する。

 海堂は部屋の中央に置かれたソファに座り、倉田も海堂に向き合うように座った。島が立ったままでいるので蓮見もなんとなくそれに倣い、部屋の中を見渡した。 8畳あるかどうかくらいの広さのそこには応接セットの他にはスチール製のキャビネットと天井までの高さの大きな金庫があるだけだった。テーブルの上には書類が置かれていて、海堂はおもむろにそれを手にとって眺めている。

「ふん……今月の売上はまあまあだな。会員も順調に増えているようだ」

「ありがとうございます」

 倉田が丁寧にお辞儀する。

「消防設備点検はどうなった?」

「はい、明後日午前中に業者が入ることになっております」

「わかった。結果は業者から俺に連絡を入れさせろ」

「承知いたしました」

「他には何かあるか?」

 海堂に聞かれて、倉田は少し考えてから答えた。

「……会員の田宮様のことなんですが……一週間ほど前にかなり酔ってこちらにお見えになりまして、他の女性のお客様に大変ご迷惑をお掛けしたようです。一応私からご注意差し上げたのですが、実は今夜も何人ものお友達をお連れになられまして……規約に則ってお断り申し上げました」

「そうか。あいつは金はあるがどうも人間的に問題があるようだな。俺からも注意しておく。もしこっちに何か文句を言ってきたり、また同じことをするようだったら即退会させろ」

「畏まりました」

 海堂は立ち上がり、蓮見を振り返った。

「仕事の話はこれで終わりだ。……きみは飲めるクチか?」

 いきなり振られて蓮見は面食らったが慌てて頭を振った。

「い、いえ……そんなに強い方では……」

 海堂はにやりと笑った。

「だが今夜は付き合ってもらうぞ。久しぶりに飲みたい気分だからな」

 海堂は広いフロアの一角にあるバーカウンターに蓮見と島を連れて座った。海堂はジンべースのアースクエイクというカクテルを、蓮見はモスコミュール、島はウーロン茶をそれぞれ注文した。バーテンダーがシェイクするのを見ながら海堂が口を開いた。

「きみは知らないだろうから言っておくが、一応この店は表向きは会員制の高級クラブ、つまり飲み屋ということになっている。なにしろカジノは日本じゃまだ法的に認められてはいないからな。よくバカラ賭博で捕まったとか聞くだろう?やっていることはパチンコやスロットと変わりはない筈だから近いうち合法化されると俺は思っているがな」

「じゃあ……もしバレたら……逮捕されてしまうってことですか?」

 蓮見の言葉に海堂は頷いた。

「だから会員には徹底的に緘口令を布き、会員になるには供託金を出させ信用調査をしてからということになる。さっきの話で出た田宮という会員は政治家のドラ息子でな、親の手前信用調査無しで会員にしたんだが、どうも危険だな。まあそいつが警察に駆け込んだとしても、証拠はないから痛くも痒くもない。今ここでやっているのはカジノの真似事で、実際に金が動くものじゃない。客は仮想の賭けをして愉しんでいるだけだ。月1回だけ、多額の金を賭ける本格的なカジノを開催する。そこに出られるのは会員の中でも特に優良な者に限られる」

 飲み物が前に出されると、海堂はそのグラスを眼の高さまで持ち上げた。

「……俺が捕まったらその時点できみの借金は帳消しだ」

 ふっと笑い、蓮見のグラスにグラスを当てる。澄んだ音が小さく響いた。

「だからと言って俺を売るなよ?」

 蓮見はなんとなく、海堂に試されているのではないかと思った。わざとのように弱みを見せて蓮見が逃げないかどうかを見定めようとしている、そんな気がしてならなかった。そうでなければ、何もそんなことを言う必要はない。

 蓮見はどう返事をしたらいいのか迷ってしまった。勿論借金が消えれば、蓮見はすぐにでも海堂の元を去るつもりだったし、ほとんど返済しないまま海堂が捕まるようなことになればそれはそれで蓮見には幸運以外の何物でもない。けれど捕まってほしいなどとは全く思えなかったし、かと言って海堂に忠誠を誓うような言葉もまた、言いたくはなかった。

 その夜蓮見はしたたかに酔っぱらい、島に担がれるようにして屋敷に戻った。

ライズ 12

 翌朝は門脇からの電話も無く、蓮見は寝坊し朝食の時間に間に合わなかった。しかし慌てて海堂の部屋に行くと簡単な朝食がテーブルの上に用意されてあり、どうやら海堂が蓮見の為にわざわざ準備させたものらしかった。海堂は自分の机でパソコンに向かい昨日の続きを打ち込んでいて、蓮見が部屋に入ると顔を上げた。

「もっとゆっくり寝ていても良かったんだが……二日酔いはしていないか?」

「は、はい、大丈夫です……すみません……」

 海堂はそれを食べろと言ってまた打ち込みを始めた。夜食のことといいこの朝食といい、海堂はとことん自分に体力を付けさせるよう気を配ってくれている……そんな風に感じて蓮見は少しこそばゆいような嬉しいような気持ちになった。

 蓮見が食べ終えるのを見計らって、海堂は立ち上がり言った。

「今から出かける。きみも一緒に来い」

「はい」

 一緒に玄関に向かうと、門脇がそこで待っていた。アルミ製のアタッシュケースを海堂に手渡す。

「行ってらっしゃいませ」

 お辞儀する門脇を残して外に出ると昨夜のように島が車のドアを開けて立っていた。蓮見は車に乗り込む前に島にも謝った。

「……昨日はすみませんでした。俺、随分酔っぱらって迷惑かけてしまって……」

 島は相変わらず無表情なまま、「いえ」とだけ言った。初めて聞く島の声は落ち着いた低いバスだった。

 車はさらに郊外の方へと向かい2時間ほど走り、平屋建ての古い民家の前で停まった。

 海堂は島と共に車を降り、蓮見も降りようとするとそれを制した。

「きみはここで待っていろ。すぐに戻る」

「……はい」

 二人は民家の中に入っていった。

 ここに来るまでの間に車の中で聞いたのは、この民家を解体することになってその所有者から見てほしいものがあると連絡が来たという話だった。壁の間から古い絵画が出てきたそうで、もしも値打ちのあるものなら引き取ってもらいたいということなのだろう。海堂によればそういうことは結構あることらしく、近い場所だけでなく全国各地や海外にも出向くとのことだった。海堂は画廊も持っていて、美術関係の取引は大抵はそこの支配人に任せているが、こうした目利きが必要なことに関しては自らが赴いて取引するらしい。論文や講演もすると言うし、その道では海堂の名は結構高名なのかもしれない、と蓮見は思った。

 やがて大きな風呂敷包みを抱えた島と海堂が車に戻ってきた。どうやら取引は成立したようだ。

 蓮見は車の中でその絵を見せてもらった。油彩画で田畑の広がる景色が描かれ、よく見ると小さく先程の民家も描かれてあった。今とはかなり違うその風景から、かなり古い作品であることだけは確かだった。裏には作者の名前のサインもあったが美術に詳しくない蓮見が見てもちっとも分からなかった。海堂はなんとなく嬉しそうな顔をして、その絵や作者についての蘊蓄を蓮見に語ったが、その絵にいくら払ったのかとかいくらで売れそうだとかそういう話はしなかった。

 その足で画廊に向かうのかと思いきや、海堂はその絵を持たせて島だけを向かわせるようだった。途中にあった大きな公園の前で蓮見と一緒に車を降りた海堂は、携帯を取り出してどこかにかけた。

「俺だ。今、島に絵を持っていかせた。鑑定は……そうだな、T大の若槻にでも頼め。クリーニングと鑑定が済んだら、早川さんの所に持っていけ。言い値で買ってくれるだろう」

 相手は画廊の支配人らしく、そして海堂の頭の中では既に絵を売る相手も決まっているようだ。

 電話を切ると海堂は公園の中へと歩いていった。蓮見も慌ててその後を追った。公園の入口に大きな立て札があって、この中で骨董市が開かれているらしい。結構な人出で混雑しており、蓮見はどんどん先に行く海堂にはぐれないようついていくのがやっとだった。数ある陶磁器や家具などには眼もくれず、海堂が足を止めたのは、仏像や観音像、それに七福神だとかが並んでいる区画だった。値踏みするようにそれらをじっと見回して、やがて一つの彫像に近付いた。それは40センチ程の高さの風神の木像で、海堂はしゃがみこんでそれを見ていたが不意に立ち上がり、その区画の担当者を呼んだ。

「これは一体だけか?雷神と対になっている筈だが?」

「すみません……雷神の方はさっき売れてしまったんですよ」

「……そうか」

 海堂は肩を竦めると、そのままその区画を出た。

「……何も買わないんですか?」

 蓮見が聞くと海堂は頷いた。

「あの風神像は欲しいと思ったが、雷神像がなければ売れないからな。大抵は二つ一緒に買うものだが、雷神だけ買っていった奴の気が知れない」

 それから蓮見に言う。

「何か欲しいものがあったら買ってやるぞ。借金は増やさないから心配するな」

 そうして今度は時間をかけて一つ一つの区画をじっくりと見て回った。蓮見にはとりたてて欲しい物はなかったが、海堂がいろんな物を手にとっては蓮見に勧めるのでしまいには断るのも気が引けてきた。

「せっかく買ってやると言ってるんだから何か選べ」

 海堂が呆れたように言う。

「……じゃあ……さっきの風神像を買って下さい」

 蓮見は言った。

「部屋に飾ります。俺には価値が分からないから、宝の持ち腐れかもしれませんけど……」

 海堂は眼を細めて蓮見を見、楽しそうに笑った。

 風神像を買ってもらったはいいものの、持ち歩くには大変な大きさと重さだったことに気付いて蓮見は慌てた。だが海堂はこともなげに担当者に売約済の札を掛けさせ「後で別の者が取りに来る」と言ってその場を後にした。

「……す、すみません……俺ちっとも後のこと考えてませんでした……」

 蓮見が項垂れて言うと、海堂は可笑しそうに笑っている。

「そうだろうと思ってた。どうせ俺が売るために買ったとしても同じことだ、後で島に運ばせる」

 広い公園の全部の区画を歩き回り、さすがに疲れてきた蓮見を連れて海堂は公園を出た。道路端には既に黒塗りのべンツが待機していて、海堂はそれに近寄ると運転席の島にさっきの場所と品物を告げ運ぶように指示をし、そのまま乗らずにまた歩き出した。てっきり屋敷に帰るものとばかり思っていた蓮見は拍子抜けし、まだ歩くのかとぐったりもした。

 5分程歩いた先にその辺りの郊外らしい景色にはあまり似つかわしくない洒落たレストランがあって海堂はそこに入っていった。

「これはこれは海堂様、よくいらして下さいました」

 入るなり、きちんとした身なりの年配のオーナーらしき男性から声を掛けられお辞儀された。

「たまたま近くまで来たんでね。予約はしていないが……」

「ご覧の通り海堂様のお席はいつも空けておりますよ。さあどうぞ」

 奥まったテーブルに案内され、海堂に続き蓮見の椅子も引かれてそこに腰かけた。洋風の手入れの行き届いた中庭に面した大きな窓がすぐ傍にあり、眺めがとても良かった。

 海堂は店主に今日のお薦め料理を尋ね、それから蓮見に食べられないものはあるかと聞いた。蓮見が「特にありません」と答えると、海堂はそのお薦めのコースとワインを選んで店主に注文した。

「疲れたか?」

 店主が離れると海堂が聞いた。

「はぁ……少し……」

 蓮見の返事に海堂は肩を竦めた。

「本当にきみは体力が無いな。……しかし美術品や骨董品に興味もなさそうなきみに付き合わせたのは悪かった。今度からはまた門脇と来るか……」

「そ、そんなことはないです!いろいろ見れて楽しかったですし……あんな高いものまで買って頂いて、ありがとうございました」

 一瞬蓮見の脳裏に、門脇もこんな風に海堂に何か買ってもらったりしたのだろうか、などという考えが浮かんだ。蓮見の頭の中では未だに門脇は海堂の愛人なのではないかという思いが強く、そこに割り込んでしまったような居心地の悪さが残っている。海堂はあっさりそれを否定したし、自分も門脇の代用などではなくてあくまでも仕事なのだと自分に言い聞かせていたが、それを考える度に何かもやもやとしたものが胸中にわだかまっていくのもひしひしと感じていた。

 食事をしながら、海堂は蓮見の家族のことを聞いてきた。

「きみの父親はどんな人だった?」

「……それが……亡くなったのが俺がまだ幼稚園の頃で……全然覚えてないんです。顔だって写真でしか……」

「そうか。……じゃあそれからずっと母一人子一人か」

「はい。……母には随分苦労をかけたと思います。大学も出たのに碌な所に就職もできなくて、今でも心配かけてるんじゃ……」

 そこまで言って、蓮見ははっとした。すっかり忘れていたが、携帯が使えなくなってから母親と全然連絡を取っていなかった。海堂の屋敷にいることも会社を辞めたことも知らないで、もしかしたら音信不通になってしまったことで余計心配を募らせているかもしれない。

「あの……そう言えば母に連絡を……」

「大丈夫だ。きみが家に来た日に、門脇に連絡させた。家の住所や電話番号も伝えてある。勿論借金のことは言っていないから安心しろ」

 蓮見はその言葉にほっとした。借金のことだけは母親には知られたくなかった。

「ありがとうございます……」

 安心すると同時に、海堂の家族のことも知りたくなった。

「……怜司さんのご両親は……?」

「俺か?……俺には親はいない」

「えっ……」

 海堂は心持ち硬い表情をしていた。

「物心ついた時から俺は独りだった。……他の子供には親がいるのになんで俺は独りなんだろうと思ったこともあったが……そのうち慣れた」

 それは……施設か何かで育ったということなのだろうか。

「小さい頃はそれで苛められたり仲間外れにされたりもした。劣悪な環境に嫌気がさして、俺はそこから這い上がろうと必死だった。……今の俺からは想像つかないだろうがな」

 蓮見はなんとなく分かるような気がした。海堂からは常に強い意思のようなものを感じていた。何か大きな目標があって、それに対して黙々と進んでいくような、そんな感じがずっとあった。

「……今の俺には屋敷にいる連中が家族のようなものだ。……きみも含めてな」

ライズ 13

 親がいないということが幼い子供にとってどんなに大変で心細いものか、片親しかいない蓮見にも想像できた。海堂がどれほどの苦労をして今の裕福で何不自由のない生活を手に入れたのかと考えると蓮見の胸は軋んだ。 そして、血の繋がりの全くない、ただの使用人たちを家族のようだと称した海堂は……立派だと思うと同時に、とても哀しかった。それは、人を心から愛したり愛されたりすることを知らないまま、砂上の楼閣の上に立っているようなものなのではないだろうか。勿論、蓮見は海堂に救われたことに感謝しているが、それははっきり言って金銭の関係にすぎない。他の者がどういう気持ちであの屋敷にいるのかは知る由もないけれど、多かれ少なかれ蓮見と同じようなものなのではないか。他で仕事を探すよりも、そのまま屋敷で働いた方が割が良いとか、そういう理由であの屋敷に留まっている者もいるのではないか。だとすると海堂の言う『家族』とは程遠い存在でしかない。そんな、見せかけだけの家族は、本当の家族ではない。

 蓮見は胸が痛み、苦しくなった。思わず顔が歪んでしまい、それを見止めた海堂は怪訝な表情を浮かべた。

「どうした?急に黙り込んで」

「……いえ……なんでもありません……」

 蓮見にはそう答えることしかできなかった。

 その夜更け、蓮見は風呂からあがってから、さんざん躊躇した挙句に海堂の寝室のドアをノックした。100万の為とは言え、海堂に抱いてくれと言うのは非常に恥ずかしく、しかしそれ以外に自分が海堂の寝室へ行く理由は無い。ノックの返事はなく、蓮見はおそるおそるそのドアを開けた。寝室の中は真っ暗で脱衣所のドアを閉めると何も見えなくなった。ようやく少しずつ眼が慣れて、蓮見は中央にある大きなベッドに近付いた。

 海堂は眠っているようだった。穏やかで規則正しい寝息が聞こえる。

 わざわざ起こすのもどうかと思うが、100万も惜しい。蓮見はどうしようと迷いながらその寝顔を見下ろした。引き締まり精悍な海堂の顔がある。胸元まで掛けられた毛布は呼吸と共に緩やかに上下してその下の逞しく強靭な肉体を思い起こさせた。

 ……やっぱり、今夜はよそう……蓮見は踵を返した。

 その腕がぐいっと掴まれた。

 振り返ると海堂はうっすらと眼を開け、蓮見を見つめていた。

「す、すみません……起こしてしまって……」

 慌てて謝った。

「……部屋に帰ります……お休みなさい」

 そう言ったが海堂は手を離さなかった。

「……いいのか?100万欲しいんだろう?」

 蓮見の胸中を見透かすように海堂は言った。

 尚も躊躇う蓮見に海堂はベッドの少し端に寄り毛布をめくり上げた。驚いたことに海堂は裸だった。

「そのつもりで来たんだろう? 俺はどっちでも構わないが」

 どっちでも構わないと言われたことで、蓮見の意思は固まった。蓮見はそそくさと海堂が空けた場所に潜り込んだ。

「そうだ。遠慮はいらない。……感情じゃなく、仕事だと思えばいい。そうすれば恥ずかしいとか惨めだとか考えなくて済む。俺を満足させることに専念しろ。…… 尤も、やってる最中は何も考えられなくなるだろうがな」

 ……そう、これは俺の仕事なんだ……蓮見は自分に言い聞かせ、毛布の下でパジャマのボタンを自ら外し、ズボンと下着も脱いで足元に押しやった。海堂に向き合うと、そろそろと手を伸ばして海堂の胸に触れた。海堂は何も言わず、されるがままになっている。ここから先、どうしていいのかよく分からなかったが、自分がされたことを思い起こし、蓮見はおずおずと海堂の唇に自分の唇を押し当てた。自分よりも少し薄い海堂の唇は柔らかく温かかった。たどたどしく口中へ舌を差し込んだ。キスの仕方も分からないまま、果たしてこんな感じでいいんだろうかと内心思いながら、歯茎や頬の裏の粘膜へと舌を這わせる。その舌が強く吸われた。途端に甘い痺れが蓮見の中を走る。絡められる舌と舌の感触にぞくりと身体が震え、思わず自分も海堂の舌に吸い付いた。かーっと全身が熱くなってくる。触れている海堂の胸から強くて早い鼓動が伝わり自分もまた鼓動が高まっているのを感じた。

 熱い息が洩れる。胸を弄っていた蓮見の手は海堂によって下へとずらされた。少しだけ硬くなった海堂の雄芯へと導かれ、蓮見はそれを握り込む。海堂は温かい掌で蓮見の頬を撫でた。柔らかく、優しい感触に蓮見は思わず頬を擦り寄せる。熱い舌は互いの口腔を絶え間なく浸食し合い、まるで蜜のように蕩ける快感を蓮見に与えていた。

 蓮見の手の中では海堂の雄芯が熱く息づき出した。硬く屹立し、ズキズキと脈打つそれをさらに扱きながら、蓮見自身も昂ぶっていた。

 海堂は枕元に腕を伸ばした。小さな箱を手に取りその中から何か取り出した。蓮見はそれをAVの中で見たことがあった。ピンク色のつるんとした楕円形の器具。コードの先にスイッチのようなものが付いていて、海堂がそのスイッチを入れると、ヴヴヴ……という思ったよりも大きな音が寝室に響いた。蓮見は少しだけ不思議な感じがした。その器具は単に振動を与えるだけで、それ自体がくねくねと動いたりするものではない。AVの中の女優はそれを押し当てられただけで快感に喘ぎ悶えていた。……こんなものが気持ちいいのか? 半信半疑だった蓮見は次の瞬間愕然とした。

「うあ!!」

 海堂はそれを蓮見の乳首に押し当てた。敏感な先っぽに電流が走ったような気がした。細かな振動が、想像できない程の途方もない刺激となって蓮見を襲った。直撃する快感にびくびくと身体が勝手にしなる。海堂は眼を細め、蓮見の反応をじっと眺めていた。ぎゅっと噛んだ唇がわなわなと震え出し、触れられてもいない蓮見の性器は充血して完全に勃ち上がった。

「くっ……ふあっ……」

 耐えきれずに唇から喘ぎが洩れる。

 しばらく蓮見の反応を愉しんだ海堂はようやくそれを乳首から離すと、今度は勃ち上がりひくついている蓮見の性器へと押し当てた。

「ひあ……っ!!……や、やあっ!……」

 蓮見の身体が大きく跳ねる。乳首以上に敏感な雄にその振動は痛い程だった。ぴくぴくと開閉を繰り返す先端からはひっきりなしに先走り液が滴り落ちすっかり濡れそぼっていた。雁から括れへと当てられて、その衝撃に思わず腰が引ける。蓮見は唾液が顎へと垂れる程嬌声を上げ続けた。

 蓮見の先走り液に濡れたそれを、海堂はさらに会陰からアヌスへと這わせていく。絶え間ない振動は蓮見の身体の奥まで痺れさせた。これを中に入れられたら自分はどうなってしまうのか……蓮見には到底想像ができなかった。ただもうその強い快感に捕らわれ、身悶えるばかりだった。

 海堂はもう片方の手で潤滑剤を取り、その蓋を口で開けるとそれを蓮見の脚の間へと垂らした。ひんやりとした感触に蓮見は一瞬びくんと身を竦める。海堂は液体を絡めるように延ばしながらローターを徐々に窄まりの中へと潜り込ませていった。埋め込まれたローターは最初はすぐに押し戻されるが、ある一定のところまで入れられると後は勝手に奥へと潜り込んでいく。あまりの刺激に蓮見は無意識に涙を流していた。雄芯は張り裂けそうにその存在を主張し、ほんの少しの刺激でも弾けてしまいそうだった。海堂の目の前に全てを曝け出し、がくがくと震えたまま、蓮見は陶然としてその衝撃的とも言える快感に翻弄された。

 海堂は枕元に移動した。膝立ちになると、蓮見の顔の横へ屹立を近付ける。蓮見は震える手でそれを掴み、唇を寄せた。もう充分すぎるほど硬く熱いそれは、蓮見の口腔を我が物顔に占領した。舌と唇で愛撫していても、その僅かな身体の動きが蓮見の内部に伝わりさらに激しい快感を次々と生んでいった。海堂の指が蓮見の乳首に伸びる。赤く膨らんだそれを捻り潰されるようにきつく弄られた。

「んんああっ!!」

 気が狂いそうな甘美な痺れが深奥へと突き刺さり、蓮見はその一瞬で達していた。触れられていない蓮見の性器から白い粘液がたらたらと溢れ出し、身体は痙攣を繰り返した。

 尚も絶え間なく蓮見の奥を食むローターの振動は、達したばかりの鋭敏すぎる肉体には強すぎる。海堂は腕を伸ばすとローターのスイッチを切った。そうして再び蓮見の足元へ移動すると、ひくひくと痙攣する綻びへ屹立を宛がった。

「ま、待って……中にまだ……」

「分かってる」

 海堂はそう言って、ずいと腰を進めた。

「あああっ!」

 ローターよりも大きくて太いものがみっしりと蓮見の中を圧迫していく。痙攣する内部を深く抉られ、蓮見は身悶えた。その痙攣を愉しみながら海堂は緩やかな抽挿を開始した。潤滑剤の濡れた音が限りなく淫靡に響く。

 緩やかではあるが、その奥にはローターが埋め込まれたままで、海堂の肉茎はさらにそれを奥へと押しやった。そして、スイッチが入れられた。

「ひああぁっ!!」

 蓮見の身体が跳ね上がる。先程よりも奥まったところに振動を感じ、さらには海堂の屹立が狭い器官を充溢しているのだ。

 ……気が狂う……蓮見は思った。

 凄まじい快楽が俺を狂人、いや廃人にしてしまう……まるで麻薬みたいに……。

 蓮見の性器からまた粘液が溢れ出した。いつ果てるともしれない断続的な絶頂が何度も蓮見を襲っていた。

ライズ 14

 涙に濡れ震えながら、犬のような苦しげな短い呼吸を繰り返す蓮見を見下ろして、海堂は蓮見の身体を折り曲げて圧し掛かる。蓮見の濡れた頬に指を這わせ、後から後から零れ落ちる涙を優しげに拭った。

「……きついか?」

 激しい快感に苛まれ蓮見は返事もできずそれ以上見動きすらもできなかった。ただ張り裂けそうに大きく眼を見開いて海堂を見上げることしかできない。身体は熱く、最早意思とは切り離された何か自分ではない別個の生き物のような気がした。

「……だがきみが望んだことだ。……潤……」

 海堂の声音は指と同じで優しかった。

「……俺を受け入れろ。全部だ……」

 また涙が溢れた。それは生理的な現象にすぎないのか、それとも感情的なものなのか、蓮見には分からなかった。

「……代わりに俺にもくれ。……何もかも」

 海堂に与えられるものなど蓮見には何もない筈だった。だが海堂はそう言い、頬に唇を寄せ溢れ出る涙を吸い取った。

「……潤……きみが欲しい」

 緩やかだった抽挿はいつしか激しさを増していた。蓮見はがくがくと揺さぶられるまま、激しく熱い渦の中に巻き込まれていった。ごうごうと流れる奔流に呑み込まれ、抗う術も、またその意思も全て放棄して、ただそこに浮かんだ一枚の木の葉のように、蓮見は海堂から与えられる快楽という見えない鎖に操られ翻弄されるばかりだった。それは恰も自分が海堂という大河の一滴になったかのようで、蓮見は自分が頼りなく儚いものにしか思えなかった。しかしそれと同時に、すぐそこにある危険で甘美な性の誘惑と、まるで強く激しく燃え盛る炎のような海堂に、ひどく惹かれていく自分も感じていた。

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