──携帯から、悲しいくらい弱い声が聞こえてきた。
「……俺……不安なんだよ。E高校に行けないことより、芽衣と離れることがつらいんだ──」
痛い程にわかる気持ち……。
でも、これはどうにもできない現実なんだ。
赤い糸 電話を切ると、なんとも言えない悲しさが襲ってきた。
「はぁ……」
溜め息をつき、携帯をポケットにしまう。
たかチャンの気持ちは、すごくわかった。
でも……少しだけ、重かった。
E高校の受験のために、必死に勉強した姿……。
たかチャン知ってるのに──
それとも彼女なら、彼氏のために合わせるものなの?
アタシの選択……、間違ってたのかな?
「芽衣ー! できたわよっ☆」
「あっ──はぁい! ! 今行く! !」
リビングから、お母さんの声がする。
──今日のご馳走は、すごかった。
お刺身、ステーキ、エビチリ……。
そして、ホカホカのお赤飯とオードブル。
アタシの好きな物ばかり……。
食べきれない程に食卓に並んでいた。
「たくさん食べてね!」
「──うんっ☆」
これだけ作るのに、何時間かかったんだろ……。
お母さん、ありがとう☆
お母さんの優しさと嬉しそうな顔を見て、アタシの気持ちは固まっていった。
アタシの選択は間違ってない。
お母さんの笑顔を、泣き顔にはできないもん──
赤い糸 翌日から、たかチャンとの学校生活は終わりに近づいていった。
合格発表の日以来、たかチャンの前で高校の話はタブーになっている。
誰かが決めた訳じゃないけど……、なんとなく、話しづらかった。
休み時間、みんなはいつも1組に集まっていた。
自然と溜り場になっているウチのクラス。
こんな風に集まれるのも、あと少しかぁ。
──そう思うと悲しい。
涙が出そうになって、必死に押さえ続けた。
「芽衣のこと、見ててくれよっ!」
「おぅ」
「美亜に任せて☆」
たかチャンは、最近よくミツと美亜にこんなことを言う。
アタシにも「浮気するな」とか「毎日会おう」とか、
心配したり、束縛することが増えた。
離れることが、不安なんだろうな……。
「大丈夫☆ 大好きだから!」
そう言うと、たかチャンは子供のようにニコッと笑う。
そんなたかチャンが可愛くて……、アタシはヤキモチを焼かれることが嬉しかった。
愛されてるなぁ……。
──そう思い、浮かれていたんだ。
──そう、
高校に入学するまでは。
赤い糸 監視
3月17日──―
アタシは中学を卒業した。
ボロい校舎
だっさい制服──
嫌だったはずなのに……。
離れるとなると、すべてが愛しくなる。
そして、3年間の思い出たちが頭をよぎって──
「そ、卒業……グスッ……したくないよぉ……」
アタシは卒業式の後、教室で号泣してしまった。
クラスの所々からも、泣き声が聞こえてくる。
配られたばかりの卒業アルバムに、ポタポタと涙がこぼれ落ちて……。
染みを作っていった──
「はいっ」
そんなアタシに、そっとハンカチを手渡してくれたたかチャン。
──たかチャンとの学校生活も、今日でもうおしまいだ。
高校でつらくて泣いたって、側でなぐさめてくれるアナタはいない……。
アタシはハンカチをギュッと握り締め、止まらない涙を拭い続けた──
先生からの最後の話も終わり、もう帰宅できる時間になった。
名残りを惜しむように、生徒たちは教室に残り続ける。
写真を撮る男の子、
卒アルに寄せ書きを書き合う女の子、
そして……。
赤い糸 ポンポンッ
下を向いて泣き続けるアタシの肩を、誰かが弱くたたいた。
……誰?
たかチャン?
涙でグチャグチャの顔をあげると──
そこには、気まずそうな顔をした樋口サンがいた。
アイちんと一緒に、アタシをイジメてたクラスメイトだ。
──なんで?
「……あ、あの」
「あたし……イジメてごめんねっ!」
樋口サンは、バッと頭を下げる。
「……ほんと後悔してる。ごめんね──」
頭を下げたまま謝る姿に、アタシの胸にはポォーッとあたたかいモノが流れていった……。
「頭、上げてっ……もういいから──」
樋口サンは、恐る恐る顔を上げる。
アタシは卒業アルバムの最後のページを開いた。
「ここに寄せ書きしてほしいな」
「──え!? いいの?」
「うん……」
〈ありがとう。頑張ってね。樋口絵里〉
白紙だったページに書かれた言葉。
「あの……アタシも──」
「芽衣チャン……」
アタシと樋口サンの様子を見ていたのか、次々とアタシの席にクラスメイトが集まって来た。
このとき──
アタシは苦しかったイジメから解放された。
赤い糸 アタシの中学3年間は、ほんとにいろいろあった。
恋をして、友情を育んで……。
苦しいこともあったけど、友達に支えられて乗り越えてきた。
この校舎で、たくさん笑い合ったね。
そして──
たかチャンとも、この校舎で出会った。
いっぱい思い出が詰まった、中学時代とこの校舎。
楽しかったこと。
つらかったこと。
今となれば、すべてが宝物だよ。
──いつものように、1組には美亜とミツと拓弥クンと酒井が集まって来た。
「じゃあ、行こうか」
「俺んちに集まろうぜっ! !」
みんなはゆっくり廊下を歩いて、それぞれの想いを胸に、校舎を出た。
これから酒井の家で卒業パーティだ。
高校に入ったら、こんな風に集まることも減るだろう。
今日が中学生でいられる最後の日。
たくさん、最後の思い出を作りたい──
赤い糸 酒井の家に着くと、大量のお酒が待っていた。
「準備いいじゃん! 飲もうぜぇー!」
「おぅ! !」
受験があったから、アタシたちにとって久々のお酒。
今日はお祝い!
たくさん飲んじゃおう! !
1時間もすると、みんなはすでにできあがってしまった。
たかチャンとミツはふたりで語り合い、美亜は酒井に絡んでいる。
拓弥クンは、「優梨を呼べーっ」って大騒ぎ。
……まだ好きだったらしい。
アタシもお酒がまわり、楽しくなってきた。
「拓弥ぁー! めめしいっ! ! 会いたいならコクればぁ!?」
酔っぱらった美亜は、酒井から拓弥クンに矛先を変えた。
酒井も一緒になって、コクれって騒ぐ。
拓弥クンには悪いけど、今、優梨はナツの部屋にいる。
4月から県外に行ってしまうナツ……。
優梨は、少しでも長く一緒にいたいと言っていた。
そう思うと、アタシは幸せなのかもしれない。
たかチャンと高校は違っても、いつでも会える距離だから……。
赤い糸 この日は夜までみんなで語り合った。
あと1年くらい中学生でいたかったな。
もう少しでバラバラになるなんて、実感わかない……。
そして翌日──
中学生のような、高校生のような、微妙な春休みが始まった。
中学は卒業してるけど、まだ高校には入学していない。
プータローになった気分だ。
──今日は、朝から姉の春菜が家に来ていた。
合格祝いに来てくれたらしい。
「これ、ありがと☆ 受験、4勝にしといたよ!」
アタシはご利益のあったお守りを返す。
春菜はお守りを受け取りながら、意外なことを口にした。
「芽衣、ほんと良かったね! ! お父さんも、すごく喜んでるんだよ」
「──え?」
「酔って帰ってくると、いつも芽衣に会いたいって言うんだから……」
……お父さんが?
お父さん、アタシに会いたがってくれてたの?
「今度さ……お母さんとお父さんとウチら4人で、ご飯でもいかない?」
思ってもみなかった春菜からの誘い……。
アタシは返事に困ってしまった。
赤い糸 お父さんには、会いたいけど、会いづらいよ。
どんな顔して会えばいいの?
──お互いにそうだよね。
一度開いてしまった心の距離は、いくら親子でも埋めにくい。
それに、アタシとお父さんは実の親子ではないから、余計にそうだ。
アタシはお父さんの言葉で、とても傷ついた。
死んでしまいたいくらい、傷ついた。
それが本心ではなかったとしても──
「ちょっと考えさせて……」
「──だよね。ごめんねっ。アタシ、また前みたいに4人で暮らしたくて……芽衣の気持ちをあんまり考えれなくて、ごめん」
お姉ちゃんの気持ちは、よくわかる。
住み慣れた街を離れて、悠哉とも離れて……、きっと、寂しいんだよね。
赤い糸 ピンポーン
「──あっ? 来たぁ?」
春菜のテンションが急に上がった。
笑顔でリビングを飛び出し、玄関に走って行く。
「はぁ……」
お父さんの話が終わって良かった。
……でも、誰だろ?
「おじゃましまーす」
「どーぞっ!」
──! !
悠哉の声だった。
最近は連絡も取っていなくて、新年の挨拶以来の久々の再会。
昔は毎日会ってたのにな……。
ガチャ
リビングの戸が開き、ふたりが入って来た。
悠哉はニコッと笑い、片手に持っていた紙袋をアタシに差し出した。
「これ、進学祝い!」
「うっそ……ありがとー! ! ……てゆうか、久しぶり☆」
「そうだな! たまには連絡しろよ」
「悠哉こそ、ねっ☆ これ、開けていい!?」
紙袋の中をのぞくと、アタシの大好きなショップの包みがあった。
何だろぉー?
ガサゴソと包みを開く。
──中にあったのはパスケースだった。
赤い糸 「うわぁ? ちょー可愛いっ! !」
「春菜から、芽衣はこの店の小物が好きだって聞いてさぁ。女物の服屋に入るなんて、マジ恥ずかしかった!」
「──嬉しいっ!」
ギュッ☆
照れ笑いをする悠哉に、アタシは抱きついた。
「お……おいっ!?」
いきなり抱きつかれた悠哉は驚いている。
春菜は少しすねた顔をして、「あたしもー」ってふたりに抱きついてきた。
リビングではしゃぐ3人。
……幼馴染みって、ほんとにいいね。
数ヶ月会わなくたって、会えばまた──
すぐに仲良しだ☆
中2の頃まで、アタシは悠哉が好きだった。
悠哉とつき合った春菜に嫉妬して、避けていた時期もあった。
だけど……今はもう大丈夫。
今日久々に3人で集まって、それがよくわかったんだ。
しばらく経つと、
「これからデートしてくるねっ?」
そう言い残し、春菜と悠哉は家を出て行った。
だいぶ前に別れの危機を迎えたふたりだったけど、今は仲良しらしい。
アタシもたかチャンに会いに行こうかな?
ふたりに刺激されちゃったよ?
赤い糸 連絡を取ると、たかチャンは家にいた。
悠哉からもらったパスケースに小さい頃の3人の写真を入れ、バッグにしまう。
あたたかくなってきた春の道をゆっくり歩き、たかチャンの家に向かった。
たかチャンの家に着くと、玄関前でたかチャンは待っていてくれた。
「どうしたの?」
「いや……チョットな」
言葉を濁すたかチャン。
「家、入っていーい?」
「──え!? ちょっと待って! !」
──?
なんで?
訳がわからないまま、アタシは家の前で待たされた。
5分ほど経った頃、
「ちょっと、ここにいてっ……」
たかチャンはそう言い、ひとりで家の中に入って行ってしまった。
何かあったのかな?
ガチャ
「もう大丈夫! 待たせてごめんな!」
「……うん」
アタシは違和感を感じながらも家にあがった。
そして……
部屋でイチャつくうちに、そんなことはすっかり忘れていた。
「俺、通信と夜間の願書出したよ!」
「そっかぁ? 受かったらいいね!」
「もう後がないから落ちれねーよ」
笑い合うふたり。
赤い糸 そういえば……、
「これ、見てー?」
アタシはバッグからパスケースを取り出した。
「これ、何?」
「悠哉にもらったの。可愛いよね!」
「──は?」
たかチャンの笑顔が消えた。
えっ……。
何かしちゃった?
たかチャンはアタシの手からパスケースを取り、3人の写真を見る。
「これ……芽衣と姉ちゃんと悠哉センパイ?」
「……うん。何か、怒ってる?」
「別に……」
たかチャンは立ち上がり、本棚からアルバムを1冊持ってきた。
そこには、楽しそうに笑うアタシたちの笑顔がある。
ピリッ
たかチャンは、アルバムから1枚の写真を取り出した。
「この写真入れといて! ほかの男の写真は持ち歩くなよ!」
「……」
たかチャンに渡された写真は、アタシとたかチャンがキスしてる写真だった。
「悠哉は男ってゆうか……幼馴染みだから──」
「でも、男だろ?」
「……」
キレた話し方……。
なんで機嫌が悪いのか、よくわからないよ?
アタシは複雑な心境のまま、パスケースから写真をはずした。
そして、代わりにふたりの写真を入れた。
赤い糸 たかチャンはパスケースに収まったふたりのキス写真を見て、また笑顔に戻った。
「こっちの方がいいじゃん☆」
「……そうだねっ」
言い返すこともできず、アタシはたかチャンに合わせた。
……ただのヤキモチよね?
それにしても、あの顔は怖かった。
それから7時頃までたかチャンの部屋で過ごし、アタシは帰宅した。
家に帰ると春菜がパジャマを着て、リビングでくつろいでいた。
「今日、泊まるから?」
「ほんと!?」
お父さんと出て行ってしまって以来、一度も家に泊まらなかった春菜。
嬉しくて、顔がほころんでいく……。
その夜、ふたりでいろいろ語り合った。
「最近どうなの?」
「んー……まぁ、順調かな?」
「お母さんに迷惑かけてないよね!?」
「──はい!」
「なら、良かった」
春菜は笑い、ベッドに横になった。
アタシも春菜の隣に寝ころぶ。
赤い糸 「お姉ちゃんこそ、どうなの?」
「アタシ? 普通かなぁー。勉強もやってるし、仲良しの友達もできたし」
「……悠哉は?」
「えっ!?」
いきなり真っ赤になり、動揺する春菜。
そしてふたりはお互いの恋を話し、気づけばそのまま眠っていた──
翌日の昼、春菜はお父さんの所に帰って行った。
「また来るね」
そう言って玄関で靴を履く春菜の姿に、思わず涙が出てしまった。
お母さんも泣いている。
仲良く家族4人で暮らしていたときを思い出した。
「もう! 泣かないでよっ」
春菜はそう言い、笑う。
……だけど、目からは大粒の涙が溢れていた──
赤い糸 数日後──
たかチャンは、夜間の高校に合格した。
皆で集まって、合格祝いをしてた。
「たかチャン、おめでと! 進路が決まって良かったねっ!」
美亜の言葉に照れるたかチャン。
「ほんと良かった! 来月からはみんなで高校生だね! !」
「そうだな」
たかチャンは、ほんとに嬉しそうな笑顔をしていた。
……良かった!
アタシは心からそう思った。
4月になり、皆は新しい春を迎えた──
それぞれ新しい道へ進んで行く。
アタシも、新しい制服に袖を通していた。
「お母さん、今日は9時半から入学式だからね!」
母に念を押し、家を出た。
今日はE高校の入学式だ。
悠哉にもらったパスケースに定期を入れる。
──そして、
たかチャンにメールを打った。
〈これから学校に行ってくるね!たかチャンも遅刻しないようにっ☆〉
今日はたかチャンの高校も入学式。
高校は違うけど、ふたりは同じ日に新しい一歩を踏み出した──
赤い糸 美亜とふたりで電車に乗り、E高校へ向かった。
高校へ着くと、知らない顔の人ばかり……。
気まずいな。
ふたりはクラス表を見て、自分のクラスを探す──
……あった!
1年1組だ。
──しかも
美亜と一緒じゃん! !
「一緒だ! !」
「ほんと!? ちょー嬉しいっ! !」
美亜と同じクラスになったのは中1以来で、ふたりはクラス表の前で大騒ぎしてしまった。
教室に行くと、出席番号順に席が決められていた。
美亜は前の方で、アタシは後ろの方の席。
「さすがに席まで隣にはならないかっ」
美亜は少し落ち込んだ様子で、席に着いた。
アタシも緊張しながら、決められた席に着く。
……なんかヘンな感じ。
ドキドキするなぁ。
アタシの左隣は、いかにもガリ勉な男の子だった。
──そして、右隣はまだいない。
どんな人なんだろ?
期待に胸を膨らませた。
赤い糸 ガラガラ
教室の扉が開き、いかにも遊んでそうな男が入って来た。
その男は座席表を見て、アタシの右隣に座った。
「……ヨロシクね」
「……」
軽く流された挨拶。
……なんだ、コイツ。
少しイラついたけど、なんとか押さえた。
男は不機嫌そうに、携帯をピッピッといじり始めた。
感じ悪い……。
男の姿をジッと見る。
視線に気づいたのか、その男はチラッとこっちの方を見て言った。
「──なんだよ」
「別に……」
「あのさぁ……アンタ芽衣って子がどの子か知ってる?」
「──!?」
いきなり出た自分の名前──
なんでコイツが!?
……芽衣って名前はめずらしいから、きっとアタシのことだよね?
なんでアタシを探してるの?
「……アタシかも。アタシ、芽衣ってゆうんだぁ」
「マジで!? 陸のカノジョ?」
陸って、たかチャンの名前だ。
この人……、たかチャンの知り合い?
「陸って、高橋陸だよね?」
「そうそう!」
「アタシ、彼女だよ」
赤い糸 「──マジで!?」
そう言って、驚く男。
アタシがコクンと頷くと、男は急に人なつっこい笑顔になった。
さっきまでの不機嫌な顔とは大違い……。
そして男は、片手をアタシに差し出した。
「俺、羽柴海斗! よろしくな! ! 陸とは小学生からの友達なんだよ」
「──そうなの?」
差し出された手を握った。
海斗はまた、ニコッと笑った。
──!
よく見ると、この男はたかチャンと雰囲気が似てるかも。
笑った顔とか、服装のセンスとか……。
今さっきイラついたはずなのに、急に親近感を持ってしまった。
「アタシ、芽衣! よろしくね! !」
「こちらこそー」
ガラガラッ
「おはようございますー! ! 今日から君たちの担任になる町田です」
いきなり前の入り口が開き、秋葉系の男が入って来た。
このクラスの担任らしい。
「……Aボーイじゃね?」
海斗がボソッと言う。
「確かにっ」
ツボが同じで、思わず笑ってしまった。
海斗は思ったより、いいヤツなのかもしれない……。
意外と気が合いそうだ。
赤い糸 町田先生の挨拶が終わると、皆は入学式のために体育館に向かうことになった。
アタシは美亜のもとに駆け寄った。
「美亜! 一緒に行こっ」
「──てゆうかさぁ? 隣の男の子とさっそく仲良くしてたねぇ☆ しかも、かっこよくない?」
美亜はからかうように、アタシの腕をつついた。
……完全に勘違いされてる。
「あの人は、たかチャンの小学生時代からの友達なんだって! だから、怪しくないよ!」
「え? マジ?」
美亜は驚きながら、少し前を歩く海斗を見た。
「アタシはたかチャン一筋だから、高校生になっても浮気はしませーん!」
アタシは、美亜に宣言する。
……だって、たかチャン以上の男なんていないもん?
──そう思い、ニヤついてしまう。
入学式はすぐに終わり、アタシたちはまた教室に戻って来た。
アタシは美亜を海斗の席に連れていき、さっそく紹介した。
「親友の美亜! たかチャンとも仲良しなんだよっ」
「よろしくっ?」
いつもより1オクターブ高い美亜の声。
タイプなのがバレバレ。
思わずアタシは、恥ずかしくなってしまった。
赤い糸 「海斗クン、友達になってよ! ! 番号とメアド交換しよ」
ポケットから携帯を取り出す美亜。
初めて見た積極的な美亜の姿に、アタシは驚いてしまった。
「いーよ!」
「やったぁ!」
美亜は嬉しそうに、声をあげた。
そして、アタシにも話をふってきた。
「芽衣も隣同士なんだから、交換したらー?」
「──あっ! そうだねっ。赤外線しよーよ!」
隣同士だし、海斗はたかチャンの友達だ。
これからのことも考えて、仲良くしていきたい。
──だけど……、
「陸にボコられたくないから無理でしょ!」
海斗はそう言って、気まずそうに笑った。
「芽衣チャンの監視してくれってスゲェ頼まれて……俺のほかにも監視役がいるから、浮気とかはやめといたほうがいいよっ☆」
……は? 何それ?
呆気にとられるアタシと美亜。
「陸さぁ、スゲェ心配してんだよ」
「……そうなんだ」
「ヘンな男が近寄ったらブッ殺すとか言ってたー。陸って顔広いから、E高のヤツにもかなり回ってんじゃない?」
赤い糸 ……なんか、やりすぎじゃない?
そう思うのはアタシだけかな?
「まぁ……愛されてる証拠じゃないのかなぁ?」
美亜は苦笑いをしながら言った。
取ってつけたような、フォローの言葉だった──
その日の放課後、アタシと美亜は高校の近くのマックにいた。
「マックって、ほんとどこにでもあるんだねぇ」
「確かにっ! 中学でも溜り場はマックだったし、高校でもマックになりそうだね」
大好きなポテトをつまみながら答える。
周りの席には、同じ制服の学生がたくさんいた。
──だけど、皆見たことのない人ばかり。
「早くE高に慣れて、友達作らなきゃね!」
「だねー。初登校の感想はどう?」
「──どうって……なんか、たかチャンの話聞いたら気まずくなってきたかも……」
──監視してる。
海斗の言葉を思い出した。
「美亜はどう思う? 海斗は隣の人だし、たかチャンの友達じゃん? だけど、番号交換が無理で、アタシ知らない人たちに監視されてるらしいし……それ聞いて、なんか嫌だったんだぁ」
赤い糸 美亜は話を聞き、コクコクと頷いた。
「確かに微妙だよねっ。監視されなくても芽衣は浮気なんてしないし……心配しすぎだね!」
「でしょ!?」
思わず身を乗り出してしまう。
やっぱ、美亜もそう思ってたんだ……。
「これから大変そうだよね。男となんかあったら、ほんとボコりにきそう」
「──ッ! ! マジ笑えないよぉ……」
ほんとにそう。
──誤解を招く行動なんて、絶対にできない! !
「一応……今日海斗と話したことをたかチャンに言っとこっと。なんか嫌だなぁ~」
「──あっ! ついでに海斗のことを聞いといてほしいっ! !」
「?」
なんで?
もしかして……。
「海斗のこと、気になるの?」
「──えっ!? ……バレたぁ? 海斗クンにマジになりそうかもっ?」
「──やっぱり!? そんな感じ、したんだぁ☆」
美亜は恥ずかしそうに顔を赤くした。
そして、照れ隠しに指でクルクルと髪をいじる。
その姿があまりにも可愛くて……。
「協力するからっ!」
アタシは心の底からそう思った。
赤い糸 溜め息
アタシの言葉を聞き、美亜は嬉しそうに笑った。
「ヤバいっ。恥ずかしいかも……」
「アタシに任せといてっ! バッチリ聞いとくから!」
「──お願いっ! !」
パチンッ
美亜は両手を合わせ、頭を下げた。
「アタシさぁ……こんなドキドキしたのって、久々なんだよね。いつも年上の男と、適当に遊んだりつき合ってたから……」
「……」
恋愛に関しては、アタシより何枚も上手に見えた美亜。
そんな美亜が一瞬、不安そうな顔をした──
「……アタシの中学のときの話、海斗クンには言わないでもらっていい? 年上の男と遊んだりしてるって思われたくないかも──」
「……美亜」
美亜はアタシが思ったより、海斗に真剣なのかもしれない。
知られたくない過去──
それは、アタシにもある。
美亜や優梨が黙っていてくれるから、たかチャンはアタシの汚い過去は知らない。
「わかってる。アタシもそうだから……」
「──ありがと」
美亜はやっと安心した顔をした。
そのとき──
?~?~?~
アタシの携帯が鳴った。
赤い糸 「噂をすれば……」
──たかチャンからの電話。
アタシは複雑な気持ちで電話に出た。
「……はーい」
「おぅ! 入学式、どうだった?」
「まぁまぁかなぁ~。そっちは?」
「友達や知り合いがけっこーいたよ。クラスに俺みたいに受験に落ちたヤツがいて、仲良くなった! ! ほかにも働いてるヤツとかいろいろなヤツがいたよー」
たかチャンは楽しそうに話す。
受験失敗のショックは、多少は残っているだろう。
だけど、前向きに夜間で頑張ろうとしてるのが伝わって、嬉しくなった。
「楽しそうで良かったね! !」
「芽衣は? ヘンな男とかと知り合いになってないよな?」
「大丈夫っ! ! ……そうだ! 海斗クンに会ったよ! !」
「マジ!? 海斗は俺の小学生からの友達なんだよ☆」
たかチャンは嬉しそうに海斗の話を始めた。
小学生の頃の思い出や、最近もちょくちょく遊んでいた話──
パサッ
美亜がマックの紙ナプキンをアタシの目の前に置いた。
……?
何か書いてある。
『彼女いるか聞いて』
美亜はまたパチンと両手を合わせた。
赤い糸 そして、美亜は口パクで「お?ね?が?い」と言う。
──よしっ! 任せといてっ☆
「そういえば……海斗って、彼女いるの?」
「は!? なんで?」
いきなり切り出した質問に、たかチャンは露骨に嫌な声を出した。
「えっと……ただ、気になっただけなんだけど──」
「ふーん……」
ごまかそうとするが、たかチャンの声は、明らかに不機嫌になっていく。
どうしよ……。
ヘンな風に思ってる?
アタシは顔をしかめた。
そんなアタシの姿を、美亜は心配そうに見ている。
「……どうなのかな?」
恐る恐る、もう一度聞いてみた。
パサッ
また美亜から紙ナプキンが置かれた。
〈美亜が気に入ってること、言っていいよ!ごめんねっ〉
たかチャンの不機嫌な様子に気づいたのか、美亜は申し訳なさそうな顔をした。
赤い糸 「あ……あのね。美亜が気に入ってるから知りたいんだって」
「──!? それなら早く言えよーっ。海斗は女いねーよっ! !」
たかチャンは美亜の気持ちを知ると、すんなりと教えてくれた。
──良かった。
アタシは美亜の目を見た。
美亜は不安そうに見つめてくる──
そんな美亜に笑顔を向けて……、
「そうなんだぁ。彼女いないんだ! ──美亜、いないって?」
アタシはたかチャンに答え、美亜にそう伝えた。
「ヤッタ!」
美亜は小さく叫び、ガッツポーズをした。
翌日──
美亜の猛アタックが始まった。
美亜は日に日に海斗を好きになっていってるようだ。
少しずつ、ふたりは仲良くなっていく。
そんな親友の姿を見て、アタシはほんとに嬉しかった。
美亜に幸せになってもらいたいよ。
両想いになって欲しい……。
「アタシがもし海斗クンとうまくいったら、ダブルデートしよう!」
最近の美亜の口グセはこれ。
ほんとにそうなったらいいのに……。
実現したらいいな──
赤い糸 その一方で、アタシは複雑な思いで毎日を送っていた。
原因は、たかチャンの束縛──
それは、日に日に強まっていった。
「毎日、登校前と学校が終わった後は電話して」
「放課後にどこか行くなら、誰とどこに行くか連絡して」
「男とあまり話さないで」
数え出したらキリがない程の約束をさせられた。
──そして、一番アタシを困らせた約束は……、
『毎日、会う!』
中学のときにアタシからしてしまった約束だった。
──アタシは夕方5時になると、必ず地元の駅前にいた。
ここがたかチャンとの待ち合わせ場所。
「おぅ!」
毎日笑顔で迎えてくれるたかチャン。
これは、最初はとっても嬉しかったことだった。
大好きな人に迎えられて地元に帰るなんて、すごく幸せなことだと思ってた。
駅の構内のエスカレーターで立ち止まる時間すらも、もどかしくって、走りながら改札に向かっていた。
だけど──
さすがに毎日はキツかった。
赤い糸 高校にも慣れ、クラスメイトたちからの遊びの誘いが増えた。
だけど、アタシのタイムリミットは、毎日4時40分。
この時間の電車に乗らないと、5時までに地元まで帰れない。
だから、友達と少しの時間しか遊べなかった。
……一度遅刻したとき、たかチャンはとても不機嫌になった。