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作者:日-芽衣/译者:王欣 当前章节:15367 字 更新时间:2026-6-23 05:27

本当に、本当にごめんなさい──

赤い糸destiny アタシの足は、自然とアッくんの家に向かっていった。

あの絵馬や神主の話……あんなにアタシの心を掻き乱したモノたちが、気になって仕方なかった。

どんな想いで、あなたはあの絵馬を書いたの?

──アッくんのマンションに着くと、アタシはアッくんの携帯を鳴らした。

「久しぶり。どうした?」

久々に聞くアッくんの声に、嫌になるほど胸が締めつけられる。

「遅くにごめん……。今、家にいる?」

「いるけど……」

「下にいるの。降りてこれない?」

「──もう11時だぞ!? どうしたんだよ。少しなら大丈夫だから、今から降りるからな」

電話を切ると、思わず溜め息がこぼれた。

アタシは鏡を取り出し、涙のあとを拭う。

そして簡単に化粧を直した。

「芽衣!?」

マンションのオートロックのドアが開き、アッくんがアタシに駆け寄ってきた。

久しぶりに見たアッくんは、髪型が変わっている。

そして、少し困ったような顔でアタシを見ていた。

赤い糸destiny 「遅くにごめんね……」

「びびったよ。今、ちょうど麻美が風呂に入ってるから」

「──え? 麻美チャン来てるの?」

鼓動が早まり、胸が痛んだ。

……彼女なんだから、当たり前じゃん。

なんでアタシはそんなことで傷ついてんの?

「うまくいってるんだね……」

「まぁ、そんな感じ!」

「あの……」

アッくんがチラッとマンションを振り返る。

麻美チャンのこと、気になるんだね。

絵馬の話なんて、するべきじゃないのかな?

神主の勘違いで、やっぱりあれは友だちとして書いた物なんじゃないの?

アタシ、なんでこんなところに来ちゃったんだろ……惨めな気持ちになってくるよ。

幸せそうなアッくんに、アタシは何を聞きたかったの?

「用事は?」

「あ、あの……」

どうしよう……。

言うべき?

「……どうした?」

「あ、あのね……。や、やっぱりまた今度話すよ! 麻美チャン来てるのにごめんねっ!」

「芽衣?」

赤い糸destiny 頭の中が混乱して、

「ごめん! じゃあまたねっ!」

アタシは、アッくんに手を振って歩き出した。

何をしたいのか、自分でもよくわからない。

「──芽衣っ!」

アッくんの声とともに、強引に腕を掴まれた。

「……何かあったんだろ? そうじゃなきゃ、オレの家まで来ないだろ?」

「アッくん……」

「話してみろよ」

ねぇ……なんでわかるの?

アタシ、本当は言いたくて仕方ないんだ──

「アッくん。神社の絵馬、見たんだ。神主さんとも……」

「──ッ」

「あれは……あれは、なんだったの?」

アッくんは掴んだ腕を離し、アタシから視線を外した。

「ねぇ……答えて?」

「それは……ごめん。オレ、絵馬なんて知らないから」

えっ? どうして──

「ごめんな。麻美が風呂からあがるから、帰ってくれないか……」

「えっ、なんで? なんでそんな……」

「ほんと、ごめん──」

パタパタパタ──

「ねぇ……ふたりして何してるの?」

赤い糸destiny 足音が聞こえ、不安そうに問いかける声がした。

「麻美……。もう出たのか?」

「………。何してるの?」

「あ、あの……」

麻美はアタシたちを交互に見る。

そして、表情が少しずつ悲しみや怒りに変わっていった。

「どうゆうこと?」

「……あのね、アタシが聞きたいことがあって──」

「なんで夜中に? まだふたりは繋がってるんじゃないの!? ねぇ、アツシ! どうゆうことなの!?」

麻美の声は荒だち、次第に息も上がり始める。

「ごめん! でも麻美が考えるようなやましいことはないから……」

「信じらんない!! もういい!! あたし帰るからっ」

麻美はそのまま、夜道を走り出してしまった。

「麻美! 走るな!! 体がっ──」

後を追い、アッくんも走り出す。

……どうしよう。

麻美は点滅する横断歩道を渡り、走り去っていった。

後を追って走るアッくんは、赤信号に阻まれる。

道路にはたえまなく車が流れ、渡ることができなかった。

小さくなる麻美の背中──

赤い糸destiny アッくんは、アタシを置いて、とっさに麻美チャンを追っていった。

アッくんの大切な人は、やっぱりアタシじゃない。

アッくんが愛している人が、アタシの訳ないじゃない………どうしよう。アタシのせいだ。

アタシは、アッくんに駆け寄った。

「本当にごめん。アタシが来たせいで……」

「……いいよ。芽衣は悪くない。外に出てきたオレが悪いんだ」

アッくんは、落ち着きなく答える。

話しながらも、視線はずっと遠くを見つめていた。

麻美の姿はまったく見えなくなっている。

車のヘッドライトにアッくんの顔が照らされた。

「あ……」

アッくんの顔は、血の気が引いて、真っ青になっている。

そんなに麻美チャンのことを?

「ごめんね……」

謝ることしかできないよ。

そんなアタシに、アッくんは意外なひと言を言った。

「……もし時間があるなら、一緒に麻美を探してくれないか?」

「アタシが? 余計に麻美チャンが怒るんじゃないの?」

「それでもいいから……」

赤い糸destiny 「それでもいいって、どうして? アタシと浮気したって勘違いしてるのに、アタシが行ったら余計に──」

「そんな次元の話じゃないんだよ! 麻美は……麻美は走れない体なんだ」

アッくんは言葉を止め、心配そうに顔をしかめる。

……え?

それって、どういうことなの?

「……心臓が悪いんだ」

「……嘘……嘘でしょ?」

「こんな嘘つかないって!」

車の流れが止まり、信号が青に変わった。

アッくんは走り出し、夜の闇に消えていく。

アタシも……アタシも行かなきゃ!

「──あっ」

気持ちに反して、アタシの足は動かなかった。

追いかけなきゃ。

そして、麻美を探さなきゃいけないはずなのに。

ガタガタと足が震える。

目の前の信号が点滅して、赤いライトが光った。

「どうしよう。アタシがあのとき……」

絵馬の話なんかしないで、帰っていれば──

麻美に何かあったら……。

「どうしよう……」

その場に立ちつくし、両手で顔を覆った。

赤い糸destiny 空からはポツン……ポツン……と、無情にも、冷たい雫が降ってきた。

雨は体を濡らし、体温を奪っていく──

不安と寒さで、足の震えは全身に回り、

「──ッ……」

アタシは震えに耐えきれず、その場に座り込んだ。

何回も信号の色が変わり、行き交う人も少なくなってきたころ──

「あの……具合悪いんですか? 大丈夫ですか?」

頭上から声をかけられ、アタシは上を見た。

「大丈夫?」

傘をさした中年の男性と目が合った。

「………すいません。大丈夫です」

その声で我に返り、アタシはゆっくりと立ち上がった。

こんな所でしゃがみ込んでる場合じゃない。

顔に垂れる雨水を拭い、男性に頭を下げた。

麻美チャン……。

パチッ──

顔を叩き、麻美の消えた方に走り出した。

赤い糸destiny 深夜0時を回った住宅街は、シンと静まりかえっている。

風と雨の音しか聞こえない。

……麻美チャン、どこにいるの?

当てもなく、アタシは住宅街を歩き回った。

──いくら探しても、麻美の姿はどこにもない。

雨は次第に強まり、アタシの体を打ちつけていく。

「……クシュン。寒っ……」

初夏の深夜はとても冷え込んでいた。

雨に濡れ、余計に寒さを感じる。

?~?~?~

「あっ……」

鞄の中で、携帯が鳴り始めた。

アタシは近くにあったスーパーの軒下に入り、急いで鞄を開ける。

携帯にはアッくんの名前が表示されていた。

ハンカチで手と耳を拭き、急いで通話ボタンを押す。

「麻美チャン見つかった!?」

お願い……見つかったって言って──

「今、麻美から電話がきたんだ。親に迎えに来てもらって帰ったって言ってて」

「良かったぁ……」

アタシは顔をほころばせ、その場にしゃがみ込んだ。

……本当に良かった。

無事だったんだね。

「今、どこ?」

「アッくんの家の近くのスーパーだよ」

赤い糸destiny 「そっか……。雨に濡れただろ?」

「もう帰るから大丈夫! 今日はほんとごめんね。麻美チャンにも謝っておいてほしいな……」

少しだけアッくんと話して、アタシは電話を切った。

「クシュン……」

寒さで体がブルッと震える。

風邪ひきそう……。

アタシは財布から小銭を取り出し、自動販売機であたたかい紅茶を買った。

紅茶の缶を頬に当て、家に向かって歩き出す。

「……! ……い!!」

遠くから声が聞こえてくる。

「……い、待てよ!! 芽衣っ!!」

……えっ?

まわりを見渡すと、後ろから傘をさして走ってくる人影があった。

近づくにつれ、人影の顔がはっきりしてくる。

「……なんで?」

その人はアッくんだった。

「芽衣っ! ちょっと待って!!」

アッくんは、どんどんアタシに近づいてくる。

赤い糸destiny よく見ると、手にはバスタオルを抱えているようだ。

「め、芽衣っ……風邪ひくからっ! ハァ、ハァ……傘に、入って」

アッくんはバスタオルを差し出し、アタシの頭上に傘を動かした。

「大丈夫だよ! 帰るだけだからっ……」

「大丈夫じゃねーよ。唇が青くなってる。はい、これ!」

無理やり、バスタオルを渡される。

「……ありがとう」

受け取ったバスタオルからは、懐かしいアッくんの匂いがした。

ふかふかのバスタオルに顔をうずめる。

「クシュン、ふぇっ……クシュン……」

「──え! 風邪ひいた!?」

「……だ、大丈夫っ!」

アッくんは、心配そうにアタシを見つめた。

「……オレんちで着替えてきなよ。風邪ひくって」

──ダメだよ。

アッくんには麻美チャンがいるんだから……。

「このままじゃ帰せないよ。風邪ひくぞ!」

「いい、帰るから……」

アタシに、優しくしないで──

赤い糸destiny 夢と現実

これ以上優しくされると、アタシはもっとアッくんを好きになってしまう。

本当は、傘を持ったアッくんが来てくれたとき、すごく嬉しかった。

麻美チャンがいるのに……。

アタシのせいで、こんなことになってしまったのに、アッくんの優しさが、嬉しかった。

「今日は本当にごめん。帰るから……」

ギュッ

「行くぞ」

アッくんがアタシの手を握る。

ダメだよ……。

これ以上優しくされると、気持ちが止まらなくなってしまう。

好きになったらいけないってわかるのに、気持ちが強まってしまうの。

だけど……。

アタシは、繋いだ手のひらをほどけなかった。

ほどかなきゃいけないってわかってるのに……。

体は正直だった。

繋いだ手のひらと胸が、ポカポカとあたたかい。

ガチャ──

「どーぞ。そのまま風呂に入って。服はバスルームに用意しとくから」

今日だけ。

もう、こんなことしないから……。

アタシは自分に言い聞かせ、アッくんの家に入った。

赤い糸destiny 脱衣所で服を脱ぎ、バスルームに入る。

バスルームにはピンクの歯ブラシが2本と、ブルーの歯ブラシがあった。

……麻美チャンのかな?

そう思うと、胸が痛む。

アッくんはただの親切だと思うけどアタシはそんな軽い気持ちじゃない。

アッくんのそばにいれることが、嬉しいんだ──

でも、そんなことを思うのは今日でやめよう。

これ以上、最低な自分になりたくない。

麻美チャン、ごめんね。

ボディソープを泡立て、体を簡単に洗う。

首……腕……そして、背中に手が回ったとき──

たかチャンの顔が、頭によぎった。

アタシのお尻には、今も蝶が羽ばたいている。

陸という名前は、別れてすぐに美容外科で消したけど、今日の蝶は、悲しそうに羽ばたいているように見えた。

バイト……もう、やめよう。

たかチャンをこれ以上、悲しませたくない。

そして、アッくんに対しても……。

これで最後にしよう。

中途半端なアタシのせいで、たかチャンも麻美チャンも傷つけた。

もう、やめよう──

赤い糸destiny こんな中途半端な気持ちは、やめなきゃいけない。

ねぇ……そうだよね?

鏡の中の自分にそう問いかけた。

お風呂から上がり、用意されたアッくんの服を着た。

そして、アッくんの部屋に向かった。

ガチャ──

「お風呂、ありが──」

部屋の中を見て、アタシの言葉は止まってしまった。

あのころと……まったく変わらない部屋。

まるで中学時代に、タイムスリップしてしまったようだ。

昔のように、ベッドに腰かけたアッくんがアタシに笑いかける。

「服、でかいよなっ」

「……ううん。だ、大丈夫」

懐かしさに胸が締めつけられる。

そしてアタシは、体が覚えているのか、いつも座っていたソファーの端に座った。

「そこ、いつも座ってたよな……」

「そうだっけ……」

……覚えていてくれたんだ。

嬉しくなる気持ちを抑え、何もなかったように振る舞う。

「オレ、何かあったかい飲み物買ってくる。風邪ひかないようにドライヤー使えよ!」

赤い糸destiny アッくんが部屋を出て行くと、体の力がいっきに抜けていった。

懐かしさと悲しさといろいろな気持ちが入り乱れ、ソファーに寝転びながら部屋を見渡した。

「ドライヤーも、昔と同じ場所にあるんだね……」

そう呟きながら、起き上がってドライヤーを手に取り、鏡の前に移動した。

「……やっぱりアッくんじゃん」

アタシの視線は、鏡の前で止まる。

そこには、あの神社のお守りが置いてあった。

「このお守り、病気が治るように買うお守りじゃん……。アッくん、ありがと」

お守りを手に取り、髪の毛を乾かす。

「ファァーッ……もう1時過ぎじゃん…」

乾かし終わるとソファーに戻って体育座りをした。

お守りを握り締め、来るのは最後になるこの部屋をじっくりと眺めて……。

ゆっくりと瞼を閉じた。

瞼の奥に、中学時代のアッくんの顔が浮かぶ。

次に、たかチャンの顔も……。

アタシはそのまま、深い眠りについてしまった──

赤い糸destiny 夢なのか……現実なのか……よくわからない──

ガチャ──

「ココア……てき……けど──」

まどろむ意識……。

そして、アッくんの声──

「……っ……い?」

「……んー……」

優しい声が聞こえる。

んー……。

チュッ──

……?

チュッ──

……えっ。

おでこと唇に、柔らかい感触が──

「……い……好き……ごめ……な……」

……ん。

なんて言ったの?

意識が……遠のいてく───

「んーっ……」

寝惚けながら、いつものように枕元の携帯を探す。

「……あれ? ないなぁ……──ッ!!」

アタシはパッと起き上がり、まわりを見た。

そうだった。

ここ、アッくんちだ!!

「……アッくん?」

……。

暗い部屋の中、返ってくる声はない。

アタシは少しずつ遮光カーテンを開いた。

赤い糸destiny 「眩しい……」

カーテンの隙間から、目が痛くなるくらいの光が、部屋に差し込んでくる。

暗かった部屋が明るくなり、全景が見えた。

「あれ……」

部屋にいるはずのアッくんの姿はない。

テーブルの上には、コンビニのパンとアタシの好きだったチョコとココアが乗っていた。

……あれ? ココアって、確か──

「……まさか」

夢……だよね?

そっと唇に手を当てる。

あの感触……。

あれは、なんだったんだろう。

夢にしてはリアルだったけど……。

そんなはずはないよね。

?~?~?~

ソファーの上で、携帯が鳴り始めた。

アタシは立ち上がり、携帯を手にする。

「もしもし、優梨?」

「今、学校?」

「違うけど……」

ふと時計を見ると、すでに朝の9時を回っていた。

「話したいことがあるんだけど」

「えっ……」

優梨の声は、少し怒っているようだった。

もしかして……昨日の話?

赤い糸destiny 「麻美チャンから電話があったんだ」

「うん……」

「どうしてあんなことしたの? 最近、アッくんのことは忘れたとか言ってたじゃん。いつもたかチャンといたのに、なんで?」

どうしてって聞かれても、アタシは答えを出せなかった。

「麻美チャン、泣いてたよ」

「うん……。あのさ、すぐに電話を折り返してもいい?」

いったん電話を切り、鞄にアッくんが用意してくれた物を詰めた。

乾いた自分の服に着替え、アッくんの部屋を簡単に片づけて……。

「……もう、来ることはないんだろうな。アッくん。アッくん……」

切なく痛む胸を、片手で押さえた。

……もう、忘れるから。

もう、みんなを傷つけないから……。

ガチャ──

玄関のドアを開け、ゆっくりとマンションを出た。

赤い糸destiny アタシにできること

しばらく歩くと、アタシは携帯を取り出して優梨に電話をかけ直した。

「芽衣……。さっきはきつい言い方してごめん」

「そんなこと──」

「あたし、今、すごくパニックになってるんだ。芽衣の気持ちもわかるような気がするけど、今は考える余裕がないの──」

優梨? 何かあったの?

アタシは足を止め、携帯に耳を澄ます。

「今朝、麻美チャンの親から電話があった。麻美チャンが発作を起こして倒れたって……。もともと体が弱いんだ。麻美チャンはいつ死ぬかわからない体なの」

……そんなに麻美チャンの体は弱っているの?

「……大丈夫なの?」

「今回は大丈夫だったみたい。だけど……。次は保証できないんだって。次に何かあって発作が起きたら、どうなるかわからない」

優梨の声は、怒っているような、悲しんでいるような声。

携帯を持つ手が震え、全身の血の気が引いていく。

アタシがしたことはそんなに重い罪だったんだ。

赤い糸destiny いつ死ぬかわからない──

その言葉が、胸に重く重くのしかかる。

お父さんが肺癌になってから、死というモノを、とても身近に感じるようになっていた。

どんなに恐ろしいモノなのかも、身にしみてわかる。

麻美チャンは、いつも生死の境で生きているの?

そんな麻美チャンを、アタシは死の危険にさらしてしまったってこと?

「もう、アッくんは諦めなよ。もとはと言えば、芽衣から振った恋じゃん……アッくんに彼女ができたから、急に恋しくなっちゃったんじゃないの? それなら、麻美チャンに譲ってあげなよ──。芽衣だって、そんなんじゃ幸せになれないよ」

アタシだって、こんな恋は幸せになれないってわかる。

まわりを傷つければ、自分も傷つくんだ。

「もうアッくんは忘れるよ。それにたかチャンも──」

「……」

『それでいいんだ』

優梨の沈黙が、そう言っているようだった──

赤い糸destiny 電話を切り、アタシは空を見上げた。

……ねぇ。

最後にひとつ聞かせて。

あのキスはなんだったの?

……きっと、夢だったんだよね。

そうだよね。

だけど──

諦めるって決めたのに、鞄の中のココアは捨てることができないよ。

こんな気持ちもココアも全部捨てて忘れなくちゃいけないはずなのに。

昼前にアタシは遅刻しながらも、学校に向かった。

教室に着くと、海斗が手を振ってきた。

「遅っせーよぉ! 芽衣がいないと、授業中に話す相手がいなくてマジ暇なんですけどっ」

「アハハッ。ごめんごめんっ」

「美亜とミツがイチャつきながら教室に来るしさぁ」

海斗は笑いながらも、寂しそうな顔をする。

「やっぱ、叶わなくても好きな気持ちは消えてくれないもんだよね……」

「えっ?」

「ううん。なんでもないんだ」

思わず切ない想いが溢れだしてしまいそうになり、慌てて口をつぐむ。

だけど……海斗はそんな様子を敏感に悟ったようだ。

赤い糸destiny 「……何かあったのか?」

「何もないよ」

「無理すんじゃねーよ。俺らは親友みたいなもんだろ?」

海斗の優しい言葉に、アタシはあることを思いついた。

「海斗には、ばれちゃうかぁ……」

同じように、苦しんでいる海斗。

海斗には、わかるのかもしれないね……。

「海斗。お願いがあるんだ。何も聞かないで聞いて?」

アタシの償いに協力してもらえないかな……。

そして、気持ちの整理をつけるためにも協力してほしい。

──アタシは学校を後にして、お父さんの入院する病院に行った。

しかし、お父さんの病室とは違う階の廊下に立っている。

目の前には、麻美の入院する病室のドアがあった。

アタシはそのドアをノックした。

「──どうぞ」

中から聞こえたのは、紛れもなくアッくんの声。

病室をのぞき込むと、麻美はベッドに寝たまま、目を見開いてアタシを見た。

「何しに来たの……」

「あの……謝りたくて──」

「帰ってよ!!」

声を荒げる麻美に、病室の空気が張り詰める。

赤い糸destiny 「ごめん。でも、誤解なんだ」

「何が誤解なの!?」

「──麻美! やめろよ」

険悪な雰囲気のアタシたちをアッくんが止めに入る。

「アツシ、やめてよ! ……誰?」

麻美はそう言うと急におとなしくなった。

アタシの後ろにいる人物に気づいたようだ。

「どーも。海斗っていいます。芽衣の彼氏です」

そこには少し戸惑いながら笑う、海斗がいた。

アタシは海斗の隣に行き、腕に手を回す。

「あ……アタシの彼氏なんだよね。同じ高校なんだ」

本当は……ただの友だちだけど。

「そうなんですか?」

「そうです。麻美チャンが誤解してるかもしれないって芽衣に聞いて……。一緒に謝りに来たんだ」

麻美は一瞬ためらい、すぐにフワッと笑顔になる。

「そうなんだ……」

安心したように笑う麻美に、アタシは顔を上げることができなかった。

アッくんの顔も見れない。

「麻美チャン、昨日はごめんね」

「ううん。あたしが勘違いして……」

勘違いなんかじゃないよ……。

でも、もうそんな思いはさせないから。 

赤い糸destiny これが、アタシなりの償い。

麻美チャンを安心させる、そしてアタシの心に整理をつけるためには、こんな方法しか思い浮かばなかった。

チラッと顔を上げると、アッくんと目が合う。

複雑な顔をするアッくん。

「アタシのせいで誤解させてごめんね。早く元気になってね」

そう言い、持ってきた差し入れをアッくんに渡した。

差し入れを渡すとき、少しだけアッくんと手が触れ、息が止まってしまった。

「海斗、行こうっ……」

「あ……うん。わかったよ──」

痛む胸を悟られないように、足早に病室を出た。

海斗は戸惑いながらも、後をついてくる。

「つらかったぁ……」

「本当にこれでいいのか?」

病室を出たアタシは、廊下の壁にもたれかかり溜め息をついた。

そして、顔をのぞき込んでくる海斗にうなずく。

「……これでいいの」

すべて終わらせることができた。

赤い糸destiny こんなにまわりを傷つけてからじゃないと動けなくて、アタシは、自分の気持ちでまわりを混乱させた。

いつもそう。恋するとまわりを傷つけてしまう。

もう、誰も傷つけないから──

「そっかぁ……。俺なら自分の気持ちに素直になるけどな。ミツになんて思われたって、美亜を忘れるまで好きでいる。それがふたりの人でも、好きになるのは仕方ねぇと思うし……。気持ちなんて止められねぇじゃん」

アタシも、最初はそう思ってた。

だけど……。

「でも、芽衣がそう決めたなら仕方ないよな。早く新しい恋ができたらいいな!」

「……うん。そうだね」

素直になっちゃいけない気持ちもあるって知ったよ。

病院を出て、ゆっくりと歩道を歩く。

これで良かったんだってわかるのに、体が重くてすごくつらかった。

「今日はありがとね」

「いーよ。こんくらいの願いや頼みなら、いくらでも聞くよ」

海斗はニコッと笑う。

つられて、アタシも少しだけ笑った。

「あっ! そのまま笑顔でいろよ! 笑ってないと、新しい恋もできねーぞっ」

「アハハハッ」

久しぶりに笑った気がするよ。

海斗、ありがと──

?…?…?…

「誰だろ?」

「美亜とかクラスのヤツじゃない? 今日、全然学校にいなかったじゃん」

「確かにそうだよねぇ」

携帯を開き、メールを確認する。

「な、何これ……」

「どうした!?」

何も言わず、海斗に携帯を渡した。

海斗が画面に映されたメールを見て言う。

「本当につき合ってるのか? って……? 意味わかんないけど、これ誰から?」

「……アッくんから」

「マジで!? これって、ヤキモチっぽくないか!? 彼女と仲良さそうに見えたけど、そうじゃないんじゃねーの?」

……もしかしたらそうなのかもしれない。

だけど、もういいんだ。

なんでアッくんはこんなメールをしてくるの?

麻美チャンがいるのに。

アタシはアッくんを諦めようとしているのに──

パチン──

アタシは携帯を閉じ、そのまま鞄にしまった。

このメールにどんな意味があるのかわからないけど、今は、アッくんに関わりたくない。

赤い糸destiny 「甘い物が食べたくなっちゃったなぁ。パフェでも食べに行かない?」

気持ちを切りかえるように、海斗を誘った。

そんなアタシを見て、海斗はその場に立ち止まった。

「……返信しなくていいのかよ。相手に気があるなら、彼女がいたって諦める必要ないんじゃないか?」

「そうじゃない……」

アタシは海斗を見つめ返し、顔を横に振る。

「意味わかんねぇ…。そんなに好きじゃないから、麻美チャンともめるのが面倒なのか?」

……違うよ。

そんな軽い話じゃない。

もう、言わないで──

「なんで諦めるんだよ! 何も聞かないで彼氏のフリをして欲しいって話だったけど、納得できねーから教えてくれよ!」

「……」

「俺だったら──美亜と両想いの可能性があるなら、絶対に諦めない」

ズキン──

胸がえぐられるような感覚がした。

海斗の悔しそうな瞳に、心の底に眠る本性がウズウズとうずきかける。

そして、何も言えなくなってしまった。

「話せよ……」

海斗の追求は続く。

赤い糸destiny 何も説明していないんだから気になるだろうけど、麻美ちゃんが病気だなんて言えないよ。

もう諦めるって決めたの。放っておいて──

「アタシには、こうするしかないの。アタシのせいで、みんな傷ついたんだよ。アッくんの気持ちとかじゃなくて、そっちが重要なの──」

誰かを傷つけて幸せになるなんて、間違ってるでしょ?

海斗とは駅で別れ、地元に向かった。

海斗の言葉が、頭の中で何度も繰り返される。

?~?~?~

地元の駅に着くと同時に携帯が鳴った。

「はい……」

「今日、どうしたの!? 学校にも来ないし。今、どこ?」

「今は地元の駅前だよ」

電話の相手は美亜だった。

美亜は心配そうに言葉を続けた。

「優梨からも電話がきて……。──あっ! キャッチ入っちゃった。今日、時間ある? 駅前のマックで待ってて!!」

──プープープー……

美亜からの電話は、一方的に切られてしまった。

どうしたんだろ?

よくわからないまま、アタシの足はマックに向かう。

赤い糸destiny 「いらっしゃいませー」

元気のいい店員たちに迎えられ、店内に入る。

マックの中は、いつものように学生で賑わっていた。

「お久しぶりですね」

「あっ、こんにちは」

「ご注文は何になさいますか?」

カウンターの中から笑顔で話しかけてくるおばさんは、中学のときから変わっていない。

「今日は……コーラだけでいいです。Sサイズで」

「あら、めずらしいですねっ。いつものポテトは?」

「今日は大丈夫です」

いつもはかならずコーラとポテトを頼むんだけど、今日は、食欲がわかなかった。

「100円です」

アタシはカウンターに100円玉を置き、コーラを受け取った。

頭を下げるおばさんに挨拶をし、空いている席に座った。

隣には楽しそうに笑うカップルがいて、幸せそうな姿に、胸がギュッと痛んだ。

?~?~?~

「はいはぁい。もうマックだよ!」

コーラを飲みながら、わざと明るく美亜からの電話に出た。

「今すぐ行くから、あと少し待ってて。話したいの」

赤い糸destiny 美亜の声は、いつもより真面目な声だった。

「……何かあった?」

「うん、ちょっとね。とりあえず待ってて」

どうしたんだろう……。

そう思いながら外を眺めて、美亜を待ち続けた。

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