饭饭TXT > 海外名作 > 《红线》作者:[日]芽衣/译者:王欣【3部完结】 > 赤い糸.txt

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作者:日-芽衣/译者:王欣 当前章节:15370 字 更新时间:2026-6-23 05:27

「意外だなあ。もっと違うイメージだったよ」

「そうか?」

民間が運営しているからなのか、そこは施設というより田舎町の民宿のように見える。

ピンポーン……

アッくんは表にあるチャイムを鳴らした。

しばらく待つと、施設の中からお母さんと同い年くらいの女性が姿を見せた。

「お久しぶりです。樋口サンに会いに来たんですけど……」

「あら、そうなの? 樋口サンは会合に行ってるのよ。どうしたの?」

「彼女が樋口サンに相談したい話があって……」

どうしたらいいんだろ……。

会いに来たはいいけどアッくんのお母さんの友人は留守にしているようだ。

アッくんは困ったようにアタシを見る。

「……あの。私も樋口サンのようにここで働いているの。私じゃ聞いてあげれない話かしら?」

その様子を見かねたのか、女性は優しく声をかけてくれた。

赤い糸destiny アタシたち3人は、施設の中で話をすることになった。

「どうぞ座って」

小さな応接間に通されると、今までのことを女性に話した。

──中学のときに、両親の実の子供じゃないことがわかったということ。

それで家族は崩壊したが、今はみんなの仲が良いこと。

産みの母は死んで、父は刑務所にいるか出所しているかわからないこと。

手紙にはすべて書いてあるが、怖くて開けられないこと。

女性はアタシの目を見て話を聞き、ときどき悲しそうに顔を歪ませる。

そして、すべて話し終わると女性は小さく溜め息をついた。

「今までつらかったわね。たくさん苦しんだでしょ?」

「はい……」

「……でも、あなたは幸せなのよ。素敵なご両親に今まで育ててもらえたんだもの。親と呼べる人が誰もいない子供だって、世の中にはたくさんいるんだから」

確かにそう。

今の両親に出会えなかったら、今の生活はなかったんだ。

いつもアタシはそう思うたび、我が子のように育ててくれる両親に感謝の気持ちがわいた。

赤い糸destiny だけどその反面、実の子供じゃないんだっていう事実にも、たくさん苦しんだ。

父を知りたくない理由のひとつには、そのこともある。

その人を知ったり会ったりしてしまうと、アタシは今の両親の子供じゃないという事実を突きつけられてしまう。

知らなければ、アタシの両親は今の両親だけって思えるんだ。

「逃げてるだけなのかもしれないですけど、父に会うと、嫌でも現実を見なきゃいけないじゃないですか? だから、怖くて会えないんです。今の両親だけを両親って思いたいんです。でも、それじゃあダメってこともわかってきました。やっぱり産みの両親も気になるし、すごく悩んでて──」

苦しい胸のうちを伝えた。

自分でもどうしたらいいのかわからない気持ちの答えが欲しかった。

「じゃあ、会いたくなったら会うっていうのはどうかしら?」

「えっ?」

女性の言葉にアタシは驚いた。

赤い糸destiny 「悩んで苦しいときに、無理して知る必要はないわ。いつか会いたくなった時期に会えばいいと思う。でも、これだけは覚えていて。産みのご両親がいたから、あなたはこの世界にいれるの。ご両親が出会い、亡くなったお母さんがお腹を痛めて産んでくれたからいれるのよ」

女性の言葉に不安な気持ちが安らいでいった。

素直に自分の気持ちに従えばいいってことを、今までずっと考えていなかった。

知りたくない。会いたくない。

そんな風に逃げて、それじゃダメだと自分を追い詰めることの繰り返しだった。

「そうだよな。それがいちばんいい気がするよ」

今まで黙って聞いていたアッくんが口を開く。

アタシの固かった表情は少しだけ和らいだ。

──自分が会いたいときに会えばいい。

そのひと言に今までの気持ちが救われた気がする。

赤い糸destiny 話を聞いてくれた女性にお礼を言い、アタシたちは施設を出た。

「本当に来て良かった。ずっと誰にも言えなくて悩んでたから。──アッくん、本当にありがと!」

「オレは何もしてないけど、スッキリしたみたいだし良かったな! 今から飯行くか!」

今も心はモヤモヤしてるけど、やっと気持ちの整理ができる気がする。

「うん! 早く街に行ってご飯食べよ!」

アタシはアッくんに笑顔を向けた。

一緒にいると楽しくて、あっという間に時は流れていく。

ご飯を食べ終わると、ふたりは目的もなく街をプラプラと歩いた。

陽は沈み、街にはネオンがチカチカと光り出していた。

「これからどうする?」

「どうしよっか?」

「じゃあ、プリクラ撮りに行きたいっ! なんか、友情の証って感じに……」

言っちゃった!

友情の証とか言っちゃったけど、好きだからプリクラ撮りたいんだ。

そしたら離れててもアッくんを見ていられるし……。

「オレ、撮ったことないんだけど……」

「ええっ!?」

「なんか苦手なんだよなっ」

恥ずかしそうに笑うアッくんが可愛く見えた。

赤い糸destiny 戸惑い

「じゃあ、初プリだねっ!」

「えっ!? マジで行くの?」

戸惑うアッくんの背中を押し、繁華街にある大きなゲームセンターに向かった。

こうして一緒にいると、まるで昔に戻ったみたいだね。

つき合っていたころのようだよ。

アッくんはどう感じているんだろう……。

苦笑いをしながらもアッくんはゲームセンターに向かってくれた。

ねぇ……。

あなたの気持ちが知りたいよ。

ゲームセンターの近くに行くと、まわりは同年代や少し年上の人たちで溢れかえっていた。

「プリクラ、混んでなかったらいいなぁ……。早く行こっ!」

「わかったって。でも、1枚だけな!」

「はぁい。今日は夏休みの最後だから人が多いねぇ」

あまりの人混みに、気をつけていないとアッくんとはぐれてしまいそうになる。

「迷子になんなよ!」

「なるかもっ」

ギュッ

手があたたかい感触に包まれた。

「はぐれると困るからなっ」

アッくんはアタシから視線をそらした。

赤い糸destiny アタシたち……手を繋いでるの?

下を向くと、アタシの小さな手は大きなアッくんの手と繋がっている。

どうしよう……。

恥ずかしくなり、さっきまでのおしゃべりなアタシはどこかに消えてしまった。

無言のままゲームセンターの入り口に向かう。

「あれ? あそこにいんの、美亜じゃない?」

……え!?

美亜?

アッくんは急に足を止め、少し遠くを見つめて言った。

アタシは少し背伸びをして、アッくんの視線の先にいる美亜を探す。

「あっ──美亜だっ!」

ずっと音信不通だった美亜は、繁華街のコンビニ前に座り込んでタバコを吸っていた。

ボオッと人の流れを眺めているように見えた。

「ごめん! ちょっと行ってくる!」

アタシは繋いだ手を離し、美亜の元に急いだ──

「美亜っ!!」

人をかきわけながら美亜に駆け寄った。

まだアタシに気づいていないのか、美亜はキョロキョロとまわりを見渡していた。

赤い糸destiny 「美亜! こっち!!」

再び叫び、大きく手を振った。

──目の前まで行くと、やっと美亜はアタシの姿に気づいてくれた。

「えっ……」

そして、目を丸くして驚いている。

「何してるの?」

アタシの問いに、美亜はスッと目を伏せた。

「連絡つかないし、心配してたんだよ」

……やっと見つけた。

ホッとしたアタシの言葉にも、美亜は下を向いて黙ったままだった。

落ち着かなさそうにタバコを吸い続けている。

──ほんの一瞬だけ美亜が顔を上げ、視線がぶつかった。

「別にっ……」

それだけ言い、またすぐに視線をそらされてしまった。

その瞳はチラチラと左右に揺れていた。

なんか、いつもと違う……。

その様子は、いつもの美亜じゃない気がした。

「別にって……。ずっと心配してたから毎日連絡してたんだよ。ミツのことで嫌な思いをさせてごめんね。優梨も気にしてるから」

アタシはそう言いながら、美亜の前にしゃがみ込んだ。

よく見ると、美亜の頬は、前より少し痩けているようだった。

つらくてご飯もしっかり食べれなかったんだろうな……。

赤い糸destiny アタシの口からは、謝罪の言葉がこぼれた。

「本当にごめんね。ずっと謝りたかったの」

「……あぁ。うん。別にもういいや」

「──え?」

美亜はだるそうに言うと、吸い終わったタバコを地面に投げ捨てる。

……えっ?

なんで?

「もういいって、どういう……」

「あたし、彼氏できたの」

「は!?」

思いもしなかった返事にアタシは眉をひそめた。

「……どういうこと?」

「そのまんま。──あっ! 愁、こっちだよ!」

美亜は立ち上がり、人混みに向かって手を振る。

……愁?

その名前に、嫌な記憶がよみがえった。

まさか──

美亜の視線の先から、手を振って近づいてくる男が現れた。

前よりも日焼けしていたが、ミヤビに紹介された愁に間違いない。

「遅いっ!」

「わりぃな」

アタシの頭に……あのときの光景が浮かんだ。

タマを勧めながら笑っていた愁の不気味な笑顔──

「今日はどこのクラブに行く?」

「任せるよ。……あれ? 芽衣じゃない?」

愁はアタシを見て立ち止まった。

赤い糸destiny この男とは、もう二度と会いたくなかった。

そして、もう二度と会うことはないと思っていたのに。

「久しぶり……」

「久しぶり!! ──ていうことは、芽衣と美亜は友だち? すげぇ偶然だな!」

愁は馴れ馴れしく肩を叩いてきた。

肩から腕にかけて、いっきに鳥肌が立った。

あの日の恐怖。

そして、人間的に合わない男。

アタシの体は前と同じように拒否反応を示していた。

「ねぇ、愁。なんで芽衣を知ってるの?」

「あぁ、前にちょっと」

美亜は愁の腕に手を伸ばし、甘えたように腕を組む。

もしかして、美亜の彼氏って、愁?

「──ねぇ、美亜。ちょっと話そうよ!」

とっさにふたりを引き離し、間に入った。

やっぱり美亜はおかしい……。

なんか変だよ。

「ねぇ、美亜。ふたりで話せない?」

「愁もいるし、また連絡するよぉ」

「だから、今話したいんだってば! ──愁。美亜借りるからっ」

アタシはそう言い、美亜の手を強引に引いた。

「ち、ちょっと!」

「いいから来てよ!」

赤い糸destiny 抵抗する美亜の手をさらに強く握る。

「早くこっち来て!」

「もぅ、なんで──愁、後で連絡するからっ!」

美亜はアタシの剣幕に驚きながら、トボトボと歩き出した。

──腕を掴んだまま、コンビニの前から美亜を連れ出し、少し離れたビルの非常階段に並んで座った。

美亜は下を向き、だるそうにタバコに火をつけた。

「なんで愁なんかと一緒にいるの? クラブってどういうことなの?」

「………。別にいいじゃん」

「よくないし。親友なんだから心配するでしょ!?」

相変わらず美亜の視線は、下へいったり左右に動いたりしている。

「──ねぇ、こっちをちゃんと見て話してよ! どういうことなのか話してっ!」

「だから、別にいいじゃん! クラブなんてみんな、歳ごまかして行ってるし。芽衣に関係なくない?」

「はぁ!?」

……何、その言い方。

その言葉を聞き、頭に血がのぼっていった。

「キャッ……やめてよっ!」

美亜の口からタバコを取り上げ、壁に向かって投げつけた。

赤い糸destiny 「なんでそんな投げやりなの!? ちゃんと話してよ!!」

「……放っといてよ! 愁のところに戻るからっ」

「嫌っ!! 行かせない!!」

アタシは、立ち上がろうとする美亜の肩を押さえつける。

──親友の美亜には、愁のような人と一緒にいてほしくない!

その一心でアタシは話し続けた。

「愁はクスリやってんだよっ! アタシがクスリ勧められて逃げてきた相手って、愁たちなのっ!! ねぇ、美亜。目を覚ましてよ! ミツのことでショックな気持ちもわかる。アタシと優梨にいら立つ気持ちもわかる。だけど、美亜はそんなヤツと一緒にいるような子じゃないでしょ!?」

アタシの必死な説得が非常階段に響いた。

肩に置いた手には自然と力が入る。

お願い!

美亜、わかって!!

そう願ったとき──

美亜の瞳から一筋の涙が流れていった。

「あたしだって、こんなことしたくなかった! なんで放っておいてくれないのっ! あのときっ……あのとき、あたしを見捨てたくせにっ──」

吐き出すように叫ぶと、美亜は両手で顔を覆った。

赤い糸destiny 「美亜──」

美亜の指の隙間から、小さく鳴咽が漏れる。

アタシは肩に置いた手を放し、美亜の正面にしゃがみ込み、美亜の頭を優しく撫でた。

「美亜……傷つけてごめんね。美亜は大事な大事な親友なの。だから、もう……お願いだからっ……」

胸がグッと詰まり、先の言葉が続かない。

アタシの目からも、涙が溢れていった。

「ウウッ……どうしたらいいのかわからないよ──」

美亜の涙が、地面にポタポタと落ちていく。

「つらかったね。……く、苦しかったでしょ……」

美亜を救いたい。

助けてあげたい──

「グスッ……。わ、わかんないなら一緒に考えよ……」

「わ……忘れられないっ。あたしを裏切ったのに──ミツのことが……忘れられないっ……」

美亜はそこまで言うと、思いきり抱きついてきた。

そして、小刻みに体を震わせ、ボロボロと涙を流し続ける。

赤い糸destiny アタシは幼ない子供をあやすように、美亜の背中をゆっくりとさすった。

「愁とは早く別れなきゃダメだよ……。寂しくならないように、アタシがそばにいるから」

「ウウウッ……」

コクン──

泣きじゃくりながらも、美亜はうなずいた。

「好きでもない男と遊んでも、自分を傷つけるだけだよ。一時的に忘れたって、後から余計に苦しかったでしょ?アタシもアッくんと別れたとき、寂しくてコータと寝ちゃったじゃん。それ、すごく後悔したから……」

自暴自棄になった美亜を見ていると、昔の自分と重なった。

美亜の気持ちは、痛いほどにわかる。

「そ……そうだよね……し……愁といても……エッチしても……素に戻ったとき、……すごく苦しかった」

「……でしょ? だから、もうやめよう。自分を大事にしようよ」

「う……うん……」

アタシは美亜から体を離し、ハンカチを取り出した。

そして、涙にぬれた美亜の頬を拭いた。

「やばい……は、鼻水垂れてるっ……」

「アハハッ。気にしないよ!」

笑い合うアタシたちの間には、前のように、和やかな空気が流れていた。 

赤い糸destiny 少し経つと、美亜の気持ちも、少しずつ落ち着いてきたようだ。

「芽衣に会えて良かった。……親友って本当に大切な存在だよね」

美亜はそう言いながら、恥ずかしそうに笑った。

「ありがと」

……気持ちが伝わって良かった。

いつもの笑顔が戻った美亜に、心からホッとした。

「いろいろごめんね」

「ううん。あたしこそ、心配かけて本当にごめん。気持ちの整理がつくまでは時間がかかりそうだけど、逃げるのはやめるね。今から愁にメールするよ」

美亜は携帯を取り出し、ボタンを押し始めた。

……そうだ、アッくんにメールしなきゃ。

もう30分近く待たせてる。

アタシも携帯を手に取り、アッくんに謝罪のメールを送った。

?…?…?…

〈オレも偶然友だちと会って、今一緒なんだよ。終わったら連絡して。もし美亜とそのままいたいなら、オレに気を遣わないでいいからな!〉

……アッくん。

ありがと。

アタシはそう思いながら、隣に座る美亜を見た。

赤い糸destiny 美亜はまだメールを作っている途中だった。

短く軽いつき合いだったとしても、適当に済ませたくない気持ちがあるのだろう。

アタシはボーッとしながら美亜のメールが終わるのを待った。

5分経ち、10分が経ち……。

それでも美亜はメールを作り続けていた。

……まだ終わらないのかなぁ?

「長文メール? 書けてきた?」

「……」

「あ、あの──」

アタシの声は、美亜には届かないようだ。

トントン──

「まだかかる?」

美亜の肩を軽く叩き、もう一度声をかけた。

「え?」

今度は美亜も気づいたのか、画面から顔を上げた。

「メールはもう──えっ!?」

「……何?」

美亜の顔を見て、言葉に詰まってしまった。

目が……なんか変だよ?

会ったときも少し思ったけど、不自然なほどに視線が揺れ続けている。

今は緊張や気まずさもないはずなのに……。

よく見ると、真っ黒な瞳孔も異様なほどに開いていた。

美亜は不思議そうな顔でアタシを見るが、その目は焦点が合っていない。

赤い糸destiny 「どうしたの?」

「あ、あの……」

美亜の問いに、アタシは戸惑ってしまった。

そう聞かれても、なんて話せばいいのだろう……。

「あのね、目がいつもと違うなって思って。視線が変って言うか……瞳孔が開いちゃってる感じが……」

「えっ──」

美亜は焦った様子で鞄から鏡を取り出した。

そして、鏡に映る自分の目をジッと見ている。

「気のせいかもしれないんだけどね……。一応、眼科に行った方がいいんじゃないかな?」

少しの間の後、美亜は首を横に振った。

そして目を見られることを避けるように下を向いてから小さく呟く。

「もう抜けてると思ったのにな……」

抜ける?

何が?

「あたし……今日の昼間、タマ食べたんだ。シャブも少しあぶった」

突然の美亜の告白──

アタシの頭の中は、一瞬にして真っ白になった。

「えっ……何言ってるの? じ……冗談やめてよ」

「冗談なんかじゃないよ……。でも、もうやめるから。さっき約束したように、投げやりにならない」

赤い糸destiny 「あ……あの……え!? あ、えっと」

しどろもどろになってしまい、うまく話せない。

話の展開についていけなくて、頭の中がグチャグチャに混乱した。

──ねぇ。

なんでそんなことを?

「急にこんな話をしてごめんね。心配してくれる芽衣には、嘘をつけなかった」

「美亜……」

美亜はうつむいたまま、ポツン……ポツン……と語り出した。

「前に芽衣の部屋に行ったとき、タマ見せてもらったじゃん。あの後、ゴミ箱から盗んじゃったんだ。そのときは使うつもりはなかったんだけどね……」

あの日のことだ……。

アタシが部屋にいなかったとき、美亜はゴミ箱から──

「でも……使っちゃったんだ。嫌なことを忘れたかった。飲んだ後、あたしはそのまま街に向かって……クラブに向かう友だちに偶然会ったから一緒に行ったんだ。……そのクラブで愁と出会ったの。一緒に踊った後、誘われるままにあたしは愁と寝た……」

言葉を続けながら、つらそうに顔を歪める美亜。

アタシは、ただ聞くことしかできなかった。

赤い糸destiny 「クスリって……自分の判断力も何もかも奪ってくれるの。嫌なことも、愛情も、理性も……何もかも奪ってくれた。愁はプッシャー……あ、プッシャーってクスリの売人のことなんだけどね……その人と仲良くて、愁と寝ればタマはいくらでも手に入った。それで愁の彼女っていうかセフレになったんだ……。今思うと、すごく馬鹿だった。馬鹿だし汚いし、本当に最低だよね。でも……そんな冷静な判断だって奪われてた気がする」

連絡がつかない間、美亜がそんなことをしていたなんて。

何も知らなかった。

今だって、信じられないよ。

クスリに手を出すなんて、つらくたって絶対にしちゃいけないことなはず──

「それで今日も愁と?」

「うん……」

「ずっと心配してたんだよ。それなのにそんなことをしてたなんて──」

美亜の告白を聞き、アタシは大きなショックを受けていた。

親友がそんなことをしたなんて……。

裏切られたようでもあり、とても悲しかった。

「でも……もう絶対にしない。あたしのために涙を流してくれた芽衣を、絶対に裏切らないから……」

赤い糸destiny 美亜はすがりつくようにアタシの手を握る。

そして、また涙を流した。

その涙はきっと……後悔の涙だよね?

アタシは美亜を信じていいんだよね?

「本当にもうしないって誓える? ……次にやったら、アタシは許せないと思う。親友だし、美亜の体が心配だから言うんだよ」

「……も、もうしないっ」

「絶対に?」

「うんっ……」

誓いの言葉を聞き、アタシは美亜を信じることに決めた。

──後悔してるから、美亜はすべて正直に話してくれたんだ。

アッくんだって、昔はクスリをしていた。

だけど、ちゃんとやめられたもん。

だから美亜だって、立ち直ってくれる。

きっとそう。

アタシは親友の美亜を信じるよ──

「ねぇ、美亜。地元に帰ろ?」

「め……芽衣ぃ……。ごめんねっ。グスッ……本当に、ご……ごめんっ。これからも、親友でいてくれるよね?」

アタシは繋いだままの美亜の手を、ギュッと強く握り返した。

赤い糸destiny 新学期

翌朝──

「行ってくるね!」

玄関でローファーを履きながら、リビングに向かって声をかけた。

「いってらっしゃい!」

「気をつけてね!」

リビングからは、お母さんと春菜の声が聞こえた。

──今日から、2学期が始まる。

頑張らなきゃ!

久しぶりの制服に袖を通すと、新学期へのやる気がわいてきた。

気持ちも新たに、玄関のドアを開いた。

エントランスを抜けてマンションを出ると、制服姿の学生たちが何人も歩いていた。

その光景を見ると、もう夏休みの名残はない。

アタシは駅に向かって歩き出した。

そのとき──

「芽衣、おはよ!」

「……えっ?」

後ろから、愛しいあの人の声が聞こえてきた。

思わず振り返ると、そこには……制服を着たアッくんの姿があった。

久しぶりに見た制服姿は、私服とはまた違う魅力がある。

赤い糸destiny ドキ……ドキ……

アタシの胸は、予想外の出来事に高鳴っていった。

「でも……どうしてここに?」

「一緒に行こうと思って待ってたんだ。誰かと待ち合わせ?」

「う、ううん──ひとりだよ」

朝の眩しい陽射しを受け、アッくんは目を細めて笑う。

そして、慣れた手つきでネクタイを緩めた。

……朝からアッくんの笑顔が見れるなんて、思ってもみなかった。

嬉しい誘いに、顔がほころんでいく。

「じゃあ、行くか」

「行こっ!」

アタシたちは通勤?通学中の人々にまざり、並んで歩き出した。

「昨日は急にごめんね」

「いいって。電話でも話したけど、友だちって大事だしな。美亜はオレにとっても友だちだから」

「……うん。ありがとう」

昨日──

アタシは、美亜を放っておけなかった。

……アッくんを待たせていることは心苦しいけど、今は美亜のそばにいたい。

そう思い、アッくんに断りの連絡をして美亜と地元に戻ったんだ。

赤い糸destiny 「本当にごめんね」

「いつでも遊べるんだから、気にすんなよ!」

謝るアタシの頭を、アッくんがポンポンと軽く叩いた。

……こんな仕草も大好き。

触れられた場所が熱くなり、ドキドキして止まらない。

「……ここでバイバイだね」

「じゃあ、またな!」

学校の最寄り駅に着くと、アッくんに声をかけた。

名残惜しい気持ちを抑え、離れていくアッくんに手を振る。

アッくんの後ろ姿は人の波に紛れ、すぐに見えなくなった──

「おはよ!」

「おはよー」

学校に近づくにつれ、同じ制服を着た学生が増えてきた。

ひさびさに会う友だちに挨拶しながら教室に向かう。

教室に入ると、海斗がすぐに駆け寄ってきた。

「ひさびさ! 連絡するって言ったのに、昨日はできなくてごめんな」

「気にしないで! アタシも忙しかったし……。ねぇ、美亜を見た?」

アタシの問いに、海斗は指でオッケーサインを作った。

……良かった。

ちゃんと学校に来れたんだね。

アタシは机の上に鞄を置くと、美亜の教室に急いだ。

赤い糸destiny 廊下を歩いていると──

「ミツくんが学校辞めたって」

「嘘っ……なんで?」

そんな同級生たちの会話が耳に入ってきた。

……そっか。

吉岡サンのことで辞めたんだろうな。

そう思うと、足取りがいっきに重くなった。

でも美亜は、昨日から新しい未来に向かい始めてるんだ。

このことを知ったらつらいだろうけどきっと大丈夫。

アタシはそう思い直し、美亜の教室へと急いだ。

ドアを開いて、教室の中を覗き込むと、派手な美亜の姿はすぐに見つかった。

「おはよ! 美亜!!」

声をかけながら、美亜に歩み寄った。

「あっ! 芽衣、おはようっ!」

美亜もアタシに気づき、嬉しそうな顔をする。

「遅刻しなかったね! 今日からまた頑張ろ!」

「うん!」

美亜の元気そうな姿に安心した。

目を見ても、昨日と違って視線がしっかりと定まっている。

「……今日の目は普通で良かった」

アタシはまわりに聞こえないよう、美亜の耳元で囁いた(ささやいた)。

赤い糸destiny だけど、その言葉を聞き、美亜は顔色を曇らせる。

「えっ……何かあった?」

「そういう訳じゃないんだけど……」

美亜は左右に視線をやり、まわりに人がいないことを確認した。

そして、気まずそうに小さな声で言う。

「なんか、ずっとソワソワして落ち着かないんだ。ずっとクスリしてたからかも……」

美亜は言い終わると、眉をひそめて不安そうな顔をした。

……それって、中毒ってこと?

アタシは、しばらく前に見たニュース番組を思い出した。

テレビに出ていた麻薬中毒の人も、美亜と同じことを言っていた気がした。

クスリを常用する人は、いつしかクスリに依存してしまう。

元中毒者の人は、「簡単にやめれると思っていても、常用しているとかならず中毒になってしまう」と言って嘆いていた。

そして、「やめるためには強い意思とまわりの支えが必要です」とアナウンサーが最後に訴えかけた。

「大丈夫だよ。今はつらくても、美亜ならやめられる。アタシも優梨もそばにいるから、頑張っていこうね!」

美亜の言葉に不安を募らせながらも、アタシは笑顔で言った。

赤い糸destiny ──中学時代から、美亜は決意したことをかならずやり抜いていた。

親友のアタシは、クスリと戦う美亜を支えていこう。

「そうだよね。もう、絶対にしない」

「うん。クスリなんか体や気持ちをボロボロにするだけで、ひとつもいいことないんだから」

キーンコーンカーンコーン──

「みなさん、おはよう!」

チャイムが鳴り、教室内に先生が入ってきた。

「やばっ! 教室に戻るね」

「うん、また後で!」

アタシは自分の教室に向かい、小走りをした。

この日から──

毎日できるだけ美亜と一緒に過ごした。

優梨も事情をすべて知り、美亜を心配している。

そして、頻繁に3人で会うようになった。

クスリの誘惑も時間が経つにつれて弱まり、美亜が明るい笑顔を見せる回数は、日に日に増えていった。

「今も好きだしムカつくけど、もう、どうにもならないもんね。あんな男忘れるっ! 絶対、ミツが後悔するようなイイ女になってやる!」

気が強い美亜は、笑いながらよく言っていた。

時には涙を流し、同じ台詞を言う日もあるけど。

赤い糸destiny 一緒に笑ったり悩んだりしながらも、みんなの毎日はとても充実している。

そして……アタシの恋も。

日が経つにつれ、アッくんとの距離は縮んでいった。

始業式以来、ふたりの登校は日課になっている。

早めに待ち合わせをしてマックに寄った日もあれば、ひとつのジュースを交互に飲みながら登校した日もあった。

友だち以上の距離にいるような気がするけど、恋人にはなれない微妙な関係。

アタシの想いは、会うたびに募り続ける。

気がつけば──

9月も終わりに近づき、秋の気配がしていた。

「もうすぐ衣替えかぁ。あっとゆう間に秋って感じだな」

今朝も、アタシとアッくんは並んで歩いていた。

この時間は、何にも変えられない至福のとき。

一緒に登校したい一心で、新学期になってから1度も寝坊をしていない。

「だねぇ。寒い寒いっ」

「オレ、寒いの苦手なんだよなぁ」

「アタシもっ」

秋の冷えた風が体を冷やし、手足に鳥肌が立った。

こんなとき、好きな人の温もりが欲しいなって思う。

赤い糸destiny アッくんと触れ合えたら、きっと心も体もあたたまるんだろうな。

そう思いながらも、アタシは自分で手足を擦った。

……いつかは告白したい。

そんな気持ちは、胸にしまったまま。

好きだけど、好きなんて言えない。

今の関係を崩したくなかった。

そして、いつものように、アッくんと駅で別れた。

教室に着くと、アタシの席には美亜が座っていた。

海斗の方に椅子を向け、話し込んでいるようだ。

「おはよ!」

声をかけると、ふたりはアタシの方を向いた。

「おはよ」

「おう!」

「あれ? その目──」

美亜の瞳が、いつもと違っている。

焦茶色が明るいグレーに変わっていた。

「カラコン入れたの?」

「あっ、気づいた? 可愛いでしょ。気分転換にいいかなって思って」

「似合うね!」

美亜は恥ずかしそうに微笑み、グレーの瞳を指差す。

そんな美亜の横では、海斗が嬉しそうに笑っていた。

今日のような楽しい日々が、毎日続けばいいな──

アタシはそう思いながら、美亜の横にしゃがみ込む。

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