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作者:日-芽衣/译者:王欣 当前章节:15365 字 更新时间:2026-6-23 05:27

「無理……してない?

あんまり頑張りすぎないでね」

「大丈夫だよ。

……今日は遅くなってごめんな。

上司が代わったから、これからは飲みが増えたりするかもしれない」

アッくんはグラスを置くと、そっとアタシの体を抱き寄せた。

そして、いつものように頭を撫でてくれた。

「今日は早めに寝よ?」

「そうするよ。

心配かけて悪かった……」

「ううん、大丈夫」

アッくんの胸からは、お酒の匂いと微かな香水の匂いがしていた。

赤い糸precious この香水の匂いは、つき合ったときからずっと変わっていないアッくんの匂い。

甘くて……

かいでいると落ち着く香りだった。

翌朝――

「アッくん!

起きて~っ!!」

アタシはキッチンに立ち、フライパンに卵を落としながら、まだ寝ているアッくんに声をかけた。

「ん……

あと少し。

頭痛いんだって…………」

「もうっ!

起きなきゃ間に合わないよっ!?」

ベッドに向かい、頭から布団をかぶろうとするアッくんの体をグラグラと揺さぶる。

アタシたちは、いつものような朝を迎えていた。

昨日は、あれからたくさん話し合ったんだ。

新しい上司はつき合いの良い部下を大事にして、つき合いが悪い部下を気に入っていないこと。

お母さんを通してコネ入社をしたアッくんには、最初から悪い印象をもっていること。

そして、この上司は直の上司だから嫌でも関係を悪くすることはできないということ。

いつもは仕事の愚痴を絶対に言わないアッくんが、初めてアタシの前で弱い姿を見せていた。

「……やばっ。

もう起きなきゃな」

しばらくすると、アッくんは携帯電話で時刻を確認して、焦ったように体を起こした。

「大丈夫?

昨日の話も……」

「あー……

もう平気だし愚痴ったのもだせぇから忘れて!

ごめんな。

今日は同窓会だし、早めに仕事片づけてくるよ!」

アッくんは苦笑いで言うと、ベッドから下りた。

「頭痛ぇなぁ……」

そう呟き、洗面所へと向かっていく。

赤い糸precious ……昨日の話はもう大丈夫そうでよかった。

アタシはキッチンに戻りながら、元気を取り戻したアッくんの姿に胸を撫で下ろす。

仕事って、いろいろなことがあるもんね。

アタシのバイト先にも嫌な先輩がいるから、気持ちはよくわかるよ。

お金を稼ぐのは、本当に大変だもん。

アッくんがまたつらくなってグチりたくなったときは、アタシが支えてあげたいな。

ジュー

「あっ! やばっ!!」

焼いていたことをすっかり忘れていた目玉焼きのふちはこげ茶色になりかけている。

アタシは慌てて皿にのせ、テーブルに運んだ。

寝過ごしたアッくんは、慌しく食事をすませると、

「行ってらっしゃい」

「行ってくるよ」

チュッ?

いつもの笑顔とアタシの唇に温もりを残して、会社に向かって行った。

アタシはアッくんを見送ると、すぐに部屋に戻り、クローゼットの扉を開いた。

「んー……

どれを着よう?」

今日は同窓会だから、いつもよりお洒落をして行きたいんだけどなぁ……。

かかっている数着の服から、今日着ていきたい服を探してみたけれど、クローゼットの中には見つからなかった。

よくよく見ると、どれも普段着として何十回も着回した服ばかりで、時代が過ぎた去年モノや一昨年モノの服が目立っている。

「服、ないなぁ。

着たい服ないし……」

同棲してからは全然服を買っていないことを、今になって思い出した。

結婚に向けて貯金してるから、仕方ないんだけど……。

最近は節約しすぎて、贅沢にならないような買い物もしてないほど、質素な毎日。

それなのに、親元を離れてから本当にお金ばっかり消えていく。

節約しないと、アタシたちの稼ぎじゃ、生活すらしていけないようにも思えた。

……たまには買い物したいな。

赤い糸precious 可愛い服も着たいし、少し贅沢なランチも行きたい。

毎日好きな人と過ごせて楽しいけど、結婚って、こういうものなのかな?

?…?…?…

〈今日、みんなで行こうよ!

8時に優梨の家で?〉

昼過ぎに美亜からメールが入ってきた。

アタシはこのメールをそのままアッくんに転送して、今日も、いつものように平凡な時間を過ごした。

いろいろなことをしていると、あっという間に時は流れて、気がつけば夜の7時になっていた。

待ち合わせまで、あと1時間だ。

そろそろ用意、終わらせなきゃ。

髪の毛をストレートにセットして、化粧を少し直す。

服で手を抜いている分、ほかでカバーするように気合を入れた。

そして、最後にお気に入りのピアスをつけて……。

「行ってきます」

誰もいない部屋に声をかけ、アタシは優梨の家に向かった。

「アッくん遅いね」

「そうだねぇ」

みんなが集まる中、待ち合わせ時間を過ぎても、アッくんだけが来ていなかった。

時間が経つにつれ、みんなは困ったような表情を浮かべ始めている。

……どうしたんだろ?

「電話してみるっ」

アタシはアッくんに電話をかけた。

プルルルル……プルルルル……

『留守番電話センターに――』

赤い糸precious すぐに機械的なガイダンスの音声が聞こえてきた。

アタシは切った後、もう一度アッくんの携帯電話を鳴らした。

「……出ない」

しばらくのコールの後、また留守番電話センターに転送されてしまった。

その後も、何度かけてもアッくんは出なくて、留守電に転送され続けた。

……どうしたのかな?

残業なのかな?

忙しくても、1本連絡してくれたっていいじゃん。

「出ないや……。

待たせてごめんね。

先に行こう!」

アタシはそう言い、みんなに頭を下げた。

「そうだね。きっと仕事が長引いているんだよ」

「メール打っておくか?」

みんなは荷物を持ち、ぞろぞろと外に向かう。

アタシは複雑な心境になりながら、ゆっくりとみんなの後を追った。

同窓会の会場は、とても賑わっていた。

ところどころで昔話に花が咲いている。

100人近い同窓生が集まっていて、アタシはみんなと写真を撮りまくり、ひさびさの再会を楽しんだ。

「結婚するんだ」

そう言ったとき、みんなはいっせいにお祝いの言葉をくれた。

「ありがと!

幸せになります!」

祝福してもらえて、すごく嬉しかった。

ここに、アッくんがいないことだけが引っ掛かっているけどね。

アッくんからの連絡はいっさいなくて……。

アタシは同窓会を楽しみながらも、つねに携帯電話を気にかけていた。

何も悩まずに、素直に楽しみたかったな。

結婚のことだって、本当はふたりで揃って報告したかったよ……。

同窓会開始から1時間を過ぎても、アッくんから連絡は来ないままだった。

ここまで連絡がないと、さすがに不安になってきた。

赤い糸precious ……こんなこと、今までなかったよ。

もしかして、体調が悪くなったの?

事故に遭って連絡できない可能性も――

思えば思うほど不安になり、悪い想像は広がり始めると止まらなかった。

ピッ

アタシはとっさに、アッくんの会社に電話をかけていた。

プルルルル……

「お電話ありがとうございます。○○です」

「お忙しいところすいませんっ。西野の――」

「あっ! 奥さん?

僕、山本ですよ」

電話に出たのは、偶然にもアッくんと親しい同僚の人だった。

2回しか会ったことはないけど、山本さんはアタシを奥さんと言うからすごく印象に残っている。

そのときは、奥さんと呼ばれるたびにくすぐったいような感覚がしていたけど……。

今日はそれどころじゃなかった。

「お久しぶりですっ。

あの……

アッくんに代わってもらえますか?」

「西野はもう会社を出てるけど。

課長と一緒だったよ」

「――えっ?」

「街に飲みに行くって言ってて……」

街?

飲みに行く?

山本サンに言われた言葉は、予想もしていなかったモノだった。

赤い糸precious 「あ、あの……。

本当……ですか?」

「あれっ?

まずいこと言っちゃった……かな?」

「い……いえ。

大丈夫です。

無事で安心しました。

失礼します!」

「あっ! あの――」

ピッ

アタシは一方的に電話を切り、足早に歩き出した。

ホッとしたような、ムカついたような……。

胸の中がモヤモヤして、この場にいられなかった。

アタシは、気持ちを落ち着かせるために会場の外へ出て、建物の陰にしゃがみ込んだ。

……アッくん。

どういうことなの?

仕事のつき合いとはいえ、連絡もせずに飲みに行っちゃったなんて、ひどくない?

たった1回でもいいから、電話やメールくらい、入れてくれたっていいじゃん。

同窓会はどうでもよかったのかな。

アタシとの約束も、どうでもよかったっていうことなのかな……。

会場から漏れてくる笑い声を聞きながら、アタシは深い溜め息をもらした。

?~?~?~

携帯の画面を見ると、アッくんの名前が表示されていた。

いまさらかけてこられても……。

そう思いつつ、アタシは通話ボタンを押した。

「はい……」

「芽衣、ごめんな!

会社に電話くれたんだって?

昨日話した上司に、無理矢理連れていかれてさ……」

「山本さんに聞いたよ。

ていうか、山本さんの電話は出れてアタシの電話はダメなんだねっ」

ついつい嫌味のように言ってしまった。

だって……

ショックだったんだもん。

心配していたのに、ただ街にいただけで、電話もシカトされてたなんてさ。

「本当にごめん!

ミーティングみたいなことしてたんだよ。

2次会には絶対に行くから、みんなに言っといて!」

赤い糸precious 「……わかった。

仕事のミーティングなら仕方ないし」

アッくんに仕事だと謝られてしまうと、アタシは納得がいかなくても、こう答えることしかできなかった。

仕事だと言われると、何も返せなくなってしまう。

それに、あまり口うるさい女になりたくないという気持ちもあった。

「ごめんな……」

「待ってるから、また後で状況を教えてね! 絶対に連絡して!

みんなも心配してたんだから……」

「あと1時間以内には絶対に行くからさ!!

今は居酒屋にいて、もうすぐ話も終わりそ――

あっ、また連絡する!」

プチッ

「ええっ!?」

何かあったのか、急に電話は切られてしまった。

「なんなのっ……」

アタシは小さく呟きながら携帯電話を鞄にしまう。

電話が繋がったのに、途切れた会話のせいで、さっきよりも胸がモヤモヤしていた。

また嫌な気分になっちゃったよ……。

せっかく我慢したのにな。

――1時間後。

顔を赤く染めたアッくんが2次会に現れた。

「本当にごめん!!」

「……いいよ。

来てくれたんだし」

「じゃあ後でな。みんなと話してくる!」

アッくんはアタシに声をかけると、すぐに男友達の輪へと行ってしまった。

ナツや同級生たちとはしゃぎ、楽しそうにしている。

赤い糸precious ……アタシにはそれだけ?

すぐに男友達の方に行っちゃうなんて酷くない?

「マジで!?」

「知らなかった!?」

「知らねぇーよ!」

アッくんたちは、久しぶりの再会に盛り上がっているようだった。

アタシの前で見せる笑顔とは違う、子供のような無邪気な笑顔で笑い合っている。

……そういえば、アッくんのこんな笑顔は久しぶりに見た気がするよ。

最近は仕事ばっかりで、全然友達に会えていなかったもんね。

あの笑顔……。

中学のときみたい。

ずるいなぁ。

あんな顔見ちゃったら、怒るに怒れないじゃん。

「芽衣、こっち来いよ!」

アッくんが手招きしながらアタシを呼んだ。

「はーい」

自然と小走りになりながら、アッくんの方へと向かう。

「嫁さんが来たぞっ」

「芽衣チャンおめでと!」

「アハハッ、ありがとうっ」

みんなに祝福されはやしたてられて、不機嫌だった顔が、思わずニヤけてしまった。

……遅れたけど、アッくんは来てくれたんだし……、まぁいっか。

ここからは楽しもうっと。

アタシは単純なのか、この雰囲気にのまれてコロッと気持ちが切り替わってしまった。

「2次会には来てくれよなっ」

「お願いしますっ」

ギュッ

アッくんはアタシの肩を抱き、嬉しそうに笑った。

アタシもアッくんの顔を見上げて微笑む。

本当に幸せだな……。

アタシはそのまま、アッくんの胸に顔を埋めた。

赤い糸precious だけどそのとき

鼻先に、違和感を感じたんだ。

「……あれ?」

「ん? どうした?」

ねえ、いつもと違う匂いがするよ。

アッくんのスーツから、煙草と甘ったるい花のような匂いがする……。

「……ちょっと来て」

「え?」

「いいからっ!!」

アタシは眉間にしわを寄せ、訳がわからないような顔をするアッくんの腕をつかんだ。

今まで笑っていた周りの友達は、みんなアタシの態度を見て黙ってしまった。

人前で、しかもお祝いの場で空気を乱すことはしたくなかったけれど、自分を抑えることができなかった。

アタシは、アッくんの手を引きながら、会場の外へ出た。

バクバクと鼓動が速まっていく――

「どうしたんだよ」

「聞きたいことがあるの」

「みんなも困ってただろ?

遅くなったことは後で謝るからさ……」

アッくんは困ったように苦笑いをしながら、感情的になるアタシをなだめようとしてきた。

何も答えないまま、アタシは人気のない場所に向かった。

……ここまで来た理由は、みんなに聞かれたくない話を切り出すから。

「ここでいいや」

足を止め、アッくんの目を見つめる。

さすがに何かあったとわかったのか、アッくんはお酒で少しトロンとした目をしながらも、まっすぐにアタシを見つめ返してきた。

ふたりの間に重苦しい空気が流れ、胸が苦しくなる。

今から話すことは、軽々しく口にできることじゃなく、アタシは気持ちを落ち着かせるため、息を吐き出した。

そして、覚悟を決めて――

「ねぇ。

居酒屋に女性社員の人はいたの?」

震える唇でそう尋ねた。

スーツからした匂い……。

あれは、この前香水売り場でかいだ匂いだった。

女物の一番人気になっていた新作の香水。

好みの匂いだったから、間違う訳がないよ。

「……女?

男の上司とふたりきりだったけど。

どうした?」

赤い糸precious 「本当に?」

「本当だよ。

山本サンに聞いてもいい」

アッくんは、少し戸惑いながらも断言した。

もしそうならば、この匂いはなんなの?

よほど密着しないと、匂いなんてうつらないよね?

アッくんは車通勤だから満員電車になんか乗らない。

こんなに強く匂いをつけられる場面なんかないでしょ?

「嘘は嫌……」

「は?

なんでそんなこと――」

「アッくんの匂いが違うの!

スーツから女の子の匂いがするの!

かいでみてよ。

アタシの間違いじゃないから……」

一瞬だけ、アッくんの表情が変化する。

アタシはそれを見逃さなかった。

その瞬間、まるで刃を突き立てられたように胸が痛くなった。

悲しくて、悔しくて、胸の奥からドロドロしたモノが溢れてくる。

「ち……違うって。

風邪で鼻が詰まってるとか?」

「ううん、間違いない。

つき合ってからずっと同じ匂いなんだし、間違う訳がないじゃん」

「芽衣……」

アッくんはもう否定しなかった。

地面に視線を落とし、アタシと目を合わせようとしない。

さっきまでとは違い、明らかに不自然な態度……。

それは、アタシの勘が当たっていたという証拠の気がする。

「どこの女の子?」

まさかアッくんが……。

信じられないし、聞きたくないと思いながらも、アタシはアッくんを追求した。

「……違うよ」

「会社?

合コン?

もしかして、昨日もそうだったとか――」

ザワザワと胸がかき乱されていく。

赤い糸precious こんなことは初めてだった。

ずっと信じていたのに……。

裏切られた気がする。

中学のころ、アッくんが浮気をしてしまったことを思い出した。

もう二度と、あんなことは嫌なのに――

「……誤解だって」

「何が誤解!?」

感情が高ぶり、思わず声を荒げてしまった。

「落ち着けよ!

だから、事情あってさ……」

事情?

……っていうことは、認めるんだね?

やっぱり女の子と会っていたんだ。

「上司に、無理矢理連れていかれて……。

でも、絶対にやましいことはしてないから!」

暴走しかける自分を抑えながら、アタシは口を開く。

頭の中がめちゃくちゃで、うまく言葉にならなかった。

「合コン……

ですかぁ……」

「違う……」

「じゃあ、ほかに何があるの!?」

アタシの追求に、アッくんは気まずそうな顔をして目を伏せた。

違うって、ほかに何があるのかわからないよ。

自分の彼氏が……夫になる人が、浮気しているのかもしれない。

その状況に頭がついていかなかった。

怒りを通り越して、次の言葉を聞くのが本当に怖くなってしまう。

まさか――

「ナンパ!?」

「お……おいっ!

それはないだろ!!

実は、キャバクラ行ってたんだ」

「……え?」

キャ……キャバクラ?

予想もしていなかった答えに、頭の中が真っ白になっていく――

「な……何それ?

じゃあ、触ったり、いちゃついたりしてきたの?」

「違うって!

それはセクキャバだろ!?

普通に隣で酒作ってくれるだけのキャバだよ」

「普通!?

普通じゃないでしょ!

まだ若いのにキャバクラ行くなんて……。

しかも、婚約してんだよ!!

何考えてんの!?

キャバクラがどういう場所なのかはよく知らないけれど、女の子に相手にされないオジサンたちが行くような場所でしょ?」

赤い糸precious 「だからさ……

つき合いで仕方なく……」

「つき合い!?

女の子と飲むことが、なんでつき合いなの!?」

「上司がさぁ……」

「上司上司って……

上司が死ねって言ったら死ぬの!?

嫁が怒るから行けませんとか言えばいいじゃん!」

言い合っているうちに、怒りで顔がカーッと熱くなった。

そんなところにアッくんが行っていたなんて……。

お金を出してまで、女の子と話したいの?

キャバクラを「キャバ」と言って、慣れた感じの雰囲気も耐えきれない。

アッくんが汚く見えて、幻滅した瞬間だった。

「死ぬとかは極端すぎじゃねーか?

男には断れないつき合いがあるんだよ。

それくらい理解してくれよ」

「……開き直り?

もういい!!

そんなに男のつき合いが大事なら、アタシと別れてその上司と結婚すればいいでしょ!?」

「訳わかんねえよ。

なぁ、ちょっと落ち着いて話そうぜ?

本当にオレが悪かったし、ゆっくり話したいから……」

鼻の奥がツンと痛み、目には涙が溜まっていく。

悔しいし、情けないよ。

自分の彼が嘘をつき、お金を払って女の子と会っていたなんて。

アタシがいるのに、どうしてそんなことができるんだろう……。

アタシは服も買わずにコツコツ預金してきたのに、アッくんはキャバクラに使っちゃうんだね。

なんのために、こんなに我慢して節約していたのかな。

ばかばかしくなっちゃうよ。

男のつき合いって何?

キャバクラに行くことがつき合いなの?

……アタシにはよくわかんない。

理性ではわかる気もするけど、こんなつき合いは本能では絶対に理解できないよ。

キャバクラになんて行ってほしくなかった。

もちろん、合コンやナンパも嫌だよ。

ほかの女となんて会ってほしくない……。

赤い糸precious それに、嘘をつかれたということも悲しかった。

初めての嘘だね。

ううん……。

もしかして、アタシが知らなかっただけで、たくさん嘘があったのかもしれないけど。

「……グスッ」

瞼の裏に溜まった涙が頬を伝っていく。

流れ出す涙を止めることができなかった。

……泣きたくない。

こんなことで涙なんか見せたくなかったのに。

「泣くなよ……。

本当にごめんな。

でも……絶対にやましいことはしてないから。

連絡先教えてないし、嫁がいるって話したんだ」

そういう問題じゃないんだ……。

アッくんは全然わかってないよ。

やましくないって言っても、ほかの女の子と仲良く話しただけで、アタシは嫌なの。

想像するだけで、苦しくてたまらない……。

そんな場所に行く時間があるなら、ずっとそばにいてほしいよ。

ほかの女に触れてほしくない。

ほかの女に微笑んでほしくない。

……アタシ、嘘は嫌い。

だけどね、事実を知ったら、余計に苦しくなってきちゃったよ。

「嫌ぁ……ウウッ。

もう……い、行かないで。

キャバ嬢と、浮気しないでよぉ……」

アッくんが、どこか遠くに行ってしまうような不安が押し寄せて……。

アタシはスーツの袖をギュッとつかんだ。

赤い糸precious 「――浮気!?

キャバ嬢だって仕事でオレと話してるだけだからなっ。

芽衣の想像するような浮気とかはないぞ!

ただのつき合いで飲んだだけだし」

「ウウッ……」

そう言われても、簡単には割りきれない心。

キャバクラの女の子だって、仕事で会話してるっていうことはわかるよ。

昨日、アッくんから聞いた話も覚えてる。

つき合いがよくないと会社での立場が悪くなるし、ただでさえうまくいってない上司となら、なおさらつき合いは大事になるってことだよね。

そう頭ではわかっていても、簡単には割り切れない心。

アタシはヤキモチが激しくて、独占欲が強い女なのかもしれない。

こんなことになって、初めて気づいたよ。

アッくんは、泣きじゃくるアタシを引き寄せた。

「もう嘘つかないから……

本当にごめん」

「……グスッ……

ウウッ……」

優しく、優しく抱き締められる体。

アッくんにムカついてるはずなのに……。

アタシは胸に顔を埋めながら、安心して泣き続けてしまった。

胸からは、まだ知らないキャバクラの女の子の匂いがするのに、ここにアッくんがいてアタシを抱き締めてくれているということに、気持ちが落ち着く。

そんな自分が悔しかった。

アタシは嘘をつかれてたし、もしかしたら、ほかにも嘘があるかもしれない。

だけど、好きだから――

「ごめんな……」

アッくんの声に、アタシは首を縦に振る。

アッくんの気持ちも、冷静になるとわかるんだ。

ほかの女の子と話してたって、気持ちはその女の子にいってしまわないってこと。

アタシのこと、愛してくれてるってこと。

そして、きっともう嘘はないだろうっていうこと……。

「ごめん……

不安にさせてごめん。

極力、上司の約束は断るようにするから」

「ぜ……絶対だよぉ。……グスッ。

つき合いなら……仕方がないときもあるけど遊びではやめて……。

それから……

アタシを傷つけないための嘘なら……

最後まで……つき通して」

「ごめん。

ごめんな。

オレが好きなのは、芽衣だけだから……」

赤い糸precious 完全に、アタシはやられてる。

ねぇ、アッくん。

好きだから、こんなにも嫌だったんだよ。

そして好きだから、すごく嫌なのに許してしまうんだ。

身を委ねながら、そう実感してしまう。

これからは、仕事のつき合いを理解できるように頑張るから、アッくんにもアタシの気持ちを考えてほしい。

ねぇ……。

アッくんはこんなアタシの気持ち、わかってくれるかな?

「一度帰るか?」

「う……うん」

泣き崩れた化粧では会場に戻れなくて、アタシたちはそのまま会場を後にした。

今日は、少しの距離でも離れていたくなくて、いつもより寄り添って手を繋ぎながら家に帰った。

ガチャッ

「ただいま」

ふたりで声を合わせて玄関を開くと、アタシはすぐに部屋の奥へ走った。

そして、消臭スプレーを手に取って玄関へと戻る。

「アッくん!

ジャケット貸して!」

「おぅ、頼むわ」

シュッ……シュッ……

消臭スプレーを吹きつけるたびに、香水やタバコの匂いが消え去っていく。

……今日のことは、嫌な匂いと一緒に消そう。

大好きなチョコを食べて、嫌な気持ちも忘れようっと。

アタシは少しずつ笑みを取り戻しながら、消臭スプレーを多めに吹きかけた。

「アッくん、棚からチョコ取って~」

少し湿ったジャケットをハンガーにかけた後、アッくんに声をかけた。

「えっ?

この前食べちゃったからないだろ?」

「――嘘!?」

言われてみれば、全部食べちゃった気もしてきた。

買うのを忘れてたよ。

ささいなことかもしれないけど、上がりかけたアタシのテンションは、一気に落ちていった。

赤い糸precious 「ショック……。チョコ食べたいな」

「落ち込むなよ~……

チョコ好きなのはわかるけどさ」

「……すっごく食べたかったんだもん」

アタシは唇をツンと尖らせ、下を向いて呟いた。

それを見たアッくんは、笑いをこらえながら……。

「じゃあ、これ食べろよっ」

ポケットから何かを取り出した。

「……あれっ!?」

「ないのわかってたから、会場に行く前に買っといた!」

「あ……ありがと」

アタシはアッくんの手から小さな箱を受け取る。

それは、アタシがいちばん大好きな甘いチョコレートだった。

「なんか魔法使いみたいだね!」

「……そうか?

買ってよかったよ」

「ありがとっ!」

気持ちが通じ合ったようで嬉しいよ。

こんな日だから特に――

「オレさ……

芽衣には本当に悪いことしたと思ってるんだ。

これからは電話を無視しないし、嘘つかないから……。

次の休みには、チョコじゃなくて美味い飯食べに行こう」

「……アタシも、アッくんの立場とか考えられなくてごめんね。

ヤキモチやいてごめん。

キャバクラに行ってほしくない気持ちは変わらないけど、仕方なく行くときがあるのはわかったから……」

赤い糸precious 「嫌で当たり前だよ。

オレだって、芽衣が約束を破ったり嘘ついたり、男と飲んだりしたら本当に嫌だし……。

これからもつらい思いをさせるかもしれないけど、オレには芽衣だけだから、信じて。

無理させてごめんな」

その言葉に、アタシの胸はキューッと痛くなっていく。

アッくんだって、行きたくて行った訳じゃない。

証拠隠滅ができてなかったり、下手な嘘をついたからばれちゃったけど、証拠隠滅しなかったのは、やましい気持ちがないからだし、嘘をつくのはアタシを傷つけたくなかったからなんだろうな……。

わかってる……わかってるの。

「酷いこと言ってごめんね……。

アッくんも上司とアタシに挟まれてつらいんだよね」

「芽衣……」

「それに、アッくんは結婚のために頑張って働いてくれてるんだもん」

彼女じゃない。

アタシは妻になるんだ。

アタシが節約してバイトを頑張っているように、アッくんも横暴な上司のもとで頑張っている。

夫の仕事の状況だって、理解しなきゃいけないよね。

時にはつらくても、アタシたちの気持ちは、いつも繋がっているんだもん――

それからも、アッくんは上司とのつき合いで、遅い帰宅が多くなった。

週の半分以上は、深夜にならないと帰ってこない。

新しい上司はお酒も女も好きな人で、何も言えない若い部下を連れて遊び回るような人だと噂も聞いた。

「今の上司は、もうすぐオープンする支店に移動するから。

もう少し我慢して!」

……わかった」

赤い糸precious それが、最近のふたりの合言葉になっていた。

もうすぐ、あの上司から解放される――

アタシは、毎日その日を待ちながら過ごしてた。

アッくんもアタシも、日に日に限界が近づいてきてるよ。

アタシの作った夕食は、食べてもらえないことが多くなり、ひとりぼっちの夜が続いていた。

今日は早く帰ってきてほしいな……。

その言葉を胸にしまい、毎日笑顔でアッくんを会社に送り出す。

ひとりになると、決まって大きな悲しみが襲ってきた。

勝手に涙がこぼれたり、食事も吐き気がしてまともに取れなくなった。

こんな生活でストレスが溜まったのか、心も体もボロボロだった。

アッくんはストレスだけじゃなく、寝不足と飲みすぎで体調が悪いみたいだよ。

毎朝、憂鬱そうな顔をしながらも、アタシと目が合うと必ず笑顔を作り、会社に向かうアッくん。

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