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作者:日-芽衣/译者:王欣 当前章节:15369 字 更新时间:2026-6-23 05:27

れ見て、アッくんがどれだけ芽衣を好きか、わかっ

たんだよ。きっと現実を見なきゃいけないって気に

なったんだろうね」

と、みんなは口を揃えて言っていた。

あの事故は、いろんな意味で今でも忘れられないよ。

つらかったし痛かったけど、あの事故でいろいろなことが変わり始めたんだもん。

赤い糸precious そういえば、

あの事故の後、アッくんが病院で言ってくれたんだ。

「過去は気にしてないからな! 

……ていうか、オレは中学んときから知ってたし。

おふくろのことも気にすんなよ!」

具体的な言葉はなかったけど、

アタシはその意味に気づき、心が救われた気がした。

……前からアッくんは、レイプされたことを知ってたんだ。

過去にアタシが汚されたことも含めて愛されているっていう事実が、本当に嬉しかった。

お母さんの融資がなくなってしまったのは申し訳なかったけれど……。

「――芽衣っ!」

「あ……」

少し離れた場所で、アッくんがアタシを呼んでいた。

「旦那サマが呼んでるよ」

「行っておいでよ」

みんなに背中を押され、

アタシは愛するアッくんのもとへと駆け寄った。

そして、アッくんの腕に自分の腕を絡ませると……。

「キャッ……」

パッと店内中の照明が落ちた。

 ~?~ ?~

同時に流れ出すウェディング?ソング。

「な……何?」

「よくわかんねぇ……」

何が起きたのかわからないアタシたちは、周りをキョロキョロ見渡した。

赤い糸precious 少しずつ暗闇に慣れてきた視界に、なにやらコソコソと動く影が映る。

「せーの」

「結婚おめでと!」

みんなの祝福の声が聞こえた後、照明がともり、店内に明るさが戻った。

「何……だったの? 

今の……」

「……さあ?」

停電ではなくて、意図的に暗くしたみたいだけど……。

何をしたかったの?

戸惑うアタシたちを見て、みんなはクスクス笑っている。

「デジカメ出さなきゃ」

そう言いながらカメラを手にする沙良。

「え? 

なんなの?」

「ふたりとも、アレに気づいてないの?」

アレって言われてもよくわからないけれど……。

そう思いつつ、アタシは店内中を見渡した。

「――あっ!! 

あれっ!?」

「どうし……

あっ!!」

よく見ると、

さっきまでなかった物が出現していた。

アタシとアッくんの目は、それに釘づけになる。

「もしかして、ウェディングケーキ!?」

店の奥の方で、チョコやフルーツでデコレーションされた大きな四角いケーキが、ひときわ大きな存在感を示していた。

よく見ると、大きなケーキはすべて手作りのようだ。

これくらいすごいケーキを作るには、長い時間と手間がかかったんだろな……。

お金がなくて、ケーキは諦めていたのに、こんなに素敵なケーキを用意してくれたなんて――

パチパチパチ――

みんなの鳴りやまない拍手の中、アタシたちはノブさんからリボンがかかったナイフを渡された。

「みんな、ありがと……」

グッと目がしらが熱くなりながらも、アタシは涙をこらえて微笑んだ。

みんなの気持ちがすごく嬉しかった。

丁寧なデコレーションを見ていると、刃を入れて崩してしまうのがもったいなくなってしまう。

「マジ、嬉しいんだけど……。みんな、ありがとう。

芽衣、ナイフ入れるぞ」

「うん、切ろう」

アタシはアッくんと手を重ねてナイフを持ち……。

ストン

みんなに感謝しながら、ケーキに刃を当て、静かに下ろした。

「これが初めての共同作業ってヤツだよな……」

「アハハッ」

眩しいくらいにたかれたフラッシュに少し照れながら、アタシたちは目を合わせて笑ってしまった。

赤い糸precious 幸せで、幸せで、幸せで……。

こんなに幸せな時を過ごしてしまうと、何か不幸が訪れるんじゃないかと変な不安を抱くほど、アタシの心は満たされていた。

みんなの話は尽きることがなく、夜が更けてもパーティーは続いた。

日付が変わったころ……、

「もう遅いから店じまいするぞ!」

ノブさんがそう言って店の片づけを始めたけれど、アタシたちのテンションは下がらなかった。

疲れを知らずに盛り上がっている店内。

途中で帰った人は、ほとんどいなかった。

後片づけを手伝いながらも、

誰からともなく「3次会をしよう」という声が上がる。

3次会へ行ける人々は、仕事があって帰らなきゃいけない友人や、酔い潰れた友人とは店で別れ、急きょ予約を取った3次会会場へ移動した。

3次会会場が閉店すると

4次会会場……

さらには5次会会場へ。

気づけば、東の空が朝日に染められて明るくなっていた。

こんな時間まで遊んだのは学生のとき以来の気がする。

前に比べて多少はお酒を飲めるようになってきたと

いえ弱い方だし、

こんなに長時間飲んでしまったせいで、頭の中はガ

ンガン痛み、グルグルと回っいる。

「もうダメ……」

アタシは優梨の肩に頭を乗せ、酒臭い息を吐き出した。

祝い酒だし主役だけど、もうお酒は飲めそうにない。

夜が明けてから、友人たちは少しずつタクシーを呼んで帰っていった。

5次会会場として、

ひとり暮らしの部屋を提供してくれた海斗は、部屋の隅で寝てしまい、添い寝するようにナツも潰れてしまっている。

美亜は

「少し風邪っぽいかも……」

と言いながら、ベッドの上に

陣取って横になっていた。

そして、ベッドに寄りかかって座っている沙良と、なにやら話し込んでいる。

今も元気なのは、もうひとりの主役アッくんと、妊娠して禁酒した優梨だけだった。

「中学のとき、まさか優梨とナツが結婚するとは思ってもみなかったよ」

「あたしだって、芽衣とアッくんが結婚するなんて思いもしなかったよ」

ふたりの話を聞きながらも、

アタシの頭の中はもうろうとしていく。

……本当に、もうダメだ。

急激な睡魔に襲われて、まぶたが開かなくなる。

「……芽衣? 

大丈夫?」

「眠くなっちゃった……」

優梨の声にも、しっかりと答えられなかった。

そのまま、ゆっくりと床に寝転がると、頬に当たる冷えたフローリングの感触が、やけに心地よかった。

「芽衣、もう帰るか?」

「うん……」

遠のきそうになる意識の中、確かアッくんと最後に

そんな言葉を交わした気がする。

ロマンチックな1日だったのに……。

新婚初夜ってヤツだったのに……。

そう思いながらも、そこでアタシの意識は途切れ、

深い眠りに落ちてしまったんだ。

赤い糸precious 最高のプレゼント

このとき、アタシは夢を見た。

アッくんと手を繋いで、

中学の校舎の階段を上る夢。

あのころは、階上までの距離がもどかしくて……。

息を切らして駆け上がったり、ドキドキしすぎて足を踏み外してしまいそうになるときもあった。

でも、このときの夢は違ったんだ。

アッくんと手を繋ぎ、ゆっくり一歩一歩を踏みしめながら、安心して階段を上れたの。

まるで、

アタシたちの過去と今の関係を示しているようだった。

ドキドキして不安になって、息を切らすほど相手を想う激しい恋愛感情を持っていた、アッくんとの1度目の恋。

それとは違い、平凡かもしれないけど、安心してゆっくりともに人生を歩んでいける2度目の今の恋。

どちらがいい恋なのかはわからないけど、アタシにはこの夢が本当に心地よかった。

「……い、起きろよ? ……い、芽衣!」

まどろむ意識の中、愛しいアッくんの声が聞こえて、アタシは夢の中から引き戻された。

「眠い……よう」

体をよじらせて、掛け布団を頭から被ると、頭が割れるように痛んだ。

「痛っ……。

マジ、頭痛い」

「早く起きろよ?」

現実は夢のように甘くはないようだ。

アッくんの声も、今は凶器と化し、頭の奥でズキズキと響く。

しかめっ面のまま目を開けると、いつもの朝と同じ景色があった。

「あれ? なんで……」

確か、海斗の家で眠くなったような……。

ところどころの記憶が欠落していて、あやふやな昨日の行動。

うまく回らない頭で思い返しながら、隣で寝そべるアッくんに体を絡ませた。

「もう……。

美亜のテキーラと、沙良に水って言われて飲まされた焼酎ロックのせいだよ。

家まで帰ってきた記憶ないし……」

「寝ちゃってたから、記憶がないんだろ?」

「えっ……。

迷惑かけてごめんね」

どうやら、帰ってきたというより、アタシは運ばれたという方が正しいみたいだ。

一世一代の結婚式の日だったというのに、

ロマンチックのかけらもない夜の行動に、

思わず苦笑いしてしまった。

赤い糸precious 「ほら、起きるぞ」

「嫌ぁ……」

「このままじゃ間に合わねーから」

アッくんはアタシから体を離して起き上がると、そのまま大きな掛け布団を容赦なくはがした。

そして、

思いっきりカーテンを左右に開いた。

暗かった部屋に光が射すと、アタシはあまりの眩しさに両手で目を覆った。

「天気いいじゃん。

早く起きないと置いてくからな」

無理矢理、抱き起こされる体。

頭がグラグラと揺れ、さらに強く痛んだ。

「具合悪くて起きれないよぉ……」

「もう11時だけど、行かなくていいの? 

ディズニーランド」

「えっ!! 11時!? 

なんでもっと早く……」

眠気が一気に覚め、アタシは慌てて立ち上がった。

赤い糸precious ――今日は、

ディズニーランドに行く予定だったんだ。

高校時代から、行こうよと約束しながらも事故に遭ってしまったり、アッくんが働き始めて忙しくなったりして、今日まで果たせなかった約束。

遊園地自体も数年ぶりだから、決まった日から楽しみにしていたの。

「寝過ごしてごめんね! 

起こしてくれてありがとっ!」

頭痛とダルさを振り切って、洗面所で顔を洗う。

二日酔いなんかに負けてる場合じゃない!

……とは思うんだけど、

今日の二日酔いはいつもより強力で、体が言うことを聞かなかった。

同棲してから、ほとんど飲んでいなかったからかな。

頭痛だけじゃなく、体が少し熱っぽい気もする。

手際よく用意を進めるアッくんとは逆に、どんどん動けなくなっていくアタシ。

ついには、

立っているのもつらくなって、ベッドの隅に腰かけてしまった。

「どうした?」

それに気づいたアッくんが、手を止めて声をかけて

くれた。

「美亜の風邪、もらっちゃったかも。体がダルくって……。

ディズニー行く前に、お医者さんに行っていい?」

「マジで……。

大丈夫か? オレ、その間に婚姻届もらってくるよ」

「うん。ごめんね」

祝い酒だからって、少し無理しすぎちゃったのかなぁ……。

アッくん、迷惑かけて本当にゴメンね。

赤い糸precious アタシは簡単にメイクをすませると、アッくんに送られて近所の古びた医院のドアを開いた。

この医院に来るのは初めてで、少し不安だけどこんな状況じゃ仕方なかった。

ぎりぎり午前の受付に間に合い、すぐに診察の順番が回ってきた。

「今日はどうしましたか?」

診察室に入ると、

すぐに白髪まじりのおばあちゃんが尋ねてきた。

その奥で、おばあちゃんと同じくらいの歳のおじいちゃんが、紙にペンを走らせている。

おばあちゃんが看護師で、おじいちゃんが先生のようだ。

ふたりとも気さくな雰囲気で、少し気が楽になる。

「少し風邪っぽくて……」

アタシは症状を説明しながら、先生の目の前にある丸椅子に座った。

「風邪が流行ってるみたいだねぇ。

それより、未成年がお酒なんか飲んで……。

いくらお祝いでもダメじゃないか」

先生は少し怒りながらも喉を診て、胸と背中に聴診器を当ててくれた。

アタシはその間、ただ座っているだけなのに、頭が痛くて、ダルさに耐えながら先生の表情をうかがった。

「うーん……。風邪ではないみたいだな」

「何か違う病気なんですか?」

先生は聴診器を外すと、うっすらと眉間にシワを寄せた。

その表情に嫌な予感がして、

再び不安になってしまった。

しかし、先生は……、

「いや、今診たところ、何も悪くなさそうなんだよ。

ただの二日酔いなんじゃないかい?」

カルテを記入しながら言った。

……ただの二日酔い?

それにしては、今までと比べてキツすぎる体調の悪さなんだけどな。

口ごもるアタシを見て、先生はふと何かを思いついたようにペンを持つ手を止めた。

「もしかして……。

前回の生理はいつごろだったかい?」

「生理?」

いつだったっけ?

突然の質問に答えが出てこなかった。

「もともと、生理不順なんですよ。4カ月前くらいだったと思います」

「4カ月……。そのくらい間があくことはよくあるの?」

「はい、早くて2カ月に1回で、

遅くて4カ月に1回くるって感じなんで……」

中学のころから、ストレスで拒食になってしまったり、無理なダイエットをしていたせいで、アタシのホルモンバランスは崩れてしまっているようだった。

まともな周期の生理は4年以上来ていない。

結婚を意識しはじめたとき、妊娠できるのか心配になって、婦人科に行ったこともある。

そのときは、しっかり排卵しているから多分大丈夫だと言われたけれど……。

もう4カ月きていないってことは、そろそろきてもいい時期に入っているってこと。

すっかり忘れていたよ。

結婚式にこなくてよかった。

「とりあえず、おしっこを採ってきてくれるかな?」

先生はそう言うと、看護師に何か伝言した。

生理の話と尿検査って言えば、アレしかないよね?

「それって、妊娠検査ですか?」

「そうですよ」

看護師からは、予想通りの答えが返ってきた。

赤い糸precious そういえば、

ここの医院の入口に『内科?婦人科』って書いてあったっけ。

席を立ってトイレに行き、紙コップに尿を採った。

……妊娠してるはずがない。

生理も不順だし、

デキにくい体のような気がするもん。

中2で初めてセックスしたときから今まで、数え切れないくらい、避妊しないセックスをしてきた。

最後の瞬間だけゴムをつけたり、外ではなく中で出した時もあった。

たった1度ゴムなしのセックスをしただけで、妊娠した優梨からも、

「芽衣はきっと妊娠しにくいんだね。

体質とかあるみたいだよね」

と言われている。

妊娠しにくい体質が、あるのかないのかはわからないけど、現にアタシはデキる行為を繰り返してもデキたことがないんだ。

生理の遅れが妊娠に思えて市販の妊娠検査薬を使ったこともあった。

結果はいつも陰性。

……今回も、きっと同じだよ。

そう思いながら診察室に戻ると、先生と看護師の顔に笑みが浮かんでいた。

「陽性でしたよ」

「……へっ? 陽性?」

「ここ見てくださいねー」

予想外の結果に戸惑うアタシに、看護師が検査薬らしきモノを見せてくれた。

説明を受けると、明らかに検査薬は陽性反応を示しているとわかった。

陽性 イコール お腹に赤ちゃんがいる。

それも頭ではわかるんだけど……信じられないよ。

アタシが妊娠しているの?

「こ、これ……。間違いじゃないですね?」

「間違いなく妊娠されてますよ。前の生理からだいぶ日にちが経ってるみたいだし、大きくなっているかもしれないね。内診するんで、あっちの診察室に行ってくれるかな?」

「あ、はい……」

言われるまま、アタシはカーテンで仕切られた隣の診察室に移動した。

「下着を取って、診察台に乗ってくださいね」

カーテンの向こう側から、看護師の声がする。

赤い糸precious 妊娠、してる……。

いきなり言われても、実感がわかないよ。

お腹に、アッくんとアタシの赤ちゃんが?

嬉しいとか嬉しくない以前に、驚きすぎて頭が回らなかった。

二日酔いの頭痛すら忘れてしまうほどだった。

足を開いて診察台に乗ると、少し台が動いた後に触診が始まった。

いつもは苦手な婦人科独特の診察も、予期せぬ妊娠に混乱しているせいなのか、なんとも思わない。

「冷たっ……」

ひんやりとした何かが膣に入ると、診察台の横に備えつけられていた小さなテレビモニターに、モノクロの映像が映った。

「先生……。

何か動いて……ますよね?」

「赤ちゃんだよ。だいぶ大きくなっているねぇ……。

今見る限り、正常の妊娠だから、安心して大丈夫だよ」

アタシは画面から目が離せなかった。

これが赤ちゃんなの?

本当に、お腹の中にいたんだね……。

どこが顔で、手で、足なんだろう。

この映像ではよくわからないけれど、グルグルと動く姿が愛しくて……。

アタシはそっと、お腹に手を当てた。

まだ目立った膨らみはないけれど、確実にここには命がある。

そう思うと不思議だった。

「次はベッドに移って、お腹の上から、より鮮明なエコー画像を見ましょう。妊娠何カ月かということも、赤ちゃんの大きさから判断できるからね」

診察台から下りてベッドに横になると、お腹にジェルを塗った機械を当てられた。

先生が言っていたように、テレビモニターにはくっきりと赤ちゃんの姿が映っている。

横を向いて、背筋を丸めて座っているようだ。

その姿は、まだ胎児なのに人間そのものだった。

アタシが気づかない間にも、お腹の中でこんなに成長したなんて……。

「吐き気がするとか、体が熱っぽいとか、いわゆる、つわりの症状はなかったのかな?」

「つわりって、急にトイレに駆け込んで、オエッって吐くヤツですよね?」

「まあ、個人差はあるけどね。赤ちゃんの大きさからすると、夏ごろだと思うよ」

夏っていえば、アッくんの仕事のことでいろいろと大変だった時期だ。

先生の言う通り、

具合は悪かったけれど、ドラマや映画のように吐くことはなかった。

「ほかによくあるのは、情緒不安定になって食欲がなくなるとか……」

「あっ! それはありました! 

すごくつらくって、動けなくて寝てる日も多かったです」

「きっと、それがつわりだったんだと思うよ。

つわりっていうのは、赤ちゃんが元気なことを知らせるサインだからね。まぁ、時にはまったくつわりの苦しさがないラッキーな妊婦さんもいるけどね」

前にも、悩みすぎてストレスで寝込んでしまったことがあったから、今回もそうだと思っていた。

まさか、

つわりだったとは考えもしなかったよ。

あの苦しみは、妊娠を知らせる幸せな痛みだったんだね。

「このピクピク動いている点が、心臓だよ」

「こんな小さな粒が?」

画面に映る小さな粒は、休むことなく鼓動し続けていた。

産み出されることを楽しみにして、必死に大きくなろうと生きているように思えた。

赤ちゃんの命の核ともいえるモノを目の前にして、心が痺れる感覚がする。

「そう。エコー画像から大きさを計って、

週数を調べてみたんだけど……。

今は17週くらいかな? 妊娠5カ月だよ」

「ごっ……5カ月?」

「ここまで気づかない方も、ちょっとめずらしいね。もう、流産の危険性も少なくなる時期だし、無事に安定期に入れてよかったですね」

「は、はい。ですよね……」

赤ちゃんは妊娠10カ月になると産まれてくるって、優梨が言っていた。

……ていうことは、

もう半分まできてるっていうことになるんだよね?

あと5カ月経ったら、アタシはお母さんになって、アッくんもお父さん。

いつか、アッくんの子供を産みたいと願っていたけれど、こんなに早く訪れるとは思いもしなかった。

お母さんって驚き……。

少し、照れ臭いね。

赤い糸precious 画面の中で赤ちゃんは、元気に手足を動かし続けている。

男の子かな? それとも女の子?

どちらにしろ、アタシとアッくんの血を分け合った

可愛い子供――

胸がいっぱいになって、目じりからひと筋の涙がこぼれ落ちた。

「す、すいません……」

慌てて服の袖で涙を拭う。

昨日といい、今日といい、泣きすぎだよね。

涙腺が弱すぎて困っちゃうよ……。

「嬉しくて泣いちゃう気持ち、わかりますよ。私もそうだったもの。本当におめでとうございます。もうお酒はやめなきゃね」

「も……もちろんですっ」

看護師と笑い合い、

渡されたティッシュで目元を拭う。

ぼやけた視界に映る赤ちゃんを見ているだけで、涙はとめどなく流れ続けた。

お腹の赤ちゃんが、可愛くて、愛おしくて……。

今はもう、驚きや戸惑いより、幸福感の方が圧倒的に大きかった。

この子は、大切な宝物だよ。

アタシのお腹に来てくれて、ありがとう。

アタシとアッくんを親に選んでくれて、

ありがとう。

何があってもちゃんと無事に産み出して、幸せにしてあげるからね。

1秒ごとに強くなる、赤ちゃんへの愛情と想い。

……これがきっと、母性本能ってヤツなのかな?

赤い糸precious 診察が終わって待合室に出ると、自然とマタニティー雑誌に目がいった。

いつも、子供を授かった人をうらやましく思いながら、横目でながめるだけだった、あこがれの雑誌。

これからは、自分と重ねて、赤ちゃんのことを考えながら読めるんだね。

ひしひしと感じる幸せを噛み締めて、笑みを浮かべてしまった。

「赤ちゃん、聞こえるかな? ママですよ」

お腹を撫でながら赤ちゃんにささやいていると、マナーモードにしておいた携帯電話がカバンの中で震えた。

アタシは玄関に移動し、声をひそめて電話に出た。

「もしもし、アッくん、今どこにいるの?」

「家に戻ってるところだよ。

芽衣はどうだった? 風邪薬もらった?」

「あ……それなんだけど……」

すっかり風邪だと思っているアッくん。

どう切り出せばいいのか、少し悩んでしまった。

アッくんはどんな反応をするのかな?

アタシと同じように驚くだろうな。

でも、絶対に喜んでくれるはず……。

「アタシね、

風邪じゃなかったんだ」

「なんだ、ただの二日酔い?」

「じゃなくてね……。

えっと……なんていうか、遅れちゃってて調べたら、

そうだったというか……」

「調べたって、なんか悪いところがあったのか? 

ハッキリ言ってくれよ」

頬が熱くなって、

アタシは口ごもってしまった。

何も恥ずかしくなんかないのに、照れ臭くって、胸がくすぐったくなる。

「ハッキリ言ったら、

絶対にビックリすると思うよ?」

「……マジ、どうしたの?」

「お腹に赤ちゃんがいたの。3月に産まれるって」

「えっ!?」

一瞬の沈黙の後……、

「お、おう。……元気なのか?」

少しうわずった声が聞こえてきた。

いつも冷静なアッくんから、明らかに緊張している雰囲気が伝わってくる。

「げ、元気にしてます……です」

つられてアタシまで、変な話し方になってしまった。

「子供って、男? 女?」

「まだわかんないよ」

「どっちに似てる? どんな顔してんの?」

「アハハッ、まだわかんないよ」

質問攻めのアッくんに、思わず笑ってしまった。

「……だよな。オレ、焦りすぎ?」

アッくんも恥ずかしそうに笑う。

アタシたちの間に、穏やかなあたたかい空気が流れた。

近くのカフェまで迎えに来てもらう約束をしてから電話を切り、待合室に戻って会計をすますと、診察のときにいた看護師に呼び止められた。

「次は2週間後に来てくださいね。

それまでに必ず母子手帳をもらっておいてください。心の準備もなく急にお母さんになって、不安や心配事もあるだろうけど、生理が来て、排卵していて、セックスをした人は、誰もが妊娠する可能性があるんですよ。お腹の赤ちゃんを守れるのはお母さんだけ。大切に育ててあげましょうね」

……そうだよね。

アタシはさっきまで、当たり前のことを忘れかけていたよ。

「はい、わかりました」

「あとね、赤ちゃんはお母さんから栄養だけじゃなく、すべてを受け取っちゃうの。お酒もタバコもそう。ふたりを繋ぐ胎盤から、へその緒を通じてお母さんが摂取したものは、すべて赤ちゃんに届くって忘れないでね」

アタシは看護師の言葉に深くうなずき、その意味を心に刻み込んだ。

もう、自分ひとりの体じゃない。

アタシは、

何があっても赤ちゃんを守っていくからね。

赤ちゃんに気持ちを伝えるようにお腹に手を当て、ゆっくりと医院の外に出た。

小さな段差もお腹をかばいながら、ゆっくりと通り過ぎていく。

何度も歩いたことがある慣れた道なのに、

今日ほど神経を使って歩いたことはなかった。

そして、

今日ほど幸福な気分で歩いたこともなかった。

散歩なんて好きじゃなかったけれど、赤ちゃんとふたりで歩いているんだなと思うだけで、楽しく感じる。

二日酔いなんて、もうすっかりどこかへ消えていた。

赤ちゃんへの愛しさが心のすべてを占め、幸せでたまらなかった。

赤い糸precious 待ち合わせしているカフェに着いて店内を見渡すと、

まだアッくんの姿はなかった。

「カフェラテ……じゃなくて、

オレンジジュースください」

カウンターへ行き、飲み物を頼む。

店内の美味しそうなコーヒーの匂いに鼻をくすぐられ、いつも頼んでいるカフェラテを頼みそうになったけれど、看護師の言葉が頭をよぎって頼めなかった。

カフェラテより、絞りたてのオレンジジュースの方が体にいいもん。

今日まで妊娠してると知らなかったとはいえ、赤ちゃんを苦しめるような食生活をしていた。

お酒を飲んだり、ご飯を食べなかったり……。

赤ちゃんには、つらい思いをさせたことが多かっただろうな。

アタシが無理したせいで、赤ちゃんが流産してしまっていた可能性もあったんだもん。

その時に妊娠に気づいていたら、後悔しても後悔しきれないほどに苦しんだだろう。

そう考えるとゾッとするよ。

頑張ってここまで大きく育ってくれたこと、本当に感謝してるんだ。

胎盤を通じて栄養も害も赤ちゃんに届くのなら、これからは今までの分も栄養のあるモノを口にしていきたい。

オレンジジュースを待つ間、

アタシは友達にメールを打った。

昨日のお礼、そして、新しい命の芽生えをみんなに伝えたかった。

?…?…?…

最初に返信があったのは、美亜だった。

仕事中のはずなのに、

急いで返してくれた美亜の驚いた顔が目に浮かぶ。

?~?~?~

メールを開くや否や、美亜から電話がかかってきた。

「もしもーし」

「『もしもーし』じゃないよっ! 

ビックリしたんだけど! 

メールより電話の方が早いと思って、

仕事を抜け出してきちゃった」

「エヘヘッ。アタシもビックリしてるよ」

「だよねっ。でも、本当におめでとう! 

楽しみだね」

わざわざ仕事を抜けて、電話をくれた美亜。

デキ婚だったじゃん! とか、だからドレスがキツかったんじゃないの? と、からかわれながらも、それ以上に美亜からは、たくさんのお祝いの言葉をもらった。

先生や看護師に言われた「おめでとう」より、大切な親友に言われる「おめでとう」は心に響いて、同じ言葉とは思えないほど格別だった。

美亜、ありがとう……。

美亜が愛する人の赤ちゃんを授かったときは、アタシも1番にお祝いを伝えるからね。

赤い糸precious 感謝しながら電話を切ると、画面に新着メールの受信マークが表示されていた。

ボタンを押してメールを開くと、音楽が流れて可愛い画像とメッセージが出てきた。

……沙良からのメールだ。

〈マジで!? 講義が終わったら電話するね!〉

?~?~?~

沙良に返信メールを作成していると、優梨から電話がかかってきた。

運ばれてきたオレンジジュースをひと口飲み、通話ボタンを押す。

「もしもし、優梨?」

「……めぇちゃん?」

「あれ? 梨夏タンだぁ」

携帯電話から聞こえてきたのは細くて愛らしい声。

後ろで『早く代わってね』という

優梨の声がしている。

「めぇちゃん、ママなるの? 

赤ちゃん、ママ? りかのママ、いっしょね」

「赤ちゃんのこと、ママに聞いたの?」

「うん。りか、赤ちゃん抱っこして、イイコイイコ

するっ」

「ありがと、梨夏タン」

小さなお姉ちゃんの優しさに、心がポカポカあたたかくなった。

アタシも母になったからかな?

前よりも、子供という存在が可愛く見えて、より身近に感じられる。

それは、梨夏タンにだけの感情じゃなく、さっきから見知らぬ子供たちだって可愛らしく見えるんだ。

ただでさえ大切な姪っ子のように思っている梨夏タンは、さらにそう思えた。

赤い糸precious あと3年もしたら、

お腹の赤ちゃんも梨夏タンのように大きく成長するんだね。

そのころには、ふたりで話したり、お歌を歌ったりして、きっと楽しい毎日を送ってるんだろうな。

つい梨夏タンを赤ちゃんと重ねて、微笑ましく思ってしまう。

「――芽衣、ごめんね! 

梨夏が『めぇちゃんとはなしたい』って騒いじゃって」

梨夏タンから携帯電話を受け取ったのか、急に優梨の声がした。

「いいよ、いいよ。

梨夏タン、可愛いんだもん」

「ありがと! 

……芽衣もママ仲間かあ。

思ったより早くてビックリしちゃったよ。

今、5カ月なら、アタシのお腹の子供と同い年だね!」

「あっ、そうだよね! 

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