と、言った。
「分った。きみはうまいことを言っていたよ。たしかに、テレビのボタンを引いてみる必要があったんだ。リハーサルだったわけだな」
「リハーサル」
今度は、大場雅子が声に出して言い、
「そうね、そういう言い方もあるわ」
「きみだったら、何と言う?」
「練習……、練習のつもりだったわ」
大場雅子は、練習のつもりで、二人の女の皮を剥いだのである。薄く、きれいに、刺青の絵をそこなわぬようにして、自分が刺青をした皮を剥ぐ。
その刺青が下手糞だったということは、雅子が人間の皮を扱うことに習熟していなかった証拠である。上手に、刺青の絵を剥がし取るには、練習が必要だ。目的の三津子の刺青を剥がす前に、ほかの女の躯を練習台にして、きれいに剥がし取る手練を習得する……。
そのために、由美と理加の躯が使われたわけなのである。
「そうねえ」
笑いを浮かべながら、大場雅子は宙を眺め、
「リハーサルねえ。その言葉のほうが、いいような気がする……」
「そのほうが、もっと人を喰った感じが出るものな」
そう言って、彼は雅子を見た。二人の視線が出会う。
彼の顔にも薄笑いが浮かび、二人はうなずき合う。互いの腹の中が分っている悪党同士が、うなずき合っているような気配が漂い、そのことに彼は気付いた。
それに気付いたとき、彼はかるい身震いを覚える。
彼が考えていた大場雅子の人間像では、本物の彼女はおさまり切れないところがあることにも気付いたのだ。
男に傷つけられたために、復讐心《ふくしゆうしん》に燃えた女のしたたかさ。それだけではないものが、彼女のしたたかさの中にはある。
「しかし、ただリハーサルのためだけに、由美と理加に近寄ったわけでもないのだろう」
「そうよ」
「彼女たちを抱いてみたい、とおもったわけなのだろう」
「そうよ」
「つまり、色と欲との二筋道か」
「まあ、そういうわけね」
あっさりと肯定する雅子の眼と、また彼の眼が合い、お互いに笑いを洩らす。
「この女は……」
と彼はおもい、ふと、そういうしたたかな女と同じ平面にいる自分に気付いた。悪党が二人、という気持が、強く起ってきた。いつのまに自分もそうなってしまったのか。
行方不明になった三津子を探しているあいだに、思いがけない成行きの連続で、いろいろの女性と関係を持ってしまった。
由美。
理加。
葉子。
余志子。
そして、三津子。
こういう女たちとの関係が、城田祐一というこの自分をしだいに変化させて行ったのではないか。そして、その結果、いま大場雅子と対等に向い合っている……。となると、その女たちとの関係も、いまの状態になるためのリハーサルだったといえるかもしれない。
案外、葉子が言ったように、自分は、自分を挟んだ二つの躯から、両方からピンクの隠し彫が浮かび上ってくるのを眺めたいとおもっているのではないか。
リハーサルは終った。
そして、これから幕が開くのだろうか。
城田祐一は、たしかめる眼で、大場雅子の全身を眺めまわす。いま、目の前にいる大場雅子は、前と同じように、優美で典雅な姿をみせている。
この作品は昭和五十年四月新潮文庫版が刊行された