「山崎ならよく知ってるよ。いまでもときどき会って飲むんだ。すぐ電話してみよう」
遠藤は受話器をとった。××鉄工所を呼びだしてみる。
山崎健一は外出中だった。昼食なのだろう。一時にまた呼びだすことにする。
「きみ、昼めしまだなんだろう。時間待ちがてら、いっしょにたべないか」
遠藤はさそってみた。うれしそうに玲子は腰をあげた。
会社の近くのレストランへ二人は入った。ランチを突っついていろいろ話をした。玲子は壁にぶつかっているらしい。注文がとれなくて困っていた。いまの仕事に自分は向いていないのではないかと疑いはじめている。
「なんでもいいから仕事をもらってこいといわれると、かえって困るだろうな。自分でテーマをきめていくほうがいい」
「外へ出ると、女は損やとつくづく思います。相手さきの担当者がなんにも相談してくれません。女を信用してないんです」
「でも、女だから親切にしてもらえる場合もあるんだろう。五分五分じゃないか」
「親切にしてくれる人は、仕事以外の面に関心があるんです。コンサルティングはどうでもいいの。お食事とお酒にさそってくれます。もう、困ってしまうわ」
玲子は不満そうにスパゲティをすすった。子供っぽい感じになった。
遠藤は笑った。相手企業の社員にしてみれば、若い女に業務上の問題を相談する気にはなれないだろう。デートのほうへ気持が動いて当然である。それでは玲子は仕事にならない。美女は美女なりの苦労があるのだ。
「山崎のやつも、きみを食事にさそうかもしれないよ。あいつなら、やりかねない。女に関してはマメな男だから」
気がついて遠藤はいってみた。
山崎健一は押しのつよい男だ。やり手である。遠藤と同様、三十六歳だった。浮気のチャンスをいつも狙っている。
「困ります。ビジネスの相手としてあつかうように、遠藤課長から話してください」
「きみはきれいだからな。男ならだれだってビジネスの話なんかしたくないよ。音楽やファッションについて語りたい。人生や恋愛について語るのもいい」
「遠藤課長までそんなことをいわれるんですか。立つ瀬がないなあ、私」
玲子は赧《あか》くなった。口をとがらせてフォークの肉を吸いとった。
食後のコーヒーになった。遠藤のカップに砂糖とミルクを玲子はいれてくれる。親しい雰囲気が生れた。玲子はタバコを吸いはじめた。遠藤が吸わないと知って、バツがわるそうに肩をすくめた。
午後一時に遠藤は玲子をつれて株式課へもどった。××鉄工所へ電話をいれる。山崎健一は席にもどっていた。
「うちの法人業務部のお嬢さんを紹介するよ。二時ごろ訪問したいそうだ。そっちの財務の状態など話してあげてくれないか」
「例のRMのレディか。美人なら会ってもいいぞ。ブスはことわる」
「それは保証するよ。まぶしいような美女だ。いまここにいるよ。話してみるか」
遠藤は玲子に受話器をわたした。
緊張した面持で玲子は話しはじめた。
「大沢と申します。おうかがいしてよろしいでしょうか。いえ、そんなに長時間は——」
思いがけない痛みを遠藤は胸に感じた。
真剣に玲子は山崎と話しあっている。その姿をみて遠藤は嫉妬《しつと》にかられていた。
2
あくる朝、まだ始業まえに大沢玲子は株式課のオフィスへあらわれた。
山崎に会った結果の報告にきたのだ。忠実なフォローに遠藤は好感を抱いた。
「おかげさまで、親切にしてもらえました。貸付けの話がまとまるかもしれません」
玲子は頭をさげた。だが、顔をあげると、困惑した面持になっていた。
「やっぱりビジネスだけでは済まなかったな。食事にさそわれたのか」
「はい。きょうの夕方六時半に、梅田でお会いすることになっています」
「仕様のないやつだな。文句をいってやろうか」
「いいえ。せっかくのビジネスチャンスを逃したくないんです。私いってみます。お食事だけなら、どうということもないし」
「当然酒もつきあわされるね。そのあとあいつがどう出るか、手にとるようにわかる。あぶないなあ。心配になってきた」
また遠藤は胸に痛みを感じた。玲子の笑顔がまぶしくて、視線をそらせた。
「大丈夫です。私、子供やありませんから。なんとか切りぬけます。山崎さんを傷つけずに、仕事もとりたい」
「そうだ。おれも今夜、証券会社の人とキタで飲む予定がある。山崎と飲んで危険を感じたら、ここへ電話しなさい。助けにいくから」
遠藤はいきつけのラウンジバーの電話番号をメモして玲子にわたした。
そこを呼びだせば連絡がつくよう手配しておくつもりである。
「わかりました。よかった。これで安心して山崎さんにお会いできるわ。すみません課長。すごく感謝してます」
玲子はバレーの踊り子のように回転してオフィスを出ていった。
うしろ姿をみて、遠藤は闘志にかられた。山崎健一と玲子を奪いあう気分だった。
夜になった。証券会社の男といっしょに遠藤は北新地へ出た。いきつけのラウンジバーに自分の所在を教えておいて、しばらく飲んだ。九時すぎに証券会社の男とわかれて、そのラウンジバーへいった。玲子からはなんの連絡もなかった。
山崎といっしょに食事して、どこかで飲んでいるのだろう。山崎は強引な男である。チャンスとみれば、遠慮なく攻める。
玲子は酔っている。山崎はけっこうハンサムである。口も達者だ。おまけに仕事もからんでいる。玲子は抵抗できないのではないか。
遠藤はいらいらした。ラウンジの女の子と雑談しても、上の空だった。玲子に心を魅《ひ》かれてしまったのがわかった。だらしがないぞ。あんな小娘に惚れるなんて。自分を叱りながら遠藤は飲んだ。
入社十三年。無難にやってきた。P生命は外務員をあわせて従業員九万名の大企業である。総資産十兆円。業績は業界首位。給料もよい。銀行とか商社のように激烈な競争で身を削る立場でもない。着実に、たいした冒険もせずに課長になった。
考えてみると、あまりに平穏無事だった。家庭は妻と子供二人。ローンで家を建てた。家族は全員健康である。トラブルもない。月二度のゴルフだけを趣味に、遠藤は品行方正に暮してきた。浮気なんかしたこともない。オフィスラブなど、とくに縁がなかった。女子社員の多い会社なので、かえって自戒させられてきた向きがある。
玲子が出現したことに、遠藤は「運命」を感じていた。平凡すぎる暮しを神が憐《あわ》れんで、天使を派遣してくれた——そんな気分になっていた。なんとか玲子を身近にひきよせたい。できるだけ努力をして、彼女の仕事をささえてやる決心である。
だが、玲子からなんの連絡もなかった。一時間、遠藤は空《むな》しく待った。十時すぎると、あきらめの心境になった。玲子は山崎健一とわかれて、さきに帰宅したのだろう。それならそれで電話を一本いれればよいのに。案外常識のない娘である。
「新人類はこれだから困る。人を利用することしか考えないんだから」
遠藤は苦笑《にがわら》いして独り言をいった。
店の女とバカ話をしても、気が乗らない。大沢玲子にくらべたら、ラウンジバーの女なんてまるで魅力がない。
店のマネージャーが近づいてきた。女が一人、うしろにいる。遠藤は大きな声をあげた。玲子だった。身も心も遠藤は晴れ晴れとした。夢をみているようだった。
「どうしたんだ。さきに電話が入るかと思っていたのに」
「電話して店の人に場所を訊いたんです。すぐ近くやとわかったから、直接あるいてきたの。ああ、すっかり酔うてしもた」
玲子は腰かけて目をこすった。
体が揺れている。ひどく酔って、舌たらずな話しかたになっていた。
「山崎はどうした。かえったのか」
「そのへんでわかれました。送っていく、いうてくれはったけど、寄るとこがあるいうてことわってきたの」
食事のあと、山崎は玲子をつれて二軒、酒場をまわったらしい。
どんどん飲ませた。魂胆がみえすいていた。だが、仕事がある。逃げだすわけにはいかない。必死で、つきあった。友達と会う約束があるといって山崎とわかれてきた。
「で、どうだった。商売のほうは」
「まだわかりません。けど、貸付の話がモノになるかもしれないんです。不動産の売却の話もあって、その方面でうちの関連会社へご紹介することになるかも——」
「そりゃよかった。山崎のやつ、ちゃんと努力してくれたんだな」
「危険な人ですねえ、あのかた。飲ませ上手の話し上手。ルックスもいいし、ちょっと冒険してみたくなる感じ」
「やめてくれよ。そんなことになったら、おれの立場はどうなる。わびしすぎるよ。トンビに油揚げじゃないか」
遠藤は玲子の手を握った。
二人はならんで腰をおろしている。玲子は体をあずけてきた。酔っているのと好意を感じているのと、両方のようだ。遠藤は胸がドキドキしてきた。
「でも、思いきって遠藤課長へおねがいにいって、よかったわ。ずうずうしいでしょ私、一面識もない上司にたのみにいって」
「仕事のことなら、いくらずうずうしくてもいいんだ。きみのためなら、よろこんでお手伝いするよ。おなじようなスタイルで、人脈をひろげることができるはずだ」
「うれしいわ私。会社のなかでやっと一人味方ができました。いままで、だれも親切にしてくれへんかったから」
「きみが美しすぎるからさ。おそれ多くて、みんな近づきにくかったんだよ」
遠藤は玲子の肩へ腕をまわした。
玲子は体をあずけてくる。人目をかまわず、遠藤はくちづけにいった。
3
大沢玲子はくちづけに応じてきた。
玲子のくちびると舌は、やや硬い感じがした。くちびると舌そのものが硬いわけではない。顔も体も玲子はこわばっていた。硬さは清潔感と同義語であった。
顔をはなして、遠藤静夫は玲子の肩を抱きよせた。女にしてはしっかりした肉づきである。力をこめて彼女の腕をつかんだ。
遠藤は信じられない思いだった。玲子の顔をのぞきこんだ。二人はきのう知りあったばかりである。おなじP生命の社員とはいえ、おたがいまだ初対面も同様である。
それなのにキスをかわした。もう何ヵ月もつきあってきた男女のような雰囲気である。玲子はしっかりした女の子だ。むずかしい仕事に、意欲をもって取組んでいる。ディスコやカフェバーでとぐろを巻いているうすっぺらな女の子のように、かんたんに男と寝るとは考えられない。キス以上に深入りしないつもりなのだろうか。
「おれの恋人になってくれよ。とりえのない男だけど、誠意だけはつくすぞ」
遠藤はささやいて玲子をみつめた。
玲子はこたえなかった。ぼんやりした、ねむそうな顔をしている。
遠藤は玲子の手を握った。指のながい、しなやかな手だった。遠藤が指に力をこめると、玲子は遠藤をみた。ねむそうに笑った。
「私、遠藤課長が好きです」
玲子はささやいた。ほほえんで遠藤に体をあずけてくる。
「ほんとうか。うれしいな、でも、ちょっと気になる。きのう知りあったばかりなのに」
「私、ずっとまえから遠藤課長のこと知ってるんです。米沢幸代さんからいつも噂をきいてたの。彼女、私の大学の先輩なんです」
米沢幸代はことし三月まで、資金運用部にいた女子社員である。
結婚準備のため退職した。玲子の大学の二年先輩だという。大学関係の懇親会でよく顔をあわせていたらしい。
「そうだったのか。米沢くん、おれのことをどういっていた」
「素敵なかたやというてました。仕事ができて、人柄もいいって。彼女、遠藤課長にあこがれてたんです。ああいう男性となら、結婚まえに冒険してみたいって」
「過分なお言葉だな、それは」
「遠藤課長が全然見向いてくれないので、彼女、あきらめて結婚したんです。彼女の意思をひきついで、私、遠藤課長とおつきあいします。よろしくおねがいしまーす」
玲子は頭をさげてみせた。子供っぽい、甘えた口調になっている。
米沢幸代から遠藤のことをきいて、玲子は遠藤がどんな男性なのか興味をひかれた。資金運用部のオフィスに一度実物をみにきたことがあるという。好い印象をうけた。近づくチャンスをうかがっていた。××鉄工所の山崎財務課長が遠藤の友人だと知って、運命的な出会いを感じた。
「米沢くんに感謝しなくてはいけないな。彼女のおかげでおれにも恋人ができた」
玲子の腕をとって遠藤は立ちあがった。
ラウンジバーをあとにした。もつれあうようにして、おもて通りへ出た。タクシーをひろう。新御堂筋を北へ走った。
新大阪をすぎてしばらくゆくと、右手にラブホテルのネオンがみえる。最近できた、ふつうのビルのような外観のホテルだった。以前から、一度はここへ入ってみたいと思っていた。
各室の写真パネルをみて、好みの部屋をえらべる仕組みだった。二人は三階の部屋へ入った。壁は白、家具は黒を基調とした、洗練された内装の部屋である。
応接セットのテーブルのうえに玲子はバッグをおいた。すぐに遠藤は玲子を抱きよせる。力いっぱい抱いて、くちづけした。こんどははげしいキスになった。
舌をからみあわせると、玲子はあえぎはじめた。目をとじて、顔を歪《ゆが》めている。全身の力をぬいてもたれかかってきた。
かすかな化粧品の香りに遠藤は酔った。玲子の体は最初のキスで感じたのと同様、やや硬くて、しなやかだった。起伏ははっきりしている。さほど大柄ではないのだが、スケールの大きな感じがあった。
あえぐたびに、玲子の息が遠藤の頬や耳をかすめた。まだ服を着て抱きあっているだけなのに、体の大事な部分を愛撫されてでもいるようにたかぶっている。
「課長、私、はじめてなの。はじめて」
苦しそうに玲子は告白した。おどろいて遠藤は彼女をみつめる。
「はじめてって、経験がないのか。バージンなのかきみ」
玲子はうなずいた。遠藤の肩にひたいをあてて、うつむいた。
「そうなのか。おどろいたな」
遠藤はため息をついた。
玲子は二十五である。未体験にしては年齢がいきすぎている。学業と仕事で手一杯で、恋愛のひまもなかったのだろう。
「でも、いいのか。おれなんかに——。せっかく大事に保持してきたんだろう」
「そうやないの。たまたまチャンスがなかっただけなんです。課長、教えてください。私、課長のような男性に、出会うのを待ってたんです」
玲子は抱きついてきた。
たかぶるだけたかぶって、ほかにどうしてよいかわからない。そんな様子である。ただ苦しそうにあえいでいる。
「わかった。こうなったら、おたがい覚悟をきめよう。恐がったり恥ずかしがったりするなよ。まずシャワーをあびよう」
正面から遠藤は玲子にほほえみかけた。ノースリーブのスーツをぬがせにかかる。
玲子はうなずいた。すなおに服をぬぎはじめた。全裸になった。思ったほど恥ずかしがらない。かるく体をすぼめるようにして、浴室のほうへあるきだした。
「いい体をしてるなあ。惚れ惚れするよ。すぐに背中を流しにいくからね」
遠藤は声をかけた。
ネクタイをとく手を停めて、彼は玲子のうしろ姿に見惚れた。ひきしまった小麦色の裸身である。ヒップは大きくない。脚の線は長くて、すこし硬い。下半身がよく発達している。年齢のわりに幼い感じがする。体験がないせいだろう。
玲子の姿が浴室に消えた。夢からさめた気分で遠藤は服をぬぎすてた。タオルをもって浴室へ入っていった。
壁に向かって玲子はしゃがんでいた。シャワートップをもって、タイルの床に雨を降らせている。雨はまだ湯になっていない。
「さ、立って。背中を流してあげる」
うしろから遠藤は声をかけた。玲子の手からシャワートップを奪った。
壁に向いたまま玲子は立ちあがった。昂然と顔をあげている。だが、肩はこころもちすぼめていた。体の線に緊張感がみなぎっている。遠藤は玲子の肩ごしに乳房を覗《のぞ》いた。上向きの大きな乳房が、そこだけ妙にふてぶてしく静止している。
やっとシャワーの雨があたたかくなってきた。遠藤は玲子の肩から背中に、温水の雨を降らせてやろうとした。
遠藤は手をとめた。玲子の二の腕のうしろに鳥肌が立っているのに気づいた。わき腹にも腰にも、わずかだが鳥肌が出ていた。やはり緊張している。バージンなのだ。感動して、遠藤はひざがふるえそうになる。
「さあ、リラックスしなさい。だれでもやることなんだ。恐がることはないよ」
温水の雨を降らせてやる。
玲子の体から鳥肌が消えた。ながめながら遠藤は石鹸を彼女の体に塗ってやる。
4
シャワートップを遠藤は、玲子の顔のまえのハンガーにおいた。温水の雨は、玲子の肩から下へ降りそそいだ。
石鹸の泡を両手で遠藤は玲子の体へ塗りつけてゆく。ひきしまった腰、固いヒップ、優雅な脚。一ヵ所ずつ丹念にながめながら、掌を動かした。視覚でたのしみ、さらに触覚でたのしむかたちになる。
玲子の肌は若々しい。脂が足りない感じさえある。肉づきもゆたかではない。骨太だった。均整はとれているが、女の色香に富んでいるとはいえない。
だが、それこそバージンの肉体だった。玲子の体の部分部分の手ざわりをたしかめながら、遠藤はすっかり感動していた。
遠藤の妻は結婚したときバージンではなかった。学生時代のガールフレンドがそうだった。玲子は遠藤が出会った二人目のバージンだということになる。それを思うと、玲子の体のうぶ毛一本、脂肪の粒一つでもこの上なく貴重に思われてくる。
遠藤は両掌で玲子のふとももをはさんだ。下から上へやさしくなであげる。石鹸の泡がなめらかに遠藤の掌をすべらせる。
何度もくりかえした。しだいに両掌を上へもってゆく。ふともものつけねから、ヒップをやさしくこすってやる。
玲子はため息をついた。遠藤の手の動きにつれてヒップに窪みができる。遠藤は合せ目に指をいれる。やさしくアヌスを掻《か》いてやった。玲子は消え入りそうな声をあげた。両手を壁について、甲へ顔をふせた。いじめられて泣く女の子のようだ。
遠藤はその場にしゃがんだ。ヒップをみつめた。合せ目の下方から、草むらとピンク色の花が覗《のぞ》いている。まだ男の目にさらされたことのない、新鮮な花だ。
花を遠藤はさぐりにいった。濡れた、やわらかな肉に指がふれる。花がふるえた。わずかな刺戟に感応するうぶな花だ。
「いやあ——」
玲子が声をあげた。
壁に顔をふせたまま、ずるずるとその場へくずれ落ちた。ヒップの位置がタイルすれすれになり、固く張って突きだされる。両脚をとじていた。玲子はあえいでいる。
「恥ずかしがるなっていったろう。勇気をだせよ。さ、起きて」
「私、ふらふらするの。寝たいわ。ね、ベッドへいっていい。いいでしょ」
蚊の鳴くような声で玲子はいった。両ひざをかかえて、丸くなっている。
初心者に無理強《じ》いはできない。遠藤は玲子を立たせてシャワーで体を洗ってやる。
向いあわせに立った。シャワーをあびながら玲子は遠藤の男性に目をやった。いそいで視線をそらせて遠藤の顔をみる。ほほえんでいた。かなり余裕が出ている。全身に好奇心がにじんでいる。
「興味あるんだろう。さわってごらん」
玲子の右手を、遠藤は男性に誘導してやる。シャワーをとめた。
玲子は男性をとらえた。熱心にみている。手を動かして、とらえなおした。なにか機械でもしらべているような手つきだ。
「大きいわ。けど、思ったほど硬くないみたい。もっとゴツゴツしたもんかと思うてた」
「骨があると思ってたのか」
「そう。骨みたいな手ざわりの——。なんか私ほっとしたわ。これなら恐くない」
玲子は男性を握りしめた。自分の体へ迎えいれる場面を想像する表情になった。
「けど、これ最初から固くなってるんやないんでしょう。ふだんは小さいんでしょ」
「欲望にかられると大きくなるんだ。きみ、裏ビデオ、みたことあるんだろう」
「学生時代、みたことがある。けど、私、これがどんなふうに大きゅうなるのか、わからないの。一度みたいわ。ふつうの状態からだんだん大きゅうなるところ」
「とぐろを巻きながら、するする伸びるんだ。ほら、お祭なんかで売ってるだろう。吹くと、とぐろがほどけて伸びる玩具」
「嘘ォ。人をからかうんやから。これがとぐろ巻いてるなんて、きいたことないわ」
玲子は男性から手をはなした。
ああ、もう——。苛立《いらだ》たしげに抱きついてくる。欲望をもてあましていた。
二人はバスルームから出た。冷たい缶ビールを冷蔵庫からとりだして、裸のまま寝室へ入った。ベッドにあおむけになる。ゆっくりとビールを飲んだ。
玲子は満足そうにため息をついた。いまから初体験をする女にはみえない。あかるく、くつろいでいる。
「よかったわ、遠藤課長にリードをおねがいして。私、もっと暗くて深刻な儀式かと思うてました。恐かったわ」
「恐くていままで体験せずにきたのか。結局そうだったんだろう」
「年上のいい男性にめぐり合えんかったからやと思います。おなじ年ごろの男性とこんなことしたくないわ。やっぱり尊敬できる人でないと」
「どうして同年輩の男はだめなんだ」
「すなおになれないんです。私が教える立場ならいいんやけど。年上の尊敬できる男性やったら、なにもかもまかせられる」
寝室の天井は鏡張りである。二人はベッドのうえにあおむけになって、自分たちの裸身をながめながら話していた。
あおむけのまま、遠藤は玲子の下腹部へ手をのばした。小さな草むらの下をさぐりにゆく。玲子は両脚をとじた。目をつぶる。大きく息を吸って快楽を待ちうける。
「まだでしょ、課長。まだ前戯でしょ」
「そうだ。心配しないでゆっくりたのしみなさい。まずたのしまなくては」
濡れたやわらかな肉のなかに、小さな真珠の粒を遠藤はさぐりあてた。
小さくて敏感な粒だった。直接ふれると、かすかな痛みがあるらしい。周辺の果肉でくるむようにして揉《も》んでやる。
甘い吐息を玲子はついた。下肢から急速に力がぬけてゆくのがわかる。脚をひらいた。男は知らなくとも、自慰はたのしんでいるらしい。腹を突きだしてくる。
とつぜん玲子は起きあがった。
「待って、待って。みせて」
遠藤をあおむけにおし倒した。
腰の横に正座する。上体を乗りだして男性へさわりにきた。遠藤の男性は、まだなかば以上力のぬけた状態にあった。
「これから大きゅうなるんでしょ。課長、大きゅうしてみせてください」
「さわればすぐ大きくなるよ。しかし、きみの体をみるほうが効果的だな。こっちに足を向けて寝て。脚をひらいて」
遠藤は玲子の足首をつかんでひきよせた。
二人はたがいちがいに添寝の姿勢になる。玲子は脚をひらいた。うすい草むらの下の、やわらかなピンクの花があらわになった。
桜紙のような花びらがならんでいる。小さな空洞がある。ぜんたいが、うすい耳のように可憐《かれん》である。小さな真珠が上から覗《のぞ》いていた。まんなかから液があふれている。
はじめて人目にさらされた花をみたとたん、遠藤は欲望に揺さぶられた。
「ほら、大きくなるよっ、いまだ」
玲子に教えてやる。食いつくように玲子は遠藤の下腹部をのぞきこんだ。
それはもう勃起していた。玲子は希望どおりその一部始終を観察できたのかどうか、よくわからない。手で男性をとらえる。遠藤は手をそえて愛撫の仕方を教えてやる。
「これでいいの。感じるの課長」
「ああ、それでいい。すごく感じるよ。もっとはやくてもいい。やわらかく」
「これでいいですか。これでいいのね。ああやっとわかってきた。いろいろと」
玲子は手の動きを停めた。
男性の下方の袋をもちあげる。裏側をしらべる。構造に興味があってたまらないのだ。また愛撫をはじめた。遠藤は悶えてみせてやる。
とつぜん玲子は手をとめた。あおむけになって、自分の敏感な部分にさわりはじめる。
5
「ああ、もうたまらないわ。玲子、もうたまらない」
苦しそうに大沢玲子は口走った。
ふるえていた。歯がカチカチ鳴っている。恐怖におののく表情だった。
玲子は右手で自分の秘密の部分をさぐっている。人差指と中指のさきで、敏感な真珠のつぶを刺戟していた。左右にこまかく震動させるような動かしかただ。いかにも快感が濃いだろうと思わせる仕草である。
遠藤静夫の男性を丹念にまさぐって、玲子はひどくたかぶっていた。自分で自分がおさえられなくなっている。
だが、玲子はきょうが初体験である。極度に昂奮はしたものの、以後どうやればよいのかわからない。反射的に自慰をはじめた。自分の欲望をしずめる手段を、ほかに玲子は知らないのである。
夢中になって玲子は反《そ》りかえった。脚をひらき、指でさぐる光景をみせつけるように腹を突きだしている。知らないものの強みだ。遠藤は舌を巻いていた。無垢《むく》な女は恥ずかしがらない。どんな行為でも、ためらわずにやってのける。
「あの課長、どうにかして。玲子、もうたまらない。どうにかして——」
玲子の右指の動きがはやくなった。
陶酔しきってはいない。恐怖にかられた顔で遠藤をみる。たすけをもとめている。
「玲子、可愛いよ。きみ、そうやっているとものすごく可愛い。もうしばらくみせてくれ。いけるんだろう、それで」
「どうにかして。どうにかして。おねがい、課長。私、どうしたらいいの」
玲子は身を悶えた。
顔をしかめて、また遠藤をみる。苛立たしげな表情に、かすかな羞恥の色があらわれはじめた。ほうっておくと玲子はわれにかえる。自慰をやめてしまうだろう。
遠藤は体をおこした。玲子の脚をひらかせ、そのあいだへ這いこんだ。草の生えたやわらかな肉を揉《も》んでやる。淡いピンク色の花を指でひらいた。桜紙のような花びら、かたちの不確かな空洞、青白い真珠。体のわりに小造りな花にあらためて見惚れる。
玲子は自慰をやめた。じっと静止して遠藤の動きをうかがっている。観察されているという意識はあまりないらしい。
遠藤は淡いピンク色の花へくちづけにいった。舌をつかいはじめた。草むらに覆《おお》われたやわらかな肉が目のまえにひろがった。玲子は両ひざを立てて脚をひらいている。白い、弾力のあるふとももが、遠藤の顔をはさんで立っていた。
玲子の弱々しい声がきこえた。ため息まじりの声だった。
玲子が安堵しているのがわかった。秘密の部分へキスされたら、どんな感じがするだろう。どんなにいい気持だろう——これまで玲子はさんざん考えたはずである。好奇心にふくらんで、遠藤とともにホテルへきた。
想像がいま現実のものとなった。こういうことだったのか。とうとう私は淫《みだ》らなキスを体験したのだ。人生の一段階を越えた。その思いで玲子はほっとしたのである。
快感は期待を裏切らなかったらしかった。弱々しい声を玲子はあげつづけた。成熟した女のようにはげしい反応はない。消えいるような声である。
声にはおどろきがこもっていた。遠藤の舌が動くたびに、はっとするように玲子は泣いた。こんな快感があったのか、こんなに気持のいいものだったのか。遠藤の舌は、未知の世界へ玲子を案内する魚だった。
遠藤はやがてつよく吸いはじめた。淡いピンク色の花は透明な液にまみれている。吸われると、音を立てた。淫らな音だった。玲子が頭をあげてこちらをみている。恥ずかしくなったらしい。
無視して遠藤は吸いつづける。花の色がしだいにあざやかになった。玲子はこちらをみるのをやめた。あおむけになって、遠藤の口に身をまかせる。めずらしくもない顔で遠藤がキスをつづけるので、安心したらしい。こうした場合、女の体はだれでも淫らな音を立てるものだと思ったのだろう。
つよく吸ったあと、遠藤は舌で真珠の粒をさぐりにいった。
うーん。しあわせそうに玲子は唸《うな》った。腰を揺すった。真珠の粒を刺戟して玲子をオルガスムスにみちびいてやろう。遠藤はしばらく努力した。だが、うまくいかなかった。このあとのことを玲子は気にしている。手術まえの患者のようなものだ。快感に没入することができないのだろう。
「どう、感じたか。キスしてもらうといい気持だろう」
「もう最高。頭のほうまで感じてくる。やみつきになってしまうわ。遠藤課長、私、わすれられなくなりそう」
「欲しくなったら、いつでも声をかけてくれ。よろこんで駈けつけるよ。こうやって、すみずみまで舐《な》めてやる」
「いやあ、そんなことば。キスするとか、可愛がるとかいうてほしいわ」
玲子は顔を両手で覆《おお》った。まったく無防備に体をひらいている。
その間に遠藤は体をずりあげた。玲子の脚のあいだに両ひざをついた。
痛いほど男性が勃起している。玲子のピンク色の花へ、頭の部分をおしあてた。指で花の中央部をひらきにかかる。
「いよいよですか課長。そっとしてね」
「大丈夫。リラックスしていなさい。これだけ濡れていれば、かんたんに入るよ」
玲子は両手で顔を覆ったままである。ふとももに力がこもっている。
濡れたやわらかな肉のなかへ、遠藤は男性の頭をもぐらせる。なんとかうまくいった。ゆっくり侵入しにかかる。
玲子が声をあげた。体をずりあげて逃げる。男性が玲子の体からはなれた。遠藤は耐えがたいほどの昂奮にかられた。
「じっとしてろ。すぐ終るんだから」
玲子のふとももをつかんでひきよせる。あらためて男性を秘密の花へおしあてた。
やわらかな肉の隙間へ頭を沈ませる。ゆっくりと侵入しようとする。
また玲子は体をずりあげた。恐いらしい。男性が空《むな》しく突き立った。
「心配するなって。じっとしてなさい」
「すみません。じっとしてよう思うんやけど、いざとなると逃げてしまうの。私、痛がりなんです。痛みに弱いの」
せっかくの前戯の昂奮が、いまは消えかかっている。ピンクの花にあふれていた透明な液が、やや不足してきたようだ。
もう一度こころみた。だが、結果は同じだった。あくまで玲子は臆病だった。今日までセックスの経験がなかったのは、物理的な恐怖感がいちばんの理由だったようだ。
「わかったよ。じゃ、横を向いてなさい。両ひざを折って。丸くなって」
どうすればよいか遠藤にもよくわからない。とっさの思いつきで指示した。
玲子はいわれたとおりにした。丸くなって、体の左側を下にして横たわった。ヒップの合せ目の下に花がしぼんでいる。
遠藤も横向きに寝た。うしろから玲子に体を合わせにゆく。右ひざを玲子のふともものあいだへこじいれる。体を浮かせて、彼だけがうつぶせの姿勢になった。
横向きに寝ている玲子の右脚をかかえあげる。男性を彼女の秘密の花へおしあてた。思いのほか大きく花はひらいている。
やわらかな肉のなかへ、男性の頭を沈める。そろそろと突きいれた。玲子の体に力がこもる。声をあげた。だが、右のふとももを遠藤にかかえられているので、身動きできない。こんどは彼女は男性をうけいれた。
せまい道を、男性がこじあけてすすむ実感があった。男性の包皮が、根もとまでまくれあがるのではないかと思われる。やがて、安定した。玲子の肉に遠藤はしめつけられる。快感がじわじわと男性にしみこんできた。
「さあ、うまくいった。玲子はもう一人まえの女だぞ。おれのものだ」
玲子の耳もとで遠藤はささやいた。快感のおかげで、声がかすれる。
玲子は目をとじてだまっている。呼吸だけがあわただしかった。
遠藤は上体をおこした。横向きに寝た玲子の右のふとももを、自分の右腰のあたりでささえる。ゆっくりと動きだした。
あ。玲子は声をあげた。顔をややこちらへ向けて遠藤をみる。
「どうした。痛いか。すこしだけ我慢してくれ。すぐに——」
「動かないで課長。なんで動くの。じっとしてて——」
あえぎながら玲子はいった。おどろいて遠藤は玲子をみおろした。
「じっとしてても仕様がないよ。いつまでたっても終らないぞ」
「動かんといかんの。そうなの。なんでかしら。痛いのに。ね、そっとして」
「ポルノビデオをみたことがあるんだろう。動いていただろう。じっとしていては感じないんだ。そんなことも知らないのか」
「ごめんなさい。私、考えてなかったわ。こんなふうに動くなんて、思わんかった。ほんま、知らんかった」
「我慢してくれ。すぐ終るから」
「大丈夫。そんなに痛くないわ。ああ遠藤課長、入ってる。すごく深い。入ってるわ課長。ああ、こんなに——」
遠藤はたかぶった。体の奥から、目のくらむような感覚がおしよせてきた。
6
午後一時に遠藤静夫はRホテルのロビーへ入った。
土曜日である。ロビーは混みあっていた。若い男女が多い。プールで泳いだり、ショッピングしたり、リゾートホテルのように彼らはここを利用している。
カウンターのそばのベンチに大沢玲子が腰をおろしていた。遠藤をみて立ちあがった。
すその長いワインカラーのワンピースを着ている。立ちあがった瞬間、ゆったりした衣裳をふわりと打ちふった感じになった。休日の玲子はおどろくほど華やかである。
「なに、その恰好。まるでゴルフにいくみたいやないですかあ」
遠藤をみて、玲子は笑った。
青のスポーツシャツに白のスラックスを遠藤は身につけている。ゴルフ帽をかぶっていた。靴もスリップオンだ。デートにふさわしい服装ではなかった。